6/07/2017

ストレッチとウォームアップ

★静的ストレッチによる短期的なパフォーマンス低下
静的ストレッチを行ってすぐに運動をした場合、パワー(ジャンプ力など)、ストレングス(1RMなど)、スピード(スプリントなど)が低下することを示す研究が多くある。

中高レップのレジスタンストレーニングの最大レップ数も低下する可能性がかなり高い。筋トレの直前に静的ストレッチを行うと、行わなかった場合に比べてトレーニングボリュームが低下し、筋肥大効果も低くなることを示す研究もある。

静的ストレッチを長い時間(30-60秒以上)やったり、痛みが強くなるレベルまでハードにやると、パフォーマンスが大きく低下する傾向がある。


★静的ストレッチの長期的な効果
静的ストレッチを長期的に行うと、柔軟性が向上する。運動パフォーマンスの低下は無いとする研究が多い。

静的ストレッチを数週間続けると筋力が向上したという研究がいくつかある。だがこれはエキセントリックトレーニングと似たメカニズムで筋肉に負荷がかかったためだろう。普段から筋トレしている人にとっては、ストレッチでの負荷では過負荷にならないので、筋力向上や筋肥大は起きないと思う。

長期的な静的ストレッチによる身体の変化を考えると、理論的には運動パフォーマンスに微妙な影響が出るかもしれない。長期的な静的ストレッチでエキセントリックトレーニングと同様に筋肉の長さがが変わる可能性があって、そうすると最も力を発揮できる筋肉の長さ(関節の角度)も変わる。また筋肉が長くなったり羽状角が小さくなったりするとスプリントに有利になると考えられる。ストレングス競技には不利になるかもしれない。それとRFDが低下する可能性がある。実践面では、競技に必要な関節の可動域を得たら、あとはそれを維持する程度に静的ストレッチを行えば良いだろう。


★動的ストレッチの効果
動的ストレッチは可動域を拡げつつ、運動パフォーマンスを向上させる。運動パフォーマンスの向上は、ウォームアップとしての効果があるからだろう。身体があたたまるし、筋肉に刺激が入って力を発揮しやすくなる。ただ強度の高い運動をするなら、動的ストレッチだけではウォームアップとしては不十分だろう。

動的ストレッチは長期的に行っても、柔軟性の向上は起こらないようだ。長期的に柔軟性を向上させるには、静的ストレッチかフォームローラーが良いだろう。


★ストレッチが筋肉-腱に及ぼす影響の推定メカニズム
一つだけが正しいわけではなくて複合的な効果と思われる。途中でこの分野の深さと広さについていけなくなった。間違いがあったら申し訳ないです。
- 神経-筋肉がリラックスする説。持続時間は短期か。
- 筋肉-腱が伸ばされるときの抵抗が小さくなる説。持続時間は短期と長期か。
- 筋肉が伸ばされると身体が筋肉断裂の警告を痛みとして発するのだけど、ストレッチでこの痛みに慣れることで警告が発せられるラインを引き上げる説。このメカニズムだけだと本当に筋肉が断裂しちゃったりする危険域は変わらないので、警告から断裂までの安全マージンが小さくなり、筋肉が伸ばされる競技だと怪我のリスクが上がるかもしれない。持続時間は短期と長期か。
- 筋肉-腱の粘弾性が低下する説。エキセントリックからコンセントリックに移る際に弾性エネルギーの蓄積が減り、コンセントリックフェーズでの力の発揮が低下する可能性。筋肉-腱が伸びたゴムみたいになる。持続時間は短期か。
- 筋節が直列に追加されて筋肉が長くなる説(長期的な効果)。人間が行う普通のストレッチで起こるか疑問だという考察もあるけど、エキセントリックトレーニングで筋束が伸びることが示されていてそれは筋節の追加によるものだと推測されているので、静的ストレッチでも筋節が追加されて伸びるのではないだろうか。2017年の研究でも長期的な静的ストレッチで筋束が伸びることが示されている。


★怪我のリスク
怪我のリスクについては、運動前にストレッチしても特に怪我のリスクが低下するわけではない、とする研究が多い。

メカニズム的には、運動前に静的ストレッチをやりすぎると神経-筋肉の反応が遅れ、咄嗟の動きが鈍くなって怪我リスクあがる可能性がある。また上記のように安全マージンが小さくなって、競技によっては筋断裂リスクが上がる可能性もあるだろう。


以上がストレッチについての予備知識。それではストレッチをやったほうが良いのかどうかを考えていく。


★運動前にやるべきこと
ウォームアップ以外で運動前にやるべき準備を三つ挙げると、

(a) 可動域の確保
これから行う運動に必要な関節の可動域を確保する。

(b) アラインメントの修正
アラインメント(身体のパーツの配列)に異常がある場合、簡単に言えば姿勢が悪い場合は、なるべく正常に近づける。

(c) 筋肉・筋膜のインバランスの修正
緊張して固くなっている筋肉・筋膜を緩める。緩んで伸びている筋肉に活を入れる(これはストレッチでは無理だけど)。

関節の可動域が足りないと、運動でパフォーマンスを発揮しにくくなったり、怪我をしやすくなったりする。例えば股関節の可動域が足りないままデッドリフトを行うと、背中を丸めてバーに手を届かすことになり、腰を痛めやすくなる。またアラインメントと筋肉・筋膜のバランスが悪い状態でトレーニングすると、過度に使われている筋肉ばかりを悪い姿勢のまま使うことになり、症状が悪化してしまう。

(a)は静的ストレッチでも動的ストレッチも効果があるが、動的ストレッチはパフォーマンス低下が起こらないので、可動域の確保のみ必要な場合は動的ストレッチを行ったほうが良いだろう。静的ストレッチの役割は(b)と(c)になる。これらは動的ストレッチでは出来ないだろう。フォームローラーも(a)(b)(c)の効果があるので併用すると良いだろう。フォームローラーは運動パフォーマンスの低下がないようなので、フォームローラーだけで目的を達成できる部位は静的ストレッチより優先したほうが良いかもしれない。

どの部位をどうストレッチすべきかは、その人のコンディションと行う運動次第になる。良いコンディションの人はウォームアップを兼ねて軽く動的ストレッチをするだけで良いだろう。ただ、何の対策もなしにアラインメントと筋肉・筋膜のバランスが良好になっている人はそれほどいない。


★ストレッチを行う具体例
運動前の静的ストレッチは、ストレッチされた筋肉のストレングスやパワーを低下させる可能性が高いが、どの筋肉をストレッチする必要があるのかどうかよく考える必要がある。研究のようにレッグエクステンションの直前に大腿四頭筋を静的ストレッチするなら、レッグエクステンションの1RMもトレーニングボリュームも低下するだろう。しかし、レッグエクステンションの前に大腿四頭筋を静的ストレッチする必要があるのだろうか? 普通は何もしなくても膝の屈曲の可動域はレッグエクステンションには十分だろう。

次に筋トレの複合種目について考えてみる。

例えばスクワットで、ハムストリングが固くて股関節の可動域が足りない場合はハムストリングをストレッチする。フォームローラーも好ましい。仮に静的ストレッチでハムストリングの筋力がわずかに低下しても、ハムストリングの強さはスクワットのボトルネックにはならないだろうからスクワットの重量は低下しないだろう。

骨盤が前傾している場合は、トレーニング前に股関節の屈筋を静的ストレッチしてこれらの筋肉を緩め、同時に臀筋に力をいれて活性化させると良い。股関節の屈筋には大腿直筋も含まれ、大腿直筋は大腿四頭筋の一部なので、大腿直筋を静的ストレッチしてそのまますぐスクワットするとパフォーマンスが低下する可能性がある。

典型的な猫背・巻き肩姿勢の人は、肩のトレーニングをする際はフォームローラーなどで胸椎を伸ばし、静的ストレッチで大胸筋や広背筋を伸ばすと良いだろう。ベンチプレスなど胸のトレーニングも行う場合は、動的ストレッチやフォームローラーのみで姿勢がよくなるなら、大胸筋はこれらの手段で柔軟性を高めるのが良いだろう。

また長時間のデスクワークなど、一定の姿勢を取り続けた後は、短縮ポジションに置かれた筋肉をストレッチしてやると良い。

どういうコンディションの人が、何の運動ために、どの筋肉をストレッチするのかを考えてみれば、ストレッチの善悪を単純に論じることは意味をなさないことがわかると思う。

猫背・巻き肩や骨盤の前傾・反り腰など、筋トレをやっている人に多く見られるインバランスの矯正方法については以下を参照に。

参考記事:バランスの取れたトレーニング種目の選択-メカニズム編-

参考記事:バランスの取れたトレーニング種目の選択-エクササイズ編-

参考記事:股関節の前側(腿の前側の付け根)の痛み

参考記事:胸椎の姿勢矯正

参考記事:骨盤の前傾の矯正

参考記事:懸垂のやり過ぎによる怪我リスク(肘と肩)

参考記事:ショルダープレス


★ウォームアップによるパフォーマンス低下の回復
主働筋を静的ストレッチする場合は、静的ストレッチのあとに全身ウォームアップと競技特有のウォームアップを行うことで運動パフォーマンスを戻せるようだ。完全に戻るかどうかは、ストレッチの強度やウォームアップの程度やストレッチからトレーニングまでの時間間隔や求められるパフォーマンスによるだろう。

静的ストレッチ後の運動パフォーマンス回復についての研究結果を見てみると、
- 何もしなくても10-15分位である程度はパフォーマンスが戻る。
- 静的ストレッチの後にジョグや動的ストレッチをするとある程度戻るが動的ストレッチのみの場合に劣る。
- 静的ストレッチの後に競技特有のウォームアップをすると動的ストレッチと差なしになる。
- 先にウォームアップしてから静的ストレッチすると静的ストレッチのパフォーマンス低下が残る。

実際の運用面では、必要があれば静的ストレッチやフォームローラーを行って、その後に動的ストレッチを行い、5-10分の軽い有酸素運動を行って、最後に競技特有のウォームアップを行えば、静的ストレッチによる運動パフォーマンス低下は無くなっていると思われる。従って、この順序でストレッチとウォームアップを行うのが望ましいだろう(下図参照)。

運動前の静的ストレッチは一部位1セットあたり10-20秒程度を2,3セット、ゆっくりと伸ばしていき心地よい痛みを感じる程度にしておくとパフォーマンスが低下しにくいだろう。運動前以外のタイミングでの静的ストレッチは30秒程度行ったほうが、長期的な柔軟性の向上が高くなるだろう。

ウォームアップでは体温上昇と脈拍上昇、それと運動に必要な特定動作の予習(フォーム確認と力の発揮)を行う。

筋トレでの競技特有のウォームアップは、コンパウンド種目(BIG3など)のウォームアップになる。トレーニング重量の50%くらいで10レップくらい→75%くらいで5レップくらい→トレーニング重量付近もしくは90%1RMくらい(PAP狙い)で1-3レップといった一般的なやり方を参考にして、自分がやりやすい方法で行うのが良いだろう。




参考文献:
The Effects of Stretching on Performance
http://journals.lww.com/acsm-csmr/Fulltext/2014/05000/The_Effects_of_Stretching_on_Performance.12.aspx

The Effects of Stretching on Strength Performance
https://www.researchgate.net/publication/6479273_The_Effects_of_Stretching_on_Strength_Performance

Effect of acute static stretch on maximal muscle performance: a systematic review.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21659901

Effect of the flexibility training performed immediately before resistance training on muscle hypertrophy, maximum strength and flexibility.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28251401

Acute and chronic effects of a static and dynamic stretching program in the performance of young soccer athletes
http://www.scielo.br/scielo.php?pid=S1517-86922013000400003&script=sci_arttext&tlng=en

Influence of strength and flexibility training, combined or isolated, on strength and flexibility gains.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25268286

長期的なストレッチが筋力に及ぼす影響―他動ストレッチと自動ストレッチでの検討―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2013/0/2013_0569/_article/-char/ja/

Does stretching really change muscle length?
https://www.strengthandconditioningresearch.com/2013/11/18/stretching/

Stretch training induces unequal adaptation in muscle fascicles and thickness in medial and lateral gastrocnemii
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/sms.12822/abstract

Acute Effects of Foam Rolling, Static Stretching, and Dynamic Stretching During Warm-Ups on Muscular Flexibility and Strength in Young Adults.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27736289

THE EFFECTS OF SELF‐MYOFASCIAL RELEASE USING A FOAM ROLL OR ROLLER MASSAGER ON JOINT RANGE OF MOTION, MUSCLE RECOVERY, AND PERFORMANCE: A SYSTEMATIC REVIEW
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4637917/

Negative effect of static stretching restored when combined with a sport specific warm-up component.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18768355

Secondary warm up following stretching on vertical jumping, change of direction and straight line speed
https://www.researchgate.net/profile/Alan_Pearce/publication/232896502_Secondary_warm-up_following_stretching_on_vertical_jumping_change_of_direction_and_straight_line_speed/links/02bfe50e609bc244f3000000/Secondary-warm-up-following-stretching-on-vertical-jumping-change-of-direction-and-straight-line-speed.pdf

3 件のコメント:

  1. フォームローラーを使ったことないんですが、静的ストレッチ並に可動域は広がるのでしょうか。

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  2. Acute Effects of Foam Rolling, Static Stretching, and Dynamic Stretching During Warm-Ups on Muscular Flexibility and Strength in Young Adults.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27736289

    この研究だと、フォームローラーの方が、静的ストレッチと動的ストレッチよりも柔軟性が高まったという結果が出ています。

    本文読めないのでそれぞれの方法にどれだけ時間をかけたかは不明です。静的ストレッチは時間をかければそれだけ柔軟性が高まるので、かける時間次第では結果がひっくり返るかもしれません。ただ静的ストレッチは長時間やるとそれだけ運動パフォーマンスが低下するのであまり現実的ではないでしょう。

    動的ストレッチは長時間やっても柔軟性には違いがない上、無駄に疲れるので運動パフォーマンスが低下するようです。
    Acute effects of different volumes of dynamic stretching on vertical jump performance, flexibility and muscular endurance.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24438386

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  3. 返信ありがとうございます、以前からフォームローラーには興味があったので試してみたいと思います。

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