7/30/2019

インターバルの過ごし方によるパフォーマンスへの影響

The effect of inter-set strategies on acute resistance training performance and physiological responses: A systematic review
https://www.researchgate.net/publication/330753178_The_effect_of_inter-set_strategies_on_acute_resistance_training_performance_and_physiological_responses_A_systematic_review

レジスタンストレーニングのセット間インターバルに何をすると回復が早まり、次セット以降のパフォーマンスを維持しやすくなるのか。具体的には、スクワットやベンチプレスのインターバルでは、座って休んで息を整えるのが良いのか、筋肉が張るのでストレッチするのが良いのか、うろうろ歩き回って身体が冷めないようにするのが良いのか。

今回紹介するシステマティックレビュー論文では、レジスタンストレーニングのパフォーマンス維持に着目して、インターバルでの行動により以降のセットでのパフォーマンス(主に可能なレップ数)が変化するか調べた研究を集めている。

セット間インターバルの活用方法には他にも観点はあって、例えば怪我リスクを低くすることを優先したり、アラインメントやフォームの維持を優先したり、ペアードセットなどによって時間効率を高めることを優先したりといったことが考えられる。


★ストレッチ・フォームローラー・マッサージ
基本的には、ウォームアップにおいてのストレッチの扱いと同じ。トレーニング直前と同様に、インターバルでは主働筋の静的ストレッチやフォームローラーを長時間行うのは避けたほうが良いだろう。

インターバルに拮抗筋の静的ストレッチを行うと、その後のレップ数が多くなる可能性がある。メカニズムにはいくつか仮説がある。
1)拮抗筋に無駄な力が入らなくなり、差し引きの関節トルクが上がる。いくつかの研究で拮抗筋のEMGに違いがないことが示されているのでこの説は可能性が低いようだ。また拮抗筋に力が入らなくなっているわけではないので、関節の安定性に問題はないと思われる(拮抗筋の適度の緊張は関節の安定に寄与している)。
2)筋肉-腱-関節の硬さ(局所的硬さ及び伸張反射による神経系含めての硬さ)を低下させる。主働筋が収縮し拮抗筋が伸張される際に、拮抗筋とそれに付随する腱や関節周りがブレーキになりにくくなる。この説はありえそう。
3)拮抗筋のストレッチにより、主働筋収縮・拮抗筋伸張の際に拮抗筋の伸張反射が抑制される。拮抗筋の伸張反射が起こると相反性神経支配により主働筋が抑制されるので、主働筋収縮時は拮抗筋の伸張反射を抑制したほうが主働筋がより強く収縮することが出来る。拮抗筋の静的ストレッチで主働筋のEMGが高くなっているので、この説はありえそう。

拮抗筋の静的ストレッチで可能レップ数が多くなるメカニズムは、主働筋-拮抗筋のペアードセット関連のメカニズムと一部共通している感じがする。拮抗筋を収縮させてから、すぐに主働筋を動かすと限界までのレップ数が伸びる。

<個別の研究結果一覧>
静的ストレッチ
- 主働筋:3つの研究。3つともレップ数に違いなし。1つの研究で挙上速度の低下。
- 拮抗筋:2つの研究。2つの研究とも種目はシーテッドローで、40秒の大胸筋の静的ストレッチで何もせず休むよりもレップ数が伸びた。

動的ストレッチ
- 主働筋:3つの研究。2つでレップ数に違いなし。1つの研究で何もせず休むのに比べて限界レップ数が2倍近くになっているが、ちょっとありえないレベルの差なので再現されるまで扱いは保留。
- 拮抗筋

バリスティックストレッチ
- 主働筋:1つの研究。レップ数に違いなし。

PNF
- 拮抗筋:1つの研究。レップ数に違いなし。今回のシステマティックレビュー論文に入っていない研究でレップ数が伸びた研究が1つ有る。

フォームローラー
- 主働筋:2つの研究。インターバルでのフォームローラーでレップ数低下。
- 拮抗筋:1つの研究。インターバルでのフォームローラーでレップ数低下。フォームローラーの研究は3つとも同じ研究室によるもので、実施種目もすべてニーエクステンション。

マッサージ
- 主働筋:1つの研究。有意差なし


★冷やすor温める
インターバルに主働筋や手のひらを適度に冷やすのはレップ数を増やすのに効果がありそう。温めるのは現時点では効果なしの研究が多い。

・主働筋を直接冷やす、もしくはクライオセラピーでまとめて冷やす。
→筋肉が長く働ける温度に保つ。筋肉は低温でも高温でも疲れやすくなる。あと痛みの知覚を鈍らせることでレップ数が伸びる可能性がある。冷やし過ぎに注意。

・手のひらを冷やす
ベンチプレスのインターバルに手のひらを冷やすと、何もしないのに比べてレップ数が多くなったという研究が複数ある。考えられるメカニズムはいくつかあって、
1)ローカルの疲労のシグナルが脳に送られる際に、他の信号(ここでは冷たいという信号)を同時に送ることで脳が疲労を感じにくくなる。痛い部位を冷やしたり温めたり振動させたり擦ったりすると脳が痛みを感じるのが誤魔化されるのと同じように。
2)血液を冷やすことで深部体温を下げ、脳の疲労感を低下させる。

ちなみにスクワットのインターバルで足の裏を冷やした場合は、レップ数は違いなしで、RPE(主観的辛さ)が冷やしたほうが低かった。


★軽い有酸素運動
スクワットならRPE7以下といった各セットの追い込み度が低くインターバルが長い場合、ベンチプレスなら各セット限界まででも、インターバルでの軽い有酸素運動(軽い自転車漕ぎなど)は回復を早める可能性がある。筋肉からのH+の排出を促進してアシドーシスを抑えたり、血中乳酸塩のリサイクル利用を促したりといったメカニズムが考えられる。


★姿勢
研究は一つ。スラスター(フロントスクワット+ショルダープレス)とデッドリフトを、それぞれ80%3RM(換算表だと74.4%1RM)を10レップ3セット。各セット非限界だけど、限界ぎりぎりの追い込み度だと考えられる。セット間インターバル2分、種目間インターバル5分。結果は仰向けに寝るか座って休むほうが、歩くよりも仕事率(時間あたりのトレーニングボリューム)が高く、心拍数、呼吸数、酸素消費量が低かった。仰向けが最も仕事率が高い。

クロスフィットを想定した研究デザインになっている。コンパウンド種目を毎セット限界に近いレップまでやり、インターバルが短い場合は、インターバルでは座るか寝っ転がるのが良さそう。このような強度の高いトレーニングでは、インターバルでは酸素を大量に取り込み有酸素代謝によるATP-PC系の再補充を急いで行う必要があるので、他の動作で酸素を使うと競合して主働筋の回復が遅れると考えられる。


★心拍数
長距離のトレーニングでは心拍数を見ながらトレーニング内容を管理することが行われているが、レジスタンストレーニングでもその手法が使えるのか。インターバルに何かをやるわけではなくて、心拍数ベースで休む時間を決めたらどうなるかという研究。研究は一つだけで、インターバル1分と心拍数が低下するまで休むとを比較し、心拍数が低下するまで休んだほうがレップ数が多かった。心拍数ベースのほうは4セット目以降のインターバルが2分超えなので、単に長く休んだからより回復しただけと言える。

これはインターバルの長さを決める方法としては、面白いアプローチだと思う。心拍数が落ち着けば、それだけATP-PC系の再補充が十分に行われた状態と考えられるので、次のセットを行う準備ができたということ。心拍数ではなくて主観(次のセットが行えると自分が感じたら)でもボリュームを確保できるという研究もある。心拍数ベースでも主観ベースでも、後半のセット間インターバルほど長くなっているので、インターバルの時間は固定せず序盤短め、後半長めでやると時間効率が良くなりそう。


★パフォーマンスを維持しやすいインターバルの過ごし方まとめ
下半身のコンパウンド種目で、追い込み度が非常に高くインターバルが短い場合(簡単な目安としてはセット直後に息がゼーゼーする場合)。
→仰向けに寝る。ベンチに座るのも良いが仰向けに寝たほうが回復は早い。

下半身のコンパウンド種目で追い込み度が低い、もしくはベンチプレス。
→軽い自転車漕ぎ。

拮抗筋の静的ストレッチもトレーニングボリュームを増やすのに効果があるかもしれない。ただ拮抗筋の静的ストレッチで効果が示されている研究はシーテッドローのみなので、他の種目、例えばスクワットやベンチプレスで効果があるのか不明。スクワットについては、ジャンプ動作の拮抗筋ストレッチ(股関節屈筋と足関節背屈筋を静的ストレッチ)でジャンプの高さアップという研究があるので、股関節屈筋の静的ストレッチが効くかもしれない(背屈筋はスクワットだとそれほど伸ばされない)。ベンチプレスは肩甲骨固定で拮抗筋が伸ばされるわけではないので、広背筋や三角筋後部や肩甲骨を寄せる筋肉をストレッチしても効果がなさそうな感じがする。

インターバルに主働筋や手のひらを冷やすのは、器具が用意できてうまく使えば良さそう。主働筋を冷やす場合は冷やしすぎないように注意する。手のひらを冷やす研究では専用の器具を使っているので、例えば家から持ってきた保冷剤を握って効果があるのかは不明(推定メカニズム的には効果がありそうだが)。

時間効率を優先する場合は、インターバルで息がゼーゼーしないなら、その種目で使わない細かい筋肉をトレーニングしたり、ゴムバンドなどを使った姿勢矯正やスタビライザー強化の軽いエクササイズをしたり、その日はもうトレーニングをする予定がなく固く縮むと姿勢に悪影響を与えやすい筋肉をストレッチしたりすると良いと思う。単関節種目なら主働筋-拮抗筋のペアードセットも時間効率面で優れていると思う。