2/09/2020

股関節の骨の個人差とスクワットのスタンス

股関節は、大腿骨の先っぽの丸い部分(ボール)と骨盤の受け皿部分(ソケット)からなる関節。

筋肉などの柔軟性が制約にならなければ、股関節の可動域はこの骨と骨がぶつからない範囲になる。大腿骨の先っぽの形と、骨盤のソケットの位置や深さには個人差があり、そのため骨と骨がぶつからない範囲にも個人差がある。

股関節がどこまで曲がる(屈曲する)か、脚を大きく開いた方が曲げやすいか、あまり開かないほうが曲げやすいかは、スクワットのしゃがめる深さと適したスタンスに影響する。

股関節の骨の形には個人差があり、しゃがみやすいスタンスは人によって違うこと、また骨の形の問題でどうやっても深くしゃがむのが困難な人がいて、そういう人が無理に深いスクワットや床引きデッドリフトをやると危険なことなどをこの記事では書いていきたい。

まず最初に、大腿骨の先っぽの形と骨盤のソケットの位置の個人差を見ていく


★大腿骨の先っぽの形と骨盤のソケットの位置

(1)大腿骨の先っぽの捻じれの角度 femoral anteversion / femoral neck angle
日本語だと前捻角。上から見たときの大腿骨のシャフトに対する先っぽ部分の角度。後で紹介するCraig's testで大体の値がわかる。赤ちゃんの時は40度くらいで、成長とともにだんだん角度が小さくなっていく。

被験者グループの遺伝子や生活様式によって値は異なるけど、だいたい5-15度くらいが普通で、この程度の角度だとしゃがむ動作や歩行動作に問題が出にくい。このノーマルレンジを大幅に外れる人も一定数いる。下のグラフはインドの研究のデータ。

色々な研究での、前捻角の平均値。


(2)大腿骨の先っぽの傾き Angle of Inclination / femoral neck shaft angle
前から見た場合の(frontal planeの)、大腿骨の先っぽの角度。赤ちゃんの時は140-150度で成長とともにだんだん角度が小さくなっていく。画像のBとCはノーマルのレンジを外れたケースで、股関節を動かしやすいように赤点の部分を合わせると、X脚、O脚になる。



(3)骨盤ソケット位置(前後) acetabular anteversion
上からみた場合の(Horizontal planeの)、骨盤ソケットの向き。普通は20度程度。



(4)骨盤ソケット位置(横向きか下向きか) Center-Edge Angle / acetabular inclination
前から見た場合の(frontal planeの)、骨盤ソケットの向き。普通は35度程度。


★骨の左右差
大腿骨の先っぽの捻じれと傾きの角度、骨盤のソケットの位置は、多くの人がおおよそシンメトリーになっているが、左右差が大きい人もいる。成長過程でアシンメトリーの負荷がかかると、アシンメトリーに骨が成長するのかもしれない。骨の形の左右差が大きい場合は、スクワットの脚の開き度合いも左右で異なるようにするのが適切だろう。アラインメント異常によるアシンメトリーと、骨自体のアシンメトリーとを見分ける必要があるが・・・人間の身体は難しいですね。


★ソケットの深さと骨頭の太さ
ソケットが深くて大腿骨の先っぽが太いと可動域が狭くなる。スクワットを深くしゃがむのは困難だけど、関節の安定性が高いので長時間歩いたりするのが得意。ソケットが浅くて、大腿骨の先っぽが細いと、屈曲も伸展も可動域が広くなるけど、股関節の安定性が低くなる。


★骨の形の個人差による得手不得手
例えば、骨盤ソケット位置が前向き・横向きで、大腿骨の先っぽの角度が普通だと深くしゃがみやすい。その分、股関節伸展の可動域があまりなく、デッドリフトやヒップスラストのロックアウトがカッチリしない場合もある。その場合は、腰を反ってロックアウトしてる風にならないように注意する。

骨盤ソケット位置は、下向きよりも横向きのほうがしゃがみやすけど、そのぶんボール上部のカバー面積が小さくなるので、長時間の歩行などに不利。カバー面積が小さいため周辺組織にかかる圧力が高くなることで経年劣化が早まり、変形性股関節症になりやすい可能性がある。


★股関節の屈曲可動域チェック
骨の形の話を細かく書いても、スクワットのスタンスのために股関節をレントゲン撮影して判断する人は多分いないと思うので、手軽にできる判断の方法を紹介。

動画:Quick Hip Assessment for Squatting | Movement Fix Monday | Week 6 | Dr. Ryan DeBell
https://www.youtube.com/watch?v=b0nJpBGOml4&feature=emb_title

最初にうつ伏せになって大腿骨の内旋と外旋のレンジをチェック。このモデルの女性のように大腿骨の先っぽの捻じれがretroversionと思われる人は外旋レンジが大きく内旋レンジが小さい。

次にやっているのがCraig's test。腿の横側を触り、大腿骨を内旋・外旋して骨の出っ張りがもっとも顕著になるところで足を止める。この足を止めた時の脛の角度が、垂直から外側に5-15度くらいになるのがノーマルレンジで、スクワットのスタンスは肩幅くらいの普通の足幅で楽にしゃがめる可能性が高い。脛が内側になる場合はワイドスタンスが向いている可能性が高い。脛が15度より外側になる場合はナロースタンスが向いている可能性が高い。この角度に左右差がある場合もあるので、両脚ともチェックしたい。


Craig's testを一人でやってみたい場合は、片脚立ちして関節の角度をうつ伏せ時と同じにして、大腿骨を内旋・外旋すると良いと思う。大腿骨の出っ張りは外側広筋の付着点のすぐ上なので、チェックしたい足で床を踏んだりして外側広筋をピクピクさせると場所を把握しやすい。

次は仰向けになって、様々な角度で膝を胴体に近づけてみて、どのくらい足を開くと股関節が深く曲がるかチェックする。大腿骨の形だけでなく、骨盤のソケットの位置も股関節の可動域に影響する。股関節の可動域の確認は、骨盤がどこで動き出すかに注意する。大腿骨を動かしていって骨と骨がぶつかると、それ以上脚を動かそうとすると骨盤が動く。

動画:Hip Socket Self-Assessment
https://www.youtube.com/watch?v=81xUjrD1Wao
一人でチェックする場合はこんな感じ。


このようにチェックしていくと、股関節の骨の噛み合わせの点で、どのようなスタンスだと楽にしゃがめるのか、どこまで深くしゃがめるのかが大体分かる。骨の形の問題で深くしゃがむのが困難な人は、スクワットで無理に深くしゃがむ必要はない。人によってはナロースタンスでの床引きデッドリフトが、背骨ニュートラルのままでは無理な場合もある(ワイドスタンス向きの噛み合わせならスモウが向いている)。ワイドでもナローでも股関節を深く曲げるのが苦手な噛み合わせなら、浅いスクワット、ラックプル、もしくはヒップスラストが良いだろう。骨の形の問題で股関節が深く曲がらないのに、無理に深くスクワットしたり床引きデッドリフトをしたりすると、股関節の屈曲が足りない分を背骨を丸めることで達成しようとして危ない。

楽にフルボトムまでしゃがめる人は、股関節が繰り返し負荷に弱い可能性があるので、老後のことを考えるなら、股関節周りと脚の筋肉を鍛えて歩行やランニングの衝撃を筋肉で和らげられるようにする。また、肥満にならないように注意する(体重が重ければそれだけ股関節にかかる負荷が増える)。

ただスクワットのスタンスやしゃがめる深さには、足首の可動域や内転筋の柔軟性や身体コントロール能力なども影響する。その場合はこれらの問題に対処することで、スクワット動作が改善するので、身体全体をトータルで見ていく必要がある。


関連記事:
butt winkの話

スクワットの深さ

アシンメトリー


参考サイト:
Beyond Butt Wink: Hip Shape, Injuries, and Individual Ability Part 1
https://deansomerset.com/beyond-butt-wink-hip-shape-injuries-and-individual-ability-part-1/

Beyond Butt Wink: Part 2
https://deansomerset.com/beyond-butt-wink-part-2/

Beyond the Butt Wink: Part 3
https://deansomerset.com/beyond-the-butt-wink-part-3/

Hip
https://clinicalgate.com/hip-5/

Study Of Femoral Neck Anteversion Of Adult Dry Femora In Gujarat Region
http://njirm.pbworks.com/f/4femoral_neck_antiversion.pdf

Femoral neck shaft angles: A radiological anthropometry study
http://www.npmj.org/article.asp?issn=1117-1936;year=2016;volume=23;issue=1;spage=17;epage=20;aulast=Adekoya-Cole

Three-dimensional acetabular orientation measurement in a reliable coordinate system among one hundred Chinese
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0172297

A Novel Approach for Determining Three-Dimensional Acetabular Orientation:Results from Two Hundred Subjects
https://www.academia.edu/21070725/A_novel_approach_for_determining_three-dimensional_acetabular_orientation_Results_from_two_hundred_subjects

0 件のコメント:

コメントを投稿