6/29/2016

高タンパク食の健康への影響

[前提]
人間を対象とした長期のコントロール実験を行い実際に発病するかどうかを確認するのは予算的にも倫理的にも無理なので、長期の疫学調査と、短期の実験で病気と関連のある指標が変化するかを見て、それと動物実験の結果を見て、健康への影響を推測している。

明確な共通の定義がないが、高タンパク食というのはだいたい1.5 g/kg/day以上。


★腎臓
まとめ:既に腎臓に問題がある人は、高タンパク食を避けることで病状の進行を抑制できる。健康な腎臓の人は高タンパク食でも問題ないだろう。健康な腎臓は高タンパク食に適応できると思われるが、タンパク質摂取量を増やす場合は、一気に増やさず徐々に増やし段階的に適応させるのが良いだろう。

・既に腎臓に問題がある人
- 高タンパク食を避けることで病状の進行を抑制できる。これはほぼ確実。
- 日本腎臓学会のガイドラインだと、ステージ3以降(GFR60以下)でタンパク質の摂取量が制限される。
- 高タンパク食が悪影響を及ぼす経路の一つとして、機能低下した腎臓には酸負荷が問題になるようだ。

・健康な腎臓の人
- タンパク質の摂取量を増やすことが腎臓の仕事量を増やし、腎臓の機能を損なうという主張がある。しかし腎臓片方摘出後や妊娠時には腎臓の仕事量が増えるが、それで腎臓病になるわけではない。
- 高タンパク食では腎臓の仕事量の指標であるGFRが上がったり腎臓が肥大したりするが、これは高タンパク食への正常な適応だと思われる。
- アスリートは一般的に高タンパク食だが、アスリートが腎臓病になりやすいというエビデンスは無い。
- 脂質異常症、肥満、高血圧といった腎臓病になるリスクの高い人を対象とした高タンパク食ダイエットの実験でも腎機能の低下は報告されていない。
- 健康な腎臓の人においては、長期(疫学調査)でも短期でも高タンパク食による腎機能の低下を示した研究は無い。
- 比較的長期の動物実験でも、健康な動物が高タンパク食で腎臓を壊すという研究は無い。

・酸負荷
- 高タンパク食と高ナトリウム食は、腎臓の酸負荷を増やす。
- 病気(アシドーシス)と判断されるレベルまでいかなくても、体内のわずかなphの傾きでも健康に悪影響を与える可能性がある。
- 野菜や果物を十分に食べた方が良い。

・GFR:糸球体(Glomerular)の濾過(Filtration)速度(rate)
- 腎機能の指標。健康な腎臓は血液をどんどん濾過して要らないものを尿として排出できる。これが低下してくると濾過が進まなくなるので、体内に要らない物質が残り続け健康に悪影響が出る。
- 健康診断の腎機能の項目にあるeGFRは、血清クレアチニン値と年齢と性別から算出される推定のGFR。濾過機能に異常があるとクレアチニンの排出が滞り血清クレアチニン値が上昇するので、血清クレアチニン値からGFRを推定することができる。正確なGFRはイヌリンを使って計測されるが、一般的にはクレアチニン・クリアランス検査で測定する。


★腎臓結石
まとめ:おそらく体質によって結石の出来やすさが異なる。結石が出来やすい体質の人は高タンパク食を避けるのが安全だろう。

・結石が出来やすい体質の人に推奨される、結石の種類別食生活。
- シュウ酸カルシウム結石では、動物性タンパク質とシュウ酸とナトリウムを減らし、カルシウムの摂取量は維持し、クエン酸とカリウムの摂取量を増やす。
- リン酸カルシウム結石では、ナトリウムを減らす。
- 尿酸結石では、インスリン抵抗性が最大の問題なのでまず体重を減らす。野菜を多く食べる。あとプリン体を多く含む動物性タンパク質を減らす。
- どの種類の結石でも水分を十分に取った方が良い。


★骨
まとめ:高タンパク食の場合は、カルシウムとビタミンDを十分に摂取することで骨を強くするだろう。また果物と野菜を多く食べることも重要だろう。

- 高タンパク食では尿からのカルシウムの排出が増える。これが高タンパク食は骨を脆くするという主張につながっている。
- しかし、高タンパク食ではカルシウムの吸収率が上がることで尿からの排出量も増え、骨由来のカルシウムの排出が増えているわけではないことを示す研究がある。
- タンパク質には、骨基質の材料を提供する、カルシウム吸収率を上げる、IGF-1の生成を促進するといった骨の健康にプラスになる効果がある。IGF-1は骨芽細胞の活動を活発にし、腎臓でのリン酸塩の再吸収を促進する。
- 中和のために骨が分解され、カルシウムが放出されるという酸負荷による悪影響が仮にあるとしても、果物と野菜の摂取を増やすことで防ぐことが出来るだろう。(腎臓が健康なら酸は問題なく処理できると思うが)


★肝臓
まとめ:健康なら問題ないだろう。ただ絶食後に大量のタンパク質を摂取するのは避けたほうが良いだろう。

- 肝硬変ではタンパク質摂取量を減らす。
- マウス実験で48時間の絶食後に高タンパク食を与えたら肝臓にダメージが出た。


★大腸がん/心臓病/健康全般
まとめ:脂質の多い加工肉は食べ過ぎないようにする。果物と野菜を食べ、運動をするのも大事。

- タンパク質摂取量の多い人は、脂質の多い加工肉を多く食べ、野菜や果物はあまり食べず、運動せず、太っている傾向がある。疫学調査で高タンパク食が数々の健康リスクにつながるという結果が出るのは、これらの他のファクターが影響している可能性が高い。
- 脂質の少ない加工されていない肉には健康にポジティブな効果がある。



参考:
Controversies Surrounding High-Protein Diet Intake: Satiating Effect and Kidney and Bone Health
http://advances.nutrition.org/content/6/3/260.long

Dietary protein intake and renal function
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1262767/

Protein Controversies
http://www.bodyrecomposition.com/nutrition/protein-controversies.html/

Can eating too much protein be bad for you?
http://examine.com/faq/can-eating-too-much-protein-be-bad-for-you/

知ればなるほど! CKD患者の電解質・酸塩基平衡
http://www.kayexalate.jp/report/pdf/kayexalate_REPORT07.pdf

慢性腎臓病 生活・食事指導マニュアル 〜 栄養指導実践編
http://www.jsn.or.jp/guideline/pdf/H25_Life_Diet_guidance_manual.pdf

Nutritional aspects of stone disease
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12474643

Optimum Nutrition for Kidney Stone Disease
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1548559512002212

Self-Fluid Management in Prevention of Kidney Stones
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26166074


関連記事:
タンパク質摂取量の目安

6/22/2016

レップ数による筋トレ効果の違い

Neither load nor systemic hormones determine resistance training-mediated hypertrophy or strength gains in resistance-trained young men
http://jap.physiology.org/content/early/2016/05/09/japplphysiol.00154.2016

読みにくいけど全文のPDF。図表は最後の方に付いている。
http://jap.physiology.org/content/jap/early/2016/05/09/japplphysiol.00154.2016.full.pdf


8-12レップと20-25レップのレジスタンストレーニングを比較して、効果に違いがあるか調べた研究。以前にも同様の研究があるけど、この研究のデザインが良いのと、結果から新たな知見が得られたので紹介。今年の5月に出た研究。

この研究の強みは、トレーニング歴有りの人を対象していて、被験者数が多いこと。レジスタンストレーニングに対する筋肥大の反応は個人差が大きいので、被験者数が少ないと単なる個人差が比較グループ間の結果に反映される可能性が高まる。

それとこの研究では、1RM、筋繊維のタイプ別の肥大、DXAによる除脂肪体重変動、テストステロンや成長ホルモンやIGF-1などの各種ホルモンと筋肥大・筋力との相関と包括的に調べている。


★被験者
若い男性 平均は年齢23歳、体重86kg、身長181cm
計49名
トレーニング歴有り


★グループ分け
低レップ高負荷グループ
- 8-12レップ×3セット
- 重量 75-90% 1RM
- 各セット限界まで行う
高レップ低負荷グループ
- 20-25レップ×3セット
- 重量 30-50% 1RM
- 各セット限界まで行う


★トレーニングプログラム
週4回 12週間

月曜と木曜
- インクライン・レッグプレス&シーテッドロウ(1分休憩で交互に)
- バーベルベンチプレス&レッグカール(1分休憩で交互に)
- プランク
火曜と金曜
- マシン・ショルダープレス&アームカール(1分休憩で交互に)
- トライセップスエクステンション&ワイドグリッププルダウン(1分休憩で交互に)
- マシン・ニーエクステンション


★1RM測定種目
インクライン・レッグプレス
バーベルベンチプレス
マシン・ニーエクステンション
マシン・ショルダープレス


★栄養
- ホエイプロテインパウダー30gを1日2回摂取。トレーニング日はトレーニング直後と寝る前に。休養日は朝と寝る前。
- あとの食事は各自自由にだけど、自己報告ベースではマクロ栄養素とカロリーバランスは両グループに有意差なし


★筋繊維分析
- 外側広筋から採取
- 筋繊維のタイプ別割合と断面積を測定


★除脂肪体重
- DXAで測定


★血中ホルモン
- 運動前と運動後0,15,30,60分の血液採取
- 分析対象のホルモンは、テストステロン、遊離テストステロン、コルチゾール、ジヒドロテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、黄体形成ホルモン、IGF-1、遊離IGF-1、乳酸塩、成長ホルモン


★結果
1RMは両グループとも全種目で伸びた。インクライン・レッグプレス、マシン・ニーエクステンション、マシン・ショルダープレスは両グループで伸びに有意差なし。バーベルベンチプレスは低レップの方が伸び、それぞれ平均+14kgと+9kg。

筋繊維タイプ別の肥大は、グループ間で有意差なし。またタイプⅠタイプⅡで肥大の程度に有意差なし。タイプⅡxからタイプⅡaへのシフトがわずかに起こっている。4%くらい。

除脂肪体重は1kg強増加で両グループに有意差なし。

運動後の血中の各種ホルモンの一時的な上昇は筋肥大と筋力に影響なし。

セッション当たりのトレーニングボリューム(レップ数×重量の合計)は、低レップ高負荷グループの方が大幅に少ない。高レップ低負荷グループの6割ぐらいのボリューム。


★結論
各セットを限界までやれば、重量が軽くても、重い重量と同程度に肥大する。筋力の伸びもベンチプレス以外は同程度。ベンチプレス1RMの違いは神経系の適応の問題と思われる。運動後の一時なホルモンレベルの上昇は、筋肥大と筋力の面では気にしなくて良い。これは過去の研究結果とも一致している。



☆コメント
論旨とは関係ないがちょっと気になったのが、低レップ高負荷グループの上限重量90%1RM。これだと8レップも出来ないと思うが・・・1RM測定がうまくいかなかった人がいたのだろうか。実験では各セットのレップ数が常に8-12になるように重量を調整したと書かれているので最低8レップこなしたのは間違いないが。80%のミスタイプかと思ったけど、論文中の全箇所で90%と書かれているのでミスタイプでは無いようだ。

筋繊維のタイプ別の肥大は、タイプⅠとタイプⅡが両グループで同程度肥大した。高レップ低負荷でも遅筋が優先的に肥大しないという結果になった。レップレンジと筋繊維タイプ別の肥大は研究によって結果がまちまちで、高レップ低負荷で遅筋が優先的に肥大したという研究もある。現時点でははっきりとした結論は出ないと思うけど、とりあえず肥大目的ではレップレンジはあまり気にせず、色々なレップレンジでやってみるのが良いと思う。競技パフォーマンスについては、そのレップレンジへの適応により大きな差が出るので、持久力目的なら高レップ、ストレングス目的なら低レップ(5レップ以下)が良いだろう。

1RM測定種目で唯一のフリーウェイトであるベンチプレスの伸びが、低レップ高負荷グループの方が良かった。これは高レップ低負荷ではバーの保持や姿勢の維持に使う細かい筋肉が先に疲労して、メインターゲットの筋肉を追い込めなかったからだと思う。

以前のSchoenfeld他の研究(低負荷トレーニングと高負荷トレーニング)でも、スクワットとベンチプレスの伸びに差があって、これは神経系の適応の違いによるものだろう思われていた。しかし今回の研究ではマシン種目の1RMは低レップと高レップで伸びが変わらなかったので、神経系の適応の問題ではなく、実際にはフリーウェイトのコンパウンド種目では筋肥大に差が出ていて、測定精度の問題で筋肥大測定ではその差を検出できていない可能性がある。

今回の研究では脚部の筋繊維を採取して肥大を調べているけど、他の部分はDXAで除脂肪体重の変動しか調べていない。大胸筋や上腕三頭筋の肥大に差が出ている可能性がある。論文では神経系の適応の違いによりベンチプレスの1RMに差がでたと推測しているけど、私の推測では高レップのベンチプレスではバーの保持や姿勢の維持に使う細かい筋肉が先に疲労して、大胸筋や上腕三頭筋を追い込めていなかったためこれらの筋肉の肥大に差がでた。

この実験では3週間おきに1RMの測定を行ったのも、ベンチプレスの1RMの差が神経系の適応によるものではないと考える根拠になる。 1RMの測定では低い負荷から徐々に重さを上げていき、どこで挙がらなくなるのか測定するので、80% 1RM以上の挙上を数回行うことになる。3週間おきにこの強度の挙上を行っていたなら、両グループ間の神経系の適応にはほぼ差がなくなっていてもおかしくない。


☆レップレンジの推奨
ターゲットの筋肉を安全に追い込むことができ、かつ十分なボリュームを行えるレップレンジが良い。一般的には、スクワットやベンチプレスなどフリーウェイトのコンパウンド種目は6-12レップがやりやすいと思う。大筋群のマシン、レッグプレスなどもこのくらいがやりやすいだろう。高レップ低負荷は精神的にも肉体的にも苦しいので、効果が同程度なら楽な方をやる。細かい筋肉のアイソレートは個人差と種目差があるだろうし、やりやすいレップレンジで。例えば私はサイドレイズは15-20レップくらいがやりやすいです。

トレーニングボリュームについては、以前の記事の数字(筋肥大トレの推奨ボリューム)「1部位1セッションあたり合計40-70レップ」は、1セット6-12レップくらいのレップレンジが前提になっている。従って、高レップをやる場合は、1セット6-12レップでやった場合にこのボリュームを達成するために何セット必要か決めてから、そのセット数で高レップをやると良い。例えば、ベンチプレス10レップ×3セットとトライセップスエクステンション10レップ×3セットで上腕三頭筋が目標ボリュームの範囲内になり、トライセップスエクステンションを高レップにする場合は20-25レップ×3セットにする。

1-5レップのレップレンジは、筋肥大目的だとボリューム達成のためにセット数が多くなって時間がかかるし、怪我のリスクも上がるので、メインのトレーニングにはしない方が良いと思う。ただ、神経系の適応で高重量に慣れておくと6-12レップでも重量が伸びやすくなり、より強度の高いトレーニングを行えるので、週に1回1-5レップの日を入れたり、セットの最初に1-5レップをやってリバースピラミッドにしたり、ピリオダイゼーションで1-5レップ期間を入れたりすると良いと思う。

あと別のテーマになるけど、限界(ウェイトが挙がらなくなる)までやらず、限界から1レップか2レップ手前でも十分な効果は得られる。むしろ全トレーニン グ日で全セット限界までやるとそのトレーニングセッション中の疲労も、長期的な疲労もキツくなり、トータルのトレーニングボリュームが減って逆効果になる と思う。

6/15/2016

スクワットとデッドリフトは腹筋種目なのか

Why Squats and Deadlifts Are Bad Abs Exercises
http://www.progressivefitness.net/blog/why-squats-and-deadlifts-arent-good-abs-exercises

ボディビルなど見た目を競う競技での腹筋の鍛え方議論。スクワットやデッドリフトをやり込めば十分に腹筋は鍛えられるという主張に対して異を唱えている。

ここでの腹筋は、腹直筋と外腹斜筋。見せる用に重要だから。


★背骨にかかるモーメント
脊柱起立筋は、背骨の伸展方向のモーメントを発生させる。これによりバーベル荷重によって発生する曲げモーメントに抵抗して背骨の姿勢をニュートラルに保つことができる。



腹筋は、背骨の屈曲方向のモーメントを発生させる。クランチで腹筋を収縮させれば背中が丸まる。デッドリフトやスクワットの際に腹筋を強く収縮させると、バーベル荷重による背骨の屈曲方向のモーメントに、腹筋によるモーメントが加わる。従って背骨の姿勢をニュートラルに保つために必要な脊柱起立筋の力は大きくなり、脊柱起立筋は疲れやすくなってしまう。それに加えて背骨の圧縮方向の力が強くなるので、背骨への負荷が増し怪我のリスクが高まる。


★筋電計での腹筋の活動計測
・スクワット
- 腹直筋の活動は最大出力の約10%かそれ以下、外腹斜筋は約20%かそれ以下。
・デッドリフト
- 腹直筋と外腹斜筋は最大出力の60%弱という研究があるが、最大出力の基準の取り方が良くない。
- 他の研究では75%1RMで外腹斜筋が最大出力の15%、腹直筋が最大出力の4-5%。

筋電計による研究では、スクワットとデッドリフトで腹筋が強く収縮しているというエビデンスは無い。


★腹圧
- 背骨の伸展方向のモーメントを作り、脊柱起立筋を補助する。(下の方にコメントを書いたがこれは多分間違い)
- 腹直筋や外腹斜筋を強く収縮させなくても腹圧は高まる。
- この筆者の推測だと、横隔膜が収縮しそれにより腹横筋が引っ張られることによって、腹圧が作られる。


★腹筋のトレーニング
- 腹筋を発達させるには腹筋にフォーカスしたトレーニングを行う。
- 推奨例としてRKCプランクが挙げられている。



☆コメント
デッドリフトもスクワットも体幹の使い方を身につける上では非常に良いエクササイズだと思う。だが、この筆者の言うように、デッドリフトやスクワットだけだと腹筋には強い負荷がかからないだろう。デッドリフトとスクワットをやったあとに腹筋マシンでどれくらいこなせるか試してみたけど、10RMの重さが8レップになる程度だった。

腹筋の鍛え方の基本は、なるべく背骨をニュートラルの姿勢に保ち、外部からの力による伸展モーメントに対抗する形で腹筋を強く収縮させること。背骨をグネグネ曲げたり捻ったりしながら腹筋を収縮させると背骨を痛めやすい。背骨が最も負荷に耐えられるのはニュートラルの姿勢。プランクも良いし、以下の記事に紹介したカールアップも良い。

関連記事:腰痛について4~推奨エクササイズ~(Low Back Disorders)

腹圧が背骨の伸展方向のモーメントを作り、脊柱起立筋を補助するという点については間違いだと思う。私の考える腹圧の役割は、腹圧を高めることで体内に未開封のペットボトルのように固い土台を作り出し、せん断力による背骨(主に腰椎)のズレを防ぐこと。背骨への脊柱起立筋の付き方からするとせん断力の反力になる方向の力は弱いので、腹圧で土台を作って腰椎のズレを防ぐ仕組みだと思う。背骨を片持ち梁と考えるとわかりやすい。片持ち梁の下に固い土台を置いてやれば、梁がせん断されることはなくなる



デッドリフトやスクワットとは逆に、立った状態で何かを押す、例えばエンストした車を押すようなケースを考えてみる。このケースでは、腹筋を収縮させ屈曲方向のモーメントを発生させることで、足腰を踏ん張り前へ押す力から発生する伸展モーメントと均衡をとり、背骨の姿勢を保つ。この場合でも腹圧は高まり背骨がズレないようにしている。もし腹圧が伸展方向のモーメントを発生させることで背骨を安定させるのなら、押す場合に腹圧を高めるのは余計な動作になるので、腹圧は高まらないはずである。

6/11/2016

遺伝的な要因による筋トレ効果の違い

Genetics and Strength Training: Just How Different Are We?

遺伝的な要因によって、筋トレの効果にどのような個人差が出るのか。この記事をネタに筋トレの効果の個人差について書いてみたい。

ここでの遺伝的な要因とは、生まれつきの遺伝子と幼児期の発達過程で決まり大人になったらほぼ変えられないもののこと。


全く同じレジスタンストレーニングを行っても、筋肥大への効果にはかなりの個人差がある。これを示す研究はいくつもあって、

Variability in muscle size and strength gain after unilateral resistance training
https://www.researchgate.net/publication/7794282_Variability_in_muscle_size_and_strength_gain_after_unilateral_resistance_training
利き腕じゃない方の上腕二頭筋を12週間トレーニング。18-40歳の男女。被験者数500人超え。
レップ数は期間後半になるにつれて低レップに:12レップ→8レップ→6レップ

筋肥大にはかなり個人差がある。年齢と筋肥大の程度には相関が見られなかったので、(年齢と相関する)テストステロンレベルの差は筋肥大の個人差に重要な影響を及ぼしていないようだと論文では述べられている。



ただ、年齢と筋肥大に相関が見られなかったというのは、加齢とともに筋量が衰えていてトレーニング開始初期はマッスルメモリーで若者と同等の筋肥大になっていた可能性もある。トレーニングを継続していくと、年齢による差(テストステロンレベルによる差)が出てくるかもしれない。既存の研究は、トレーニング歴のない人を対象とした研究は被験者の年齢は様々だが、トレーニング歴のある人を対象とした研究はだいたいが大学の運動部員や20代のアスリート、つまり若者のみ。なのでマッスルメモリーの影響はよくわからない。

個人差をもたらしているのはレセプターなどの局所的な反応システムなのかもしれない。上半身と下半身の発達のしやすさには差があるし、女性は一般的には上半身の骨格が華奢で、上の研究でも示されているように上半身の筋肉が発達しにくい。

High responders to resistance exercise training demonstrate differential regulation of skeletal muscle microRNA expression
http://jap.physiology.org/content/110/2/309.long
この研究では、トレーニングへの反応の良いグループと悪いグループのmiRNAの違いを調べていて、miR-378の変化が除脂肪体重の変化と相関しているという結果に。
レップレンジは6-12レップ程度。トレーニングへの反応の良いグループと悪いグループでは、タイプⅠ・Ⅱ筋繊維の構成に違いはなかった



Regulation of IGF -1 signaling by microRNAs
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4292735/
miR-378は心筋細胞のIGF-1シグナリングに関わるらしい。心肥大のメカニズムの文脈で研究されている。


思春期にはテストステロンレベルやIGF-1レベルが急上昇して、これが骨格や筋肉など身体の成長を促進する。人によってどの程度発達するかは、ホルモンレベルと局所的な反応システムの感度が影響してくるのだろう。成人後もレセプターか何かの局所的な反応システムの感度が筋肥大の個人差に影響を与えているのではないだろうか。思春期にガッチリした骨格になる人は、ホルモンの骨と筋肉への反応が良くて、成人後も筋肥大が起こりやすいのかもしれない。ちなみにAGAもレセプターの問題・・・。

Free testosterone is a positive, whereas free estradiol is a negative, predictor of cortical bone size in young Swedish men: the GOOD study.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16007330
テストステロンレベルと骨の太さは相関する、という研究もある。


既存の研究でわかっていることは、6-12RM、3セット、週2回といった一般的なレジスタンストレーニングプログラムに対する反応が悪い人がいるということだけ。反応が悪い人も他のスタイルのレジスタンストレーニングプログラムで良い反応が出る可能性は残っている。

A genetic-based algorithm for personalized resistance-training
https://www.researchgate.net/publication/299415724_A_genetic-based_algorithm_for_personalized_resistance-training
この研究では遺伝子を調べて、パワー型(速筋型)と持久型(遅筋型)にグループを分け、それぞれグループをまた2つに分けて、高強度トレと低強度トレを行った。
高強度:10セット×2レップ
低強度:3セット×10レップ(2週間)→3セット×15レップ(3週間)→3セット×20レップ(3週間)
種目は、デッドリフト、プルダウン、フロントスクワット、フラットダンベルプレス、踏み台登り、垂直跳び。

得意と思われるレップレンジでトレーニングを行ったグループは、「パワー型×高強度トレ」「持久型×低強度トレ」。
苦手と思われるレップレンジでトレーニングを行ったグループは、「パワー型×低強度トレ」「持久型×高強度トレ」。

遺伝子タイプとトレーニングタイプを一致させた「パワー型×高強度トレ」「持久型×低強度トレ」のグループは、CMJ(腕の反動を使わない垂直跳び)も3分間自転車こぎも伸びが良かった。下の表の赤丸部分がタイプ一致トレ。

被験者はアスリートなので神経系は適応済みだろうから、CMJの伸びを筋肥大によるものと仮定すると、パワー型の人は低ップ、持久型の人は高レップのトレが良いということになる。

欲を言えば、1-3レップ、6-12レップ、15-20レップの三つのレンジでやって、通常のレジスタンストレーニングのレップレンジに比べて、タイプ一致トレがより高い効果を示すのかやってみて欲しかった。

パワー型が1-3レップと6-12レップで同等の効果がでるなら、6-12レップを選択する。持久型が、6-12レップと15-20レップで同等の効果がでるなら、6-12レップを選択する。高強度トレは恒常的に行うには時間効率面でも怪我リスク面でも非現実的だし、低強度トレはコンパウンド種目を20レップとかちょっとやりたくないし・・・。

筋肥大を目的とすると、パワー型は一般的なレジスタンストレーニングのレップレンジ6-12レップの下限近くで、持久型は上限近くで行うのが良い目安かも。色々試してみて、自分が筋肉に負荷をかけやすいレップ数で行うのが良いと思う。部位によってやりやすいレップ数も違うだろうし。私は持久型の筋肉なんだけど、3レップ以下だと筋肉に余力があるはずなのに動かなくなって負荷をかけにくく、高レップだと心肺とメンタルがきつくなってもまだ筋肉が動く。

パワー型かどうかは、中高生の時にやったスポーツテストの垂直跳びの記録で大体わかると思う。高く跳べた人はパワー型。


遺伝的な筋肉の性質に一致したトレーニングを行えばより良い効果が出る可能性はある。とは言うものの、骨格と筋肉量の上限の関係はソリッドに確立されていて、骨格がデカイほど筋肉量の上限も大きい。

YOUR Drug-Free Muscle and Strength Potential: Part 1
http://strengtheory.com/your-drug-free-muscle-and-strength-potential-part-1/

遺伝的限界まで鍛え続けた場合、多くの男性は、「筋肉:骨=5:1(重量比)」になる。女性は4:1。

恵まれた体質の男性だと、5.5:1くらいまでは筋肉がつくようだ。この比率を超えて筋肉がついている場合は、ほぼ100%薬物を使っている。

骨の総重量を計測するのは非常に手間がかかる。手首と足首の周径が骨の総重量とだいたい比例するので、手首と足首の太さを測ることで、限界まで鍛えた場合にどれくらいの除脂肪体重に達することが出来るか推測することが出来る。

上のリンク先の Casey Butt’s Maximum Muscular Potential Model のところに、自分の数値を入力するとマッスルボディの遺伝的な限界の推測値を出してくれるカルキュレーターがある。

単位がインチでよければ、オリジナルのカルキュレーターで。


Endocrine Crosstalk Between Muscle and Bone
骨と筋肉のコンディションは密接に関わっている。共通の遺伝子が影響するのか(例えばミオスタチン異常では筋肥大だけでなく骨の密度と強度が高くなる)、それぞれの細胞から分泌されるサイトカインにより情報交換を行っているのか

まあ普通に考えて、骨格のキャパシティを上回る筋肉量がついたら骨格が壊れる可能性があるし、筋肉量を大幅に上回る骨格を持ったら重さと大きさから動作が困難になるだろうしで、骨格と筋肉は互いに効率よいサイズ・重さに発達するよう進化しているのだろう。そして遺伝子や内分泌系などを使って私達の体内で調整してくれているのだろう。

ガッシリ体型の方が同じトレーニングをしても筋肥大の反応が良いという研究もある。

Effect of body build on weight-training-induced adaptations in body composition and muscular strength.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8201909
体脂肪量に対して除脂肪体重を多く持っているガッシリ体型と、その逆のスレンダー体型に分けて12週間のレジスタンストレーニング。ガッシリ体型グループは除脂肪体重が増えたが、スレンダー体型グループの除脂肪体重はトレーニング前と有意差なしという結果に。切ない。


骨太タイプはレジスタンストレーニングに対する筋肥大の反応も良く、骨細タイプは反応が悪いんじゃないかと個人的には推測している。これは私自身が骨細なので言い訳探しのバイアスがあると思われるが・・・。


反応が悪い人は筋肥大速度の上限が低いのか、それともリターンが低いのか。例えば単純化して考えると、100のトレーニングをして、反応が良い人は100の筋肥大が起きて、反応が悪い人は50の筋肥大が起きたとする。トレーニング量を半分に減らすと、反応が良い人は50の筋肥大が起きるが、反応が悪い人は実は50が上限でこっちも50の筋肥大が起きるかもしれない。もしくは、トレーニング量に比例してリターンが下がり25の筋肥大が起きるかもしれない。上限説に従うなら、反応が悪い人はハードにトレーニングしてもリターンが限られているのでまったりやった方が効率が良い。リターンが低い説に従うなら、人並みのリターンを得るためには反応が悪い人はよりハードにトレーニングする必要がある。どっちだろう。


あとはストレスもトレーニング効果に影響がある。体調不良や仕事や家族や友人関係などで強いストレスを感じる時は、トレーニングは軽めするか休んだ方が良い。トレーニングボリュームはかなり減らしても、筋肉は維持できる(関連:筋力と筋量の維持に必要なトレーニング量 )。コントロール可能なものはコントロールすれば良いし、コントロールできないものはやり過ごせばよい。

Self-rated mental stress and exercise training response in healthy subjects.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22416235
これは持久能力についての実験だけど、持久運動トレーニングへの反応では、ストレスが軽い人の方が持久能力の伸びが高かった。

それとトレーニングの結果がなかなか出なくて焦るとこれもストレスになる。生まれつきの差もかなりあるだろうから、他人と比較せず、一歩一歩着実に進めていくのが良いだろう。生まれつきの差は、トレーニングをサボる言い訳にするのではなくて、自分の体質を理解し、ネガティブに考えずストレスを軽くし、前向きにトレーニング取り組むことの理由付けにすると良い。競技やメディアやネットで目立つ人は、恵まれた体質の人が選びぬかれているわけで、彼らのパフォーマンスを基準にしない方が良い。

6/06/2016

カーフが発達しにくい理由とトレーニング方法

Training the Calves
http://www.bodyrecomposition.com/muscle-gain/training-the-calves.html/


なぜカーフは発達しにくいのか。その理由について、生まれつきの問題とトレーニング方法の問題が書かれている。その後で推奨トレーニング方法も。


★生まれつきの問題
◇カーフを構成する主な筋肉
- 腓腹筋: 速筋の割合が高め。二関節筋で膝を曲げる動作にも寄与する。
- ヒラメ筋: 遅筋主体。

◇筋肉の長さ
黒人スプリンターのようにアキレス腱が長く筋肉が短い場合、カーフはデカくなる余地があまり無い。

◇アンドロゲンレセプターの分布
- アンドロゲンレセプターはテストステロン等が結合し、その効果の一つはタンパク質の合成を促すこと。一般的に男性は上半身ではアンドロゲンレセプターの分布密度が高く、下半身では低い。特に僧帽筋と肩まわりの密度が高いので、ステロイドユーザーはその部分が顕著に発達する。
- カーフは下半身のさらに下の方になるので、生まれつきアンドロゲンレセプターの密度が低い傾向がある。そのためトレーニングを行ってもなかなか発達しない。
- 現代のボディビルダーが昔のボディビルダーよりも脚部が発達しているのは、大量の薬物投与によりアンドロゲンレセプターが下半身で増えて脚部が発達しやすくなっている・・・という話もある。
- あくまで経験ベースであるが、下半身のアンドロゲンレセプターの密度が高くて、上半身の密度が低いように見える男性もいる。そのような人は下半身は発達しやすいが、上半身が発達しにくい。


★トレーニング方法の問題
カーフレイズを早いテンポでビヨンビヨンやると、アキレス腱に弾性エネルギーが蓄えられ、踵を上げる力のかなりの部分にその弾性エネルギーを使う。こうすると筋肉があまり力を発揮せずカーフに刺激が入らない。ゴムを引っ張って戻すのと同じ。腱は疲れないので、ビヨンビヨンとカーフレイズをやると筋肉が疲れるまでかなりの回数をやることになる。


★推奨トレーニング方法
以下のメニューを週に2回~5日に1回。他の筋肉と同じように漸進的過負荷で行う。慣れていないと筋肉痛がひどくなるかもしれないので最初の数週間は追い込まない方が良い。

1) 膝を伸ばした状態で行う
- 腓腹筋とヒラメ筋の両方が使われる。腓腹筋を主にターゲット。
- 5レップ×5セット
- 高重量
- ボトムで2秒静止→一気に上げる→トップで1秒カーフの筋肉を絞り上げる→3秒かけて下ろす
- セット間休憩3分
- 下ろすときはカーフをストレッチしすぎないように注意

2) 膝を曲げた状態で行う
- 膝を曲げると腓腹筋が関与しにくくなる。遅筋主体のヒラメ筋をターゲット。
- 8-10レップ×3-4セット
- ボトムで2秒静止→2秒かけて上げる→トップで少しの間静止→2秒かけて下ろす
- セット間休憩60-90秒



☆感想
腓腹筋はそれほど速筋優位なわけではないからレップレンジは10RM前後でも良いと思う。あと最近の研究30%1RMで遅筋が優先的に肥大したというのがあるので、ヒラメ筋のレップレンジももっと高めで良いかもしれない。
アフリカ系のように暑い地域の人は放熱に有利なように膝下が細くて、北ヨーロッパ系のように寒い地域の人は熱を蓄えやすいように膝下が太いという話を読んだことがある(ベルクマンの法則と同じ)。個人的には黒人スプリンターのカーフがかっこいい。機能美を感じる。
競技のためのトレーニングという観点では、ボディビル以外ではカーフを上記の方法で鍛えない方が良いと思う。大部分のスポーツは弾性エネルギーを活用して効率的な動作を行ったが良いし、末端部を重くすると余計なモーメントが増えて素早い動作や持久力に悪影響が出る。

6/04/2016

部位あたり週に何回トレーニングすべきか

How Many Times Should You Train a Muscle Each Week?
http://www.lookgreatnaked.com/blog/how-many-times-should-you-train-a-muscle-each-week/

Effects of Resistance Training Frequency on Measures of Muscle Hypertrophy: A Systematic Review and Meta-Analysis
https://www.researchgate.net/publication/301578131_Effects_of_Resistance_Training_Frequency_on_Measures_of_Muscle_Hypertrophy_A_Systematic_Review_and_Meta-Analysis


筋肉の部位あたりのトレーニング頻度が筋肥大に与える影響についてのSchoenfeld他のメタアナリシス研究。今年の4月のものなので出来立てほやほや。

研究結果では、部位あたり週1回でもそれなりに筋肥大するが、部位あたり週1回よりも週2回の方が筋肥大効果が高い。週3回がさらに良いかは不明。

週ベースのトレーニングボリュームは同じ。コメント欄によると、正確には7つの研究のうち5つがボリュームが等しくて、あと2つはボリュームが違うが、Schoenfeldの見解ではこれが解析結果を大きく変えるとは思わないとのこと。

解析対象になっているのは6-12週の比較的短い期間の研究なので、高いトレーニング頻度で短期的には良い結果が出ても、オーバートレーニングになった場合は長期的にはパフォーマンスが落ちる可能性がある。頻度を高くする場合は、トレーニングの強度・頻度・ボリュームを減らすデロード期間を組み込んだピリオダイゼーションが安全だろう。

あとどのトレーニング頻度が良い結果をもたらすかは個人差がある。自分の身体の反応を見ながら行うのが良い。


☆感想
この研究では週ベースのトレーニングボリュームが同じなら、週1回よりも週2回に分けた方が筋肥大効果が高いという結果が示された。ただどの程度のトレーニング頻度が最適かははっきりとはわからない。また筋量や年齢や回復力などによって変わってくるかもしれないし、筋肉の部位(もしくはタイプⅠ・Ⅱ筋繊維の構成割合)によっても違うかもしれない。この研究では解析対象となる研究の数が少ないため、トレーニング歴や年齢で分けずに解析している。

とりあえず現場で効果の出ている一般的なトレーニングプログラムを元に、トレーニングに割ける時間と労力を勘案し、自分の身体の反応を見ながらプログラムを組み立てるのが良いと思う。今回の研究の結果を反映させると、例えば週2回トレーニング日を作れるなら、下半身の日と上半身の日に分けるよりも、2日とも全身をトレーニングした方が筋肥大効果が高くなると考えられる。

コンパウンド種目を主体にする場合は、部位あたり週2回~5日に1回が良いだろう。スクワットやデッドリフトなど全身への負荷が高い種目をやり過ぎると、中枢神経系の疲労によるオーバートレーニングになりやすいかもしれないので、ルーマニアンデッドリフトやレッグプレスやレッグエクステンションやランジなど補助トレーニングを上手く活用して、中枢神経系の疲労を抑えつつ局所的に筋肉に負荷をかけると良いと思う。



関連記事:
筋肥大トレの推奨ボリューム  

筋肥大トレーニングプログラムにおけるトレードオフ

6/03/2016

筋力と筋量の維持に必要なトレーニング量

忙しかったりストレスがきつかったりでトレーニングが思うように行えない時がある。そのような場合は、どの程度のトレーニングを行えば筋力と筋量を維持できるのか。

筋肉の維持に必要なトレーニング量の研究はいくつかあるけど、この研究は年齢の影響、筋力(1RM)、筋肥大(生体組織診断による筋繊維断面積とDXAによる筋肉量測定)と包括的に調べていて、かつ被験者数が多く実験期間が長い。

Exercise Dosing to Retain Resistance Training Adaptations in Young and Older Adults


★被験者
60-75歳グループと20-35歳グループで計70名(実験を完遂したのは56名)。肥満ではない。過去5年にトレーニング歴無し。


★実験方法
・第一段階
全員が以下のレジスタンストレーニングプログラムを16週間実施。
- トレーニング日は週3回。
- トレーニング種目はニーエクステンション、レッグプレス、スクワット。
- 各トレーニング日に上記3種目を重量75-80%1RMで8-12レップ×3セット。

・第二段階
高齢者グループと若者グループをそれぞれ以下の3グループに分ける。期間は32週間。
1) トレーニング無し
2) トレーニングボリューム1/3:トレーニング日を週に1回に減らす。トレーニング日の内容は第一段階と同じ。
3) トレーニングボリューム1/9:トレーニング日を週に1回に減らす。各種目1セットに減らす。


★測定項目
- 1RM
- TLM(Thigh lean mass)。体脂肪と骨を除いた太腿の質量。DXAで測定。
- 外側広筋の筋繊維のタイプ別の断面積と構成割合


★結果
・第一段階
高齢者グループも若者グループも、筋力の向上と筋肥大が見られた。若者グループの方がより筋肥大し、それは主にタイプⅡ筋繊維の肥大によるものだった。タイプⅡ筋繊維の割合はグループ間で差はなく、割合変化(タイプⅡx→タイプⅡaへのシフト)も差がなかった。

・第二段階
高齢者グループ
- トレーニング無し:筋量はトレーニング前のレベルに戻った。筋力は維持。
- トレーニングボリューム1/9:筋量低下。筋力は維持。
- トレーニングボリューム1/3:筋量低下。筋力は維持。

若者グループ
- トレーニング無し:筋量はトレーニング前のレベルに戻った。筋力は維持。
- トレーニングボリューム1/9:筋量は概ね維持。筋力は上昇。
- トレーニングボリューム1/3:緩やかではあるが筋肥大と筋力の上昇が続いた。

※他の研究でもレジスタンストレーニングで獲得した筋力(神経系の適応などによる)は、何もしなくても数ヶ月間は維持されることが示されている。ただ、この研究では4-8週間ごとに行った1RM測定が筋力の維持に寄与した可能性もある。



レジスタンストレーニングへの適応として起こるタイプⅡ筋繊維の割合(ⅡaとⅡx)の変化は、高齢者グループと若者グループで同じ。
- トレーニング無し:割合は元に戻った。
- トレーニングボリューム1/9:割合はややリバーサルした。
- トレーニングボリューム1/3:割合は維持。


★結論
若い人はトレーニングボリュームを1/3に減らしても筋量と筋力を数ヶ月は維持・向上できるようだ。高齢になるとボリューム1/3でも筋量の維持には足りないが、筋力の維持はできる。高齢者の筋力の維持は転倒予防につながる。筋量は糖や脂質の代謝などに影響するので、筋量もなるべく維持した方が健康には良い。


☆コメント
筋肥大に必要なトレーニングボリュームに比べて、筋量と筋力の維持はかなり少ないボリュームで可能。各人の状況によって必要なトレーニングボリュームは変わってくると思われる。自分の身体の反応を見ながら調整するのが良いだろう。筋力の維持よりも筋量の維持の方が必要ボリュームが多いようなので、筋量を維持したい場合は、筋力をギリギリ維持できるボリュームよりも多くした方が良いだろう。
- 年齢が高くなると維持に必要なトレーニングボリュームは多くなる。
- 減量時(カロリー収支マイナス)には維持に必要なトレーニングボリュームは多くなるだろう。
- 体脂肪率が極度に低い場合は維持に必要なトレーニングボリュームは多くなるだろう。
- 筋量の水準の影響はどうだろう。筋量が増えればそれだけさらなる筋肥大に必要なボリュームは増えるので維持に必要な絶対的なトレーニングボリュームも増えるはずだが、相対的には筋量が少ない場合と同じなのだろうか。