6/11/2014

レップ数によるトレーニング効果の違い

ネタ元: Lyle McDonaldの記事
Effects of different volume-equated resistance training loading strategies on muscular adaptations in well-trained men – Research Review

一般的に、低レップトレーニングは筋力を伸ばし、中レップトレーニングは筋肥大に向いていると言われる。しかしこれまでの研究の多くはトレーニングボリュームが揃っておらず、実験デザインに問題がある。例えば、3セット・3レップと3セット・10レップで実験をして、低レップは筋力向上、中レップは筋肥大をもたらすといった主張をしても、差をもたらしたのはレップ数の違いなのかトレーニングボリュームの違いなのかわからない。

この研究では、パワーリフティング型の低レップトレーニングと、ボディビル型の中レップトレーニングをトレーニングボリュームを揃えて実施し、筋肥大と筋力への影響を調べている。


★実験方法
被験者: トレーニング経験のある若い男性
期間: 8週間
人数: 17名(当初20名で途中で3名脱落)
食事: 自由+トレーニング日にプロテインサプリメント24gを支給

トレーニングボリュームは、セット×レップ×重量で表せる。これが等しくなるよう調整。
- 低レップ群: 7セット・3レップ / インターバル3分
- 中レップ群: 3セット・10レップ / インターバル90秒

トレーニング日は週3回。低レップ群は各トレーニング日に全身(胸、背中、脚)。中レップ群は、胸の日、背中の日、脚の日を分け、各部位3種目を週1回ずつトレーニング。


★結果
筋肥大については、上腕二頭筋を測定。両群とも筋肥大の程度に差は無しという結果になった。ただ、プル系の種目で上腕二頭筋をある程度使うとは言っても、上腕二頭筋にフォーカスした種目はトレーニングプロトコルに含まれておらず、なぜこのような測定方法なのかモヤモヤが残る。これについてはコメント欄に論文著者が書き込んでいて、実験では大腿四頭筋の測定も行ったが、十分なデータが得られなかったので論文には載せなかったとのこと。得られた範囲のデータでは、同じくらいの筋肥大を示していた。

筋力についてはベンチプレスとスクワットの1RMを測定。低レップ群の方が伸びが大きかった。
- 低レップ群: ベンチプレス+13%、スクワット+25.9%
- 中レップ群: ベンチプレス+9.1%、スクワット+22.2%

低レップ群の方が、肉体的・精神的に強い疲労を感じていた。

脱落者3名は、2名が関節周りの怪我、1名が個人的な理由。怪我の2名は低レップ群から出た。当実験では小さいサンプルではあるが、一般的に低レップ高重量のトレーニングは関節周りの怪我のリスクが高くなる懸念がある。

トレーニングにかかる時間に大きな差がある。7セット・3レップ/インターバル3分をこなすにはかなり時間がかかる


★個人的な感想
筋力の伸びの差をもたらした要因が発火頻度とモーターユニット連動だけなら、トレーニング時間効率と怪我のリスクを考慮して、ボディメイクでは中レップトレーニングを中心に行うのが良いと思う。ただ、8週間という短さでは筋肥大測定で有意な差が出ていない可能性があり、実際には筋肥大の程度に差が出ていてそれも筋力の伸びの差の要因になっているのなら、低レップにも優位点がある。まあ特定のレップ数のみでトレーニングを行わなければならない理由はないので、適当に混ぜてやれば良いと思う。


関連記事:
セット数によるトレーニング効果の違い

筋肥大トレーニングプログラムにおけるトレードオフ

6/06/2014

カゼイネートとミセラーカゼインの消化吸収速度

★基礎知識
カゼイネートとミセラーカゼインの違いについてはこの記事(pdf)を参照。ちなみに今回引用した論文は、この記事内のBoirieとReitelsederのもの。先に論文読んでからこの記事見つけたので偶然。この記事で言及されてないことは、Reitelsederの研究で使われたカゼインはカゼイネートであること。



<<カゼイネートの消化吸収速度>>
Whey and casein labeled with l-[1-13C]leucine and muscle protein synthesis: effect of resistance exercise and protein ingestion
http://ajpendo.physiology.org/content/300/1/E231.long

★実験条件
<被験者>
健康状況: 健康
性別: 男性
人数: 17名
年齢: 24-30歳
BMI: 22-25
LBM: 55-60kg
運動歴: 過去6ヶ月に継続的な有酸素運動とレジスタンストレーニングの経験なし


★実験方法
運動: 片足レッグエクステンション、80%1RMの重量で8レップ10セット。
栄養摂取: 運動直後に、水かホエイかカゼイン(カルシウム・カゼイネート)を摂取。プロテインの摂取量は、LBM(除脂肪体重)1kgあたり0.30g


★結果
血漿アミノ酸濃度は以下のFig.4.の通り。これはトータルの濃度で、実験で摂取したアミノ酸と筋分解で血中に放出されたアミノ酸を区別していない。有意差*はホエイとカゼインについてのもので、ベースラインに対してのものではない。全体的に、ホエイは3時間程度で、カゼイン(カルシウム・カゼイネート)は4時間程度でベースラインに戻っている。




以下のFig.6.は筋合成の速度。1時間後から3.5時間後はホエイの筋合成速度が大きく、3.5時間後から6時間後はカゼインの筋合成速度が大きい。トータルではホエイとカゼインの間では有意差なし。この実験では筋合成のみ調べていて、筋分解については不明。カゼインの方が筋分解を長時間に渡って防ぐだろうから、ネットバランスはカゼインの方が有利という結果になっていると思われる(注意点:短期の結果が長期の結果を保証するわけではない)。







<<ミセラーカゼインの消化吸収速度>>
よく見かける1997年のBoirie他の研究を引用する。カゼインの種類は論文中には書かれていないがミセラーカゼイン。他の論文でこの実験で使ったのはミセラーカゼインだと明記している。

Slow and fast dietary proteins differently modulate postprandial protein accretion
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9405716


この実験の優れている点。
- 同位体を含んだ標識用ロイシンを乳牛を経由(絞られた乳からプロテイン抽出)させることで実験用のプロテインに標識をつけている。
- ロイシンを主な測定対象としているので、ホエイとカゼインのトータルの摂取量を、含有ロイシン量が等しくなるように調整している。
- 血中のロイシンの測定はトータルのロイシン濃度だけではなく、実験で摂取したプロテイン由来のものと、筋分解により血中に供給されたものも測定している。
- プロテイン摂取後7時間まで測定している。


★結果
カゼインは、7時間後もトータルの血漿ロイシン濃度(左上)がベースラインを上回っている。右側はロイシン現出速度で、Exoが実験で摂取したプロテイン由来で血中へのアミノ酸供給の目安、Endoが内部由来つまりカタボリックの目安。



実験条件は、摂取量がホエイ30g、カゼイン43g(含有ロイシンの量が等しくなるようにしている)で、カゼイネートの実験より摂取量が多く、またこの実験では運動を行っていないこともあり、直接の比較は難しいけど、別の論文でミセラーカゼイン30g摂取で8時間経っても血漿ロイシン濃度はベースラインを上回っていたし、消化吸収の速度は、ホエイ>カゼイネート>ミセラーカゼイン で良いと思う。


ちなみに日本製のカゼインプロテインは、カゼイネートを使っているものが多いので、成分チェックをちゃんとしよう。私は何のしがらみもないので遠慮なく具体名を出すけど、バルクスポーツのカゼインプロテインはカゼイネートを使っているのに、たしか以前購入した時の記憶ではパッケージにはBoirieの論文のグラフとおぼしきものを載せていて、商品説明には「ミルクをろ過して製造され」「約7時間もアミノ酸を放出」といったミセラーカゼインの特徴が書かれているので、誇大広告か虚偽表示になるのではないだろうか。



★実際の栄養摂取への適用
通常はホールフードの食事をメインにして補助としてプロテインパウダーを使うだろうから、ホエイかカゼイネートかミセラーカゼインかはそれほど神経質になる必要はないとは思う。一日のトータルのタンパク質摂取量が最も大事。プロテインパウダーと糖分を含んだ飲み物といった流動食をメインにするのなら、消化吸収速度に合わせて食事間隔を調整した方が良いだろう。シビアな減量時や食事間隔が空く時にプロテインパウダーを使う場合は、カゼイネートは避けてミセラーカゼインにするのが良いと思う。


★補足
こういう短期(acute)の研究から導かれる一般的論としては、ホエイとカゼインを合わせて摂取するのがベストということになる。ただ、長期間に渡ってだとどうなるかわからない。acuteの研究だと、運動無しでも食後には筋合成が起きる。これは空腹時の筋分解の回復なのか、一時的に筋肉にアミノ酸が押し込まれる感じになっているのかよくわからないけど、運動なしでは当然長期の筋肥大にはつながらない。従って運動後の栄養摂取による筋合成のデータにも、一時的なものと長期的なものが含まれてると思う。ホエイの短時間の筋合成ブーストも一時的なものの割合が高いのなら、長期の筋肥大にはあまり意味がなくて、ホールフードやカゼインなどのスロープロテインで淡々とアミノ酸供給しとけば良いのではないかという話になる。(ホエイとカゼインの効果を比較した長期の研究は一応あるんだけど、実験デザインがいまいち)


関連記事:
タンパク質の消化吸収速度の違いによる筋肥大への影響