1/06/2021

筋トレでの腹圧の高め方・体幹の固め方

腹圧は腹腔内圧のことで、胴体の横隔膜より下にある内臓などが詰まってる部分(腹腔)の圧力です。正確には、骨盤内部の部分は骨盤腔になりますが、腹腔と骨盤腔の間に仕切りがあるわけではないので、腹腔と骨盤腔をまとめて大きな水風船みたいなものだと考えるとわかりやすいです。下図のピンク色の部分がそれにあたります。
筋トレではよく、腹圧を高めることで体幹を固め、腰の怪我を防ぐと言われますが、これはどういうことなのか説明していきます。




呼吸と腹圧

下図のように横隔膜が収縮すると肺が広がって空気が吸い込まれ、同時に横隔膜が腹腔を押し下げることで腹圧が高まります。呼吸には他にもいくつか筋肉が関わりますが、腹圧との関係では横隔膜が重要な働きをするので、ここでは横隔膜のみ考えます。



腹圧に関わる筋肉

インナーマッスル、アウターマッスルという表現は、筋肉のカテゴライズの観点からあまり意味を感じないので好きではないですが、身体イメージを作る時に便利なのでここでは使います。

・インナー
骨盤底筋群、多裂筋、横隔膜、腹横筋

・アウター
腹直筋、内外腹斜筋、脊柱起立筋

順番に図で説明していきます。まず、腹腔+骨盤腔の水風船をイメージします。

 

背骨の後ろ側に多裂筋がついていて水風船の後ろ側を支え、骨盤に骨盤底筋群がついていて水風船の下側を支えています。

 

肺の下側、腹腔の上側に横隔膜があり、横隔膜が収縮すると腹腔を押し下げて腹圧が高まります。

 

脇腹をぐるりと囲むように腹横筋がついています。腹横筋が収縮すると腹腔をコルセットのように締め付け、腹圧が高まります。

 

骨盤底筋群、多裂筋、横隔膜、腹横筋をまとめて描いたものです。腹腔+骨盤腔の水風船を上下前後左右から、各筋肉が覆っています。

 

横隔膜と腹横筋は、練習すれば意識して収縮させられるようになります。筋トレ時の腹圧でコントロールしたインナーの筋肉は、横隔膜と腹横筋です。デッドリフトなどで体幹を強く固める時は、横隔膜と腹横筋を意識して収縮させて腹圧を高めます。日常動作などの軽い負荷だと、意識しなくても自動的に適切な強さで収縮し、腹圧を適度に高めます(これが自動的にできないと腰痛やぎっくり腰になります)。

多裂筋と骨盤底筋群は筋トレ時に意識するのは難しいです。身体機能が正常なら、腹圧をかけると自動的に受動的に反応してくれます。骨盤底筋群は、腹圧をかけたときに緩んでいると便が漏れそうになります。正常なら腹圧の高まりに自動的に反応すると思いますが、できない場合は、骨盤底筋群のトレーニングをすると良いでしょう。


次にアウターの、腹直筋、内外腹斜筋、脊柱起立筋の図です。内腹斜筋と外腹斜筋は体幹の動きを作る時はそれぞれ違った働きをしますが、ここでは体幹をアイソメトリックで固めることのみ考えるので、内腹斜筋と外腹斜筋をまとめています。

 

イメージとしては、アウターの筋肉は硬い鎧です。横隔膜が腹腔を押し下げた時に、外側を硬い鎧で覆うことで水風船の逃げ場をなくし、さらに腹圧を高めます。アウターの筋肉は、インナーの筋肉のように腹腔を直接圧迫することはできませんが、インナーの筋肉の圧迫による腹腔の変形を抑え込むことで腹圧を高めることができます。従って、腹直筋だけ力を入れても腹圧は高まらず、体幹が固まりません。まず横隔膜で腹腔を押し下げることが必要です。それと次で説明しますが、アウターの筋肉は胴体を前後左右から引っ張ることで体幹を安定させる働きもあります。



なぜ体幹が固まるのか

お腹周りの筋肉に力を入れるとなぜ体幹が固まるのか、仕組みの比喩としては2つあります。

(1) 未開封のペットボトル(炭酸)

炭酸飲料の未開封のペットボトルは固いですよね。液体で内部を満たし周囲を固い壁で覆いながら、高い圧力をかけているため固くなっています。これと同じように、筋肉の固い壁で覆いながら腹腔に強い力を加えることで腹圧が高まり、体幹が固まります。





(2) 船のマスト

マストは前後左右からロープ(ステイとシュラウド)で引っ張って安定させているのですが、それと同じように胴体を腹直筋や内外腹斜筋や脊柱起立筋で前後左右からアイソメトリックで引っ張って体幹を安定させます。ちなみにこのようなロープのことを一般的には支線(guy-wire)と呼びます。



 

 

腹圧の高低と体幹の固め方の使い分け

どのような状況でもインナーとアウターの筋肉を強く収縮させて、腹圧を限界まで高める必要があるかというと、そういうわけではありません。状況によって、腹圧の高低と体幹の固め方を調整していくのが望ましいです。

重たいバーベルを使ってのデッドリフトやスクワットは、ペットボトル機能とマスト機能の両方の仕組みを使ったほうが良いです。これらの種目では、外部から体幹に強い負荷(せん断力と圧縮力)がかかります。デッドリフトやスクワットでは息を止め、インナーの筋肉だけでなくアウターの筋肉にも力を入れて体幹を強く固めます。腹直筋、内外腹斜筋が強く収縮するので、お腹は出ないです。腹式呼吸のように意図的にお腹をぽっこり出すやり方でもなく、ドローインのようにお腹を凹ませるやり方でもなく、お腹はほぼニュートラル、もしくは腹圧が非常に高まることで、アウターでは抑えきれずに少し出るくらいです。

 

下の動画は高重量でのデッドリフトです。体脂肪が乗っているのと、体幹の筋肉が発達していて寸胴体型になっているのとで少しわかりにくいですが、体幹を固める前の直立時に比べて、体幹を固めた後でもお腹が突き出たり凹んだりはしていません。

Brandon Lilly 770 Deadlift, Raw/No Belt (15 lbs. PR since Animal Cage)
https://www.youtube.com/watch?v=vEq-Zb_dM8E


こちらはスクワット。
Lu Xiaojun 🇨🇳 255kg / 562lbs x3 Squat Session 2018 World Championships Training Hall [4k]
https://www.youtube.com/watch?v=q4GP-Kithpo



一方で、レッグプレスや自重スクワットなどの種目は体幹に外部から強い力がかからないので、マスト機能はあまり必要ありません。ペットボトル機能もそこまでシビアにやらなくて大丈夫です。おそらくある程度お腹が出るようにしながら腹圧をかけるとやりやすいと思います。踏み込んだ時に骨盤と腰椎が安定すればOKです。
お腹が出ないように腹直筋を強く収縮させると、背骨が曲がる方向に力が加わります。それを打ち消して姿勢を保つために、脊柱起立筋も同時に収縮する必要が出てきます。外部から体幹に強い力が加わらない状況ではマスト機能は必要なく、腹直筋や脊柱起立筋を強く収縮させても無駄に疲れるだけです。従って、腹腔の膨らみが腹直筋などであまり抑え込まれず、結果としてお腹が出ます。(結果としてお腹が出るのであって、お腹を意識して出すわけではないです)

ロードレーサーが腹圧でお腹が出ているという話がありますが、体幹に外部から強い力がかからず、踏み込みが必要な場合は、腹直筋にあまり力を入れず腹圧をかけるのでお腹が出るのでしょう。



どうやって腹圧を高め、体幹を鍛えれば良いのか

筋トレで体幹に求められる働きは、下半身で生み出した力を上半身に伝えたり、体幹に強い力がかかる状況でも背骨をニュートラルポジションにキープして怪我を防いだりすることです。

体操やフィギュアスケートなど、背骨がニュートラルポジションから外れた状態で負荷をかける競技をおこなっているなら、競技に合わせた体幹トレーニングをしたほうが良いと思いますが、普通の筋トレなら背骨をニュートラルポジションで固める練習だけで大丈夫です。

従って、アイソメトリックトレーニングで体幹を鍛えるのが実践的です。クランチやバックエクステンションなどの種目は、体幹を固めるトレーニングという観点ではあまり意味がないです。



具体的なやり方

ステップ1:姿勢矯正
姿勢が崩れていると腹腔の形が変わり、横隔膜や腹横筋を収縮させて腹圧を高めようとしても、圧力が抜けやすくなります。また、マスト機能の面でも、腰が反っていたり猫背になっていたりすると、体幹を安定させにくくなります。

姿勢の悪さにはいくつも種類がありますが、熱心に筋トレをする人にありがちな症状を矯正するやり方の一例を。

関連記事:タイプ別の姿勢矯正方法


ステップ2:お腹周りの筋肉の意識と腹圧を高める感覚の習得
姿勢が正常になったら、お腹周りの筋肉を意識できるようにします。


<All Fours Belly Lift>



(1) 床に手と膝をついて、四つん這いになります。

(2) 顎を引き、口から息をゆっくり限界まで吐き出して、肋骨を締めます。同時に背中を丸めながら、骨盤を後傾させ、お尻(臀筋)に力を入れます。腰が伸びるのを感じると思います。恥骨と肋骨を近づけるイメージでおこなうと良いでしょう。息を吐ききった後は、そのまま2,3秒間息を止めます。腕は、肘を伸ばして手を開いて床を押します。特に親指と人差し指で押すようにし、手で床をつかむイメージで押します。

(3) その姿勢を維持したまま、鼻から息を吸い込ます。上背部の、肩甲骨の下あたりを膨らませるイメージでおこないます。

(4) 再び口から息を限界まで吐き出し、さらに背中を丸めていきます。息を吐き出すたびに少しずつ背中が丸まるよう頑張ります。

(5) 息を吸って吐くのを4,5回繰り返します。これで1セットです。合計2,3セットおこなうと良いでしょう。

このエクササイズの狙いは、背中側の筋肉の緊張を取って背中の反りを矯正する、肋骨を下げる、横隔膜や腹横筋を意識しやすくする、上背部を膨らませられるようにすることです。正常な姿勢のためにも、スクワットやデッドリフトに必要な強い体幹を作るためにも、息を吸った時に上背部(胸椎のあたり)を膨らませられることは重要です。

 

<90/90 Hip Lift>


(1) 床に仰向けに寝て、膝と股関節を90度に曲げます。足をベンチなどに乗せるか、足裏を壁に付けるかします。

(2) 両膝の間に直径20cm程度のボールやフォームローラーなど、適当なものを挟みます。手近な物が無い場合は、両腕を前に出して両手で握りこぶしを作り、それを挟むのでも良いでしょう。

(3) 踵を下方向に軽く押して、お尻(臀筋)と太ももの裏(ハムストリングス)と内股(内転筋)に軽く力を入れ、尾てい骨を少し浮かせます。骨盤が後傾し、腰椎が平らになって、腰の部分がぺったり床につくようにします。首には力を入れません。柔軟性の問題で首がつらい場合は、後頭部の下に折り畳んだタオルなどを置くと良いでしょう。腕は力を入れず、適当な位置に置いておきます。

(4) 鼻から息を吸って、口から息を深く吐き出します。息を吸う時は、肋骨の下端やみぞおちのあたりが膨らむように吸い込みます。吸い込む息の量の目安は、限界の75%程度です。吐き出す際は限界まで吐き切ります。3-4秒かけて吸い込んで、5-8秒かけて吐き出して、息を吐ききった状態で2-3秒止めます。これを4-5回繰り返します。

(5) お腹の前側の腹直筋だけでなく、脇腹の腹斜筋のあたりも収縮し、肋骨が締まればうまくできています。鏡や窓ガラスに顔を近づけて、「はー」と息を吐きかけて曇らせる時のイメージで息を吐くと感覚をつかみやすいです。クランチのように上半身を丸めないようにします。

(6) 息を吸って吐く動作に慣れてきたら、今度は肋骨を締めた状態をキープしながら、鼻からある程度息を吸って肺に空気を入れます。この時、息を止めたまま全力で叫ぼうとすると(実際には声は出しません)、腹圧が高まる感覚をつかみやすいです。この腹圧を高めた状態で息を止め、上の歯と下の歯を合わせて、舌を口蓋(口の中の上の部分)にベタッと押し付けると、体幹を非常に強く固めることができます。スクワットやデッドリフトなどで重たい重量を扱う時は、このやり方で体幹を強く固めると良いでしょう。


私はこのやり方がお腹周りの筋肉を意識し、腹圧を高める感覚を得るのに向いていると思うのですが、他に今回探してみていいなと思ったのは、脇腹に親指を押し当てて、腹圧で押し返す練習です。動画では呼吸しながらと言っていますが、喉を締めて息止めながら、腹圧を高めて親指を押しかえすほうが私はやりやすかったです。
 

腹圧の高め方
https://www.youtube.com/watch?v=41yAUVsk1jk




ステップ3:動作に合わせてのアウターとインナーの協調
最初は軽い負荷で、動作に合わせてアウターとインナーが協調し、適切な強さで体幹を固められるように練習します。エクササイズ例をいくつか紹介します。

・デッドバグ
腰椎フラットで腰が床に付くように。肋骨をタイトにしたまま。背中側の筋肉が緊張して背中が反っていると、肋骨が開いたり腹腔の形が変わったりして、横隔膜やお腹側の筋肉が使いにくくなります。腰椎フラットにして背中側の筋肉をシャットオフしたほうが良いです。

HighPerformanceHandbook.com: Dead Bug
https://www.youtube.com/watch?v=rbemelnkHag




・ベアクロール
これも腰椎フラットでやります。ベアクロールは前鋸筋に刺激が入るので、肩周りのケアにもなります。デッドリフトもスクワットもベンチプレスもロウ・プルも、背中の筋肉を緊張させて背中を反りやすくさせるので、トレーニングの最後にAll Fours Belly Lift、デッドバグ、ベアクロールをやっておくと身体のバランスを良好に保ちやすいです。
Exercise: Bear Crawl
https://www.youtube.com/watch?v=Wgt1vdZ_YYk




・ゴブレットスクワット
ダンベルでもケトルベルでも米袋でも適当な重さのものを抱えて。


・ダンベルデッドリフト
ダンベルを床に縦に置いて持ち上げるやり方がおすすめです。一回一回ダンベルを床に置いて、エキセントリックフェーズ無しに体幹を固めて持ち上げる練習をします。



ステップ4:負荷を上げる
あとはバーベルに移行してスクワットやデッドリフトの負荷を上げたり、デッドバグも足に重りをつけるなどして負荷を上げていけば、筋トレに必要な体幹は鍛えられます。

ベルトを付けずにスクワットやデッドリフトをする場合の息の入れ方は、なるべく肩を上げないようにしながら、肋骨の下端あたりを水平方向に360°膨らませます。



こうして息を入れてから、お腹周りの筋肉を収縮させて体幹を固めると、胸椎も固定しやすくなります。これらの種目はバーベルの力が肩の付近に加わるので、腰椎(下背部)だけでなく胸椎(上背部)の姿勢維持も重要です。胸椎が固まっていないと、まず胸椎が曲がって、それから腰椎も続けて曲がってフォームが崩れやすくなります。なので、お腹をぽこんと膨らませる腹式呼吸のイメージで空気を入れるのは、胸椎が固まりにくいためスクワットやデッドリフトにはあまり向いていません。

デッドリフトのセットアップが苦手な人は、直立時に腕を前に出してある程度(MAXの5割くらい)体幹を固めてからバーを握るとやりやすいかもしれません。このやり方はもともとEric Cresseyの動画で知ったのですが、先程のデッドリフトの動画や下の動画のようにトップレベルのパワーリフターでもやっている人がいます。

John Haack: 629x2x2 Deadlift at 187lbs bodyweight
https://www.youtube.com/watch?v=HHAGWB0laDw


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