7/27/2017

ベンチプレスの背中のアーチ


上の動画を見て、なるほど~と思ったので紹介。


★脊椎の怪我リスク
脊椎は自然なS字カーブのニュートラルポジションを逸脱しつつ、強い力が加わると怪我のリスクが高くなる。デッドリフトやスクワットは圧縮方向の力とせん断方向の力が強く加わるので、脊椎はニュートラルポジションを維持する必要がある。

ベンチプレスでは、良いフォームで行えば脊椎に強い力が加わらないので、脊椎がニュートラルポジションから多少逸脱しても怪我のリスクは低い。もちろん過度に逸脱すれば怪我のリスクは高まる。

脊椎の安全or危険は、以下のとおり。(脊椎が健康であることが前提)
a) ニュートラルポジションを維持しつつ強い力が加わる→安全
b) ニュートラルポジションから逸脱するが強い力は加わらない→安全
c) ニュートラルポジションから逸脱しつつ強い力が加わる→危険


★ベンチプレスでの良い背中のアーチの作り方
1) 腰椎を限界まで反るのではなくて、背中全体を反る。腰椎は自然にカーブしているのであまり反ることを意識せず、胸を突き上げ胸椎を反るのを意識する。動画のような背中のアーチを作るには胸椎の柔軟性が要求されるので、普段から胸椎の柔軟性トレーニングをしておく必要がある。猫背・反り腰の人は、まずは姿勢矯正を行わないと、良いアーチが作れないだろう(下の参考記事を参照)。

2) 尻はベンチにつける。下の「悪い背中のアーチ」の図のように、尻を浮かして、腹を突き出して、腰を反ると、腰への負担が大きくなる。

3) 臀筋に力を入れる。そうすると骨盤の前傾(=腰椎の過度の反り)を防げるし、脚から上半身への力の伝達(レッグドライブ)がやりやすくなる。

4) 肩甲骨は引き寄せて動かさない。動かすのは肩関節と肘関節のみ。脊椎も肩甲骨も動かさない。

5) 挙上中はグラグラしない。脊椎にも肩関節にも危険。





★目的によるアーチの違い
競技としてベンチプレスを行う場合は、限界までアーチを作って挙上距離を短くしたほうが有利になる。単なる筋トレとしてベンチプレスを行う場合は、挙上距離を長くした方が筋肥大効果が高まり、力を発揮できる関節の角度の範囲が広くなる。ただ、アーチを作ると肩関節への負担が小さくなるので、肩の怪我リスクとトレーニング効果のバランスを考えると、筋トレ目的のベンチプレスでは軽くアーチを作るのが良い思う。



参考記事:
胸椎の姿勢矯正

バランスの取れたトレーニング種目の選択-エクササイズ編-

骨盤の前傾の矯正

7/21/2017

減量時に助かるアイテム(※個人の感想です)

★タンパク質源
・カッテージチーズ
カッテージチーズの主成分であるカゼインは消化吸収が非常に遅いので、アミノ酸の長時間供給の観点から減量時に向いている。カロリーオフカルピスを原液で少量かけると食べやすい。
カルピスの他のフレーバーをかけると色々な味になって楽しい。個人的には以下のレモン味がベスト。


・青魚の缶詰
オメガ3脂肪酸の摂取も兼ねて。鯖やサンマの塩焼きなど。蒲焼きや味噌煮は米が無いと味が濃い。水煮単品はちょっとキツイ。
味はこれが良かった。


・ミセラーカゼインプロテインパウダー
オプティマムのナチュラルカゼインのチョコ味とザバスホエイストロベリー味を混ぜて、少量の低脂肪乳で練り練りするとイチゴチョコ味になっておいしい。トルコアイスくらいの固さに練る。
国内メーカーでは普通の価格で買えるミセラーカゼインが見つからない、海外メーカーの人工甘味料の味付けが苦手、ということでオプティマムのナチュラルカゼインを個人輸入しています。





あとはツナ缶とか。私は偏食で肉が食べられないけど、サラダチキンなど脂質の少ない肉も良いですね。


★野菜
・ノンオイルドレッシング
生野菜に

・マジックソルトなど
茹で野菜に
・シーズニング
お酒にも合う低カロリーの料理が簡単に作れる



★旨味成分
旨味成分があるものを飲み食いすると空腹感を抑えやすい。

・低カロリーのインスタントスープ

・わさび茶漬けの元
乱切りキュウリにふりかけるとおいしい。お湯入れてスープとして飲むのもなかなかおいしい。

・ハードタイプのチーズ
パルミジャーノ・レッジャーノなど。旨味成分が豊富。少量をかじる。



★デザート
・ゼロカロリーゼリー
ブルボンも同じようなの出してるけど、たらみの方が食べごたえあって好み。

・かき氷器で氷を削ってCCレモンゼロをかける。


★便通対策
私の場合は以下の2点の組み合わせで毎朝ウンコが出ます。

・1日分の食物繊維
カゼインプロテインパウダーを練り練りしたものに乗せるとクリスピー食感が加わって美味。

・新ビオフェルミンS


関連記事:
減量時の食事調整例

[ボディメイク記録] 減量結果

前回の記録 5月27日
今回の記録 7月20日


★現状記録
筋グリコーゲンレベルは低い。直前のトレ履歴は、当日に上半身、前々日に下半身。


★身体計測
身長:180cm
体重:71.7kg(-6.3kg)
バスト:98.5cm(-1.0cm)
ウェスト:75.0cm(-7.0cm)
ヒップ:89.5cm(-4.5cm)
右上腕:28.5cm(-1.5cm)
左上腕:28.5cm(-1.5cm)
手首径:16cm
右大腿:55.5cm(-2.5cm)
左大腿:54.5cm(-2.5cm)
右カーフ:35.0cm(-1.0cm)
左カーフ:34.0cm(-1.0cm)
足首径:19cm


★主な種目のトレーニング重量
ベンチプレス・・・80kg×2reps
デッドリフト・・・125kg×1reps
スクワット(スミスマシン)・・・80kg×5reps
ヒップスラスト・・・85kg×10reps


★トレーニング種目明細
セット数: メイン3セットくらい。
レップ数:1セット目1-3レップ、2セット目3セット目5レップくらい
RPE:9か10(限界まで1レップ残しか0レップ残し)
インターバル:3-4分

重量は落とさず、レップ数を減らし、RPEを高めた。セット数も減らした。筋肉を維持できる最低限のトレーニングを目指した。トータルのボリューム(重量×セット数×レップ数)は通常時の半分くらいになっている。
減量中はエネルギー不足によりRMが低下。筋肉へのメカニカルな刺激はエネルギー十分の時のRMに対しての追い込み度(限界まで何レップ残すか)が関係すると考え、エネルギー十分の時のRPE7か8(限界まで3レップ残しか2レップ残し)と同じレップ数をやるには、エネルギー不足の時はRPE9か10が必要と考えた。またグリコーゲンレベルが低いので、低レップだとATP-PCr系の寄与が高まるのも好都合。セット間インターバルは長めにしてなるべく回復するように努めた。


メイン種目
- スクワット(週2回)
- デッドリフト(週2回)
- ベンチプレス(週2回)

補助種目
- ルーマニアンデッドリフト
- ヒップスラスト
- インクラインベンチプレス(スミスマシン)
- ナローグリップベンチプレス
- インクラインベンチにうつ伏せになってラテラルレイズ
- 片腕トラップレイズ
- キューバンプレス
- フェイスプル
- ローイングマシン
- カーフレイズ
- 片腕ランドマインプレス
- ショルダープレス
- サイドレイズ
- フロントレイズ
- デッドバグ


★運動内容
- 筋トレは基本的に上半身を週2回、下半身を週2回。
- 有酸素運動は、ウェイトトレーニング後に20分くらい有酸素マシン(エリプティカルトレーナー)を漕いだ。それと保育園の送り迎えで平日は計一時間くらい歩いた。


★食事内容
- 食事回数は一日2回。昼と夜。トレーニング日はトレーニング直前にホエイプロテインパウダー。総カロリーはトレーニング日でもそれ以外でもあまり変わらず。
- 序盤から炭水化物源の主食はカットし、特にリフィードは入れなかった。家庭の平和のため夕食内容は基本的に嫁任せなので、摂取カロリーを削れる時に削っていった。
- タンパク質の摂取量はだいたい2.5g/体重1kg/日。動物性食品とプロテインパウダーのみ摂取量にカウント。
- 脂質の摂取量はあまり把握していないけど、卵や魚や乳製品など高たんぱく質食品に付随する脂質を普通に摂取した。
- 健康のため、野菜や豆も摂取。
- 週末に缶ビールを1本飲んだ。お酒弱いので1本でも酔えて有り難い。


★雑感
- 摂取カロリーを削れる時に削っていったら、以前よりも減量ペースが速くなった。グリコーゲンと水分の変動を除いて、2ヶ月弱で体重が6%くらい減少。筋トレは維持を目指してトレーニングボリュームを半分くらいに減らした。筋トレ重量の下がり方はこれまでの減量とあまり変わらない感じだった。
- 維持カロリーだと、若い初心者はボリュームを1/3にしても筋肉量と筋力を維持・向上できるという研究がある。減量時にトレーニングボリュームを減らしても筋肉量を維持できるのか調べた研究が存在するのか知らないけど、とりあえず私の身体はボリュームを半分に減らしても大丈夫なようだ。いい感じで無駄な努力をしなくて済んだ。
- もうちょっと体脂肪を減らしたいけど、これ以上減らしても摂取カロリー戻すと体脂肪が今くらいのレベルにすぐ戻って徒労感があるので、とりあえずこの程度にしておくのが自分の身体にとっては費用対効果が良いだろう。それに育児の負荷があるので、多くの労力を割けない。
- 終盤はグリコーゲンが抜けすぎて力が入りにくくなった。あと睡眠の質が落ちた。


★怪我
- 昨秋痛めた右肘の上腕骨内側上顆炎はだいぶ良くなってきたが、スクワットでバーを強く握るとまだ痛むので、完全には治っていないようだ。懸垂とアームカールがまだ出来ない。


★今後の予定
- とりあえず維持してからゆるやかに増量。減量は生活への負荷が大きいので、あまり体脂肪を増やしたくないなあ・・・。
- クレアチンを試してみるつもり。もう若くないので、元気なうちに色々と試したい。

7/11/2017

低炭水化物食とタンパク質源の健康への影響


★低炭水化物食と死亡リスクのメタアナリシス研究
(1) Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3555979/

10年20年といった長期のスパンの観察研究を集めて、システマティックレビューとメタアナリシスを行った研究。聖路加国際病院の能登洋氏他の研究。この方の名前で検索すると、糖質制限派の方々から叩かれてる記事が出てきますね。

まあ余計なことはあまり書かず、中身を見ていきます。

摂取カロリーに占める炭水化物の割合を十分位数に区切ってスコア付け。最も炭水化物摂取量が低いグループは総摂取カロリーに占める炭水化物の割合が30-40%くらい、最も摂取量が多いグループは60-70%くらい。

最も炭水化物摂取が多いグループの全死因死亡率に対しての、最も炭水化物摂取量が少ないグループの全死因死亡率をリスクレシオとして算出。リスクレシオは約1.3となった。

つまり最も炭水化物摂取が多いグループに比べると、最も炭水化物摂取量が少ないグループは死亡リスクが1.3倍になる。炭水化物の摂取量が少ないと死にやすくなるという、糖質制限派の人にとっては受け入れられない結果になっている。

この研究の強みは、人種構成や食習慣が異なる様々な地域のデータをまとめて解析していること。弱みは、タンパク質源がどのような食品か、炭水化物源がどのような食品か、どのような脂質を摂取しているか、食物繊維などの栄養素の摂取量はどうなのかといった点が考慮されていないこと。



★植物性食品と動物性食品の影響
(2) Low-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: Two cohort Studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2989112/
(1)の解析対象にもなっている研究。アメリカの医者と看護師が対象のコホート研究。栄養と健康について普通の人よりも意識が高いと考えられる。

この研究では、年齢、運動、BMI、エネルギー摂取量、飲酒、高血圧、喫煙、マルチビタミン摂取、閉経、閉経後のホルモン療法で結果を調整している。(当記事内の他のコホート研究でもメジャーな交絡因子については調整されてる)

最も低炭水化物グループで摂取カロリーに占める炭水化物の割合が35-37%%くらい、タンパク質が動物性18%くらいで植物性4%くらい。それほど極端な低炭水化物ではないけど、各階級のリスクレシオを見ると、低炭水化物になるほど死亡リスクが上がっているので、もっと極端な低炭水化物食だとさらに死亡リスクが高まると考えられる。

ただこの研究はここからが面白くて、低炭水化物食でも動物性食品を多く摂取すると死亡リスクが高まり、植物性食品を多く摂取すると死亡リスクが低くなる(下図参照)。つまり植物性食品を積極的に食べる食生活なら、低炭水化物食になるにつれて死亡率が下がる。主なカロリー源がパンやパスタやお菓子やジュースなどの精製された炭水化物から、ナッツや豆やオリーブオイルなどに置き換わっているからだと考えられる。また植物性食品を積極的に食べる食生活のグループでも赤身肉を1日70gくらい食べている。肉はほどほどに食べ、植物性食品を多く食べるのが健康に良いのだろう。

動物性食品中心の食生活では、赤身肉の健康にネガティブな成分の摂取が増えることに加えて、食物繊維やフィトケミカルの摂取が少ないことが死亡リスクに影響していると考えられる。いきなり赤身肉を槍玉に挙げていて違和感あるかもしれないけど、赤身肉とその他の動物性食品の健康への影響についてはこれから詳しく見ていく。

アメリカ人の高炭水化物食なんてピザやフライドポテトやケーキや菓子やジュースばかりだろうけど(偏見)、それでも動物性食品よりも炭水化物中心に食べる方が死亡リスクが低い。





★赤身肉
要点:アメリカ人ばりに赤身肉をたくさん食べると死亡リスクが高まる。日本人の常識の範囲内で食べるのは問題ないだろう。赤身肉を食べなすぎても死亡リスクが高まるかもしれない。

(3) Red Meat Consumption and Mortality: Results from Two Prospective Cohort Studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3712342/
(2)の研究と同じ調査データを使用した研究。赤身肉の摂取量が増えると、それに比例して死亡率が高まる(下図参照)。ヘム鉄の過剰摂取、N-ニトロソ化合物、複素環アミン、多環芳香族炭化水素などの発がん性物質、加工肉のナトリウムと亜硝酸塩、これらの物質の過剰摂取が死亡率の上昇に影響を与えていると現時点では推測されている。

下のグラフでの1servingは85g。例えば一日あたり赤身肉200gを食べ続けると、死亡リスクが約1.5倍になる。BMIやカロリー摂取量など主な交絡因子に加えて、ホールグレイン・果物・野菜の摂取量でも調整済みの数字なので、体型に気をつけて太らないようにしても、野菜や果物も食べても、赤身肉をたくさん食べ続けると死亡リスクが高まる。加工肉(ハムやソーセージ)でも非加工肉でも死亡リスクは高まる(Table 2)。脂質が少なくても高まるだろう。



(4) Meat intake and cause-specific mortality: a pooled analysis of Asian prospective cohort studies.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3778858/
調査対象がアジアの研究。赤身肉を食べる量が増えると死亡率がやや下がる。上のアメリカの研究と結果が異なるのは、もともとの赤身肉の消費水準がアメリカに比べてアジアでは大幅に少ないためと思われる。アメリカみたいに赤身肉を食べすぎるのは死亡率を高める要因だけど、食べなすぎるのも健康には良くないのかもしれない。もしくはアジアでは赤身肉を食べられるということが生活水準の豊かさの指標になっていて、豊かだから医療へのアクセスなども良好で死亡率が低いということなのかもしれない。



★飽和脂肪酸
要点:赤身肉とセットで語られることの多い飽和脂肪酸もついでに。飽和脂肪酸については気にしなくて良さそうだけど、牛脂に多く含まれるフィタン酸は糖尿病リスクを高めるかもしれない。

(5) Intake of saturated and trans unsaturated fatty acids and risk of all cause mortality, cardiovascular disease, and type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of observational studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4532752/
飽和脂肪酸は健康に悪くないという考えが今は優勢のようだ。しかし細かく見ていくと、飽和脂肪酸にも種類があり、含まれる炭素の数が偶数(even)か奇数(odd)かで分類され、乳製品に多く含まれる種類の飽和脂肪酸(odd-chain)は糖尿病リスクを下げ、牛肉などに多く含まれる種類の飽和脂肪酸(even-chain)は糖尿病リスクを高める可能性がある。ただ、血中のeven-chain飽和脂肪酸は、食品の摂取よりも炭水化物やアルコールからの脂質合成に関連しているという見方もあるし、耐糖能に関連するodd-chain飽和脂肪酸は摂取よりも体内合成によるものという見方もある。

(6) Odd Chain Fatty Acids; New Insights of the Relationship Between the Gut Microbiota, Dietary Intake, Biosynthesis and Glucose Intolerance
https://www.nature.com/articles/srep44845
2017年の研究で、動物実験と人間での実験を組み合わせたもの。乳製品に多く含まれるodd-chain飽和脂肪酸であるC15:0は食品摂取量と血中レベルが相関するが、C17:0は相関しない。C17:0の血中レベルは体内合成次第と考えられる。フィタン酸(牛脂に多く含まれる)とC17:0の血中レベルが逆相関していて、フィタン酸がC17:0の体内合成(C18:0からのα酸化)を妨げるようだ。動物実験だとC15:0の血中レベルは耐糖能と相関なしだが、C17:0の血中レベルが耐糖能と逆相関する。つまり赤身肉の脂質が糖尿病リスクに関わるとしたら、飽和脂肪酸ではなくてフィタン酸が悪影響を与えているのかもしれない。その場合はフィタン酸の体内での代謝が直接的に、もしくはC17:0に耐糖能に関わる働きがあってフィタン酸がC17:0の血中レベルを下げることで間接的に悪影響を与えていると考えられる。
またC17:0の摂取量と血中レベルが相関しないことから、乳製品が糖尿病リスクを抑えるというのも、乳製品に多く含まれるC15:0やC17:0の効果ではなくて、その他の生物活性物質の影響なのかもしれない。



★乳製品
要点:乳製品の摂取量が多くなると、前立腺がんのリスクが高まる。乳製品の摂取量が多く、血縁者に前立腺がんを患った人がいる場合は、前立腺がんに注意したほうが良いだろう。乳製品は健康に良い面もある。トータルの健康への影響を考えた場合、前立腺がんリスクを補って余りあるかもしれない。乳製品の摂取は全死因死亡率には影響なし。

(7) Dairy products intake and cancer mortality risk: a meta-analysis of 11 population-based cohort studies.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5073921/
牛乳で男性の前立腺がんリスクが増大する以外は、ガンの死亡率に影響なし。

(8) Dairy consumption and the risk of 15-year cardiovascular disease mortality in a cohort of older Australians.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23389303
心臓血管の疾患には影響なさそう。

(9) Dairy products, calcium, and prostate cancer risk: a systematic review and meta-analysis of cohort studies.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25527754
牛乳、低脂肪牛乳、チーズでも前立腺がんリスクが上がる。乳製品の摂取を1日400g増やすごとに、前立腺がんリスクが7%上がる。

(10) Milk and dairy products: good or bad for human health? An assessment of the totality of scientific evidence.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27882862
乳製品は一部のガンを抑制したり、どっちかというと健康に良い傾向みたい。全死因死亡率には影響なし。

(11) Proliferative effect of whey from cows' milk varying in phyto-oestrogens in human breast and prostate cancer cells.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22280936
試験管内の実験だけど、ホエイ(液体)に前立腺がん細胞の増殖効果がある。ホエイが除かれているチーズでも前立腺がんリスクが上がるので、ミルク全体に含まれる何らかの生物活性物質が前立腺がんリスクを上げるようだ。ホエイプロテインパウダーでもその物質は残っているのだろうか? 前立腺がんリスクのみを気にするのなら、なるべく精製度の高いプロテインパウダーの方がリスクが低くなるかもしれない。その分、健康に良い影響を与える生物活性物質も減るので、トータルでの健康へのリスクを考えた場合、どちらが良いのかは不明。ただプロテインパウダーだとミルク換算ではかなり大量に摂取することもできるし、タンパク質源は分散させるにこしたことはないだろう。

(12) A milk protein, casein, as a proliferation promoting factor in prostate cancer cells.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25237656
こっちはカゼインを使っての試験管内での実験。カゼインでも前立腺がん細胞の増殖効果が確認された。



★魚
要点:脂質の多い魚はほどほどに食べるのが良さそう。

(13) Fish consumption and mortality in the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition cohort
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4356893/
研究対象はヨーロッパの人。魚の摂取量と全死因死亡率に相関なし。トレンドとしては脂質の多い魚を食べなすぎでも、食べ過ぎでも死亡リスクが上がる傾向(有意差は無し)。魚は水銀やダイオキシンやポリ塩化ビフェニルなどの汚染物質が含まれている可能性があって、ダイオキシンやポリ塩化ビフェニルは脂質に溜まるので、食べ過ぎでも健康に悪影響が出るのかもしれない。もしくはデンマークなどの特定の国の魚の食べ方(燻製や酢漬け)が発がん性に影響しているのかも。ただ食べなすぎでも魚の健康効果を得られなくなるので、ほどほどに食べるのが良いだろう。

他の研究では、魚の摂取量と死亡率には相関無しか、摂取量が増えると死亡率が下がるといったものも出ている。



★鶏肉
要点:鶏肉の健康への悪影響はあまり気にしなくて良さそう。

(14) Prospective investigation of poultry and fish intake in relation to cancer risk
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3208759/
アメリカ人対象。魚と鶏肉をまとめて白身肉と呼んで、赤身肉を白身肉に代替したとすると、多くのガンの発生率が下がる(一部のガンは発生率が上がる。Figure1)。赤身肉の摂取量をそのままで、鶏肉の摂取量を増やしても、ガンの発生率が全体で見て上がる感じではない(Figure2)。

(15) Red Meat Consumption and Mortality: Results from Two Prospective Cohort Studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3712342/
アメリカ人対象。この研究では赤身肉を鶏肉に代替したとしたら、死亡率が下がる。魚と代替した場合よりも死亡率が下がる。ナッツでも鶏肉でも魚でも低脂肪乳製品でもホールグレインでも豆でも、赤身肉と代替すると死亡率が下がる(下図参照)。

あと(4)のアジア人を対象とした研究で、鶏肉の消費量と死亡率の関係のデータもあって、これは鶏肉の消費量が増えると死亡率が下がる(Table3)。


★卵
要点:毎日1個や2個なら問題なさそう。極端に卵を多く食べるケースがあまり無いのでデータが無い感じ。そもそも卵は脂質が多いので、総摂取カロリーの面から普通はあまり多く食べないだろう。

(16) Egg Consumption and Human Cardio-Metabolic Health in People with and without Diabetes
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4586539/



★炭水化物
要点:精製度の高い炭水化物はあまり多く食べない方が良さそう。

(17) Amount, type, and sources of carbohydrates in relation to ischemic heart disease mortality in a Chinese population: a prospective cohort study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4144114/
シンガポールの中国系対象。虚血性心疾患のリスクのみだけど、トータルの炭水化物摂取量はリスクに関係ない、デンプンの摂取量が増えるとリスクが上がる、米を麺類に代替するとリスクが上がる、米を野菜や果物や全粒粉パンに代替するとリスクが下がる。ただ米と一緒に食べられることが多い食べ物が疾患リスクに影響を与えている可能性があって、デンプンの過剰摂取が問題なのか、一緒に食べられることの多い食べ物が問題なのか切り分けるのは困難とのこと。

(18) Dietary Glycemic Load and Index and Risk of Coronary Heart Disease in a Large Italian Cohort
http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/225342
イタリア人対象。精製度の高い炭水化物をたくさん食べると、女性は冠動脈心疾患リスクが高まる。男性は有意差なし。

(19) High carbohydrate intake from starchy foods is positively associated with metabolic disorders: a Cohort Study from a Chinese population
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4652281/
中国人対象。デンプン摂取量とメタボになるリスクは相関、デンプン以外の炭水化物摂取量とメタボリスクは相関無し。



★長期的な糖質制限食について
以上の知見を元に、長期的な糖質制限食についての個人的なコメントを書いておきます。

a) カロリーオーバーになっているので、一日のうち一食はお米を抜くといったライトな糖質制限。
→おすすめ。カロリーオーバーは万病の元。炭水化物を抜くなら朝か昼がおすすめ。

参考:ダイエットでは夜に炭水化物を集中的に食べよう

参考:インスリンにまつわる迷信と事実

b) 胚芽米、雑穀米、全粒粉など精製度の低い穀物や豆類やイモ類やナッツなどから主にカロリーを摂取し、タンパク質源として肉、魚、乳製品、卵をバランス良く食べ、野菜もしっかり食べる常識的に考えて健康的な食生活。
→非常におすすめ。手間とお金がかかるけど・・・。

c) 米やパンなど糖質源となる食品はなるべく食べず、そのかわりに赤身肉をたくさん食べる食生活。
→おすすめしない。

d) 糖質を多く含む食品はすべて悪者として、米やパンだけでなくイモや豆類や根菜や果物まで拒否する食生活。
→おすすめしない。

e) ケトジェニックダイエット
→特定の疾患の人と、極度に低い体脂肪率を目指す人が短期的に行う以外は、おすすめしない。

参考:女性の糖質制限

参考:高タンパク質/低炭水化物食がメンタルに及ぼす影響



以上は、運動習慣は平均レベル、カロリーオーバーにならず普通体型を維持するのが条件。運動量が多い人は精製された炭水化物の摂取量を増やしても良いと思う。運動には心臓血管系やインスリン感受性への好影響がある。それに精製度が低くて食物繊維たっぷりのヘルシー食生活で、運動量が多い人が必要な摂取カロリーを食べようとすると消化能力が追いつかなくなってしまう。摂取カロリー1000kcalあたり食物繊維10g程度を目安に食べると良いと思う。運動量が多いとタンパク質の摂取量も増やす必要があるので、タンパク質源は分散させよう。

今回の記事は、健康を主眼として考えた場合の話で、多少リスクが上がってもいいから好きなものをたくさん食べるというのも選択肢の一つ。その場合も、色んな食べ物を分散して食べ、適度な運動を行うと健康を害するリスクを抑えることが出来るだろう。

大切なのは、「○○という食品は健康に良い」「□□という食品は健康に悪い」「△△のカテゴリの食品は避け○○のカテゴリの食品はいくらでも食べて良い」といった善悪二元論みたいなアプローチは止めること。

現時点の科学で解明できていることなんてごく僅かだし、部分最適は全体最適を意味しない。細胞レベルの挙動や特定の健康指標に関する短期の実験結果が、数十年のトータルでの健康への影響を説明するわけではない。現状わかっている部分的なことだけ見て、それを元に「最高の食生活」を組み立てるのは浅知恵だろう。特定の食品ばかり食べず、特定のカテゴリの食品を排除せず、なるべく多くの食品をバランス良く食べリスク分散することが最も良い方法だと思う。

またアップサイドとダウンサイドのリスクを考えても、ケトジェニックダイエットのような特殊な食生活はうまみがない。例えば若い時の株式投資だったら、少数銘柄に集中投資するのも一つの選択肢になる。上手くいったときのリターンが大きいし、失敗してもお金が無くなるだけで若ければやり直せる。でも特殊で極端な食生活は、仮に上手くいったとしても寿命が大幅に伸びるわけではないし、何十年も続けて失敗したらもうやり直せない。アップサイドが限定的で、ダウンサイドがどれだけあるかわからず、やり直しがきかない。うまみの無い賭け。

あと、「人類の歴史を考えると農耕が始まったのはごく最近で、それ以前の人間の生活では○○の食材はほとんど食べてない。人間の身体はその当時のような食生活に適応しているから、現代でもそういう食生活をすると健康で長生きできる」といったストーリーを極端な食生活の論拠にするのを見かけるけど、この考え方は根本的に間違っている。進化による適応はその性質をもたらす遺伝子が繁栄したからであって、個体が健康で長生きしたからではない。個体は遺伝子の使い捨ての乗り物であり、基本的には繁殖を終えるまで元気に動けばよく、それ以降も丈夫で長持ちする個体になっても無駄にコストがかかるので遺伝子拡散競争で不利になる。

ただ人間は子孫の繁栄を助けることで遺伝子の拡散を後押しできるから、生殖・子育てを終えたあとも個体が健康で長生きしたほうが有利な面がある。しかしそれを考慮しても、狩猟採集時代の平均寿命は死亡率の高い幼少期を生き延びたとしても30年や40年だろうから、現代人の中高年以降の健康と長生きには選択圧はかかっていないと考えられる。従って狩猟採集時代の食生活が、80年生きる現代人の健康と長寿に良いか悪いかは、前述のストーリーからは何も言えない。