バックスクワットにはハイバースクワットとロウバースクワットの2種類がある。一般的に認識されているハイバースクワットとロウバースクワットの大まかな特徴を書くと、
・ハイバースクワット
- 僧帽筋上部にバーを乗せる。高い位置にバーを担ぐので high bar。
- しゃがんた時に上体はあまり傾かず、膝が前に出る。
- 大腿四頭筋に負荷をかけやすい。
・ロウバースクワット
- 三角筋後部にバーを乗せる。低い位置にバーを担ぐので low bar。
- しゃがんだときに上体は傾き、膝はあまり前に出ない。
- 臀筋や脊柱起立筋群に負荷をかけやすい。
ただ、担ぐ位置とフォームに厳密な定義があるわけではなくて、その人の肩周りの柔軟性や骨格によって、担ぎやすい位置とフォームは少しずつ変わってくる。ハイバースクワットでもある程度上体を傾けることも出来るし、ロウバースクワットでもバーが後ろに転がり落ちない範囲で、膝を前に出してある程度上体を立てることも出来る。
★バーの担ぎかた
一般的に担ぎやすいやり方はあるけど、つまるところ安全にバーベルを担げれば何でも良い。スクワットでの膝関節と股関節と体幹の使い方と鍛えられる筋肉は、日常生活にもスポーツにも大いに役立つが、バーを担ぐテクニックはスクワットにしか役に立たないので、安全であればやりやすいやり方で良い。
一般的に安全に担ぎやすくなるポイントとしては、
- 肩甲骨を寄せ上背部を固める。
- 肘は下方向へ、内側へ。肘を脇腹に近づけるイメージでやると上背部を固めつつバーを固定しやすい。
- バーベルを握る手幅を狭くしたほうが上背部は固めやすいが、肘や手首が痛くならない範囲で行う。
- バーの負荷が首にいかないようにする。バーの負荷は胴体で受け止めること。
- バーは筋肉に乗せる。骨にゴリゴリ当たらないようにする。
- 腕力でバーベルの重さを支えない。
以下、ハイバースクワットとロウバースクワットの担ぎ方を、具体的に見ていく。
★ハイバースクワットの担ぎ方
足首の柔軟性と、胴体に対しての大腿骨の長さによって、しゃがんだ時にどれくらい上体が傾くかが違ってくる。足首の柔軟性があり大腿骨が短いと、上体の傾きは小さくなる。足首の柔軟性があまり無くて膝が前に出ず、胴体に比べて大腿骨が長いと、上体はある程度傾かざるを得ない。
◇上体がほとんど傾かない人は、僧帽筋上部の上に乗せると良い。
動画:Lu Xiaojun 🇨🇳 255kg / 562lbs x3 Squat Session 2018 World Championships Training Hall [4k]
1:25~のスクワットが僧帽筋上部の上に乗せているのがわかりやすい。
◇上体がある程度傾く人は、僧帽筋上部の中程に乗せると良い。僧帽筋上部の上に乗せて上体を傾けると、バーベルの負荷が首に行く。あと頚椎の一番下の骨(C7)の出っ張りにバーが当たって痛いと思う。
動画:280kg/617lbs ATG Squat for a Triple! - Training with Zack Telander
2:25~のスクワットが実例。僧帽筋上部の中程に乗せているのがわかる。
いったん肩甲骨を寄せて上げると、僧帽筋上部を厚くしてクッションにしやすい(スクワット動作に入るときは肩甲骨を下げる)。僧帽筋上部を筋収縮によってどれくらい固くするかは、個人の好みでやりやすいやり方で行う。僧帽筋上部がバーの圧力で痛い場合や、筋肉量が少なくて骨に当たってしまう場合は、無理せずスクワットパッドを使うのが良いだろう。スクワットパッドを使う場合も、バーベルの負荷が首にいかないように注意する。上体が傾く場合は担ぐ位置を少し下にする。スクワットパッドの厚みのぶん、バーの重心は上に移動し、上体が傾くと首に負担が行きやすくなるので注意する。スクワットパッドを使いたくないなら、僧帽筋上部の筋肉量を増やし、筋肉が圧迫される痛みに慣れるしかない。
ハイバースクワットはロウバースクワットに比べて、肩周りの柔軟性があまり必要とされず、肘・肩・手首への負担が小さい。
★ロウバースクワットの担ぎ方
三角筋後部に乗せる。肩甲骨にバーがゴリゴリ当たらないようにする。筋肉をクッションにすれば痛みは出にくい。三角筋後部の筋肉量が少し足りない場合は、肘を後ろにグイと上げると三角筋後部の肉が盛り上がってバーを乗せやすくなる。だがそうすると胸椎が丸まりやすくなるので、肩周りの柔軟性との兼ね合いで、背骨の姿勢をニュートラルに保てる範囲で肘を後ろにグイと上げる。ロウバーでスクワットパッドを使うとバーが転がりやすくなるので使わないほうが良いと思う。
ロウバースクワットは肩周りの柔軟性が必要で、柔軟性が足りないと肘や手首や肩が痛くなることがある。手首を伸ばし、サムレスでバーを押さえる感じにすると肘や手首や肩への負担が小さくなる。
動画:Low Bar Squat : Rack Position / Shoulder Warm-Up
4:00~がサムレスでのバーの握り方の実例
肩や肘や手首が痛くなったり、三角筋後部の筋肉量が少なくてバーがうまく乗せられない場合は、ハイバースクワットをするかゴブレットスクワットをすると良いと思う。股関節の伸展動作をメインに鍛えたいなら、デッドリフト系の種目という選択肢もある。
★僧帽筋上部の上に乗せながら尻を後ろに引く
ハイバースクワットの位置でバーを担ぎながら、膝を前に出さず尻を後ろに引くと、上体が大きく傾いて首に負荷がかかりやすい。危ないのでこのやり方は避けたほうが良い。
★肩周りの柔軟性が足りない場合
以下のストレッチやエクササイズをやっておくと良いでしょう。
★バーベルの重量による違い
上体がどれだけ傾くかは、バーベルの重量も影響する。上の絵では便宜的に、足の真上にバーベルが来るように描いたが、実際にこれで重心のバランスが取れるのは、バーベルが非常に重い場合だけ。バーベルが軽いと、後ろに突き出た胴体や尻や大腿部の重さと釣り合わせるため、上体を傾けて頭部とバーベルを前に出す必要がある。
普通の人は非常に重いバーベルを担げないので、上に書いた図よりも上体は傾くことになる。ハイバーで担ぐときは首に負荷がいかないよう注意しないといけない。
★フォームに合った担ぎ方の必要性
運動歴の浅い人にパーソナルトレーナーが無理してバックスクワットをやらせているのをよく見かける(今回の記事を書くきっかけはそれが気になったから)。だいたいがへっぴり腰か、極端に広いスタンス。背中の柔軟性がある若い女性だと背中が大きく反っているケースもある。なぜそうなるのか説明していく。
◇へっぴり腰
へっぴり腰になるのはバックスクワットに慣れてないせいもあるだろうけど、ハイバーの高い位置で担ぎながら尻を後ろに引くことで上体が傾き、首に負荷がいくようになり、身体が怖がって上手くしゃがめなくなっているからだと思われる。膝を前に出さないことを意識しすぎると上体が傾く、上体が傾くとバーの負荷が首にかかる、そうすると怖くてしゃがめなくなる。
◇極端に広いスタンス
スタンスを広くすると、横から見た際の大腿骨の長さが短くなって、上体を立てることが出来る。こうすることで上体を立てながら膝を前に出さないスクワットができる。股関節の柔軟性が必要とされ、ちゃんと開脚できないと膝が内側に入って怪我しやすくなるので注意が必要。
普通のスタンスでスクワットをするのに比べると内転筋の負荷が上がる。大腿四頭筋や臀筋群が最大に発揮する筋力は、普通のスクワットと同程度と考えられるが、極端に広いスタンスだと深くしゃがむことが困難なため、動作範囲が狭くなり筋肥大効果は劣るかもしれない。ストレングスの観点からは、広いスタンスで力を発揮する必要のある競技(相撲など)を行っているなら広いスタンスでスクワットをするのも良いと思う。日常動作やスポーツへの汎用的な効果を考えるなら普通のスタンスのほうが良いだろう。
◇背中を大きく反らせる。
背中を大きく反らせればハイバーで担いでも首に負荷がいかず、なおかつ膝を前に出さない股関節メインのスクワットも出来る。butt winkの話で書いたように、背中を過度に伸展させたフォームは身体機能の面からも怪我リスクの面からもメリットが無いと思う。
★バックスクワットは難しい
スクワットの膝関節と股関節の動作は、日常で使う動作なので上手く行うのは難しくはない。バーを上背部に担ぎながらスクワットをするのが難しい。butt winkの話で書いたように、胸が開きやすいという問題点もある。負荷が足りるなら、無理してバックスクワットをするよりもゴブレットスクワットをしたほうが良い。ゴブレットスクワットだと負荷が足りず、バックスクワットしか選択肢が無い場合は、バーを担ぐ位置と上体の傾きが安全な組み合わせになるように意識してバックスクワットを行う。
(競技としてスクワットを行っている人以外が)スクワットの負荷を上げたい場合は、セーフティスクワットバーがベストだと思う。首に負荷が行きにくく、肘や肩や手首に無駄な負担がかからず、胸が開かないので体幹に力を入れやすい。ただ普通のジムにはなかなか置いてない。セーフティスクワットバーがもっと普及すると良いなと思う。
動画:How to Use a Safety Squat Bar with Steve Slater
セーフティスクワットバーは yoke bar とも呼ばれる。yoke(くびき)に似ているから。
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スクワットの深さ
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