今回は、サイキングアップの有無によるデッドリフトの挙上速度変化を調べた研究を見ていきます。
(1)The Effects of Psyching-Up on Deadlift Performance in Competitive Strongmen, Strongwomen, and Powerlifters
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41628393/
被験者:ストロングマン・ウーマンとパワーリフティングの男女選手200名
デッドリフト1RMは、平均で男性が体重の2.6倍、女性が体重の1.8倍。
被験者それぞれが2通りの方法で90%1RMの重量でデッドリフトを1レップ行う。
・各自が1RMチャレンジの時に使っているサイキングアップ方法で90%1RMを挙上(サイキングアップ)
・ジムバッグを持ち上げるときと同じ心持ちで90%1RMを挙上(コントロール)
この2つのコンディション間で挙上速度を比較する。
また、被験者が選択したサイキングアップ方法と、被験者の気質の関連も調べている。
サイキングアップ方法は、「覚醒レベルの向上」と「覚醒レベルの低減」の2つに大別している。それぞれの具体的な手法は、
覚醒レベルの向上
・自己卑下:怒りを引き起こすために自分を侮辱する。
・ネガティブな感情・イメージ・行い:苦痛や怒りにより覚醒レベルを高める。
・刺激:音楽を聴く、カフェインを摂取する、アンモニアを嗅ぐ。
・身体的・精神的刺激:歩き回る、飛び跳ねる、速く呼吸する。
・攻撃的な行動:攻撃性を露わにする。
覚醒レベルの低減
・試技前のルーティーン:決まったルーティーンを毎回行う。
・ポジティブな考え・感情・イメージ・行い:自己の肯定、自信。
・目標の達成をイメージ:目標に集中、過去の成功を思い出す。
覚醒レベルの向上の具体例。
動画:Andrew Herbert 810 lbs deadlift "Boss of Bosses 2"
https://www.youtube.com/watch?v=VCF7Z_KccDk
覚醒レベルの低減の具体例。
動画:Taylor Atwood - 758kg 1st Place 74kg - IPF World Classic Powerlifting Championships 2018
https://youtu.be/rzGMXimNPMw?t=263
被験者が選択したサイキングアップ方法の内訳は
覚醒レベルの向上
・自己卑下・・・5名
・ネガティブな感情・・・12名
・刺激・・・34名
・身体的・精神的刺激・・・5名
覚醒レベルの低減
・試技前のルーティーン・・・62名
・ポジティブな考え・感情・イメージ・行い・・・26名
・目標の達成をイメージ・・・22名
個人の気質については、3つの側面についてアンケート方式の心理テストで測定している。
・行動抑制系(BIS:Behavioral Inhibition System)
罰、脅威、または不快な結果を予期して行動を停止・回避させる脳内のシステム。
・行動賦活系(BAS: Behavioral Activation System)
報酬やポジティブな結果を期待して、目標に向かっての積極的な行動を引き起こす脳内のシステム
・攻撃性(BPAQ)
身体的・言語的攻撃、怒り、敵意の4因子で構成される29項目を用いて攻撃性を評価する。
結果
<サイキングアップによる挙上速度の変化>
平均挙上速度は、
・コントロールのコンディション:0.34m/s
・サイキングアップのコンディション:0.39m/s
サイキングアップを行ったほうが、挙上速度が平均で 0.05m/s 高まりました。
0.05m/s と言われてもどのくらいのインパクトかわからないので、デッドリフトの%1RMと挙上速度の関係を調べた研究を見てみます。
(2)Analysis of the Load-Velocity Relationship in Deadlift Exercise
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7429441/
この研究を参考にすると、デッドリフトで挙上速度が 0.05m/s 高まると、%1RM換算では4%程度の向上になると考えられます。サイキングアップをすると、86%1RMを持ち上げるのと同じ速度で、90%1RMを持ち上げられることになります。単純計算だと、サイキングアップで1RMが104%1RMまで伸びることになりますね。
<サイキングアップ方法による効果の差>
挙上速度の向上度合いは、サイキングアップ方法の違いによる差はありませんでした。自分にマッチしている方法なら、どれでも効果は同程度のようです。実験でのサイキングアップ方法は、普段から各自が行っているものにしています。それで効果が出ているので、経験豊富な選手はそれまでの経験から、自分の気質に合ったサイキングアップ方法を選んでいるのでしょう。
<サイキングアップ方法と気質の関連性>
覚醒レベルの向上に分類されるサイキングアップ方法で挙上を行った被験者は、行動抑制系のスコアが低く、行動賦活系のスコアが高く、攻撃性のスコアが高かったです。
覚醒レベルの低減に分類されるサイキングアップ方法で挙上を行った被験者は、行動抑制系のスコアが高く、行動賦活系のスコアが低く、攻撃性のスコアが低かったです。
言い換えると、
罰や不安を恐れない、報酬や目標へ向けて積極的に行動する、攻撃性が高い。こういった気質の人は、怒りや攻撃性を露わにして気持ちを高めてから、高重量のデッドリフトの挙上を行うと良いでしょう。
逆に、罰や不安を回避することを優先する、報酬や目標へ向けて積極的に行動はしない、攻撃性が低い。こういった気質の人は、高重量のデッドリフト前には、気持ちを落ち着けて、決まった手順で静かにセットアップしていくのが向いています。
<サイキングアップの注意点>
覚醒レベルの向上に分類されるサイキングアップ方法の選手も、バーの前に立ち、セットアップに入ると、激しい動きがピタッと止まり、正確で無駄のないフォームで挙上をしています。いくら覚醒レベルを上げると言っても、勢いに任せて雑に挙上しては良い結果は出ないでしょう。
また、フォームが安定していないうちは、覚醒レベルを上げるよりも、正確なフォームで挙上することを意識したほうが良いと思います。この研究の被験者は、デッドリフト1RMが平均で男性が体重の2.6倍、女性が体重の1.8倍で、レベルの高い選手たちです。



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