11/30/2017

主働筋-拮抗筋のペアードセット

主働筋-拮抗筋ペアードセット(paired set)と通常セット(traditional set)を比較した研究を調べてみました。

主働筋-拮抗筋ペアードセットは例えば、ベンチプレス1セット目→ロウイング1セット目→ベンチプレス2セット目→ロウイング2セット目→ベンチプレス3セット目→ロウイング3セット目 といった感じで主働筋-拮抗筋が入れ替わる種目を交互に行うトレーニング方法。

通常セットは例えば、ベンチプレス1セット目→ベンチプレス2セット目→ベンチプレス3セット目→ロウイング1セット目→ロウイング2セット目→ロウイング3セット目 という順番で行うトレーニング方法。

研究ではペアードセットと通常セットについて以下のようなポイントを比較している。
・1回のトレーニングにかかる時間
・各セット限界までやった場合のトレーニングボリューム(重量×レップ数)
・疲労度合い(主にEMGを測定しているけどブレが大きく参考程度にしかならないのでこの記事では割愛)
・長期的に続けた場合のストレングスとパワーの伸び



★ペアードセットの研究
いずれの研究も被験者はトレーニング歴のある若い男性で体格が良い。大学の運動選手の模様。

(1)Volume Load and Neuromuscular Fatigue During an Acute Bout of Agonist-Antagonist Paired-Set vs. Traditional-Set Training.
https://www.researchgate.net/publication/279164429_Volume_Load_and_Neuromuscular_Fatigue_During_an_Acute_Bout_of_Agonist-antagonist_Paired-set_Versus_Traditional-set_Training

・トレーニング種目:
1種目目:ベンチプレス
2種目目:シーテッドロウ

・重量と追い込み度:10RMの重量で限界まで各種目3セット

・比較ポイント:各セット限界までやった場合のトレーニングボリューム

・セット間インターバル
a) ペアードセット
同一種目の実質インターバルは約170秒
ベンチプレス1セット目(約40秒)→(移動約10秒)→ロウ1セット目(約40秒)→(インターバル2分)→ベンチプレス2セット目→以下両種目3セット終わるまで続く

b) 通常セット
インターバルは2分
ベンチプレス1セット目→(インターバル2分)→ベンチプレス2セット目→以下両種目3セット終わるまで続く

・ウォームアップ含めてトレーニングにかかった時間
通常セットが16分、ペアードセットが8.5分

<結果>
ペアードセットの方がトレーニングボリューム(重量×レップ数)が多くなった。おそらく同一種目の実質インターバルが長いため、主働筋がより回復できたからだと思われる。

面白いのが、2種目目の1セット目(ロウ1セット目)もペアードセットの方が通常セットよりもレップ数が多くなったこと。(2)の研究でも示されているが、ペアードセットで1種目目と2種目目のインターバルが短いと、2種目目のトレーニングボリュームが増えるようだ。


(2)Effects of different rest intervals between antagonist paired sets on repetition
performance and muscle activation.
https://pdfs.semanticscholar.org/f7df/05325e8fcbcaa14d7a9fd79be50508ba6fb0.pdf

・重量と追い込み度:10RMの重量で限界まで

種目:ニーエクステンションとニーフレクション(ライイングレッグカール)

比較ポイント:ニーエクステンションを10RMの重量で何レップ出来るか

a) ニーエクステンションのみを限界まで1セット(TP)
b) ニーフレクション1セットの直後(移動に約15秒)にニーエクステンションを限界まで1セット(PMR)
c) ニーフレクション1セットの30秒後にニーエクステンションを限界まで1セット(P30)
d) ニーフレクション1セットの1分後にニーエクステンションを限界まで1セット(P1)
e) ニーフレクション1セットの3分後にニーエクステンションを限界まで1セット(P3)
f) ニーフレクション1セットの5分後にニーエクステンションを限界まで1セット(P5)

<結果>
b,c,dの順で、ニーエクステンションのレップ数は多かった。つまりニーフレクションからニーエクステンションまでの休憩時間が短いほど、ニーエクステンションのレップ数が多くなった。3分以上の休憩だと、ニーフレクション無しの場合と有意差なし。


(3)Exercise order affects the total training volume and the ratings of perceived exertion in response to a super-set resistance training session
https://www.researchgate.net/publication/221867808_Exercise_order_affects_the_total_training_volume_and_the_ratings_of_perceived_exertion_in_response_to_a_super-set_resistance_training_session

ペアードセットで種目の実施順序を変えた場合のボリューム測定

a) 1種目目レッグエクステンション→2種目目レッグカール(QH)
b) 1種目目レッグカール→2種目目レッグエクステンション(HQ)

・比較ポイント:各セット限界までやった場合のトレーニングボリューム

<結果>
1種目目レッグカールの方がトータルのトレーニングボリュームが多くなった。主働筋-拮抗筋の組み合わせによっては、どちらを先に行うかでトレーニングボリュームに違いが出ることがあるようだ。


(4)The effect of an upperbody agonist-antagonist resistance training protocol on volume load
and efficiency.
https://www.researchgate.net/publication/46288879_The_Effect_of_an_Upper-Body_Agonist-Antagonist_Resistance_Training_Protocol_on_Volume_Load_and_Efficiency

・トレーニング種目:
1種目目:ベンチプル
2種目目:ベンチプレス

・重量と追い込み度:4RMの重量で限界まで各種目3セット

・比較ポイント:各セット限界までやった場合のトレーニングボリューム

・セット間インターバル
a) ペアードセット
インターバル2分。同一種目のインターバルは4分。
b) 通常セット
インターバル2分。

・トレーニング終了までの時間は両方とも同じ。(合計6セットを2分インターバルで行う)

<結果>
ペアードセットの方がトレーニングボリュームが大きくなった。同一種目のインターバルが大幅に違うので当然の結果。

(5)Physical performance and electromyographic
responses to an acute bout of paired set strength training versus
traditional strength training.
http://www.academia.edu/14519745/Physical_Performance_and_Electromyographic_Responses_to_an_Acute_Bout_of_Paired_Set_Strength_Training_Versus_Traditional_Strength_Training

・トレーニング種目:
1種目目:ベンチプル
2種目目:ベンチプレス

・重量と追い込み度:4RMの重量で限界まで各種目3セット

・比較ポイント:各セット限界までやった場合のトレーニングボリューム

・セット間インターバル
a) ペアードセット
インターバル2分。同一種目のインターバルは4分。
b) 通常セット
インターバル4分

<結果>
トータルボリュームはペアードセットと通常セットで有意差なし。効果量を見ると通常セットの方がごくわずかに上。


(6)Effects of agonist-antagonist complex resistance training on upper body
strength and power development.
https://www.researchgate.net/publication/40454501_Effects_of_agonist-antagonist_complex_training_on_upper_body_strength_and_power_development

これのみ長期の研究で、8週間のトレーニングを行っている。

・トレーニング種目
1種目目:ベンチプル
2種目目:ベンチプレス&ベンチプレススロー

重量:3-6RM

トレーニング頻度・ボリューム:部位あたり合計18–25レップを週2回。実際にどれくらいボリュームをこなせたかは書かれていない。

・セット間インターバル
a) ペアードセット
インターバル2分。同一種目のインターバルは4分。
b) 通常セット
インターバル4分

<結果>
ベンチプルとベンチプレスの1RMは、ペアードセットのみトレーニング前→後の伸びが有意差あり。通常セットも1RMは伸びてはいるけど有意差はなし。

被験者数が少なく、ベンチプレス100kgくらい挙がる人にとってはトレーニングボリュームが少なく、実験期間が短いので、有意差の有無は偶然ではないかと思う。トレーニング前後の1RM変化の効果量を見ると、ベンチプルはペアードセットの方が大きいけど、ベンチプレスは通常セットの方が大きい。

ペアードセットでトレーニング時間を約半分にしても、ストレングストレーニングの効果は通常セットと同じくらい出た、とこの研究からは言える。



★ペアードセットで2種目目のボリュームが増えるメカニズム
(1)(2)の研究では、ペアードセットで1種目目と2種目目のインターバルが短いと、2種目目の限界レップ数が増えることが示されている。

これについてのメカニズムは明確にはなっていないが、論文に書かれている推測メカニズムを書くと、

・拮抗筋を事前に疲れさせることで、主働筋のセットの際に拮抗筋がブレーキとして働く時間が短くなって、差し引きでの力の発揮が大きくなる。ただこれはバリスティックトレーニングで働くメカニズムなので、通常のレジスタンストレーニングではあまり関係がないかも。

・拮抗筋のセットで拮抗筋の腱紡錘と主働筋の筋紡錘を刺激することで、主働筋のセットの時に主働筋が収縮しやすくなると同時に拮抗筋が緩みやすくなり、差し引きで発揮する力が大きくなる。

注意点としては、拮抗筋は関節を安定させる働きがあるので、このようなメカニズムが働いていた場合、関節が不安定になり怪我リスクが上がるかもしれない。


★ペアードセットについてのコメント
トレーニングボリュームを維持しつつトレーニング時間を短縮できるのは明確なメリット。効率よくトレーニングを行うためには積極的に取り入れたいトレーニング方法だと思う。

1種目目と2種目目の間隔を短く(1分以内程度に)することで、2種目目のボリュームを増やせる可能性があるが、これはメリットなのか不明。ボリュームを増やすと次のトレーニングセッションまでの回復時間が長くなるので、長期的に見てトレーニングの質と量を増やせるのかわからない。

また関節の安定性が低下する可能性もある。保守的にやるなら、1種目目と2種目目の間隔は1分以上空けて、肘(アームカール-トライセップスエクステンション)や膝(レッグエクステンション-レッグカール)といった単関節種目でペアードセットを行うのが良いだろう。肩関節のような自由度の高い関節でのフリーウェイトでのコンパウンド種目は怪我のリスクが上がるかもしれない。コンパウンド種目をやるならスミスマシンなどを使った方が良いと思う。

ちなみに私はスミスマシンで、大胸筋のアイソレートを意識したインクラインベンチプレスと、身体を後ろに傾けてバーを掴んで身体を持ち上げるプル動作(Inverted Row)でペアードセットをやっています。

体幹やスタビライザーの役割が重要な種目でも、ペアードセットはフォームが崩れやすくやらないほうが良いだろう。スクワットやデッドリフト(何とペアにするのかわからないが)は不向き。心肺能力面でも困難だろう。

研究での被験者はすべて若いアスリートで、彼らはトレーニングをこなす体力があるし、回復力もあるだろう。自分がペアードセットをトレーニングに取り入れる時は、疲労の溜まり具合や怪我リスク(関節の違和感など)をよくチェックしながらやった方が良いと思う。

またトレーニングボリュームを測定した研究では各種目3セット程度しか行っていないので、セット数が多くなってくるとどうなるのかわからない。ペアードセットだと疲れてボリュームが低下したりフォームが崩れたりするかもしれない。その場合はインターバルを長くする必要があるだろう。


★細かいつっこみ
主働筋-拮抗筋のペアードセットというけれど、ベンチプレスは肩甲骨を寄せるから、ロウ系種目(シーテッドロウやベンチプル)の完全に対称的な動作ではない。腕立て伏せとロウ系だったら、だいたい対称的な動作になるけれど、それでも上腕三頭筋長頭は肘関節の伸展に加えて肩関節の伸展の働きがあるのでプッシュの動作とロウの動作の両方で使われる。

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