5/15/2025

スクワットのテンポが筋力、筋肥大、瞬発力に与える影響

スクワットのテンポをどのように設定すれば良いのか。

論文を5つ紹介してから、最後に目的別のまとめを書いてあります。





<下ろし1秒 vs 下ろし4秒>

(1)The effects of eccentric phase tempo in squats on hypertrophy, strength, and contractile properties of the quadriceps femoris muscle
https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2024.1531926/full

被験者:若い男女 トレーニング歴無し 平均24.0歳

グループ分け:
- 速いエキセントリック(FE)グループ:エキセントリック1秒、コンセントリック1秒
- 遅いエキセントリック(SE)グループ:エキセントリック4秒、コンセントリック1秒

種目:パラレルスクワット

トレーニング内容:
7週間 週2回。最初の3週間は、3セット@60%1RM、残り4週間は4セット@70%1RM。各セット限界まで。
セット間インターバル120秒。

測定項目:
- 大腿四頭筋の筋断面積(CSA): 超音波を使用して測定。
- 最大筋力(1RM): スクワットの1RMを測定。
- 筋収縮特性: テンシオミオグラフィー(TMG)を用いて、収縮時間(Tc)および放射変位(Dm)を評価。

結果:
- トータルレップ数はFEグループ(下ろし1秒)のほうが平均27%多かった。
- SEグループ(下ろし4秒)はTUT(Time Under Tension)がFEグループの約2倍となり、有意に高かった。

- 両グループともに1RMが有意に増加。
- SEグループは11.1 kg(+12.0%)の増加(効果量ES = 1.60)、FEグループは5.6 kg(+5.5%)の増加(ES = 0.99)。
- グループ間比較では、SEグループの増加量はFEグループよりも有意に大きかった。

- 両グループともに大腿四頭筋全体の断面積が有意に増加(グループ間で有意差なし)。
- 外側広筋の断面積は、SEグループのほうが大きく増加した(SE: 18.2 mm²増加、FE: 7.4 mm²増加、p < 0.05)。

- 両グループともに大腿直筋の放射変位(Dm)が有意に減少し、筋硬度の増加を示唆。
- SEグループでは、大腿直筋および外側広筋の収縮時間(Tc)が有意に増加し、遅筋線維の割合増加を示唆。
- FEグループでは、収縮時間Tcの変化は有意ではなかった。



<下ろし2秒 vs 下ろし4秒 vs 下ろし6秒>

(2)The Effects of Eccentric Contraction Duration on Muscle Strength, Power Production, Vertical Jump, and Soreness
https://journals.lww.com/nsca-jscr/fulltext/2017/03000/the_effects_of_eccentric_contraction_duration_on.25.aspx

被験者:トレーニング歴有りの若い男性 平均23歳

グループ分け:
下ろし2、4、6秒でグループ分け

どのグループも、ボトム0秒、上げ2秒、トップ1秒は共通。

種目:スミスマシンスクワット。1RM測定で膝の角度が80-90度で成功判定と書かれているけど、トレーニングセッションでの深さは不明(普通に考えれば1RMの基準と同じでパラレル少し上)

トレーニング内容:
6レップ×4セット@80–85%1RM (この強度だと4秒、6秒は4セット完遂がほぼ無理なので途中で重量調整したとのこと)
セット間インターバルは3分。週2回、4週間。


結果:
スクワット1RM
下ろし2秒 124→135kg +8.9%
下ろし4秒 129→146kg +13.2%
下ろし6秒 118→133kg +12.7%

垂直跳び
下ろし2秒 66→69cm +4.5%
下ろし4秒 69→70cm +1.4%
下ろし6秒 61→62cm +1.6%

パワー測定(45%1RMの強度、膝角度100度までしゃがんでからジャンプスクワット)
ピークパワー
下ろし2秒 940→1045W +11.2%
下ろし4秒 996→1078W +8.2%
下ろし6秒 864→952W +10.2%

ピーク速度
下ろし2秒 1.71→1.75m/s +2.3%
下ろし4秒 1.71→1.68m/s -1.6%
下ろし6秒 1.66→1.61m/s -3.0%

平均パワー
下ろし2秒 531→588W +10.7%
下ろし4秒 576→624W +8.3%
下ろし6秒 498→537W +7.8%


スクワット1RMは下ろし2秒よりも、4秒、6秒のほうがやや有利か?(グループ間で有意差なし)。ジャンプ力、ピーク速度は2秒下ろしグループのみ伸びた。



<下ろし2秒 vs 下ろし4秒>

(3)Effects of Prolonging Eccentric Phase Duration in Parallel Back-Squat Training to Momentary Failure on Muscle Cross-Sectional Area, Squat One Repetition Maximum, and Performance Tests in University Soccer Players
https://journals.lww.com/nsca-jscr/fulltext/2021/03000/effects_of_prolonging_eccentric_phase_duration_in.12.aspx

被験者:大学の若いサッカー選手(19-21歳) 継続的な筋トレ歴なし

グループ分け:
- エキセントリック2秒 コンセントリック2秒
- エキセントリック4秒 コンセントリック2秒

種目:パラレルスクワット

トレーニング内容:
3セット@75%1RM 限界まで(下ろし2秒グループは1セット目に16レップ出来ているので実際は60-65%1RMだと思う)
セット間インターバルは3分
週2回 6週間


結果:
この研究は、下ろし2秒のほうが1RMの伸びが大きかった(有意差あり)。

スクワット1RM
下ろし2秒 +18.5%
下ろし4秒 +10.1%

トータルレップ数は、下ろし2秒のほうが35%多かった。下ろし2秒に比べて、下ろし4秒のTUTが13%しか増えていない。被験者の筋繊維が速筋型で、ゆっくり下ろしトレーニングの適性が低かったのかもしれない。もしくは、レップ数が多くてセットの時間が長くなり、先に心肺と体幹に限界が来たのかも(下ろし4秒の1セット目は12.9レップ×6秒で77秒かかっている)。

スクワットジャンプ、垂直跳び(CMJ)、大腿の筋肥大は、グループ間で有意差なし。



<挙上最速 vs 挙上ゆっくり>

(4)Effect of Movement Velocity during Resistance Training on Neuromuscular Performance
https://paulogentil.com/pdf/Effect%20of%20Movement%20Velocity%20during%20Resistance%20Training%20on%20Neuromuscular%20Performance.pdf

被験者:若い男性 平均23歳 トレーニング歴有り

グループ分け:
- コンセントリック最速
- コンセントリックゆっくり挙上(最速の半分の速度)

種目:フルスクワット(スミスマシン)

トレーニング内容:
3-4セット@60-80%1RM
レップ数は、どの強度でもRMの半分弱(途中での速度低下を防ぐため追い込み度が低い) 
週3回 6週間

結果:
スクワット1RM
- コンセントリック最速 89.2→105.2kg +18.0%
- コンセントリックゆっくり 94.8→104.0kg 9.7%

垂直跳び
- コンセントリック最速 36.6→39.9cm +8.9%
- コンセントリックゆっくり 40.7→41.7cm 2.4% 

1RM、ジャンプ力、挙上速度ともに最速挙上のほうが伸びが良かった。パフォーマンス面でコンセントリックをゆっくりやるメリットは無さそう。

コンセントリック最速グループでは、初期のジャンプ力が高い被験者ほど、ジャンプ力の伸びが大きい傾向だった。コンセントリック最速の挙上は、速筋型の人のパフォーマンスを上げやすい可能性がある。

コンセントリック速度の筋肥大への影響は不明。過去の研究を調べると、実験デザインがバラバラ。重量を揃えて限界までやれば、コンセントリックの挙上速度の違いで筋肥大にはおそらく差はでない。10レップ@50%1RMとかだと、普通のテンポだと追い込み度が低すぎるので、ゆっくりやったほうが筋肥大しやすいと思われる。



<ニーエクステンション 下ろし2秒 vs 下ろし4秒>

(5)Effect of different eccentric tempos on hypertrophy and strength of the lower limbs
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8919893/

被験者:若い男女 トレーニング歴無し 平均25歳

グループ分け:
- エキセントリック2秒→コンセントリック1秒
- エキセントリック4秒→コンセントリック1秒

種目:ニーエクステンション

トレーニング内容:
5セット@70%1RM 限界まで
週2回 8週間

結果:
大腿四頭筋全体、大腿直筋、外側広筋、内側広筋の筋肥大を測定。
内側広筋のみエキセントリック4秒の方が、より筋肥大したという結果に。他の項目はグループ間で有意差なし。



まとめ

スクワットのテンポの目安を、1RM、筋肥大、瞬発力に分けて書きます。


<1RMの向上>

挙上(コンセントリック)は最速が推奨です。意図的にゆっくり挙上するメリットは無いと思います。

下ろし(エキセントリック)は、2-3秒が多くの人にとってスイートスポットだと思われます。1秒で下ろすのは、筋肉からテンションが抜けやすく、膝への負担が大きいので止めたほうが良いでしょう。

おそらく、下ろし4秒くらいでも1RMは向上しやすいと思いますが、2秒くらいで下ろすのに比べてレップ数が大幅に低下するなら、スローテンポへの適性が低いと思われるので止めたほうが良いです。特に、強度が低くて、セット時間が1分を大幅に超えるような設定だと、体幹や心肺が先に限界を迎えて、下半身の筋肉への負荷が不十分になる可能性があります(ただ、現実のトレーニングだと、1RM向上狙いで実験のような低い強度設定は行わないですが)。



<大腿四頭筋の筋肥大>

基本的に、挙上は最速で良いです。10レップ@50%1RMといった設定なら、スロトレ的にコンセントリックもゆっくりやって、追い込み度を上げたほうが、筋肥大効果が高まる可能性はあります(十分な負荷が用意できない環境や、関節に負担をかけたくない場合)。

下ろしは、1秒でも2秒でも4秒でも、限界までやれば大腿四頭筋全体の筋肥大は同等だと考えられます。4秒だと、内側広筋や外側広筋が優先的に筋肥大する可能性があります。ただ、セット時間が長すぎると体幹や心肺が先にギブアップするので、もし外側広筋や内側広筋の筋肥大を狙う場合は、レッグエクステンションなどのマシンでスローエキセントリックを行うと良いでしょう。

筋肥大のためのテンポ設定では、ボリュームと、TUT(筋肉にテンションがかかる時間)の両方をバランスよく考える必要があります。

エキセントリックを自由落下させてレップ数を稼いでも筋肥大効果が高まるわけではないし、ゆっくり上げ下げしてTUTを大幅に長くしても、それに比例して筋肥大効果が高まるわけでもないです。関節への負担、精神的なキツさ、トレーニングの継続可能性を考慮しながら、筋肉に十分な刺激が入るテンポに設定していくと良いでしょう。



<瞬発力の向上>

挙上は最速が推奨です。

下ろしは、1-2秒が良いでしょう。ゆっくり下ろすと、ジャンプ力が伸びにくく、筋肉の収縮速度が低下する可能性があります。



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