5/29/2017

各セット限界まで追い込むべきか

筋トレでは、各セットで限界まで追い込んだほうが良いのか。それとも限界の手前で止めたほうが良いのか。議論が分かれるテーマだと思うけど、現状の研究結果から何か言えるか調べてみた。記事内容が長いし先に結果を書いておくと・・・筋トレの参考になる良い研究があまりない。


★RPE
各セットでどの程度追い込むかを示す便利な指標として、先にRPEを紹介しておく。RPE は Rate of Perceived Exertionの略。エクササイズの強度を測る10段階のスケールで、ウェイトトレーニングでのRPEは以下の感じ(検索すると色々な定義が出て来るが)。トレーニング経験がある人は、RPE5以上はかなり正確に自己判断できるようだ。

RPE
10 :もう1レップもできない。限界。
9.5 :わずかに重量上げても同じレップ数できるかも。もしかしたらあと1レップできるかも。
9 :あと1レップできる。
8.5 :あと1レップはできる。もしかしたら2レップできるかも。
8 :あと2レップできる。
7.5 :あと2レップはできる。もしかしたら3レップできるかも。
7 :あと3レップできる。
5-6 :あと4-6レップできる。ウォームアップレベル。
1-4 :楽ちん


★限界 vs 非限界のメタアナリシス研究
Effect of Training Leading to Repetition Failure on Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs40279-015-0451-3

Erratum to: Effect of Training Leading to Repetition Failure on Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs40279-016-0509-x

メタアナリシス研究だと、限界までやってもやらなくてもストレングスの伸びについては同じ、というシンプルな結論になっている。解析対象の研究の数が少ないし、ちょっと個別に見てみるか・・・と見てみたら、研究ごとに実験方法がバラバラで、これらを単純に比較してよいのか?と思ったので、各々の研究内容を見ていくことにする。(30秒ごとに1レップを続けるとかの研究は実用面からかけ離れているので除外した)


★個別研究
(1)(2)の研究はボリューム(重量×セット×レップ数の和)が一致している研究。(3)-(7)の研究はボリューム不一致。

(1) Training leading to repetition failure enhances bench press strength gains in elite junior athletes.
http://sportsperiodization.ir/pdf/Strength/st.5.pdf

被験者:アスリート(バスケとサッカーの選手)
種目:ベンチプレス
重量:6RMの80-105%
挙上速度:書いてない
セット数・レップ数:
限界グループ:4セット×6レップ固定(260秒サイクル) 
非限界グループ:8セット×3レップ固定(113秒サイクル) 
全セット終えるまでのトータルの時間は両グループとも13分20秒で同じ
トレーニング頻度:週三回
トレーニング期間:6週間

結果:限界グループのほうがストレングスが約2倍伸びた

コメント:
限界までとはいっても1,2セット目あたりは6RMの80%や90%の重量でやっているので、6レップやってもまだまだ余力があるはず。3,4セット目あたりで6レップが限界になるだろう。RPEで考えると、セットが進むにつれ6前後から10に負荷をあげていく感じで、割りと一般的なトレーニングプログラムだと思う。インターバル4分くらい取ってるし。

論文ではストレングスの伸びは神経系の適応によるものだろうと考察されているけど、被験者の現状の筋力(ベンチプレス6RMが70kg程度)で、追い込み度高めの4セットを週三回なら筋肥大もしてそうな感じがする。この研究の結果からは、インターバルをしっかりとって追い込み度高めのトレーニングをするほうが、各セットを最大回数の半分弱で止めてセット数を倍にするトレーニングよりもストレングスを伸ばす効果が高いと言えそう。個人的な感覚だと、筋肥大も同様の結果が出ると思う。


(2) Differential effects of strength training leading to failure versus not to failure on hormonal responses, strength, and muscle power gains
http://jap.physiology.org/content/100/5/1647

被験者:アスリート(バスク・ペロタの選手)
種目:ベンチプレス スクワット
トレーニング頻度:週二回
トレーニング期間:16週間
セット間インターバル:両グループとも約2分
重量:
前期6週間は10RMの重量(スクワットは10RMの80%の重量)
中期5週間は6RMの重量(スクワットは6RMの80%の重量)
後期5週間は85-90%1RM

セット数・レップ数
限界グループ:
前期6週間と中期5週間は3セット
後期5週間は3セット×2-4レップ(他にバリスティックトレーニング)

非限界グループ:
前期6週間は6セット×5レップ
中期5週間は6セット×3レップ
後期5週間は3セット×2-4レップ(他にバリスティックトレーニング)

後期5週間は両グループともピーキング期間。条件を揃えてから最終の1RM測定をする。ナイスな実験デザイン。

限界グループのレップ数は書いていない。全セット限界までかな? スクワットは10RM・6RMの80%の重量なので10レップ・6レップ以上できるが。

限界グループは途中で止まるかフルレンジできないと重りを外してすぐさまセットを続行。一回のトレーニングセッションで3,4回重り減らしが発生。非限界グループは重り減らしなし。重り減らしにより、厳密にはベンチプレスのトレーニングボリューム(重量×セット数×レップ数)は限界グループのほうが少なくなっていたと考えられる。スクワットは80%なのでよくわからない。

挙上速度:コンセントリックはフォームを崩さないよう注意しながら全速力で挙上。エキセントリックは丁寧に。非限界グループは75%-85%1RM程度で3-5レップを素早く挙上なので、実質的にパワートレーニングになる。限界グループは全セット限界までを2分インターバルなので疲労でヘロヘロになっていて、全速力で挙げても挙上速度は遅いと思われるので、パワートレーニングにならない。

結果:ストレングスの伸びは両グループとも同じ。ベンチプレスの筋持久力は限界グループのほうが伸びた。下半身のパワーは非限界グループのほうがやや有利か。

IGF-1やテストステロンやコルチゾールなど内分泌系の変化を見ると、限界までやらないほうがストレスレベルが低くアナボリックに好ましい傾向か。

コメント:
被験者は日常的にレジスタンストレーニングは行っているが、書かれているトレーニング時間からするとやりこんでるわけではなさそう。アスリートなので筋肉量はかなり多い。神経系の適応などでストレングスが伸びたと考えられる。

実験前後で除脂肪体重は増えていないので、筋肥大はしてないだろう。除脂肪体重70kg超え、スクワット1RMが170kg弱の人が、3セットを週二回だとボリュームが足りなくて筋肥大は難しい感じがする。筋肥大するにはカロリーオーバーにして体重も増やす必要もあるだろう。しかし16週間で体脂肪がやや減りつつスクワット1RMが170kg弱から200kgまで上がるとはアスリートはすごい。

この研究は、コンパウンド種目を短いインターバルで全セット潰れるまでのド根性トレーニングとパワートレーニングの比較になっている。趣味で筋トレする人にはあまり参考にならないかな。


(3) Is repetition failure critical for the development of muscle hypertrophy and strength?
https://www.researchgate.net/profile/John_Sampson2/publication/274007696_Is_repetition_failure_critical_for_the_development_of_muscle_hypertrophy_and_strength/links/57043cd608ae44d70ee0610e.pdf

被験者:一般人。最低6ヶ月間はレジスタンストレーニング無し。

種目:肘の屈曲
期間:まず4週間の慣れ期間。限界までのセットを行い慣れる。この期間の1RMの伸びをみて反応の良い人悪い人がバランス良く各グループに振り分けられるようにした。トレーニングへの反応の良し悪しには大きな個人差があって、反応の良い人が固まっていたら、それだけで良い結果が出てしまう。特にこの手の研究は1グループ10名程度しか被験者がいないことが多いので個人差の影響が大きい。これはナイスな実験デザイン。
そのあと12週間のトレーニング期間。
トレーニング頻度:週三回
重量:85%1RM
セット数:4セット
セット間:インターバル:3分
挙上速度:
RSグループ:コンセントリック素早く、エキセントリック2秒 限界までやらない
SSCグループ:コンセントリック素早く、エキセントリック素早く 限界までやらない
Cグループ:コンセントリック2秒、エキセントリック2秒 限界までやる
平均レップ数
RSグループ 4.2レップ
SSCグループ 4.2レップ
Cグループ 6.1レップ

結果:グループ間で1RMと筋肉の断面積(筋肥大)に有意差無し

コメント:限界までと、限界まで2レップ残しを比較したのは良いと思うが、挙上方法を揃えていないのがもったいない。あとトレーニング歴なしの被験者がアイソレート種目を行っているので、継続的にトレーニングをしている人のコンパウンド種目に当てはまるか不明。


(4) Concurrent endurance and strength training not to failure optimizes performance gains.
https://www.researchgate.net/publication/40483840_Concurrent_Endurance_and_Strength_Training_Not_To_Failure_Optimizes_Performance_Gains

被験者:アスリート(ボート競技の選手。ローイング能力が非常に重要なスポーツ)
トレーニング期間:8週間
トレーニング頻度:週2回(それに加えて8週間で計45回のローイングの有酸素トレーニング、週あたり平均460分)
セット数:3-4セット
重量:75%-92%1RM
レップ数:
限界グループは目標10-4レップ
非限界グループは限界グループの半分(5-2レップ)

グループ分け:
4種目 - ベンチプル、シーテッドケーブルロウ、ラットプルダウン、パワークリーン
2種目 - ベンチプル、シーテッドケーブルロウ

4RFグループ - 4種目・限界まで できなかったら途中で重り減らし
4NRFグループ - 4種目・非限界
2NRF - 2種目・非限界

インターバル:書いてない。上にも出てるこの人の別の研究からすると2分か?
挙上速度:コンセントリックはフォームを崩さないよう注意しながら全速力で挙上。エキセントリックは丁寧に。

結果:ストレングスとパワーともに4NRFグループ(4種目・非限界)が良い結果だった。

コメント:有酸素トレーニングに並行して、ボリュームを抑えたパワートレーニングをリニアピリオダイゼーションで行うことで、1RMとパワーの上昇が得られた。筋肥大によるものではなさそう。2NRFよりも4NRFグループのほうが良い結果なのは、パワークリーンの有無が影響していると思う。個人的にはベンチプルはやったことないけど、動画を見ると最大出力には脊柱起立筋と股関節の伸展の力も重要だろう。

体組成変化は、体重、除脂肪体重、体脂肪いずれも減少。各グループとも除脂肪体重は1kgくらい減少、体脂肪は1kg弱減少。

この研究は、被験者がやりこんでいる動作を鍛えている。有酸素トレーニングも並行して行っているので、パワーと持久力の両方が必要とされる競技のアスリートのトレーニングの指針になる。階級制でなくても、多くのスポーツは身体が出来て高いレベルになったら、体重を無駄に増やさず出来るだけストレングスとパワーを引き出したほうが、アジリティや持久力が犠牲にならないので好ましい。ボディメイクやボディビルはストレングスやパワーよりも筋肉が増えたほうが好ましい。

継続的にほぼ筋トレのみを行っている人が、馴染みの種目を伸ばすために限界までやるべきかどうかの参考になるかは・・・限界までやるのが体力面でのキャパオーバーになるなら、限界までやらないほうが良い結果を出せるとは言えると思う。


(5) Effects of Single vs. Multiple Sets of Weight Training: Impact of Volume, Intensity, and Variation
http://journals.lww.com/nsca-jscr/abstract/1997/08000/effects_of_single_vs__multiple_sets_of_weight.2.aspx

(6) Short-Term Performance Effects of Weight Training With Multiple Sets Not to Failure vs. a Single Set to Failure in Women.
http://journals.lww.com/nsca-jscr/Abstract/2000/08000/Short_Term_Performance_Effects_of_Weight_Training.14.aspx

両方とも似た内容。種目はスクワット。1セットを限界までと、複数セットを非限界までとを比較。複数セット非限界のほうが1RMが大幅に伸びた。ボリュームが違い過ぎるので当たり前の結果で、あまり見るところはなさそう(アブストラクトしか読めない)。


(7) Effect Of Resistance Training To Muscle Failure Versus Volitional Interruption At High- And Low-Intensities On Muscle Mass And Strength.
http://journals.lww.com/nsca-jscr/Abstract/publishahead/Effect_Of_Resistance_Training_To_Muscle_Failure.96151.aspx

被験者:一般人。最低6ヶ月間はレジスタンストレーニング無し。

トレーニング期間:12週間
トレーニング頻度:週二回
トレーニング種目:ニーエクステンション
インターバル:2分
セット数:3セット

グループ分け:
HIRT-F: 80%1RM 限界まで
HIRT-V: 80%1RM 自主的にセット終える
LIRT-F: 30%1RM 限界まで
LIRT-V: 30%1RM 自主的にセット終える

限界までの定義は、フルレンジが出来なくなったら。自主的にセット終えるの定義は、明確には書かれていないが限界の直前までらしい。次あたりでフルレンジ完遂できないかなってところで止めてると思われる。RPE9.5か10。実際のトレーニング結果を見ても、1セット目の平均レップ数が限界グループと自主的グループで同じくらいになっている。

トータルのボリューム(重量×総レップ数)は、高負荷グループ間(限界と自主的)で同じくらい、低負荷グループ間(限界と自主的)でも同じくらいという結果に。高負荷グループのほうがトータルのボリュームが低負荷グループよりも2,3割高かった。

結果:
ストレングス、筋肥大(外側広筋の断面積)の増加率は、全グループ間で有意差無し。

コメント:
RPE9.5か10と、潰れるまでを比較するのはあまり参考にならないかな。RPE8前後とRPE10の比較をした研究が望まれる。それと(3)の研究と同様に、トレーニング歴なしの被験者がアイソレート種目を行っているので、継続的にトレーニングをしている人のコンパウンド種目に当てはまるか不明。



★結論
現状のエビデンスでは、ほぼ筋トレのみを行っている人に参考になる研究があまりない。上記の研究からわかる範囲のことをまとめると、

- 最大回数の半分弱の回数で止めるよりは、ある程度追い込んだほうがストレングスが伸びるだろう。
- コンパウンド種目で短いインターバルで限界までのセットを続けると体力面でキャパオーバーする場合は、限界までやらずボリュームを減らしたほうが良さそう。
- アイソレート種目では限界まで2レップ残しや限界の一歩手前でも、トレーニング歴無しの人は限界までやった場合と同等の筋肥大効果を得られそう。
- 限界までを1セットだけやるより、限界までやらないセットを複数やったほうがストレングスは伸びるだろう。
- 専門競技のトレーニングと並行してレジスタンストレーニングを行うアスリートは、ボリュームを抑えたパワートレーニングがストレングスとパワーの向上に有効だろう。

将来的には、継続的にレジスタンストレーニングを行っている人を被験者にして、RPE8前後とRPE10の比較をストレングスと筋肥大についてやってほしいものです。


以下は個人的な考え方になるけど、トレーニングで重要なのは、

・長期的に見て、高い質のトレーニングを高ボリューム行う。このトレーニングの質と量は誰にでも当てはまる数字があるわけではなく、その時点での本人のレベルに適したトレーニングの質と量がある。
・漸進的過負荷を続ける。筋トレだったら、重量とボリュームが長期的に見て増加していく必要がある。

各セット限界までやったほうが良いかどうかは、上の2点を満たせるかで判断するのが良いと思う。一般的には限界までやると次のセット以降で重量かレップ数がガクンとさがり、トータルでのトレーニングボリュームが少なくなる。

また次セット以降低下するボリュームを補うためにセット数を増やせば良いやとセット数を増やして全セット限界までやったりすると、疲労が強くなり次のトレーニング日に質の高いトレーニングを行うことが難しくなる。長期的な視点で考えることが大切だろう。

限界までやらないことに抵抗がある人はこう考えるのはどうだろうか。

コンパウンド種目ではセットの限界までやっても、主に働く筋肉が同時に限界を迎えるわけではない。たとえばベンチプレスをセットの限界までやっても、大胸筋と上腕三頭筋と三角筋前部が同時に限界を迎えるわけではなく、どれかの筋肉が先に限界を迎え、他の筋肉にはまだ余力がある状態でセットを終える。さらに言えば、先に限界に達した筋肉でもスティッキングポイント以外ではまだ余力がある状況。それでも各筋肉は発達し、重量は伸びる。

ボリュームの稼ぎやすさと疲労度合いのバランスが良いのは、限界まで1-3レップ残し(RPE7-9)だろう。意識するポイントとしては、初めから数レップ残しで終わりと考えてやると、身体がサボって力を抜いたり体幹が緩んだりすることがあるので、例えば10RMの重量を10レップやるつもりで8レップで止めるのが良いと思う。

挙上スピードが低下してきたら止めるのも良い。フォームが重要で、怪我のリスクが高いコンパウンド種目は特に。

セット間インターバルは、一般的にはコンパウンド種目では3-5分程度、アイソレートではそれより短め。トレーニングの質と量を確保できるよう、自分に合ったRPEとインターバル時間を調整していくのが良いと思う。

各部位の最終セットやアイソレート種目に限定して限界までやるのも、疲労管理がうまくいくなら良いだろう。また時折、1RMの測定や3-5RMの測定を行い、限界チャレンジをするのもモチベーションにつながって良いと思う。


関連記事:
セット間インターバルの決め方

筋肥大トレの推奨ボリューム

なかなか筋肥大しない場合

筋肥大トレの変数調整

5/28/2017

[ボディメイク記録] 増量結果

前回の記録 5月29日
今回の記録 5月27日


★現状記録
筋グリコーゲンレベルは普通。直前のトレ履歴は、当日に下半身、前々日に上半身。


★身体計測
身長:180cm
体重:78.0kg(+7.0kg)
バスト:99.5cm(+1.5cm)
ウェスト:82.0cm(+8.0cm)
ヒップ:94.0cm(+6.5cm)
右上腕:30.0cm(+1.0cm)
左上腕:30.0cm(+1.5cm)
手首径:16cm
右大腿:54cm(-4.0cm)
左大腿:53cm(-4.0cm)
右カーフ:36.0cm(+1.0cm)
左カーフ:35.0cm(+0.5cm)
足首径:19cm


★主な種目のトレーニング重量
ベンチプレス・・・80kg×5reps
デッドリフト・・・125kg×4reps
スクワット(スミスマシン)・・・80kg×7reps
ヒップスラスト・・・85kg×10reps


★トレーニング種目明細
セット数: メイン4セットくらい。

メイン種目
- スクワット(週2回)
- デッドリフト(週2回)
- ヒップスラスト(週2回)
- ベンチプレス(週2回)

補助種目
- ルーマニアンデッドリフト
- インクラインベンチプレス(スミスマシン)
- ナローグリップベンチプレス
- インクラインベンチにうつ伏せになってラテラルレイズ
- 片腕トラップレイズ
- キューバンプレス
- フェイスプル
- ローイングマシン
- カーフレイズ
- 片腕ランドマインプレス
- ショルダープレス
- サイドレイズ
- フロントレイズ
- サイドレイズ
- デッドバグ(ドローインして骨盤後傾させて腹筋下部と外腹斜筋に力を入れて行う)


★増量プロセス
- 怪我で痛みがある時や姿勢矯正のエクササイズを中心にやっていた時期は維持カロリー。
- ストレスがキツイ時期は、筋肉増えにくいだろうと思って維持カロリー。
- トレーニングちゃんと出来る時期はオーバーカロリー。


★食事内容
- タンパク質の摂取量はだいたい2g/体重1kg/日。動物性食品とプロテインパウダーのみ摂取量にカウント。
- 食事回数は1日3回で、トレーニング日はトレーニング前にプロテインパウダーとスクロースを摂取。スクロースは角砂糖をお湯に溶いたもの。摂取カロリーの把握がしやすいので角砂糖を使っている。
- 脂質の摂取量はあまり把握していないけど、1g/体重1kg/日くらいだと思う。卵や魚や乳製品など高たんぱく質食品に付随する脂質を主に摂取した。揚げ物やドレッシングなどの付加的な脂質はあまり摂取していない。
- トータルカロリーの調整は炭水化物で行った。米、パスタ、ミューズリーが主体。甘いものも適当に。
- 健康のため、野菜、果物、豆も摂取。


★雑感
- 育児と仕事のストレスがキツイ時期がけっこうあった。トレーニングで力入らないし食欲落ちるし無理やり食べても脂肪ばかりつく気がするし、ストレスって大変だなあと思った。
- 昨秋あたりに肩の痛みや腿の付け根の痛みがあって、色々と調べて姿勢矯正と筋力バランス調整のエクササイズを取り入れた。この頃のブログ記事はだいたい自分の身体に起きた症状が題材になっている。おかげで快調になった。重量は伸びなかったけど、正しく身体を動かせている実感があるので楽しくトレーニングが出来ている。
- 昨冬から右肘が軽い上腕骨内側上顆炎(いわゆるゴルフ肘)になり、懸垂とアームカールが出来なかった。他の種目はスクワットやベンチプレスでバーを強く握ると痛くなる程度。たぶん赤子をあやすのに抱っこしすぎた。ちなみに現在の体重は8kgで、外出時に抱っこ紐で抱っこすることが多いんだけど、肋骨の後ろ側が痛くなったり(肩甲骨が押し付けられてる?)、背中が張ることがある。可愛いし喜ぶからついつい抱っこしすぎてしまう。
- ヒップスラストをやるようにした。デッドリフトやスクワットで尻に力が入るようになったし、骨盤の前傾も矯正されたしで、とても良いエクササイズだと思う。
- 片腕ランドマインプレスもとても良いエクササイズだと思う。肩関節への負荷を軽くして、三角筋前部を鍛えることが出来る。あと腕と肩甲骨がうまく連動しない人の訓練にもなる。


★怪我
- 雑感に書いた通り。


★今後の予定
- 2ヶ月くらいかけて減量する予定。無駄に脂肪がついたのでスッキリしたい。週末のビールは続けたい。


★現状


結果にコミットするための比較写真も撮っておいた。

5/23/2017

水素水の運動パフォーマンスへの効果

疲労について調べているときに(参考記事:「疲労のメカニズム」)、水素水が運動パフォーマンス向上(正確に言えば繰り返しの高強度運動のパフォーマンス低下を遅らせる)効果があるという研究を見つけて、えっ!?と思って調べてみた。


★水素水の運動パフォーマンスへの効果を調べた研究
Effects of hydrogen rich water on prolonged intermittent exercise.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28474871
pH9.8の水素水を一日2リットルを2週間。水素水群ではピークパワー出力が低下しなかった。アブストラクトしか読めず。

Pilot study: Effects of drinking hydrogen-rich water on muscle fatigue caused by acute exercise in elite athletes
https://medicalgasresearch.biomedcentral.com/articles/10.1186/2045-9912-2-12
パイロットスタディだけど。筑波大の研究っぽい。1.5リットルの水素水(pH書いてないけどマグネシウムスティックを使っているので弱アルカリ性のはず)をテスト前24時間に飲んだ。水素水群のみ20レップまでから40レップまででピークトルクの低下なし。とはいっても、実際のデータ(グラフ)を見ると、単に被験者数が少ないせいで水素水は有意差に達しなかっただけな感じもする。血中の乳酸塩レベルが水素水群で低下しているのは、H+が先に中和されて乳酸塩があまり生成されていないから?  (ちなみに論文著者は乳酸塩と疲労についての理解が間違っている)


★メカニズム
水素水が運動パフォーマンスに効果があるとしたら、それはどういうメカニズムなのか?と思って見つけたのが、水素水のアルカリ性に注目して、重曹の代わりに水素水をアシドーシス緩衝に使うのはどうかと書いている論文。

Serum Alkalinization and Hydrogen-Rich Water in Healthy Men
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3498110/
pH9.3の水素水を毎日2リットル一日かけて少しずつ飲むのを一週間続けたら、安静時と運動直後の血液pHが上昇。重曹に比べるとpHの上昇率は2分の1程度と小さいが、実験期間では特に副作用は報告されなかった。重曹よりも副作用の可能性がだいぶ低そうなので、水素水は運動による代謝性アシドーシスを緩衝するのに役立つ可能性がある。胃酸で中和されないのかな?と思ったけど、血液pH上昇してる。




高強度運動における代謝性アシドーシス(H+の蓄積)は、運動パフォーマンスを低下させる(疲労させる)と考えられている。H+を水酸化物イオンで中和することでこれを和らげる。

H+ + OH- = H2O


★重曹(NaHCO3)の運動パフォーマンスへの効果
Mechanistic Insights into the Efficacy of Sodium Bicarbonate Supplementation to Improve Athletic Performance.
https://sportsmedicine-open.springeropen.com/articles/10.1186/s40798-016-0065-9

Examin.com:Sodium Bicarbonate
https://examine.com/supplements/sodium-bicarbonate/

運動パフォーマンスへの重曹の効果は過去に多く研究されている。高強度の運動においてパフォーマンス(パワー、スピード、ワークキャパシティ、限界に達するまでの時間)を2-3%向上させる。

メカニズムとしては、H+を中和して処理することによりH+の蓄積が抑制される。これにより、解糖系の速度が低下しにくい、K+の細胞外への蓄積を抑制する、中枢系の疲労を遅らせるなどの効果が得られると推測される。つまり高強度の運動において疲労を遅らせることで、高い運動パフォーマンスを維持できるようだ。

また数は少ないが、重曹の継続的な服用と高強度の持久運動トレーニングにより、遅筋の有酸素能力(ミトコンドリアの効率性)が向上し、持久能力が向上することを示す研究もある。

重曹の副作用としては、胃腸の不快感、過度の摂取でアルカローシス、ナトリウムの過剰摂取、むくみ、パニック障害の人の発作を誘発など。運動パフォーマンス向上を期待できる推奨量[0.3g/体重kg]を摂取すると、体重70kgの人で一回5.7gのナトリウムを摂取することになる。

Sodium bicarbonate Side Effects
https://www.drugs.com/sfx/sodium-bicarbonate-side-effects.html
重曹の副作用いろいろ。

Effect of sodium bicarbonate on [HCO3 −], pH, and gastrointestinal symptoms
http://www.catedradeporte.com.ar/archivos/para%20analisis/Trabajo%203%20-%20Effect%20of%20Sodium%20Bicarbonate%20on%20Gastrointestinal%20Symptoms.pdf
胃腸に問題が起こる。



★クエン酸ナトリウム
アルカリ性水溶液の飲用によるアシドーシスの緩衝が疲労軽減に意味があるなら、なぜクエン酸ナトリウムでは運動パフォーマンスの向上が見られないのか? 気になったので調べたところ、

Thirty years of investigation on the ergogenic effects of sodium citrate:
is it time for a fresh start?
https://www.researchgate.net/publication/308709639_Thirty_years_of_investigation_on_the_ergogenic_effects_of_sodium_citrate_Is_it_time_for_a_fresh_start
クエン酸ナトリウム摂取後60-90分後に胃腸に不快感、3-4時間後に血液pH上昇のピークが2016年の研究で観察されたとのことで、それまでの研究ではクエン酸ナトリウム摂取から運動までの時間間隔が短すぎて、pHが上昇しきらず胃腸に不快感があるときに運動したためパフォーマンス向上が見られなかったのでは?との考察をしている。

ちなみにクエン酸ナトリウム水溶液は弱アルカリ性だけど、クエン酸水溶液は弱酸性。


★水素水の運動パフォーマンスへの効果
水素水で運動パフォーマンスに効果があったというのは、おそらく水素が原因ではなくて、重曹水と同様にアルカリ性の水を飲んだことが原因だと考えられる。従って、水素ガスを溶解させたタイプの中性の水素水だと効果が無いだろう。マグネシウムスティックを使うタイプか、電解タイプ(アルカリイオン水)で、pHが9-10程度のものを一日1.5-2リットル飲み続けると、効果があるかもしれない。

代謝性の疲労を少し遅らせる可能性があるのであって、数日間続く疲労の主要因である筋肉のダメージを減らすわけではないと考えられるので(もし運動で起こるレベルのアシドーシスが筋肉のダメージを促進するならアシドーシスを緩衝することで筋肉のダメージも減らせるが)、普段のトレーニングで水素水を飲んでもあまり意味がないだろう。

何か競技を行っている人が、試合のパフォーマンスを上げることを目的として、試合の一週間くらい前から飲むと効果が期待できるかもしれない。効果があったとしても重曹ほどのエルゴジェニック効果はなさそうだけど、重曹と違って副作用をほぼ心配せず試すことが出来る。また重曹と同様に継続的な摂取で遅筋の有酸素能力の向上も得られる可能性がある。アルカリ性水溶液としての水素水に価値があるとしたら、それは水素が健康な人にとっては毒にも薬にもならないから。(ざっと調べた感じではアルカリ性水素水のマグネシウムやカルシウムは数リットルで数十mg程度のようなので、重曹のナトリウムと違ってこれは問題にはならなそう)

競技は1-7分くらいの時間に全力を出すタイプのスポーツや、数十秒の最大出力をインターバルを挟んで繰り返すスポーツが向いているだろう。例えば中距離走やスピードスケートや自転車競技あたりだと思う。効果はあっても小さいと思われるので、わずかなパフォーマンス差が勝敗を分ける高いレベルのアスリート向け。バーン感の出る高レップ筋トレでも疲労を遅らせてボリュームを少し増やせる可能性があるけど、競技ではないので一回のトレーニングのボリュームを増やせても、次のトレーニングセッションまでの回復時間が長くなるだけであまり意味がないだろう。

5/17/2017

筋トレの疲労と回復方法

前提知識として、前回の記事「疲労のメカニズム」を参考に。


★筋トレのセッション中の疲労原因
高負荷・低レップ: ATPやPCrやCa2+や中枢系の疲労
中負荷~低負荷・中レップ~高レップ: 上に加えてH+やK+の蓄積がある考えられる。セット数が多くなるとグリコーゲンレベルの低下や筋肉のダメージもあるだろう。



★疲労からの回復時間
それなりに強い疲労状態からの各メカニズムの回復時間の目安。

ATP: 数十秒程度
PCr: 2-4分程度
H+: 数十分?
K+: 数十分?
Ca2+: 数十分~数日間?
グリコーゲン: しっかり食べれば24~48時間で回復
ダメージ: 数日間

疲労度合いやコンディションや個人差やどの程度までの回復を求めるのかによって回復時間は様々だろう。詳しくは調べていない。筋トレにとっては、ダメージ以外の疲労はあまり重要ではない。何かの競技の試合だと、分単位時間単位の回復は重要だけど、筋トレは一回のセッションでどう回復するかはあまり重要ではなくて、数日後に行う次のトレーニングセッションまでの回復が重要だろう。

筋肉へのダメージは、メカニカルなストレスによる筋原線維へのダメージ(フィラメントやZ線の変形)と、それに続いて起こる細胞膜の変形とカルシウムホメオスタシスの混乱を起こすと考えられている。従って収縮を担う繊維部分のダメージによる筋力低下に加えて、末梢系でのCa2+システムの疲労も起こると考えられる。また炎症性サイトカインによる中枢系の疲労も起こるだろう。筋肉痛だと痛みが邪魔して力が入らない(中枢系の運動指令が低下する)というのもある。

参考サイト:骨格筋の構造と筋収縮|動作のしくみから理解する(2)

疲労メカニズムの中では、たぶんダメージが最も回復に時間がかかる。トレーニングから1日や2日経っても1RMが数%程度低下しているのは、筋肉のダメージが主な要因だろう。トレーニングに慣れていなかったり、筋肉が伸びた状態でのエキセントリック動作をみっちりやったりするとダメージは大きくなる。また高ボリュームのトレーニングほどダメージが大きく回復に時間がかかる。

グリコーゲン以外の疲労は、EPOC(excess post-exercise oxygen consumption)のレベルと継続時間が、おおよその疲労のレベルと回復時間に一致する感じがする。筋トレ後数十分はEPOCが大きく、疲労も大きく、1RMの低下も大きい。24時間~48時間経過すると、EPOCはあっても数%程度で、1RMの低下も数%程度。(慣れたトレーニングを行った場合。不慣れなトレーニングだとEPOCも1RMの低下も大きくなる)



★疲労と筋肥大効果のオーバーラップ
おそらく完全にはオーバーラップしていない。疲労を抑えつつ、なるべく筋肥大効果を得ることが望ましい。長期的な成果を得るには、高い質と量のトレーニングを継続する必要がある。高い質と量のトレーニングを継続するには、疲労を適切に管理することが重要になる。

ダメージの大きいトレーニングは直後の筋合成を高めるけど長期的な筋肥大には関係しないという研究があるので、意図的に不慣れなトレーニングを行ったり、筋肉が伸びた状態でエキセントリック動作を集中的に行ったりしてダメージによる筋肥大を狙うのは、費用対効果(疲労-筋肥大のコスパ)が悪い感じがする。それではダメージをなるべく避けたほうが良いかというと、筋肉のダメージはサテライト細胞による筋繊維への新たな細胞核の提供により筋肥大のキャパシティを増やす可能性があるので、ダメージも一概に無駄とは言えないだろう。各種目でエキセントリック動作も丁寧に行う程度が、ほどほどのダメージを得られて良いのではないだろうか。

関連記事:筋肥大のメカニズム

また筋肥大目的で高負荷低レップのみのトレーニングを行うと疲労が強くなるようなので、筋肥大目的なら6-12レップのセットが大半を占めるようにするのが良いと思う。

関連記事:レップ数によるトレーニング効果の違い



★疲労からの回復
・トレーニング中の疲労回復
基本的には特異性の原則が適用され、筋持久力が必要な中レップ高レップトレーニングを続ければ、代謝物の蓄積などへの耐性がついて疲労に強くなる。

高負荷低レップはPCrの影響が大きいと考えられるので、トレーニングセッション中のトレーニングの時間効率を高めるには、全身持久力を高めるトレーニングを行い、PCrの回復速度を上げると良いだろう。

トレーニングセッション中の回復を早めたり疲労を遅らせたりするサプリもある。

ただ数十分以内の疲労対策を行うのは、何かの競技の試合では意味があるけど、筋トレでセット間の回復を早くしたり、疲労を遅らせることで各セットでの追い込み度を引き上げるのは、時間効率を高くする以外にはあまり意味がないと思う。

筋トレの成果にとって重要なのは、長期的に見て高い質と量のトレーニングを継続すること。それには各部位を数日間隔でトレーニングし、次のトレーニングまでに疲労を回復させて高い質と量のトレーニングを継続する。このスパンでの疲労は筋肉のダメージが主要因だと思われるので、筋肉のダメージをいかに回復させるかが重要だろう。



★ダメージの影響の評価軸
筋肉のダメージの影響の評価軸を大きく3つにわけると
- 痛み(筋肉痛)
- 筋力(1RMやジャンプ力)の低下
- 身体組織のダメージ・炎症度合い(クレアチンキナーゼなどの測定)

短いスパンで何かの競技の試合をする人にとっては、身体組織にダメージが残っていても、とりあえず痛みや筋力が早く回復して運動パフォーマンスを取り戻すことが重要だろう。筋トレでは身体組織のダメージが回復するのが重要だろう。

 

★筋肉のダメージの回復方法
筋肉のダメージからの回復方法について、数多くの方法が提案されている。ざっと調べたものを以下に紹介する。Pubmedやgoogle scholarで、EIMDで検索すると色々と出て来る(EIMDはExercise-Induced Muscle Damageの略)。

The Prevention and Treatment of Exercise-Induced Muscle Damage
https://www.researchgate.net/publication/5361673_The_Prevention_and_Treatment_of_Exercise-Induced_Muscle_Damage

筋肉のダメージの予防と事後ケアについて、色々な方法の効果をレビューしている。2008年の論文なので少し古め。

・抗酸化物質(ビタミンC、ビタミンE)
ビタミンC、ビタミンEの摂取による筋肉のダメージへの影響は、改善効果を示すものもあれば示さないものもあり結果が一貫していない。長期的な服用で効果があるかも。

・炭水化物とタンパク質
長時間の自転車こぎで、運動中と運動直後に炭水化物とタンパク質を合わせて摂取すると回復が早まるという研究がある。一方で、大腿四頭筋のエキセントリック動作100レップでは効果がでなかったという研究がある。長時間の運動だと、運動中に栄養供給したほうが良さそう。

HMB 
研究の数が少なく結果も一貫していない。もしかしたらダメージ軽減に効果があるかも。

・NSAIDs
ダメージの緩和効果は一貫していない。ダメージの回復と筋肥大を阻害する可能性があるので使用は推奨されない。

・運動前のストレッチ
スタティックストレッチは筋肉のダメージ軽減に効果なし。パッシブストレッチは少し効果あるかも。

・マッサージ
運動後にマッサージするのは痛みの緩和とダメージ指標の低減にに効果があるようだ。パフォーマンスの改善は見られず。

・電気療法の類
痛みの緩和に効果がありそう。ただ個別の筋肉をアイソレートして刺激することしか出来ないので、あまり実用的ではない。


・軽い運動
一時的に痛みが和らぐが、またもとに戻る。ダメージの回復にはあまり効果がなさそう。

・リピーテッドバウトエフェクト(repeated bout effect)
不慣れな運動は最初は大きなダメージ起こるけど、2度め以降はダメージが小さくなる。これをリピーテッドバウトエフェクトと言う。不慣れな種目を行う時や、休養からトレーニングを再開するときは、最初はボリュームを少なくするのが良い。ボリュームが少なくてもリピーテッドバウトエフェクトは得られる。


・ソイプロテイン
Soy Beverage Consumption by Young Men
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J133v03n01_03?journalCode=ijds19

Four Weeks of Supplementation With Isolated Soy Protein Attenuates Exercise-Induced Muscle Damage and Enhances Muscle Recovery in Well Trained Athletes: A Randomized Trial.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5098124/

ソイプロテインの継続的な摂取により、抗酸化作用が筋肉のダメージ軽減に効くかも。


・オメガ3脂肪酸
Effect of an acute dose of omega-3 fish oil following exercise-induced muscle damage.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28213750

Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids in Physical Performance Optimization
http://www.cis.edu.rs/wp-content/uploads/kurs/XVII-predavanje/reference/omega-3-fatty-acid-and-sport-performance-ISNEM_2013.pdf

オメガ3脂肪酸は、筋肉痛の緩和とそれに伴うパフォーマンス改善、あと炎症反応の抑制が期待できるかも。結果があまり一貫していない。ただ健康には良いのでオメガ3脂肪酸は積極的に摂取したほうが良い。一日1-3g程度が目安。サプリは高価なのでイワシやサンマなどの100円くらいの缶詰がおすすめ。良質のタンパク質と良質のカルシウムも摂取できる。マグロなど食物連鎖の上位の魚は水銀リスクがあるのでほどほどに。


・クルクミン
Reduced inflammatory and muscle damage biomarkers following oral supplementation with bioavailable curcumin.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214647416300034
痛みは改善しないが、ダメージの指標がかなり改善。ただこの研究は企業から資金提供を受けている。筋肉のダメージへのクルクミンの効果を調べた研究はこれしか見つからなかった。

Examin.com:Curcumin
https://examine.com/supplements/curcumin/
クルクミンには抗炎症作用があるようだ。クルクミン単体だと人体に吸収されにくいのでピペリンと合わせて飲む。クルクミンサプリは結構高価。ウコンの力は・・・クルクミンの含有量が上の実験で使用したサプリよりだいぶ少ない。


・一時的に血流を止める
The effect of intermittent lower limb occlusion on recovery following exercise-induced muscle damage: A randomized controlled trial.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28153608

一時的に血流を止めるのを繰り返すと(たぶん加圧トレーニングのように縛って圧迫)、身体組織のダメージの回復が早まり、筋力も早く回復するようだ。腕と脚にしか使えない。素人が自己流でやらないほうが良いだろう。

Mechanisms underpinning protection against eccentric exercise-induced muscle damage by ischemic preconditioning.
http://www.medical-hypotheses.com/article/S0306-9877(16)30707-1/fulltext

ダメージの予防として事前に血を止めるのも提案されている。メカニズム的には事前に軽く筋肉にストレスを与えて、リピーテッドバウトエフェクト引き出すようだけど、トレーニング後の回復中にストレスを与えると良くない気がするが・・・。抗炎症作用が高まるようなので、それが事後でもダメージ回復につながるのだろうか。


・フォームローラーやローラーマッサージャー
THE EFFECTS OF SELF‐MYOFASCIAL RELEASE USING A FOAM ROLL OR ROLLER MASSAGER ON JOINT RANGE OF MOTION, MUSCLE RECOVERY, AND PERFORMANCE: A SYSTEMATIC REVIEW
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4637917/

フォームローラーやローラーマッサージャーによるマッサージは、筋肉痛を和らげてパフォーマンスを回復させる可能性があるみたいだけど、筋肉のダメージ自体の回復が早まっているのかは微妙な感じ。血行が良くなることで、栄養と酸素が筋肉に運ばれ回復が早まる可能性はある。筋肉は使い続けると固く縮こまりやすいので、フォームローラーなどで筋肉をケアするのは、長期的には重要だろう。

・冷水に浸かる
What are the Physiological Mechanisms for Post-Exercise Cold Water Immersion in the Recovery from Prolonged Endurance and Intermittent Exercise?
https://www.researchgate.net/publication/295077960_What_are_the_Physiological_Mechanisms_for_Post-Exercise_Cold_Water_Immersion_in_the_Recovery_from_Prolonged_Endurance_and_Intermittent_Exercise

運動直後に冷水に浸かり上昇した体温を下げることで、体温上昇による中枢系の疲労を和らげる、後回しにされていた筋肉への血流を回復させて回復を早める、副交感神経優位にすることで強度の高い運動によるストレスを緩和し回復モードに早く入る(ただしその日の運動パフォーマンスは落ちるので一日のうちに複数回試合を行う場合は避けたほうが良い)、といったメカニズムで疲労回復に効果がありそう。

筋肉のダメージ回復への効果では、全身を使う長時間の持久運動や、ダッシュを繰り返すチームスポーツなどでは筋肉のダメージへの効果が繰り返し示されているが、単関節のエキセントリック運動で筋肉にダメージを与えた場合は冷水に浸かっても回復効果が示されない。筋トレだと、スクワットやデッドリフトで全身が疲れてダルくなった場合はトレーニング後に冷水に浸かると良いかもしれない。特に夏場。

ただ浸かりすぎると筋肥大にマイナスかもしれないので、冷たすぎる水に10分以上浸かるのは止めたほうが良さそう。運動後に頭が熱でぼーっとしてる場合に水に浸かって、それがおさまったらすぐ出るのが良いだろう。ジムにプールが併設されているなら、軽く泳ぐのも良いだろう。


・コンプレッションウェア
Effects of Compression Garment Pressure on Recovery from Strenuous Exercise.
http://research.stmarys.ac.uk/1322/9/The%20effects%20of%20lower%20limb%20compression%20garment%20pressure%20REVISED%20Nov%20V1.pdf

高い圧力のコンプレッションウェアを運動後に着用し続けるのはパフォーマンス回復に効果がありそう。この実験では14.8  ±  2.2  mmHg  at 170 the thigh and 24.3 ± 3.7  mmHg at the calf のコンプレッションウェアを運動後72時間シャワー時以外着用し続けた。Discussionによるとクレアチンキナーゼなどの指標はこの実験では改善しなかったが、他の実験では回復を示すものもあった。この実験では実験で与えたダメージが小さかったのではと考察されている。メカニズムとしては筋肉を支えることで身体組織が無駄に動かず回復が早まる可能性があるが、正確な仕組みはよくわかっていないとのこと。



★最後に
疲労回復の効果は、トレーニングの種類、強度、施術の方法(水温、コンプレッションウェアの圧力、マッサージ系の方法など)、サプリの摂取量、タイミングなどによって変わってくると考えられる。現状の研究では各方法ともベストの量やタイミングを突き詰めることはできていない。またこれまでの研究で効果が出ていないものも、タイミングや量を変えることで効果が出るかもしれない(少なくとも効果が出そうなメカニズムの仮説が存在すれば)。


5/09/2017

疲労のメカニズム



Fatigue in Sport and Exercise
Shaun Phillips


疲労ってなんだろう?と最近考えていて、適当に探してみたら良い本が見つかった。運動による疲労について書かれていて、慢性的に身体がダルいなど病気の疲労は扱わない。2015年出版なのでかなり新し目の情報が得られる。著者はエディンバラ大学の講師。運動生理学を学ぶ大学生向けのテキストのようだ。

この本で取り上げられるのは、現時点でわかっている疲労の主なメカニズム。細かいものは他にもあるし、今後の研究でアップデートされていくだろう。

研究結果についての解釈で注意したいのは、生体外(in vitro)と生体内(in vivo)では挙動が異なる場合も多くあり、生体外でしか確認されていないメカニズムもあるので、疲労の原因だと断言するのが難しいものもある。そのため、~の可能性がある、~かもしれない といった表現が多い。

この記事では本の内容を簡単にまとめる。


★疲労(fatigue)とは何か
運動の継続による筋力の低下や、疲れているという感覚(主観的な苦しさや筋肉のバーン感など)を特徴とする現象。

しかし現時点でも、研究者の間では疲労についての明確な共通の定義が定まっていない。fatigueとexhaustion(力を使い果たすこと)の区別も曖昧。そのため研究結果の比較や解釈が難しくなっている。

例えば、運動を続けていると競技に必要なパフォーマンスの継続が難しくなること、最大の筋力を保てなくなること、徐々に出力が低下すること、など様々な疲労の定義がある。

実際に、スプリント、長距離走、チームスポーツ、ストレングス競技など運動の種類によって疲労は異なる。また疲労のメカニズムについては依然として解明されていないことが多くあるので、定義が明確に定まっていないほうが、探求の幅を狭めたり先入観を持って研究したりということが避けられるメリットもある。



★疲労の測定の難しさ
筋力の変化を測定したり、EMGで筋肉の活動を調べたり、筋肉の組織を採取したり、血液検査をしたり、TMSで脳の活動を調べたり、MRIで身体内部の活動を調べたりといった手段があるけど、疲労の一部分しかわからないし、運動している人間をリアルタイムで測定するのはとても難しい。



★神経-筋肉の伝達経路
前提知識として、脳から運動指令が出て、筋肉に到達し、筋肉が収縮するまでを簡単に書いておく。

まず、脳から筋肉まで・・・

脳→神経→脊髄→神経→筋肉

筋肉に電気信号が到達してから筋繊維が収縮するまで・・・

神経→(電気信号)→神経終末→アセチルコリン放出→Na+が筋細胞内に流入(脱分極)→T管が脱分極→リアノジン受容体が開孔→筋小胞体からCa2+が放出→Ca2+がトロポニンCに結合→アクチンとミオシンの滑走(筋繊維の収縮)

参考サイト:
神経のしくみと機能|動作のしくみから理解する(7)
https://www.kango-roo.com/sn/k/view/1989

骨格筋収縮のメカニズム(1)|骨格筋の機能
https://www.kango-roo.com/sn/k/view/2088

骨格筋収縮のメカニズム(2)|骨格筋の機能
https://www.kango-roo.com/sn/k/view/2089



★疲労の起こる場所の分類
大きく分けて、中枢系(central)と末梢系(peripheral)の疲労がある。
- 中枢系の疲労は、中枢神経系(脳と脊髄と運動神経)で起こる疲労(主に脳)
- 末梢系の疲労は、神経と筋肉の接合部分から先の部分で起こる疲労(主に筋肉)

中枢系の疲労と末梢系の疲労は、それぞれ独立しているわけではなく、相互作用をしていると考えられる。



以下、主な疲労のメカニズムである、エネルギーの枯渇、代謝性アシドーシス、脱水と体温上昇、カリウムとカルシウム、中枢系の疲労を順に見ていく。


★エネルギーの枯渇
・ATP

ATP + H2O ⇔ ADP + Pi + H+ + energy

ATPの貯蔵量:筋肉の最大出力を2秒間続けられるだけの量

ATPの補充ルート
- PCr(クレアチンリン酸)系
- 無酸素(解糖)系
- 有酸素系

強度の高い運動であっても筋肉内のATPレベルは60%以下には低下しない。ただ個別の筋繊維(特に速筋)を見ると20%程度の低いレベルまで低下することもあり、疲労の原因になっている可能性がある。

ATPレベルが身体組織にとって危機的な水準まで低下しないように身体活動にブレーキをかけるのが疲労の役割だという見方もある。


・PCr(クレアチンリン酸)

PCr + ADP + H+ ⇔ ATP + Cr

PCrの貯蔵量:筋肉の最大出力を10秒間続けられるだけの量

理想的な状況下ではPCrの貯蔵量は2-4分で回復する

- 6秒のスプリントでPCrの貯蔵レベルは35-55%に低下
- 20秒のスプリントでPCrの貯蔵レベルは27%に低下
- 30秒のスプリントでPCrの貯蔵レベルは20%に低下

5-30秒のスプリントではPCrレベルの低下が疲労の一因になっているようだ。ただ完全に枯渇はしていないので他にも疲労の要因があると考えられる。

PCrの回復の早さは全身持久力と相関する。高強度の運動を繰り返し行う場合、全身持久力を高めるトレーニングを行っておくと、回復が早まり高いパフォーマンスを維持することが出来るだろう。


・グリコーゲン
長時間の運動で筋グリコーゲンの貯蔵レベルが大きく低下した場合でも、筋肉内のATPレベルは保たれている。
ただ、筋繊維内のグリコーゲンの低下が局所的なATPレベルの低下を招き、筋小胞体からのCa2+の放出を阻害することで、筋繊維の収縮が抑制される可能性がある。

また長時間の運動で肝グリコーゲンが枯渇することにより低血糖になり、中枢系と末梢系の両方の疲労を引き起こす可能性があるが、これには個人差がかなりあるようだ。


・脂質
トリグリセリドの形で脂肪組織に大量と、筋肉内に少量貯蔵されている。トリグリセリドはグリセロールと脂肪酸に分解され、脂肪酸が筋肉に取り込まれ酸素を用いてATPを再合成する。

脂肪酸→アセチルCoA→(β酸化)→クレブス回路

脂質は大量にあるので疲労には直接には関わらないが、もし脂質を優先的に使用することでグリコーゲンの消費を抑えることが出来れば、疲労を遅らせることが出来る。実験では炭水化物の摂取を制限し空腹時の運動をすることで脂質を優先的に使用する適応が起きるが、再び炭水化物を摂取すると元に戻るので、グリコーゲンを蓄えた状態で脂質を優先的に使用してグリコーゲンを節約し疲労を遅らせることが出来るかは微妙なところ。

図. スプリントの際のATP再合成源エネルギーシステムの割合推移

図. 持久運動の際の主なエネルギー源の割合推移




★代謝性アシドーシス
・乳酸への誤解
グルコースの解糖ではピルビン酸塩が生成され、その過程でH+も生成される。高強度の運動ではクレブス回路によるピルビン酸塩の有酸素代謝が間に合わず、ピルビン酸塩が蓄積していく。ピルビン酸塩が蓄積されると解糖ペースが落ちて運動パフォーマンスが低下し、またH+が蓄積されると酸性度が高くなりすぎ体組織の機能に悪影響がでる。H+を処理しつつピルビン酸塩を乳酸塩に変換することでこれを防ぐ。

ピルビン酸塩 + NADH+ + H+ → 乳酸塩 + NAD+

このようにグルコースの解糖の結果、生成されるのは乳酸塩であって乳酸ではない。また乳酸塩はピルビン酸塩とH+を処理することで疲労を和らげる役割を果たしていて、乳酸が溜まるから疲れるわけではない。

乳酸塩は運動後1時間くらいで無くなるので筋肉痛の原因にはならない。またバーン感が乳酸塩によるものだというエビデンスはない。バーン感は、H+などの蓄積や、筋繊維の収縮によるメカニカルな刺激を神経が検知しているのかもしれない。


・H+によるアシドーシスの影響
1) Ca2+がトロポニンCへ結合する際にH+が競合することで筋収縮を弱くするかもしれないが、あってもわずかだと考えられ、むしろ酸性環境ではカルシウムポンプに結合するCa2+が減り、そのぶんトロポニンCに多くのCa2+が結合することが出来、筋収縮に好都合の可能性がある。

2) H+はクロスブリッジによる力の生成を妨げ、その結果筋力の低下を起こす可能性がある。また筋収縮の最大収縮速度を低下させる可能性もある。

3) 高強度の運動による血液内のH+の増加は、酸素と結合するヘモグロビンの割合を減らし、脳に運ばれる酸素量が少なくなることで、中枢系の疲労の原因になる可能性がある。



★脱水と体温上昇
脱水と体温上昇は、主に長時間の持久運動や屋外でのスポーツで問題になる。

・脱水
血液中から水分が減ることで、一拍ごとに心臓から送り出される血液の量が減り、心拍数を増やすことでこれを補う。また内蔵などコア部分への血液が優先され、皮膚へ回される血液量が減ることで、体表面からの放熱が妨げられ体温が上がり、これも疲労につながる。また筋肉への血流も少なくなり、グリコーゲンの消費量が増えることで疲労が早まる。

脱水になると運動の主観的な辛さが増す。

運動による脱水で体重が2%減るとパフォーマンスに悪影響が出るという研究結果があるが、これは他人に決められたペースで運動し続けた場合。自分でペースをコントロールできる状況では、この程度の脱水では悪影響は出ない。

そもそも運動による体重減少は、減少分がそのまま水分不足になるわけではない。例えばグリコーゲンは水と一緒に1:3の割合で貯蔵されているが、運動でグリコーゲンが消費されてそれにくっついていた水が発汗で失われたとしても、身体は水分不足の状況にはならない。

水分補給は、「喉が渇いたら適宜飲む」という戦略が最も効果的なようだ。体重減少分を無理して飲む必要は無い。飲み過ぎも飲まなすぎも極端なのは悪影響が出る。


・体温上昇
高温多湿の環境で体温上昇しやすい。

体温上昇により、脳の温度上昇、脳への血流減少、脳の活動低下、脳からの運動指令の低下が起こり、これらが疲労になっていると考えられる。

体表面の温度の上昇により、放熱のための皮膚への血流が増加することで、筋肉への血流が減少し疲労につながる。



★カリウムとカルシウム
・カリウム
運動神経から伝わってきた活動電位が筋肉の細胞膜に伝わりそれが筋全体に伝搬する仕組み
A:脱分極
ナトリウムチャネルが開き、Na+が細胞内に流入し、電位上昇。
B:再分極 
ナトリウムチャネルが閉じ、カリウムチャネルが開き、K+が流出し、電位が低下する。
C:過分極
カリウムチャネルが開き続け、電位が安静時よりも低下する。
D:安静時の電位
カリウムチャネルが閉じ、ナトリウム・カリウムポンプの働きにより安静時の電位に戻る。

理屈の上では、筋肉の活動が続いて細胞外へのK+の流出が続くと、細胞内のK+が少なくなり、脱分極による活動電位の上昇が小さくなり、筋小胞体からのCa+放出が少なくなり、筋肉の収縮が弱くなる。

ただ生体内ではこれをカバーするメカニズムが色々とあるようだ。動員する運動単位を切り替えて負荷分散したり、発火頻度を調整して活動電位を必要最小限に抑えて筋肉を収縮させたり、活動電位が多少低下してもCa2+の放出には十分だったり、ナトリウム・カリウムポンプが筋肉の活動中もNa+とK+のバランス調整を行いK+の蓄積を抑制したり、Cl-の存在がK+の蓄積や細胞内への流入を促進したり・・・といったメカニズムにより、K+の細胞外への蓄積は疲労の大きな原因ではないと現時点では考えられる。

一方で、細胞外のK+の蓄積は、求心性神経を刺激し、脳がそれを検知し、疲れているという感覚やバーン感を感じさせ、脳からの運動信号の弱まりをもたらす可能性がある。


・カルシウム
筋小胞体からCa2+が十分に放出され、それが再び取り込まれることは、筋肉の活動にとって非常に重要である。この働きが低下すると筋肉の出力が弱まる。

1) グリコーゲンレベルが低下すると、筋小胞体の機能が低下し、Ca2+の動きが妨げられ、筋肉の収縮が弱まる(疲労する)。

2) 無機リン酸塩(Pi)
PCrの分解やATPの加水分解でPiが生成される。
- Piが蓄積されると筋収縮が妨げられる。
- Piが蓄積されると、Ca2+に対する筋収縮の感受性が低下し、Ca2+の量が同じだった場合でも筋力が低下する。
- Piは筋小胞体からのCa2+放出チャネルを抑制し、また筋小胞体内でPiがCa2+と結合し蓄積することで、Ca2+の放出が低下し、筋力の低下(筋肉の疲労)を引き起こす可能性がある。

3) Mg2+の蓄積によりCa2+への感受性の低下や、筋小胞体からのCa2+の放出の減少が起こる。



★中枢系の疲労
・末梢系からのフィードバック
筋肉の収縮によるメカニカルな刺激や、代謝物の蓄積による化学的な刺激が求心性神経によって脳に伝えられ、そのことにより脳からの運動指令が抑制され、筋肉の活動が弱まる。

・脳内の神経伝達物質
セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンが脳の疲労に関わっているようだ。ただ、前駆体や受容体ブロッカーの投与により高温での長時間の運動のみパフォーマンスが変化するなど、一定条件下で脳の疲労に影響を及ぼしているようだ。

・アンモニア
運動中の筋肉では、プリンヌクレオチドサイクルでの脱アミノ反応とBCAAの酸化によりアンモニアが生成される。アンモニアの疲労への影響は、長時間の運動による認知能力への悪影響に限られると考えられる。

・サイトカイン
運動中の筋肉からは、エネルギー枯渇(主にグリコーゲンレベルの低下)により、炎症性サイトカインであるインターロイキン-6(IL-6)の生成量が急増する。運動による筋肉へのダメージによっても、IL-6は作られるようだ。また同時にIL-1とTNF(腫瘍壊死因子)も生成される。これらの炎症性サイトカインは血液経由で中枢神経系に働きかけ眠気や発熱を促す効果がある。これらのサイトカインにより、運動による疲労感を感じるようだ。IL-6の投与により、疲労感の増大と運動パフォーマンスの低下が見られる。サイトカインは神経伝達物質の働きにも影響を与えるようだ。病気の時の慢性的な疲労感やダルさにもサイトカインは関わっている。

・意識下・無意識下でのペース配分
運動を完遂するのに必要なペース配分を、意識的に、もしくは無意識で調整して、その調整に疲労感が使われているという説。オーバーペースだと疲労を感じ、ペースが遅いと楽に感じる。生理学的な疲労現象が起きて脳が疲労を感じるだけではなく、ペース配分の調整のために脳が疲労を感じて、体力の使い方を調整する。持久運動で途中どんなに疲れていても、大抵はゴールが近づくと主観的に楽になるし、実際に身体も動くようになってラストスパートが出来る。

またもっと極端な状況、例えばATP、PCr、グリコーゲンといったエネルギーが完全に枯渇したり、代謝物が溜まりすぎたり、体温が上昇しすぎたりして、身体が危機的な状況になるのを防ぐため、疲労感を用いて身体活動にブレーキをかけているという考え方も出来る。



関連記事:
筋トレの疲労と回復方法