3/02/2025

代謝ストレスによる筋肥大効果はあるのか

筋肥大をもたらす刺激には大きく分けて、「メカニカル(力学的)な負荷」「筋肉のダメージ」「代謝ストレス」の3つがあるというのが現在の主流の考えです。

関連記事:筋肥大をもたらす刺激(2019年版)

ただ、70-80%1RMの普通の筋トレに血流制限(BFR)で代謝ストレスを上乗せしても、筋肥大効果が増大するわけではないという研究がいくつか出ているので、今回の記事ではそれを紹介します。

基礎知識として、血流制限トレーニングは、腕や脚の付け根を圧迫して血液の流れを制限し、筋肉を酸欠状態にしてトレーニングする方法です。一般的には、20%1RMや30%1RMといった低強度で血流制限トレーニングが行われ、低強度・低ボリュームでも普通の筋トレと同等に筋肥大することが示されています。(血流制限をすると限界レップ数が低下するので、血流制限なしの低強度トレーニングよりも筋肥大に必要なボリュームは少なくなる。血流制限なしの低強度トレーニングも、限界までやれば普通の筋トレと同等に筋肥大するが、限界までのレップ数が多い)


研究

(1)~(3)の研究は、種目はいずれもレッグエクステンションです。

また、強度が高めの筋トレで血流制限をしっぱなしだと痛みが強いらしく、いずれの研究も、セット中のみ、もしくはインターバルのみ血流制限しています。


(1)Individual muscle hypertrophy in high-load resistance training with and without blood flow restriction: A near-infrared spectroscopy approach
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02640414.2024.2437588

被験者:トレーニング歴のない男性

種目:レッグエクステンション

頻度:週2回

期間:10週間

トレーニング内容:
- 10レップ@80%1RM
- 前半5週間は3セット
- 後半5週間は4セット
- セット間インターバルは1分

グループ分け:
被験者の片脚ずつを振り分け
-80%1RM 血流制限なし
-80%1RM 血流制限あり

血流制限はセット中のみ(インターバルでは外す)

トレーニングボリュームは揃えるようにした。

結果:
血流制限なしのほうが筋肥大した被験者もいれば、血流制限ありのほうが筋肥大した被験者もいたが、全体で見ればグループ間で筋肥大に差はなし。

近赤外線分光法で脱酸素ヘモグロビンを測定し、筋肉の酸欠度合い(=代謝ストレス)を比較。血流制限した脚は、筋肉が酸欠になっていて、普通の筋トレに比べて強い代謝ストレスがかかっていたと推測される。


(2)Effects of strength training and vascular occlusion
https://www.researchgate.net/publication/5637280_Effects_of_Strength_Training_and_Vascular_Occlusion

被験者:トレーニング歴のない男性

種目:レッグエクステンション

頻度:週2回

期間:8週間

トレーニング内容:
- 6RM、12RM
- 3~5セット
- セット間インターバルは120秒

グループ分け:
いずれのグループも、右脚を血流制限、左脚は何もつけない
セット中に血流制限、インターバルは外す

結果:
グループ間で筋力の伸びと筋肥大に差はなし


(3)Blood Flow Restriction Does Not Promote Additional Effects on Muscle Adaptations When Combined With High-Load Resistance Training Regardless of Blood Flow Restriction Protocol
https://journals.lww.com/nsca-jscr/fulltext/2021/05000/blood_flow_restriction_does_not_promote_additional.4.aspx

被験者:トレーニング歴のない男性

種目:レッグエクステンション

頻度:週2回

期間:8週間

トレーニング内容:
- 8レップ×3セット@70%1RM
- セット間インターバルは60秒

グループ分け:
被験者は、片足が「HL-RT:血流制限なし」で、もう片足がBFR-IもしくはBFR-C。
- HL-RT:血流制限なし
- BFR-I:セット間インターバルのみ血流制限(セット中は血流制限機器を外す)
- BFR-C:セット中のみ血流制限制限(インターバルでは血流制限機器を外す)

結果:
筋肥大、筋力ともにグループ間で差は無し。血中乳酸塩濃度は、BFR-Iが他のグループよりも高くなった。



コメント

血流制限をすると、低強度・低ボリュームでも筋肥大する想定メカニズムは、以下だと推測されています。

血流制限で筋肉が酸欠
→遅筋が早々にギブアップ→(サイズの原理で低強度では動員されにくい)速筋も動員されて筋繊維の動員率が高まる→筋肥大刺激?
→解糖系がガンガン使われる→乳酸塩などの代謝物が溜まる→筋肥大刺激?


ただ、70%-80%1RMといったそれなりに重たい重量での普通の筋トレだと、血流制限を行って代謝ストレスを加えても、筋肥大効果が高まるわけではありません。理由は、いくつかの仮説が考えられ、

・代謝ストレスに筋肥大効果は無い、もしくは非常に小さい。低強度の血流制限トレーニングは、代謝ストレスで筋肥大してるのではなくて、遅筋が早々にギブアップして筋繊維の動員率が高まる(筋繊維全体にメカニカルな負荷がかかっている)ことから筋肥大が起こっている。

・代謝ストレスにもそれなりに筋肥大効果はあるが、70-80%1RMといった強度の筋トレでは強いメカニカルな負荷がかかり、またこの強度だとセット中は筋肉の収縮自体で血流が制限されるため、代謝ストレスもそれなりに入っている。つまり、すでに十分な筋肥大刺激が入っていて、血流制限で多少の代謝ストレスを上乗せしても筋肥大効果が増大しない。

・70%や80%1RMといった強度の実験ではレップ数が少なく、またセット中とインターバルを通して血流制限を行っているわけではないので、筋肥大に必要なレベルの代謝ストレスがかかっていない。


実践面では、

・70-80%1RMの強度の普通の筋トレでは、血流制限で代謝ストレスを加えても、筋肥大効果は変わりません。普通の筋トレをする人には、血流制限トレーニングは不要でしょう。

・低強度・低ボリュームの血流制限トレーニングは、70-80%1RMといった強度の普通の筋トレと同等に筋肥大します。関節に不安のある場合は、低強度での血流制限トレーニングは良い選択肢です。

・代謝ストレスに筋肥大効果があるのかはわかりませんが、一般的に代謝ストレス狙いの(血流制限をしない)高レップトレーニングは、ミトコンドリアの増加や筋グリコーゲン貯蔵量の増加などによる筋形質の肥大の可能性があるので、仮に代謝ストレスによる筋肥大効果が否定されたとしても、「低レップ~中レップで筋原線維の肥大 & 高レップで筋形質の肥大」を目指す筋肥大最大化戦略は否定されない。


関連記事:筋形質の肥大についての研究


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