5/31/2018

スクワットの深さ

★スクワットを行う目的
どれくらい深くしゃがんでスクワットを行うのが良いかは、スクワットを行う目的により異なる。

膝の怪我のリハビリを行う場合は、一般的には浅くしゃがむスクワットのほうが良いだろう。競技としてパワーリフティングを行っているなら、パラレルをギリギリ下回るくらいが良いだろう。重量挙げなどフルボトムの位置から強い力を発揮する必要のある競技を行っているなら、フルボトムが良いだろう。ジャンプやスプリントの向上を目指す場合は、浅いスクワットが効果的なケースもあるようだ。

この記事では「なるべく怪我のリスクを小さくしながら、筋肥大効果を得る」ことをスクワットを行う目的とする。


★スクワットの深さ
ここでは膝の屈曲角度は膝を伸ばした状態(直立時の状態)を0度と表す。膝を曲げていくにつれて、膝の屈曲角度は大きくなっていく。

各スクワットの呼び方と膝の屈曲角度は以下のものとする。

- ハーフスクワット:膝の屈曲角度が約90度
- パラレルスクワット:膝の屈曲角度が約110度(膝と股関節を結んだ線が床と平行)
- フルボトムスクワット:膝の屈曲角度が130-150度くらい(腿の裏側とふくらはぎがくっつくまで)




★怪我リスク(蓄積による怪我)
主に腰の怪我と膝の怪我がある。スクワットは深くしゃがむ場合、フォームが良くないと腰が丸まり、腰の怪我につながりやすい。背骨はニュートラルポジションを保つ限りは、かなりの負荷に耐えられるので、フォームに気をつけていれば腰の怪我はあまり気にする必要がないだろう。どうすると腰を痛めやすいかは、以前「腰痛について」という記事で書いたので参考まで。

ここでは膝の怪我について触れる。膝は曲がる角度とその時の負荷によって怪我リスクが高くなる可能性がある(以下はフォームが良くても起こりうる怪我である)。深くしゃがむスクワットが膝の怪我のリスクを上げるかどうかは、肯定する見方と否定する見方の両方がある。

膝の怪我には大きく分けて軟骨系と腱・靭帯系の2つがある。

軟骨系:膝蓋骨、半月板、大腿骨、脛骨の接触・圧迫による炎症・変性。膝蓋大腿疼痛症候群(PFPS)、軟骨軟化症、変形性膝関節症など。
腱・靭帯系:大腿四頭筋腱、膝蓋腱、前十字靭帯(ACL)、後十字靭帯(PCL)、膝内側側副靱帯(MCL)、膝関節外側側副靱帯(LCL)の炎症・変性。

(1)の論文を参考にして具体的なケースを挙げると
- 膝蓋骨と大腿骨の圧縮方向の負荷、脛骨と大腿骨の圧縮方向の負荷、脛骨と大腿骨のせん断力は、それぞれ深くしゃがむほど大きくなる。
- 大腿四頭筋腱と大腿骨の接触による大腿四頭筋腱への負荷は、深くしゃがむほど大きくなる。
- スクワットによるACLとPCLへの負荷は、どの深さでも健康な膝の人にとっては問題のない水準。
- 深くしゃがんだポジションでは、膝の左右方向の安定性に問題が起きやすい。具体的には骨のズレ、半月板の圧迫、靭帯(LCL・MCL)への負荷。
- 強い負荷をかけるときは、ゆっくり腱を伸ばしたほうが腱を怪我しにくい。素早くバウンドさせるスタイルでのフルボトムスクワットは、腱の怪我リスクが上がる可能性がある。
- 膝蓋骨-大腿骨の関節内の接触は深くしゃがむほど面積が増える。一方で、圧力(力/面積)は膝の屈曲角度90-100度でピークに達し、その後は力が一定で接触面積が増えていくので圧力は低下する。

深くしゃがむことで膝関節への負荷が強くなる主なメカニズムは
1. パラレルより深くしゃがんでいくと、膝が前に出ていく。回転軸(膝関節)が重心から遠くなることで、膝へのモーメントが大きくなり、膝関節内での軟骨や腱の接触負荷が大きくなる。一般的にフルボトムはハーフやパラレルよりも扱える重量が下がるが、相対的な強度を揃えた場合でも膝関節へのピークモーメントはフルボトムが最も大きくなる(2)(3)。ただフルボトムで実際にかかっているモーメントは、腿の裏側とふくらはぎが接触することで減衰されている可能性がある(一方でこの接触により膝伸展時の回転軸が膝関節から別の位置に移動してしまうリスクがある)。
2. 膝関節の屈曲角度が大きくなると、膝関節内での骨、軟骨、腱の接触面積が増える。強い負荷での接触を繰り返すことで、炎症や変性が起こる可能性がある。
3. 深くしゃがんだ際に、膝関節の安定性が損なわれることで、靭帯への負荷が大きくなる。

蓄積による怪我は、フォーム、重量、トレーニング頻度、トレーニング歴による適応度合い、骨格などにより個人差が大きい。メカニズム的には、深くしゃがむほど膝への負荷が高くなる感じがするが、関節内の接触面積の増大による圧力低下と、腿の裏側とふくらはぎの接触による負荷の吸収は膝への負担を下げる可能性もある。

何年間も深くしゃがむスクワットを続けると膝関節に悪影響が出るかどうかを調べた研究は無いと思う。フルボトムのスクワットを頻繁に行う重量挙げの選手と他の人を比較したりといった研究は、生存バイアスがあるのであまり意味が無い(膝を壊した選手はドロップアウトするので調査対象に含まれなくなる)。

変形性膝関節症のリスクファクターを調べた研究を参考にしてみると、深くしゃがみこんで作業を行うことの多い職業(タイルや道路の整備、大工など)で変形性膝関節症のリスクが高くなる。重いものを持つ職業でもリスクが高くなる。(4)

また長時間深くしゃがむ習慣のある地域の人々も、長時間のしゃがみ込みで変形性膝関節症のリスクが高くなる(政治的に正しくない表現かもしれないが asian squatで画像検索するとイメージが掴める)。(5)

強度と時間の組み合わせによって怪我のリスクを区分けすると、以下のようになる。

低強度-短時間:リスク低。膝が健康なら、自重でフルボトムの位置に短時間しゃがんでも膝に問題はないだろう。
低強度-長時間:リスク中。自重で長時間フルボトムの位置にしゃがむ生活を続けると変形性膝関節症のリスクが高くなる。
高強度-短時間:高負荷での深くしゃがむスクワットを続けるとどうなるか。リスク??
高強度-長時間:リスクは高いだろう。

一般的には蓄積による怪我のリスクは下図のようになるので、高強度-短時間のリスクは中程度かなと思う。色が濃いほど高リスク。




★スクワットの深さの違いによる筋肉の活動レベルの変化
フルボトムのスクワットの際の筋肉の活動レベルの推移を測定している研究を見てみる(6)。下がり2秒、上がり2秒の指示で80%1RMのフルボトムスクワットを行っている。この研究のグラフの横軸は下がって上がるを1サイクルとしてそれを百分率で表していて、0-53%が下がる局面、53-100%が上がる局面。53%でフルボトムに到達。下がりのほうがわずかに長い時間がかかっていた。


パラレル相当である膝の屈曲角度110度(この研究での表し方だと70度)のラインを赤線で、ハーフスクワット相当である膝の屈曲角度90度のラインを青線でグラフに引いてある。横軸と照らし合わせると、30%を少し超えたあたりでハーフを下回り、40%を少し超えたあたりでパラレルを下回り、53%でフルボトムに達し、60%くらいでパラレルを上回り、70%くらいでハーフを上回る。

各筋肉の活動レベルのグラフを見てみると、外側広筋の活動レベルが高くなるのは60%付近から70%付近で、大腿直筋は60%手前から70%手前。フルボトムでの53%付近ではそれほど活動レベルが高くない。他の複数の研究でも膝の屈曲角度80-90度で大腿四頭筋の活動がピークに達し、それより深く曲げても同程度の活動レベルが続くことが示されている(1)。スクワットでは、パラレルからハーフの間で大腿四頭筋に強い負荷がかかると言える。

大殿筋は60%付近から活動レベルが高くなり、挙上の終盤までかなり高い活動レベルが続く。フルボトムの53%付近ではそれほど活動レベルが高くない。パラレルから上の挙上で大殿筋に強い負荷がかけられると言える。

大腿二頭筋は60%の手前から挙上の終盤まで活動レベルが高い。半腱様筋は70%手前から80%中盤まで活動レベルが高い。ただ両方の筋肉とも限界出力に対しての活動レベルはそれほど高くはないので、ハムストリングスのトレーニングとしてはスクワットはあまり負荷が強くないと言える。

ちなみにこの研究は筋肉の長さの変化も算出していて面白い。ハムストリングスはしゃがむにつれてある程度短くなる。大腿直筋は長さがほとんど変わらない。クローズドチェイン(足が固定)での腓腹筋による足首の屈曲は、膝の伸展に寄与するといった考察も面白い(腓腹筋は二関節筋で膝の屈曲の機能も持つので腓腹筋の収縮自体は膝の伸展を妨げる働きをする)。

各筋肉の活動レベルはEMGで測定。関節モーメントなどをどうやって算出しているのかは、このサイトを参考にするとイメージをつかみやすい。


スミスマシンのバーを固定してスクワットのポジションを取り、アイソメトリックでの最大出力時の各筋肉の活動レベルを測定した研究(7)でも、フルボトム(140度)はハーフ(90度)に比べて大腿四頭筋も大臀筋も活動レベルが低いことが示されている。



他にはフルボトムスクワットを推奨する人がよく引用している研究があって(8)、パラレルに対してフルボトムのほうが大殿筋の活動レベルが高いと言っているのだけど、よく読んでみたらパラレルが膝の角度90度になっていて、実際にはハーフスクワットとフルボトムスクワットの比較になっている。またEMGも平均とピークしか出していないので、膝の屈曲角度90度からフルボトムまでのどこの間で大殿筋の活動レベルが高くなっているのかわからず、この研究からはフルボトムスクワットがパラレルスクワットに比べて大殿筋を強く刺激すると主張することはできない。

以上、EMGの研究結果からは、ハーフ(膝屈曲角度90度)を超えてからパラレル付近まで下ろして上げると、大腿四頭筋と大殿筋に効果的に負荷をかけられると考えられる。フルボトムのポジションは、関節の角度(筋肉の長さ)の問題で力が入りにくく、体感的にはきつく感じるのだけど、筋肉の活動レベルはそれほど高くなっていない。


★スクワットの深さの違いによる筋肥大効果の差
スクワットのトレーニングを数週間行い筋肥大効果を調べた研究では、浅いスクワット(膝屈曲60度)とパラレルスクワットを比較したものがある(9)。この研究では、浅いスクワットよりもパラレルスクワットの方が大腿四頭筋の筋肥大は大きく有利という結果になっている。


膝の屈曲角度50度と90度を比較をした研究もあって(10)、90度のほうが大腿四頭筋の筋肥大に有利という結果になっている。

いずれの研究も、同じ%1RMでトレーニングを行っていて相対的な強度は同じにしている(浅いほうが重い重量でトレーニングをしている)。膝の屈曲角度が50-60度程度では重量が重くなっても、大殿筋の限界が先にきて大腿四頭筋の活動レベルがそれほど高くならないのか。それとも挙上距離の長さが筋肥大に影響しているのか。理由ははっきりとはわからないが、ハーフよりも浅い角度のスクワットは大腿四頭筋の筋肥大効果があまり高くないようだ。

パラレルとフルボトムの筋肥大効果を比較した研究は見つからなかった。パラレルよりもフルボトムのほうが挙上距離が少し長いので筋肉の行う仕事が大きくなり、それだけ筋肥大しやすい可能性がある。一方で、通常はフルボトムよりもパラレルのほうが少し重い重量を扱えるので(2)(3)、同じ%1RMならパラレルのほうが大腿四頭筋と大殿筋により強い負荷をかけることが出来る。どちらのほうが筋肥大に有利かは現状の研究からは判断しづらい。


★まとめ
深くしゃがむスクワットによる膝の怪我のリスクについては賛否両論がある。メカニズム的にはパラレルよりもフルボトムのほうが怪我のリスクが上がりそうな感じがするが、個人差も大きいこともあり、明確な判断はできない。筋肥大については、ハーフより浅いスクワットだと大腿四頭筋の筋肥大効果が低くなるので、ハーフよりは深くしゃがむほうが良いだろう。EMGの研究結果からするとパラレルを超えてフルボトムまで行うメリットは筋肥大の面ではあまりないと思う。

「なるべく怪我のリスクを小さくしながら、筋肥大効果を得る」ことを目的とする場合、リスクとリターンを考えると、ハーフを超えてパラレル程度までしゃがむスクワットを行うのが良いだろう。

もちろんパラレルまで絶対にしゃがまなければいけないわけではなくて、関節の可動域と体幹の安定性に問題のない範囲でスクワットを行う。

また、しゃがむ際に2-4秒程度かけてゆっくり丁寧にしゃがみ(コンセントリックは素早く挙げてOK)、低レップ高強度トレーニングの頻度を下げ、8-12レップ程度を中心にトレーニングを行うと、より怪我をしにくいだろう。




<参考文献>

(1)Knee biomechanics of the dynamic squat exercise.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11194098
https://www.wingate.org.il/_Uploads/358253%D7%A1%D7%A7%D7%99%D7%A8%D7%AA%20%D7%A1%D7%A4%D7%A8%D7%95%D7%AA%20%D7%A2%D7%9C%20%D7%A1%D7%A7%D7%95%D7%95%D7%90%D7%98.pdf

(2)Knee Kinetics during Squats of Varying Loads and Depths in Recreationally Trained Females
https://www.researchgate.net/profile/Joshua_Cotter/publication/323669263_Knee_Kinetics_during_Squats_of_Varying_Loads_and_Depths_in_Recreationally_Trained_Females/links/5aabfd8b0f7e9b4897bc8f0a/Knee-Kinetics-during-Squats-of-Varying-Loads-and-Depths-in-Recreationally-Trained-Females.pdf

(3)Knee Joint Kinetics in Relation to Commonly Prescribed Squat Loads and Depths
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4064719/

(4)Occupational and genetic risk factors for osteoarthritis: A review
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4562436/

(5)Association of squatting with increased prevalence of radiographic tibiofemoral knee osteoarthritis: the Beijing Osteoarthritis Study.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15077301

(6)Lower Extremity Muscle Functions During Full Squats
https://www.researchgate.net/publication/23656200_Lower_Extremity_Muscle_Functions_During_Full_Squats

(7)Muscle Activation Differs between Three Different Knee Joint-Angle Positions during a Maximal Isometric Back Squat Exercise_2016
https://www.researchgate.net/publication/305411768_Muscle_Activation_Differs_between_Three_Different_Knee_Joint-Angle_Positions_during_a_Maximal_Isometric_Back_Squat_Exercise_2016

(8)The Effect of Back Squat Depth on the EMG Activity of 4 Superficial Hip and Thigh Muscles
https://pdfs.semanticscholar.org/f6ec/81a44eb19ce3ab7636d09007171b45c54049.pdf

(9)Effect of range of motion in heavy load squatting on muscle
and tendon adaptations
http://highfit.com.br/wp-content/uploads/2017/03/Squat-BLOOMQUIST-2013.pdf

(10)Impact of Range of Motion During Ecologically Valid Resistance Training Protocols on Muscle Size, Subcutaneous Fat, and Strength
https://www.researchgate.net/publication/236581117_Impact_of_Range_of_Motion_During_Ecologically_Valid_Resistance_Training_Protocols_on_Muscle_Size_Subcutaneous_Fat_and_Strength

(11)The Biomechanics of Squat Depth
http://www.lookgreatnaked.com/articles/the_biomechanics_of_squat_depth.pdf

(12)Deep squatting: Good or Bad?
https://www.researchgate.net/publication/306372512_Deep_squatting_Good_or_Bad

(13)Squatting with Patellar Tendinopathy
https://www.strongerbyscience.com/squatting-with-patellar-tendinopathy/

4/22/2018

運動と食欲

食欲についての最近の科学の仮説やモデル。これがメインストリームの考え方なのかわからないけど、個人的には納得がいく論理展開だと思ったので紹介。

背景としては、ここ数十年、世界的に肥満が増えていて、その理由の一つとしてデスクワークが増えて身体活動が低下していることが挙げられる。肥満はエネルギー収支のバランスが崩れることが要因だが、なぜ崩れるのかというと、単にエネルギー消費量が低下しているだけでなく、身体活動の低下により食欲が適切にコントロールされなくなって身体が必要とする以上に食べすぎてしまう可能性が論じられている。


★食欲のコントロール
食欲には、短期的なものと中長期的なものがある。

・日々の食欲に影響を及ぼす要因:除脂肪量(≒安静時代謝)、運動量など
・中長期的な食欲に影響を及ぼす要因:体脂肪量(ただし過剰時と不足時で非対称)

1) 除脂肪量の食欲への影響
日々の食欲(自主的にどれだけ食べるか)は、除脂肪量と安静時代謝に相関している。エネルギー消費が多ければ、それだけ多く食べるよう身体に促す。エネルギーの必要性に応じて食欲が調整されるのは当然とも言える。

2) 運動の食欲への影響
理屈の上では運動で失ったエネルギーを取り戻そうとして食欲が高まることが考えれるが、運動で消費したエネルギーをその後の食事でどれだけ埋め合わせて食べるかは個人差が大きい。(トレーニング効果の個人差>・食欲への影響 を参照)

継続的に運動を続けた場合の食欲への影響は2種類ある。
- 食間の空腹感を増す。
- 食後の満足感を高める
食後の満足感を高める効果はすべての人で共通だが、食間の空腹感への効果はとても個人差が大きい。

運動の短期的な食欲への影響のメカニズム
- 食欲に関わるグレリン, GLP-1、PYYなどのホルモンが変化する。継続的な有酸素運動で、食後のグレリンやGLP-1が満足感を高める方向に変化したという研究がある。
- グリコーゲンレベルが低下することで、グリコーゲン補充を求めて食欲が増す可能性がある。
- 脳の神経伝達物質に影響。

運動の長期的な食欲への影響のメカニズム
- 運動で除脂肪量が増えれば安静時代謝が増えてそれが食欲を増進すると考えられる。
- 体脂肪量の変化も食欲に影響する。運動で体脂肪量が減りすぎれば、餓死回避のために代謝低下や食欲増進が起きる。肥満の人が体脂肪量を減らし、レプチンやインスリンの感受性を取り戻せば食欲を抑制しやすくなると考えられる。
- 運動でインスリン感受性が改善すれば食後の満足感が正確に得られるようになる。
- 運動を続ければ消費エネルギーに対しての食欲のコントロールが正確になり、消費エネルギーと摂取エネルギーがバランスしやすくなると考えられる。


3) 体脂肪量の食欲への影響
肥満ではない標準体重の人では、体脂肪はレプチンなどを通じてエネルギー摂取を抑制する働きがある。過体重になるとレプチンやインスリンへの抵抗性が増し、食欲を抑制する機能が低下する。過体重の人は除脂肪量も多くなるので、除脂肪量に応じて食欲が増す。従って過体重になると、体脂肪量の増えすぎによる食欲抑制の低下と、除脂肪量の増加による食欲増加が合わさり、過剰に食べてさらに太りやすくなる悪循環が起きる。

食料不足で体脂肪量が過度に減った場合には、代謝低下や食欲増進が起き身体はエネルギー貯蔵量を維持し元に戻そうとする。ただ、体脂肪量が必要以上に多くなった場合は元に戻そうする力はあまり働かない。身体のエネルギー貯蔵量を一定水準に保つという観点では、身体の機能は非対称の働きをする。



★運動不足による食欲コントロールの喪失
運動量が中程度から多い人では運動量と食べる量が相関し、必要なエネルギー量に合わせて食欲が適切にコントロールされているが、運動量が低い人では運動量と食べる量の相関が崩れ、食欲のコントロールが失われていることが複数の研究で示されている。

上のAのグラフは工場労働者の食事を調べた研究で、職種ごとの摂取カロリーがプロットされている。座りっぱなし(SEDANTARY)の職種は消費カロリーが少ないのに摂取カロリーが多く、食欲がコントロールされていない。身体活動量が多い職種になると、身体活動量の増加に伴い摂取カロリーも増えていき、必要なカロリー消費に合わせて多く食べるよう食欲がコントロールされていることが示唆されている。

上のBのグラフは10の研究のデータを集めて、身体活動レベルと摂取カロリーの関係を調べたもの。このグラフでの身体活動レベルの基準は以下の通り。
low:身体を動かす時間が週に150分以下、それによる消費カロリーが週に1000kcal以下。
mdedim:身体を動かす時間が週に150-419分、それによる消費カロリーが週に1000-2500kcal。
high:身体を動かす時間が週に420-839分、それによる消費カロリーが週に2500-3500kcal。
very high:身体を動かす時間が週に840分以上、それによる消費カロリーが週に3500kcal以上。
このグラフでも身体活動レベルが低いと食欲がコントロールされず、摂取カロリーが必要以上に多くなることが示唆されている。

単に太りやすい性格の人(ものぐさで運動しなかったり自己抑制能力が低かったり)が、エネルギーを過剰摂取している可能性もあるけど、身体を動かすことに本人の意思が関係ない工場での仕事内容(デスクワークから肉体労働まで)での身体活動量と食べる量の関係をしらべたAのグラフでも、身体活動量が低いと食欲が抑制されなくなることが示されているので、身体活動量と食事量には因果関係があると考えられる。


★コメント
普段から運動をしていて体力のある人でなければ、運動による消費カロリーは大したことないので、体型を気にする人は運動を頑張るよりもまず食事を意識したほうが良い、という考え方がある。その考え方は、単なるエネルギー収支の観点からは正しくて、エネルギー収支のバランスをとりさえすれば、運動しなくても太らず体型を維持することは出来るだろう。ただし運動した方が、食欲コントロールの正常な機能を維持することで、エネルギー収支のバランスを取りやすくなると考えられる。減量後に運動を続けたほうが体重を維持しやすいという研究もある(4)。

デスクワークで座りっぱなしの人は、ある程度の運動を意識的に行ったほうが体型維持の観点からは良いだろう。目安になるのは、上のグラフBの「mdedim:身体を動かす時間が週に150-419分、それによる消費カロリーが週に1000-2500kcal」。また、(4)の研究では、「体重増加を防ぐための身体活動の目安が週に150-250分」「減量後のリバウンドを防ぐための身体活動の目安が週に200-300分」となっている。仕事その他の日常生活で身体をあまり動かさない人は、最低でも週に200分程度の運動を行うことで体型を維持しやすくなると考えられる。もちろん運動には健康面での効果もあるので、健康を意識する人は積極的に行っていきたい。

今回の話からわかることは、食欲とエネルギー支出のバランスへの運動の影響で、運動を行うことで普通体型の人の減量のしやすさはどうなるのかや、体組成はどうなるのかはわからない。おそらく肥満の人は運動を行い、レプチンやインスリンの感受性を高めたほうが減量しやすいだろう。

私(普通体型)は減量時も運動したほうが食欲をコントロールしやすいと感じるけど、これが一般的なのかわからない。

体組成は運動量が多いほうが、除脂肪量が多くて体脂肪率が低い状態を維持しやすいと思う。


(1)Low levels of physical activity are associated with dysregulation of energy intake and fat mass gain over 1 year.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26561620

(2)Appetite control and energy balance : impact of exercise
https://pdfs.semanticscholar.org/cb44/be06dbf2cb1ab6b2fca495515fd0d9683436.pdf

(3)Energy Balance, Body Composition, Sedentariness and Appetite Regulation: Pathways to Obesity
http://eprints.leedsbeckett.ac.uk/3210/1/Energy%20Balance,%20Body%20Composition%20and%20Appetite%20Regulation.%20Pathways%20to%20Obesity_Symplectic%20Elements%20.pdf

(4)The Role of Exercise and Physical Activity in Weight Loss and Maintenance
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3925973/

3/30/2018

筋肉への意識と筋肥大の関係

The Mind-Muscle Connection: A Key to Maximizing Growth?
http://www.lookgreatnaked.com/blog/the-mind-muscle-connection-a-key-to-maximizing-growth/

Differential effects of attentional focus strategies during long-term resistance training
https://www.researchgate.net/publication/323740477_Differential_effects_of_attentional_focus_strategies_during_long-term_resistance_training

鍛えたい筋肉を意識し、しっかり力を入れて負荷を感じながら筋トレすることで筋肥大効果が高まるのかどうかという研究。

筋トレ時の意識の仕方と筋肉の活動レベルを調べた研究はいくつかあって、低重量・中重量(80%1RM程度までの重量)なら個別の筋肉に力を入れることを意識することでその筋肉の活動レベルが高まるという結果が出ていた。しかし、長期的にその方法でトレーニングを続けると筋肥大に有利かどうかという研究はなかった。それを調べた初の研究。

ちなみに高重量だと、個別の筋肉に力を入れることを意識する余裕はなくなって、必要な筋肉全てに効率的に力を入れて全力で持ち上げることになる。


★動作時の意識の仕方(前提知識)
英語だと external/internal focus や cue なんだけど、ちょうどよい日本語が思いつかないので、とりあえず外部意識・内部意識と書いておきます。

外部意識:動作の結果、外部環境に及ぼす効果や結果をイメージする。
内部意識:自分の身体がどのように動くかを意識する。

外部意識はスポーツのパフォーマンス向上に有利なことがこれまでの研究でわかっている。自分の身体の関節や筋肉を意識しながら動くよりも、外部に意識を向けた方が結果として効率的に身体が動くようになる。


★被験者
若い男性。トレーニング経験無し。30名(完走27名)。

※自分なりの筋トレのやり方が身についていると、筋トレ時の意識の仕方を研究者側の指示通り行わないかもしれないので、トレーニング経験無しの人を被験者にしたとのこと。


★グループ分け
筋トレ時の意識の仕方によって2グループに分ける

・内部意識グループ→「筋肉を搾り上げろ!」と指示
・外部意識グループ→「重りを持ち上げろ!」と指示


★トレーニング種目
・バーベルアームカール
・レッグエクステンション

各種目4セット/8-12レップを限界まで/セット間インターバル2分


★トレーニング期間・頻度
8週間・週3日


★食事
被験者は各自これまで通りの食生活を続ける。サプリメントは研究者側から支給されたもの以外は摂取禁止。

支給サプリメント:トレーニング日にホエイプロテイン(たんぱく質25g含有)を支給。被験者はトレーニング直後にこれを摂取。


★測定項目
・体組成:インピーダンス式体組成計
・筋肥大:上腕二頭筋と大腿四頭筋(大腿直筋と外側広筋)の厚みを超音波画像診断装置で測定。
・ストレングス:肘の屈曲と膝の伸展のアイソメトリックでの最大収縮力を測定。


★実験結果
・体組成
グループ間で有意差無し。

・筋肥大
上腕二頭筋のみグループ間で有意差ありで、内部意識グループの方が筋肉の厚みの増加率が約2倍になった(+12.4% vs +6.9%)。大腿四頭筋についてはグループ間で有意差無しだが、小さい効果量で外部意識グループが優位。

・ストレングス
グループ間で有意差無し。膝の伸展は小さい効果量で外部意識グループが優位。肘の屈曲は中程度の効果量で内部意識グループが優位。


★考察
筋肥大とストレングスの結果を効果量も含めて総合的に見ると、アームカール(肘の屈曲)は内部意識グループがはっきりと良い結果で、レッグエクステンション(膝の伸展)は外部意識グループがわずかに良い結果。

内部意識グループ参加者からは、アームカールは指示通り筋肉に力を入れやすいけど、レッグエクステンションは入れにくいとのコメントが聞かれた。一般的に腕は細かい作業が得意で、脚は筋肉群にまとめて力を入れて大きなパワーを発揮するのが得意なので、腕の方が個別の筋肉を意識して力を入れやすいのかもしれない。もしくは屈曲と伸展の違いで、脚もレッグカールだったら内部意識で力を入れやすいかもしれない。または、レッグエクステンションで絞り上げるように力を入れると、私の経験では内側広筋の活動が高まる感じがするので、測定箇所の大腿直筋と外側広筋には影響が出ていない可能性もある。


★コメント
絞り上げるように筋肉に力を入れてトレーニングを続けると、筋肥大が高まることが期待される。トレーニング次第では腕以外の筋肉も、内部意識で上手く絞り上げるように力を入れられるようになる可能性があるので、筋肥大を目指したい場合はトライしてみるのが良いだろう。

注意点としては、内部意識と筋肥大の関係を示す研究は、この研究しかまだ行われていないこと。信頼性の高い研究だと思うが、繰り返し再現されることで確度が高まる。

それと全ての筋トレ種目でこのやり方が効果を発揮するわけではなくて、現状では単関節種目の中レップ(8-12レップ程度)で個別の筋肉に力を入れることを意識しつつ筋トレすると筋肥大が高まると考えられる。

競技パフォーマンスの観点からは、個別の筋肉をアイソレートして力を入れる癖をつけると、身体全体の運動パフォーマンスが低下する恐れがあるので注意したい。BIG3のパフォーマンスを上げたい場合も外部意識でトレーニングを行う方が良いだろう。

2/28/2018

維持カロリーを挟むダイエット方法

カロリーカットを続けるダイエット方法と、カロリーカットの間に維持カロリー期間を挟むダイエット方法を比較した研究。

Intermittent energy restriction improves weight loss efficiency in obese men: the MATADOR study
https://www.nature.com/articles/ijo2017206


★被験者
肥満の男性
BMI30–45
25-54歳



★ダイエット方法
2グループに分けて比較

a) カロリーカット継続グループ(CON) 19名
カロリーカットを16週間継続する。

b) カロリーカットと維持カロリー交互グループ(INT) 17名
カロリーカットを2週間、その次に維持カロリーを2週間、その次にカロリーカットを2週間・・・というダイエットを続ける。カロリーカット2週間×8回、維持カロリー2週間×7回。合計30週。

両グループともにダイエット前の4週間の調整期間(体重変動を見て維持カロリーを調整)と、ダイエット後の8週間の維持カロリー期間がある。

カロリーカット期間はどちらのグループも合計で16週間になる。一日あたりのカロリーカットの程度も同じなので、両グループともトータルで同じカロリーカット量のダイエットを行った。違いは維持カロリーの期間を挟むか挟まないか。



★摂取カロリー
カロリーカット期間は維持カロリーの67%を摂取する(33%のカロリーカット)。ダイエットが進むと安静時代謝が低下するので、それに合わせて摂取カロリーを調整する。安静時代謝はカロリーカット期間が4週間に達するごとに測定する。



★食事提供方法
大部分は研究者側で支給。追加の食べ物を研究者と相談の上で被験者が選択して摂取。



★マクロ栄養素
計画では、タンパク質15-20%、脂質25-30%、炭水化物50-60%。



★運動
特に言及されていない



★結果

グループごとの体重変化。交互グループ(INT)の方が体重が大きく減った。横軸の週数はカロリーカットを実施した週数で、継続グループ(CON)はカロリーカットを実施した週数イコール経過週数だけど、交互グループ(INT)は維持カロリー期間が挟まるので実際に経過した週数は約2倍になる。


交互グループのカロリーカット期間(ER)と維持カロリー期間(EB)における体重変化。維持カロリー期間では、カロリー調整が上手くいき体重変化が抑えられていることがわかる。



グループごとの除脂肪体重変動。両グループとも除脂肪体重の減少は抑えられている。


グループごとの体脂肪量変動。



両グループの安静時代謝の推移。両グループともダイエットが進むにつれて安静時代謝が低下している



除脂肪体重と体脂肪量の変化を考慮した安静時代謝。エネルギーを消費する体組織が減ればそのぶん安静時代謝も低下するが、体組織の減少以上に安静時代謝が低下する(つまり省エネ体質になる)ことがある。このグラフではそれを判断できる。結果は、交互グループ(INT)の方が除脂肪体重と体脂肪量の変化を考慮した安静時代謝の低下は小さくなっていて、リバウンドしにくいダイエットになっている。



ダイエット実験の終了後も含めた体重変化。交互グループ(INT)の方が体重のリバウンドが抑えられている。安静時代謝の低下が緩やかだったことが寄与していると考えられる。またダイエット中に維持カロリー期間を挟むことでメンタル面でのダイエット疲れが軽減されダイエット終了後の暴食が避けられたり、ダイエット終了後に維持カロリーの食生活に戻す時にどれくらい食べれば良いか経験済みで体重を維持しやすいといった要因もあると考えられる。



★コメント
カロリーカットと維持カロリーを交互に繰り返すダイエット方法の方が良い結果が出た。体重の減り方も、安静時代謝の低下も、ダイエット実験終了後のリバウンドも、どれもはっきり良い結果が出ている。

注意点としては、ダイエットにかけた期間に大きな差があるのであまりフェアな比較とは言えないこと。継続グループでも一日あたりのカロリーカットの幅を緩くして30週かけて減量すれば、安静時代謝の落ち込みは緩やかになるかもしれない。

ただそれでも交互グループのカロリーカット8週時点(14週経過)と継続グループの16週時点の体重減少量がほぼ同じで、維持カロリーを挟んでも同じ期間で同じくらい体重を減らせるという結果が出ている。

実践を考える場合も、維持カロリー期間でメンタル面での息抜きを入れていくと長期間のダイエットを続けやすいだろう。


★ダイエット休憩の実践
ダイエット中にカロリーカットを一旦中断して、摂取カロリーを増やすことをダイエット休憩と言う。(休憩は break を訳してるのだけど、日本語だとなかなか良い単語が見つからない)

ダイエット休憩の期間の長さは、2週間でかなり効果が出ている。論文では維持カロリー1-2週間で代謝低下が回復するかもと書かれているが、レファレンス先の論文の内容が関係なさそうで1週間という数字を出した根拠がよくわからない。

ボディメイクで減量を行う際は、カロリーカット4週間-6週間ごとに1-2週間の維持カロリー期間を入れるのが良いと思う。2週間ごとに維持カロリー期間を2週間入れると、減量完了まで時間がかかりすぎる。1週間では十分に回復しないかもしれないが、そこは時間効率との兼ね合い。

継続グループと交互グループの体重減少ペースの差は、4週間だと小さいけど8週間になると大きくなる。この研究の被験者はかなりの肥満なので、普通体型の人が減量する場合は8週間よりも前に体重減少ペースが低下するだろう。

個人的な経験でも8週間続けてのカロリーカットはメンタル的にもキツイし、体重が減らなくなってくるのでキツイ。目標の体重減少量が小さく(目安としては水分変動除いて体重5%以内の減量)、8週間程度で減量完了予定なら、維持カロリー期間無しでも良さそうだけど、目標の体重減少量が大きく長期的に減量を続けるなら、4週間-6週間のカロリーカットを続けたら1-2週間の維持カロリー期間を入れるのが良いと思う。

気をつけることは、ダイエット休憩中に好き放題に食べず、維持カロリーを守ること。他にもダイエット休憩を挟むダイエット方法の研究はいくつかあるけど、それらの研究では食事がコントロールされてなくて、ダイエット休憩をいれるダイエット方法の優位性があまり示されていない。この研究のようにカロリー管理をきちんすれば、ダイエット休憩が効果を上げると考えられる。


★管理された維持カロリー
筋トレを日常的に行っている人だと、減量中はグリコーゲンと水分が減っていて、リフィードではそれが一気に回復するので、維持カロリーであっても体重が2,3kg増えることも普通に起こる。

筋トレでグリコーゲンが枯渇している人なら、リフィード開始後1,2回の食事は炭水化物中心にオーバーカロリーしてもグリコーゲン補充に回されるので良いだろう。慎重に行うなら、減量前の維持カロリーから10%程度引いたカロリーをコンスタントに摂取するのが良いと思う。摂取しているカロリーが維持カロリーかどうかは、体重測定と過去の経験から判断するのが良いだろう。ダイエット休憩の開始後1,2日で体重が一気に増えて、その後体重変動が安定するならだいたい維持カロリーになっている。摂取カロリーが維持カロリーに満たないと代謝回復の効果が出にくいので、恐れずしっかり食べたほうが良い。



★ついでの雑感
ダイエット休憩については、Lyle McDonald の A Guide to Flexible Dieting という2005年の書籍に詳しく書かれている。Lyle McDonald の古い書籍は、今となっては古くなった研究の不完全なデータを使い、ある程度の推測で埋め合わせながらに書かれているのだけど、最近のより良い研究でその主旨の正しさが証明されるケースが見受けられて凄いなと思う。彼の凄さはマニアックに論文を漁っていることだけではなくて、ビッグピクチャーの把握の仕方。

エビデンスベースで栄養やトレーニングを語る人は増えてきているけど、これらの分野は研究がまだまだ不完全で、ビッグピクチャーの把握や経験などによる隙間の埋め合わせが不可欠で、その辺の能力差がエビデンスを上手く扱えるかどうかの差になるのだと思う。



関連記事:
減量時の食事調整例

減量ペースの違いによる体組成変化と運動パフォーマンス変化


1/26/2018

タンパク質の種類と筋肥大

現在主流の考えだと、長期的な筋肥大に重要なのはタンパク質の種類や摂取タイミングよりも一日のトータルのタンパク質摂取量で、ある程度のタンパク質摂取量を確保すれば、それ以上摂取しても筋肥大は高まらない。

関連記事:ゴールデンタイムはあるのか?

最新研究だと、
(1) A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28698222
タンパク質摂取量1.62g/kg/dayを超えると、追加でプロテインサプリメントを摂取しても筋肥大がさらに促進されるわけではないという結果。


しかし、へえ~と思った研究があったので、タンパク質の種類による筋肥大への影響の違いをちょっと調べてみました。

★ホエイとサテライト細胞
実験期間中の筋肥大に違いがあるかどうかだけでなく、長期的な筋肥大の差につながる可能性のあるサテライト細胞の増加に違いがあるかどうか、という視点。

(2) Effects of Whey, Soy or Leucine Supplementation with 12 Weeks of Resistance Training on Strength, Body Composition, and Skeletal Muscle and Adipose Tissue Histological Attributes in College-Aged Males
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5622732/
若い男性が12週間のレジスタンストレーニングを実施。サプリメントの内容が異なる5グループに分けて、レジスタンストレーニングの効果に違いが出るか調べた研究。

サプリメントは、プラシーボ(マルトデキストリン)、ロイシン、ホエイプロテイン・コンセントレイト、ホエイプロテイン・ハイドロリセート、ソイプロテイン・コンセントレイト。

プラシーボ以外のサプリメントの摂取量は、ロイシン含有量約3gで揃えられている。1回あたりの摂取量は、ホエイがタンパク質含有量約25g、ソイがタンパク質含有量約39g。これを1日2回摂取。

プラシーボグループ含めて、グループ間ではストレングスの伸び、及び全身の筋肉量と筋繊維の断面積の変化に有意差は出なかった。プラシーボグループでも除脂肪体重を考慮するとタンパク質摂取量がそれなりに多かったことから、サプリメントでタンパク質をさらに摂取しても筋肥大に差が出なかったと考えられる。

しかしサテライト細胞の数については違いが出ていて、プラシーボとロイシンはサテライト細胞の数が有意差なしだったが、ホエイプロテイン摂取の2グループはサテライト細胞が増えた。ソイは有意差有りには達しなかったが増える傾向があった。プラシーボとロイシンに比べて、ホエイとソイのグループはトータルのタンパク質摂取量が多くなっているので、これが影響した可能性もある。ただトータルのタンパク質摂取量はソイが最も多いけど、サテライト細胞の増加はソイよりもホエイの方が優位になっているので、タンパク質摂取量以外のファクターがある感じもする。
 
サテライト細胞の増加は筋肥大ポテンシャルの向上を示唆していると考えられる。実験期間中の筋肥大に差がなくても、サテライト細胞の数に差が出ていれば、長期的には筋肥大に差がつくかもしれない。

サテライト細胞の働きについては以下を参考に

関連記事:筋肥大のメカニズム

ホエイとプラシーボでサテライト細胞の増加に違いが出るかどうかを調べた研究は他にもいくつかあって、部分的にホエイ優位の結果か、もしくは有意差は無いけど傾向としてはわずかにホエイ優位という結果が出ている。これらの研究もホエイの方がプラシーボよりもトータルのタンパク質摂取量が多いので、ホエイの効果によるものなのか、タンパク質摂取量の違いによるものなのか、はっきりしない面もある。

以下の2つの研究でのホエイの摂取量は1日約20g

(3) Influence of exercise contraction mode and protein supplementation on human skeletal muscle satellite cell content and muscle fiber growth.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4280155/

(4) Protein Supplementation Does Not Affect Myogenic Adaptations to Resistance Training.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28346813/
https://www.utmb.edu/pepper/publications/2017%20Pubs/PMC5433887.pdf

差は微妙なものだと思われるが、プラシーボよりもホエイの方が不利になることはなさそうなので、筋肥大の最大化を目指す場合はホエイプロテインを飲むのが良いと思う。除脂肪体重約60kgの若い男性が1日あたりタンパク質含有量約50gのホエイプロテインを摂取した(2)の研究が、サテライト細胞の数にもっとも差が出ているので、実践する場合はこの量が目安になるだろう。


★肉・魚と筋肥大
(5) Effects of an omnivorous diet compared with a lactoovovegetarian diet on resistance-training-induced changes in body composition and skeletal muscle in older men.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10584048
http://ajcn.nutrition.org/content/70/6/1032.long

高齢者(51–69歳)が12週間のレジスタンストレーニングを実施。食事内容が異なる2グループに分けて、レジスタンストレーニングの効果に違いが出るか調べた研究。
片方のグループは、卵と乳製品は食べても良いベジタリアン食(ラクト・オボ・ベジタリアン)。もう片方は、肉でもなんでも食べる通常の食事(ここでの肉は魚も含む)。
被験者は両グループとも、実験前の食事では肉も魚も食べている。

結果は、通常の食事グループの方が筋肥大で良い結果が出ている。除脂肪体重はラクト・オボ・ベジタリアンが-0.8kg、通常食が+1.7kg。脚から採取した筋繊維は、タイプ1が変化無しで、タイプ2が両グループとも太くなったが、通常食の方がより太くなった(通常食+16.2%、ラクト・オボ・ベジタリアン+7.3%)。ストレングスの伸びはグループ間で有意差なしだけど、通常食の方がより伸びた傾向。

食事内容による筋肥大効果の違いがどのような要因によるものか推測すると、

1) 摂取タンパク質の量と質の違い
ラクト・オボ・ベジタリアングループの方がタンパク質摂取量と動物性タンパクの割合が低いので、それが筋肥大に悪影響を与えている可能性がある。ただグループ間でそれほど大きな差では無いし、高齢者がレジスタンストレーニングを行った関連研究ではラクト・オボ・ベジタリアン食だとタンパク質摂取量が1.6g/体重kg/dayでも筋肥大しなかったとのことなので、摂取タンパク質の違いは筋肥大の差にほとんど影響を与えていないのではと考えられる。

2) 亜鉛不足の可能性
ベジタリアン食は亜鉛が不足しやすい。亜鉛が不足すると筋合成に悪影響が出るようだ。
(6) Effects of magnesium and zinc deficiencies on growth and protein synthesis in skeletal muscle and the heart.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1772873

3) クレアチン不足
ラクト・オボ・ベジタリアングループは、食物からのクレアチン摂取量がほぼゼロになるので、筋肥大に悪影響が出ている可能性がある。またクレアチンローディングの逆で、水分が抜けて除脂肪体重が減っているのかもしれない。

関連記事:クレアチンについて

4) テストステロンレベル
今回の研究では計測していないが、もしかしたらラクト・オボ・ベジタリアングループはテストステロンレベルが低下していて、それが筋肥大に悪影響を与えた可能性がある。
(7) Serum sex hormones and endurance performance after a lacto-ovo vegetarian and a mixed diet.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1435181?dopt=Abstract

要因ははっきりしないし、現時点の科学で解明できない要因もあるのかもしれないけど、筋肥大の差はくっきり出ているので、筋肥大を目指すには肉・魚は食べたほうが良いと思われる。ベジタリアン食にこだわる場合は、サプリメントで亜鉛とクレアチンを摂取すると良さそう。

ちなみに健康面を考えるなら、赤身肉ばかり食べず、タンパク質源は分散させた方が良いだろう。

関連記事:低炭水化物食とタンパク質源の健康への影響


★ソイと筋肉のダメージ
(8) Soy Beverage Consumption by Young Men
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J133v03n01_03?journalCode=ijds19

(9) Four Weeks of Supplementation With Isolated Soy Protein Attenuates Exercise-Induced Muscle Damage and Enhances Muscle Recovery in Well Trained Athletes: A Randomized Trial.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5098124/

ソイプロテインの継続的な摂取で、ソイのもつ抗酸化作用により筋肉のダメージが軽減されるという研究がある。筋トレによる筋肉へのダメージを減らせれば、短いスパンで次のトレーニングを行うことが出来、長期的に良い結果を得られると考えられる。ただ一般的な日本人の食生活は欧米に比べて大豆製品の摂取量が多いので、追加でソイプロテインを摂取しても研究のような効果がないかもしれない。


★まとめ
実践面では、ホエイプロテインを摂取、肉と魚を食べる、トータルのタンパク質摂取量は1.6-2.0g/kg/day程度(維持カロリー以上摂取)というのが筋肥大効果を高めるタンパク質の摂取の仕方だと思う。豆製品も食べておくとトレーニング効率を高められるかもしれない。

関連記事:タンパク質摂取量の目安