12/05/2018

プッシュとプルのバランス

プッシュ・プレスと、ロウ・プルのトレーニグバランスをどうすれば良いか。

動画:EricCressey.com: Should You "Balance" Pushes and Pulls?
https://www.youtube.com/watch?v=t9XKZRIIazc

この動画で Eric Cressey が言っているように、必要なトレーニグはその人のコンディションによって様々で、画一的な処方箋があるわけではない。

だが、ウェイトトレーニングを熱心にやっている人がバランスを取るにはどうしたら良いか、基本的な考え方は提示できると思う。


★懸垂ではベンチプレスとのバランスは取れない
単純に考えても、腕を前に動かす動作とバランスを取るには、腕を後ろに動かす動作(水平方向に引く動作)をするのが良い。腕を下に動かす動作である懸垂を行っても、ベンチプレスとバランスは取れない。

バランスのとり方についてもっと詳しく見ていく。ベンチプレスの動作を、肩関節と肩甲骨の動きに分けて考えると、

・肩甲骨:寄せる
・肩関節:腕を前に出す(水平方向に押す)

従って、ベンチプレスの拮抗動作は、

・肩甲骨:開く
・肩関節:腕を後ろに引く(水平方向に引く)



肩甲骨を開くのと同時に腕を引くのは非常にやりにくいし、日常生活やスポーツに役立つ動作とも思えない。従って、ベンチプレスを熱心に行う人が、ベンチプレスの動作とバランスを取るトレーニングをするのなら、

a) 肩甲骨を開く動作を伴うトレーニグ
b) 腕を後ろに引くトレーニグ

の2種類に分けて、トレーニグを行うのが良いだろう。

肩甲骨を開く動作を伴うトレーニグは、以下の関連記事に具体的なエクササイズ例が載っている。

関連記事:前鋸筋の動員

片腕ランドマインプレスがベンチプレスとバランスが取れる動作というのは変な感じがするかもしれないが、肩甲骨の動きを考えてみると、開くと寄せるで対になっている。一般的なウェイトトレーニングのプログラムは、「肩甲骨を開く動作」が欠如しているので、肩甲骨を開く動作を伴うエクササイズを積極的に取り入れることで肩関節の健康を保ちやすくなるだろう。

腕を後ろに引くトレーニグは、一般的なロウ種目で良いだろう。シーテッドローやpendlay rowなど。詳しくは以下の記事を参考に。

関連記事:ロウ・プルのやり方


★本格的なウェイトトレーニングで起こりやすい肩周りの偏り
BIG3+懸垂といった本格的なウェイトトレーニングで起こりやすい肩周りの偏り(骨の位置のズレと筋力のアンバランス)についても書いておく。

BIG3と懸垂での肩甲骨の動きに着目すると、

・ベンチプレス → 肩甲骨は寄せる(内転)。下方向(下制)に固定するケースも多い。
・バックスクワット → 肩甲骨は寄せる(内転)。下方向(下制)に固定。
・デッドリフト → 肩甲骨は下方向(下制)に固定。
・懸垂 → 肩甲骨は下方回旋。


BIG3と懸垂を熱心に行うと、肩甲骨が下方向に強く押し付けられることが続き、その結果肩甲骨がスムーズに動かなくなりやすい。ウェイトトレーニングに熱心で、なで肩になっている人は、この症状になっている可能性が高い。

高重量でのバーベルトレーニングを行う必要がない場合は、バックスクワットの代わりにゴブレットスクワット、ベンチプレスの代わりに腕立て伏せを行うと、肩周りの偏りが緩和される。トレーニング初心者の中高年にBIG3をやらせているパーソナルトレーナーをよく見かけるけど、あれはやめたほうが良いと思う。


★肩甲骨の下方向への偏りへの対処法
まずは肩周りのストレッチをしっかり行う。特に広背筋のストレッチ。

関連記事:肩周りのストレッチ

バランスを取るためのエクササイズは、肩甲骨の上方回旋で使われる筋肉を鍛える。上方回旋でどのような筋肉が使われるかは、以下の記事を参考に。

関連記事:ショルダープレス

ショルダープレスで上方回旋の動作を鍛えようとすると、三角筋など強い筋肉ばかり使って、肩甲骨周りの細かい筋肉を鍛えにくい。また既に肩関節の機能に問題が生じている場合はショルダープレスをきちんと行えず、肩関節の怪我のリスクが高まる。以下に紹介するようなエクササイズを行い、上方回旋の動作を鍛えると良い。

動画:ShoulderPerformance.com: Prone 1-arm Trap Raise
https://www.youtube.com/watch?v=3fK93Ul0da8

動画:EricCressey.com: Troubleshooting the Prone 1-arm Trap Raise
https://www.youtube.com/watch?v=jzRpo0mv328
僧帽筋下部を鍛えるエクササイズ。注意点は、腰を反らない、顎を引く、肩甲骨は前傾しない、腕だけを上げるのではなくて肩甲骨を動かすことを意識、広背筋や三角筋後部や僧帽筋上部から力を抜くことを意識する。

動画:EricCressey.com: Wall Slides with Overhead Shrug
https://www.youtube.com/watch?v=e5-rB6bYBr8

動画:EricCressey.com: Forearm WallSlides at 135 Degrees
https://www.youtube.com/watch?v=W4h4DuUxaQs


★上腕骨の内旋
懸垂では広背筋が鍛えられるが、広背筋は上腕骨を内旋させる働きがある。大胸筋も上腕骨を内旋させる働きがある。大胸筋と広背筋が強いと、上腕骨が内旋(つまり巻き肩)の状態になりやすい。ローテーターカフのトレーニグで外旋動作を鍛えろ、とよく言われるのはこのため。内旋動作を行うローテーターカフが弱っている場合もあるので、その場合は内旋のローテーターカフも鍛える。広背筋や大胸筋では内旋を行うといっても肩関節を安定させるのは難しいので、内旋を行うローテーターカフを鍛えて肩関節を安定させる。

関連記事:ローテーターカフの強化



11/05/2018

前鋸筋の動員

★前鋸筋の基礎知識
前鋸筋の主な働きは、
・肩甲骨の外転:肩甲骨を開いて前に突き出す動き。
・肩甲骨の上方回旋:ショルダープレスなどで腕を上に挙げる時に必要となる肩甲骨の動き。以下の動画での肩甲骨の動き。

動画:Scapulohumeral Rhythm
https://www.youtube.com/watch?v=rpzBGlOEW4E

広背筋の使いすぎなどで肩甲骨が下制の位置に張り付いてあまり動かなくなっている場合、腕を上に挙げたり(ショルダープレスの動き)、腕を前に出したり(腕立て伏せの動き)するときに、上腕骨の動きに肩甲骨がついていかず、ボールとソケットがずれて、肩関節に痛みや違和感が出やすくなる。

本格的なウェイトトレーニングプログラムは、一般的にはBIG3や懸垂を中心として構成される。

しかし懸垂では広背筋が強く使われ、BIG3はどの種目も肩甲骨を下制の位置に固定しやすく、またベンチプレスは肩甲骨を固定したまま上腕のみを前に動かすため、BIG3や懸垂といった本格的なウェイトトレーニングを熱心にやればやるほど、プッシュ・プレス動作での上腕と肩甲骨の連動が失われやすくなる。

また菱形筋が過度に緊張して固く縮こまっていると、肩甲骨が寄って少し上がった状態になり、この場合も腕を上げたり前に出したりといった動作で、肩甲骨と上腕骨が連動しにくくなる。

そのため健康な肩関節の機能を保つには、肩甲骨周りのストレッチを行いつつ、前鋸筋に刺激を入れ、肩甲骨の突き出し・上方回旋を行う種目を積極的に取り入れるのが良い。


段階としては、

1) 肩甲骨がパッシブに動くようにする。
広背筋、菱形筋を中心として肩周りのストレッチを行う。

関連記事:肩周りのストレッチ

2) 肩甲骨をアクティブに動かせるようにする。
前鋸筋に刺激をいれて肩甲骨がプッシュ・プレス動作でよく動くようにする。

3) 上腕と肩甲骨の連動を脳に覚え込ませる。
前鋸筋を動員するプッシュ・プレス動作を繰り返し行い、上腕と肩甲骨が正常に連動して動くようにする。


★前鋸筋のエクササイズの基本
前鋸筋は腕を前に出して90度以上に挙げたポジションで負荷をかけると動員されやすい。

前鋸筋は意識して力をいれるのが難しい。肘を押し出すイメージで行うと前鋸筋が動員されやすい。手を押し出すイメージだと三角筋前部が動員されやすくなると思う。

いずれのエクササイズも臀筋に力を入れ、体幹を安定させ、腕を上げる時に腰が反って頭が前に出ないように気をつける。


★前鋸筋のエクササイズ例
上の方のエクササイズが前鋸筋にアイソレートで刺激を入れるエクササイズ、下の方のエクササイズが前鋸筋を動員する肩周りの複合動作。全てやる必要はないけど、順序としては上から下へ順にステップアップしていくと良いと思う。

動画:EricCressey.com: Short Plank with Reach Across and Under
https://www.youtube.com/watch?v=CuB2KC289r0
前鋸筋のアクティベーションと胸椎のローテーション。

動画:EricCressey.com: Bear Crawl Variations
https://www.youtube.com/watch?v=SJHw2nLEdL0
腕を前方向に90度以上に挙げたポジションで行う。三角筋前部のみで負荷を受け止めないよう注意する。

動画:Serratus Anterior Activation: Reach, Round, & Rotate
https://www.youtube.com/watch?v=hyfb9x7VJWE
肘を伸ばすのではなく、肘を前に押し出すイメージで、肩甲骨がしっかり動くことを意識する。胸椎はフラットにならず少し丸める。

動画:EricCressey.com: Serratus Wall Slides with J-Band
https://www.youtube.com/watch?v=gKxerg7TESQ
上のエクササイズの動きをゴムバンドで行う。

動画:Arm Care Lesson 24: Core positioning impacts scapular movement.
https://www.youtube.com/watch?v=o1eAv96wfdg
腕を前方向に90度以上に挙げたポジションでヨガプッシュアップ。

動画:EricCressey.com: Coaching the Landmine Press
https://www.youtube.com/watch?v=jCfcGei-NqM
片腕ランドマインプレス。やり方のコツは、腰を反らず体幹を安定、脇は締めず少し開ける、腕を引く際に身体より後ろに腕がいかない、腕を伸ばしたときに身体を前に倒す、三角筋前部のみで持ち上げず肩周り全体でプレス、首を前に突き出さず顎を引く。
このエクササイズは、ゴムバンドでやるのも良いと思う。ゴムバンドは自宅でもできるメリットがある。


関連記事:
肩関節の基礎知識

肩周りのストレッチ

ローテーターカフの強化

ロウ・プルのやり方

プッシュとプルのバランス

10/31/2018

ローテーターカフの強化

★ローテーターカフの基礎知識
肩関節のボール(上腕骨頭)とソケット(肩甲骨関節窩)、ローテーターカフと広背筋や大胸筋など大きな筋肉の腱の付着点を単純化して描いたモデル図。


ローテーターカフの腱はボールの近くに付着しているので、ボールをソケットに安定化する働きがある。一方で、支点と力点の距離が近いため、テコの原理により作用点(手)で発揮できる力は小さい。

広背筋や大胸筋や三角筋は筋肉自体が太いことに加えて、腱がボールから離れた箇所に付着しているので、作用点(手)で大きな力を発揮することができる、しかし、これらの大きな筋肉のみが強く働くとボールとソケットがずれやすくなる。

とりあえず腕を力強く動かすだけなら大きな筋肉を動かせば良いのだけど、それを続けるとボールとソケットの安定性が低下して肩関節に不具合が起きやすくなる。

肩関節を安定させつつ強い力を発揮するには、広背筋や大胸筋など大きな筋肉の筋力に見合うだけのローテーターカフの強さが必要になる。


★ローテーターカフのエクササイズの基本

ローテーターカフのエクササイズは、ボールがソケットからずれないようにしながら、上腕骨の外旋・内旋を意識して行う。


腕は胴体の真横ではなくて、胴体よりも少し前に出す。角度は10度~30度くらい。肩甲骨の同一平面上に上腕骨が来るようにする。

ローテーターカフ強化のエクササイズは、良い姿勢で行うのが重要。猫背にならないよう背筋を伸ばし、顎を引く。詳しくは、以下の関連記事を参考に。

関連記事:肩周りのストレッチ

立ってエクササイズを行う場合は、腰の反りで反動をつけないよう気をつける。前部コア(腹直筋下部と外腹斜筋あたり)と臀筋群に力を入れると体幹が安定し腰の反りが抑制される。

外旋・内旋をアイソレートして動かすのが難しい場合は、まずは他の人に手を抑えてもらったり、壁などに手を押し付けたりしながらアイソメトリックで力の入れ方を学ぶと良い。それから負荷なしで上腕の外旋・内旋を行い、慣れてきたらゴムバンドやケーブルで負荷をかけていく。

前述のように、ローテーターカフが作用点(手)で発揮できる力は小さい。負荷が強すぎると、三角筋や広背筋などの大きな筋肉で動かしてしまうので、無理に強い負荷で行うことは避ける。

個人的には、ローテーターカフのエクササイズはゴムバンドが効かせやすい。次点でケーブル。ダンベルは負荷をかける方向の調整が難しい。ローテーターカフのトレーニグは、ハードなのを週2,3回やるよりも、軽いのを毎日やったほうが良い。ゴムバンドを買って家でストレッチのついでに軽くトレーニグすると良いと思う。ジムに行く日は、他の種目の合間にやると時間を効率良く使える。


★エクササイズ例
動画:EricCressey.com: Fine-Tuning the Band Pullapart
https://www.youtube.com/watch?v=73Dm-j5wYIc
腕を開いた時の肩甲骨のポジションは、フォームローラーの上に寝て腕を開くと学びやすい。フォームローラーに肩甲骨が沿う程度に肩甲骨を寄せる。腕の動きに沿って結果的に肩甲骨が少し寄る程度で良く、意識して無理に肩甲骨を寄せなくて良い。

動画:EricCressey.com: Coaching the Cable External Rotation
https://www.youtube.com/watch?time_continue=63&v=QqkErY_Z2Dg
外旋動作のやり方。この動画では、上腕二頭筋がrotisserie chickenの鶏肉のように回転するイメージでやる良いと言っている(上腕骨が金串)。

動画:Face Pull Y Press
https://www.youtube.com/watch?v=FN_VCg1j6Sw
家でやる場合はドアの取手などにゴムバンドを引っ掛ける。私はジムでは、スクワットの合間にバーに引っ掛けてやっています。

動画:EricCressey.com: Troubleshooting the Side-Lying External Rotation
https://www.youtube.com/watch?v=ry7ZU-JVGZA
ダンベルで外旋トレーニグを行う場合の注意点。頚椎、胸椎、肩甲骨の位置をニュートラルに保つ。腕と胴体がぴったりくっつかない(脇の角度は30°くらい)。肩をすくめたり、なで肩になったりしない。広背筋や僧帽筋上部の力を抜く。
 
動画:EricCressey.com: 1-arm Bottoms-Up Kettlebell Carry
https://www.youtube.com/watch?v=mkSSED3NxFU
体幹を締める、上腕二頭筋や三角筋前部で持ち上げるのではなく、肩周り全体で負荷を受け止める。肩甲骨が前傾せず、良いポジションを保つように気をつける。ケトルベルが無ければ、ウェイトプレートを縦に持って行うのも良いだろう。

動画:SturdyShoulders.com: When Should You Train Shoulder Internal Rotation?
https://www.youtube.com/watch?v=aapa6VXbQVk
ローテーターカフのエクササイズは一般的に外旋動作が多いけど、内旋を行う肩甲下筋が弱っている場合もあるので、コンディションによっては内旋動作もトレーニグする。
パッシブの可動域(外部の力で動く範囲)と、アクティブの可動域(自分の力で動く範囲)に大きな差がある場合は、内旋動作もトレーニグするのが良い。1:40~のエクササイズを参考に。台にうつ伏せになって、肩甲骨が動かないように注意し、ボールとソケットがずれないようにしながら上腕を内旋させて肩甲下筋を鍛える。大胸筋や広背筋に力が入らないようにする(これらの筋肉も上腕の内旋を行う)、



関連記事:
肩関節の基礎知識

肩周りのストレッチ

前鋸筋の動員

ロウ・プルのやり方

プッシュとプルのバランス

10/19/2018

肩周りのストレッチ

★姿勢・アラインメント・筋力バランス
良い姿勢に骨の配列が収まっていて、筋力のバランスが取れていると肩がよく動くようになる。姿勢がニュートラルポジションから逸脱していたり、関節の安定に寄与する小さな筋肉が働かなくなって大きな筋肉で力任せに動かす癖がついていたりする場合は、姿勢の矯正をした上で正しい関節動作を身体に覚え込ませる必要がある。

段階としては、
step1. 使いすぎて固く縮こまっている筋肉を緩めて伸ばす。
step2. 弱っている小さな筋肉をアイソレートして鍛える。
step3. 大きな筋肉と小さな筋肉が連動して動作を行えるよう身体に覚え込ませる。
step4. 肩関節の健康を保つ上でバランスのとれたトレーニングを行う。

大胸筋や広背筋が固く縮こまっていて姿勢が悪く、前鋸筋やローテーターカフなど小さな筋肉が弱っている場合は、step1から順に行う。

現状で大きな問題がなければstep3と4で、小さな筋肉を動員するエクササイズをバランス良く行うことで、肩関節に不具合が起きないようにする。BIG3を中心としたウェイトトレーニングを行う場合は、大胸筋や広背筋が固く縮こまらないよう、これらの大きな筋肉のストレッチを並行して続けると良い。

今回の記事はstep1についてのみ。

step2については、弱っている代表的な小さな筋肉であるローテーターカフと前鋸筋について、それぞれエクササイズ方法を紹介するつもり。

step3については、プル・ローイング動作のやり方を書くつもり。プッシュ・プレス動作については、前鋸筋の記事にまとめて書くつもり。

step4については、プッシュ動作とプル動作のバランスのとり方について書くつもり。


★肩関節を動かしやすい良い姿勢
- 猫背にならない。胸椎はニュートラルなカーブを描き、肩甲骨が前傾しない。
- 肩甲骨が寄り過ぎたり離れ過ぎたり、上がりすぎたり(いかり肩)、下がりすぎたり(なで肩)になっていない。
- 上腕骨が前方に突き出たり、内旋したりしない。直立して腕をだらんと下ろした際に、手のひらが後ろを向くようだと上腕骨が内旋している。
- 首が前に突き出ていない。首が反っていない。

現時点でニュートラルな姿勢からどのような逸脱が起きているかは個人差がある。生活習慣や長年行っている競技によっても異なる。効果的な対処をするには、専門家による現状の正確なアセスメントが必要。

それを前提とした上で、「ウェイトトレーニングに熱心な人がどのような状態になりやすく、それにはどう対処したら良いか」について汎用的な対処法を書いていく。あくまで汎用的な方法なので、現状分析した上でのスペシャルな対処法には効果が劣るだろう。

ウェイトトレーニングに熱心な人が固く縮こまりやすい主な筋肉は、大胸筋、小胸筋、広背筋、菱形筋。


★姿勢の歪みの例
動画:EricCressey.com: Should You "Balance" Pushes and Pulls?
https://www.youtube.com/watch?v=t9XKZRIIazc
動画に出てくる最初の例は、広背筋を多く使うトレーニグにより肩甲骨が下に押し付けられて、なで肩になっている状態。デッドリフトや懸垂で広背筋は強く使うし、ベンチプレスやスクワットでも肩甲骨は下に押し付けられやすい。そのため本格的なウェイトトレーニングを行うとこの状態になりやすい。この場合は広背筋のストレッチを行うのが良いだろう。

動画の1:43~でmilitary postureと言っている例は、菱形筋が固く縮こまって肩甲骨が寄りすぎて少し上がっている状態。ベンチプレスやスクワットでは肩甲骨を寄せて固定するし、また身体を後ろに倒して肩をすくめながらローイングをやるとこうなりやすい。この場合は肩甲骨を開くストレッチをやったり、テニスボールなどでマッサージして菱形筋をほぐすと良い。

動画:Effects of bad posture on your spine: prevent with Low Pressure Fitness
https://www.youtube.com/watch?v=Obsut3Dc2Ok
大胸筋や小胸筋や広背筋が固く縮こまり、猫背巻き肩になっている例。首も前に突き出している。Youtube で bad posture で検索すると、もっとわかりやすい生身の人間の例が出てくるのだけど、対処方法がいまいちなのでここでは紹介しない。大胸筋や広背筋の使いすぎで猫背巻き肩になっている場合は、胸椎を伸ばし、大胸筋と広背筋のストレッチを行うと良い。


★使いすぎて固く縮こまっている筋肉をストレッチする
肩関節周りのストレッチを行う際に共通する注意点は、肩関節のボールとソケット部分のみを大きく曲げないこと。胸椎と肩甲骨を同時に大きくゆっくり動かすことを意識する。ボール・ソケット部分をグイグイ曲げると、肩関節の安定性が低下する恐れがある。肩甲骨と胸椎の可動性を高めることを意識してストレッチを行う。

・胸椎
丸まった胸椎を伸ばす。胸椎の捻りも重要。

TonyGentilcore.com How to Perform Thoracic Extension on Foam Roller Correctly
動画:https://www.youtube.com/watch?v=Oi9MeEGiQ-0
フォームローラーで胸椎を伸ばす時の注意点。腰椎を伸ばすのではなく、胸椎を伸ばす。グイグイと反らない。胸を開かない。首を反らない。1:00~が良いやり方の例で、腰が反らないよう体幹を締め、胸が開かないよう腕を前に伸ばしながら行う。胸椎の可動域は小さいので、少しだけ動かせば良い。

動画:HighPerformanceHandbook.com: Bench T-Spine Mobilizations
https://www.youtube.com/watch?v=qovO0ysEpuc
顎を引いて胸椎を伸ばしたまま、ゆっくりと身体を下ろしていく。下ろしきったところで息を深く吐き出す。広背筋や上腕三頭筋も同時にストレッチできる。

動画:HighPerformanceHandbook.com: Side-Lying Windmill
https://www.youtube.com/watch?v=RX21NOL61OE
腰椎は固定して捻らない(ヘソの位置が動かないよう意識するとやりやすい)。肩関節のみを回さず、胸椎を含む上背部全体を大きく回す。自分の手の動きを目で追うとやりやすい。

・大胸筋、小胸筋
グイグイとアグレッシブにストレッチしないこと。肩関節は優しく扱う。胸筋のストレッチはリラックスして鎖骨をゆっくり開くイメージでやると良い。腕だけ後ろにいって胴体が前に残ると、上腕骨のボール部分が前に押し出されて肩関節に良くない。

動画:Doorway slides
https://www.youtube.com/watch?v=b0Ccih0z7pE

動画:Corner Wall Chest Stretch
https://www.youtube.com/watch?v=Kvo7054R3fQ

動画:ShowandGoTraining.com: Pec Major & Minor Soft Tissue
https://www.youtube.com/watch?v=kOtSeKKJDmc

・広背筋
広背筋のストレッチのポイントは、腕を身体の前方に、親指は上を向く、肩甲骨も腕に合わせて動かす、胸椎は伸ばす、腰椎は丸める、伸ばしたポジションでゆっくりと息を吐いて、吐ききった状態で静止。

動画:EricCressey.com: TRX Deep Squat Breathing with Lat Stretch
https://www.youtube.com/watch?v=LENyTY-MKy4
広背筋のストレッチ。パワーラックに手を引っ掛けてやったり、床の上で土下座スタイルで腕を前に伸ばしてやっても良い。

・菱形筋
菱形筋のストレッチを調べてみたけど、腕を自分の身体に寄せて引っ張ることで肩甲骨を開いて菱形筋をストレッチするやり方が多い。このやり方だと肩関節のボールとソケット部分の角度が鋭角になって、肩関節の安定性が低下しそうなので、肩関節のボールとソケットがなるべく鋭角にならず、肩甲骨をのみを開くやり方が望ましい。

動画:Rhomboid Stretch
https://www.youtube.com/watch?v=j4NyH5YNLl4
こんな感じが望ましい

動画:How to Stretch Rhomboids
https://www.youtube.com/watch?v=ca5j-33Bn6c
この動画の後半のように腕を自分の身体に寄せて引っ張ると肩関節に悪そうな感じ

個人的には、下図のようにダンベルを片手に持って、ダンベルの重さで菱形筋を伸ばすのがやりやすい。ダンベルの重さは私は20kgくらいがちょうど良かった。軽すぎると伸びないので適度に重いのが良いと思う。胸椎の捻り方向のストレッチも同時に行える。



動画:Tennis Ball Rolling Exercises for Upper Back Pain -Missoula Chiropractor Krieg Tip
https://www.youtube.com/watch?v=bFI6hGRa-hg
菱形筋をテニスボールでほぐす。肩甲骨と背骨の間にボールを置いて行う。硬めのマットレスのベッドの上に寝て行うのも良い。

・首の突き出し、反り

首周りのエクササイズは慎重にゆっくり行うこと。グリングリンと勢いよく回したり、強い負荷をかけないこと。それとスクワットやデッドリフトで首を反って挙上するのは、首の突き出しや反りを悪化させるので止めたほうが良い。

動画:FIX Forward Head Posture! (Daily Corrective Routine)
https://www.youtube.com/watch?v=wQylqaCl8Zo
首が前に突き出ている場合の矯正方法。他の箇所の姿勢矯正と同様に、固く縮こまっている筋肉を伸ばして、弱い筋肉を鍛える。顎を引くストレッチは、立って背中を壁につけて行うのも良い。



関連記事:
肩関節の基礎知識

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ショルダープレス

懸垂のやり過ぎによる怪我リスク(肘と肩)

9/28/2018

肩関節の基礎知識


熱心にウェイトトレーニングを行う人は、肩の怪我をしやすい。ウェイトトレーニングをハードに行いつつ、肩のコンディションを良好に保つにはどうすればよいか。基礎的な知識をいくつかの記事に分けて書いてみたい。

肩のコンディションは人によって様々で、現時点で痛みが激しい場合は、専門家に診てもらうのが良いだろう。


★肩関節の基礎知識
肩関節は、ボール(上腕骨頭)とソケット(肩甲骨関節窩)の組み合わせになっている。ただソケットはかなり浅いので、プラモデルのボールジョイントなどと違ってボールがずれやすい。けん玉の皿と玉、もしくはゴルフのティーとボールの形に近い。肩関節には腱や靭帯や神経が密集しており、ボールがずれるとこれらの組織を圧迫して不具合が生じる。




運動を熱心に行う人が肩関節の健康を保つために最も重要なことは、

ソケットからボールをずらさない


そのためには腕と肩甲骨がうまく連動して動くことが必要となる。腕を動かすとボールが動き、腕に連動して肩甲骨が動くことで、肩甲骨のソケットで上腕のボールを受ける。

上腕骨と肩甲骨の連動の話でよく言及されるのが肩甲上腕リズムで、筋トレだとショルダープレスを行う際にこの動きになる。

動画:Scapulohumeral Rhythm
https://www.youtube.com/watch?v=rpzBGlOEW4E


腕を上に挙げる時だけではなく、腕立て伏せで腕を身体の前方に押し出す動きでも、ローイングで腕を後ろに引く動きでも、肩甲骨と上腕が上手く連動して動くことが大事。腕が前に出れば、肩甲骨も前に出る。腕を後ろに引けば肩甲骨も後方からやや内側に動く。

ローイングやプルやプレスの種目で、フォームについて考える時は、「肩甲骨と上腕が連動し、ボールがソケットからずれていないか?」を考えるのが良いと思う。ローイングでは肩甲骨を寄せて・・・といったキューは本質的ではないだろう。

(この点で、肩甲骨を寄せて固定したまま上腕を前に動かすベンチプレスの動作は、肩関節にとっては不自然な動作になる。ベンチプレスでは肩甲骨を固定して安定性を高めることでより強い力を発揮するようにしていて、「強い力を発揮する」という観点からは理に適ったフォームではあるのだけど、肩関節の健康という観点からはデメリットがある)

上腕と肩甲骨の連動のためには、大胸筋や広背筋といった大きな筋肉の筋力や柔軟性、前鋸筋や僧帽筋やローテーターカフの働きなど、肩関節の動きに関わる筋肉のバランスが重要となってくる。また肩甲骨や上腕骨や胸椎といった骨が、姿勢の良い位置に収まっていることも重要となる。


関連記事:
肩周りのストレッチ

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プッシュとプルのバランス

8/24/2018

連日トレーニング

一般的にレジスタンストレーニングでは、ある部位(筋肉)をトレーニングしたら、次のトレーニングまで48時間~72時間程度空け、筋肉が回復してから再度トレーニングするのが良いと言われる。これは半ば常識となっている。

その常識にチャレンジした研究が今回の2つの研究。トレーニングの頻度とボリュームを揃えて、連日同じ部位をトレーニングするグループと、最低でも1日休みを入れるグループでトレーニング効果に違いが出るか調べている。

例えば以下のようなトレーニングプログラムで効果に違いが出るか。
連日:月曜~木曜が休み、金曜~日曜に全身トレーニング。
隔日:月曜、水曜、金曜に全身トレーニング。


(1)Effects of Consecutive Versus Non-consecutive Days of Resistance Training on Strength, Body Composition, and Red Blood Cells.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6015912/

被験者:若い男性(たぶんシンガポール人)。日頃から運動をしているが本格的なレジスタンストレーニングをしているわけではない。

トレーニング内容:
両グループとも全身を週3日トレーニング。トレーニング期間は12週間。トレーニング種目とトレーニングボリュームはグループ間で同じ。グループ間で異なるのは、トレーニングを3日連続で行うか、最低でも1日空けるか。

トレーニング種目は全てのトレーニング日で共通。
- レッグプレス
- ラットプルダウン
- レッグカール
- ショルダープレス
- レッグエクステンション

全種目10RMの重量で3セット×10レップ(10RMの重量で10レップなのでたぶん全セット限界まで)

結果:
両グループともストレングスが伸び、除脂肪体重が増えた。ストレングスの伸び、除脂肪体重の増加量にグループ間で有意差なし。


(2)Nonconsecutive versus consecutive-day resistance training in recreationally trained subjects.
https://www.researchgate.net/publication/308763287_Nonconsecutive_versus_consecutive-day_resistance_training_in_recreationally_trained_subjects

被験者;
趣味で運動している若い男性(たぶんポルトガル人)。除脂肪体重(60kg台前半)とベンチプレス1RM(80kg後半)とトレーニング歴(8年くらい)からすると筋トレ中級者だと思う。

トレーニング内容:
両グループとも全身を週3日トレーニング。トレーニング期間は7週間。トレーニング種目とトレーニングボリュームはグループ間で同じ。グループ間で異なるのは、トレーニングを3日連続で行うか、最低でも1日空けるか。

種目は以下の通り。全てのトレーニング日で全身トレーニングだけど、トレーニング日によって少し種目に違いがある。レップ数もトレーニング日によって変わっている。


結果:
体組成は両グループとも実験前後で変化なし。腕と脚の太さの変化は連日グループがわずかに良い結果。

ストレングスはベンチプレスとレッグプレスについて測定。両グループともベンチプレスとレッグプレスの記録が伸びた。グループ間で伸びに有意差なし。


☆コメント
上の2つの研究で共通するのは
- 被験者は初心者~中級者。
- コンパウンド種目は多いがマシン中心で、全身への負荷がきついスクワットやデッドリフトは行っていない。
- 部位あたりのトレーニングボリュームはそれほど多くない。

今回の2つの研究ではトレーニングボリュームはそれほど多くはない。ただ多くはないと言っても、3セットか4セットを限界まで行っているので、24時間では筋肉のダメージもトレーニングキャパシティも回復していないだろう。それでもグループ間で差がないので、完全に回復せずトレーニングを行ってもちゃんと効果が得られるようだ。

Time restricted feeding(リーンゲインズのように決まった時間枠内でのみ食事を行う)の研究(4)で示されているように、食事タイミングを分散させなくても栄養はしっかり消化吸収されるし、トレーニングタイミングを分散させなくてもトレーニング効果は得られる。最近は、短期の研究から推測されるよりも人体がフレキシブルに適応できることを示す研究が増えてきていて面白いと思う。

今回の研究結果は、トレーニングプログラムを組む上でのフレキシビリティを高める。例えば、トレーニングを行える日が土曜と日曜しかない場合、一般的に推奨される部位あたり48~72時間の休息を入れようとすると、土曜に下半身、日曜に上半身といった分割スタイルになり、部位あたり週に1回しかトレーニングが行えない。現状のエビデンスからは、週に1回よりも週に2~3回トレーニングした方がストレングスも筋肥大も高い伸びになる可能性が高いので、全身を連日トレーニグすれば、休みを入れて週に2回トレーニングするのと同等の効果を得ることが出来、部位あたり週1回トレーニングするよりも高いトレーニング効果が得られることが期待される。(5)(6)

ただ中級者から上級者になるとトレーニングの重量とボリュームが増えてきて、連日トレでは2日目以降はトレーニングの質と量が落ちるだろう。またスクワットやデッドリフトは回復に時間がかかると考えられる(3)。上級者が連日ハードに同じ部位や同じ種目をトレーニングしようとすると、トレーニングの質と量が低下することにより、休みを入れてトレーニングするよりも伸びが低くなる可能性が高い。

中級者から上級者で、諸事情により連日同じ部位をトレーニングしないといけない場合は、以下のような点を考慮して疲労管理を行いつつ、トレーニングの質と量を確保するのが良いと思う。
- セット間インターバルを長めに取る。
- 全セット限界までやると筋肉のダメージが大きくなるので、追い込み度を下げる。特に1日目は追い込み度低めが良いだろう。目安としては多くのセットを限界まで2-4レップ残し程度で行う。
- 筋肉のダメージの度合いは概ねトレーニングボリュームに比例するので、1日目にボリュームが低くなる高強度低レップのストレングストレーニング(目安は85%1RM以上の重量、5レップ以下)を行い、2日目に高ボリュームの筋肥大トレーニング(目安は60%~85%1RMの重量、6-15レップ)を行うのも良い。
- 同じ部位でも、1日目はフリーウェイト、2日目はマシンやアイソレートといった感じで種目を少し変えてみる。



参考文献:
(1)Effects of Consecutive Versus Non-consecutive Days of Resistance Training on Strength, Body Composition, and Red Blood Cells.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6015912/

(2)Nonconsecutive versus consecutive-day resistance training in recreationally trained subjects.
https://www.researchgate.net/publication/308763287_Nonconsecutive_versus_consecutive-day_resistance_training_in_recreationally_trained_subjects

(3)Resistance Training Recovery: Considerations for Single vs. Multi joint Movements and Upper vs. Lower Body Muscles
https://digitalcommons.wku.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1653&context=ijes

(4)Effects of eight weeks of time-restricted feeding (16/8) on basal metabolism, maximal strength, body composition, inflammation, and cardiovascular risk factors in resistance-trained males
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5064803/

(5)Training Frequency for Strength Development: What the Data Say
https://www.strongerbyscience.com/frequency-muscle/

(6)Training Frequency for Muscle Growth: What the Data Say
https://www.strongerbyscience.com/frequency-muscle/


関連記事:
限界まで追い込んだ場合と追い込まなかった場合の回復の違い

8/10/2018

運動からの疲労回復方法(2018年版)

An Evidence-Based Approach for Choosing Post-exercise Recovery Techniques to Reduce Markers of Muscle Damage, Soreness, Fatigue, and Inflammation: A Systematic Review With Meta-Analysis
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2018.00403/full

マッサージやコンプレッションウェアなど、運動後に行われる疲労回復方法について、どの手法がどれくらいの効果があるかを調べたメタ解析研究。


★回復の評価軸
筋肉のダメージと炎症の指標
- creatine kinase (CK)
- C-reactive protein (CRP)
- interleukin-6 (IL-6)

被験者の主観
- 筋肉痛
- 疲労感


★結果一覧
massage:マッサージ
compressive garments:コンプレッションウェア
immersion:水に浸かる
electrostimulation:電気刺激
stretching:ストレッチ
cryotherapy:クライオセラピー(超低温の冷気を短時間当てる)
active recovery:アクティブリカバリー(運動後に低強度の運動をする)
Contrast Water Therapy:冷水と温水に交互に浸かる
hyperbaric therapy:いわゆる酸素カプセル

筋肉のダメージと炎症の指標





筋肉痛(DOMS)と疲労感(perceived fatigue)




★回復方法別の結果解説
・マッサージ
- 疲労感を軽減するのに最も有効(コルチゾールレベルの低下とβエンドルフィンレベルの上昇が寄与か)。
- 筋肉痛の軽減効果も高い。
- CKとIL-6の低下に最も効果的(筋肉のダメージの軽減と回復の促進を示唆)。

想定メカニズム:筋肉の血行をよくし、浮腫を軽減する可能性。

実践: 運動後2時間以内に20-30分のマッサージ。


・コンプレッションウェア
- 筋肉痛と疲労感の軽減に効果的。
- 今回の解析では、各種炎症マーカーのCK, IL-6, CRPについては効果は見られず。
- 既存の研究は、回復期間、着用期間、どれくらいの圧力がかかるか、着用する部位などがバラバラで、またコンプレッションウェアの実験では運動の強度が低い傾向があり、そもそもダメージがあまり出ていない可能性もある。

想定メカニズム:圧力で浮腫を軽減、筋肉から老廃物を排出しやすくする。

実践:運動後24時間以上は着用したほうが良さそう。


・水に浸かる
- 筋肉痛と疲労感の軽減に効果的。
- CKをやや低減。IL-6とCRP については有意差なし。

想定メカニズム:浮腫の軽減と痛みの感覚の麻痺。水圧が筋肉から代謝物の排出を促進。血管収縮により炎症が拡がるのを防ぐ。

実践:11–15℃の冷水に11–15分浸かる。(体温以下の水温なら効果があるので厳格にこの温度にしなくても良い)


・冷水と温水に交互に浸かる
- 筋肉痛に効果あり。疲労感については有意差なし。
- CKの低減。

想定メカニズム:血管収縮と血管拡張を繰り返すことで浮腫の軽減、炎症と痛みの軽減。


・アクティブ・リカバリー
- 筋肉痛に効果あり(運動後の短い時間での効果が大きい)。疲労感については有意差なし。
- CK, IL-6, CRPは有意差なし。

想定メカニズム:血行を良くし、代謝物の除去を促進。


・クライオセラピー
- 運動後の短い時間に筋肉痛に小さな効果あり。
- IL-6は低減。CKとCRPには有意差無しだが、継続的な使用でCKに低減効果が出るとする研究もある。
- 既存の研究は温度や使用タイミングなどがバラバラ。


・ストレッチ、電気刺激
- 筋肉痛と疲労感については低減効果なし。ストレッチは筋肉痛を悪化させる場合も。



★解析結果についての留意点
- 研究によって運動の強度がまちまち。強度の高い運動をすればそれだけ低減効果が出やすくなり、逆に強度の低い運動をするとダメージと疲労が小さいので低減効果も出にくくなる。
- レーザーや振動を使った最新の手法は、既存の研究の数が少ないので今回の研究には含まず。
- パフォーマンスは別の評価軸で今回の研究では含まず。ダメージや炎症の指標の変化と、実際の運動パフォーマンスの変化が一致するわけではない。



☆コメント
疲労回復方法については以前書いたけど、以前の記事は古い研究を基にしているので、今回のメタ解析研究の結果で情報をアップデートして良いと思う。

推奨方法は・・・
運動が生活に関わる人は、お財布と相談しながらマッサージを受けるのが良いでしょう。

趣味で運動をしている人は、水に浸かるかコンプレッションウェアが良さそう。水に浸かるのは体温以下の水温ならば効果があるので水風呂がない場合はプールでも良いだろう。ただ後述するように冷水に浸かるのは筋肥大とストレングスの向上を妨げる可能性があるので、筋トレをしている人は注意したほうが良いと思う。コンプレッションウェアは長時間の着用が必要なようなので、人によっては着用し続けるのが少し鬱陶しいと感じるかもしれない。

運動からの回復には十分な食事と睡眠が最も大事で、プラスアルファで疲労回復のために何ができるか。趣味で運動している人は、上に挙げた効果的な方法へのアクセスに難がある場合は、無理してやる必要もないと思う。運動のボリュームを適切に設定し、しっかり食べてしっかり寝るのが基本。

アスリートの場合は、状況によって回復方法を使い分けるのも良いだろう。例えば1日に複数回の試合をするような場合は、アクティブリカバリーのように短時間でも痛みが軽くなってパフォーマンスを上げられるならば意味があるだろう。

ダメージや炎症の軽減が、長期的な適応にどのような影響を及ぼすのかはあまりわかっていない。トレーニング後に10度の冷水に10分浸かると筋肥大とストレングスの伸びが阻害されたという研究(2)があり、高用量の抗炎症薬の継続的な服用でも筋肥大とストレングスの伸びが阻害されたという研究(3)があるので、ダメージや炎症を和らげるとそれだけ筋肥大しにくいといったこともあるかもしれない。

ただ考えられる説がいくつかあって、
(ⅰ) 筋肉のダメージが筋肥大に深く関わっていて、筋肉のダメージを軽くし早く回復させることで筋肥大が抑制される。(最近の筋トレ研究のトレンドでは筋肉のダメージは筋肥大に直接的な関係があまりないというのが主流になっているが)
(ⅱ) ダメージや炎症を抑制する方法や薬物は、同時に筋肥大のプロセスも抑制する。
(ⅲ) トレーニング初期は筋肉のダメージが大きく、繰り返しトレーニングを行いダメージの修復を繰り返すことで、筋肉がトレーニングに耐えられるようになり、それからようやく本格的な筋肥大が始まる。ダメージは筋肥大には直接的には関わらないが、トレーニングに耐えうる筋肉へのトランスフォームを行うのに重要な役割を果たす。トレーニング後の炎症反応を無理やりに抑制するとダメージの修復が遅れて、トレーニングに耐えうる筋肉へのトランスフォームが進まず、筋肥大フェーズに入りにくい。

素人の考えだが、(ⅱ) and/or (ⅲ)の説がもっともらしい説明だと思う。適度な炎症は適応に必要なので、通常のトレーニングで起こる程度の炎症を抑え込むのはあまり良くない感じがする(もちろん怪我や病気での炎症は抑え込んだ方が良いだろう)。従って感覚が麻痺するほどの低温の水に浸かったり、冷気を当てたりするのは適応を妨げる可能性がある。一方で、マッサージやコンプレッションウェアは代謝物の排出促進などにより回復を早めるのがメインな感じがするので、適応を妨げないかもしれない。水に浸かるのも、水圧による回復効果があるのなら、20-30℃程度の温い水に浸かるのは筋肥大とストレングスの向上を妨げないかもしれない。

あとストレッチやフォームローラーは、筋肉の疲労回復には効果がないとしても、姿勢や筋肉のバランスを整えて怪我を防止するのに効果的なので、なるべく行ったほうが良いと思う。詳しくは関連記事の「ストレッチとウォームアップ」を参考に。運動後の激しいストレッチは筋肉痛を悪化させる可能性があるので、運動後にストレッチをやる場合は軽くやるのが良いだろう。個人的にはストレッチとフォームローラーは運動前と寝る前にやっています。



参考文献:
(1)An Evidence-Based Approach for Choosing Post-exercise Recovery Techniques to Reduce Markers of Muscle Damage, Soreness, Fatigue, and Inflammation: A Systematic Review With Meta-Analysis
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2018.00403/full

(2)Post-exercise cold water immersion attenuates acute anabolic signalling and long-term adaptations in muscle to strength training
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4594298/

(3)High‐doses of anti‐inflammatory drugs compromise muscle strength and hypertrophic adaptations to resistance training in young adults
https://www.researchgate.net/publication/319204260_High-doses_of_anti-inflammatory_drugs_compromise_muscle_strength_and_hypertrophic_adaptations_to_resistance_training_in_young_adults



関連記事:
筋トレの疲労と回復方法

疲労のメカニズム

ストレッチとウォームアップ

7/29/2018

短期の研究と長期の研究

筋肥大を巡るエビデンスについてちょっと書いてみたい。個別の研究の内容よりも、物事の見方が主旨。


筋肥大に関する研究には主に2種類ある。

1) 短期的な研究: 1回の食事やトレーニングに対しての身体の反応を調べた研究。具体的には、血液を採取してアミノ酸濃度を測定したり、筋肉の組織を採取してタンパク質がどれくらい合成されているかを調べたりする。
2) 長期的なコントロール研究: 数週間~数ヶ月の栄養摂取やトレーニングに対しての身体の反応を調べた研究。具体的には、栄養素の摂取量やトレーニング内容を変えたグループ間で、筋肥大の程度に差が出るかを調べたりする。

よく見る考え方は、「短期の結果が食事ごと、トレーニングごとに積み重なって、長期の結果が決まる」というもの。(長期の研究が不足しているため、ある程度は数が揃っている短期の研究の結果から長期の結果を予測するしかない面もあるのだろうが)

例えば、タンパク質摂取についての短期の研究結果を組み合わせて、筋肥大を最適化するタンパク質摂取のガイドラインを書くと、

・1食あたり20-30g程度のタンパク質を摂取する。(一回にそれ以上摂取しても筋合成はそれほど高まらない)
・食事間隔は3~5時間程度空ける。(血中アミノ酸濃度が高まって30~2時間くらいで筋合成が活発になるが、その後は血中アミノ酸濃度が高くても筋合成レベルが下がるため食事間隔はある程度空ける)
・寝る前にタンパク質を摂取する。(就寝中の筋合成低下を防ぐ)

これは最近の論文に書かれていることで(1)、研究者の間でも主流の考え方だと思う。こういったガイドラインは全て短期の研究結果に基づいている。

一方で、長期的に筋肥大効果に最大の影響を与えるのは、1日あたりのトータルのタンパク質摂取量というのも主流の考え方だろう。(2)

短期の研究と長期の研究を合致するようにガイドラインを書くと、筋肥大を最適化するには毎食20-30g程度のタンパク質を含む食事を3~5時間間隔で1日に4-6回・・・となる。

ここまで厳格に食事管理をしないといけないのだろうか? 個人的にはその必要はないと思っている。(実践面では必要な摂取カロリーが多い場合は食事回数を増やしたほうが食べるのが楽だと思うが)トータルのタンパク質摂取量を確保すれば、1食あたりのタンパク質の量が30gを大きく超えても良いし、食事回数も1日2,3食と4-6食では差が出ないのではないか思う。

ただ個人的にそう思うだけで、それを直接調べた長期の研究は多分無い。(もしあったら教えてください)

食事回数と筋肥大の関係を調べた長期の研究では、1日の食事回数が約6回と4回とを比較した研究がある。結果は食事回数が約6回でも4回でも除脂肪体重の増加に差は無し。(3) ちなみに減量の際の食事回数の違いが体組成変化にもたらす影響を調べた研究はもっと数がある。(4)

また日中にカゼインを摂取しても夜寝る前にカゼインを摂取しても、長期的な筋肥大の程度に有意差なしという研究もある。(5)

一日に約6回食べても食事の度に筋合成が積み重なって4回食べるより有利になるということはなく、また夕食から朝食まで10-12時間程度食べない時間があっても、空腹時間が長くならないよう寝る前にカゼインを摂取するのと筋肥大の程度は変わらない。人間の身体はかなりフレキシブルに適応するのだと思う。

ちょっとした計算をしてみよう。

骨格筋を構成するのは大部分が水分で、タンパク質の割合は25%程度。初級者・中級者の速めの筋肉増加ペースを想定して1ヶ月で0.5-1.0kg程度筋肉が増えるとする。一日あたりだと約17-33g。タンパク質はこの25%なので身体全体の骨格筋で一日あたり約4-8gのタンパク質の増加となる。毎日タンパク質を150gとか摂取してハードなトレーニングを続けてかなり良い結果を出したとしても、長期的にはこの程度のペースでしか増えていかない。上級者になると筋肥大ペースはもっと低くなるので、一日あたりのタンパク質増加ペースはさらに小さくなる。

一回のタンパク質摂取でどれくらい筋肉にタンパク質(アミノ酸)が取り込まれるのかというと、この研究(6)では20gのカゼインタンパク質摂取で11%(2.2g)が腕と脚の骨格筋に取り込まれたと算出している(20%が骨格筋に取り込まれたとも書かれている。これは全身の骨格筋だろうか?)。

仮に摂取したタンパク質の20%が全身の骨格筋に取り込まれるとすると、20-30gのタンパク質摂取で4-6g。上で計算した1日あたりのタンパク質蓄積量を1食か2食のタンパク質摂取で上回る。従って毎食ごとに筋合成の最大化を目指しても、結局は食事と食事の間の空腹時に血中にアミノ酸が放出され、長期的には1食か2食のタンパク質合成量と同程度のペースでしか筋肉が増えていかないことになる。それではタンパク質20-30gを一日に1,2回摂取すれば十分なのかというとそうではなくて、長期的には筋肥大を最大化するには1日に体重1kgあたり約1.6g以上のタンパク質摂取が必要だと現状のエビデンスは示している。(2)

一回のトレーニングに対する筋合成の反応と、長期的な筋肥大の関係も同じようなことが言える。一回のトレーニングで筋合成を最大化しようとするなら、非常に多いボリュームのトレーニングを行うのが良いだろう。(7) しかしボリュームが多すぎても長期的に見て良い結果が出るわけではないし(8)、限度を超えるとオーバートレーニングにもなる。

身体全体でどのようなメカニズムになっているのかわからないけど、筋合成を調べた短期の研究結果でわかる要素以外にも長期の筋肥大に影響を与える要素があるのだろう。オープンな複雑系のシステムにおいて、現時点で人間が理解できている部分のみをもとに全体モデルを組み立てると、実態からかけ離れた間違ったものになる。これは経済学なんかでもよくある過ち。

こういう場合は、細部にはこだわらず全体を俯瞰した大雑把なモデルを考えたほうがうまくいく。

短期の研究結果を根拠に毎回の食事やトレーニングで効果の最大化を目指し、それを積み重ねていくという考え方よりも、「環境への適応の結果、身体に変化が起こるのであり、その環境を長期的な視点に立っていかにセッティングするか?」を考えたほうが良いと思う。

筋肥大についていえば、
・1日のトータルのタンパク質摂取量
・適切なトレーニングボリューム(多すぎても少なすぎてもいけない)。
・漸進的過負荷(重量とボリュームを徐々に増やしていく)

これらの環境を、その時点のその人にとって適切になるようセッティングする。短期の研究で魅力的な結果が出ていても、それに振り回されず長期的な視点で考えるのが良いと思う。


関連記事:
筋肥大トレの推奨ボリューム2

タンパク質摂取量の目安

筋肥大トレのピリオダイゼーション

増量の考え方


参考文献:
(1)Recent Perspectives Regarding the Role of Dietary Protein for the Promotion of Muscle Hypertrophy with Resistance Exercise Training
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5852756/

(2)A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5867436/

(3)Increasing Protein Distribution Has No Effect on Changes in Lean Mass During a Rugby Preseason.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26132746

(4)Effects of meal frequency on weight loss and body composition: a meta-analysis
https://academic.oup.com/nutritionreviews/article/73/2/69/1820875

(5)Daytime and nighttime casein supplements similarly increase muscle size and strength in response to resistance training earlier in the day: a preliminary investigation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5952515/

(6)Post-Prandial Protein Handling: You Are What You Just Ate
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4640549/

(7)Muscle Protein Synthetic Responses to Exercise: Effects of Age, Volume, and Intensity
https://academic.oup.com/biomedgerontology/article/67/11/1170/604729

(8)Effects of a 12-Week Modified German Volume Training Program on Muscle Strength and Hypertrophy—A Pilot Study
http://www.mdpi.com/2075-4663/6/1/7/htm

(9)How much protein can the body use in a single meal for muscle-building? Implications for daily protein distribution
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5828430/

(10)Effects of protein supplements consumed with meals, versus between meals, on resistance training-induced body composition changes in adults: a systematic review.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29697807

7/16/2018

寝る前のカゼイン摂取は筋トレ効果を高めるのか?

Daytime and nighttime casein supplements similarly increase muscle size and strength in response to resistance training earlier in the day: a preliminary investigation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5952515/


寝る前にカゼインを摂取すると筋肥大に有利だという説がある。だいたいこんな感じの話。
「一般的な食事パターンでは、夕食から朝食までの時間間隔が長い。夜寝る前に消化吸収の遅いカゼインを摂取することで、寝てる間にアミノ酸を長時間供給し筋合成を促進することが出来る」

これについて調べた既存の研究はいくつかあって、寝る前にカゼイン摂取が筋肥大に有利というものもあるのだけど、トータルのタンパク質摂取量を揃えていなかったりとデザインが良くないものばかり。

今回の研究は、トレーニングを管理し、トータルのタンパク質摂取量を揃えている。筋トレ効果の測定も、DXAで体組成、超音波検査で筋肉の断面積と厚み、1RMの測定と多面的に調べていて良い。被験者数が少ないのが残念だけど、それ以外は良いデザインの研究で、「寝る前のカゼイン摂取が筋トレ効果を高めるのか?」という問題についてきちんと調べた初の研究と言って良いと思う。結果は、寝る前にカゼインを摂取しても、日中にカゼインを摂取しても筋トレ効果に有意差は無し。


★グループ分け
寝る前カゼイン摂取グループ(NT):寝る直前にカゼインプロテインを35g摂取。日中にマルトデキストリン(プラシーボ)を35g摂取。
日中カゼイン摂取グループ(DT):寝る直前にマルトデキストリン(プラシーボ)を35g摂取。日中にカゼインプロテインを35g摂取。

日中に摂取するサプリメント(カゼイン or マルトデキストリン)は、トレーニングの前後3時間以内および就寝6時間前より後の摂取は避ける。


★被験者
18-25歳の男性。トレーニング歴あり。20名でスタートしたが、指示をあまり守れてなかった被験者は除外され最終的に13名のデータを使用。


★筋肥大の測定
・DXAで体組成を測定。
・超音波検査で大腿直筋の断面積と外側広筋と中間広筋の厚みを測定。


★トレーニング内容
週4回トレーニング。二分割で各部位週二回。トータル10週間。


★栄養摂取
カゼインプロテインはカルシウムカゼイネート。それとは別にトレーニング直後に25gのホエイプロテインを摂取。

普段の食事は研究者側の指導のもと自己管理。以下の栄養摂取を目指した。
- タンパク質摂取量は1日に体重1kgあたり1.8g。(プロテインサプリメント含む)
- 摂取カロリーに占めるマクロ栄養素バランスは、タンパク質20%、脂質28%、炭水化物52%。

食事記録をもとに算出した実際のタンパク質摂取量は体重1kgあたり2.0g程度で十分な摂取量。グループ間の摂取カロリーおよびマクロ栄養素に有意差なし。両グループともに実験後に体重が増えているので摂取カロリーは維持カロリーを上回っていたと考えられる。


★結果
筋肥大の指標と1RM伸びについてグループ間で有意差無し。ただ、筋肥大も1RMもDTグループの方が良い傾向だった。

・身体測定結果。グループ間で有意差無しだが、傾向としては日中にカゼインを摂取したグループ(DT)のほうがより筋肥大している。
Lean Soft Tissue は、身体全体から体脂肪と骨を除いた残り。
Appendicular LST は、腕と脚の Lean Soft Tissue。
Cross Sectional Area は、大腿直筋の断面積。
Muscle Thickness は、外側広筋と中間広筋の厚み

・パフォーマンス測定結果。グループ間で垂直跳びの最大力以外は有意差無しだが、傾向としては日中にカゼインを摂取したグループ(DT)のほうがレッグプレスとベンチプレスの1RMの伸び率が高い。


★備考
サプリメーカー(Dymatize)と乳業メーカー(FrieslandCampina)から資金提供を受けている。


☆コメント
寝る前にカゼイン摂取を行った過去の研究だと、トータルのタンパク質摂取量に大きな差(1.9g/kg/day と 1.3g/kg/day)がある研究(2)では、寝る前のカゼイン摂取が有利という結果。トータルのタンパク質摂取量を揃えているがトレーニングは各自自由に行った研究(3)では、筋肥大と1RMに変化なしで、グループ間の差も無しという結果。

今回の研究は、トレーニングを管理し、トータルのタンパク質摂取量を揃えている。結果は、グループ間で筋肥大および1RMの伸びに有意差無しとなった。ただ、日中にカゼインを摂取したグループの方が筋肥大も1RMも良い傾向だった。

有意差無しとはいえDTグループのほうが良い傾向なのは単なる偶然なのか、それとも何か要因があるのか。

被験者データを見ると、DTグループの方が身長が高く、体重が重く、体脂肪率が高いが、レッグプレスとベンチプレスの1RMが低い。トレーニング歴はDTグループの方が短く(DT2.0年、NT2.7年)、トレーニング頻度も低い(DT3.7回/週、NT4.0回/週)。つまりDTグループのほうが研究開始時点で伸びしろが大きかったと考えられる。これによりDTグループの方がよい傾向となった可能性がある。

論文のディスカッションでは、日中にカゼインによるアミノ酸供給と食事によるアミノ酸供給が重なることで、筋合成が最大化されたのではないかと書かれている(穿った見方をすれば、これは資金提供を行っているサプリメーカーに配慮した記述なのかもしれない。食事だけよりもプロテイン摂取したほうが筋合成に有利と)。

今回の研究結果を見ても、「筋肥大には一日のトータルのタンパク質摂取量が最も重要で、摂取タイミングはそれほど重要ではない」という考え方を変える必要はないと思う。実践面では、一日に3,4回の食事を間隔と量があまり偏らないように分散させて食べるのが良いだろう。

個人的には、維持カロリー以上の時は食事タイミングは大雑把、プロテインはほぼホエイのみで、寝る前にカゼインを摂取したりはしない。減量時はアミノ酸供給をコンスタントに行って筋分解を防ぐため、日中の食事補助のプロテインもカゼイン中心で、夕食のタンパク質摂取量が少ない場合は夜遅い時間にカゼインを摂取したりしている。カゼインはミセラーカゼインのプロテインやカッテージチーズを使用している。減量時はアミノ酸をコンスタントに供給したほうが除脂肪体重の減少を抑えられるという考え方をサポートする長期の研究は(4)がある(逆に言えば多分この研究しかない)。



関連記事:
タンパク質摂取量の目安

ゴールデンタイムはあるのか?

カゼイネートとミセラーカゼインの消化吸収速度


参考文献:
(1)Daytime and nighttime casein supplements similarly increase muscle size and strength in response to resistance training earlier in the day: a preliminary investigation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5952515/

(2)Protein Ingestion before Sleep Increases Muscle Mass and Strength Gains during Prolonged Resistance-Type Exercise Training in Healthy Young Men.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25926415/

(3)Casein Protein Supplementation in Trained Men and Women: Morning versus Evening
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5421981/

(4)Effects of meal frequency on body composition during weight control in boxers.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8960647

(5)Effects of meal frequency on weight loss and body
composition: a meta-analysis
https://pdfs.semanticscholar.org/6a51/75d06fb6663340ac9d34a790978c07875eab.pdf

6/29/2018

1レップでのデッドリフトのトレーニング

SSPT Deadlift Training
https://marylandpowerlifting.com/2014/10/14/train-the-deadlift/

パワーリフティングのコーチの人が書いたデッドリフトについての記事を参考にして、デッドリフトの1レップトレーニングについて書いてみる。

1セットあたり複数レップのトレーニングを行うトップクラスのリフターもいるが、この人は1セットあたり1レップでのデッドリフトのトレーニングを推奨している。


★デッドリフトの特徴
ベンチプレスやスクワットとの違いは、デッドリフトはエキセントリックのフェーズ無しに挙上すること。ベンチプレスやスクワットはエキセントリックのフェーズがあることで、そのあとのコンセントリックのフェーズで腱・筋肉に蓄積された弾性エネルギーや伸張反射を利用することができる(これをSSC:stretch and shortening cycleと言う)。

デッドリフトも複数レップで行えば、2レップ目以降はSSCを利用して挙上することは出来るが、パワーリフティングの試合でデッドリフトを行う場合は1レップだけ行うのでSSCを使わず挙上しないといけない。従って競技としてデッドリフトを行う場合は普段から1レップでトレーニングし、SSCを利用しない挙上を練習したほうが実戦的になる。


★1レップトレーニングの特徴
・怪我のリスクが低い。複数レップのデッドリフトのトレーニングだと、セット終盤で下背部が疲労しフォームが崩れやすくなり怪我のリスクが高まるが、1レップトレーニングだとこれを避けることが出来る。
・全てのレップにおいてSSCを利用せず、またセット終盤のような疲労が溜まってない状態で行えるので、挙上テクニックの習得に向いている。
・1レップトレーニングは疲労が蓄積しにくいので、より高重量でより高頻度のトレーニングを行える。
・1レップトレーニングはトレーニングボリュームが小さくなりやすい。筋肥大を目指す場合は、複数レップのトレーニングを行うか、補助種目でボリュームを補うのが良い。


★セット数とインターバルの目安
デッドリフトの1レップトレーニングでは、1回のトレーニングでどのくらいのセット数をどのくらいのインターバルで行うのが良いかをまとめた表。


高負荷になるほど、セット数を減らしインターバルを長くする。長期的に見た場合、多くのトレーニングを80-89%の重量で行うのが良い。最適セット数にはそれほどこだわらず、疲労感などから自分にあった量に調整するのが良い。


★トレーニングプログラムの例
パワーリフティングの試合に向けたトレーニングプログラムの例。これはデッドリフトのみのプログラムで、他にもスクワットや補助種目を行う。


この人のジムでは、まず先にスクワットを行うことが多い。週1回デッドリフトのトレーニングを行うケースでは、デッドリフトの日は中重量・高ボリュームのスクワットのあとにデッドリフトを行う。他のトレーニング日は高重量スクワットトレーニングのあとに各々の弱点に合わせたデッドリフトの補助種目を行う。補助種目はデフィシットデッドリフト、ポーズドデッドリフト、ラックプル、ルーマニアンデッドリフト、チェーン付きなどを5レップ以下で行う。締めに腹筋種目と時には背中・股関節の一般的な種目を行う。

趣味でトレーニングを行っている人の場合は、終盤の休息を減らせばリニアピリオダイゼーションプログラムとして使えると思う。本気でパワーリフティングをやる人向けのジムのプログラムなので、初心者や中級者はこれよりもボリュームを減らしたほうが良いだろう。


★趣味でデッドリフトを行う人の考慮点
1レップトレーニングは、初心者がデッドリフトの練習をする場合にスキルを習得しやすくなって良いと思う。フォームが固まったら、1レップでも複数レップでも良いだろう。ただ、1レップトレーニングだと試合のように1RMを測定する機会が無いので、現在の1RMがどれくらいか把握しづらく、トレーニングの重量設定がやりにくいかもしれない。フォームが固まって安全に行えるなら、1RMを自主的に測定する機会を設けるのも一つの手だろう。複数レップのトレーニングだと限界まで残り何レップかだいたいわかるので、それで重量が伸びているのか把握できる。また1レップか複数レップかどちらか一方のみに限定する必要はないので、両方をミックスしつつトレーニングするのも良いだろう。

筋肥大を目指す場合はトレーニングボリュームを増やすことが必要になる。ストレングスの継続的な伸びにも筋肥大は必要なので、重量を増やしていきたい人はボリュームを増やす必要がある。デッドリフトも複数レップでトレーニングする方がボリュームを増やしやすいが、デッドリフトのみでボリュームを確保しようとすると全身疲労がきつくなると思う。デッドリフトのトレーニングはレップ数とセット数を抑え、良いフォームで適切な筋肉を適切なタイミングで動員し、全身を統合して最大の力を発揮することに集中するのが良いと思う。補助種目でボリュームを積むことでデッドリフトに必要な筋肉の筋肥大を目指す。

デッドリフトの補助種目は背中の姿勢維持を鍛えるものと、股関節の伸展を鍛えるものがある(競技として行う場合はバーを把持する力も鍛える必要がある)。背中の姿勢維持はグッドモーニングやバーベルのローイング動作など、股関節の伸展はルーマニアンデッドリフトなど。趣味の筋トレだと設備の制約があるので、自分が出来る範囲で行うのが良いだろう。


関連記事:
デッドリフトのやり方 

4/22/2018

運動と食欲

食欲についての最近の科学の仮説やモデル。これがメインストリームの考え方なのかわからないけど、個人的には納得がいく論理展開だと思ったので紹介。

背景としては、ここ数十年、世界的に肥満が増えていて、その理由の一つとしてデスクワークが増えて身体活動が低下していることが挙げられる。肥満はエネルギー収支のバランスが崩れることが要因だが、なぜ崩れるのかというと、単にエネルギー消費量が低下しているだけでなく、身体活動の低下により食欲が適切にコントロールされなくなって身体が必要とする以上に食べすぎてしまう可能性が論じられている。


★食欲のコントロール
食欲には、短期的なものと中長期的なものがある。

・日々の食欲に影響を及ぼす要因:除脂肪量(≒安静時代謝)、運動量など
・中長期的な食欲に影響を及ぼす要因:体脂肪量(ただし過剰時と不足時で非対称)

1) 除脂肪量の食欲への影響
日々の食欲(自主的にどれだけ食べるか)は、除脂肪量と安静時代謝に相関している。エネルギー消費が多ければ、それだけ多く食べるよう身体に促す。エネルギーの必要性に応じて食欲が調整されるのは当然とも言える。

2) 運動の食欲への影響
理屈の上では運動で失ったエネルギーを取り戻そうとして食欲が高まることが考えれるが、運動で消費したエネルギーをその後の食事でどれだけ埋め合わせて食べるかは個人差が大きい。(トレーニング効果の個人差>・食欲への影響 を参照)

継続的に運動を続けた場合の食欲への影響は2種類ある。
- 食間の空腹感を増す。
- 食後の満足感を高める
食後の満足感を高める効果はすべての人で共通だが、食間の空腹感への効果はとても個人差が大きい。

運動の短期的な食欲への影響のメカニズム
- 食欲に関わるグレリン, GLP-1、PYYなどのホルモンが変化する。継続的な有酸素運動で、食後のグレリンやGLP-1が満足感を高める方向に変化したという研究がある。
- グリコーゲンレベルが低下することで、グリコーゲン補充を求めて食欲が増す可能性がある。
- 脳の神経伝達物質に影響。

運動の長期的な食欲への影響のメカニズム
- 運動で除脂肪量が増えれば安静時代謝が増えてそれが食欲を増進すると考えられる。
- 体脂肪量の変化も食欲に影響する。運動で体脂肪量が減りすぎれば、餓死回避のために代謝低下や食欲増進が起きる。肥満の人が体脂肪量を減らし、レプチンやインスリンの感受性を取り戻せば食欲を抑制しやすくなると考えられる。
- 運動でインスリン感受性が改善すれば食後の満足感が正確に得られるようになる。
- 運動を続ければ消費エネルギーに対しての食欲のコントロールが正確になり、消費エネルギーと摂取エネルギーがバランスしやすくなると考えられる。


3) 体脂肪量の食欲への影響
肥満ではない標準体重の人では、体脂肪はレプチンなどを通じてエネルギー摂取を抑制する働きがある。過体重になるとレプチンやインスリンへの抵抗性が増し、食欲を抑制する機能が低下する。過体重の人は除脂肪量も多くなるので、除脂肪量に応じて食欲が増す。従って過体重になると、体脂肪量の増えすぎによる食欲抑制の低下と、除脂肪量の増加による食欲増加が合わさり、過剰に食べてさらに太りやすくなる悪循環が起きる。

食料不足で体脂肪量が過度に減った場合には、代謝低下や食欲増進が起き身体はエネルギー貯蔵量を維持し元に戻そうとする。ただ、体脂肪量が必要以上に多くなった場合は元に戻そうする力はあまり働かない。身体のエネルギー貯蔵量を一定水準に保つという観点では、身体の機能は非対称の働きをする。



★運動不足による食欲コントロールの喪失
運動量が中程度から多い人では運動量と食べる量が相関し、必要なエネルギー量に合わせて食欲が適切にコントロールされているが、運動量が低い人では運動量と食べる量の相関が崩れ、食欲のコントロールが失われていることが複数の研究で示されている。

上のAのグラフは工場労働者の食事を調べた研究で、職種ごとの摂取カロリーがプロットされている。座りっぱなし(SEDENTARY)の職種は消費カロリーが少ないのに摂取カロリーが多く、食欲がコントロールされていない。身体活動量が多い職種になると、身体活動量の増加に伴い摂取カロリーも増えていき、必要なカロリー消費に合わせて多く食べるよう食欲がコントロールされていることが示唆されている。

上のBのグラフは10の研究のデータを集めて、身体活動レベルと摂取カロリーの関係を調べたもの。このグラフでの身体活動レベルの基準は以下の通り。
low:身体を動かす時間が週に150分以下、それによる消費カロリーが週に1000kcal以下。
mdedim:身体を動かす時間が週に150-419分、それによる消費カロリーが週に1000-2500kcal。
high:身体を動かす時間が週に420-839分、それによる消費カロリーが週に2500-3500kcal。
very high:身体を動かす時間が週に840分以上、それによる消費カロリーが週に3500kcal以上。
このグラフでも身体活動レベルが低いと食欲がコントロールされず、摂取カロリーが必要以上に多くなることが示唆されている。

単に太りやすい性格の人(ものぐさで運動しなかったり自己抑制能力が低かったり)が、エネルギーを過剰摂取している可能性もあるけど、身体を動かすことに本人の意思が関係ない工場での仕事内容(デスクワークから肉体労働まで)での身体活動量と食べる量の関係をしらべたAのグラフでも、身体活動量が低いと食欲が抑制されなくなることが示されているので、身体活動量と食事量には因果関係があると考えられる。


★コメント
普段から運動をしていて体力のある人でなければ、運動による消費カロリーは大したことないので、体型を気にする人は運動を頑張るよりもまず食事を意識したほうが良い、という考え方がある。その考え方は、単なるエネルギー収支の観点からは正しくて、エネルギー収支のバランスをとりさえすれば、運動しなくても太らず体型を維持することは出来るだろう。ただし運動した方が、食欲コントロールの正常な機能を維持することで、エネルギー収支のバランスを取りやすくなると考えられる。減量後に運動を続けたほうが体重を維持しやすいという研究もある(4)。

デスクワークで座りっぱなしの人は、ある程度の運動を意識的に行ったほうが体型維持の観点からは良いだろう。目安になるのは、上のグラフBの「mdedim:身体を動かす時間が週に150-419分、それによる消費カロリーが週に1000-2500kcal」。また、(4)の研究では、「体重増加を防ぐための身体活動の目安が週に150-250分」「減量後のリバウンドを防ぐための身体活動の目安が週に200-300分」となっている。仕事その他の日常生活で身体をあまり動かさない人は、最低でも週に200分程度の運動を行うことで体型を維持しやすくなると考えられる。もちろん運動には健康面での効果もあるので、健康を意識する人は積極的に行っていきたい。

今回の話からわかることは、食欲とエネルギー支出のバランスへの運動の影響で、運動を行うことで普通体型の人の減量のしやすさはどうなるのかや、体組成はどうなるのかはわからない。おそらく肥満の人は運動を行い、レプチンやインスリンの感受性を高めたほうが減量しやすいだろう。

私(普通体型)は減量時も運動したほうが食欲をコントロールしやすいと感じるけど、これが一般的なのかわからない。

体組成は運動量が多いほうが、除脂肪量が多くて体脂肪率が低い状態を維持しやすいと思う。


(1)Low levels of physical activity are associated with dysregulation of energy intake and fat mass gain over 1 year.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26561620

(2)Appetite control and energy balance : impact of exercise
https://pdfs.semanticscholar.org/cb44/be06dbf2cb1ab6b2fca495515fd0d9683436.pdf

(3)Energy Balance, Body Composition, Sedentariness and Appetite Regulation: Pathways to Obesity
http://eprints.leedsbeckett.ac.uk/3210/1/Energy%20Balance,%20Body%20Composition%20and%20Appetite%20Regulation.%20Pathways%20to%20Obesity_Symplectic%20Elements%20.pdf

(4)The Role of Exercise and Physical Activity in Weight Loss and Maintenance
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3925973/

3/30/2018

筋肉への意識と筋肥大の関係

The Mind-Muscle Connection: A Key to Maximizing Growth?
http://www.lookgreatnaked.com/blog/the-mind-muscle-connection-a-key-to-maximizing-growth/

Differential effects of attentional focus strategies during long-term resistance training
https://www.researchgate.net/publication/323740477_Differential_effects_of_attentional_focus_strategies_during_long-term_resistance_training

鍛えたい筋肉を意識し、しっかり力を入れて負荷を感じながら筋トレすることで筋肥大効果が高まるのかどうかという研究。

筋トレ時の意識の仕方と筋肉の活動レベルを調べた研究はいくつかあって、低重量・中重量(80%1RM程度までの重量)なら個別の筋肉に力を入れることを意識することでその筋肉の活動レベルが高まるという結果が出ていた。しかし、長期的にその方法でトレーニングを続けると筋肥大に有利かどうかという研究はなかった。それを調べた初の研究。

ちなみに高重量だと、個別の筋肉に力を入れることを意識する余裕はなくなって、必要な筋肉全てに効率的に力を入れて全力で持ち上げることになる。


★動作時の意識の仕方(前提知識)
英語だと external/internal focus や cue なんだけど、ちょうどよい日本語が思いつかないので、とりあえず外部意識・内部意識と書いておきます。

外部意識:動作の結果、外部環境に及ぼす効果や結果をイメージする。
内部意識:自分の身体がどのように動くかを意識する。

外部意識はスポーツのパフォーマンス向上に有利なことがこれまでの研究でわかっている。自分の身体の関節や筋肉を意識しながら動くよりも、外部に意識を向けた方が結果として効率的に身体が動くようになる。


★被験者
若い男性。トレーニング経験無し。30名(完走27名)。

※自分なりの筋トレのやり方が身についていると、筋トレ時の意識の仕方を研究者側の指示通り行わないかもしれないので、トレーニング経験無しの人を被験者にしたとのこと。


★グループ分け
筋トレ時の意識の仕方によって2グループに分ける

・内部意識グループ→「筋肉を搾り上げろ!」と指示
・外部意識グループ→「重りを持ち上げろ!」と指示


★トレーニング種目
・バーベルアームカール
・レッグエクステンション

各種目4セット/8-12レップを限界まで/セット間インターバル2分


★トレーニング期間・頻度
8週間・週3日


★食事
被験者は各自これまで通りの食生活を続ける。サプリメントは研究者側から支給されたもの以外は摂取禁止。

支給サプリメント:トレーニング日にホエイプロテイン(たんぱく質25g含有)を支給。被験者はトレーニング直後にこれを摂取。


★測定項目
・体組成:インピーダンス式体組成計
・筋肥大:上腕二頭筋と大腿四頭筋(大腿直筋と外側広筋)の厚みを超音波画像診断装置で測定。
・ストレングス:肘の屈曲と膝の伸展のアイソメトリックでの最大収縮力を測定。


★実験結果
・体組成
グループ間で有意差無し。

・筋肥大
上腕二頭筋のみグループ間で有意差ありで、内部意識グループの方が筋肉の厚みの増加率が約2倍になった(+12.4% vs +6.9%)。大腿四頭筋についてはグループ間で有意差無しだが、小さい効果量で外部意識グループが優位。

・ストレングス
グループ間で有意差無し。膝の伸展は小さい効果量で外部意識グループが優位。肘の屈曲は中程度の効果量で内部意識グループが優位。


★考察
筋肥大とストレングスの結果を効果量も含めて総合的に見ると、アームカール(肘の屈曲)は内部意識グループがはっきりと良い結果で、レッグエクステンション(膝の伸展)は外部意識グループがわずかに良い結果。

内部意識グループ参加者からは、アームカールは指示通り筋肉に力を入れやすいけど、レッグエクステンションは入れにくいとのコメントが聞かれた。一般的に腕は細かい作業が得意で、脚は筋肉群にまとめて力を入れて大きなパワーを発揮するのが得意なので、腕の方が個別の筋肉を意識して力を入れやすいのかもしれない。もしくは屈曲と伸展の違いで、脚もレッグカールだったら内部意識で力を入れやすいかもしれない。または、レッグエクステンションで絞り上げるように力を入れると、私の経験では内側広筋の活動が高まる感じがするので、測定箇所の大腿直筋と外側広筋には影響が出ていない可能性もある。


★コメント
絞り上げるように筋肉に力を入れてトレーニングを続けると、筋肥大が高まることが期待される。トレーニング次第では腕以外の筋肉も、内部意識で上手く絞り上げるように力を入れられるようになる可能性があるので、筋肥大を目指したい場合はトライしてみるのが良いだろう。

注意点としては、内部意識と筋肥大の関係を示す研究は、この研究しかまだ行われていないこと。信頼性の高い研究だと思うが、繰り返し再現されることで確度が高まる。

それと全ての筋トレ種目でこのやり方が効果を発揮するわけではなくて、現状では単関節種目の中レップ(8-12レップ程度)で個別の筋肉に力を入れることを意識しつつ筋トレすると筋肥大が高まると考えられる。

競技パフォーマンスの観点からは、個別の筋肉をアイソレートして力を入れる癖をつけると、身体全体の運動パフォーマンスが低下する恐れがあるので注意したい。BIG3のパフォーマンスを上げたい場合も外部意識でトレーニングを行う方が良いだろう。

2/28/2018

維持カロリーを挟むダイエット方法

カロリーカットを続けるダイエット方法と、カロリーカットの間に維持カロリー期間を挟むダイエット方法を比較した研究。

Intermittent energy restriction improves weight loss efficiency in obese men: the MATADOR study
https://www.nature.com/articles/ijo2017206


★被験者
肥満の男性
BMI30–45
25-54歳



★ダイエット方法
2グループに分けて比較

a) カロリーカット継続グループ(CON) 19名
カロリーカットを16週間継続する。

b) カロリーカットと維持カロリー交互グループ(INT) 17名
カロリーカットを2週間、その次に維持カロリーを2週間、その次にカロリーカットを2週間・・・というダイエットを続ける。カロリーカット2週間×8回、維持カロリー2週間×7回。合計30週。

両グループともにダイエット前の4週間の調整期間(体重変動を見て維持カロリーを調整)と、ダイエット後の8週間の維持カロリー期間がある。

カロリーカット期間はどちらのグループも合計で16週間になる。一日あたりのカロリーカットの程度も同じなので、両グループともトータルで同じカロリーカット量のダイエットを行った。違いは維持カロリーの期間を挟むか挟まないか。



★摂取カロリー
カロリーカット期間は維持カロリーの67%を摂取する(33%のカロリーカット)。ダイエットが進むと安静時代謝が低下するので、それに合わせて摂取カロリーを調整する。安静時代謝はカロリーカット期間が4週間に達するごとに測定する。



★食事提供方法
大部分は研究者側で支給。追加の食べ物を研究者と相談の上で被験者が選択して摂取。



★マクロ栄養素
計画では、タンパク質15-20%、脂質25-30%、炭水化物50-60%。



★運動
特に言及されていない



★結果

グループごとの体重変化。交互グループ(INT)の方が体重が大きく減った。横軸の週数はカロリーカットを実施した週数で、継続グループ(CON)はカロリーカットを実施した週数イコール経過週数だけど、交互グループ(INT)は維持カロリー期間が挟まるので実際に経過した週数は約2倍になる。


交互グループのカロリーカット期間(ER)と維持カロリー期間(EB)における体重変化。維持カロリー期間では、カロリー調整が上手くいき体重変化が抑えられていることがわかる。



グループごとの除脂肪体重変動。両グループとも除脂肪体重の減少は抑えられている。


グループごとの体脂肪量変動。



両グループの安静時代謝の推移。両グループともダイエットが進むにつれて安静時代謝が低下している



除脂肪体重と体脂肪量の変化を考慮した安静時代謝。エネルギーを消費する体組織が減ればそのぶん安静時代謝も低下するが、体組織の減少以上に安静時代謝が低下する(つまり省エネ体質になる)ことがある。このグラフではそれを判断できる。結果は、交互グループ(INT)の方が除脂肪体重と体脂肪量の変化を考慮した安静時代謝の低下は小さくなっていて、リバウンドしにくいダイエットになっている。



ダイエット実験の終了後も含めた体重変化。交互グループ(INT)の方が体重のリバウンドが抑えられている。安静時代謝の低下が緩やかだったことが寄与していると考えられる。またダイエット中に維持カロリー期間を挟むことでメンタル面でのダイエット疲れが軽減されダイエット終了後の暴食が避けられたり、ダイエット終了後に維持カロリーの食生活に戻す時にどれくらい食べれば良いか経験済みで体重を維持しやすいといった要因もあると考えられる。



★コメント
カロリーカットと維持カロリーを交互に繰り返すダイエット方法の方が良い結果が出た。体重の減り方も、安静時代謝の低下も、ダイエット実験終了後のリバウンドも、どれもはっきり良い結果が出ている。

注意点としては、ダイエットにかけた期間に大きな差があるのであまりフェアな比較とは言えないこと。継続グループでも一日あたりのカロリーカットの幅を緩くして30週かけて減量すれば、安静時代謝の落ち込みは緩やかになるかもしれない。

ただそれでも交互グループのカロリーカット8週時点(14週経過)と継続グループの16週時点の体重減少量がほぼ同じで、維持カロリーを挟んでも同じ期間で同じくらい体重を減らせるという結果が出ている。

実践を考える場合も、維持カロリー期間でメンタル面での息抜きを入れていくと長期間のダイエットを続けやすいだろう。


★ダイエット休憩の実践
ダイエット中にカロリーカットを一旦中断して、摂取カロリーを増やすことをダイエット休憩と言う。(休憩は break を訳してるのだけど、日本語だとなかなか良い単語が見つからない)

ダイエット休憩の期間の長さは、2週間でかなり効果が出ている。論文では維持カロリー1-2週間で代謝低下が回復するかもと書かれているが、レファレンス先の論文の内容が関係なさそうで1週間という数字を出した根拠がよくわからない。

ボディメイクで減量を行う際は、カロリーカット4週間-6週間ごとに1-2週間の維持カロリー期間を入れるのが良いと思う。2週間ごとに維持カロリー期間を2週間入れると、減量完了まで時間がかかりすぎる。1週間では十分に回復しないかもしれないが、そこは時間効率との兼ね合い。

継続グループと交互グループの体重減少ペースの差は、4週間だと小さいけど8週間になると大きくなる。この研究の被験者はかなりの肥満なので、普通体型の人が減量する場合は8週間よりも前に体重減少ペースが低下するだろう。

個人的な経験でも8週間続けてのカロリーカットはメンタル的にもキツイし、体重が減らなくなってくるのでキツイ。目標の体重減少量が小さく(目安としては水分変動除いて体重5%以内の減量)、8週間程度で減量完了予定なら、維持カロリー期間無しでも良さそうだけど、目標の体重減少量が大きく長期的に減量を続けるなら、4週間-6週間のカロリーカットを続けたら1-2週間の維持カロリー期間を入れるのが良いと思う。

気をつけることは、ダイエット休憩中に好き放題に食べず、維持カロリーを守ること。他にもダイエット休憩を挟むダイエット方法の研究はいくつかあるけど、それらの研究では食事がコントロールされてなくて、ダイエット休憩をいれるダイエット方法の優位性があまり示されていない。この研究のようにカロリー管理をきちんすれば、ダイエット休憩が効果を上げると考えられる。


★管理された維持カロリー
筋トレを日常的に行っている人だと、減量中はグリコーゲンと水分が減っていて、リフィードではそれが一気に回復するので、維持カロリーであっても体重が2,3kg増えることも普通に起こる。

筋トレでグリコーゲンが枯渇している人なら、リフィード開始後1,2回の食事は炭水化物中心にオーバーカロリーしてもグリコーゲン補充に回されるので良いだろう。慎重に行うなら、減量前の維持カロリーから10%程度引いたカロリーをコンスタントに摂取するのが良いと思う。摂取しているカロリーが維持カロリーかどうかは、体重測定と過去の経験から判断するのが良いだろう。ダイエット休憩の開始後1,2日で体重が一気に増えて、その後体重変動が安定するならだいたい維持カロリーになっている。摂取カロリーが維持カロリーに満たないと代謝回復の効果が出にくいので、恐れずしっかり食べたほうが良い。



★ついでの雑感
ダイエット休憩については、Lyle McDonald の A Guide to Flexible Dieting という2005年の書籍に詳しく書かれている。Lyle McDonald の古い書籍は、今となっては古くなった研究の不完全なデータを使い、ある程度の推測で埋め合わせながらに書かれているのだけど、最近のより良い研究でその主旨の正しさが証明されるケースが見受けられて凄いなと思う。彼の凄さはマニアックに論文を漁っていることだけではなくて、ビッグピクチャーの把握の仕方。

エビデンスベースで栄養やトレーニングを語る人は増えてきているけど、これらの分野は研究がまだまだ不完全で、ビッグピクチャーの把握や経験などによる隙間の埋め合わせが不可欠で、その辺の能力差がエビデンスを上手く扱えるかどうかの差になるのだと思う。



関連記事:
減量時の食事調整例

減量ペースの違いによる体組成変化と運動パフォーマンス変化


1/26/2018

タンパク質の種類と筋肥大

現在主流の考えだと、長期的な筋肥大に重要なのはタンパク質の種類や摂取タイミングよりも一日のトータルのタンパク質摂取量で、ある程度のタンパク質摂取量を確保すれば、それ以上摂取しても筋肥大は高まらない。

関連記事:ゴールデンタイムはあるのか?

最新研究だと、
(1) A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28698222
タンパク質摂取量1.62g/kg/dayを超えると、追加でプロテインサプリメントを摂取しても筋肥大がさらに促進されるわけではないという結果。


しかし、へえ~と思った研究があったので、タンパク質の種類による筋肥大への影響の違いをちょっと調べてみました。

★ホエイとサテライト細胞
実験期間中の筋肥大に違いがあるかどうかだけでなく、長期的な筋肥大の差につながる可能性のあるサテライト細胞の増加に違いがあるかどうか、という視点。

(2) Effects of Whey, Soy or Leucine Supplementation with 12 Weeks of Resistance Training on Strength, Body Composition, and Skeletal Muscle and Adipose Tissue Histological Attributes in College-Aged Males
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5622732/
若い男性が12週間のレジスタンストレーニングを実施。サプリメントの内容が異なる5グループに分けて、レジスタンストレーニングの効果に違いが出るか調べた研究。

サプリメントは、プラシーボ(マルトデキストリン)、ロイシン、ホエイプロテイン・コンセントレイト、ホエイプロテイン・ハイドロリセート、ソイプロテイン・コンセントレイト。

プラシーボ以外のサプリメントの摂取量は、ロイシン含有量約3gで揃えられている。1回あたりの摂取量は、ホエイがタンパク質含有量約25g、ソイがタンパク質含有量約39g。これを1日2回摂取。

プラシーボグループ含めて、グループ間ではストレングスの伸び、及び全身の筋肉量と筋繊維の断面積の変化に有意差は出なかった。プラシーボグループでも除脂肪体重を考慮するとタンパク質摂取量がそれなりに多かったことから、サプリメントでタンパク質をさらに摂取しても筋肥大に差が出なかったと考えられる。

しかしサテライト細胞の数については違いが出ていて、プラシーボとロイシンはサテライト細胞の数が有意差なしだったが、ホエイプロテイン摂取の2グループはサテライト細胞が増えた。ソイは有意差有りには達しなかったが増える傾向があった。プラシーボとロイシンに比べて、ホエイとソイのグループはトータルのタンパク質摂取量が多くなっているので、これが影響した可能性もある。ただトータルのタンパク質摂取量はソイが最も多いけど、サテライト細胞の増加はソイよりもホエイの方が優位になっているので、タンパク質摂取量以外のファクターがある感じもする。
 
サテライト細胞の増加は筋肥大ポテンシャルの向上を示唆していると考えられる。実験期間中の筋肥大に差がなくても、サテライト細胞の数に差が出ていれば、長期的には筋肥大に差がつくかもしれない。

サテライト細胞の働きについては以下を参考に

関連記事:筋肥大のメカニズム

ホエイとプラシーボでサテライト細胞の増加に違いが出るかどうかを調べた研究は他にもいくつかあって、部分的にホエイ優位の結果か、もしくは有意差は無いけど傾向としてはわずかにホエイ優位という結果が出ている。これらの研究もホエイの方がプラシーボよりもトータルのタンパク質摂取量が多いので、ホエイの効果によるものなのか、タンパク質摂取量の違いによるものなのか、はっきりしない面もある。

以下の2つの研究でのホエイの摂取量は1日約20g

(3) Influence of exercise contraction mode and protein supplementation on human skeletal muscle satellite cell content and muscle fiber growth.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4280155/

(4) Protein Supplementation Does Not Affect Myogenic Adaptations to Resistance Training.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28346813/
https://www.utmb.edu/pepper/publications/2017%20Pubs/PMC5433887.pdf

差は微妙なものだと思われるが、プラシーボよりもホエイの方が不利になることはなさそうなので、筋肥大の最大化を目指す場合はホエイプロテインを飲むのが良いと思う。除脂肪体重約60kgの若い男性が1日あたりタンパク質含有量約50gのホエイプロテインを摂取した(2)の研究が、サテライト細胞の数にもっとも差が出ているので、実践する場合はこの量が目安になるだろう。


★肉・魚と筋肥大
(5) Effects of an omnivorous diet compared with a lactoovovegetarian diet on resistance-training-induced changes in body composition and skeletal muscle in older men.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10584048
http://ajcn.nutrition.org/content/70/6/1032.long

高齢者(51–69歳)が12週間のレジスタンストレーニングを実施。食事内容が異なる2グループに分けて、レジスタンストレーニングの効果に違いが出るか調べた研究。
片方のグループは、卵と乳製品は食べても良いベジタリアン食(ラクト・オボ・ベジタリアン)。もう片方は、肉でもなんでも食べる通常の食事(ここでの肉は魚も含む)。
被験者は両グループとも、実験前の食事では肉も魚も食べている。

結果は、通常の食事グループの方が筋肥大で良い結果が出ている。除脂肪体重はラクト・オボ・ベジタリアンが-0.8kg、通常食が+1.7kg。脚から採取した筋繊維は、タイプ1が変化無しで、タイプ2が両グループとも太くなったが、通常食の方がより太くなった(通常食+16.2%、ラクト・オボ・ベジタリアン+7.3%)。ストレングスの伸びはグループ間で有意差なしだけど、通常食の方がより伸びた傾向。

食事内容による筋肥大効果の違いがどのような要因によるものか推測すると、

1) 摂取タンパク質の量と質の違い
ラクト・オボ・ベジタリアングループの方がタンパク質摂取量と動物性タンパクの割合が低いので、それが筋肥大に悪影響を与えている可能性がある。ただグループ間でそれほど大きな差では無いし、高齢者がレジスタンストレーニングを行った関連研究ではラクト・オボ・ベジタリアン食だとタンパク質摂取量が1.6g/体重kg/dayでも筋肥大しなかったとのことなので、摂取タンパク質の違いは筋肥大の差にほとんど影響を与えていないのではと考えられる。

2) 亜鉛不足の可能性
ベジタリアン食は亜鉛が不足しやすい。亜鉛が不足すると筋合成に悪影響が出るようだ。
(6) Effects of magnesium and zinc deficiencies on growth and protein synthesis in skeletal muscle and the heart.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1772873

3) クレアチン不足
ラクト・オボ・ベジタリアングループは、食物からのクレアチン摂取量がほぼゼロになるので、筋肥大に悪影響が出ている可能性がある。またクレアチンローディングの逆で、水分が抜けて除脂肪体重が減っているのかもしれない。

関連記事:クレアチンについて

4) テストステロンレベル
今回の研究では計測していないが、もしかしたらラクト・オボ・ベジタリアングループはテストステロンレベルが低下していて、それが筋肥大に悪影響を与えた可能性がある。
(7) Serum sex hormones and endurance performance after a lacto-ovo vegetarian and a mixed diet.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1435181?dopt=Abstract

要因ははっきりしないし、現時点の科学で解明できない要因もあるのかもしれないけど、筋肥大の差はくっきり出ているので、筋肥大を目指すには肉・魚は食べたほうが良いと思われる。ベジタリアン食にこだわる場合は、サプリメントで亜鉛とクレアチンを摂取すると良さそう。

ちなみに健康面を考えるなら、赤身肉ばかり食べず、タンパク質源は分散させた方が良いだろう。

関連記事:低炭水化物食とタンパク質源の健康への影響


★ソイと筋肉のダメージ
(8) Soy Beverage Consumption by Young Men
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J133v03n01_03?journalCode=ijds19

(9) Four Weeks of Supplementation With Isolated Soy Protein Attenuates Exercise-Induced Muscle Damage and Enhances Muscle Recovery in Well Trained Athletes: A Randomized Trial.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5098124/

ソイプロテインの継続的な摂取で、ソイのもつ抗酸化作用により筋肉のダメージが軽減されるという研究がある。筋トレによる筋肉へのダメージを減らせれば、短いスパンで次のトレーニングを行うことが出来、長期的に良い結果を得られると考えられる。ただ一般的な日本人の食生活は欧米に比べて大豆製品の摂取量が多いので、追加でソイプロテインを摂取しても研究のような効果がないかもしれない。


★まとめ
実践面では、ホエイプロテインを摂取、肉と魚を食べる、トータルのタンパク質摂取量は1.6-2.0g/kg/day程度(維持カロリー以上摂取)というのが筋肥大効果を高めるタンパク質の摂取の仕方だと思う。豆製品も食べておくとトレーニング効率を高められるかもしれない。

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