5/29/2017

各セット限界まで追い込むべきか

筋トレでは、各セットで限界まで追い込んだほうが良いのか。それとも限界の手前で止めたほうが良いのか。議論が分かれるテーマだと思うけど、現状の研究結果から何か言えるか調べてみた。記事内容が長いし先に結果を書いておくと・・・筋トレの参考になる良い研究があまりない。


★RPE
各セットでどの程度追い込むかを示す便利な指標として、先にRPEを紹介しておく。RPE は Rate of Perceived Exertionの略。エクササイズの強度を測る10段階のスケールで、ウェイトトレーニングでのRPEは以下の感じ(検索すると色々な定義が出て来るが)。トレーニング経験がある人は、RPE5以上はかなり正確に自己判断できるようだ。

RPE
10 :もう1レップもできない。限界。
9.5 :わずかに重量上げても同じレップ数できるかも。もしかしたらあと1レップできるかも。
9 :あと1レップできる。
8.5 :あと1レップはできる。もしかしたら2レップできるかも。
8 :あと2レップできる。
7.5 :あと2レップはできる。もしかしたら3レップできるかも。
7 :あと3レップできる。
5-6 :あと4-6レップできる。ウォームアップレベル。
1-4 :楽ちん


★限界 vs 非限界のメタアナリシス研究
Effect of Training Leading to Repetition Failure on Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs40279-015-0451-3

Erratum to: Effect of Training Leading to Repetition Failure on Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs40279-016-0509-x

メタアナリシス研究だと、限界までやってもやらなくてもストレングスの伸びについては同じ、というシンプルな結論になっている。解析対象の研究の数が少ないし、ちょっと個別に見てみるか・・・と見てみたら、研究ごとに実験方法がバラバラで、これらを単純に比較してよいのか?と思ったので、各々の研究内容を見ていくことにする。(30秒ごとに1レップを続けるとかの研究は実用面からかけ離れているので除外した)


★個別研究
(1)(2)の研究はボリューム(重量×セット×レップ数の和)が一致している研究。(3)-(7)の研究はボリューム不一致。

(1) Training leading to repetition failure enhances bench press strength gains in elite junior athletes.
http://sportsperiodization.ir/pdf/Strength/st.5.pdf

被験者:アスリート(バスケとサッカーの選手)
種目:ベンチプレス
重量:6RMの80-105%
挙上速度:書いてない
セット数・レップ数:
限界グループ:4セット×6レップ固定(260秒サイクル) 
非限界グループ:8セット×3レップ固定(113秒サイクル) 
全セット終えるまでのトータルの時間は両グループとも13分20秒で同じ
トレーニング頻度:週三回
トレーニング期間:6週間

結果:限界グループのほうがストレングスが約2倍伸びた

コメント:
限界までとはいっても1,2セット目あたりは6RMの80%や90%の重量でやっているので、6レップやってもまだまだ余力があるはず。3,4セット目あたりで6レップが限界になるだろう。RPEで考えると、セットが進むにつれ6前後から10に負荷をあげていく感じで、割りと一般的なトレーニングプログラムだと思う。インターバル4分くらい取ってるし。

論文ではストレングスの伸びは神経系の適応によるものだろうと考察されているけど、被験者の現状の筋力(ベンチプレス6RMが70kg程度)で、追い込み度高めの4セットを週三回なら筋肥大もしてそうな感じがする。この研究の結果からは、インターバルをしっかりとって追い込み度高めのトレーニングをするほうが、各セットを最大回数の半分弱で止めてセット数を倍にするトレーニングよりもストレングスを伸ばす効果が高いと言えそう。個人的な感覚だと、筋肥大も同様の結果が出ると思う。


(2) Differential effects of strength training leading to failure versus not to failure on hormonal responses, strength, and muscle power gains
http://jap.physiology.org/content/100/5/1647

被験者:アスリート(バスク・ペロタの選手)
種目:ベンチプレス スクワット
トレーニング頻度:週二回
トレーニング期間:16週間
セット間インターバル:両グループとも約2分
重量:
前期6週間は10RMの重量(スクワットは10RMの80%の重量)
中期5週間は6RMの重量(スクワットは6RMの80%の重量)
後期5週間は85-90%1RM

セット数・レップ数
限界グループ:
前期6週間と中期5週間は3セット
後期5週間は3セット×2-4レップ(他にバリスティックトレーニング)

非限界グループ:
前期6週間は6セット×5レップ
中期5週間は6セット×3レップ
後期5週間は3セット×2-4レップ(他にバリスティックトレーニング)

後期5週間は両グループともピーキング期間。条件を揃えてから最終の1RM測定をする。ナイスな実験デザイン。

限界グループのレップ数は書いていない。全セット限界までかな? スクワットは10RM・6RMの80%の重量なので10レップ・6レップ以上できるが。

限界グループは途中で止まるかフルレンジできないと重りを外してすぐさまセットを続行。一回のトレーニングセッションで3,4回重り減らしが発生。非限界グループは重り減らしなし。重り減らしにより、厳密にはベンチプレスのトレーニングボリューム(重量×セット数×レップ数)は限界グループのほうが少なくなっていたと考えられる。スクワットは80%なのでよくわからない。

挙上速度:コンセントリックはフォームを崩さないよう注意しながら全速力で挙上。エキセントリックは丁寧に。非限界グループは75%-85%1RM程度で3-5レップを素早く挙上なので、実質的にパワートレーニングになる。限界グループは全セット限界までを2分インターバルなので疲労でヘロヘロになっていて、全速力で挙げても挙上速度は遅いと思われるので、パワートレーニングにならない。

結果:ストレングスの伸びは両グループとも同じ。ベンチプレスの筋持久力は限界グループのほうが伸びた。下半身のパワーは非限界グループのほうがやや有利か。

IGF-1やテストステロンやコルチゾールなど内分泌系の変化を見ると、限界までやらないほうがストレスレベルが低くアナボリックに好ましい傾向か。

コメント:
被験者は日常的にレジスタンストレーニングは行っているが、書かれているトレーニング時間からするとやりこんでるわけではなさそう。アスリートなので筋肉量はかなり多い。神経系の適応などでストレングスが伸びたと考えられる。

実験前後で除脂肪体重は増えていないので、筋肥大はしてないだろう。除脂肪体重70kg超え、スクワット1RMが170kg弱の人が、3セットを週二回だとボリュームが足りなくて筋肥大は難しい感じがする。筋肥大するにはカロリーオーバーにして体重も増やす必要もあるだろう。しかし16週間で体脂肪がやや減りつつスクワット1RMが170kg弱から200kgまで上がるとはアスリートはすごい。

この研究は、コンパウンド種目を短いインターバルで全セット潰れるまでのド根性トレーニングとパワートレーニングの比較になっている。趣味で筋トレする人にはあまり参考にならないかな。


(3) Is repetition failure critical for the development of muscle hypertrophy and strength?
https://www.researchgate.net/profile/John_Sampson2/publication/274007696_Is_repetition_failure_critical_for_the_development_of_muscle_hypertrophy_and_strength/links/57043cd608ae44d70ee0610e.pdf

被験者:一般人。最低6ヶ月間はレジスタンストレーニング無し。

種目:肘の屈曲
期間:まず4週間の慣れ期間。限界までのセットを行い慣れる。この期間の1RMの伸びをみて反応の良い人悪い人がバランス良く各グループに振り分けられるようにした。トレーニングへの反応の良し悪しには大きな個人差があって、反応の良い人が固まっていたら、それだけで良い結果が出てしまう。特にこの手の研究は1グループ10名程度しか被験者がいないことが多いので個人差の影響が大きい。これはナイスな実験デザイン。
そのあと12週間のトレーニング期間。
トレーニング頻度:週三回
重量:85%1RM
セット数:4セット
セット間:インターバル:3分
挙上速度:
RSグループ:コンセントリック素早く、エキセントリック2秒 限界までやらない
SSCグループ:コンセントリック素早く、エキセントリック素早く 限界までやらない
Cグループ:コンセントリック2秒、エキセントリック2秒 限界までやる
平均レップ数
RSグループ 4.2レップ
SSCグループ 4.2レップ
Cグループ 6.1レップ

結果:グループ間で1RMと筋肉の断面積(筋肥大)に有意差無し

コメント:限界までと、限界まで2レップ残しを比較したのは良いと思うが、挙上方法を揃えていないのがもったいない。あとトレーニング歴なしの被験者がアイソレート種目を行っているので、継続的にトレーニングをしている人のコンパウンド種目に当てはまるか不明。


(4) Concurrent endurance and strength training not to failure optimizes performance gains.
https://www.researchgate.net/publication/40483840_Concurrent_Endurance_and_Strength_Training_Not_To_Failure_Optimizes_Performance_Gains

被験者:アスリート(ボート競技の選手。ローイング能力が非常に重要なスポーツ)
トレーニング期間:8週間
トレーニング頻度:週2回(それに加えて8週間で計45回のローイングの有酸素トレーニング、週あたり平均460分)
セット数:3-4セット
重量:75%-92%1RM
レップ数:
限界グループは目標10-4レップ
非限界グループは限界グループの半分(5-2レップ)

グループ分け:
4種目 - ベンチプル、シーテッドケーブルロウ、ラットプルダウン、パワークリーン
2種目 - ベンチプル、シーテッドケーブルロウ

4RFグループ - 4種目・限界まで できなかったら途中で重り減らし
4NRFグループ - 4種目・非限界
2NRF - 2種目・非限界

インターバル:書いてない。上にも出てるこの人の別の研究からすると2分か?
挙上速度:コンセントリックはフォームを崩さないよう注意しながら全速力で挙上。エキセントリックは丁寧に。

結果:ストレングスとパワーともに4NRFグループ(4種目・非限界)が良い結果だった。

コメント:有酸素トレーニングに並行して、ボリュームを抑えたパワートレーニングをリニアピリオダイゼーションで行うことで、1RMとパワーの上昇が得られた。筋肥大によるものではなさそう。2NRFよりも4NRFグループのほうが良い結果なのは、パワークリーンの有無が影響していると思う。個人的にはベンチプルはやったことないけど、動画を見ると最大出力には脊柱起立筋と股関節の伸展の力も重要だろう。

体組成変化は、体重、除脂肪体重、体脂肪いずれも減少。各グループとも除脂肪体重は1kgくらい減少、体脂肪は1kg弱減少。

この研究は、被験者がやりこんでいる動作を鍛えている。有酸素トレーニングも並行して行っているので、パワーと持久力の両方が必要とされる競技のアスリートのトレーニングの指針になる。階級制でなくても、多くのスポーツは身体が出来て高いレベルになったら、体重を無駄に増やさず出来るだけストレングスとパワーを引き出したほうが、アジリティや持久力が犠牲にならないので好ましい。ボディメイクやボディビルはストレングスやパワーよりも筋肉が増えたほうが好ましい。

継続的にほぼ筋トレのみを行っている人が、馴染みの種目を伸ばすために限界までやるべきかどうかの参考になるかは・・・限界までやるのが体力面でのキャパオーバーになるなら、限界までやらないほうが良い結果を出せるとは言えると思う。


(5) Effects of Single vs. Multiple Sets of Weight Training: Impact of Volume, Intensity, and Variation
http://journals.lww.com/nsca-jscr/abstract/1997/08000/effects_of_single_vs__multiple_sets_of_weight.2.aspx

(6) Short-Term Performance Effects of Weight Training With Multiple Sets Not to Failure vs. a Single Set to Failure in Women.
http://journals.lww.com/nsca-jscr/Abstract/2000/08000/Short_Term_Performance_Effects_of_Weight_Training.14.aspx

両方とも似た内容。種目はスクワット。1セットを限界までと、複数セットを非限界までとを比較。複数セット非限界のほうが1RMが大幅に伸びた。ボリュームが違い過ぎるので当たり前の結果で、あまり見るところはなさそう(アブストラクトしか読めない)。


(7) Effect Of Resistance Training To Muscle Failure Versus Volitional Interruption At High- And Low-Intensities On Muscle Mass And Strength.
http://journals.lww.com/nsca-jscr/Abstract/publishahead/Effect_Of_Resistance_Training_To_Muscle_Failure.96151.aspx

被験者:一般人。最低6ヶ月間はレジスタンストレーニング無し。

トレーニング期間:12週間
トレーニング頻度:週二回
トレーニング種目:ニーエクステンション
インターバル:2分
セット数:3セット

グループ分け:
HIRT-F: 80%1RM 限界まで
HIRT-V: 80%1RM 自主的にセット終える
LIRT-F: 30%1RM 限界まで
LIRT-V: 30%1RM 自主的にセット終える

限界までの定義は、フルレンジが出来なくなったら。自主的にセット終えるの定義は、明確には書かれていないが限界の直前までらしい。次あたりでフルレンジ完遂できないかなってところで止めてると思われる。RPE9.5か10。実際のトレーニング結果を見ても、1セット目の平均レップ数が限界グループと自主的グループで同じくらいになっている。

トータルのボリューム(重量×総レップ数)は、高負荷グループ間(限界と自主的)で同じくらい、低負荷グループ間(限界と自主的)でも同じくらいという結果に。高負荷グループのほうがトータルのボリュームが低負荷グループよりも2,3割高かった。

結果:
ストレングス、筋肥大(外側広筋の断面積)の増加率は、全グループ間で有意差無し。

コメント:
RPE9.5か10と、潰れるまでを比較するのはあまり参考にならないかな。RPE8前後とRPE10の比較をした研究が望まれる。それと(3)の研究と同様に、トレーニング歴なしの被験者がアイソレート種目を行っているので、継続的にトレーニングをしている人のコンパウンド種目に当てはまるか不明。



★結論
現状のエビデンスでは、ほぼ筋トレのみを行っている人に参考になる研究があまりない。上記の研究からわかる範囲のことをまとめると、

- 最大回数の半分弱の回数で止めるよりは、ある程度追い込んだほうがストレングスが伸びるだろう。
- コンパウンド種目で短いインターバルで限界までのセットを続けると体力面でキャパオーバーする場合は、限界までやらずボリュームを減らしたほうが良さそう。
- アイソレート種目では限界まで2レップ残しや限界の一歩手前でも、トレーニング歴無しの人は限界までやった場合と同等の筋肥大効果を得られそう。
- 限界までを1セットだけやるより、限界までやらないセットを複数やったほうがストレングスは伸びるだろう。
- 専門競技のトレーニングと並行してレジスタンストレーニングを行うアスリートは、ボリュームを抑えたパワートレーニングがストレングスとパワーの向上に有効だろう。

将来的には、継続的にレジスタンストレーニングを行っている人を被験者にして、RPE8前後とRPE10の比較をストレングスと筋肥大についてやってほしいものです。


以下は個人的な考え方になるけど、トレーニングで重要なのは、

・長期的に見て、高い質のトレーニングを高ボリューム行う。このトレーニングの質と量は誰にでも当てはまる数字があるわけではなく、その時点での本人のレベルに適したトレーニングの質と量がある。
・漸進的過負荷を続ける。筋トレだったら、重量とボリュームが長期的に見て増加していく必要がある。

各セット限界までやったほうが良いかどうかは、上の2点を満たせるかで判断するのが良いと思う。一般的には限界までやると次のセット以降で重量かレップ数がガクンとさがり、トータルでのトレーニングボリュームが少なくなる。

また次セット以降低下するボリュームを補うためにセット数を増やせば良いやとセット数を増やして全セット限界までやったりすると、疲労が強くなり次のトレーニング日に質の高いトレーニングを行うことが難しくなる。長期的な視点で考えることが大切だろう。

限界までやらないことに抵抗がある人はこう考えるのはどうだろうか。

コンパウンド種目ではセットの限界までやっても、主に働く筋肉が同時に限界を迎えるわけではない。たとえばベンチプレスをセットの限界までやっても、大胸筋と上腕三頭筋と三角筋前部が同時に限界を迎えるわけではなく、どれかの筋肉が先に限界を迎え、他の筋肉にはまだ余力がある状態でセットを終える。さらに言えば、先に限界に達した筋肉でもスティッキングポイント以外ではまだ余力がある状況。それでも各筋肉は発達し、重量は伸びる。

ボリュームの稼ぎやすさと疲労度合いのバランスが良いのは、限界まで1-3レップ残し(RPE7-9)だろう。意識するポイントとしては、初めから数レップ残しで終わりと考えてやると、身体がサボって力を抜いたり体幹が緩んだりすることがあるので、例えば10RMの重量を10レップやるつもりで8レップで止めるのが良いと思う。

挙上スピードが低下してきたら止めるのも良い。フォームが重要で、怪我のリスクが高いコンパウンド種目は特に。

セット間インターバルは、一般的にはコンパウンド種目では3-5分程度、アイソレートではそれより短め。トレーニングの質と量を確保できるよう、自分に合ったRPEとインターバル時間を調整していくのが良いと思う。

各部位の最終セットやアイソレート種目に限定して限界までやるのも、疲労管理がうまくいくなら良いだろう。また時折、1RMの測定や3-5RMの測定を行い、限界チャレンジをするのもモチベーションにつながって良いと思う。


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