4/21/2017

腰痛の予防

腰痛には様々なケースがあるけど、現在それなりに健康で運動をしていて、腰の健康を維持したいと考えている人向けの内容。

現在腰痛を抱えている人も、ここに書かれている内容で当てはまるものがあるなら、改善を目指してエクササイズなどをやってみるのも価値があると思う。


★腰痛豆知識
- 誰しも生きていればほぼ確実に腰痛を経験する。備えあれば憂いなし。
- 腰痛の原因についてはっきりした診断を得られないかもしれない。医者に診てもらっても、身体のどこに問題があって腰痛になっているのか、はっきりわからないことが多い。
- 特に痛みなどがなく無症状であっても背骨の状態が異常になっていることがある。特に高齢者に多い。ゆっくりした悪化で普段の生活に支障がなければ、身体は痛みを感じないのかもしれない。
- 痛みとその原因となる部位が異なることがある。過去の怪我や柔軟性の不足で身体の一部が動かなくなると、他の部位が過度の可動域を要求されることになり、痛みが起きることがある。
- 寝起きは腰を痛めやすいので注意する。横になっている間に椎間板が水分を含んで膨らみ、起きたときは背骨がキツキツになって安全に曲げ伸ばしできる範囲が小さくなっている。物を拾ったりかがんだりといった日常生活での動作の際には気をつける。立った状態を続けると圧縮方向の力が背骨にかかって1,2時間で水が抜けるので、運動するならその後が良い。
- 子供と大人で怪我しやすい組織が違う。子供は骨がまだ弱いので、骨折しやすい。大人は骨が強いので、靭帯や椎間板などを怪我しやすい。いずれも相対的に弱い組織が先に壊れる。



★腰の反りすぎ・腰の丸まり
- 腰が反りすぎていることによる腰痛と、腰が丸まっていることによる腰痛がある。
- 腰が反りすぎていることによる腰痛は、一般的には立っているときに腰が痛くなる。このケースでは股関節の屈筋の短縮、臀筋がうまく使えていない、体幹の前側が弱いといった特徴がある。股関節の伸展がうまくできないので、デッドリフトなど股関節の伸展が必要な動作で腰を反らせて股関節の伸展を代償する。ウェイトトレーニングをやっている人に多い。骨盤の前傾の矯正プログラムで対処可能。

参考記事:骨盤の前傾の矯正

腰が丸まっていることによる腰痛は座っているときに腰が痛くなる。デスクワーカーと自転車競技者に多い。腰筋がうまく使えないとなりやすい。腰筋がうまく使えず股関節の屈曲を腰を丸めることで代償する。座りっぱなしにならないなど、なるべく腰が丸まった姿勢を取らないように気をつける。デスクワークの人はこまめに立ち上がってウロウロしたり、元気玉を作る姿勢を取ったりすると良い(この姿勢は肩の健康にも良い)。




★腰を痛めやすい状況
背骨がニュートラルポジションからずれているときに力が加わると痛めやすい。腰を丸めてデッドリフトを行うのは危険。

特にせん断方向の負荷は腰を痛めやすい。例えばデッドリフトで前かがみになっている時には強いせん断方向の力が加わっている。従って、前かがみの姿勢を取るときは、背骨がニュートラルの姿勢を保つよう腹圧や体幹の筋肉でしっかりサポートしないといけない。ウェイトトレーニング以外でも、日常生活で前かがみになって落ちているものを拾おうとする時など、気をつけないと腰を痛めてしまうことがある。

横から見た背骨のイメージ図。間に椎間板が挟まって周囲を靭帯や筋肉で支える構造になっている。実際はゆるやかなS字カーブが人間の背骨のニュートラルポジションだけど、イメージ図なので直線にしている。



ただし四つん這いの状態だと、腰はフラットにするかやや丸めるくらいしたほうが耐えられる。四足歩行動物の背骨は人間のようなS字になっていない。人間もプランクや自転車競技(ロードレース)の際は四足歩行動物のような背骨のポジションにすると耐えられる。ただ自転車競技で腰痛になるということは、慢性的にこの姿勢になることには人間は耐えられないのだろう。

参考記事:プランクのやり方

ちなみに競輪の腰痛は反り腰が要因みたいだ。姿勢は四つん這いだけど力のかけかたは片脚ずつ全力でスクワットするような感じだからか。



★安全な身体の動かし方
大きな力を生み出す時、腰椎はしっかり固定してなるべく動かさない。膝関節、股関節、胸椎、肩関節などを動かす。

ウェイトトレーニングだと胸椎を動かす種目はあまりないと思う。スクワットやデッドリフトは胸椎を動かさない。ボールを投げる動作やゴルフスイングでは胸椎を動かす。

捻り動作は、おちんちんとヘソが同じ方向を向くよう意識すると腰をひねりにくいと思う。胴体の捻りストレッチや捻りを入れた腹筋運動も同様。ジムで腰椎を捻ってる人をよく見かけるけど、あれだと腰に悪い。捻るのは胸椎。



★股関節の可動域の重要性
股関節の可動域が狭いと、例えば床に落ちているものを拾う時や床からデッドリフトを行う時に、股関節の動きだけでは手が届かなくなるので、腰を丸めて手を伸ばそうとする。

股関節のストレッチや可動域を広げるエクササイズをやると良い。内旋・外旋のストレッチは、膝が悪い人はあまりアグレッシブにやらないように注意。

hip mobility で動画検索して良さそうなのやってみるのも良いと思う。



★胸椎の可動域と筋肉
捻る動きのあるスポーツをやっている人は、胸椎の可動域も広げると良い。

参考記事:胸椎の姿勢矯正

胸椎を伸展する筋肉は腰椎を守るのに重要なのでケアすると良い。

マッサージの代用として、胸椎を伸展する筋肉をフォームローラーでコロコロ圧迫する。
動画:Thoracic Erector Rolling
https://www.youtube.com/watch?v=2nJGvEi_0bw

テニスボール2個をマスキングテープでつなげて、ピンポイントで。
動画:Tennis Ball T Spine
https://www.youtube.com/watch?v=tDwG8-Q3c1g



★足首の可動域
足首の可動性は、股関節の可動性と腰椎の安定性に密接に関係する。

ヒールが高い靴を履くと、重心がつま先側に移動し、バランスを取るために腰を伸ばす筋肉が緊張し続ける。妊娠してお腹が大きくなり重心が前側に移動する女性が腰椎になりやすいのも同様の理由。

足首の背屈(つま先をスネに近づける動き)の可動域が狭いと、しゃがんだり、スクワットしたりするときに、足首が曲がらないので膝がつっぱった状態になり、股関節を大きく曲げて、それでも足りない可動域を腰を丸めることで補おうとする。

重心が前側になると、足が回内(土踏まずが潰れる方向の動き)し、それに抵抗するために股関節の外旋を行う筋肉が緊張し続け長期的には固く短くなり、股関節の可動域が狭くなる。外旋の筋肉が固いと股関節の内旋の可動域が小さくなり腰痛になりやすい。足首の可動域と同時に股関節の可動域も狭くならないようにする。

こんな感じでストレッチをする。膝を曲げた状態と、膝を伸ばした状態の両方をやると良い。



★体幹トレーニング
腰を守るためにどのような種類の体幹トレーニングが必要かは人によって異なる。

体幹トレーニングで負荷をかける方向性を3つに分けると、

・屈曲への抵抗
胴体が屈曲することに抵抗するトレーニング。例えばデッドリフトやスクワット。これらの種目を行っていれば、この方向への体幹トレーニングは特に追加でやる必要はない。

・伸展への抵抗
胴体が伸展することに抵抗するトレーニング。例えばプランクや腹筋ローラー。

・捻りへの抵抗
サイドブリッジ
動画:Side Bridge Wall Slide
https://www.youtube.com/watch?v=M6ajilgRpgA

ケーブルマシンを使っての捻り方向への負荷
動画:Pall of Press
https://www.youtube.com/watch?v=Ifwbhli7O90

ゴムチューブでも代用できる
動画:Pallof Press 2.0 - Cable Tight Rotation - New Abs/ Core Exercise  
https://www.youtube.com/watch?v=0UeD7T0U1gY

動画:Recoiled Med Ball Shotput
https://www.youtube.com/watch?v=Y3olv_RdWUg


体幹トレーニングの基本は、
1) その人にとってどの方向性の体幹トレーニングが必要か判断する。その時点の筋肉のバランスと、生活やスポーツで必要とされる体幹の安定を考える。
2) アイソメトリックで体幹を安定させる筋肉を意識して動員できるようにする。慣れたら筋力を強化する。
3) 体幹を安定させたまま、股関節など他の関節を大きく動かす。その人の生活やスポーツにとって必要な動作を、体幹を安定させたまま行えるよう身体に学習させる。



★片脚でのトレーニング
片脚でのトレーニングは以下のようなメリットがあるので、補助種目としてトレーニングに取り入れると良い。
- 日常生活やスポーツでの動作に近い。
- 背骨の姿勢をニュートラルに保ちやすい。
- 前かがみにならず上半身を立てたままのトレーニングがしやすい
- 股関節の内転と外転の筋肉がバランス良く鍛えられる。

種目は、ランジ、ブルガリアンスクワット、スプリットスクワット、片脚RDLなど。膝に不安がある場合はリバースランジがおすすめ。上半身があまり傾かない種目は、ゴブレットスクワットの要領でダンベルを持つと上半身の良い姿勢を保てるので、ダンベル一個で重量が足りる人にはおすすめ。


★ベンチプレスで腰が痛い場合
腰の反りすぎによる腰痛でベンチプレスの際に腰が痛い場合は、足の下にプレートか有酸素運動用の踏み台を置くと、足の位置が少し高くなって腰の反りが和らぐ。もしくはインクラインベンチプレスでも腰が反りにくくなる。
腰が痛いときに上半身のトレーニングを行うときは、ダンベルよりもバーベルのほうが楽。ダンベルはラックへの出し入れのときに腰にくる。



参考記事:
Lower Back Savers
https://www.t-nation.com/training/lower-back-savers

More Lower Back Savers
https://www.t-nation.com/training/more-lower-back-savers

Bulletproof That Back
https://www.t-nation.com/training/bulletproof-that-back


関連記事:
腰痛について1~基礎知識~(Low Back Disorders)

腰痛について2~予防~(Low Back Disorders)

腰痛について3~リハビリとトレーニング~(Low Back Disorders)

腰痛について4~推奨エクササイズ~(Low Back Disorders)

4/08/2017

なかなか筋肥大しない場合

以前の個人差の記事のフォローアップ的なもの。

関連記事:遺伝的な要因による筋トレ効果の違い

関連記事:トレーニング効果の個人差

Hardgainers? What We Know About Non-Responders
http://www.strongerbyscience.com/non-responders/?__s=xd85fbqhz9qszcjaruiv

この記事をネタ元にして、ちょこちょこ書き加えている


★背景
レジスタンストレーニングへの反応(主にストレングスと筋肥大)について調べた研究では、効果に大きな個人差が観察される。効果が出ない、もしくは効果がマイナス、つまり筋肥大の研究だったら筋肉が増えなかったり減ったりする人もいて、そういう人たちはNon-Respondersとカテゴライズされる。


★留意点
研究で用いられるトレーニングプロトコルはすべての人が同じもので、その人に適したものかわからない。またトレーニング以外の環境は揃えられていないので、トレーニング効果にネガティブな影響を及ぼすストレス、睡眠不足、栄養不足などの要因があった可能性もある。


★持久運動
持久運動では、Non-Respondersもトレーニング頻度を多くすることでトレーニング効果を得られ、実質的にはNon-Respondersはいないという研究が出ている。つまり持久運動ではトレーニングボリュームを増やせば、効果の大小に違いはあってもみんな効果を得られる。

Refuting the myth of non-response to exercise training: ‘non-responders’ do respond to higher dose of training
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/JP273480/full


★レジスタンストレーニング
ストレングスはほとんどの人がトレーニングで伸びるけど、筋肥大は反応が悪い人がけっこういる。
 

CSAは断面積のこと。PCSAは生理学的断面積 (筋繊維の走っている方向に対して垂直の断面積)。

Non-Respondersはトレーニング後に過度の炎症反応が起きていることを示す研究がある。

Cluster analysis reveals differential transcript profiles associated with resistance training-induced human skeletal muscle hypertrophy.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23632419

トレーニングに慣れていない人がトレーニングをやりすぎて筋肉に過度のダメージを負うと、筋肥大を抑制する可能性がある。筋肉は修復するだけで精一杯の状況になっていると考えられる。

Resistance training-induced changes in integrated myofibrillar protein synthesis are related to hypertrophy only after attenuation of muscle damage
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/JP272472/full

フォームや体型や重量からすると初心者の人が、同じ部位を何種目もやったり(ベンチプレス→インクラインベンチプレス→ダンベルフライ→ケーブルクロスオーバーみたいな)、ドロップセットやフォースドレップなどで追い込んでいるのを見かけるけど、たぶん逆効果だろう。

Non-Respondersは、トレーニング内容がその人のキャパシティを超えていて、筋肉へのダメージが大きすぎ、筋肥大反応を引き出せない、もしくは筋肉が減ってしまっている可能性がある。

Cluster analysis tests the importance of myogenic gene expression during myofiber hypertrophy in humans
http://jap.physiology.org/content/102/6/2232.long

この研究では、トレーニング経験の無い被験者に、ニーエクステンション、レッグプレス、スクワットを各種目3セット×8-12レップ、全セットを限界まで。これを週に3日。冷静に考えるとやりすぎですね。




★トレーニングボリュームと筋肥大の関係

イメージはこんな感じ。一定の水準までは、トレーニングボリュームを増やすと筋肥大効果も高まる。ボリュームを増やしすぎると筋肥大効果は低下し、やりすぎると筋肉が減る場合もある。

参考記事:筋肥大トレの推奨ボリューム


★対策
トレーニングしてもなかなか筋肥大効果を得られないなあという人は以下のような対処法を試してみると良いだろう。

・普段の生活で心がけること。たっぷり眠る。ストレス管理。維持カロリー以上食べる。タンパク質を十分に摂取する。

参考記事:ストレスについて-身体反応と管理方法-

参考記事:増量の考え方

参考記事:タンパク質摂取量の目安

・トレーニングボリュームを増やすことをすでに試しているのなら、一時的にトレーニングボリュームを減らすことを試してみる。とりあえず筋肉部位あたり週に4-5セット程度。トレーニングボリュームを減らすと疲労が抜けてトレーニング重量が上がることがあるけど、これは筋肥大が起きて重量が上がっているわけではないので混同しないよう注意する。数ヶ月単位で重量が伸びていくのなら、筋肥大がうまく起きていると考えられる。

・筋肉がダメージに耐えられるよう適応するまで、粘り強くトレーニングを続ける。

・トレーニング方法を変えてみる。高重量低レップで結果が出ないなら、中重量中レップや低重量高レップを試してみる。

・筋肉へのダメージを大きくするには、高強度のエキセントリック、とくにコンセントリックの1RM超えの重量で高ボリューム行う。筋肉へのダメージを抑えるには、このタイプのトレーニングを避ける、つまり高重量低レップでエキセントリックをゆっくりやるのは避け、ボリュームは控えめにすると良い。

・体感でトレーニングをやり過ぎかどうかの判断は、筋肉痛が何日間も続く、筋肉がジンジンと火照って寝苦しい、トレーニングのときに前回の疲れが抜けずだるいといった感じかな。このような状況のときはトレーニングを控えめにする。