1/29/2021

怪我をしにくいロウ・プルのやり方


怪我をしにくいロウ・プルのやり方を書いていきます。ここでのやり方は、身体機能の維持・向上や、低い怪我リスクを目的としたトレーニング方法です。特定の筋肉を筋肥大させることを最優先する場合は、YouTubeで再生数の多い動画を参考にすると良いかと思います。

ロウとプルの基本をシンプルに書くと、

・背骨ニュートラルを維持

・胸郭を歪ませない

・上腕骨と肩甲骨を連動させて同じ方向に動かす

ロウ・プルに限らないのですが、コンパウンド種目では動かす骨と動かさない骨を把握し、「動かす骨は身体にとって自然な軌道を通す、動かさない骨は動かさない」というのを意識すると良いと思います。どこの筋肉に効かせるかというやり方は、身体機能の維持・向上や低い怪我リスクを目的とする場合はあまり向いていません。

順に説明していきます。

背骨ニュートラルを維持

頚椎も胸椎も腰椎もなるべくニュートラルを維持します。少し顎を引くのは良いですが、頭を前に突き出したり背中を反ったりするのはNGです。




 

胸郭を歪ませない

胸郭は肋骨が並んでいる胸のあたりの部分です(胸郭=胸椎+肋骨+胸骨)。背中を丸めたり、胸を張ったり、背中を反ったりすると胸郭の形が変わります。肩甲骨は肋骨の上を動くので、肩甲骨の可動性に胸郭の形が影響します。ロウ・プルでは、肩甲骨がよく動くように胸郭はニュートラルポジションを維持したほうが肩関節の健康に良いです。胸郭をニュートラルポジションで固定し、その上を肩甲骨が滑るように動くのが望ましいです。

胸を張って背中を反ると胸郭が歪んで肩甲骨が動きにくくなります。ベンチプレスと同じで、背中を反って肩甲骨の動きを制限したほうが大きい筋肉(プルなら広背筋、プレスなら大胸筋)に刺激を入れやすいですが、肩周りの機能面からはマイナスです。ベンチプレスは背中を反って肩甲骨が動かないようにしたほうが怪我リスクを下げられるので、そうしたフォームのほうが良いのですが、ロウ・プルは背中を反っても怪我リスクは下がりません。(リスクとリターンを考えた種目選択の話を近いうちに書きたいと思います→書きました 同系統内での種目選択の考え方 )


また胸を張って背中を反ると背中の伸展パターンを強化してしまい、背中の張りや反り腰による腰痛、非機能的な身体の使い方につながります。熱心に筋トレをする人は、ベンチプレスでは背中を反って動作をおこない、デッドリフトやスクワットでは背中の伸展をおこなう筋肉に強い負荷をかけています。背中を反ったロウ・プルで背中の伸展パターンをさらに強化するのは、姿勢や筋力のバランス面で望ましくありません。

片手ローイングの場合は、腕と肩甲骨の動きに胸郭のローテーション(水平面での回旋)を合わせるのは良いやり方だと思います。腕、肩甲骨、胸郭を連動させてねじると、強いパワーを生み出せます。多くのスポーツでそのような動作が入っています。

リンク先はローテーションを入れた片手ローイングの例です。これはランドマインプレス用のバーベル(片方の端が地面に固定)を使っていると思いますが、同じ動きはダンベルでもできます。

ベンチに片手をついてダンベルでおこなうワンハンドローイングは、機能的なねじり動作が難しい体勢なので、上腕骨と肩甲骨のみを動かすのを意識すると良いと思います。


上腕骨と肩甲骨を連動させて同じ方向に動かす

上腕骨と肩甲骨を連動させて動かし、肩甲骨のソケット(関節窩)で、上腕骨のボール(骨頭)を受けるようにします。高重量を腕力で力任せに引くと、腕だけ動いて肩甲骨が動きにくくなります。軽めの重量で、腕と肩甲骨が連動して動くようにするのが望ましいです。

ロウ・プルの動きでは上腕骨と肩甲骨が重要なので、以降の絵では前腕と手は省いています。




 

ロウ解説

おもに水平方向に引くロウ動作について。肩関節と肩甲骨の動きの違いから、脇の角度によって3種類のロウに分けます。

(1)脇角度30°くらいのロウ

引くときに肩関節は伸展と水平外転、肩甲骨はやや内転します。脇角度が小さいと肩関節は伸展が優位になり、広背筋に刺激が入りやすいです(広背筋は肩関節の伸展、内転、内旋をおこないます)。種目例はシーテッドロー、ベントロー、ワンハンドローなどです。

<やり方のポイント>

・腕力で引かない
上腕筋がまったく働かないわけではないですが、おもに背中の筋肉で引くようにします。

・膝や股関節で引かない
慣れてきたら多少のチーティングは良いと思いますが、慣れないうちは膝と股関節を動かさないようにして、背中の筋肉で引けるように練習したほうが良いでしょう。

・背中を反らない
動かすのは、腕と肩甲骨です。背骨はニュートラルポジションを維持します。

・頭を動かさない
頭を前に突き出したりはせず、顎を引いて頭部を固定します。

・肩をすくめない
首周りや僧帽筋上部に余計な力を入れないようにします。

・腕を引きすぎない
ヘソからみぞおちのあたりにグリップを引き、肘が腰の横に来たくらいで引くのを止めます。後ろに引きすぎると、肩甲骨が前傾し肩関節のポジションが崩れます。

・脇を完全に締めない
脇を完全に締めると肩関節は水平外転が無くなり伸展動作のみになりますが、肩甲骨が前傾しやすくなり、肩甲骨の内転(寄せ)が難しくなります。シーテッドローイングで、脇を締めて肩甲骨を寄せるという指導をしているのを見かけますが、人体にとってかなり不自然な動きです。脇を閉じたまま肩甲骨を寄せようとすると、肩関節は外旋します(No Money Exerciseの動き)。脇の角度は30°くらい開けて、肩関節の水平外転の動きを入れると、肩甲骨が自然に内転します。

・肩甲骨を寄せすぎない
脇角度30°くらいのロウでは、肩甲骨は「腕を引いた結果、少し寄る」程度の寄せで大丈夫です。脇の角度が小さい場合、肩甲骨を無理に寄せようとすると不自然な動きになります。



 

動画:How to Do Seated Rows
https://www.youtube.com/watch?v=7qK7x-d8V2A



(2)脇角度60°くらいのロウ

肩関節の水平外転と肩甲骨の内転をメインとするロウです。広背筋はあまり使われず、三角筋後部や僧帽筋中部に刺激が入りやすいです。種目例は、インバーテッドロウ、Pendlay Rowなどです。

やり方はの基本は、脇角度30°くらいのロウと同じように頭・背骨・胸郭をニュートラルにし、みぞおちから乳首の間にグリップを引きます。ベンチプレスでバーを下ろす位置と同じくらいの場所に引くと良いでしょう。肩関節の水平外転が優位になるため、脇角度30°くらいのロウよりも肩甲骨は寄ります。



 

動画:【THAT'S トレーニング】インバーテッド・ロウ
https://www.youtube.com/watch?v=9a-7pn0ahHM



動画:How To Build a Thick Back With Perfect Rowing Technique (Pendlay Row/ Helms Row)
https://www.youtube.com/watch?v=axoeDmW0oAY


ベンチプレスとバランスを取りたい場合、懸垂などのプルダウン動作よりも脇角度60°くらいのロウがおすすめです。細かいことを書くと、ベンチプレスは「肩関節は水平内転と屈曲、肩甲骨は内転」なので、きっちりとバランスを取るためには、「肩関節は水平外転と伸展、肩甲骨は外転」が必要になります。肩関節についてはロウでバランスが取れますが、肩甲骨についてはロウやプルではバランスが取れません。私が過去の記事でベアクロールやAll Fours Belly Liftを勧めているのは、これらの種目は体幹前側だけでなく肩甲骨の外転動作にも刺激が入るからです。

関連記事:筋トレでの腹圧の高め方・体幹の固め方


(3)脇角度90°以上

肘を高く上げて、高い位置に引くロウ動作です。種目は、フェイスプル、Y-pullなどです。

肩関節は外旋、水平外転、屈曲です。肩甲骨の動きは、少し外転・前傾した状態から、ニュートラル・やや後傾のポジションに動きます。

やり方は肩甲骨を寄せないようにして、三角筋後部と肩甲骨周辺のスタビライザー役の細かい筋肉を使い、肩甲骨と上腕骨を安定させることを意識します。この種目は特に軽い負荷でおこない、大きな筋肉で力任せに引かないようにします。

大胸筋も広背筋も肩関節の内旋動作をおこなうので、ベンチプレスや懸垂を熱心にやる人は、肩関節の外旋動作を鍛えるとバランスを取りやすくなります。良い姿勢や肩関節の機能維持を目指す場合、高い位置に引くロウ(プル)種目もトレーニングに取り入れると良いでしょう。



高い位置へのフェイスプルは、ロープを握るのではなくて、端のゴム部分をわしづかみして、手の甲が後ろを向くように引くとやりやすいです。

動画:High Pulley Face-Pull
https://www.youtube.com/watch?v=d470bJ4BBrg



動画:Banded "Y" pulls
https://www.youtube.com/watch?v=9OY7ohqIA4k


 

プル解説

おもに垂直方向に引くプル動作について。種目は、懸垂、ラットプルダウンなどです。

懸垂とプルダウンは、肩関節の内転・伸展と、肩甲骨の下方回旋がメインの動きになります。順手ワイドだと肩関節は内転で、肩甲骨は下方回旋です。逆手やニュートラルグリップのプルだと手幅が狭くなるので、肩関節は伸展、肩甲骨は下方回旋に加えて外転からニュートラルに戻す動きも発生すると思います

懸垂やラットプルダウンのやり方は、背骨と胸郭をなるべくニュートラルで固定しながら、肘を下に引くイメージで上腕骨を動かして脇を閉じていき、肩甲骨が下方回旋すればOKです。

ストレートバーでの懸垂やラットプルダウンで、垂直に下ろすと頭にバーが当たる場合は、上半身を少し後ろに傾けます。

 

頭部がぶつからないタイプのプルは、垂直に下ろすのが良いでしょう。

 

順手ワイドの懸垂やラットプルダウンで必要な動作は、肩関節の内転と、肩甲骨の下方回旋です。ショルダープレス(肩関節の外転+肩甲骨の上方回旋)と逆の動作です。ショルダープレスと同様に、肘を胴体真横から少し前に出すと、肩甲骨と上腕骨が同一平面上で動くようになり自然な動作になります。


 

懸垂は脚を真っ直ぐに下ろして、臀筋と体幹前側を締めて骨盤の前傾を防ぎ、背骨と胸郭と骨盤をニュートラルポジションで安定させるのが良いと思います。膝を曲げて背中を反り、エビ反りになって懸垂をするのは、背中の伸展パターンの面からあまりおすすめできません。骨盤を安定させるテクニックとして、片脚だけ腿上げの状態(グリコの人のポーズ)にすると、骨盤ニュートラルにしやすいです。1レップごとに右、左と交互に腿上げしながら懸垂をすると体幹前側に素敵な刺激がはいります。

動画:Video Tutorial: Pull-Ups
https://www.youtube.com/watch?v=OzxWMh9MmJw



こっちはEric Cressey の懸垂動画です。最初の4レップが正しいやり方。

プルダウンは、ケーブルマシンを使って片手でやると、背中の筋肉を使って引くコツが掴みやすいです。

動画:Cable Single Arm Lat Pulldown
https://www.youtube.com/watch?v=eyHeo9J1qr8


動画:Single Arm Cable Pulldown
https://www.youtube.com/watch?v=B6Nvvpuh3vg



懸垂のグリップ

懸垂で肘を痛めるケースがあります。私も経験者です。多くの場合、上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)だと思います。下の画像の赤丸で囲んだあたりが痛くなります。肘の痛みについては、下の関連記事を参考にしてください。

関連記事:筋トレでの肘の痛み-対処方法と予防方法-

 

懸垂をする場合はニュートラル(パラレル)グリップがもっとも肘への負担が小さいと思います。肘を痛めやすい人は、ニュートラルグリップで懸垂をすると良いでしょう。

また、肩・肘・手首にとって自然なグリップの角度が腕を伸ばした時と曲げた時とで異なるので、プルダウンの理想は途中でグリップの角度を変えられる吊り輪やケーブルマシンでのプルダウンだと思います。肘を伸ばしたときは順手寄り、肘を曲げた時はニュートラル寄りのグリップが肩・肘・手首にとって自然な握りかたです。(これはベンチプレスでも同じことが言えます)



順手懸垂での肩周りの固め方



指での負荷の受け方

グリップを握った時にどこの指で負荷を受けるかについてですが、小指、薬指で負荷を受けると背中側の筋肉が使われやすくなります。ただ、こうすると背中も反りやすくなります。人差し指、中指で負荷を受けると体幹前側の筋肉が使われやすくなります。背中の反りを抑制するために、小指、薬指だけでなく、人差し指、中指でも負荷を受けたほうが良いと思います。



慣れないうちは

ロウ・プルの種目は、慣れないうちは自分が出来ると思う重量よりも軽めの重量でおこないます。1セット15レップは余裕でできるくらいの重量が良いでしょう。

グリップは指をひっかけるだけで握り込まない(サムレスで握ったりリストストラップを使うのも良いと思います)、肘を引く意識で動かす、引ききったところで1秒ほど止めて背中の筋肉の収縮を意識する、シーテッドローイングなど体幹の維持が楽な種目でトレーニングする、といった工夫をすると、腕と肩甲骨を連動させて引きやすくなります。

慣れてきたら、シーテッドローイングなどは膝と股関節を使って多少のチーティングを入れるのもアリだと思います。力の入りにくいポジションはチーティングで補助すると、フルレンジで負荷をかけられます。


関連記事:

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