4/19/2019

セーフティスクワットバーとバックスクワットの比較

A Comparison of Back Squat & Safety Squat Bar on Measures of Strength, Speed, and Power in NCAA Division I Baseball Players
http://article.sapub.org/10.5923.j.sports.20180805.01.html
バックスクワットとセーフティスクワットバーでトレーニングを続けた際の運動パフォーマンスへの影響を比較した研究


★背景
スクワットは下半身の強化に効果的なトレーニング種目だが、ストレートバーでのバックスクワットは肩や肘に負担がかかる。特に野球の投手は、投球時に肩関節の水平外転+外旋でのポジションで強い負荷をかけているため、それに近いポジションでバーを握るバックスクワットは肩にさらなる負担をかけることになる。

セーフティスクワットバーは肩関節への負荷が小さいが、気になるのはバックスクワットに比べてトレーニング効果が十分にあるのかどうか。もしセーフティスクワットバーで十分なトレーニング効果を得ることが出来るのなら、バックスクワットの代わりにセーフティスクワットバーでのスクワットを行うことで肩に負担をかけずスクワットのメリットを得ることが出来る。




★被験者
大学の野球選手で男性のみ。平均年齢19歳。NCAA Division 1 と書かれているのでエリートアスリートと思われる。


★グループ分け
- バックスクワットグループ:投手以外の選手14名
- セーフティスクワットバーグループ:投手のみ14名

グループ分けがランダムではないのでエビデンスレベルは通常のRCTより低くなる。体格はセーフティスクワットバーグループのほうがやや大きい。

被験者の年齢と体格。BSがバックスクワットグループ、SSBがセーフティスクワットバーグループ。


★トレーニング期間
9週間


★トレーニング内容
- トレーニングは週2回。
- 1日目がスクワットメインの日で、グループ分けに従ってバックスクワットかセーフティスクワットバーでのスクワットを行う。あとグループ共通の補助種目。
- 2日目はルーマニアンデッドリフト・ヘックスバー(トラップバー)デッドリフトをメインに補助種目色々。グループ間で同じトレーニング内容。

主旨からは外れるけど、補助種目がアスリート向けって感じで良い。床引きデッドリフトはテクニックの習得に時間がかかるし、股関節の骨のかみ合わせの問題でどうやっても出来ない人もいるので、RDLやトラップバーを使うのは良い選択。片脚種目が多いのも良い。プッシュ・プレス系は肩甲骨を動かす種目になっているし、体幹種目はpallofプレスやメディシンボールを使っている(野球は捻り方向の負荷が体幹にかかるのでそれを鍛えている)。


★運動パフォーマンス測定
以下の3つについてパフォーマンスを測定。スクワット1RMは複数レップのマックスから推定。
- 54.86m走(60ヤード走)
- 垂直跳び
- スクワット1RM(バックスクワットグループはバックスクワットで測定、セーフティスクワットバーグループはセーフティスクワットバーで測定)


★結果
実験前後の比較では、両グループとも同程度の運動パフォーマンス向上が得られた。具体的には、垂直跳びとスクワット1RMは両グループとも実験前後で有意にパフォーマンス向上。54.86m走は両グループともタイムが縮まったが実験前後で有意差は無し(効果量は小~中程度)。

グループ間のパフォーマンス向上の比較では、垂直跳びと54.86m走は有意差なし。スクワットはセーフティスクワットバーグループのほうが有意に向上。開始時点でセーフティスクワットバーグループのほうが体重が重くてスクワット1RMが低かったので、伸びやすかったのかもしれない。


★まとめ
肩を酷使する競技を行っていたり、肩に痛みがあったり、肩関節が緩んで不安定になっている人にとって、セーフティスクワットバーは肩関節への負担を小さくしつつ、バックスクワットと遜色のないトレーニング効果を得ることのできる有用なトレーニング種目と考えられる。また関連記事でも書いたようにバックスクワットは技術的に難しいので、バックスクワットを専門にやらない人にとっては、セーフティスクワットバーを使うことでテクニックの習得にかかる時間と労力を減らすことが出来、butt winkになりにくくなることで怪我のリスクを下げられると思われる。

パワーリフティングスタイルのスクワットに慣れている人は、セーフティスクワットバーだと扱える重量が下がると思う。動作に不慣れなのと、ロウバースクワットに比べて上体が起きることで重量が落ちる(ハイバーやフロントスクワットに近い身体の使い方になる)。慣れればある程度は重量が近づくと思うけど、多くの人がロウバースクワットのほうがハイバースクワットやフロントスクワットよりも高重量を扱えるので、上体が起きている分の差は無くならないだろう。

Effects of the Safety Squat Bar on Trunk and Lower-Body Mechanics During a Back Squat.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30363042
パワーリフティングの選手を被験者にして、ストレートバーでのバックスクワットとセーフティスクワットバーでのスクワットを行い、挙上重量および各筋肉のEMG測定を行った研究。セーフティスクワットバーのほうが重量が下がり、腹直筋やハムストリングスや外側広筋の活動レベルが低下した。

競技としてスクワットをしている人はセーフティスクワットバーでのスクワットをやるかどうかは考えたほうが良さそう。それ以外の人は、セーフティスクワットバーのほうがメリットが多い。ロウバースクワットに比べると股関節伸展を行う筋肉への負荷が少し下がると考えられるが、デッドリフト系種目で補完すれば良いだろう。


関連記事:
butt winkの話

バックスクワットでのバーベルの担ぎ方