前回の記事:BIG3を軸としたトレーニングプログラムの考え方1回目:3つのモデル
実際のトレーニングプログラムを例に挙げながら、シンプルなプログラムから複雑なプログラムへの移行を説明します。
リニア・プログレッション
初心者向けのプログラムで、トレーニングセッションごとに重量を少しずつ増やし、直線的に負荷を上げていくトレーニングプログラムです。直線的に(リニア)、進歩(プログレッション)していくという意味です。リニア・ピリオダイゼーションと混同しやすいので注意です。ピリオダイゼーションは、期分けという意味です。
トレーニング初心者は小さい刺激で大きな反応を得られるため、毎回のように重量を増やしていくことが可能です。実際のトレーニングプログラムを見ていきます。
◆The Starting Strength Novice Program◆
週3回トレーニングで、トレーニング間隔を最低1日は空けます(例えば月水金)。毎回スクワットとベンチプレス(もしくはOHP:オーバーヘッドプレス)を5レップ×3セット実施。デッドリフトは5レップ×1セットで、最初は毎回ですが、回復を確保するため途中から頻度を下げていきます。重量は毎回増やします。
The Starting Strength Program
https://startingstrength.com/get-started/programs
◆StrongLifts 5×5◆
週3回トレーニングで、トレーニング間隔を最低1日は空けます(例えば月水金)。ワークアウトAとBを交互に実施。重量は毎回増やします。
StrongLifts 5×5: Get Stronger Lifting Weights 3×/Week
https://stronglifts.com/5x5/
◆GreySkull LP◆
上の2つのプログラムと同様に5レップのセットが基本ですが、限界まで行うセットが含まれているのと、重量の伸びが止まったら重量を下げて再スタートするのが特徴です。
GreySkull LP Isn’t Good, It’s Great
https://www.powerliftingtowin.com/greyskull-lp/
ここからが長いです。
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リニア・プログレッションプログラムについての個人的な考え
個人的な考えを書きますが、上のような海外の有名なリニア・プログレッションのプログラムは、何かスポーツをやっていたりして体格が良い欧米人の若い男性を基準にしている感じがします。最初から体重が80kgくらいある若い男性です。そういった人は身体が大きい(骨格がガッシリしていて筋肉量が多い)ので、ボリュームの少ないリニア・プログレッションで何ヶ月も伸び続けます。土台-ピークモデルで言えば、最初から土台が大きい人です。
日本人でも体格がガッシリした若い男性、柔道やラグビーなど筋力の必要なスポーツをやっていて筋肉量が多い男性、あとはトレーニングへの反応が良い素質に恵まれた人なら、このようなプログラムで中級者レベルまで伸びるのかなと思います。しかし、体重60-70kgくらいで素質に恵まれているわけでもない人だと、すぐに伸びが止まって重量を足せなくなると思います。身体が大きくない初心者の場合は、個人的には8レップくらいでトレーニングをしていったほうがいいと思います。筋肥大しやすいのと、重量が控えめになるので怪我リスクを下げやすいのが理由です。
例えば、スクワットとベンチプレスを8レップ(RPE7-9程度)×3セットを週2回、デッドリフトをやりたいなら週あたり5レップ(RPE7以下)×2セット程度です。
重量の伸びが止まったら、トレーニングボリューム(セット数や補助種目)を少し増やして、数週間ごとに重量を増やす緩やかなリニア・プログレッションを続けていきます。重量とボリュームが、回復のキャパシティを超えて伸びなくなったら、次の段階のプログラムに移行します。おそらく週のトータルセットが部位あたり10セットくらいで回復が追いつかなくなると思います。
初心者から中級者への移行
リニア・プログレッションで伸びなくなったら、中級者向けのプログラムに移行する時期です。
トレーニングを始めたばかりの頃はどんどん重量を足せていても、しばらくするとなぜ重量を足せなくなるのかというと、フィットネスの伸びに対して疲労が大きくなって、回復する頃にはフィットネスの伸びが消えるからです。初心者のうちは、小さいトレーニング刺激(=小さい重量とボリューム)で、大きなフィットネスの伸びを得られます。トレーニング刺激が小さいので、疲労も小さいです。これをどんどん積み重ねられます。
トレーニングを続けていくと、適応が進み、レベルアップしてきます。そうすると、トレーニングに対する反応が低下してきます。中くらいのトレーニング刺激で中くらいのフィットネスの伸びになってきます。疲労も徐々に大きくなってきて、回復に時間がかかるようになります。
そして停滞がやってきます。フィットネスを更に伸ばすには、より大きなトレーニング刺激(高重量と高ボリューム)が必要になりますが、そうすると疲労もかなり大きくなります。疲労が大きく回復に時間がかかるため、疲労が回復するころにはフィットネスの伸びが消える状態になります。これが停滞です。
これに対する解決策は、「一回のトレーニングではなく、強弱をつけた複数回のトレーニングで回復・適応の波を作る」です。トレーニングに慣れてきて、さらにフィットネスを伸ばすには強い刺激のトレーニングが必要ですが、フィットネスの維持には軽めの刺激で足りることを利用して、適応を引き出していきます。
上級者向けのプログラムほど、多くの回数のトレーニングで適応を引き出すよう作られています。ざっくりしたSRAカーブをイメージするとわかりやすいです。
SRAカーブの作り方のパターン
中級者に移行したら、トレーニングに強弱をつけて、複数回のトレーニングでSRAカーブを作っていきます。強弱をつけるトレーニング変数は主に3つです。
・強度(%1RM)・ボリューム
・セットの追い込み度
多くの場合は強度とボリュームが主な調整変数です。追い込み度については、限界セットを組み込むプログラムがあります。初心者だと高頻度で限界セットをやっても回復が追いつきますが、重量とボリュームが上がってくると限界セットの疲労コストが大きくなるため、中級者向けのプログラムでは限界セットを行う場合は頻度を低くするのが一般的です。
SRAカーブの作り方のパターンをいくつかに分類し、実際のプログラム例を見ていきます。
<強弱型>
週内でのトレーニングの刺激の強さに強弱をつけて疲労を管理します。週毎に重量を足していきます。実質的には、週ごとのリニア・プログレッションで、初心者と中級者の間くらいの人向けのプログラムだと思います。
◆テキサスメソッド◆
ボリュームと追い込み度に強弱をつけています。
<フラットローディング+デロード型>
同程度のストレスのトレーニングを続けて、数週間ごとに回復のためにデロードを入れるやリかたです。ストレングストレーニング界だと、短いサイクルでも強度の漸進的過負荷(重量を上げていく)を重視するので、このパターンはあまり見ません。
<リニア・ローディング>
軽めの重量から始めて、1-3ヶ月かけて徐々に強度を上げていきます。
◆サイクルトレーニング◆
下の例だと、6週目でRMのMAX更新狙いです。
<ウェーブ・ローディング>
波のようにトレーニング刺激を大きく上下させる方法です。
・強度のウェーブ
短期(3週間くらい)でどんどん強度を上げていきます。通常は、強度アップに合わせてボリュームを下げていきます。
◆5/3/1◆
強度計算は本当の1RMの90%を使用。
・ボリュームのウェーブ
短期(3週間くらい)でボリュームを上げていきます。重量を変えずに、ボリュームを増やす方法はステップローディングとも呼ばれます。ボリュームトレーニングに慣れながらボリュームの漸進的過負荷を行えるので、土台作りのボリュームフェーズに向いています。
ここまでの方法は、ピリオダイゼーションではないです。一種類の適応内で、トレーニング刺激に強弱をつけてSRAカーブを作っています。ただ、テキサスメソッドのように基本5レップだけど限界セットを組み込んでいるプログラムだと、限界セットが10レップくらいになることもあるので、実質的にDUPになっているケースもあります(DUPについては次のピリオダイゼーションで説明します)。
ピリオダイゼーション
ピリオダイゼーションは、複数の適応をプログラムに組み込むことです。基本的にはトレーニング期間を分けて、複数の適応を順にトレーニングしていくのですが、DUPのように複数の適応のトレーニングを同時並行で実施していくものもあります。
<リニア・ピリオダイゼーション>
低強度・高ボリュームから開始して、直線的に強度を上げつつボリュームを減らしていくプログラムです。
<ブロック・ピリオダイゼーション>
目指す適応ごとにブロックを分け、そのブロックをつなげていきます。ブロック内でのプログラムは、リニア型でもウェーブ型でも何でもOKです。リニア・ピリオダイゼーションは、リニア型ブロックをつなげたブロック・ピリオダイゼーションと考えることも出来ます。
◆Juggernaut Training Method◆
4週のブロックを4つ繋げています。各ブロックは強度型のウェーブ・ローディングです。5/3/1をベースにピリオダイゼーションを作った感じのプログラムです。(強度計算は本当の1RMの90%を使用)
Juggernaut Training Method Base Program Spreadsheet
https://liftvault.com/programs/strength/juggernaut-method-base-template-spreadsheet/
◆ウェーブ型ボリュームブロック+リニア型筋力ブロック◆
ボリュームブロックでは、ボリュームの漸進的過負荷を行い、筋力ブロックでは、強度の漸進的過負荷を行うブロックピリオダイゼーションです。ボリュームの漸進的過負荷を行うプログラムはあまり見かけないのですが、ワークキャパシティと筋肥大を強化するブロックではボリュームを漸進的過負荷し、筋力を強化するブロックでは強度を漸進的過負荷するというのは、理に適った考え方だと思います。
各ブロックの1週目が楽な週になっていて、そのブロックへの慣らしと、前ブロックの疲労を抜く回復の役割を果たすので、スムーズにプログラムを進めやすいです。私はこのやり方が好みで、実際にこのタイプのプログラムを組んで実施しています。
<DUP系>
DUPは、Daily Undulating Periodizationの略です。週のなかで適応を目指すトレーニングタイプを切り替えて、各適応の漸進的過負荷を同時並行で実施していきます。
◆DUP◆
下のDUPの例だと、全身トレーニング(スクワット、ベンチプレス、デッドリフト)を週3回で、月曜に筋肥大トレーニング、水曜に軽めのパワートレーニング(回復と技術練習が目的)、金曜にストレングストレーニングといったプログラムになっています。
下図ではパワートレーニングは省略してあります(ごちゃごちゃして見づらくなるので)。
◆DUP(シャッフル型)◆
一日に全種目を筋肥大トレーニングやストレングストレーニングだと結構きついので、各トレーニング日のキツさを分散させたい場合はシャッフル型にします。下の例だと、月曜にスクワットのパワートレーニング、デッドリフトの筋力トレーニング、ベンチプレスの筋肥大トレーニングをやって、水曜と金曜はそれぞれトレーニングタイプを組み替えます。上の普通のDUPと同様、週ごとにリニア型で強度を上げてレップ数を下げていきます。
トレーニング時間を減らしたい場合は、無理にパワートレーニングは行わなくてもOKです。
◆TSA2.0(中級)◆
BIG3重視の中級者向けプログラムです。前半が筋肥大寄り、後半がストレングス寄りです。
メインリフトだけでなく補助種目についても具体的に書かれていて、RPEが明記してあって、部位あたりのトータルボリュームが中級者にとって足りるようにちゃんと計算されていて、よく出来ている総合的なプログラムだと思います。例えば2週目だと、週あたりのセット数がスクワット+レッグプレスが13セット、ベンチプレス系が18セット(パワートレーニングとトップシングルセット含む)、デッドリフト系が9セットです。
バーベルの使用時間がかなり長くなるプログラムなので、パワーラックやベンチ台を存分に使える環境でないと実施は難しいと思いますが、自分で中級者向けのプログラムを考える場合は、TSA2.0のトータルボリュームとRPEの設定はかなり参考になると思います。
ストレングス寄りのフェーズが長めです。個人的にはストレングスをそれほど重視しないので、筋肥大フェーズを長めにしたり、レップレンジを全体的に2レップくらい高めにするほうが好みです。
肩や腕のトレーニングは省かれているため、見た目も重視したい場合は、肩と腕のアイソレート種目を付け足したほうがいいと思います。
ここでのプログラム概略はかなりざっくりしたものです。詳しく見たい場合は本家サイトにスプレッドシートがあります。リンク先の左側にある「9WEEK INTERMEDIATE 2.0 COMP PREP/MOCK MEET」をクリックするとスプレッドシートが出てきて、スプレッドシート内のTrainingのタブに具体的になプログラムがあります。
TSA
https://www.thestrengthathlete.com/freebies
◆Cube Method◆
上級者向けのプログラムです、こういった組み方もあるという紹介です。
用語(マクロサイクル、メゾサイクル、ミクロサイクル)
ピリオダイゼーションに詳しくて、メゾサイクルやマクロサイクルといった言葉を知っている方は、この記事でのブロックがメゾサイクル、ピリオダイゼーション全体がマクロサイクルだと考えて下さい。
競技をやっている場合は試合という最終目標があって、それに向けてマクロサイクルの期間を決めてプログラムを組んでいくのですが、趣味のトレーニングだと試合の日程に合わせる必要がないので、マクロサイクルを考えず、ブロック(メゾサイクル)を繋げていくやり方でもOKです。例えば、4週間の筋肥大ブロックと筋力ブロックを交互に繰り返していくといったプログラムですね。
DUP系のプログラムだとブロックを繋げるのでなくて、ブロックを並行して行う感じになるので、明確なメゾサイクルがないこともあります。
どの適応に対して、どのように漸進的過負荷を行っているのか明確にするのが最も重要なことです。用語はあまり拘らなくてもいいかなと思います。
続きの記事:BIG3を軸としたトレーニングプログラムの考え方3回目:トレーニング変数の調整
関連記事:トレーニングプログラムのレビューまとめ
BIG3を軸としたトレーニングプログラムの考え方
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