5/23/2017

水素水の運動パフォーマンスへの効果

疲労について調べているときに(参考記事:「疲労のメカニズム」)、水素水が運動パフォーマンス向上(正確に言えば繰り返しの高強度運動のパフォーマンス低下を遅らせる)効果があるという研究を見つけて、えっ!?と思って調べてみた。


★水素水の運動パフォーマンスへの効果を調べた研究
Effects of hydrogen rich water on prolonged intermittent exercise.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28474871
pH9.8の水素水を一日2リットルを2週間。水素水群ではピークパワー出力が低下しなかった。アブストラクトしか読めず。

Pilot study: Effects of drinking hydrogen-rich water on muscle fatigue caused by acute exercise in elite athletes
https://medicalgasresearch.biomedcentral.com/articles/10.1186/2045-9912-2-12
パイロットスタディだけど。筑波大の研究っぽい。1.5リットルの水素水(pH書いてないけどマグネシウムスティックを使っているので弱アルカリ性のはず)をテスト前24時間に飲んだ。水素水群のみ20レップまでから40レップまででピークトルクの低下なし。とはいっても、実際のデータ(グラフ)を見ると、単に被験者数が少ないせいで水素水は有意差に達しなかっただけな感じもする。血中の乳酸塩レベルが水素水群で低下しているのは、H+が先に中和されて乳酸塩があまり生成されていないから?  (ちなみに論文著者は乳酸塩と疲労についての理解が間違っている)


★メカニズム
水素水が運動パフォーマンスに効果があるとしたら、それはどういうメカニズムなのか?と思って見つけたのが、水素水のアルカリ性に注目して、重曹の代わりに水素水をアシドーシス緩衝に使うのはどうかと書いている論文。

Serum Alkalinization and Hydrogen-Rich Water in Healthy Men
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3498110/
pH9.3の水素水を毎日2リットル一日かけて少しずつ飲むのを一週間続けたら、安静時と運動直後の血液pHが上昇。重曹に比べるとpHの上昇率は2分の1程度と小さいが、実験期間では特に副作用は報告されなかった。重曹よりも副作用の可能性がだいぶ低そうなので、水素水は運動による代謝性アシドーシスを緩衝するのに役立つ可能性がある。胃酸で中和されないのかな?と思ったけど、血液pH上昇してる。




高強度運動における代謝性アシドーシス(H+の蓄積)は、運動パフォーマンスを低下させる(疲労させる)と考えられている。H+を水酸化物イオンで中和することでこれを和らげる。

H+ + OH- = H2O


★重曹(NaHCO3)の運動パフォーマンスへの効果
Mechanistic Insights into the Efficacy of Sodium Bicarbonate Supplementation to Improve Athletic Performance.
https://sportsmedicine-open.springeropen.com/articles/10.1186/s40798-016-0065-9

Examin.com:Sodium Bicarbonate
https://examine.com/supplements/sodium-bicarbonate/

運動パフォーマンスへの重曹の効果は過去に多く研究されている。高強度の運動においてパフォーマンス(パワー、スピード、ワークキャパシティ、限界に達するまでの時間)を2-3%向上させる。

メカニズムとしては、H+を中和して処理することによりH+の蓄積が抑制される。これにより、解糖系の速度が低下しにくい、K+の細胞外への蓄積を抑制する、中枢系の疲労を遅らせるなどの効果が得られると推測される。つまり高強度の運動において疲労を遅らせることで、高い運動パフォーマンスを維持できるようだ。

また数は少ないが、重曹の継続的な服用と高強度の持久運動トレーニングにより、遅筋の有酸素能力(ミトコンドリアの効率性)が向上し、持久能力が向上することを示す研究もある。

重曹の副作用としては、胃腸の不快感、過度の摂取でアルカローシス、ナトリウムの過剰摂取、むくみ、パニック障害の人の発作を誘発など。運動パフォーマンス向上を期待できる推奨量[0.3g/体重kg]を摂取すると、体重70kgの人で一回5.7gのナトリウムを摂取することになる。

Sodium bicarbonate Side Effects
https://www.drugs.com/sfx/sodium-bicarbonate-side-effects.html
重曹の副作用いろいろ。

Effect of sodium bicarbonate on [HCO3 −], pH, and gastrointestinal symptoms
http://www.catedradeporte.com.ar/archivos/para%20analisis/Trabajo%203%20-%20Effect%20of%20Sodium%20Bicarbonate%20on%20Gastrointestinal%20Symptoms.pdf
胃腸に問題が起こる。



★クエン酸ナトリウム
アルカリ性水溶液の飲用によるアシドーシスの緩衝が疲労軽減に意味があるなら、なぜクエン酸ナトリウムでは運動パフォーマンスの向上が見られないのか? 気になったので調べたところ、

Thirty years of investigation on the ergogenic effects of sodium citrate:
is it time for a fresh start?
https://www.researchgate.net/publication/308709639_Thirty_years_of_investigation_on_the_ergogenic_effects_of_sodium_citrate_Is_it_time_for_a_fresh_start
クエン酸ナトリウム摂取後60-90分後に胃腸に不快感、3-4時間後に血液pH上昇のピークが2016年の研究で観察されたとのことで、それまでの研究ではクエン酸ナトリウム摂取から運動までの時間間隔が短すぎて、pHが上昇しきらず胃腸に不快感があるときに運動したためパフォーマンス向上が見られなかったのでは?との考察をしている。

ちなみにクエン酸ナトリウム水溶液は弱アルカリ性だけど、クエン酸水溶液は弱酸性。


★水素水の運動パフォーマンスへの効果
水素水で運動パフォーマンスに効果があったというのは、おそらく水素が原因ではなくて、重曹水と同様にアルカリ性の水を飲んだことが原因だと考えられる。従って、水素ガスを溶解させたタイプの中性の水素水だと効果が無いだろう。マグネシウムスティックを使うタイプか、電解タイプ(アルカリイオン水)で、pHが9-10程度のものを一日1.5-2リットル飲み続けると、効果があるかもしれない。

代謝性の疲労を少し遅らせる可能性があるのであって、数日間続く疲労の主要因である筋肉のダメージを減らすわけではないと考えられるので(もし運動で起こるレベルのアシドーシスが筋肉のダメージを促進するならアシドーシスを緩衝することで筋肉のダメージも減らせるが)、普段のトレーニングで水素水を飲んでもあまり意味がないだろう。

何か競技を行っている人が、試合のパフォーマンスを上げることを目的として、試合の一週間くらい前から飲むと効果が期待できるかもしれない。効果があったとしても重曹ほどのエルゴジェニック効果はなさそうだけど、重曹と違って副作用をほぼ心配せず試すことが出来る。また重曹と同様に継続的な摂取で遅筋の有酸素能力の向上も得られる可能性がある。アルカリ性水溶液としての水素水に価値があるとしたら、それは水素が健康な人にとっては毒にも薬にもならないから。(ざっと調べた感じではアルカリ性水素水のマグネシウムやカルシウムは数リットルで数十mg程度のようなので、重曹のナトリウムと違ってこれは問題にはならなそう)

競技は1-7分くらいの時間に全力を出すタイプのスポーツや、数十秒の最大出力をインターバルを挟んで繰り返すスポーツが向いているだろう。例えば中距離走やスピードスケートや自転車競技あたりだと思う。効果はあっても小さいと思われるので、わずかなパフォーマンス差が勝敗を分ける高いレベルのアスリート向け。バーン感の出る高レップ筋トレでも疲労を遅らせてボリュームを少し増やせる可能性があるけど、競技ではないので一回のトレーニングのボリュームを増やせても、次のトレーニングセッションまでの回復時間が長くなるだけであまり意味がないだろう。

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