10/30/2020

筋肥大をもたらす刺激(2019年版)

(1)Stimuli and sensors that initiate skeletal muscle hypertropHy following resistance exercise
https://journals.pHysiology.org/doi/full/10.1152/japplpHysiol.00685.2018?rfr_dat=cr_pub++0pubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org

レジスタンストレーニングによる筋肥大は、どのような刺激によってもたらされるのか、またそれらの刺激はどのようなセンサーによって感知されるのか。現状でわかっていること、わからないことをまとめた2019年の論文です。

以前調べた筋肥大のメカニズムから時間が経ったので、そのアップデートの意味もあります。

関連記事:筋肥大のメカニズム

内容がマニアックなので先に結論を書いておくと、実践面では「力学的な負荷」をかけることを最優先すればOKです。具体的には6-15レップ程度のセットをメインにトレーニングします。筋肥大の刺激の候補には、力学的な負荷以外に「ダメージ」と「代謝ストレス」もありますが、実践面では力学的な負荷を最優先するのが良いでしょう。

筋肉のダメージを増やすために、意図的に強い負荷をかけてエキセントリック動作をしたりするのはどれほど効果があるかはわからないですし、ダメージが大きくなりすぎると筋肥大にマイナスになる可能性があります。代謝ストレスを主目的としたトレーニング(高レップのセットや加圧トレーニング)は、力学的な負荷がメインのトレーニングにプラスしておこなうとさらに効果が高まるのか、それとも力学的な負荷が十分なら代謝ストレスを上乗せしても効果は高まらないのか、はっきりしていません(加圧トレーニングは力学的な負荷が不十分な状態で代謝ストレスを加えています)。

アップサイドリスクとダウンサイドリスクを考えると、ダメージを目的としたトレーニングはアップサイドが不明でダウンサイドリスクが大きいです。従って、ダメージを目的としたトレーニング、例えば高重量・高ボリュームのエキセントリック動作はあまりやらないほうが良いと思います。代謝ストレスを目的としたトレーニングは、アップサイドは不明ですがダウンサイドリスクは小さいと考えられるので、力学的な負荷を目的としたトレーニングに追加しておこなうのは問題ないと思います。

以下、マニア向けの内容。

10/21/2020

除脂肪量の増加と体脂肪量の減少を同時におこなうことは可能なのか?

体組成の組み換え

体組成の組み換え(Body Recomposition)は、除脂肪量の増加と体脂肪量の減少を同時におこなうことです。体脂肪率の高い初心者の場合は、新たにトレーニングを始めることで除脂肪量の増加と体脂肪量の減少を同時におこなうこともできますが、継続的にトレーニングをしている経験者では体組成の組み換えは困難だというのが主流の考え方です。

しかし、トレーニング歴のある被験者を対象とした研究でも体組成の組み換えを実現できているケースがいくつかあります。(1)の論文ではそれらの研究を調べて、どのような要因が体組成の組み換えに結びつく可能性があるのかを考察しています。

留意点は、体組成の測定はどのような機器を使っても精度が低いことです。偶然に除脂肪量増加・体脂肪量減少という結果が出た研究もある可能性があります。それと除脂肪量の変化が、骨格筋量の変化を示すとは限らないことです。また(1)の論文では体組成の組み換えがうまくいっている研究のみピックアップしています。世の中には体組成の組み換えがうまくいっていない研究も多くありますし、出版バイアスによりうまくいった研究のほうが表に出てきやすいです。

(1)の論文で取り上げられている体組成の組み換えが実現できている研究を個別に調べて、トレーニングや栄養がどのように調整されたかを今回の記事では見ていきます。またスタート時点の体脂肪率が体組成組み換えの難易度に大きく影響するので、被験者の体脂肪率がどの程度かも見ていきます。

体脂肪率は男性10-15%、女性20-24%がニュートラルレンジという判断です。このレンジ以上は体脂肪率が高めで、体脂肪を減らすのが容易です。このレンジ以下だと一般的には除脂肪量が減りやすく、体脂肪が増えやすくなり、長期的に維持するのが難しいです。

10/13/2020

増量時の栄養調整

(1)Is an Energy Surplus Required to Maximize Skeletal Muscle Hypertrophy Associated With Resistance Training
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6710320/

筋肥大のペースを最大化するためには、栄養をどのように摂取していけば良いかを調べた2019年の論文です。何か実験をおこなっているわけではなく、既存の研究を調べて、増量を効率的にやるには栄養をどう調整すれば良いのかを考察してます。想定ターゲットは運動量の多いアスリートと思われます。

Eric Helmsが関わっていることもあり内容は良いのですが、議論をそのまま出している感じの論文で、あまりまとまっていないです。今の時点ではわからないことが多いので、現状の整理と今後の研究の指針がメインになっています。

論文中のエネルギーの単位がKJであまり馴染みがないので、本記事ではkcal表記にしています(4.2KJ=1kcalで計算)。


★前提
体脂肪率の高い初心者や、トレーニングを休んでいたアスリートがトレーニングを再開する場合は、摂取カロリーを増やさなくても体脂肪を減らしながら同時に筋肉量を増やすこともできます。しかし、トレーニングを継続的におこなっていて、体脂肪率が高くない人の場合は、カロリー収支をプラスにして体重を増やしていくほうが効率的に筋肉を増やせます。

ただ、現状ではカロリー超過の条件下での筋トレの研究が乏しいです。この論文での栄養摂取の調整方法については、かなりの部分が推測にもとづいたものになります。


★どのくらいのカロリー超過が良いのか
筋肉を増やすのに必要なカロリーを、コスト積み上げ方式で考えていきます。

<骨格筋に含まれるエネルギー>
骨格筋の構成割合を「タンパク質20%、筋肉中の脂質(IMTG)やグリコーゲンなど5%、水分75%」とします。この数値で計算すると、骨格筋1kgは約1200kcalのエネルギーを持つことになります。これは言わば骨格筋の材料費で、骨格筋1kgを増やすのに最低限はこれだけのエネルギーが必要です。