筋トレで起こる肘の痛みについて結構わかってきたので、以前の記事を全面的に書き直しました。ディスクレイマーとしては「痛い場合は医者にいきましょう」なのですが、医者に行っても「安静にしてください」と言われて湿布とか処方されて終わりになりそうなので、自力でなんとかする方法を書いていきたいです。ただ、私は専門家ではないので、あくまで自己責任でお願いします。
筋トレで痛くなりやすい箇所
・内側上顆
肘の内側の出っ張り。手首の屈曲と前腕の回内をする筋肉の腱が付着。ゴルフ肘で痛くなる部分。
・外側上顆
手首の伸展をする筋肉の腱が付着。テニス肘で痛くなる部分。
肘の伸展動作をやりすぎているケース
上腕三頭筋種目、特にトライセプスエクステンションやフレンチプレスなどのアイソレート種目をやりすぎると、柱頭突起付近が痛くなりやすいです。ベンチプレスで肘が痛いけど、ダンベルフライでは痛くないといった発症の仕方をします。このケースは比較的シンプルで、肘の伸展動作のやりすぎです。対処方法は上腕三頭筋種目のボリュームを減らすこと、それとベンチプレスのグリップ幅が狭すぎる可能性があるので少し広げてみると良いでしょう。ベンチプレスをやり込んでいる人の場合は、エルボースリーブの着用も効果的だと思います。
動画:肘の痛みのセルフケア|ベンチプレス、スナッチやジャークでの肘の痛みに~テニス肘・ゴルフ肘にもおススメ~
https://www.youtube.com/watch?v=R5F10MFF3KQ
肩・手首・指が問題になっているケース
このケースは複雑です。おそらく多くが内側上顆(ゴルフ肘)で、外側上顆(テニス肘)もあると思います。ロウ・プル動作(特に懸垂)やバックスクワットで肘が痛くなる場合はこのケースの可能性が高いです。これもある程度は使いすぎの結果なのですが、肩と手首に問題があって、そのしわ寄せが肘に来ると肘がキャパオーバーしやすくなります。肩と手首が弱いと、肩と手首が引き受けるべき負荷を肘が引き受けて肘に負担が集中したり、肩の可動域が足りなくて、腕を良いポジションにもっていけず肘に負担がかかったり・・・という仕組みです。
このケースの対処方法は、まずは肘を使うトレーニングのボリュームを減らすこと。次に、セルフケアとしてマッサージ、ストレッチを実施し、トレーニングを続ける場合はエルボーバンドを使用します。ロウ・プル動作ではパワーグリップやリストストラップを使うと良いでしょう。そして予防措置として、肩と手首の問題を解決していきます。
セルフケア
<マッサージ>
マッサージは反対側の手の親指や掌底を使い、筋肉の膨らみ部分をマッサージしていきます。骨の突起とそのすぐ近く(腱の付着点)がコリコリして痛いと思いますが、ここはマッサージせず、そこから少し離れた場所がターゲットです。ちょっと痛いけど、ほぐれて痛気持ちいいくらいの場所をマッサージすると良いでしょう。筋繊維をほぐして、流れを整えるイメージで押していきます。マッサージの強さは、紙粘土が凹むぐらいの圧力でやります。表面をさする程度だと弱いです。
肘の伸展動作をやりすぎているケースとの複合パターンもあるでしょうから、先程の動画の上腕三頭筋マッサージも並行してやると良いでしょう。
<ストレッチ>
ゴルフ肘のストレッチの方法は、反対側の手で指を押さえ、親指以外の指を伸ばしながら(特に第一関節と第二関節)、手首を反らしていきます。テニス肘は逆方向です。ストレッチをアグレッシブにやると手首を痛めるので、あまりやりすぎないように注意します。
<エルボーバンド>
エルボーバンドは、痛い箇所(内側上顆、外側上顆)から少し離れた前腕の筋肉の膨らみにパッド部分が当たるように装着します。痛みの程度が軽い場合は、エルボーバンドを使用しながら筋トレを継続することが可能です。(画像はゴルフ肘での装着例)手首と指の問題
筋トレでのゴルフ肘(たぶんテニス肘も)は、手首と指を曲げ伸ばしする筋肉を使いすぎているのが原因になっていることが多いと思います。
前腕の筋肉は大きく分けて、「(指は動かさず)手首を動かす筋肉」と、「指と手首を動かす筋肉」があります。おそらく筋トレでのゴルフ肘やテニス肘は、バーなどを強く握ると同時に手首の曲げ伸ばし方向に強い力がかかることで、「指と手首を動かす筋肉」に負荷がかかり発症しやすくなると考えられます。具体的な筋肉の名前は、指を曲げる&手首を曲げる筋肉が浅指屈筋と深指屈筋で、指を伸ばす&手首を反らす筋肉が総指伸筋です。ゴルフ肘やテニス肘について調べても、前腕の屈筋群、伸筋群の使いすぎと解説しているところが多いので、この考えが正しいか確証が持てないのですが、自分の身体で試した感じでは「指に強く力を入れる+手首への負荷」が肘の痛みを引き起こしやすいです。
ゴルフ肘の場合は、指を強く握る+手首を曲げる(掌屈)方向に力を入れるのが問題になります。手首が曲がらないアイソメトリックであっても、強く力を入れると筋肉に負荷がかかります。下の画像は、ゴルフ肘を発症しやすくなると考えられる筋トレの例です。
逆手懸垂:腕力で持ち上げようとすると、手首を曲げる方向に力が入る。それに加えて強く握り込む。
ベンチプレス:前腕が傾いていると、手首を曲げる方向に力が入る。それに加えて強く握り込む。
バックスクワット:手をバーに押しつけると、手首を曲げる方向に力が入る。それに加えて、バーを強く握り込む。肩周りの柔軟性が足りなかったり、肩周りと上背部を背中の筋力で固められなかったりすると、手と腕でバーを安定させようとして肘に負荷がかかってしまう。
テニス肘は経験が無いのであまり自信がないですが、ゴルフ肘と同じなら、指を伸ばす方向に力を入れる+手首を返す(背屈)方向に力を入れる動作が問題になります。種目は、リバースカールや手首を返しすぎたベンチプレスです。バーなどを握った状態でも、指を伸ばす力が発揮されていることがあります。
プッシュ・プレス動作とロウ・プル動作での力の入れ方
プッシュ・プレス動作でもロウ・プル動作でも、肘を痛めやすくなる力の入れ方は「手→肘→肩→体幹」です。バーやグリップを強く握り込んで、グリップ部分を強く引っ張ったり押したりするイメージで力を加えると、指と手首に強い負荷がかかり肘を痛めやすくなります。
望ましい力の入れ方は、「体幹→肩→肘→手」です。プッシュ・プレス動作もロウ・プル動作も、体幹を固めて、肩を動かし、肘を動かし、その力を手に伝えます。プッシュ・プレス動作は掌底にバーを乗せて、手首を曲げ伸ばしする力を出来るだけ使わないようにすると良いでしょう。
スミスマシンなどで、インバーテッドロウや腕立て伏せの動きをして、「体幹→肩→肘→手」の力の伝え方と、握り方を練習すると身体の使い方が上手くなると思います。(腕立て伏せ動作では下の絵のように握らず、掌底と前腕の骨で負荷を受ける感覚を掴むと良いでしょう)
手首の強化
痛みの程度が軽かったら、マッサージやストレッチと並行して手首強化のエクササイズをやっていきます。日常生活に支障が出るレベルの痛みがあったり、手首を強化をしようとしてもかなり痛む場合は、しばらくはマッサージやストレッチのみが良いでしょう。手首の強化では、「(指は動かさず)手首を動かす筋肉」をリストカールなどで鍛えて、手首への負荷を各筋肉で分散できるようにすると肘の怪我を防ぎやすくなると思います。
負荷の軽いフルレンジでの曲げ伸ばしから始めて、少しずつ負荷を上げていきます。翌日以降の痛みが悪化する場合は、中止したり、負荷を下げたほうが良いです。
うまくやるポイントは、
・拳を軽く握る(握りしめない)
・ゆっくり動かす。片道3-4秒くらい
・テーブルやベンチや自分の膝などで前腕をサポートし、腕の力を抜く。
<レベル1>
拳を軽く握ってフルレンジでの手首の曲げ伸ばし
<レベル2>
テーブルなどの上に前腕を置いて、反対の手で押さえながらアイソメトリックで手首の曲げ伸ばしする筋肉を鍛える。
<レベル3>
数kgのダンベルを軽く握ってリストカールとリバースリストカール。
<回内・回外>
前腕を回す動き(回内・回外)も鍛えておくと手首の安定度が高まります。ダンベルだとやりにくいので、鍋やフライパンやビール瓶などでやると良いでしょう。
<フレックスバー>
セラバンドのフレックスバーという器具を使うのも効果的みたいです(私は試したことがないです)。
https://www.youtube.com/watch?v=LtR8fYEUnXI
肩の問題
肩周りの可動域や安定性が足りないと、バックスクワットやベンチプレスで肘が痛くなることがあります。例えばバックスクワットで肩周りの可動域と安定性が足りないと、無理矢理にバーを担いでも腕や手が身体の前側に戻ろうとします。そうすると、手がバーに押し付けられて手首に屈曲方向の負荷がかかりますし、強く握って腕の力でバーをサポートしがちになり肘に負担がかかります。ベンチプレスでも、土台となる体幹や肩周りの安定性が足りないと、バーを強く握り込みやすくなります。
ということで、肩周りの一般的なケアと同じように、大胸筋や広背筋といった大きな筋肉をストレッチし、肩甲骨を動かせるようにし、弱くなりがちな細かい筋肉(外旋動作、前鋸筋、僧帽筋中部・下部)を鍛えていきます。<広背筋ストレッチ>
<大胸筋ストレッチ>
<肩甲骨回し>
肩甲骨をゆっくり大きく回していきます。下の動画のように、立った状態、上半身を傾けた状態(デッドリフトでかがんだ時のポジション)、よつん這いの状態の3ポジションでそれぞれ肩甲骨を回していくと良いでしょう。動かすのは肩甲骨だけで、胸椎を動かないように注意します。
動画:3-Way Scap Circles (Scapular Muscle Activation & Mobility Exercises)
https://www.youtube.com/watch?v=PI4v0RfA708
<ノーマネーエクササイズ>
肩の外旋を鍛えます。
<ボトムアッププレス>
前鋸筋を鍛えます。前鋸筋を鍛えるのは、ヨガプッシュアップやベアクロールなどでも良いのですが、肘を痛めている場合は床に手を付くと肘が痛くなる場合があるため、今回は別のエクササイズを紹介します。前鋸筋を鍛えたいので、軽めの負荷でやります。負荷が強すぎると、三角筋で無理やり動かしがちになります。
肩甲骨を上方回旋した状態で肩を安定させるのは、ショルダープレスだけでなく懸垂でも使う動作です。肩の安定が無いと、グリップを握りしめて腕力で懸垂をすることになり肘を痛めやすくなります。元はケトルベルの種目です。ケトルベルでやると手首の安定も鍛えられるのでおすすめです。
動画:EricCressey.com: 1-arm Bottoms-up KB Military Press
https://www.youtube.com/watch?v=0urCS9_J7f8
<肩甲骨プルアップ>
ラットマシンか、バーにぶら下がって、肩甲骨を上げ下げします。ゴルフ肘を発症している場合は、パワーグリップかリストストラップを使いつつ、ラットマシンでこの動作をやるのが良いでしょう。首に力を入れないように気をつけます。首に力が入りそうになったら、頭を軽く左右にゆらゆらさせるとリラックスできます。
動画:Scap Pulluphttps://www.youtube.com/watch?v=KKxYlq-SnYI
<チューブベンチプレス>
ゴムチューブを横に引っ張りながら、ベンチプレスの動作をします。このエクササイズで背中を固めるのが上手くなると、ベンチプレスの際に肩周りと背中が安定します。
<チューブバックスクワット>
ゴムチューブを横に引っ張りながら、ビハインドネックプルダウンの要領で、なるべくゴムチューブが背中に触れないように引いてきます。肩甲骨と腕を自分の力でこのポジションにもっていってキープできるようになると、バックスクワットで手首・肘・肩に余計な負荷がかからなくなります。このポジションを自分の力でキープできないと、手や指がバーにぎゅうぎゅうと押し付けられて、手首・肘・肩を痛めやすくなります。
肩周りの安定性をガッツリ鍛えたい場合は以下の記事を参考に。
肘を痛めないために筋トレ時に意識するポイント
<ベンチプレス>
強く握り込まず、掌底にバーを乗せて前腕の骨で負荷を受けるようにします。
<バックスクワット>
肩甲骨を寄せて下げ、腕を後ろに引いて、背中を固めます。掌底でバーの負荷を受けるのですが、手はバーの安定をサポートするだけです。強く握込んだり、腕の力でバーを支えたりはせず、胴体でバーを支えます。ロウバーはサムレスで握ると、手首・肘・肩の負荷を軽くできます。
<懸垂>
懸垂で肘を痛めるケースは、多くが内側上顆(ゴルフ肘)だと思います。痛くなった場合は、とりあえず懸垂は休みましょう。どうしてもプルダウン動作がやりたい場合は、ケーブルマシンでパワーグリップを使い、腕と手の力を抜きながらプルダウンすると良いと思います。
動画:Cable Single Arm Lat Pulldownhttps://www.youtube.com/watch?v=eyHeo9J1qr8
逆手懸垂は肘を痛めやすいです。ニュートラルグリップ(手の平が内側を向いたグリップ)の懸垂だと、手首を曲げる方向に力がかかりにくくなるので、肘を痛めにくいです。
順手で懸垂をやる場合は、下図のように肩を固める練習をすると良いでしょう。強く握り込まず、肩と体幹を固めてから、肩→肘→手の順で力を伝えていきます。
おすすめゴムチューブ
私はセラバンドのトレーニングチューブ(チューブ強度:「0(ミディアム)」赤色)を使っています。長くて伸びが良いので使いやすいです。負荷を上げたい場合は、二重にして使います。
セラバンド(THERABAND) トレーニングチューブ チューブタイプ チューブ強度:「0(ミディアム)」(赤)
関連記事:
<参考サイト>
Understanding Elbow Pain – Part 1: Functional Anatomyhttp://ericcressey.com/understanding-elbow-pain-part-1-functional-anatomy
Understanding Elbow Pain – Part 2: Pathology
http://ericcressey.com/understanding-elbow-pain-part-2-pathology
Understanding Elbow Pain – Part 5: The Truth About Tennis Elbow
http://ericcressey.com/understanding-elbow-pain-part-5-the-truth-about-tennis-elbow
Understanding Elbow Pain – Part 6: Elbow Pain in Lifters
http://ericcressey.com/understanding-elbow-pain-part-6-elbow-pain-in-lifters
Are Tennis Elbow Straps Effective?
https://mikereinold.com/are-tennis-elbow-straps-effective/
How To Fix Elbow Pain (BULLETPROOF YOUR ELBOWS!)
https://www.youtube.com/watch?v=NM_FDASE4Pc
The Lifters Guide to Fixing Elbow Pain
https://www.youtube.com/watch?v=0uvHiInY5IA
Strongman With Golfers Elbow? (TENDONITIS FIX)
https://www.youtube.com/watch?v=U_eA1hSiCrU
10 Best Self-Treatments for Golfer's Elbow (Medial Epicondylitis)
https://www.youtube.com/watch?v=xCZoFTVKJQk
7 Best Golfer's Elbow Pain Relief Treatments (Medial Epicondylitis) - Ask Doctor Jo
https://www.youtube.com/watch?v=3N4QWRnGeeA
HANG RIGHT PART 2:クライマーの肘の痛み
https://www.lostarrow.co.jp/blackdiamond/stories/EX2020_BD_esther_smith_elbow_pain_in_climbers.html
HANG RIGHT PART 3:しつこい指の故障を治す
https://www.lostarrow.co.jp/blackdiamond/stories/EX2021_BD_esther_smith_nagging_finger_injuries.html
HANG RIGHT PART1:クライマーのための肩のメンテナンス法
https://www.lostarrow.co.jp/blackdiamond/stories/EX2020_BD_esther_smith_shoulder_maintenance_for_climbers.html
Hang Right Part 4: The Knowledge Quest—Lesson 1
https://www.grassrootsphysicaltherapy.com/physical-therapy-treatment/2019/10/30/hang-right-part-4-the-knowledge-quest-lesson-1
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