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8/28/2017
ストレングストレーニングにメンタルトレーニングを加えると効果アップ
(1)Effects of mental training on muscular force, hormonal and physiological changes in kickboxers
https://www.researchgate.net/publication/304781460_Effects_of_mental_training_on_muscular_force_hormonal_and_physiological_changes_in_kickboxers
ストレングストレーニングにメンタルトレーニングを加えると、ストレングストレーニングの効果が高まるという研究。
★実験方法
・被験者:53人の若い男性で全員ハイレベルのキックボクサー。平均値は、年齢24.2歳、身長175cm、体重70.4kg。レジスタンストレーニングの経験あり。メンタルトレーニング歴なし。
・被験者は3グループに分けられた。
1) PMG:フィジカルトレーニングとメンタルトレーニングを実施
2) PG:フィジカルトレーニングのみ実施
3) CG:コントロールグループ。フィジカルトレーニングもメンタルトレーニングも無し。
・トレーニング期間:12週間
・トレーニング頻度:週3回
・フィジカルトレーニング種目:ベンチプレス、ハーフスクワット(実質的にはパラレルスクワット)、カウンタームーブメントジャンプ(腕を振らない垂直跳び)、メディシンボール投げ
・メンタルトレーニング
a) イメージトレーニング
目を閉じて、一人称視点でフィジカルトレーニングを実施することをイメージする。実際の動作を想像し、動作に使う筋肉を全力で収縮させることをイメージする(実際には筋肉を収縮させない)。実験ではフィジカルトレーニングを全種目終えた後に、30分かけてフィジカルトレーニングと同じ種目を同じセット数とレップ数でイメージトレーニングを実施。
b) モチベーションを高めるセルフトーク
トレーニング中やその前後に感じたネガティブな思いを書き出す→それをポジティブでモチベーションを高める内容に変更し、トレーニングの実施中に自分に語りかける。例えばベンチプレス中に、「俺はもっと重いウェイトを持ち上げられるッ!!!」と自分に向けて鼓舞する。フィジカルトレーニングとメンタルトレーニングの両方でセルフトークを実施。
★実験結果
・運動パフォーマンス(PMGがメンタル+フィジカル、PGがフィジカルトレーニングのみ)
ベンチプレス1RM:PMG+26.5% / PG+15.7%
ハーフスクワット1RM:PMG+27.2% / PG+16.3%
カウンタームーブメントジャンプ:PMG+16.2% / PG+8.4%
メディシンボール投げ:PMG+27.9% / PG+14.2%
運動パフォーマンスの向上は、ストレングストレーニングでもプライオメトリックトレーニングでも、メンタルトレーニングを加えたグループの方が良い結果を出した。またメンタルトレーニングを加えたグループは、テストステロン/コルチゾール比の上昇、心拍数の低下、血圧の低下が観察され、ストレスレベルが低く、アナボリックに適した身体状況であることが示唆された。
★コメント
ストレングストレーニングにメンタルトレーニングを加えると、ストレングストレーニングの効果がかなり高まるようだ。メンタルトレーニングにこれほど効果があるとは、個人的には驚きだった。メンタルトレーニングが効果を発揮する理由についてはいくつか考えられ、
a) 動作のイメージを繰り返し描くことでフォームが良くなり、より重い重量を挙上できるようになる。これはストレングストレーニングだけでなく、多くのスポーツで有効。
b) セルフトークで気合が入ったり、イメージトレーニングで筋肉への負荷のかけ方が上手くなったりして、トレーニングの質が高まり、より筋肥大する。(2)の研究では、メンタルトレーニングを加えたグループのみ、腿の太さの変化が有意差あるか微妙なラインになっていて、筋肥大の可能性が示されている。
c) 重い重量でも恐れず挙上できるようになる。特に下半身種目は重量に圧倒されやすいので、メンタル面でのアプローチが有効だと考えられる。(2)の研究では、ベンチプレス1RMは有意差なしだけど、レッグプレス1RMでメンタルトレーニンググループがより良い結果を出せている。
d) イメージトレーニングを繰り返すことで脳からの神経信号の伝達が良くなって、より多くのモーターユニットをより強く、より協調して収縮できるようになる。(3)の研究ではフィジカルトレーニングを行わずメンタルトレーニングのみで、単関節動作(肘の屈曲)のストレングスが向上している。
イメージトレーニングは、三人称視点(他人の動作をビデオ映像で見るような視点)は効果が薄く、一人称視点の方が効果が高いようだ。目を閉じ、身体の感覚を意識し、セットポジションについてバーを握ることを想像し、バーベルの重さをイメージし、一人称視点で筋肉と関節の動作をイメージし、全力で筋肉を収縮させるつもりで脳を働かせる。実際のトレーニング動作と同じテンポ、同じレップ数、同じ力の入れ方でイメージを行い、コンセントリックで全力で力を入れ挙上速度を速くすることを意識すると良い。
(5)の研究によると、セット間にイメージトレーニングを行っても、脳が疲労してパフォーマンスが低下することはないようなのでデメリットは特にないだろう。一方で、イメージトレーニングとセルフトークを行うことで自信が深まり、モチベーションが高まり、ストレスレベルを低くできる。メンタルトレーニングを上手に活用すると、トレーニングの効果を大きく高められ、メンタルのコンディションを良好に保つことで質の高いトレーニングを長期間続けることが出来るだろう。
★実践方法
(1)の研究ではイメージトレーニングをフィジカルトレーニングが終わった後に30分間行っているけど、これだとトレーニング時間がかなり伸びる。(2)の研究ではセット間インターバルにイメージトレーニングを行って効果を得ているので、セルフトークを伴ったイメージトレーニングをセット間インターバルに行い、セット中もセルフトークで自分を鼓舞するのが時間効率が良いと思う。また実際の動作を行った直後だと、動作のイメージもしやすいだろう。
具体的には、スクワット、デッドリフト、ベンチプレスなどコンパウンドのバーベル種目のセット間インターバルに、セルフトークを伴ったイメージトレーニングを行うのが良いだろう。フォームの改善や重量への恐れの克服といった点で、メンタルトレーニングで大きな効果を得られることが期待できる。またこれらの種目はセット間インターバルに息を整えて疲労からの回復を行う必要があるので、身体を休めつつメンタルトレーニングを行うとうまく時間を使うことができる。
アームカールなどのアイソレート種目はセット間インターバルに身体を休める必要性が低いし、フォームの改善の余地もほとんど無いだろうから、スーパーセットで他の種目をどんどんやっていった方が時間効率が良いと思う。
参考文献:
(1)Effects of mental training on muscular force, hormonal and physiological changes in kickboxers
https://www.researchgate.net/publication/304781460_Effects_of_mental_training_on_muscular_force_hormonal_and_physiological_changes_in_kickboxers
(2)Benefits of Motor Imagery Training on Muscle Strength
https://www.researchgate.net/publication/44636022_Benefits_of_Motor_Imagery_Training_on_Muscle_Strength
一人称イメージトレーニング vs コントロール。両グループとも同じ内容のフィジカルトレーニングを実施。イメージトレーニングはセット間インターバルに実施。ベンチプレス1RMは有意差なしだけど、レッグプレス1RMでメンタルトレーニンググループがより良い結果を出せている。
(3)Kinesthetic imagery training of forceful muscle contractions increases brain signal and muscle strength
https://www.researchgate.net/publication/257889303_Kinesthetic_imagery_training_of_forceful_muscle_contractions_increases_brain_signal_and_muscle_strength一人称視点イメージトレーニング vs 三人称視点イメージトレーニング vs コントロール。フィジカルトレーニング無し。一人称視点イメージトレーニングのみストレングスが向上。
(4)Effects of cognitive training strategies on muscular force and psychological skills in healthy striking combat sports practitioners
https://www.researchgate.net/publication/296573295_Effects_of_cognitive_training_strategies_on_muscular_force_and_psychological_skills_in_healthy_striking_combat_sports_practitioners一人称イメージトレーニング vs 一人称イメージトレーニング&セルフトーク vs コントロール。両グループとも同じ内容のフィジカルトレーニングを実施。セルフトークも行ったグループはコントロールグループに比べてストレングスの伸びが優れていただけでなく、3グループの中で最も自信が深まり、モチベーションが高まった。
(5)Does a mental training session induce neuromuscular fatigue?
https://www.researchgate.net/publication/260562449_Does_a_Mental-Training_Session_Induce_Neuromuscular_Fatigue
セット間インターバルにメンタルトレーニングを行っても、脳の疲労でフィジカルトレーニングのパフォーマンスが低下することはなさそう。
(6)Effects of relaxation and guided
imagery on knee strength, reinjury anxiety, and pain following
anterior cruciate ligament reconstruction.
https://www.researchgate.net/publication/232446753_Effects_of_Relaxation_and_Guided_Imagery_on_Knee_Strength_Reinjury_Anxiety_and_Pain_Following_Anterior_Cruciate_Ligament_Reconstruction
リハビリにもメンタルトレーニングは有効。
(7)Use of mental imagery to
limit strength loss after immobilization.
http://campus.univ-lyon1.fr/sciencespourtoi/files/2014/02/Etude_Newsom.pdf
怪我などで動けない時にメンタルトレーニングを行うと筋力低下を和らげる可能性。
8/15/2017
消化吸収の速いタンパク質と遅いタンパク質の長期の比較(ホエイ相当vsカゼイン)
(1) Effects of Post-Exercise Protein Intake on Muscle Mass and Strength During Resistance Training: is There an Optimal Ratio Between Fast and Slow Proteins?
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28422532
https://www.researchgate.net/profile/Julien_Louis/publication/316266159_Effects_of_Post-Exercise_Protein_Intake_on_Muscle_Mass_and_Strength_During_Resistance_Training_is_There_an_Optimal_Ratio_Between_Fast_and_Slow_Proteins/links/590af1840f7e9b1d082491b4/Effects-of-Post-Exercise-Protein-Intake-on-Muscle-Mass-and-Strength-During-Resistance-Training-is-There-an-Optimal-Ratio-Between-Fast-and-Slow-Proteins.pdf
タンパク質の消化吸収速度と、血液中のアミノ酸濃度(特にロイシン濃度)の上昇の違いが、長期的な筋肥大およびストレングスの向上に影響を与えるのか。
タンパク質を摂取してから数時間程度の血液中のアミノ酸濃度と筋合成の度合いを調べた短期(acute)の研究だと、消化吸収が速くてロイシン含有率が高いホエイの優位性を示す研究が多い。これらの短期の研究を根拠としてサプリメーカーがホエイプロテインパウダーやロイシンに特化したサプリメントなどを売り込んでいるのだけど、以前も書いたように、これらの短期の研究だとトレーニング無しでもタンパク質摂取後に筋合成が起こっていて、トレーニング無しなら長期的には筋肥大も起きないだろうから、空腹時に筋分解が高まるなどしてどこかで帳尻を合わせている可能性がある。従って、短期の研究がホエイ優位を示しても、長期でも同じ結果になるのかは不明だった。
今回の研究は、レジスタンストレーニングに合わせて、消化吸収の速い水溶性のミルクタンパク質と、消化吸収の遅いカゼインを摂取し、長期的な筋肥大とストレングスの変化を比較している。長期でホエイ相当のタンパク質とカゼインの比較をしたまともな研究は恐らく初めてだと思う。
★実験方法
・被験者:レジスタンストレーニング歴のある若い男性。前年にプロテインパウダー摂取していない人のみ。だいたいの平均は身長180cm、体重76kg、体脂肪率17%、ベンチプレス1RMが90kg前後、スクワット3RMが95kg前後。
・プロテインドリンク
ミルクから精製された2種類のタンパク質を、割合を変えて混ぜ合わせて使用。
a) 水溶性ミルクタンパク質:消化吸収が速くアミノ酸組成がホエイに似ている。ホエイよりも精製されていない。
b) カゼイン:消化吸収が遅い。
この2種類のタンパク質の組み合わせを三つ作り、被験者3グループに割当。
FP(100) 水溶性ミルクタンパク質100%
FP(50) 水溶性ミルクタンパク質50% + カゼイン50%
FP(20) 水溶性ミルクタンパク質20% + カゼイン80%
プロテインドリンクに含まれるタンパク質の量は3種類とも20g。炭水化物も20g含まれている。これをレジスタンストレーニング終了後15分以内に摂取。
・レジスタンストレーニング
慣れるための準備期間が3週間、その後に本番9週間。トレーニング頻度は週に4回。3週間ごとにレップ数を減らし強度を上げるリニアピリオダイゼーション。
・食事
1日のトータルのタンパク質摂取量が体重1kgあたり1.5-2.0gになるよう食事指導。結果として平均で1.9g/kg程度摂取したのでタンパク質の摂取量は十分だと考えられる。
・体組成測定
DXA
・ストレングス測定
ベンチプレス1RM、スクワット3RM、アイソメトリックでの肘と膝の伸展・屈曲の力
★実験結果
プロテインドリンク摂取直後の血漿ロイシン濃度のピーク値、およびAUC(area under the curve:曝露量)に違いがあった。カゼイン80%のプロテインドリンクを摂取したグループ(FP20)は、水溶性ミルクタンパク質の割合が高いプロテインドリンクを摂取したグループ(FP100、FP50)に比べて、ロイシン濃度のピーク値とAUCが低くなった。
しかし長期的には3グループとも体組成とストレングスの変化に有意差なし。
★コメント
トレーニング後に摂取するプロテインドリンクの消化吸収が速くても遅くても、長期的な筋トレ効果は変わらないという結果になった。
今回の研究から得られる教訓は、
・摂取して数時間の血中のアミノ酸濃度や筋合成速度を測定した短期の研究は、そのまま長期の結果を保証するものではないだろう。
・ある一定のロイシン閾値を超えることが筋合成のトリガーになるといった、短期間の、そして複数ある筋合成ルートの一つでしか無いメカニズムが長期的な筋肥大を決めるわけではないだろう。
・運動後の「ゴールデンタイム」に、消化吸収の速いプロテインドリンクを慌てて飲む必要はなさそう。
・消化吸収が速いタンパク質と遅いタンパク質を組み合わせれば、筋合成促進と筋分解抑制の両面から効果を発揮でき筋肥大を最大化できる・・・という説もあまり意味がなさそう。
今後、この研究結果を覆す研究が出てくるかもしれないけど、現時点ではタンパク質の消化吸収の速度に神経質になる必要はないと思う。ただ胃腸が強くない人は消化吸収が速いプロテインパウダーを積極的に利用することで、胃腸のキャパシティがボトルネックにならず、十分な栄養を取ることが出来てより良い結果を得られるかもしれない。
基本は1日のトータルのタンパク質摂取量を確保し、一日に3,4回の食事、トレーニング前後の食事間隔があまり空かないように栄養供給するといった感じで良いだろう。
関連記事:ゴールデンタイムはあるのか?
健康面も考えるならリスク分散のためにタンパク質源は分散させた方が良いだろう。筋肉の餌としてのタンパク質のクオリティを考えた場合、必須アミノ酸、特にBCAAの含有率が高い方が良いのだろうけど、1日に体重1kgあたり2g程度のタンパク質を動物性食品中心に摂取すれば、アミノ酸組成の差は消えるのではないだろうか。食事でのタンパク質摂取量が足りない場合は、追加で摂取するプロテインパウダーのアミノ酸組成の差が筋肥大に影響するかもしれない(この記事にあるミルクとソイの比較はこのケースかも)。
維持・増量時にタンパク質摂取量を確保するためにプロテインパウダーを利用する場合は、価格や飲みやすさなどの総合面からホエイプロテインパウダーが優れていると思う。減量時やintermittent fastingなどで食事間隔が大きく空き、肝グリコーゲンの枯渇によりタンパク質が分解されやすくなる状況では、カゼインなど消化吸収の遅いタンパク質を積極的に摂取したほうが良いだろう。
関連記事:プロテインパウダーの選択
関連記事:タンパク質摂取量の目安
★類似した過去の研究
2つあるけどどちらもいまいち。
(2)The effect of whey isolate and resistance training on strength, body composition, and plasma glutamine.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17240782
Whey vs Casein. Who will win?
https://evidencebasedfitness.net/whey-vs-casein-who-will-win/
この研究の中身の紹介と批評の記事
被験者数が少ないのも問題だけど、それ以外にもサプリメーカーがスポンサーなのが胡散臭くて、ホエイを摂取したグループのみ、やたらと良い数字が出ているのも胡散臭い。趣味でボディビルをやっている被験者が通常の食事に加えて一日に体重1kgあたり1.5gのプロテインパウダー(スポンサー提供)を摂取したら、加水分解ホエイ群のみが10週間で除脂肪体重が5kgも増えて体脂肪は1.4kg減って、カゼイン群は有意差なし。加水分解ホエイ群はスクワット1RMが80kgから156kgに上昇。トレーニング歴のある人が10週間でこの結果を得るのはちょっと考えにくい。体重1kgあたり1.5gという多量のプロテインパウダーを摂取するのも、実践面から参考にならない。
(3)Effects of soluble milk protein or casein supplementation on muscle fatigue following resistance training program: a randomized, double-blind, and placebo-controlled study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4107592/
水溶性ミルクタンパク質群とカゼイン群の間でストレングスと筋肥大に有意差なかっただけでなく、プラシーボ群とも有意差なし。プロテインドリンクのタンパク質含有量が一回あたり10g(トレーニング日は3回、休息日は2回摂取)と少なかったためなのか、それとも一日のトータルのタンパク質摂取量がプラシーボ群でも十分だったのか。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28422532
https://www.researchgate.net/profile/Julien_Louis/publication/316266159_Effects_of_Post-Exercise_Protein_Intake_on_Muscle_Mass_and_Strength_During_Resistance_Training_is_There_an_Optimal_Ratio_Between_Fast_and_Slow_Proteins/links/590af1840f7e9b1d082491b4/Effects-of-Post-Exercise-Protein-Intake-on-Muscle-Mass-and-Strength-During-Resistance-Training-is-There-an-Optimal-Ratio-Between-Fast-and-Slow-Proteins.pdf
タンパク質の消化吸収速度と、血液中のアミノ酸濃度(特にロイシン濃度)の上昇の違いが、長期的な筋肥大およびストレングスの向上に影響を与えるのか。
タンパク質を摂取してから数時間程度の血液中のアミノ酸濃度と筋合成の度合いを調べた短期(acute)の研究だと、消化吸収が速くてロイシン含有率が高いホエイの優位性を示す研究が多い。これらの短期の研究を根拠としてサプリメーカーがホエイプロテインパウダーやロイシンに特化したサプリメントなどを売り込んでいるのだけど、以前も書いたように、これらの短期の研究だとトレーニング無しでもタンパク質摂取後に筋合成が起こっていて、トレーニング無しなら長期的には筋肥大も起きないだろうから、空腹時に筋分解が高まるなどしてどこかで帳尻を合わせている可能性がある。従って、短期の研究がホエイ優位を示しても、長期でも同じ結果になるのかは不明だった。
今回の研究は、レジスタンストレーニングに合わせて、消化吸収の速い水溶性のミルクタンパク質と、消化吸収の遅いカゼインを摂取し、長期的な筋肥大とストレングスの変化を比較している。長期でホエイ相当のタンパク質とカゼインの比較をしたまともな研究は恐らく初めてだと思う。
★実験方法
・被験者:レジスタンストレーニング歴のある若い男性。前年にプロテインパウダー摂取していない人のみ。だいたいの平均は身長180cm、体重76kg、体脂肪率17%、ベンチプレス1RMが90kg前後、スクワット3RMが95kg前後。
・プロテインドリンク
ミルクから精製された2種類のタンパク質を、割合を変えて混ぜ合わせて使用。
a) 水溶性ミルクタンパク質:消化吸収が速くアミノ酸組成がホエイに似ている。ホエイよりも精製されていない。
b) カゼイン:消化吸収が遅い。
この2種類のタンパク質の組み合わせを三つ作り、被験者3グループに割当。
FP(100) 水溶性ミルクタンパク質100%
FP(50) 水溶性ミルクタンパク質50% + カゼイン50%
FP(20) 水溶性ミルクタンパク質20% + カゼイン80%
プロテインドリンクに含まれるタンパク質の量は3種類とも20g。炭水化物も20g含まれている。これをレジスタンストレーニング終了後15分以内に摂取。
・レジスタンストレーニング
慣れるための準備期間が3週間、その後に本番9週間。トレーニング頻度は週に4回。3週間ごとにレップ数を減らし強度を上げるリニアピリオダイゼーション。
・食事
1日のトータルのタンパク質摂取量が体重1kgあたり1.5-2.0gになるよう食事指導。結果として平均で1.9g/kg程度摂取したのでタンパク質の摂取量は十分だと考えられる。
・体組成測定
DXA
・ストレングス測定
ベンチプレス1RM、スクワット3RM、アイソメトリックでの肘と膝の伸展・屈曲の力
★実験結果
プロテインドリンク摂取直後の血漿ロイシン濃度のピーク値、およびAUC(area under the curve:曝露量)に違いがあった。カゼイン80%のプロテインドリンクを摂取したグループ(FP20)は、水溶性ミルクタンパク質の割合が高いプロテインドリンクを摂取したグループ(FP100、FP50)に比べて、ロイシン濃度のピーク値とAUCが低くなった。
しかし長期的には3グループとも体組成とストレングスの変化に有意差なし。
★コメント
トレーニング後に摂取するプロテインドリンクの消化吸収が速くても遅くても、長期的な筋トレ効果は変わらないという結果になった。
今回の研究から得られる教訓は、
・摂取して数時間の血中のアミノ酸濃度や筋合成速度を測定した短期の研究は、そのまま長期の結果を保証するものではないだろう。
・ある一定のロイシン閾値を超えることが筋合成のトリガーになるといった、短期間の、そして複数ある筋合成ルートの一つでしか無いメカニズムが長期的な筋肥大を決めるわけではないだろう。
・運動後の「ゴールデンタイム」に、消化吸収の速いプロテインドリンクを慌てて飲む必要はなさそう。
・消化吸収が速いタンパク質と遅いタンパク質を組み合わせれば、筋合成促進と筋分解抑制の両面から効果を発揮でき筋肥大を最大化できる・・・という説もあまり意味がなさそう。
今後、この研究結果を覆す研究が出てくるかもしれないけど、現時点ではタンパク質の消化吸収の速度に神経質になる必要はないと思う。ただ胃腸が強くない人は消化吸収が速いプロテインパウダーを積極的に利用することで、胃腸のキャパシティがボトルネックにならず、十分な栄養を取ることが出来てより良い結果を得られるかもしれない。
基本は1日のトータルのタンパク質摂取量を確保し、一日に3,4回の食事、トレーニング前後の食事間隔があまり空かないように栄養供給するといった感じで良いだろう。
関連記事:ゴールデンタイムはあるのか?
健康面も考えるならリスク分散のためにタンパク質源は分散させた方が良いだろう。筋肉の餌としてのタンパク質のクオリティを考えた場合、必須アミノ酸、特にBCAAの含有率が高い方が良いのだろうけど、1日に体重1kgあたり2g程度のタンパク質を動物性食品中心に摂取すれば、アミノ酸組成の差は消えるのではないだろうか。食事でのタンパク質摂取量が足りない場合は、追加で摂取するプロテインパウダーのアミノ酸組成の差が筋肥大に影響するかもしれない(この記事にあるミルクとソイの比較はこのケースかも)。
維持・増量時にタンパク質摂取量を確保するためにプロテインパウダーを利用する場合は、価格や飲みやすさなどの総合面からホエイプロテインパウダーが優れていると思う。減量時やintermittent fastingなどで食事間隔が大きく空き、肝グリコーゲンの枯渇によりタンパク質が分解されやすくなる状況では、カゼインなど消化吸収の遅いタンパク質を積極的に摂取したほうが良いだろう。
関連記事:プロテインパウダーの選択
関連記事:タンパク質摂取量の目安
★類似した過去の研究
2つあるけどどちらもいまいち。
(2)The effect of whey isolate and resistance training on strength, body composition, and plasma glutamine.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17240782
Whey vs Casein. Who will win?
https://evidencebasedfitness.net/whey-vs-casein-who-will-win/
この研究の中身の紹介と批評の記事
被験者数が少ないのも問題だけど、それ以外にもサプリメーカーがスポンサーなのが胡散臭くて、ホエイを摂取したグループのみ、やたらと良い数字が出ているのも胡散臭い。趣味でボディビルをやっている被験者が通常の食事に加えて一日に体重1kgあたり1.5gのプロテインパウダー(スポンサー提供)を摂取したら、加水分解ホエイ群のみが10週間で除脂肪体重が5kgも増えて体脂肪は1.4kg減って、カゼイン群は有意差なし。加水分解ホエイ群はスクワット1RMが80kgから156kgに上昇。トレーニング歴のある人が10週間でこの結果を得るのはちょっと考えにくい。体重1kgあたり1.5gという多量のプロテインパウダーを摂取するのも、実践面から参考にならない。
(3)Effects of soluble milk protein or casein supplementation on muscle fatigue following resistance training program: a randomized, double-blind, and placebo-controlled study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4107592/
水溶性ミルクタンパク質群とカゼイン群の間でストレングスと筋肥大に有意差なかっただけでなく、プラシーボ群とも有意差なし。プロテインドリンクのタンパク質含有量が一回あたり10g(トレーニング日は3回、休息日は2回摂取)と少なかったためなのか、それとも一日のトータルのタンパク質摂取量がプラシーボ群でも十分だったのか。
8/06/2017
クレアチンについて
Examine.comのクレアチンについての記述を適当にピックアップして書きます。クレアチンは膨大な研究があるので自分で調べるのは無理っす。
★クレアチンの種類
- 市場には色々な種類があるけど、クレアチン・モノハイドレートが最も安価で最も効果的。粒を細かくした(micronized )クレアチン・モノハイドレートも、水に溶けやすくて実用面から使いやすい。
★摂取量
- ローディングフェーズでは1日に体重1kgあたり0.3gを5-7日間、その後の維持フェーズでは1日に体重1kgあたり0.03g以上を継続的に摂取する。ただ維持フェーズの0.03g/体重1kgという最低ラインは特に運動していない人に有効な量なので、運動量の多い人には足りないだろう(水泳のエリート選手が2g摂取を続けても筋肉中のクレアチンレベルが変わらなかったという研究がある)。
- 運動に熱心な人は一般的に維持フェーズで1日5g摂取する。筋肉量が多く活動量が多い人は、1日5-10gを摂取すると上積みの効果があるかもしれない。
- 早く効果を得たい人はローディングを行ったほうが良いが、ローディングを行わず最初から維持フェーズの摂取量を続けても、フルに効果を得るまで時間がかかるだけで最終的には同じ状態になる。
★摂取タイミング
- 運動前か運動後に摂取するのが良さそう。研究では有意差無しだけど、効果量や個人差の状況を見ると、どちらかと言うと運動後の方が良さそう。
- クレアチンと炭水化物を同時に摂取すると、グリコーゲン貯蔵が促進される。炭水化物と同時に摂取してもクレアチンの筋肉への取り込みは促進されないようだ。
- グリコーゲン貯蔵促進や、後述する胃腸の不具合回避の観点から、運動後にタンパク質と炭水化物を含む食事と一緒にクレアチンを摂取するのがおすすめ。
★注意点
- 十分な量の水を同時に摂取すること。水をあまり飲まず多量のクレアチンを摂取すると、胃痙攣になる場合がある。クレアチン・モノハイドレートで胃痙攣しやすい体質の人は、水に溶けやすいタイプのクレアチンを摂取すると良い。
- 一度に大量のクレアチンを摂取すると吐き気を催したり下痢になる場合がある。その場合は、一日複数回に分けて、食事と同時に摂取すると良い。
- 神経が鋭敏になったり落ち着きがなくなったりするという報告がある。プラシーボ効果かもしれないが、そのような症状を感じる人は寝る前には摂取しないほうが良いだろう。
- 一般的にローディングフェーズでは血中のクレアチニンレベルが上昇し、維持フェーズでは上昇しない。クレアチニンレベルは腎臓機能の生体指標として用いられるが、ローディングフェーズでのクレアチニンレベルの上昇は腎臓のダメージを意味するものではない。腎臓の状態を正しく示すクレアチニン値を得るためには、健康診断のタイミングでローディングを行わない方が良いだろう。
★運動面の効果
- 筋肉中のクレアチンレベルが上昇することで、ATP-PCr系のキャパシティが増大し、パワーとストレングスが向上する。初心者に比べると、エリートアスリートでは効果が小さい。
- 筋肉の保水量が増えることで体重が増加する。一般的には1-2kg程度増える。筋肉量の多い人がクレアチン摂取量を多めにすると2kg以上増えることも。クレアチン摂取量が少ないと体重増加も小さくなる。
- 筋肥大(タンパク質合成による筋肉組織の増加)を促進する効果がありそうだが、多くの研究では筋肉の保水量の増加と切り分けるのが困難。
- 運動中に疲労をやや軽減するかも。
- 筋肉へのダメージをやや軽減する。
- 筋持久力をやや向上させる。
- 持久運動での筋肉のカタボリックを抑制するかも。
- 体温上昇による疲労を低減する。
★パフォーマンス向上の大きさ
- クレアチンの効果は個人差が大きいが、一つの目安として数字を出すと、レジスタンストレーニングとクレアチン摂取を組み合わせると、プラシーボ群に比べてストレングス・パワーが2倍前後伸びることがメタアナリシス研究で示されている。
- トレーニング歴があってクレアチン摂取歴のない若い男性だと、ベンチプレスがプラシーボ群に比べて+7kg、スクワットが+10kg伸びた。
- クレアチン群とプラシーボ群の1RMの差はトレーニング8週間まで開き、その後は差が同じ。
★健康面の効果
- 食後の血糖値の上昇をやや抑えるかも。
- 骨密度をやや高めるかも。
- うつ状態の改善。SSRIの効果を増大させるようだ。
- テストステロンレベルの一時的な上昇。
- ベジタリアンの認知能力をやや向上させるかも(肉や魚にクレアチンが含まれていて、これらの食品を食べないとクレアチン不足になる)。
- 運動によるミトコンドリアDNAへの酸化ダメージをやや軽減。
- 尿酸レベルをやや低下。
★食品の含有量
クレアチンは動物の骨格筋や心臓に多く含まれている。レバーなど内蔵の含有量は少ない。以下は生肉の含有量で、調理すると低下する。長時間の加熱や水分の喪失によりクレアチンが多く失われる。
- 牛肉・豚肉1kgあたり約5g。
- 鶏肉1kgあたり約3.4g
- 魚も肉と同じくらいのクレアチン含有量。ニシンが多め。エビはほぼゼロ。
★健康への悪影響
特になし。
★男性型脱毛症を進行させるリスク
クレアチンの摂取によりDHTレベルが上昇したとする研究が一つだけある。従ってDHTレベルの上昇により、男性型脱毛症を進行させるリスクがある。ただ同様の結果を報告した研究は他になく、またクレアチンの摂取と男性型脱毛症の進行の関係について直接調べた研究もない。とりあえず男性型脱毛症ではない人は大丈夫だろう。
★クレアチンの種類
- 市場には色々な種類があるけど、クレアチン・モノハイドレートが最も安価で最も効果的。粒を細かくした(micronized )クレアチン・モノハイドレートも、水に溶けやすくて実用面から使いやすい。
★摂取量
- ローディングフェーズでは1日に体重1kgあたり0.3gを5-7日間、その後の維持フェーズでは1日に体重1kgあたり0.03g以上を継続的に摂取する。ただ維持フェーズの0.03g/体重1kgという最低ラインは特に運動していない人に有効な量なので、運動量の多い人には足りないだろう(水泳のエリート選手が2g摂取を続けても筋肉中のクレアチンレベルが変わらなかったという研究がある)。
- 運動に熱心な人は一般的に維持フェーズで1日5g摂取する。筋肉量が多く活動量が多い人は、1日5-10gを摂取すると上積みの効果があるかもしれない。
- 早く効果を得たい人はローディングを行ったほうが良いが、ローディングを行わず最初から維持フェーズの摂取量を続けても、フルに効果を得るまで時間がかかるだけで最終的には同じ状態になる。
★摂取タイミング
- 運動前か運動後に摂取するのが良さそう。研究では有意差無しだけど、効果量や個人差の状況を見ると、どちらかと言うと運動後の方が良さそう。
- クレアチンと炭水化物を同時に摂取すると、グリコーゲン貯蔵が促進される。炭水化物と同時に摂取してもクレアチンの筋肉への取り込みは促進されないようだ。
- グリコーゲン貯蔵促進や、後述する胃腸の不具合回避の観点から、運動後にタンパク質と炭水化物を含む食事と一緒にクレアチンを摂取するのがおすすめ。
★注意点
- 十分な量の水を同時に摂取すること。水をあまり飲まず多量のクレアチンを摂取すると、胃痙攣になる場合がある。クレアチン・モノハイドレートで胃痙攣しやすい体質の人は、水に溶けやすいタイプのクレアチンを摂取すると良い。
- 一度に大量のクレアチンを摂取すると吐き気を催したり下痢になる場合がある。その場合は、一日複数回に分けて、食事と同時に摂取すると良い。
- 神経が鋭敏になったり落ち着きがなくなったりするという報告がある。プラシーボ効果かもしれないが、そのような症状を感じる人は寝る前には摂取しないほうが良いだろう。
- 一般的にローディングフェーズでは血中のクレアチニンレベルが上昇し、維持フェーズでは上昇しない。クレアチニンレベルは腎臓機能の生体指標として用いられるが、ローディングフェーズでのクレアチニンレベルの上昇は腎臓のダメージを意味するものではない。腎臓の状態を正しく示すクレアチニン値を得るためには、健康診断のタイミングでローディングを行わない方が良いだろう。
★運動面の効果
- 筋肉中のクレアチンレベルが上昇することで、ATP-PCr系のキャパシティが増大し、パワーとストレングスが向上する。初心者に比べると、エリートアスリートでは効果が小さい。
- 筋肉の保水量が増えることで体重が増加する。一般的には1-2kg程度増える。筋肉量の多い人がクレアチン摂取量を多めにすると2kg以上増えることも。クレアチン摂取量が少ないと体重増加も小さくなる。
- 筋肥大(タンパク質合成による筋肉組織の増加)を促進する効果がありそうだが、多くの研究では筋肉の保水量の増加と切り分けるのが困難。
- 運動中に疲労をやや軽減するかも。
- 筋肉へのダメージをやや軽減する。
- 筋持久力をやや向上させる。
- 持久運動での筋肉のカタボリックを抑制するかも。
- 体温上昇による疲労を低減する。
★パフォーマンス向上の大きさ
- クレアチンの効果は個人差が大きいが、一つの目安として数字を出すと、レジスタンストレーニングとクレアチン摂取を組み合わせると、プラシーボ群に比べてストレングス・パワーが2倍前後伸びることがメタアナリシス研究で示されている。
- トレーニング歴があってクレアチン摂取歴のない若い男性だと、ベンチプレスがプラシーボ群に比べて+7kg、スクワットが+10kg伸びた。
- クレアチン群とプラシーボ群の1RMの差はトレーニング8週間まで開き、その後は差が同じ。
★健康面の効果
- 食後の血糖値の上昇をやや抑えるかも。
- 骨密度をやや高めるかも。
- うつ状態の改善。SSRIの効果を増大させるようだ。
- テストステロンレベルの一時的な上昇。
- ベジタリアンの認知能力をやや向上させるかも(肉や魚にクレアチンが含まれていて、これらの食品を食べないとクレアチン不足になる)。
- 運動によるミトコンドリアDNAへの酸化ダメージをやや軽減。
- 尿酸レベルをやや低下。
★食品の含有量
クレアチンは動物の骨格筋や心臓に多く含まれている。レバーなど内蔵の含有量は少ない。以下は生肉の含有量で、調理すると低下する。長時間の加熱や水分の喪失によりクレアチンが多く失われる。
- 牛肉・豚肉1kgあたり約5g。
- 鶏肉1kgあたり約3.4g
- 魚も肉と同じくらいのクレアチン含有量。ニシンが多め。エビはほぼゼロ。
★健康への悪影響
特になし。
★男性型脱毛症を進行させるリスク
クレアチンの摂取によりDHTレベルが上昇したとする研究が一つだけある。従ってDHTレベルの上昇により、男性型脱毛症を進行させるリスクがある。ただ同様の結果を報告した研究は他になく、またクレアチンの摂取と男性型脱毛症の進行の関係について直接調べた研究もない。とりあえず男性型脱毛症ではない人は大丈夫だろう。