★背景
トレーニングボリュームとトレーニング効果の関係は逆U字型になると言われている。ある程度までは、ボリュームを増やすとトレーニング効果も上がる。そのままボリュームを増やしていくと効果が頭打ちになり、さらに増やすとトレーニング効果が小さくなっていき、さらにボリュームを増やすとトレーニング効果がマイナス(筋肉量が減ったり筋力が低下したりする)になる。
具体的にどの程度のトレーニングボリュームで頭打ちになり、どの程度のトレーニングボリュームでトレーニング効果が低下していくのか。ここ数年でトレーニング歴のある被験者を対象としたボリューム関連の研究が増えてきたのでまとめてみた。今回の観点は、「1回のトレーニングセッションにおける部位あたりのボリューム上限」。
★低ボリュームと高ボリュームの効果を比較した研究
(1)Evidence of a Ceiling Effect for Training Volume in Muscle Hypertrophy and Strength in Trained Men - Less is More?
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31188644
被験者:若い男性。ベンチプレス10RMが100kg弱。
グループ分け:5セット、10セット、15セット、20セット
実験期間:24週間
追い込み度:全セット限界まで
トレーニング内容:週3回トレーニングを行う。部位ごとに見ると週1回ペース。
<結果>
ストレングス:ベンチプレス、レッグプレス、ラットプルダウン、スティッフレッグドデッドリフトの10RMの伸びは、5セットグループと10セットグループがほぼ全ての種目で、15セットグループと20セットグループを上回った。
筋肥大:有意差なしだが24週時点では5セットグループと10セットグループが優位な傾向。15セットグループと20セットグループは12週時点から24週時点の比較で筋肉の厚みが減っている傾向。
ストレングスの伸びも筋肥大も、5セットと10セットグループが最も良い結果となっている。15セットと20セットグループはトレーニング効果が低下していて、トレーニングボリュームが過多だったと考えられる。
この研究は他の研究に比べてかなり綺麗な結果が出ている。この研究グループは、女性を対象とした同じデザインの研究も行っていて、そちらも同様に綺麗な結果が出ている。この手の研究は結果がばらつくことが多いので、結果が綺麗すぎる気もする。
気になる点は、上半身種目は既にこれだけの重量を扱えるのに、24週間でかなりストレングスが伸びていること。被験者の平均体重は80kg台前半なのだけど、1RM換算でのベンチプレス約130kgが半年で約160kgになっている。5セット週1回(ベンチプレス自体のセット数は2セット)で、このような高レベルの人のベンチプレスがこれほど伸びるのは普通のことなのだろうか?
※2020年7月21日追記
この研究者(Matheus Barbalho)は複数の研究でデータの捏造っぽいことをやっている可能性が高いので、この研究の結果は考慮に入れないことにする。
Improbable Data Patterns in the Work of Barbalho et al: An Explainer
https://www.strongerbyscience.com/barbalho/?ck_subscriber_id=699589358
(2)Dose-Response of Weekly Resistance Training Volume and Frequency on Muscular Adaptations in Trained Males.
https://research.birmingham.ac.uk/portal/files/54153731/Heaselgrave_et_al_Dose_response_of_weekly_International_Journal_Sports_Physiology_and_Performance_2018.pdf
被験者:若い男性。トレーニング歴あり。
期間:6週間
グループ分け:低ボリューム、中ボリューム、高ボリューム
追い込み度:10-12レップで、限界まで2レップ残し。
トレーニング内容:
a)低ボリュームグループ
週1回トレーニングで、アームカール3セット、ベントオーバーロー3セット、プルダウン3セット
b)中ボリュームグループ
週2回トレーニングで、両日ともアームカール3セット、ベントオーバーロー3セット、プルダウン3セット
c)高ボリュームグループ
週2回トレーニングで、アームカール5セットor4セット、ベントオーバーロー5セットor4セット、プルダウン4セットor5セット
<結果>
ストレングス:上腕二頭筋の筋力やプルダウン1RMは、低ボリュームに比べて中ボリュームと高ボリュームが優位。ベントオーバーロー1RMは低中ボリュームに比べて高ボリュームが優位。
筋肥大:上腕二頭筋の厚みを測定。増加率に有意差なしだが、効果量比較では中ボリュームが優位。
上腕二頭筋のような小さな筋肉のアイソレート種目は1回あたり3セット程度にするのが良さそう。頻度は週1回よりも2回のほうが効果が高くなるだろう。上半身のコンパウンド種目は、1回のトレーニングあたりプルとロー合わせて5-10セットが効果の上限になりそう。
(3)The effect of weight training volume on hormonal output and muscular size and function
https://www.researchgate.net/publication/232177076_The_Effect_of_Weight_Training_Volume_on_Hormonal_Output_and_Muscular_Size_and_Function
被験者:若い男性。スクワット1RMが130kg前後、ベンチプレス1RMが90kg弱。
グループ分け:各種目1セット、2セット、4セット
期間:10週間
追い込み度:全セット限界まで
トレーニング内容:
部位ごとに3種目ずつ行っているので、部位あたりのボリュームは3セット、6セット、12セットを週1回。
<結果>
ストレングス:スクワット1RMとベンチプレス1RMの伸びはグループ間で有意差なし。
筋肥大:大腿直筋の断面積と上腕三頭筋の厚みはグループ間で有意差なし。
いずれも有意差がないだけでなく、ボリュームの増加に伴い伸びが高くなるといった傾向もなし。テストステロン/コルチゾール比の変化では、高ボリュームグループがオーバートレーニングの可能性。
(4)Effects of a Modified German Volume Training Program on Muscular Hypertrophy and Strength.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27941492
中身が読めないので拾ったこの画像で判断。有意差があるのかもわからないが、被験者数が少なくて有意差が出にくいだろうから、全体的に見てどちらが効果的か見ていきたい。
被験者:若い男性。トレーニング歴あり。
グループ分け:5セット、10セット
実験期間:6週間
追い込み度:60%1RMで10レップ
トレーニング内容:
day1) ベンチプレス5セットor10セット、ラットプルダウン5セットor10セット、補助種目はインクラインベンチプレス・シーテッドロー。
day2) レッグプレス5セットor10セット、ランジ5セットor10セット、補助種目はニーエクステンション・レッグカール・カーフレイズ。
day3) ショルダー・プレス5セットor10セット、アップライトロー5セットor10セット、補助種目はアームカール・トライセップスプッシュダウン
部位ごとのボリュームを計算すると(補助種目は各種目のセット数が不明なので3.5セットで計算)、
大胸筋:8.5セット or 13.5セットを週1回
広背筋:8.5セット or 13.5セットを週1回
大腿四頭筋:13.5セット or 23.5セットを週1回
ハムストリングス:足幅によるがランジである程度使いそう。レッグカールは両グループとも3セットか4セット。
腕の筋肉は計算と判断が難しい。コンパウンド種目でどれだけ上腕二頭筋・上腕三頭筋に負荷がかかるかは個人差が大きい。
<結果>
ストレングス:ベンチプレス1RMとラットプルダウン1RMの伸びは5セットグループが10セットグループよりも大きい。
筋肥大:
- 大胸筋と広背筋をまとめて胴体の除脂肪体重で見ると5セットグループのほうが増えた。
- 大腿四頭筋については、腿の前側の筋肉の厚みは5セットの方が増えた。
- ハムストリングスについては、腿の裏側の筋肉の厚みは10セットの方が増えた
- 腕の除脂肪体重は5セットが上、上腕二頭筋の厚みは5セットが上、上腕三頭筋の厚みは10セットが上。
上半身は部位あたりの1日のセット数が10セットを超えていくと効果が低下するようだ。上半身のコンパウンド種目は部位あたり1回5-10セットが良さそう。上半身に比べると脚は上半身よりもボリュームを増やしても大丈夫な感じがするが、1日に部位あたり20セット以上は多すぎると思われる。
(5)Effects of a 12-Week Modified German Volume Training Program on Muscle Strength and Hypertrophy—A Pilot Study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5969184/
(4)の研究と同じグループによるもの。実験期間が12週に伸びている以外はほぼ同じ研究デザイン。
被験者:若い男性。ベンチプレス1RMが80kg前後 除脂肪体重60kg程度。
グループ分け:5セット、10セット
実験期間:12週間
追い込み度:種目によって異なる。60%1RM~80%1RMで10レップ。
トレーニング内容:
部位ごとのボリューム計算も(4)の研究とほぼ同じになる。
<結果>
ストレングス:被験者数が少ないので有意差が出にくいが、両種目で両グループとも実験前後では1RMは伸びている。グループ間の効果量比較だとベンチプレス1RMは5セットグループがまあまあ優位。レッグプレス1RMは10セットグループが少し優位。
筋肥大:
- 除脂肪体重は両グループとも僅かに増えた。グループ間比較だとほとんど差なし。
- 部位別の除脂肪量の効果量比較は全般的に5セットグループが僅かに優位。胴体は5グループが僅かに優位。腕の除脂肪量は5セットグループが僅かに優位。脚の除脂肪量は6週時点では10セットグループが僅かに優位だが、12週時点では5セットグループが僅かに優位で、0週→12週の変化だと10セットグループの効果量は僅かにマイナス。
脚の除脂肪量は10セットグループは6週時点では増加しているのに、12週時点では減少していて、オーバートレーニングになっていると考えられる。レッグプレス10セット・ランジ10セット・ニーエクステンション4セットを1日でやるのはボリュームが多すぎるのだろう。
注意点は、実験前後の体脂肪率変化を見ると5セットグループは増えていて、10セットグループは減っているので、5セットグループのほうが摂取カロリーが多く筋肥大に有利だった可能性がある。
(6)Resistance Training Volume Enhances Muscle Hypertrophy but Not Strength in Trained Men
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6303131/
被験者。若い男性。スクワット1RMが100kg強、ベンチプレス1RMが100kg弱。
グループ分け:各種目1セット、3セット、5セット
実験期間:8週間
追い込み度:8-12レップを限界まで
トレーニング内容:
週3回のトレーニングは全て同じ内容。以下の各種目をグループごとに1セット、3セット、5セットずつ行う。
ベンチプレス、ミリタリープレス、ラットプルダウン、シーテッドロー、バックスクワット、レッグプレス、レッグエクステンション
1回のトレーニングでの部位ごとボリュームを計算すると、
- 大腿四頭筋:3セット or 9セット or 15セット
- 上腕二頭筋(プルとロー):2セット or 6セット or 10セット
- 上腕三頭筋(プレス):2セット or 6セット or 10セット
注意点は、大腿四頭筋はスクワットでもレッグプレスでもレッグエクステンションでもフルに負荷がかかるけど、上腕二頭筋と上腕三頭筋は個人差があるがコンパウンド種目ではフルに負荷がかからないこと。
<結果>
ストレングス:ベンチプレス1RMとスクワット1RMはグループ間で伸びに有意差なし。ボリュームの増加に伴い伸びが大きくなるといった傾向も無し。
筋持久力:ベンチプレス50%1RMで何レップ出来るかはグループ間で伸びに有意差なし。
筋肥大:
- 上腕二頭筋は1セットグループに比べて5セットグループのほうが厚みの増加率が高かった(有意差あり)。
- 上腕三頭筋は厚みの増加にグループ間で有意差なし。
- 大腿直筋は1セットグループに比べて5セットグループのほうが厚みの増加率が高かった(有意差あり)。
- 外側広筋は1セットグループに比べて5セットグループのほうが厚みの増加率が高かった(有意差あり)。
筋肥大は各部位ともボリュームが多くなるにつれて、厚みの増加率が高くなる傾向があった。脚は1日あたりのセット数が10セットを超えても、筋肥大面では効果が高くなっていくかもしれない。ただ、(4)(5)の研究結果を考えると、1日に20セット超えは脚でもボリューム過多だろう。腕についてはコンパウンド種目でどれだけ負荷がかかるかは個人差が大きいので、あまり参考にならないと思う。プレスやプルのあとに腕に余力があれば、アイソレートで3セットほどやっておけば良いのではないだろうか。
このSCHOENFELD他の研究をライル・マクドナルドが叩きまくっているけど、1日の部位あたりボリューム上限の観点では他の研究と大きな食い違いが出るわけではない。週ベースのボリューム上限の観点では、5セットグループのボリュームを週3回ペースだと、追い込み度を下げないと回復が追いつかないと思う。
★まとめ
以上の研究結果を参考に、トレーニングレベルが中程度の人にとって、1回のトレーニングで効果が頭打ちになるセット数の目安を書くと以下のようになる。時間と体力に余裕がある人はこのくらいのセット数を行うのが、高いトレーング効果を期待できて良いだろう。
脚:同系統の種目合わせて5-15セット程度。例えば、スクワット5セットとレッグプレス5セットで10セット。
上半身のコンパウンド種目:同系統の種目合わせて5-10セット程度。例えば、フラットベンチプレス4セットとインクラインベンチプレス3セットで7セット。シーテッドロー4セットとラットプルダウン3セットで合わせて7セット。
腕の単関節種目:上半身のコンパウンド種目をやっている前提で、アームカールやトライセップスエクステンションを3セット程度。
トレーニングレベル中程度の目安は、ベンチプレス1RMが体重の1.0倍~1.2倍程度、スクワット1RMが体重の1.2倍~1.5倍程度。トレーニグでの想定レップ数は6-12レップ程度で、追い込み度は限界まで2レップ残し以内(RPE8以上)。
これらは1回のトレーニングセッションあたりのトレーニングボリュームの上限の目安。週あたりのトレーニングボリュームの目安だと、週2回なら回復できるだろうからもっと多くなると思う。全セット限界までを週3回だと回復できないかもしれない。
★ボリュームを考える時の注意点
研究に基づいて目安のボリュームを示すことは出来るが、人によって適切なボリュームは変わってくる。影響を与える要因としては、
・トレーニングレベル。長くトレーニングしていてハードなトレーニングに適応している人はそれだけ多くのボリュームに耐えられる(また多くのボリュームがさらなる向上に必要となる)。
・部位によってボリューム上限は異なる。普段から強い負荷がかかる大きな筋肉ほど多くのボリュームに耐えられると考えられる。一般的に下半身(特に大腿四頭筋)がもっとも多くのボリュームに耐えられ、次に上半身のコンパウンド種目(広背筋や大胸筋メイン)、そして腕の単関節種目。あまり鍛えてこなかった部位をトレーニングする際は、ボリュームを少なめにすると良いだろう。
・追い込み度。限界までやるか、限界まで数レップ残すか。限界までやると効果が頭打ちになるトレーニングボリュームは少なくなると考えられる。ただ、フォームの崩れや怪我リスク、メンタル面での消耗、その日行う予定の他の種目への影響を考えると、フリーウェイトのコンパウンド種目では全セット限界までやらないほうが良いと思う。アームカールなどの単関節種目なら限界までやっても良いだろう。
・レップ数。おそらく高重量低レップ(だいたい5レップ以下)のほうが、効果が頭打ちになるセット数は多くなり、トータルのレップ数は小さくなる。例えば、3レップ10セットと10レップ3セットだったら、前者の方が強い刺激になる。
・筋肉の反応の個人差。同程度のトレーニングレベルの人を集めて同じトレーニングメニューを行っても、トレーニング効果の反応は大きくばらつく。この辺はわかっていないことだらけなので何とも言えない。
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