5/31/2018

スクワットの深さ

★スクワットを行う目的
どれくらい深くしゃがんでスクワットを行うのが良いかは、スクワットを行う目的により異なる。

膝の怪我のリハビリを行う場合は、一般的には浅くしゃがむスクワットのほうが良いだろう。競技としてパワーリフティングを行っているなら、パラレルをギリギリ下回るくらいが良いだろう。重量挙げなどフルボトムの位置から強い力を発揮する必要のある競技を行っているなら、フルボトムが良いだろう。ジャンプやスプリントの向上を目指す場合は、浅いスクワットが効果的なケースもあるようだ。

この記事では「なるべく怪我のリスクを小さくしながら、筋肥大効果を得る」ことをスクワットを行う目的とする。


★スクワットの深さ
ここでは膝の屈曲角度は膝を伸ばした状態(直立時の状態)を0度と表す。膝を曲げていくにつれて、膝の屈曲角度は大きくなっていく。

各スクワットの呼び方と膝の屈曲角度は以下のものとする。

- ハーフスクワット:膝の屈曲角度が約90度
- パラレルスクワット:膝の屈曲角度が約110度(膝と股関節を結んだ線が床と平行)
- フルボトムスクワット:膝の屈曲角度が130-150度くらい(腿の裏側とふくらはぎがくっつくまで)




★怪我リスク(蓄積による怪我)
主に腰の怪我と膝の怪我がある。スクワットは深くしゃがむ場合、フォームが良くないと腰が丸まり、腰の怪我につながりやすい。背骨はニュートラルポジションを保つ限りは、かなりの負荷に耐えられるので、フォームに気をつけていれば腰の怪我はあまり気にする必要がないだろう。どうすると腰を痛めやすいかは、以前「腰痛について」という記事で書いたので参考まで。

ここでは膝の怪我について触れる。膝は曲がる角度とその時の負荷によって怪我リスクが高くなる可能性がある(以下はフォームが良くても起こりうる怪我である)。深くしゃがむスクワットが膝の怪我のリスクを上げるかどうかは、肯定する見方と否定する見方の両方がある。

膝の怪我には大きく分けて軟骨系と腱・靭帯系の2つがある。

軟骨系:膝蓋骨、半月板、大腿骨、脛骨の接触・圧迫による炎症・変性。膝蓋大腿疼痛症候群(PFPS)、軟骨軟化症、変形性膝関節症など。
腱・靭帯系:大腿四頭筋腱、膝蓋腱、前十字靭帯(ACL)、後十字靭帯(PCL)、膝内側側副靱帯(MCL)、膝関節外側側副靱帯(LCL)の炎症・変性。

(1)の論文を参考にして具体的なケースを挙げると
- 膝蓋骨と大腿骨の圧縮方向の負荷、脛骨と大腿骨の圧縮方向の負荷、脛骨と大腿骨のせん断力は、それぞれ深くしゃがむほど大きくなる。
- 大腿四頭筋腱と大腿骨の接触による大腿四頭筋腱への負荷は、深くしゃがむほど大きくなる。
- スクワットによるACLとPCLへの負荷は、どの深さでも健康な膝の人にとっては問題のない水準。
- 深くしゃがんだポジションでは、膝の左右方向の安定性に問題が起きやすい。具体的には骨のズレ、半月板の圧迫、靭帯(LCL・MCL)への負荷。
- 強い負荷をかけるときは、ゆっくり腱を伸ばしたほうが腱を怪我しにくい。素早くバウンドさせるスタイルでのフルボトムスクワットは、腱の怪我リスクが上がる可能性がある。
- 膝蓋骨-大腿骨の関節内の接触は深くしゃがむほど面積が増える。一方で、圧力(力/面積)は膝の屈曲角度90-100度でピークに達し、その後は力が一定で接触面積が増えていくので圧力は低下する。

深くしゃがむことで膝関節への負荷が強くなる主なメカニズムは
1. パラレルより深くしゃがんでいくと、膝が前に出ていく。回転軸(膝関節)が重心から遠くなることで、膝へのモーメントが大きくなり、膝関節内での軟骨や腱の接触負荷が大きくなる。一般的にフルボトムはハーフやパラレルよりも扱える重量が下がるが、相対的な強度を揃えた場合でも膝関節へのピークモーメントはフルボトムが最も大きくなる(2)(3)。ただフルボトムで実際にかかっているモーメントは、腿の裏側とふくらはぎが接触することで減衰されている可能性がある(一方でこの接触により膝伸展時の回転軸が膝関節から別の位置に移動してしまうリスクがある)。
2. 膝関節の屈曲角度が大きくなると、膝関節内での骨、軟骨、腱の接触面積が増える。強い負荷での接触を繰り返すことで、炎症や変性が起こる可能性がある。
3. 深くしゃがんだ際に、膝関節の安定性が損なわれることで、靭帯への負荷が大きくなる。

蓄積による怪我は、フォーム、重量、トレーニング頻度、トレーニング歴による適応度合い、骨格などにより個人差が大きい。メカニズム的には、深くしゃがむほど膝への負荷が高くなる感じがするが、関節内の接触面積の増大による圧力低下と、腿の裏側とふくらはぎの接触による負荷の吸収は膝への負担を下げる可能性もある。

何年間も深くしゃがむスクワットを続けると膝関節に悪影響が出るかどうかを調べた研究は無いと思う。フルボトムのスクワットを頻繁に行う重量挙げの選手と他の人を比較したりといった研究は、生存バイアスがあるのであまり意味が無い(膝を壊した選手はドロップアウトするので調査対象に含まれなくなる)。

変形性膝関節症のリスクファクターを調べた研究を参考にしてみると、深くしゃがみこんで作業を行うことの多い職業(タイルや道路の整備、大工など)で変形性膝関節症のリスクが高くなる。重いものを持つ職業でもリスクが高くなる。(4)

また長時間深くしゃがむ習慣のある地域の人々も、長時間のしゃがみ込みで変形性膝関節症のリスクが高くなる(政治的に正しくない表現かもしれないが asian squatで画像検索するとイメージが掴める)。(5)

強度と時間の組み合わせによって怪我のリスクを区分けすると、以下のようになる。

低強度-短時間:リスク低。膝が健康なら、自重でフルボトムの位置に短時間しゃがんでも膝に問題はないだろう。
低強度-長時間:リスク中。自重で長時間フルボトムの位置にしゃがむ生活を続けると変形性膝関節症のリスクが高くなる。
高強度-短時間:高負荷での深くしゃがむスクワットを続けるとどうなるか。リスク??
高強度-長時間:リスクは高いだろう。

一般的には蓄積による怪我のリスクは下図のようになるので、高強度-短時間のリスクは中程度かなと思う。色が濃いほど高リスク。




★スクワットの深さの違いによる筋肉の活動レベルの変化
フルボトムのスクワットの際の筋肉の活動レベルの推移を測定している研究を見てみる(6)。下がり2秒、上がり2秒の指示で80%1RMのフルボトムスクワットを行っている。この研究のグラフの横軸は下がって上がるを1サイクルとしてそれを百分率で表していて、0-53%が下がる局面、53-100%が上がる局面。53%でフルボトムに到達。下がりのほうがわずかに長い時間がかかっていた。


パラレル相当である膝の屈曲角度110度(この研究での表し方だと70度)のラインを赤線で、ハーフスクワット相当である膝の屈曲角度90度のラインを青線でグラフに引いてある。横軸と照らし合わせると、30%を少し超えたあたりでハーフを下回り、40%を少し超えたあたりでパラレルを下回り、53%でフルボトムに達し、60%くらいでパラレルを上回り、70%くらいでハーフを上回る。

各筋肉の活動レベルのグラフを見てみると、外側広筋の活動レベルが高くなるのは60%付近から70%付近で、大腿直筋は60%手前から70%手前。フルボトムでの53%付近ではそれほど活動レベルが高くない。他の複数の研究でも膝の屈曲角度80-90度で大腿四頭筋の活動がピークに達し、それより深く曲げても同程度の活動レベルが続くことが示されている(1)。スクワットでは、パラレルからハーフの間で大腿四頭筋に強い負荷がかかると言える。

大殿筋は60%付近から活動レベルが高くなり、挙上の終盤までかなり高い活動レベルが続く。フルボトムの53%付近ではそれほど活動レベルが高くない。パラレルから上の挙上で大殿筋に強い負荷がかけられると言える。

大腿二頭筋は60%の手前から挙上の終盤まで活動レベルが高い。半腱様筋は70%手前から80%中盤まで活動レベルが高い。ただ両方の筋肉とも限界出力に対しての活動レベルはそれほど高くはないので、ハムストリングスのトレーニングとしてはスクワットはあまり負荷が強くないと言える。

ちなみにこの研究は筋肉の長さの変化も算出していて面白い。ハムストリングスはしゃがむにつれてある程度短くなる。大腿直筋は長さがほとんど変わらない。クローズドチェイン(足が固定)での腓腹筋による足首の屈曲は、膝の伸展に寄与するといった考察も面白い(腓腹筋は二関節筋で膝の屈曲の機能も持つので腓腹筋の収縮自体は膝の伸展を妨げる働きをする)。

各筋肉の活動レベルはEMGで測定。関節モーメントなどをどうやって算出しているのかは、このサイトを参考にするとイメージをつかみやすい。


スミスマシンのバーを固定してスクワットのポジションを取り、アイソメトリックでの最大出力時の各筋肉の活動レベルを測定した研究(7)でも、フルボトム(140度)はハーフ(90度)に比べて大腿四頭筋も大臀筋も活動レベルが低いことが示されている。



他にはフルボトムスクワットを推奨する人がよく引用している研究があって(8)、パラレルに対してフルボトムのほうが大殿筋の活動レベルが高いと言っているのだけど、よく読んでみたらパラレルが膝の角度90度になっていて、実際にはハーフスクワットとフルボトムスクワットの比較になっている。またEMGも平均とピークしか出していないので、膝の屈曲角度90度からフルボトムまでのどこの間で大殿筋の活動レベルが高くなっているのかわからず、この研究からはフルボトムスクワットがパラレルスクワットに比べて大殿筋を強く刺激すると主張することはできない。

以上、EMGの研究結果からは、ハーフ(膝屈曲角度90度)を超えてからパラレル付近まで下ろして上げると、大腿四頭筋と大殿筋に効果的に負荷をかけられると考えられる。フルボトムのポジションは、関節の角度(筋肉の長さ)の問題で力が入りにくく、体感的にはきつく感じるのだけど、筋肉の活動レベルはそれほど高くなっていない。


★スクワットの深さの違いによる筋肥大効果の差
スクワットのトレーニングを数週間行い筋肥大効果を調べた研究では、浅いスクワット(膝屈曲60度)とパラレルスクワットを比較したものがある(9)。この研究では、浅いスクワットよりもパラレルスクワットの方が大腿四頭筋の筋肥大は大きく有利という結果になっている。


膝の屈曲角度50度と90度を比較をした研究もあって(10)、90度のほうが大腿四頭筋の筋肥大に有利という結果になっている。

いずれの研究も、同じ%1RMでトレーニングを行っていて相対的な強度は同じにしている(浅いほうが重い重量でトレーニングをしている)。膝の屈曲角度が50-60度程度では重量が重くなっても、大殿筋の限界が先にきて大腿四頭筋の活動レベルがそれほど高くならないのか。それとも挙上距離の長さが筋肥大に影響しているのか。理由ははっきりとはわからないが、ハーフよりも浅い角度のスクワットは大腿四頭筋の筋肥大効果があまり高くないようだ。

パラレルとフルボトムの筋肥大効果を比較した研究は見つからなかった。パラレルよりもフルボトムのほうが挙上距離が少し長いので筋肉の行う仕事が大きくなり、それだけ筋肥大しやすい可能性がある。一方で、通常はフルボトムよりもパラレルのほうが少し重い重量を扱えるので(2)(3)、同じ%1RMならパラレルのほうが大腿四頭筋と大殿筋により強い負荷をかけることが出来る。どちらのほうが筋肥大に有利かは現状の研究からは判断しづらい。


★まとめ
深くしゃがむスクワットによる膝の怪我のリスクについては賛否両論がある。メカニズム的にはパラレルよりもフルボトムのほうが怪我のリスクが上がりそうな感じがするが、個人差も大きいこともあり、明確な判断はできない。筋肥大については、ハーフより浅いスクワットだと大腿四頭筋の筋肥大効果が低くなるので、ハーフよりは深くしゃがむほうが良いだろう。EMGの研究結果からするとパラレルを超えてフルボトムまで行うメリットは筋肥大の面ではあまりないと思う。

「なるべく怪我のリスクを小さくしながら、筋肥大効果を得る」ことを目的とする場合、リスクとリターンを考えると、ハーフを超えてパラレル程度までしゃがむスクワットを行うのが良いだろう。

もちろんパラレルまで絶対にしゃがまなければいけないわけではなくて、関節の可動域と体幹の安定性に問題のない範囲でスクワットを行う。

また、しゃがむ際に2-4秒程度かけてゆっくり丁寧にしゃがみ(コンセントリックは素早く挙げてOK)、低レップ高強度トレーニングの頻度を下げ、8-12レップ程度を中心にトレーニングを行うと、より怪我をしにくいだろう。




<参考文献>

(1)Knee biomechanics of the dynamic squat exercise.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11194098
https://www.wingate.org.il/_Uploads/358253%D7%A1%D7%A7%D7%99%D7%A8%D7%AA%20%D7%A1%D7%A4%D7%A8%D7%95%D7%AA%20%D7%A2%D7%9C%20%D7%A1%D7%A7%D7%95%D7%95%D7%90%D7%98.pdf

(2)Knee Kinetics during Squats of Varying Loads and Depths in Recreationally Trained Females
https://www.researchgate.net/profile/Joshua_Cotter/publication/323669263_Knee_Kinetics_during_Squats_of_Varying_Loads_and_Depths_in_Recreationally_Trained_Females/links/5aabfd8b0f7e9b4897bc8f0a/Knee-Kinetics-during-Squats-of-Varying-Loads-and-Depths-in-Recreationally-Trained-Females.pdf

(3)Knee Joint Kinetics in Relation to Commonly Prescribed Squat Loads and Depths
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4064719/

(4)Occupational and genetic risk factors for osteoarthritis: A review
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4562436/

(5)Association of squatting with increased prevalence of radiographic tibiofemoral knee osteoarthritis: the Beijing Osteoarthritis Study.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15077301

(6)Lower Extremity Muscle Functions During Full Squats
https://www.researchgate.net/publication/23656200_Lower_Extremity_Muscle_Functions_During_Full_Squats

(7)Muscle Activation Differs between Three Different Knee Joint-Angle Positions during a Maximal Isometric Back Squat Exercise_2016
https://www.researchgate.net/publication/305411768_Muscle_Activation_Differs_between_Three_Different_Knee_Joint-Angle_Positions_during_a_Maximal_Isometric_Back_Squat_Exercise_2016

(8)The Effect of Back Squat Depth on the EMG Activity of 4 Superficial Hip and Thigh Muscles
https://pdfs.semanticscholar.org/f6ec/81a44eb19ce3ab7636d09007171b45c54049.pdf

(9)Effect of range of motion in heavy load squatting on muscle
and tendon adaptations
http://highfit.com.br/wp-content/uploads/2017/03/Squat-BLOOMQUIST-2013.pdf

(10)Impact of Range of Motion During Ecologically Valid Resistance Training Protocols on Muscle Size, Subcutaneous Fat, and Strength
https://www.researchgate.net/publication/236581117_Impact_of_Range_of_Motion_During_Ecologically_Valid_Resistance_Training_Protocols_on_Muscle_Size_Subcutaneous_Fat_and_Strength

(11)The Biomechanics of Squat Depth
http://www.lookgreatnaked.com/articles/the_biomechanics_of_squat_depth.pdf

(12)Deep squatting: Good or Bad?
https://www.researchgate.net/publication/306372512_Deep_squatting_Good_or_Bad

(13)Squatting with Patellar Tendinopathy
https://www.strongerbyscience.com/squatting-with-patellar-tendinopathy/

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