この説が流布されるようになったきっかけは、クレアチンの摂取によるジヒドロテストステロン(DHT)の増加が2009年の研究(1)で報告されたことです。DHTは、AGAに深く関わる男性ホルモンです。ただ、その後は、クレアチン摂取によるDHTの増加を報告する研究はありませんでした。
最近、クレアチンとAGAの関係を直接調べる研究(4)がようやく行われました。この研究では、クレアチン摂取によるテストステロンやDHTへの影響、そして頭髪の状態を調べていて、クレアチン摂取グループとプラシーボグループとでは、各ホルモン、および頭髪の状態に有意差は無い、という結果になっています。
結論を書くと、クレアチンの摂取はAGAに影響を与えないと考えられます。男性トレーニーの皆さん安心してください。
以下は、論文についての解説です。
クレアチンで髪が薄くなる説の原因となった論文
(1)Three Weeks of Creatine Monohydrate Supplementation Affects Dihydrotestosterone to Testosterone Ratio in College-Aged Rugby Players
https://www.researchgate.net/publication/26799707_Three_Weeks_of_Creatine_Monohydrate_Supplementation_Affects_Dihydrotestosterone_to_Testosterone_Ratio_in_College-Aged_Rugby_Players
被験者:若い男性 ラグビー選手 20名(最終的に16名)
グループ分け:
- クレアチン・モノハイドレート
- プラシーボ(グルコース)
摂取期間:3週間
- 1週間 25g/day ローディング
- 2週間 5g/day メンテナンス
6週間のウォッシュアウト期間を挟んで、グループを入れ替えている(1回目クレアチン摂取したグループは、2回目はプラシーボ摂取)。
結果は、テストステロンレベルは変化が無かったが、DHTはクレアチングループが上昇した。
研究の文脈としては、クレアチンが運動パフォーマンスを向上させ、筋肥大に影響を与える機序の解明が目的で、当時はホルモンレベルの変化が影響しているのではないかという説があり、それを調べるためにテストステロン、DHTレベルの測定をしています。
DHTとAGAの関係
DHTとAGAの関係については、Google Geminiにお願いしました(Deep Reserchでレポート作成→800字程度に要約指示)。
男性型脱毛症(AGA)の主な原因は、ジヒドロテストステロン(DHT)という男性ホルモンです。このDHTがAGAを引き起こす分子メカニズムは、以下の段階で進行します。
まず、体内に存在する男性ホルモンであるテストステロンが、頭皮の毛乳頭細胞に存在する「5αリダクターゼ」という還元酵素(特にII型)の働きによって、より強力な活性を持つDHTに変換されます。この5αリダクターゼの活性度には個人差があり、遺伝によって受け継がれることが知られています。
次に、生成されたDHTが、前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞の表面にある「男性ホルモン受容体(アンドロゲンレセプター/AR)」に結合します。この受容体の感受性が遺伝的に高いほど、DHTと強く結合し、AGAのリスクが高まります。重要なのは、血中のテストステロン量そのものよりも、毛包のアンドロゲン受容体のDHTに対する感受性が、脱毛の進行を決定する主要な遺伝的要因であるという点です。
DHTがアンドロゲン受容体と結合すると、毛乳頭細胞内で特定のシグナル伝達経路が活性化され、脱毛を促進する因子、特にTGF-β(形質転換成長因子-β)やDKK1(ディックコップ関連タンパク質1)などの産生が増加します。これらの脱毛因子は、毛髪の成長を担う毛母細胞の増殖を強力に抑制する作用を持ちます。
毛母細胞の増殖が抑制される結果、毛髪の成長期が著しく短縮されます。これにより、髪の毛は十分に太く長く成長する前に早期に休止期に入り、抜け落ちやすくなります。DHTの影響を繰り返し受けた毛包は、その機能が徐々に低下し、物理的に縮小していく「毛包のミニチュア化」が起こります。ミニチュア化された毛包からは、通常よりも細く、短く、コシのない「軟毛」しか生えなくなり、最終的には毛包が完全に活動を停止し、髪を生成しなくなることもあります。
喫煙や生活習慣の乱れも、5αリダクターゼの活性を変動させ、DHTの生成や作用を間接的に増強する可能性があります。これらのメカニズムにより、AGAは進行性の脱毛症として発症・進行します。
クレアチンの男性ホルモンへの影響
(2)Common questions and misconceptions about creatine supplementation: what does the scientific evidence really show?
https://jissn.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12970-021-00412-w
この論文は2021年に出たもので、クレアチンについての科学的知見をまとめています。クレアチンとAGAの関係についても言及されていて、その要点を書くと、
・クレアチンとAGAに関係があるとする説の根拠は、ラグビー選手を被験者にした(1)の研究ただ一つ。
・(1)の研究では、DHTのベースラインが低くくて有意差が出たのではないか。DHTのレベル自体は、クレアチン摂取後も正常値の範囲内に収まっている。
・クレアチン摂取後のテストステロンを測定した研究は12あって、2つはトータルテストステロンの小さい上昇(生理学的には影響のない上昇)、残り10はテストステロンに変化なし。そのうち5つが遊離テストステロン(これがDHTに変換される)を測定していて、いずれも増加なし。
・クレアチンとAGAに関係があるとする説の根拠は、ラグビー選手を被験者にした(1)の研究ただ一つ。
・(1)の研究では、DHTのベースラインが低くくて有意差が出たのではないか。DHTのレベル自体は、クレアチン摂取後も正常値の範囲内に収まっている。
・クレアチン摂取後のテストステロンを測定した研究は12あって、2つはトータルテストステロンの小さい上昇(生理学的には影響のない上昇)、残り10はテストステロンに変化なし。そのうち5つが遊離テストステロン(これがDHTに変換される)を測定していて、いずれも増加なし。
クレアチンの運動パフォーマンス向上と筋肥大への影響の作用機序
これもGoogle Geminiにお願いしますね。情報源を学術論文に限定しています。Deep Reaserchは相当使える。
<短期の運動パフォーマンス向上について>
クレアチン摂取は、筋肉内のホスホクレアチン(PCr)貯蔵量を増加させることが多くの研究で示されています。このPCrの増加は、高強度の筋収縮中にアデノシン三リン酸(ATP)の迅速な再合成を促進し、筋肉のパフォーマンスにより多くのエネルギーを供給します。短時間・高強度の運動中の疲労は、PCrの急速な減少に起因することが多いため、クレアチン摂取はこの疲労を軽減し、より多くの反復やより重い負荷を可能にします。
<長期的な筋肥大について>
クレアチンは、筋細胞内の水分含有量を増加させ、細胞容積効果を引き起こします。この細胞内水分の膨張は力学的ストレスを生じさせ、浸透圧感知遺伝子を活性化します。これらの活性化された遺伝子は、タンパク質合成を促進する同化刺激として作用すると考えられています。
筋肉内のクレアチン増加は、筋原性調節因子(特にMRF4およびミオゲニン)を活性化する可能性があります。これらの因子は、サテライト細胞の活性化、増殖、および分化を促進します。サテライト細胞の増加は、筋原線維タンパク質合成の機構を強化し、直接的に筋力向上に貢献します
現在は、クレアチンが内分泌系に影響を与えて運動パフォーマンスを向上させるという説は消えたようです。
筋肥大効果を促進するメカニズムが推測されていますが、初期の保水量増加による除脂肪体重増加以降は、クレアチンには筋肥大をブーストする効果はほぼ無いか、あってもわずか、というのが最新の研究(3)の流れです。
(3)The Effect of Creatine Supplementation on Lean Body Mass with and Without Resistance Training
https://www.mdpi.com/2072-6643/17/6/1081
クレアチンとAGAの関係を否定する最新の研究
(4)Does creatine cause hair loss? A 12-week randomized controlled trial
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12020143/
期間:12週間
グループ分け
- クレアチングループ:クレアチン・モノハイドレートを5g/day
- プラシーボグループ:プラシーボ(マルトデキストリン)を5g/day
食事とトレーニングは、普段の生活通りにする。最低でも週に3回はトレーニングするよう指示。
検査項目:
- 血液検査 初日と12週間後に実施。eGFR、クレアチニン、トータルテストステロン、遊離テストステロン、DHT
- 頭髪評価 頭頂部中心に画像取得。髪の毛の密度 髪の毛の太さ 毛包の密度や健康度 髪の毛の成長パターンを評価
結果:
各測定項目ともに、グループ間で有意差なし。
・男性ホルモン
・頭髪評価
両グループとも、実験前後でトータルテストステロンが上昇していますが、これは季節によるホルモンレベルの変動が原因かもしれないと論文では推測されています。
まとめ
以上をまとめると、
・クレアチンは内分泌系に影響を与えて運動パフォーマンスを向上させるわけではない。
・クレアチンを摂取しても、テストステロンやDHTのレベルは変化しないだろう。
・頭髪のコンディションを調べてもクレアチン摂取の影響は無く、クレアチンによるAGAへの影響は無いと考えられる。
・クレアチンを摂取しても、テストステロンやDHTのレベルは変化しないだろう。
・頭髪のコンディションを調べてもクレアチン摂取の影響は無く、クレアチンによるAGAへの影響は無いと考えられる。
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