10/31/2024

筋トレの有酸素運動的な効果

これまで、筋トレでは筋力向上や筋肥大が起こり、ランニングなどの有酸素運動では最大酸素摂取量(VO2max)などの有酸素性能力が向上する・・・と二分法で考えられてきましたが、最近のトレンドとして、各種のトレーニングの効果には連続性があり、筋トレにも有酸素運動的な効果があり、有酸素運動にも筋トレ的な効果がある、という考えが広まってきています。

例えば、HIITやサーキットトレーニングなどの全身を使った高強度の有酸素運動は、筋肥大もする可能性がありますし、高レップ・短インターバルで息がゼーゼーするような筋トレはインターバルトレーニングに近くなり有酸素性能力が上がる可能性があります。



酸素摂取量の基礎知識

最大酸素摂取量(VO2max)を指標にする研究が多いので、基礎知識を書いておきます。最大酸素摂取量(VO2max)は、運動中に体内(ミトコンドリア)に取込まれる酸素の最大量で、有酸素性能力の指標になります。「心臓の送り出す血液の量(一回拍出量×心拍数)」と「動脈と静脈の酸素の差」が大きくなると、VO2maxは向上します。

一回拍出量は一回の拍動で心臓から送り出される血液の量で、左心室が肥大する(いわゆるスポーツ心臓になる)と向上します。動脈と静脈の酸素の差は、筋肉がどれだけ効率よく血液から酸素を取り込みそれを利用できるかが影響し、筋肉の毛細血管密度とミオグロビン濃度の上昇、筋肉におけるミトコンドリアの質的・量的変化で大きくなります。



健康面

VO2maxは心血管疾患リスクに関わり、VO2maxが低いと心血管疾患リスクが上がります。そのため、筋トレで筋力・骨密度(フレイルやサルコペニア対策)だけでなくVO2maxも向上するなら、一石二鳥の高齢者健康対策になるのでは?と考えられています。

また、中年以降は、ランニングなどの長時間の有酸素運動は関節への負荷が辛くてやりにくい場合があります。水泳は関節への負担が軽くて良いのですが、骨(骨密度)が鍛えられないです。

(1)Resistance training induced increase in  VO2max in young and older subjects
https://eurapa.biomedcentral.com/articles/10.1007/s11556-013-0120-1
筋トレや持久トレーニングを行っていない人を対象とした研究を集めてレビューした論文です。高齢者(60歳以上)は筋トレによって最大酸素摂取量が上がりやすく、若者(20-40歳)は上がりにくいという結果になっています。

若者グループでVO2maxが上がっている研究は、オリンピックリフティングスタイルのトレーニング、マシンで15レップを60-90秒インターバルで全身トレーニング、ストレングストレーニングとしか書かれていないが測定でスクワットとベンチプレスを実施しているのでおそらくこれらの種目を実施した研究の3つです。

論文では、初期のVO2maxが年齢平均より低いと、筋トレでVO2maxが向上しやすいとの結論になっています。VO2max向上のファクターの考察は、一回拍出量の増加もなくないけど、筋肉の酸素取り込み・利用能力(動脈と静脈の酸素の差)の上昇によるものがメインとのこと。具体的に言うと、筋肉の毛細血管の発達や、ミトコンドリア周りの能力アップです。

この論文では、VO2maxの向上に関係があったのはVO2maxの初期値だけで、他の要素は関係が見られなかったとされていますが、レビュー対象の研究の実験デザインがバラバラなのが要因と考えられ、論理的に考えれば、セットが低強度で高レップ寄り、セット間インターバルが短い、コンパウンド種目中心で動員される筋肉量が多いといったトレーニング内容だと、短時間に大量の酸素を取り込んで利用することが要求され、VO2maxも向上しやすいと考えられます。



筋トレの有酸素性負荷

(2)Cardiorespiratory and aerobic demands of squat exercise
https://www.nature.com/articles/s41598-024-68187-z

スクワットでどれくらいの有酸素性負荷がかかるかを調べた研究です。

被験者 平均27.6歳 男性 身長176cm 体重84kg スクワット1RMは体重の1.67倍  VO2max47.5ml/kg/min 最大心拍数195bpm

スクワットの1RM(体重比)が高いグループと、低いグループに分けて調べています。

高いグループ:体重比スクワット1RM187%(平均体重90.7kg スクワット1RM168kg) 
低いグループ:体重比スクワット1RM148%(平均体重77.4kg スクワット1RM114kg)

実験内容:スクワット10レップ×5セット@65%1RM セット間インターバル3分 フルスクワット指示

下図は結果のグラフです。左側が酸素摂取量、二酸化炭素排出量、呼吸交換比(吸った酸素と吐いた二酸化炭素の比率)のグラフ。右側が心拍数と毎分呼吸量のグラフ。上がスクワット1RM高いグループ、下がスクワット1RM低いグループです。





特徴としては、スクワット1RMが高いグループのほうが、VO2maxに対する酸素摂取量が高くなっています。仕事量と消費エネルギー(=酸素消費量)は比例するので、動かす重量が重くて移動距離が長いほど仕事量が多くなり、酸素の消費量も増えます。

今回の実験はトレーニングに慣れた被験者に10レップ×5セットの高ボリューム、そしてフルスクワット指示(ウェイトの移動距離が長い)にしているので、仕事量が多くなり、有酸素性負荷が高くなったと考えられます。

セット中はVO2max付近まで酸素摂取量が上昇するので、強い有酸素性負荷がかかっていますが、セット間インターバルは完全レストで、酸素摂取量がVO2maxの20%くらいまで低下しているので、有酸素運動としてはそこまで効果的ではないと思われます。

有酸素性能力向上のためのインターバルトレーニングだと、VO2max付近(ハイペース走)と50%VO2max付近(軽いジョグなど)を交互に繰り返します。筋トレでも、短いインターバルで低強度・高レップ・高ボリューム、インターバルではジョグやエアロバイクでアクティブレスト、といったトレーニング方法にすると、インターバルトレーニングに近くなり有酸素トレーニングとしての効果も高くなると思いますが、疲労でフォームが乱れて怪我リスクが上がったり、レップ数が少なくなって筋トレとしての効果が低下しそうです。もしやるなら、安全面を考えてレッグプレスなどのマシンにしたほうが良いでしょう。



有酸素運動の要素

有酸素運動に要求される能力もいくつかに分けられます。

参考サイト:心拍数と運動強度について
https://note.com/strength_noguchi/n/n5cad1c35a97e

参考サイト:[LSDが効果的?]心臓を鍛えるにはどうすればよい?[一回拍出量の頭打ち]
https://sports-sciences.fit/endurance-training-12/

高レップの筋トレで鍛えられる能力はインターバルトレーニングに近いものでしょう。低強度・高レップ・短インターバルの筋トレは、筋肉の有酸素性能力(毛細血管やミトコンドリア)は発達しそうですが、心臓が一度に送り出す血液量(一回拍出量)については発達しにくいと考えられます。また、脂質利用能力を高める効果も無さそうです。



まとめ

有酸素運動と筋トレは、はっきりと分けられるものではなくて、スペクトラム(連続体)になっています。有酸素運動の強度を上げて運動時間を短くしていけば筋トレ的な要素が出てきますし、筋トレの強度を下げて運動時間を長くしていけば有酸素運動的な要素が出てきます。

筋トレ効果と有酸素運動効果の一挙両得は、初期トレーニングレベルが低い場合に、筋肉にバーン感が出て息がゼーゼーするトレーニングを実施すれば実現できる可能性があります。具体的には、高レップ・高ボリューム・短インターバルの筋トレや、高強度インターバルトレーニング(HIIT)です。これらの運動は、運動不足の高齢者の健康対策としても効果的でしょう(メンタル的にきついので継続できるかの問題がありますが)。

競技方面で高いレベルを目指す場合は一挙両得は難しいので、筋トレと有酸素運動は分けて行って、それぞれの能力を伸ばしたほうが良いでしょう。

高いレベルを目指す場合、パワー・ストレングス方面の競技者が様々な動きの有酸素運動(いわゆるGPP workout)を行うと、ワークキャパシティが向上したり、全身の運動機能が改善されたりして競技に好影響があります。また、持久運動でもゴール前のスパート時などは強い筋力が要求されるため、持久運動の競技者が高強度のウェイトトレーニングを行うと、持久運動のパフォーマンスが上がったりします。



<他の参考論文>

(3)Aerobic Adaptations to Resistance Training: The Role of Time
under Tension
https://www.thieme-connect.com/products/ejournals/pdf/10.1055/a-1664-8701.pdf
筋トレの有酸素運動的な適応についての論文。有酸素的な負荷を上げるには、TUT(セットの継続時間)を長くする、レップ数(TUTが同じならレップ数が多いほうが負荷が上がる)を多くする。

(4)Effects of High-Intensity Interval Training on Muscle Strength for the Prevention and Treatment of Sarcopenia in Older Adults: A Systematic Review of the Literature
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10931549/
高齢者へのHIITの効果を調べたシステマティックレビュー

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