7/10/2021

肩甲帯のトレーニング(プッシュ・プル動作に重要)


肩甲帯は、肩周りの骨・関節・筋肉の一連のシステムのことで、肩甲骨・胸骨・鎖骨・上腕骨と、これらをつなぐ筋肉・靭帯で構成されます。身体イメージを作る場合は、肩甲骨周辺の骨と筋肉をまとめてイメージすると良いと思います。


解剖学的な肩甲帯の範囲と、上のイメージの範囲は完全には一致していないと思いますが、上のようなイメージを持つと実用面でやりやすく、また他に適切な用語が無いので、当記事では肩甲帯を上のイメージとして扱います。ローテーターカフも肩周りの安定に重要ですが、肩甲骨周辺の安定にはローテーターカフ以外にも前鋸筋や肩甲挙筋や菱形筋や僧帽筋(上部・中部・下部)など多くの筋肉が関与するので、ひっくるめて肩甲帯と呼ぶと便利です。


ショルダープレスやベンチプレスや腕立て伏せなどのプッシュ・プレス動作、懸垂やシーテッドローイングなどのプル・ロウ動作では、肩甲帯の「安定」と「可動性」の両方が求められます。肩甲帯の働きにより、肩甲骨の適切なポジショニングと、肩関節でのボール・ソケットのスムーズな動きが実現されます。

肩甲帯がうまく働かなくても、広背筋や大胸筋といった大きな筋肉で動作を行うことは可能です。ラットマシンやチェストプレスマシンといったマシントレーニングだと、肩甲帯の動きや安定が足りなくてもなんとかなる感じがします。ただ、フリーウェイトの場合は、プッシュやプルの動作中に肩甲帯が適切に働かないと、負荷が肘や肩に集中して、これらの部位を怪我しやすくなります。

ショルダープレスやベンチプレスなどプッシュ・プレス動作では、肩甲帯が安定しないと肩峰下インピンジメントなどになって肩を痛めやすいです。プル・ロウ動作では、懸垂で上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)になるケースが多いです。肘の痛みについては以前にも記事を書いたのですが、怪我の予防のために肩甲帯にフォーカスした記事を今回書きます。

身体機能レベルが高い人は、プッシュやプル動作でバーやグリップを握った時に、あまり意識しなくても肩甲骨周りの細かい筋肉に力が入って、自動的に肩甲帯が働き始めると思います。そのような人はあまりトラブルもなくトレーニングを続けられます。しかし、自動的に肩甲帯が働かない人もいます。私は肩甲帯の右側はすぐ反応してくれるのですが、左側が自動的に反応しづらいので、意識してアクティベートしないといけないです。

肩甲帯が自動的に働いてくれない場合、筋トレを続けていると肘や肩に問題が出やすくなるので、肩甲帯の働きを取り戻し、維持していくためのトレーニング方法を書いていきます。




トレーニングの方向性

特定の細かい筋肉をピンポイントで鍛えていくのではなくて、肩甲帯のシステム全体をショットガン方式で鍛えていきます。

肩甲帯に力を加えてトレーニングをしていくのですが、力の方向を大きく4つに分けて動作を考えます。

プッシュ・プレス動作 
・垂直方向(例:ショルダープレス)  
・水平方向(例:ベンチプレス)

プル・ロウ動作
・垂直方向(例:懸垂)
・水平方向(例:シーテッドローイング)



各方向について、以下のステップでエクササイズを行います。

<ステップ1>
意識的に肩甲帯を働かせられるように練習します。

<ステップ2>
肩甲帯をアイソメトリック固定しながら、様々な方向から力を加えます。バーにぶら下がったまま身体を揺らしたり、重りを揺らしたりします。腕は伸ばしたまま行います。

<ステップ3>
肩甲帯が働いているのを意識しながら、軽い重量で腕を曲げ伸ばしします。腕と肩甲骨が連動して動く種目で練習していきます。

<ステップ4>
大胸筋、三角筋、広背筋といった主動筋にも負荷がかかるくらいの重い重量で、肩甲骨を動かしながらプッシュ・プレス、プル・ロウをやっていきます。


一般的にクローズドチェイン種目(手や足の位置が固定されて動かない種目)が細かいスタビライザーの筋肉を動員しやすいので、クローズドチェインの種目を優先的に行います。クローズドチェインだと負荷調整が難しい場合は、ゴムチューブやフリーウェイトの種目を優先的に行うと良いでしょう。



肩のアラインメントとモビリティ

下の記事に、肩周りのアラインメントとモビリティの調整方法を書いてあるので、アラインメントとモビリティに問題がある場合は、事前にやっておくとスムーズにいきます。

関連記事:ショルダープレス-肩のトラブル回避と難易度調整-



肩甲帯に力を入れる感覚を掴む

感覚的なものなので言葉で説明しづらいのですが、懸垂での肩のポジションの作り方が肩甲帯に力を入れる感覚を掴みやすいと思います。





共通する力の入れ方

プッシュ・プレスも、プル・ロウも、体幹を固めて、肩甲帯を働かせて、肩→肘→手の順に力を伝えていきます。腕の力で無理やり押したり引いたりするのはNGです。それと首に余計な力を入れないようにします。





プッシュ・プレスの垂直方向

ショルダープレスなど垂直方向のプッシュ・プレス動作での肩甲帯の働きをトレーニングしていきます。先程のショルダープレスの記事の内容と近いです。

ステップ1:ヨガプッシュアップのプッシュアップ抜き




ステップ1:肩甲骨ショルダープレス

ヨガプッシュアップのトップポジションで、肩甲骨を挙上して床を押します。肩甲骨プルアップと逆方向の動きで、オーバーヘッドシュラッグと同じ動作です。肩をすくめるイメージだと首に余計な力が入り上腕骨だけ動きやすくなるので、肩甲骨を上げて床を押すイメージのほうが良いと思います。注意点は肩甲骨プルアップと同じで、肩関節はズラさず肩甲骨を動かします。押し上げたところで1秒静止、10レップほど繰り返します。筋力に余裕がある場合は、片手でやると良いでしょう。

BIG3と懸垂は肩甲骨をひたすら下制するので、これらの種目を熱心にやる人はこの肩甲骨ショルダープレスをやっておくと、肩周りの窮屈さが和らいで肩が軽くなります。




ステップ2:ウェイターキャリー

肩甲帯をアイソメトリック固定し、ゆらぎに抵抗して安定を維持する練習です。



ステップ3:ボトムアッププレス

肩甲帯が働いているのを意識しながら、軽い重量で腕を曲げ伸ばしします。



ステップ4:ショルダープレス

主動筋にも負荷がかかるくらいの重い重量で、肩甲骨を動かしながら腕の曲げ伸ばしをします。肩甲帯の使い方の基礎ができたあとは、主動筋が疲れるくらいの重量でフリーウェイトでのショルダープレスを続けていれば、プッシュ・プレス垂直方向の肩甲帯の働きも同時に鍛えられていくと思います。ショルダープレスが難しい場合は、ボトムアッププレスに代替しても問題ないです。腕を伸ばしたトップポジションで数秒止めると肩甲帯のトレーニングに効果的なので、そうしたセットも組み込んでいくと良いでしょう。




プッシュ・プレスの水平方向

ベンチプレスなど水平方向のプッシュ・プレス動作での肩甲帯の働きをトレーニングしていきます。


ステップ1:ヨガプッシュアップのプッシュアップ抜き






ステップ1:組体操の扇のポーズ




ステップ2:ベアクロール




ステップ3:土下座プッシュアップ

普通の腕立て伏せと基本は同じで、手は肩幅より少し広め、肘を横に開かず、ボトムでの脇角度は20°くらいです。速い動きではなく、ゆっくりと、粘っこい感じの動きで、腕と肩甲骨が連動しているのを意識しながらやると効果的です。

以降の膝つき腕立て伏せ、普通の腕立て伏せも同じやり方になりますが、大胸筋で身体を支えるイメージではなくて、肩甲骨に肋骨をぶら下げて身体を支えるイメージでやると、肩周りの機能が高まります。




ステップ3:膝つき腕立て伏せ




ステップ4:普通の腕立て伏せ

肩甲帯の使い方の基礎ができたあとは、プッシュ・プレス水平方向の肩甲帯の働きは、腕立て伏せでトレーニングするのが良いでしょう。ゆっくりおろしていって、ボトムで数秒止めると、何十回もやらなくても十分に効きます。ベンチプレスを安全に行うのに肩甲帯は重要は働きをしますが、ベンチプレスだけトレーニングしていくと、主働筋の強さの伸びに肩甲帯の強さが付いていきにくいと思います。




関連記事:肩周りの安定性強化のための腕立て伏せ




プル・ロウの垂直方向

懸垂など垂直方向のプル・ロウ動作での肩甲帯の働きをトレーニングしていきます。

腕に力が入りやすい人は、サムレスで深めに握って、手の平の上の方をグリップに引っ掛ける握りにするとやりやすいです。指で握りこむと、体幹・肩甲帯よりも、前腕・上腕に力が入りやすくなります。



ステップ1:肩甲骨プルアップ

最初はラットマシンでやるのがおすすめです。肘を伸ばしたまま、ゆっくりと肩甲骨を上下(挙上⇔下制)に動かします。慣れたらバーにぶら下がって自重で行います。首はニュートラルのカーブを保ったまま、リラックスさせます(軽く左右に首を揺らすと、首の力が抜けます)。





動画:Scap Pullup
https://www.youtube.com/watch?v=KKxYlq-SnYI


ステップ2:肩甲骨プルアップの引き上げた状態で揺らす

バーにぶら下がって 肩甲帯を安定化させたまま前後に身体をゆらします。

動画:The Three Types of Scap Pull-ups Take #1
https://www.youtube.com/watch?v=X4OCGWxreIc


ステップ3:ラットプルダウン

腕の力を抜いて軽い重量でラットプルダウン。肩甲帯を意識しながら行います。




関連記事:怪我をしにくいロウ・プルのやり方


ステップ4:重量を上げたラットプルダウン・懸垂

ラットプルダウンの重量を上げていきます。懸垂が出来るならそのまま懸垂へ。肩甲帯の使い方の基礎ができたあとは、懸垂を続けていれば、プル・ロウ垂直方向の肩甲帯の働きも同時に鍛えられていくと思います。ラットプルダウンよりも懸垂のほうが肩甲帯のトレーニングに効果的だと思いますが、懸垂をやらないなら肩甲帯の強さもそれほど求められないので、懸垂での肩甲帯トレーニングが必須というわけではないです。現時点で懸垂が出来なくて、懸垂が出来るようになりたい人は、ラットプルダウンで広背筋などの主働筋を鍛えつつ、ステップ1、2の肩甲骨プルアップで肩甲帯を鍛えると良いでしょう。


動画:Pull-up Eccentric Isometrics with Dr. Joel Seedman
https://www.youtube.com/watch?v=wNDj6B01Pe0



プル・ロウの水平方向

垂直方向でやったことを、水平方向に変えます。基本は同じです。

ステップ1:水平方向の肩甲骨プルアップ

インバーテッドロウの肘を伸ばしたポジションで、肩甲骨を前後(外転⇔内転)に動かします。肩甲骨の外転⇔内転の動きは下のイメージですが、このステップでは肘は伸ばしたままなので、図ほど大きくは動きません。


動画:Inverted row scap pull ups
https://www.youtube.com/watch?v=uwjb9jw5UD4



ステップ2:肩甲帯を働かせてゆらす

水平方向の肩甲骨プルアップで、肩甲帯を働かせたまま身体をゆらします。



ステップ3:インバーテッドロウ

肩甲帯の安定を意識してインバーテッドロウをします。最初は、身体があまり傾かないようにして負荷を軽くし、腕の力を抜いてやります。シーテッドローイング(ケーブルが使われているマシン)や、軽いバーベルでベントオーバーローイングやペンドレイロウでも良いと思います。

動画:【THAT'S トレーニング】インバーテッド・ロウ
https://www.youtube.com/watch?v=9a-7pn0ahHM


ステップ4:各種ロウ種目

肩甲帯の使い方の基礎ができたあとは、ベントオーバーローイングなどのフリーウェイトのロウ種目や、シーテッドロー(ケーブル)を続けていれば、プル・ロウ水平方向の肩甲帯の働きも同時に鍛えられていくと思います。下の写真のような軌道が固定気味のマシンは肩甲帯のトレーニングになりにくいので、あまりおすすめしません(私の使い方が下手なだけかもしれませんが、この手のマシンだと肩甲帯だけでなく主働筋に負荷をかけるのも難しいです)。


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