8/24/2018

連日トレーニング

一般的にレジスタンストレーニングでは、ある部位(筋肉)をトレーニングしたら、次のトレーニングまで48時間~72時間程度空け、筋肉が回復してから再度トレーニングするのが良いと言われる。これは半ば常識となっている。

その常識にチャレンジした研究が今回の2つの研究。トレーニングの頻度とボリュームを揃えて、連日同じ部位をトレーニングするグループと、最低でも1日休みを入れるグループでトレーニング効果に違いが出るか調べている。

例えば以下のようなトレーニングプログラムで効果に違いが出るか。
連日:月曜~木曜が休み、金曜~日曜に全身トレーニング。
隔日:月曜、水曜、金曜に全身トレーニング。


(1)Effects of Consecutive Versus Non-consecutive Days of Resistance Training on Strength, Body Composition, and Red Blood Cells.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6015912/

被験者:若い男性(たぶんシンガポール人)。日頃から運動をしているが本格的なレジスタンストレーニングをしているわけではない。

トレーニング内容:
両グループとも全身を週3日トレーニング。トレーニング期間は12週間。トレーニング種目とトレーニングボリュームはグループ間で同じ。グループ間で異なるのは、トレーニングを3日連続で行うか、最低でも1日空けるか。

トレーニング種目は全てのトレーニング日で共通。
- レッグプレス
- ラットプルダウン
- レッグカール
- ショルダープレス
- レッグエクステンション

全種目10RMの重量で3セット×10レップ(10RMの重量で10レップなのでたぶん全セット限界まで)

結果:
両グループともストレングスが伸び、除脂肪体重が増えた。ストレングスの伸び、除脂肪体重の増加量にグループ間で有意差なし。


(2)Nonconsecutive versus consecutive-day resistance training in recreationally trained subjects.
https://www.researchgate.net/publication/308763287_Nonconsecutive_versus_consecutive-day_resistance_training_in_recreationally_trained_subjects

被験者;
趣味で運動している若い男性(たぶんポルトガル人)。除脂肪体重(60kg台前半)とベンチプレス1RM(80kg後半)とトレーニング歴(8年くらい)からすると筋トレ中級者だと思う。

トレーニング内容:
両グループとも全身を週3日トレーニング。トレーニング期間は7週間。トレーニング種目とトレーニングボリュームはグループ間で同じ。グループ間で異なるのは、トレーニングを3日連続で行うか、最低でも1日空けるか。

種目は以下の通り。全てのトレーニング日で全身トレーニングだけど、トレーニング日によって少し種目に違いがある。レップ数もトレーニング日によって変わっている。


結果:
体組成は両グループとも実験前後で変化なし。腕と脚の太さの変化は連日グループがわずかに良い結果。

ストレングスはベンチプレスとレッグプレスについて測定。両グループともベンチプレスとレッグプレスの記録が伸びた。グループ間で伸びに有意差なし。


☆コメント
上の2つの研究で共通するのは
- 被験者は初心者~中級者。
- コンパウンド種目は多いがマシン中心で、全身への負荷がきついスクワットやデッドリフトは行っていない。
- 部位あたりのトレーニングボリュームはそれほど多くない。

今回の2つの研究ではトレーニングボリュームはそれほど多くはない。ただ多くはないと言っても、3セットか4セットを限界まで行っているので、24時間では筋肉のダメージもトレーニングキャパシティも回復していないだろう。それでもグループ間で差がないので、完全に回復せずトレーニングを行ってもちゃんと効果が得られるようだ。

Time restricted feeding(リーンゲインズのように決まった時間枠内でのみ食事を行う)の研究(4)で示されているように、食事タイミングを分散させなくても栄養はしっかり消化吸収されるし、トレーニングタイミングを分散させなくてもトレーニング効果は得られる。最近は、短期の研究から推測されるよりも人体がフレキシブルに適応できることを示す研究が増えてきていて面白いと思う。

今回の研究結果は、トレーニングプログラムを組む上でのフレキシビリティを高める。例えば、トレーニングを行える日が土曜と日曜しかない場合、一般的に推奨される部位あたり48~72時間の休息を入れようとすると、土曜に下半身、日曜に上半身といった分割スタイルになり、部位あたり週に1回しかトレーニングが行えない。現状のエビデンスからは、週に1回よりも週に2~3回トレーニングした方がストレングスも筋肥大も高い伸びになる可能性が高いので、全身を連日トレーニグすれば、休みを入れて週に2回トレーニングするのと同等の効果を得ることが出来、部位あたり週1回トレーニングするよりも高いトレーニング効果が得られることが期待される。(5)(6)

ただ中級者から上級者になるとトレーニングの重量とボリュームが増えてきて、連日トレでは2日目以降はトレーニングの質と量が落ちるだろう。またスクワットやデッドリフトは回復に時間がかかると考えられる(3)。上級者が連日ハードに同じ部位や同じ種目をトレーニングしようとすると、トレーニングの質と量が低下することにより、休みを入れてトレーニングするよりも伸びが低くなる可能性が高い。

中級者から上級者で、諸事情により連日同じ部位をトレーニングしないといけない場合は、以下のような点を考慮して疲労管理を行いつつ、トレーニングの質と量を確保するのが良いと思う。
- セット間インターバルを長めに取る。
- 全セット限界までやると筋肉のダメージが大きくなるので、追い込み度を下げる。特に1日目は追い込み度低めが良いだろう。目安としては多くのセットを限界まで2-4レップ残し程度で行う。
- 筋肉のダメージの度合いは概ねトレーニングボリュームに比例するので、1日目にボリュームが低くなる高強度低レップのストレングストレーニング(目安は85%1RM以上の重量、5レップ以下)を行い、2日目に高ボリュームの筋肥大トレーニング(目安は60%~85%1RMの重量、6-15レップ)を行うのも良い。
- 同じ部位でも、1日目はフリーウェイト、2日目はマシンやアイソレートといった感じで種目を少し変えてみる。



参考文献:
(1)Effects of Consecutive Versus Non-consecutive Days of Resistance Training on Strength, Body Composition, and Red Blood Cells.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6015912/

(2)Nonconsecutive versus consecutive-day resistance training in recreationally trained subjects.
https://www.researchgate.net/publication/308763287_Nonconsecutive_versus_consecutive-day_resistance_training_in_recreationally_trained_subjects

(3)Resistance Training Recovery: Considerations for Single vs. Multi joint Movements and Upper vs. Lower Body Muscles
https://digitalcommons.wku.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1653&context=ijes

(4)Effects of eight weeks of time-restricted feeding (16/8) on basal metabolism, maximal strength, body composition, inflammation, and cardiovascular risk factors in resistance-trained males
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5064803/

(5)Training Frequency for Strength Development: What the Data Say
https://www.strongerbyscience.com/frequency-muscle/

(6)Training Frequency for Muscle Growth: What the Data Say
https://www.strongerbyscience.com/frequency-muscle/


関連記事:
限界まで追い込んだ場合と追い込まなかった場合の回復の違い

8/10/2018

運動からの疲労回復方法(2018年版)

An Evidence-Based Approach for Choosing Post-exercise Recovery Techniques to Reduce Markers of Muscle Damage, Soreness, Fatigue, and Inflammation: A Systematic Review With Meta-Analysis
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2018.00403/full

マッサージやコンプレッションウェアなど、運動後に行われる疲労回復方法について、どの手法がどれくらいの効果があるかを調べたメタ解析研究。


★回復の評価軸
筋肉のダメージと炎症の指標
- creatine kinase (CK)
- C-reactive protein (CRP)
- interleukin-6 (IL-6)

被験者の主観
- 筋肉痛
- 疲労感


★結果一覧
massage:マッサージ
compressive garments:コンプレッションウェア
immersion:水に浸かる
electrostimulation:電気刺激
stretching:ストレッチ
cryotherapy:クライオセラピー(超低温の冷気を短時間当てる)
active recovery:アクティブリカバリー(運動後に低強度の運動をする)
Contrast Water Therapy:冷水と温水に交互に浸かる
hyperbaric therapy:いわゆる酸素カプセル

筋肉のダメージと炎症の指標





筋肉痛(DOMS)と疲労感(perceived fatigue)




★回復方法別の結果解説
・マッサージ
- 疲労感を軽減するのに最も有効(コルチゾールレベルの低下とβエンドルフィンレベルの上昇が寄与か)。
- 筋肉痛の軽減効果も高い。
- CKとIL-6の低下に最も効果的(筋肉のダメージの軽減と回復の促進を示唆)。

想定メカニズム:筋肉の血行をよくし、浮腫を軽減する可能性。

実践: 運動後2時間以内に20-30分のマッサージ。


・コンプレッションウェア
- 筋肉痛と疲労感の軽減に効果的。
- 今回の解析では、各種炎症マーカーのCK, IL-6, CRPについては効果は見られず。
- 既存の研究は、回復期間、着用期間、どれくらいの圧力がかかるか、着用する部位などがバラバラで、またコンプレッションウェアの実験では運動の強度が低い傾向があり、そもそもダメージがあまり出ていない可能性もある。

想定メカニズム:圧力で浮腫を軽減、筋肉から老廃物を排出しやすくする。

実践:運動後24時間以上は着用したほうが良さそう。


・水に浸かる
- 筋肉痛と疲労感の軽減に効果的。
- CKをやや低減。IL-6とCRP については有意差なし。

想定メカニズム:浮腫の軽減と痛みの感覚の麻痺。水圧が筋肉から代謝物の排出を促進。血管収縮により炎症が拡がるのを防ぐ。

実践:11–15℃の冷水に11–15分浸かる。(体温以下の水温なら効果があるので厳格にこの温度にしなくても良い)


・冷水と温水に交互に浸かる
- 筋肉痛に効果あり。疲労感については有意差なし。
- CKの低減。

想定メカニズム:血管収縮と血管拡張を繰り返すことで浮腫の軽減、炎症と痛みの軽減。


・アクティブ・リカバリー
- 筋肉痛に効果あり(運動後の短い時間での効果が大きい)。疲労感については有意差なし。
- CK, IL-6, CRPは有意差なし。

想定メカニズム:血行を良くし、代謝物の除去を促進。


・クライオセラピー
- 運動後の短い時間に筋肉痛に小さな効果あり。
- IL-6は低減。CKとCRPには有意差無しだが、継続的な使用でCKに低減効果が出るとする研究もある。
- 既存の研究は温度や使用タイミングなどがバラバラ。


・ストレッチ、電気刺激
- 筋肉痛と疲労感については低減効果なし。ストレッチは筋肉痛を悪化させる場合も。



★解析結果についての留意点
- 研究によって運動の強度がまちまち。強度の高い運動をすればそれだけ低減効果が出やすくなり、逆に強度の低い運動をするとダメージと疲労が小さいので低減効果も出にくくなる。
- レーザーや振動を使った最新の手法は、既存の研究の数が少ないので今回の研究には含まず。
- パフォーマンスは別の評価軸で今回の研究では含まず。ダメージや炎症の指標の変化と、実際の運動パフォーマンスの変化が一致するわけではない。



☆コメント
疲労回復方法については以前書いたけど、以前の記事は古い研究を基にしているので、今回のメタ解析研究の結果で情報をアップデートして良いと思う。

推奨方法は・・・
運動が生活に関わる人は、お財布と相談しながらマッサージを受けるのが良いでしょう。

趣味で運動をしている人は、水に浸かるかコンプレッションウェアが良さそう。水に浸かるのは体温以下の水温ならば効果があるので水風呂がない場合はプールでも良いだろう。ただ後述するように冷水に浸かるのは筋肥大とストレングスの向上を妨げる可能性があるので、筋トレをしている人は注意したほうが良いと思う。コンプレッションウェアは長時間の着用が必要なようなので、人によっては着用し続けるのが少し鬱陶しいと感じるかもしれない。

運動からの回復には十分な食事と睡眠が最も大事で、プラスアルファで疲労回復のために何ができるか。趣味で運動している人は、上に挙げた効果的な方法へのアクセスに難がある場合は、無理してやる必要もないと思う。運動のボリュームを適切に設定し、しっかり食べてしっかり寝るのが基本。

アスリートの場合は、状況によって回復方法を使い分けるのも良いだろう。例えば1日に複数回の試合をするような場合は、アクティブリカバリーのように短時間でも痛みが軽くなってパフォーマンスを上げられるならば意味があるだろう。

ダメージや炎症の軽減が、長期的な適応にどのような影響を及ぼすのかはあまりわかっていない。トレーニング後に10度の冷水に10分浸かると筋肥大とストレングスの伸びが阻害されたという研究(2)があり、高用量の抗炎症薬の継続的な服用でも筋肥大とストレングスの伸びが阻害されたという研究(3)があるので、ダメージや炎症を和らげるとそれだけ筋肥大しにくいといったこともあるかもしれない。

ただ考えられる説がいくつかあって、
(ⅰ) 筋肉のダメージが筋肥大に深く関わっていて、筋肉のダメージを軽くし早く回復させることで筋肥大が抑制される。(最近の筋トレ研究のトレンドでは筋肉のダメージは筋肥大に直接的な関係があまりないというのが主流になっているが)
(ⅱ) ダメージや炎症を抑制する方法や薬物は、同時に筋肥大のプロセスも抑制する。
(ⅲ) トレーニング初期は筋肉のダメージが大きく、繰り返しトレーニングを行いダメージの修復を繰り返すことで、筋肉がトレーニングに耐えられるようになり、それからようやく本格的な筋肥大が始まる。ダメージは筋肥大には直接的には関わらないが、トレーニングに耐えうる筋肉へのトランスフォームを行うのに重要な役割を果たす。トレーニング後の炎症反応を無理やりに抑制するとダメージの修復が遅れて、トレーニングに耐えうる筋肉へのトランスフォームが進まず、筋肥大フェーズに入りにくい。

素人の考えだが、(ⅱ) and/or (ⅲ)の説がもっともらしい説明だと思う。適度な炎症は適応に必要なので、通常のトレーニングで起こる程度の炎症を抑え込むのはあまり良くない感じがする(もちろん怪我や病気での炎症は抑え込んだ方が良いだろう)。従って感覚が麻痺するほどの低温の水に浸かったり、冷気を当てたりするのは適応を妨げる可能性がある。一方で、マッサージやコンプレッションウェアは代謝物の排出促進などにより回復を早めるのがメインな感じがするので、適応を妨げないかもしれない。水に浸かるのも、水圧による回復効果があるのなら、20-30℃程度の温い水に浸かるのは筋肥大とストレングスの向上を妨げないかもしれない。

あとストレッチやフォームローラーは、筋肉の疲労回復には効果がないとしても、姿勢や筋肉のバランスを整えて怪我を防止するのに効果的なので、なるべく行ったほうが良いと思う。詳しくは関連記事の「ストレッチとウォームアップ」を参考に。運動後の激しいストレッチは筋肉痛を悪化させる可能性があるので、運動後にストレッチをやる場合は軽くやるのが良いだろう。個人的にはストレッチとフォームローラーは運動前と寝る前にやっています。



参考文献:
(1)An Evidence-Based Approach for Choosing Post-exercise Recovery Techniques to Reduce Markers of Muscle Damage, Soreness, Fatigue, and Inflammation: A Systematic Review With Meta-Analysis
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2018.00403/full

(2)Post-exercise cold water immersion attenuates acute anabolic signalling and long-term adaptations in muscle to strength training
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4594298/

(3)High‐doses of anti‐inflammatory drugs compromise muscle strength and hypertrophic adaptations to resistance training in young adults
https://www.researchgate.net/publication/319204260_High-doses_of_anti-inflammatory_drugs_compromise_muscle_strength_and_hypertrophic_adaptations_to_resistance_training_in_young_adults



関連記事:
筋トレの疲労と回復方法

疲労のメカニズム

ストレッチとウォームアップ