12/04/2021

骨格の違いによるデッドリフトフォーム考察

腕と脚と胴体の長さのバランスによって、デッドリフトはフォームが変わってくるのでその考察です。

そのフォームを実行可能かは、股関節の骨の噛み合わせ(大腿骨頭の角度や太さ、骨盤のソケットの向きや深さ)が深く関わりますが、スムーズに動作しやすいフォームは骨格バランスが強く影響します。

スクワットについての記事ですが、股関節の骨の噛み合わせについては関連記事に詳しく書いてあります。

関連記事:股関節の骨の個人差とスクワットのスタンス


本記事では、主にナローデッドリフトのフォームを考察していきます。スモウも少々。

3タイプの骨格に分けて考えていきます。

(1)バランス型タイプ(腕の脚の長さが普通)

(2)腕と脚が長くて胴体が短いタイプ

(3)腕と脚が短くて胴体が長いタイプ



脚が短くて腕が長い体型の人もいますし、逆に脚が長くて腕が短い体型の人もいますし、大腿とスネの長さの比率によってもフォームは変わってきますが、とりあえず3タイプに分けます。






バランス型

教科書的なフォームのナローデッドリフトが向いています。目安としては、ロックアウト時にバーが股間のちょっと下あたりにきます。(バーの位置はそれなりに重たいバーベルを持って肩の位置が押し下げられた状態。バーが軽いと肩があまり下がらないので)

キャプチャのタイミングは、踏み込んでバーがしなりつつ、プレートが浮いていない瞬間でキャプチャ。



動画:My Simple Approach To Stronger Deadlifts
https://www.youtube.com/watch?v=sJLR2vT709I


大腿骨が短いとスタートポジションでの股関節の開きが少し大きくなります(ラックプルに近くなる)。


動画:Actually, You SHOULD Move The Barbell.
https://www.youtube.com/watch?v=mzpE3Ukzgls&t=80s


腕が短いと、スタートポジションでの股関節の位置が高くなります(デフィシットデッドリフトに近くなる)。


動画:Squat everyday Day 718: Big fish small pond
https://www.youtube.com/watch?v=WyHVsLXdpQE


よほど大柄でない限りは、バランス型の人はパワーリフティングだとスモウのほうが重量が上がるため、この体型の競技者でナローデッドリフトの人を見つけるのがなかなか難しいです。(競技者は重量が目立つ人のほうが検索に出てきやすい)

この人はバランス型でスモウ。

動画:Taylor Atwood - 758kg 1st Place 74kg - IPF World Classic Powerlifting Championships 2018
https://www.youtube.com/watch?v=rzGMXimNPMw



腕と脚が長くて胴体が短い

ナローデッドリフトが得意なのは、腕と脚が長くて胴体が短いタイプです。デッドリフトに比べてスクワットが苦手になりがちで、スクワットとデッドリフトの挙上重量の差が大きくなりやすいです。


腕と脚が長くて胴体が短いタイプ。

動画:804lbs/365kg x 2, Conventional deadlift PR @ 214BW- Cailer Woolam
https://www.youtube.com/watch?v=qJ3hl4y9BEU&t=2s

挙上開始時点で上半身の傾きが浅く、膝と股関節が開いています。腕の短い人がラックプルをするような態勢でスタートできるので力をいれやすいです。胴体が短いので、バーから腰までの水平距離が短くて腰の負担が小さい、バーから股関節までの水平距離が短くて股関節の負担が小さい。

ロックアウト時のバーの位置は、股間よりもだいぶ下になります。


IPF83kg級チャンピオンのRussel Orhii選手。腕と脚が長くて胴体が短い。たぶん大腿骨が少し短めなので、スクワットもやりやすいはず(実際に強い)。


動画:BLOWING UP DEADLIFT! | My Last Deadlift Workout
https://www.youtube.com/watch?v=deF3fd5a-8k&t=841s



階級別のスモウとコンベンショナルのデッドリフト世界記録という動画から、各選手のスタート時点をキャプチャ。腕と脚が長くて、スタート時点の股関節の開きが大きい選手が多い。



The Sumo WR Vs The Conventional WR For Each Weight Class
https://www.youtube.com/watch?v=yp607ArdVPg



腕が長いとスモウもやりやすいので、もし股関節の骨の噛み合わせが開脚向きで、股関節が耐久できるなら腕長脚長体型はスモウも得意なはず。1つ目の画像のCailer Woolam選手はスモウのほうが記録は上です。腕が長いのでロックアウト時のバーの位置は、膝のちょっと上。


脚の長さの配分が、大腿骨が長くてスネが短いだと、ナローデッドリフトは脚が邪魔になってやりにくくなります。特に長身の場合はやりにくいと思います。その場合は、トラップバーかスモウが向いています。

下の画像の大谷翔平選手のトラップバーデッドリフトは、グリップの位置がストレートバーより高いけど、スタート時点はバランス型のフォームと同じくらい。ストレートバーだとかなり窮屈なフォームになると思います。ロックアウト時の手の位置からすると腕は短くないです。


動画:デッドリフト225㎏を上げる大谷翔平
https://www.youtube.com/watch?v=2BHj8t6Ml5Q




腕と脚が短くて胴体が長いタイプ

脚が短くて胴体が長い人は、スクワットが得意ですが、デッドリフトはやりづらくて苦手な場合が多いです。

この体型の人に向いているナローデッドリフトのフォームは、尻を後ろに下げてスクワットみたいに上げるフォームです。

この人はパワーリフターです。スクワットのノーギア世界記録保持者(490kg)。デッドリフトのベスト記録は398.5kg。

動画:Ray Williams - 1083.5kg 1st Place 120+kg - IPF World Classic Powerlifting Championships 2018
https://www.youtube.com/watch?v=ATCXqQMBOYk


別角度から同様のフォームを。こちらは2人ともストロングマンの選手です。




動画:The ULTIMATE Deadlift Tutorial (feat. 2019 World's Strongest Man Martins Licis)
https://www.youtube.com/watch?v=WP0IFHkkRZ0&t=318s

動画:Deadlift Series #5 - New PR!! PLUS How I Use Leg Drive to Increase Strength and Speed Off the Floor
https://www.youtube.com/watch?v=HLmleXf5nhg


スネを垂直に近づけて、バーの後ろに自分の体重を投げ出す感じになるので、ある程度はバーベルの重量が重たくないとバランスが取れなくなります。上の画像の左側の人は、体重160kgで160kgのバーベルなので、少なくとも自分の体重と同じくらいのバーベルの重さなら出来るかなと思います。

この体型の人は胴体が長いので、教科書的にバーに覆いかぶさるフォームだと、かがみが深くて窮屈だったり、胴長のために体幹の負荷がきつかったりで、スクワットみたいに上げるほうがやりやすくなります。(胴長だとそれだけモーメントアームが大きくなるので腰の負担も増します)

上の画像の右側の人が、この体型のデッドリフトについて詳しく解説しています。

動画:All About Deadlift Leverages
https://www.youtube.com/watch?v=V8VpZc4LZTs


ストロングマンの選手は、スクワット型ナローデッドリフトのフォームが多いようです。

動画:6 Giants DEADLIFT 1000lbs!
https://www.youtube.com/watch?v=rpQWGC1CSQM

動画:Eddie Hall Deadlift World Record 500kg (1102lbs) - Includes Full Aftermath!!
https://www.youtube.com/watch?v=U4AQlamvFzs&t=238s

動画:501KG Deadlift - Hafthor Bjornsson
https://www.youtube.com/watch?v=2kEC7X1FUIg

ストロングマンの選手にスクワット型デッドリフトが多い理由としては、体型面での理由もありますが、それ以外にはパワーリフティングの選手は一発上げればいいので腰高で背中に負担がかかるフォームでもいいけど、ストロングマンの選手は大会で複数レップのデッドリフトをする場合あるし、他の種目でも背中を使うのでデッドリフトで背中の負担を過度にしたくないから、という理由もあるようです。

動画:Comparing Deadlift Styles: Powerlifter vs. Strongman - Leverages, Rep Efficiency, and Durability
https://www.youtube.com/watch?v=ZCqwTji-VJc


ナローで400kg以上を挙げるストロングマンの選手は185cm150kgみたいな体格で、骨格と筋肉が非常に大きいので高重量が上がりますが、体重比の挙上重量は3倍くらいです。腕長脚長で胴体が短いタイプのパワーリフターだとナローデッドリフトは体重比4倍くらい行くので、腕と脚が短い胴長体型は骨格のレバレッジではデッドリフトには不向きです。


腕と脚が短く胴長の体型の人が教科書的なデッドリフトのフォームをやろうとすると窮屈で、背中の負担が大きくなります。下の画像と動画が具体的な例です。従ってこの体型の人は、ナローデッドリフトならスクワット型が良いでしょう。また、よほど大柄でなければスモウのほうがやりやすいと思います。


動画:デッドリフト 150kg
https://www.youtube.com/watch?v=EOHLVm0MZsU



パワーリフティングについて詳しくないですが、中軽量級だとこの体型はスモウのほうが重量が上がるので、スクワット型ナローデッドリフトはあまり見ないと思います。

スモウはスタート時点の膝と股関節の角度を浅くし、上半身の傾きを小さくして背中の負担を下げられるメリットがあります。ただ、どんな身長の選手でもスタート時点のバーの高さは一定なので、大柄になるほど同じ骨格バランスでも深くしゃがむ必要が出てきて、スモウのメリットが消えていきます。





多くの人は、スモウのように大きく脚を開いたスタンスよりも、肩幅くらいのスタンスのほうが力を入れやすいので、スモウのメリットが消えていく体重の重たい(≒身長の高い)階級ではナローデッドリフトの割合が増えるのだと思います。

こちらのサイトに、パワーリフティング階級別のスモウ・コンベンショナルの比率グラフがあります。軽量級ほどスモウの割合が高くてコンベンショナルの割合が低い。体重が重くなると、スモウの割合が低くなり、コンベンショナルの割合が高くなっていく。

参考サイト:Conventional VS. Sumo Deadlift: Which One Should You Do?
https://powerliftingtechnique.com/conventional-vs-sumo-deadlift/


関連記事:スモウデッドリフトの向き・不向き


デッドリフトについては2024年8月に電子書籍に詳しくまとめましたので、もし良ければ読んでみてください。
 

Amazonの販売ページ:図解デッドリフト
 
 

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