体組成の組み換え
体組成の組み換え(Body Recomposition)は、除脂肪量の増加と体脂肪量の減少を同時におこなうことです。体脂肪率の高い初心者の場合は、新たにトレーニングを始めることで除脂肪量の増加と体脂肪量の減少を同時におこなうこともできますが、継続的にトレーニングをしている経験者では体組成の組み換えは困難だというのが主流の考え方です。
しかし、トレーニング歴のある被験者を対象とした研究でも体組成の組み換えを実現できているケースがいくつかあります。(1)の論文ではそれらの研究を調べて、どのような要因が体組成の組み換えに結びつく可能性があるのかを考察しています。
留意点は、体組成の測定はどのような機器を使っても精度が低いことです。偶然に除脂肪量増加・体脂肪量減少という結果が出た研究もある可能性があります。それと除脂肪量の変化が、骨格筋量の変化を示すとは限らないことです。また(1)の論文では体組成の組み換えがうまくいっている研究のみピックアップしています。世の中には体組成の組み換えがうまくいっていない研究も多くありますし、出版バイアスによりうまくいった研究のほうが表に出てきやすいです。
(1)の論文で取り上げられている体組成の組み換えが実現できている研究を個別に調べて、トレーニングや栄養がどのように調整されたかを今回の記事では見ていきます。またスタート時点の体脂肪率が体組成組み換えの難易度に大きく影響するので、被験者の体脂肪率がどの程度かも見ていきます。
体脂肪率は男性10-15%、女性20-24%がニュートラルレンジという判断です。このレンジ以上は体脂肪率が高めで、体脂肪を減らすのが容易です。このレンジ以下だと一般的には除脂肪量が減りやすく、体脂肪が増えやすくなり、長期的に維持するのが難しいです。
休養明けのアスリート
趣味で継続的に筋トレをしている人とは状況が異なりますが、オフシーズンで身体が緩んでいたアスリートの場合は、トレーニングを再開することで除脂肪量増加と体脂肪減少を同時におこなうこともできます(2)(3)。主流の考え方でも、このケースなら体組成の組み換えは可能だとする人が多いです。
趣味で筋トレをする人も、長期休養で筋肉が減って体脂肪率が高くなっていれば、トレーニング再開で除脂肪量増加・体脂肪量減少を同時におこなうことができるでしょう。
継続的にトレーニングをおこなっている被験者
継続的にトレーニングをおこなっている被験者が、体組成の組み換えを実現できた研究を個別に見ていきます。最後にまとめを書くので、個別に見るのが面倒な場合は読み飛ばしてもらって大丈夫です。
(4)Similarity in adaptations to high-resistance circuit vs. traditional strength training in resistance-trained men
https://www.academia.edu/29201918/Similarity_in_Adaptations_to_High_Resistance_Circuit_vs_Traditional_Strength_Training_in_Resistance_Trained_Men
普通の筋トレ(TSグループ)と、サーキットトレーニングのように種目を順に回していく筋トレ(HRCグループ)を比較した研究。
<被験者>
男性
年齢23歳
身長176cm
体重73kg
体脂肪率21%(TSグループ21.8% HRCグループ20.1%)
<トレーニングレベル>
普段は週2-4回トレーニング。
アイソメトリックでのスクワットで最低でも体重の2倍の力を発揮できるのが参加条件。
実験開始時点でのベンチプレス1RMは80-90kgくらい。
<トレーニング内容>
週3回 8週間
6RM 3-6セット(最初の週が各種目3セットで徐々にセット数を増やしていって最終週が6セット)
6種目(レッグカール、ベンチプレス、カーフレイズ、ラットプルダウン、ハーフスクワット、プリーチャーカール)
TSグループ:セット間インターバル3分、3種目目と4種目目のインターバル5分
HRCグループ:3種目を1サイクル、1サイクル目(レッグカール、ベンチプレス、カーフレイズ)、2サイクル目(ラットプルダウン、ハーフスクワット、プリーチャーカール)、種目間インターバル35秒、サイクル間インターバル5分
<栄養>
介入なし。普段どおりの食事を続けるよう指導。
<体組成変化>
TSグループ:除脂肪量+1.2kg(有意差有り) 体脂肪量-0.8kg(有意差無し)
HRCグループ:除脂肪量+1.5kg(有意差有り) 体脂肪量-1.1kg(有意差無し)
<コメント>
トレーニングレベルは中級者の手前くらい。体脂肪率は高め。トレーニングボリュームは期間後半は多め。普通の筋トレでもサーキットトレーニング方式の筋トレ(HRC)でも同様の体組成変化になっている(体脂肪率変化だとHRCグループのみ有意差あり)。サーキットトレーニング方式のほうがトータルのトレーニング時間は短いので時間効率は高い。
(5)Impact of Four weeks of a multiingredient performance supplement on muscular strength, body composition, and anabolic hormones in resistancetrained young men.
https://www.researchgate.net/publication/276467063_THE_IMPACT_OF_FOUR_WEEKS_OF_A_MULTI-INGREDIENT_PERFORMANCE_SUPPLEMENT_ON_MUSCULAR_STRENGTH_BODY_COMPOSITION_AND_ANABOLIC_HORMONES_IN_RESISTANCE-TRAINED_YOUNG_MEN
エルゴジェニック効果の期待されるサプリメントとプラシーボでレジスタンストレーニングの効果に違いが出るかを調べた研究。サプリメントにはBCAA、ベータアラニン、あとはハーブ系の抽出物が複数含まれている。プラシーボはマルトデキストリン。
<被験者データ>
男性
年齢21歳
身長179cm
体重78kg
体脂肪率20%(サプリグループ18.3% プラシーボグループ21.5%)
<トレーニングレベル>
1年以上のBIG3のトレーニング経験。
スクワット121kg、ベンチプレス99kg デッドリフト159kg。
<トレーニング内容>
週4回 4週間
種目は、デッドリフト、スクワット、ミリタリープレス、チンアップ、ルーマニアンデッドリフト、ベンチプレス、バーベルロウ
メイン種目5セット×5レップ(期間後半は3レップや1レップも)、補助種目3セット×10レップ
<栄養>
サプリメントかプラシーボかを摂取し、それ以外は普段どおりの食事を続けた。自己申告の食事レポートによるとタンパク質は2g/体重kg/day程度の摂取。摂取カロリーは両グループとも、実験前よりも実験後のほうが多くなっている。
<体組成変化>
サプリメントグループ:除脂肪量+1.3kg(有意差有り) 体脂肪量-0.2kg(有意差無し)
プラシーボグループ:除脂肪量+1.1kg(有意差有り) 体脂肪量-0.7kg(有意差有り)
<コメント>
トレーニングレベルは中級者くらい。体脂肪率は高め。トレーニングボリュームはやや多め。体重比での除脂肪量変化は、サプリメントグループのみ有意差ありとのことだけど、サプリメーカーの顔を立てるためにその記述をした感じで、全体で見ればサプリメントは意味ないかなといった印象(グループ間の細かい差は摂取カロリーや個人差や測定誤差によるブレの範囲)。
(6)b-hydroxy-b-methylbutyrate (HMB) supplementation does not affect changes in strength or body composition during resistance training in trained men.
https://www.researchgate.net/publication/11749890_b-Hydroxy-b-Methylbutyrate_HMB_Supplementation_Does_Not_Affect_Changes_in_Strength_or_Body_Composition_during_Resistance_Training_in_Trained_Men
通常のHMB、タイムリリース型のHMB、プラシーボのグループ分けでレジスタンストレーニングの効果に違いが出るかを調べた研究。
<被験者データ>
男性
年齢25歳
身長191cm
体重90kg
除脂肪量(骨を除いた値) 69kg
体脂肪量15.5kg
体脂肪率17%(プラシーボグループ16% 通常HMBグループ17.5% タイムリリースHMBグループ18.3%)
<トレーニングレベル>
7年くらいのレジスタンストレーニング歴
水球とボート競技の選手で全国レベル
ベンチプレス1RM93kg
<トレーニング内容>
週2,3回 6週間
4-6レップ、3-5セット
種目は、ベンチプレス、チンアップ、レッグプレス、ショルダープレス、シーテッドロー
<栄養>
食事指導を受けたのに加えて、タンパク質42g、炭水化物24g、脂質2g、ビタミン・ミネラルを含むサプリメントを摂取。実験中の栄養状況は、タンパク質摂取量2.4g/体重kg/day、摂取カロリー54kcal/体重kg/day。
<体組成変化>
除脂肪量は有意差有り、体脂肪量は有意差無しだが減少傾向と書かれているけど、これは各グループそうなのかグループ全部まとめた数字でそうなのかよくわからない。タイムリリースHMBグループの体脂肪量は有意差ありそうな数字だけど・・・。
プラシーボグループ:除脂肪量+0.9kg 体脂肪量-0.4kg
通常HMBグループ:除脂肪量+1.2kg 体脂肪量-1.0kg
タイムリリースHMBグループ:除脂肪量+3.5kg 体脂肪量-2.5kg
<コメント>
体脂肪率はやや高め。トレーニングレベルは中級者くらい。トレーニングボリュームはやや少なめ。額面通り受け取れば、タイムリリース型のHMBが高い効果がありそうな結果に。
ちなみにHMBの研究だと、(7)(8)の研究も体組成組み換えに成功しているのですが、今回の論文では言及されていません。トレーニング歴のある被験者が、12週間で除脂肪量が7kgや8kg増えて体脂肪量が大幅に減っているという信じがたい結果なのでスルーされたようです。この2つの研究は捏造の可能性がかなり高いですね。個人的には(6)の研究も、プラシーボより普通のHMBが効果的、普通のHMBよりもタイムリリースHMBが効果的とサプリメーカーにとって都合の良い結果なのと、6週間で除脂肪量+3.5kg、体脂肪量-2.5kgは怪しいなぁ・・・という印象です。
(9)The Effects of Pre- and Post-Exercise Whey vs. Casein Protein Consumption on Body Composition and Performance Measures in Collegiate Female Athletes
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3761774/
トレーニング前後にホエイもしくはカゼインを摂取した場合の、体組成とパフォーマンスへの効果を比較した研究。
<被験者データ>
女性
年齢21歳
身長156cm
体重67kg
体脂肪率26%(ホエイグループ27% カゼイングループ25%)
<トレーニングレベル>
NCAAディビジョンⅢのバスケットボールの選手。ディビジョンと体格からすると、それほどレベルの高いアスリートではなさそう。
<トレーニング内容>
レジスタンストレーニングを週4回 8週間
様々な種目を全身。
それに加えてアジリティやスプリントのトレーニングを週3回。
<栄養>
24gのホエイもしくはカゼインをトレーニングの前と後に摂取。それ以外は通常の食事を続けるよう指導。
<体組成変化>
ホエイグループ:除脂肪量+1.5kg(有意差有り) 体脂肪量-1.3kg(有意差有り)
カゼイングループ:除脂肪量+1.4kg(有意差有り) 体脂肪量-0.6kg(有意差有り)
<コメント>
体脂肪率は高め。トレーニングレベルはそれほど高くなさそう。トレーニングボリュームはトータルだと多めかな。ホエイのほうが体脂肪量が減りやすそうな感じだけど、スタート時点の体脂肪率はホエイグループのほうが高めで体組成組み換えには有利。ホエイとカゼインで効果に違いがあるのか微妙なところ。
(10)Comparison of 2 weekly-equalized volume resistancetraining routines using different frequencies on body composition and performance in trained males.
https://www.semanticscholar.org/paper/Comparison-of-2-weekly-equalized-volume-routines-on-Yue-Karsten/22be48ef7f5493b6a34035abdd62bd4476a201b3
トータルのトレーニングボリュームを揃えて、週2回(低頻度・1回あたり高ボリューム)と週4回(高頻度・1回あたり低ボリューム)とを比較した研究。
<被験者データ>
男性
年齢25歳
身長180cm
体重78kg
体脂肪率20%(低頻度グループ21.8%、高頻度グループ18%)
<トレーニングレベル>
趣味で筋トレをしている男性。トレーニング歴は平均で3年。
スクワット1RM 97kg(低頻度グループ90kg 高頻度グループ103kg)
ベンチプレス1RM 74kg(低頻度グループ70kg 高頻度グループ77kg)
<トレーニング内容>
週2回もしくは週4回 6週間
種目は、プロトコル1と2の組み合わせに分けて、
プロトコル1:ベンチプレス、ダンベルフライ、チェストプレス、バーベルカール、シーテッドダンベルカール、逆手ベントロー、ダンベルデルトイドレイズ、バーベルショルダープレス、バーベルフロントレイズ
プロトコル2:ラットプルダウン、ダンベルリーバスフライ、バーベルプルオーバー、バーベルライイングアームエクステンション、クロースグリップベンチプレス、ケーブルプッシュダウン、パラレルスクワット、デッドリフト、レッグカール
週2回グループはプロトコル1とプロトコル2を週に1回ずつ。一回のトレーニングで各種目4セットずつ実施。
週4回グループはプロトコル1とプロトコル2を週に2回ずつ。一回のトレーニングで各種目2セットずつ実施。
<栄養>
通常の食事を続けるよう指導。
<体組成変化>
低頻度グループ:除脂肪量+1.36kg(有意差有り) 体脂肪量-2.41kg(有意差有り)
高頻度グループ:除脂肪量+1.19kg(有意差有り) 体脂肪量-0.58kg(有意差無し)
<コメント>
体脂肪率は高め。トレーニングレベルは、初心者から中級者の間くらい。トレーニングボリュームは上半身は多め、下半身は少なめ。低頻度グループの体脂肪量減少が大きいのは、スタート時点の体脂肪率が高いためと考えられる。他にも腕や脚の周径、外側広筋と上腕二頭筋と三角筋前部の厚みも測定していて、有意差が出ている項目は低頻度グループのほうが多いが、これもスタート時点のトレーニングレベルの差が影響している可能性が高いと思う(ただ高頻度グループは一回あたりのボリュームが少ないのも影響しているかもしれない)。
(11)A high protein diet (3.4 g/kg/d) combined with a heavy resistance training program improves body composition in healthy trained men and women – a follow-up investigation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4617900/
高タンパク質の食事(3.4g/体重kg/day)と、通常タンパク質の食事(2.3g/体重kg/day)にグループ分けし、レジスタンストレーニングの効果を比較した研究。
<被験者データ>
男性と女性
年齢24歳
高タンパク質グループ(女性7人、男性24人)
身長172cm
体重74kg
除脂肪量61.4kg
体脂肪率18.3%(個別データは不明だが、仮に男性16%女性25%だと平均で18%くらいになる)
通常タンパク質グループ(女性4人、男性13人)
身長174cm
体重75kg
除脂肪量61.1kg
体脂肪率20.2%
<トレーニングレベル>
トレーニング歴のある男女
ベンチプレス1RM 80kg(高タンパク質グループ88kg 通常タンパク質グループ72kg)
スクワット1RM 108kg(高タンパク質グループ112kg 通常タンパク質グループ104kg)
<トレーニング内容>
週5回 8週間
3分割 部位あたり週2回か1回。
トレーニング日あたり各部位2-5種目×3セット
<栄養>
通常タンパク質グループはこれまで通りの食事を続けるよう指導。高タンパク質グループは3g/体重kg/day以上のタンパク質を摂取し、それ以外はこれまで通りの食事を続けるよう指導。
<体組成変化>
高タンパク質グループ:除脂肪量+1.5kg(有意差有り) 体脂肪量-1.6kg(有意差有り)
通常タンパク質グループ:除脂肪量+1.5kg(有意差有り) 体脂肪量-0.3kg(有意差有り)
体脂肪量変化についてはグループ間で有意差有り(高タンパク質グループの体脂肪減少量のほうが有意に大きい)
<コメント>
体脂肪率はやや高めくらい。トレーニングレベルは中級者くらい。トレーニングボリュームはかなり多め。高タンパク質グループのほうがスタート時点の体脂肪率は低かったが、体脂肪が多く減ったという結果。
(12)Effects of high versus low protein intake on body composition and maximal strength in aspiring female physique athletes engaging in an 8-week resistance training program.
https://www.researchgate.net/publication/322973405_Effects_of_High_vs_Low_Protein_Intake_on_Body_Composition_and_Maximal_Strength_in_Aspiring_Female_Physique_Athletes_Engaging_in_an_8-Week_Resistance_Training_Program
高タンパク質(2.5g/体重kg/day)と低タンパク質(0.9g/体重kg/day)にグループ分けし、レジスタンストレーニングとHIITの効果を比較した研究。
<被験者データ>
女性
年齢21歳
身長165cm
体重61kg
体脂肪率 高タンパク質グループ22.7% 低タンパク質グループ21.4%
<トレーニングレベル>
女性のフィジーク競技者。参加条件は、デッドリフト1RMが体重の1.5倍以上。
スクワット1RM 高タンパク質グループ69kg 低タンパク質グループ72kg
デッドリフト1RM 高タンパク質グループ87kg 低タンパク質グループ97kg
<トレーニング内容>
レジスタンストレーニングとHIITを実施
基本は週4回だが、4週目と8週目は週2回 期間は8週間
レジスタンストレーニングの内容
下半身週2回 上半身週2回
下半身は計5種目
上半身は計6種目
セット数とレップ数はトレーニング期間中に変動。5セット×3-5レップ、4セット×9-11レップ、3セット×14-16レップ。
HIITの内容
1,2週目は4セット×30秒で、徐々にセット数を増やしていき、7,8週目は7セット×30秒。
<栄養>
高タンパク質グループは2.4g/体重kg/day以上のタンパク質を摂取するよう指導。低タンパク質グループは1.2g/体重kg/day以下のタンパク質を摂取するよう指導。結果として、高タンパク質グループは2.5g/体重kg/day、低タンパク質グループは0.9g/体重kg/dayのタンパク質摂取量になった。高タンパク質グループはトレーニング前後に25gずつのホエイプロテインを摂取、低タンパク質グループはトレーニング前後に5gずつのホエイプロテインを摂取。あとは自由に食事。
実験前に比べて実験中の摂取カロリーが、高タンパク質グループは+250kcal、低タンパク質グループは-290kcalになった。
<体組成変化>
高タンパク質グループ:除脂肪量+2.1kg(有意差有り) 体脂肪量-1.1kg(有意差有り)
引タンパク質グループ:除脂肪量+0.6kg(有意差無し) 体脂肪量-0.8kg(有意差無し)
<コメント>
体脂肪率はニュートラルレンジ。トレーニングレベルは中級者くらい。トレーニングボリュームは多め。タンパク質の摂取量が0.9g/体重kg/dayだと体組成組み換えの面では効果が低いという結果。
(13)Effects of Graded Whey Supplementation During Extreme-Volume Resistance Training
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6141782/
ホエイ(25g固定)、マルトデキストリン(30g固定)、ホエイ漸増(1週目25gで徐々に増やしていき6週目150g)のグループ分けで、レジスタンストレーニングの効果を比較した研究。
<被験者データ>
男性
年齢21歳
身長180cm
体重83kg
体脂肪率18%(ホエイ18.5% ホエイ漸増16.4% マルトデキストリン19.8%)
<トレーニングレベル>
趣味で筋トレしている若い男性。参加条件はスクワット1RMが体重の1.5倍以上。
スクワット3RM 132kg(ホエイ135kg ホエイ漸増136kg マルトデキストリン126kg)
ベンチプレス3RM 99kg(ホエイ107kg ホエイ漸増100kg マルトデキストリン90kg)
<トレーニング内容>
週3回 6週間
毎回のトレーニングでスクワット、ベンチプレス、スティッフレッグドデッドリフト、ラットプルダウンの4種目を実施。
1セットあたり60%1RMの重量で10レップ。
週ごとに種目あたりのセット数を増やしていく(以下の画像参考)。
<栄養>
ホエイとマルトデキストリングループはそれぞれ摂取量は一定。ホエイ漸増は1週目ホエイ25gで、週ごと25gずつ増やしていき6週目はホエイ150g摂取。
摂取タイミングは、トレーニング日はトレーニング後、トレーニングの無い日は食間。
ただホエイ漸増グループは、トレーニング後の最大摂取量がホエイ100gまでで、5週目と6週目については100gを超えた残りの分はその日の食間か就寝前に摂取。
総摂取カロリーは、500kcalのカロリー超過になるよう栄養指導。
タンパク質摂取量の指導は以下の通り。
マルトデキストリングループのタンパク質摂取量は6週間通して1.6g/体重kg/dayになるよう指導。
ホエイとホエイ漸増グループのタンパク質摂取量は、1週目が1.6g/体重kg/day。ホエイ漸増グループは週ごとにホエイを25gずつ増やしていき、ホエイグループはホエイ25g固定のまま他の食品のタンパク質摂取量を25gずつ増やしていくよう指導。
ただ実際のタンパク質摂取量は、各グループとも6週間通して2.0-2.5g/体重kg/dayの範囲に収まり、グループ間の有意差も無しという結果になった。摂取カロリーについては、ホエイ漸増グループが他の2グループよりも少ない傾向だった。
<体組成変化>
マルトデキストリングループ:除脂肪量+2.35kg(有意差有り) 体脂肪量+0.2kg(有意差無し)
ホエイグループ:除脂肪量+1.22kg(有意差有り) 体脂肪量-0.65kg(有意差有り)
ホエイ漸増グループ:除脂肪量+2.9kg(有意差有り) 体脂肪量-1.0kg(有意差有り)
この研究では、高ボリュームの筋トレで起こる「むくみ」の影響を排除するため、細胞外の水分量を除いた除脂肪量の変化も出している。
マルトデキストリングループ:細胞外水分量を除く除脂肪量+1.46kg(有意差有り)
ホエイグループ:細胞外水分量を除く除脂肪量+0.94kg(有意差有り)
ホエイ漸増グループ:細胞外水分量を除く除脂肪量+1.81kg(有意差有り)
<コメント>
体脂肪率はやや高め。トレーニングレベルは中級者付近。トレーニングボリュームは、実験後半はかなり多い。
中間時点での体組成も記録していて、前半3週間と後半3週間の除脂肪量変化は同程度だが、細胞外の水分量を除いた除脂肪量変化だと、トレーニングボリュームがかなり多くなる後半3週間の伸びが低い。論文では、トレーニングボリュームが多すぎるとむくみで除脂肪量が増えやすくなるが、実際の筋肥大は起こりにくくなると考察している。この研究のデータだと、1種目あたり週20セットを超えると、むくみが大きくなってきて、筋肉自体の肥大は小さくなってくる。
体組成組み換えの面では、ホエイ漸増グループがもっとも良い結果。スタート時点の体組成はホエイ漸増グループの体脂肪率が低く、体組成組み換えの余地は小さいのだが、このグループがもっとも良い結果になっている。タンパク質摂取量はグループ間で同じで、違うのはタンパク質摂取量に占めるホエイの割合と、トレーニング後に多量のホエイを摂取する点。個人差の影響や摂取カロリーの違いの影響が出ただけかもしれないけど、額面通り受け取るなら、体組成組み換えを狙う場合は、トレーニング後に多量のホエイを摂取し、トレーニングボリュームを多くしすぎないようにすると良いかも。
トレーニングと栄養以外で影響を与えそうな要因
睡眠が不足すると体組成に悪影響が出やすいと考えられます。トレーニング歴無しの被験者が、睡眠改善の指導を受けるか受けないかのグループ分けで、レジスタンストレーニングの効果に違いが出るかを調べた研究があります(14)。この研究では、睡眠指導グループのほうが良い結果になりました。トレーニング歴有りの被験者を対象とした睡眠介入の研究は現時点ではないです。
体組成組み換えを目指す場合の推奨
(1)の論文では、トレーニング歴のある人が体組成の組み換えを目指す場合は、以下のポイントを意識すると良いだろうと結論づけています。
・漸進的過負荷をともなう週3回以上の筋トレを実施する。
・パフォーマンス変化と疲労回復に注意を払う。
・ホエイやカゼインなどのプロテイン製品を活用してトータルのタンパク質摂取量を増やす。
・トレーニング直後のタンパク質摂取が体組成組み換えに有効かもしれない。
・睡眠の質と量を改善する。
摂取カロリーは、トレーニング内容を変えないなら、カロリー収支をややマイナスにするのが良いと思います。トレーニングボリュームを増やしてハードトレーニングするなら、摂取カロリーを100-200kcalくらい増やしたほうがよいかもしれません。摂取カロリーが実験前に比べて増えている研究が多いですが、同時に実験でハードトレーニングを開始しているので筋トレの消費カロリーも増えているはずです。
骨格筋1kgを作るのに必要なカロリー(材料費+製作費)はおそらく2000kcalくらいです。筋肥大には他にもエネルギーが必要かもしれませんが、全て合わせても体脂肪1kgに含まれるエネルギー7000-7500kcalよりは小さいでしょう。従って、体脂肪の分解で筋肥大のエネルギーを調達できるのならカロリー超過にする必要はないです。
関連記事:増量時の栄養調整
トレーニングレベルが初心者から中級者の間くらいで、体脂肪率が男性なら16%以上、女性なら25%以上ある場合は、しっかりしたトレーニングと栄養管理をおこなうことで体組成組み換えを狙えそうな感じがします。長期休養していた人は、体脂肪率15%(男性)くらいでも体組成の組み換えができるかもしれません。オフシーズン開けのラグビー選手の研究(3)では、そのくらいの体脂肪率で体組成の組み換えが実現できています。
体脂肪率が男性10-15%、女性20-24%のニュートラルレンジで体組成の組み換えができているのは、(12)の研究のみです。この体脂肪率のレンジだと体組成の組み換えはかなり難しいと思います。この体脂肪率の範囲内の人は、いったんレンジの下限付近まで減量してから、増量をおこなうのが効率的でしょう。(12)の研究では筋トレに加えてHIITをおこなっているので、もしこのレンジで体組成の組み換えを狙うのなら、HIITを実施すると良いかもしれません。
<参考文献>
(1)Body Recomposition: Can Trained Individuals Build Muscle and Lose Fat at the Same Time?
https://www.researchgate.net/publication/343549590_Body_Recomposition_Can_Trained_Individuals_Build_Muscle_and_Lose_Fat_at_the_Same_Time
(2)Similar Strength and Power Adaptations between Two Different Velocity-Based Training Regimens in Collegiate Female Volleyball Players
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6316804/
(3)Preseason Body Composition Adaptations in Elite White and Polynesian Rugby Union Athletes
http://dro.dur.ac.uk/28172/1/28172.pdf
(4)Similarity in adaptations to high-resistance circuit vs. traditional strength training in resistance-trained men
https://www.academia.edu/29201918/Similarity_in_Adaptations_to_High_Resistance_Circuit_vs_Traditional_Strength_Training_in_Resistance_Trained_Men
(5)Impact of Four weeks of a multiingredient performance supplement on muscular strength, body composition, and anabolic hormones in resistancetrained young men.
https://www.researchgate.net/publication/276467063_THE_IMPACT_OF_FOUR_WEEKS_OF_A_MULTI-INGREDIENT_PERFORMANCE_SUPPLEMENT_ON_MUSCULAR_STRENGTH_BODY_COMPOSITION_AND_ANABOLIC_HORMONES_IN_RESISTANCE-TRAINED_YOUNG_MEN
(6)b-hydroxy-b-methylbutyrate (HMB) supplementation does not affect changes in strength or body composition during resistance training in trained men.
https://www.researchgate.net/publication/11749890_b-Hydroxy-b-Methylbutyrate_HMB_Supplementation_Does_Not_Affect_Changes_in_Strength_or_Body_Composition_during_Resistance_Training_in_Trained_Men
(7)Interaction of Beta-Hydroxy-Beta-Methylbutyrate Free Acid (HMB-FA) and Adenosine Triphosphate (ATP) on Muscle Mass, Strength, and Power in Resistance Trained Individuals
https://www.researchgate.net/publication/261516423_Interaction_of_Beta-Hydroxy-Beta-Methylbutyrate_Free_Acid_HMB-FA_and_Adenosine_Triphosphate_ATP_on_Muscle_Mass_Strength_and_Power_in_Resistance_Trained_Individuals
(8)The effects of 12 weeks of beta-hydroxy-beta-methylbutyrate free acid supplementation on muscle mass, strength, and power in resistance-trained individuals: a randomized, double-blind, placebo-controlled study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4019830/
(9)The Effects of Pre- and Post-Exercise Whey vs. Casein Protein Consumption on Body Composition and Performance Measures in Collegiate Female Athletes
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3761774/
(10)Comparison of 2 weekly-equalized volume resistancetraining routines using different frequencies on body composition and performance in trained males.
https://www.semanticscholar.org/paper/Comparison-of-2-weekly-equalized-volume-routines-on-Yue-Karsten/22be48ef7f5493b6a34035abdd62bd4476a201b3
(11)A high protein diet (3.4 g/kg/d) combined with a heavy resistance training program improves body composition in healthy trained men and women – a follow-up investigation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4617900/
(12)Effects of high versus low protein intake on body composition and maximal strength in aspiring female physique athletes engaging in an 8-week resistance training program.
https://www.researchgate.net/publication/322973405_Effects_of_High_vs_Low_Protein_Intake_on_Body_Composition_and_Maximal_Strength_in_Aspiring_Female_Physique_Athletes_Engaging_in_an_8-Week_Resistance_Training_Program
(13)Effects of Graded Whey Supplementation During Extreme-Volume Resistance Training
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6141782/
(14)A randomized controlled pilot trial of sleep health education on body composition changes following 10 weeks' resistance exercise
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32141273/
NGTNさんはHIITとかってされてますか?
返信削除HIITはやっていませんね。
返信削除筋トレに付け加えるのは体力的に厳しいです(^_^;)