同系統内でトレーニグ種目を選ぶ時の、私の考え方を書いていきます。状況や目的にあった種目を選ぶと、リスクを抑えながら効果を得やすくなる、という話です。
流れとしては、同系統内でトレーニグ種目をいくつかの項目で評価していき、トレーニグをする人の状況や目的と照らし合わせて適切な種目を選択していこう、というものです。
トレーニグ種目の評価項目
同系統内の種目間での相対評価で、各項目のポイントをつけていきます。例えば、バックスクワットとゴブレットスクワットを比較する、ベンチプレスと腕立て伏せを比較する、といった感じです。
・身体機能向上効果
そのトレーニグ種目を続けることで、身体機能の向上はどのくらい期待できるのか。または、身体機能の低下リスクはあるのか。身体機能向上が期待できるなら高ポイント、身体機能低下リスクがあるなら低ポイントです。
・主働筋の筋肥大効果
この項目の評価基準は、「そのトレーニグ種目を続けることで、主働筋の肥大がどのくらい期待できるのか」です。主動筋の筋肥大効果が高い場合は高ポイントです。
・漸進的過負荷の容易さ
漸進的過負荷が容易なほうが高ポイントです。例えば、ベンチプレスは漸進的過負荷の実現が容易ですが、腕立て伏せはある程度の筋力になると漸進的過負荷を続けるのが難しくなります。漸進的過負荷が容易なほうが幅広い層に対応できます。ただ、筋肥大やストレングスの向上を追い求めない人にとっては、あまり気にしなくても良い項目です。
・安全性
怪我リスクが低くて安全だと高ポイント、怪我リスクが高いと低ポイントです。効果が同じなら、怪我リスクは低いほど良いです。
・器具へのアクセス
多くのジムに器具が置いてあって、実施するのが容易な場合は高ポイントです。どんなに優れた種目でも、器具がない場合は実施不可能です。例えば、セーフティースクワットバーでのスクワットや、トラップバーでのデッドリフトは素晴らしい種目ですが、滅多に器具が無いです。
・スキル習得のしやすさ
その種目を良いフォームで実施できるようになるのが簡単か難しいか。簡単なほうが高ポイントです。トレーニグは何らかの効果を得るための手段なので、スキルの習得は容易であるほうが望ましいです。
・身体機能面で万人向けか
例えば、オーバーヘッドスクワットは肩周りや背骨の可動性・安定性といった面で、高いレベルの身体機能が求められます。バックスクワットも、ある程度の肩周りの可動性が必要です。高いレベルの身体機能が要求される種目は万人向けではないので低ポイント、幅広い身体機能レベルの人が実施可能な種目は高ポイントです。
実際の評価例
すべての種目を網羅的に評価していくのは難しいので、いくつか例を書きます。5段階で相対評価、ざっくりと主観でポイントをつけていきます。
<スクワット系>バックスクワット、セーフティースクワットバーでのスクワット、ゴブレットスクワット、レッグプレスを比較。
バックスクワット | セーフティースクワットバー | ゴブレットスクワット | レッグプレス | |
身体能力向上 | 5 | 5 | 5 | 3 |
主働筋の筋肥大 | 4 | 4 | 4 | 5 |
漸進的過負荷 | 5 | 5 | 3 | 5 |
安全性 | 3 | 4 | 4 | 5 |
器具へのアクセス | 3 | 1 | 5 | 5 |
スキル習得 | 3 | 4 | 4 | 5 |
万人向けか | 3 | 4 | 4 | 5 |
各種目の違いをざっと書いていくと、
・バックスクワットは漸進的過負荷が容易で、器具が置いてあるジムが多いのがメリットですが、求められる身体機能レベルが高い、手首や肘や肩周りの怪我リスクがある、スキル習得が難しいといった点がデメリットです。
・セーフティースクワットバーでのスクワットは漸進的過負荷やスキル習得が容易で、手首・肘・肩周りに余計な負荷がかからないのがメリットですが、器具へのアクセスが難しいのがデメリットです。
・ゴブレットスクワットは求められる身体機能レベルが高くなく、スキル習得が容易なのがメリットですが、漸進的過負荷が難しいのがデメリットです。
・レッグプレスは求められる身体機能が低くてスキル習得が容易、体幹の制約なしに脚や尻の筋肉に負荷をかけやすいのがメリットですが、身体能力向上効果が低いのがデメリットです。
運動不足の初心者や、元気に日常生活を送れるくらいの筋力があれば良いという人の場合は、高重量でのトレーニグは必要ないので、ゴブレットスクワットかレッグプレスが良いでしょう。ゴブレットスクワットが問題なくできるコンディションなら、レッグプレスよりもゴブレットスクワットをやったほうが身体能力向上が期待できます。
漸進的過負荷を続けて筋肥大とストレングス向上を追求する場合は、ゴブレットスクワットは適していません。セーフティースクワットバーが使えるなら良いですが利用できるケースは少ないので、多くの場合はバックスクワットとレッグプレスが適した選択肢になります。
<ベンチプレス系>
ベンチプレス、ダンベルプレス、腕立て伏せ、チェストプレスマシンを比較。
ベンチプレス | ダンベルプレス | 腕立て伏せ | チェストプレス | |
身体能力向上 | 3 | 3 | 5 | 2 |
主働筋の筋肥大 | 4 | 5 | 4 | 4 |
漸進的過負荷 | 5 | 3 | 2 | 4 |
安全性 | 3 | 3 | 4 | 5 |
器具へのアクセス | 4 | 5 | 5 | 5 |
スキル習得 | 3 | 3 | 4 | 5 |
万人向けか | 3 | 4 | 4 | 5 |
・ベンチプレスは漸進的過負荷が容易なのがメリットですが、上腕骨と肩甲骨の動作を切り離すことによる肩関節の機能低下リスクがあることや、ある程度のアーチを作れる身体機能が要求されるのがデメリットです。
・ダンベルプレスは大胸筋に効かせやすいのがメリットですが、漸進的過負荷の容易さがベンチプレスに劣る点がデメリットです。
・腕立て伏せは上腕骨と肩甲骨を連動させることで肩関節の機能を保ちやすいのがメリットですが、漸進的過負荷が難しいのがデメリットです。
・チェストプレスマシンはスキル習得が容易なのがメリットですが、身体能力向上効果が低いのがデメリットです。
運動不足の初心者や、元気に日常生活を送れるくらいの筋力があれば良いという人の場合は、高重量でのトレーニグは必要ないので、腕立て伏せやチェストプレスマシンが良いでしょう。腕立て伏せのほうが身体能力向上が期待できるので、できるなら腕立て伏せのほうが望ましいです。床に膝をついたり、ベンチに手を乗せて斜めになって行うなどすると、負荷を調整できます。
筋肉量が欲しい場合は、ベンチプレスが適していることが多いです。私はある程度の筋肉量が欲しいのと肩機能をシビアに考える必要がないので、ベンチプレスをやっています。ただ肩を壊したくはないので、肩機能維持のためのメンテナンス種目もやるようにしています。肩機能をシビアに考える必要のある競技のアスリートの場合は、上腕骨と肩甲骨を連動して動かせて、なおかつ漸進的過負荷がある程度は可能な種目をおこなったほうが良いでしょう。例えば、片手ランドマインプレスやケーブルクロスオーバーなどです。
<デッドリフト系>
バーベルでの床引きデッドリフト、ラックプル、トラップバーでの床引きデッドリフト、ダンベルを床に縦に置いてのダンベルデッドリフトを比較。
バーベルデッドリフト | ラックプル | トラップバーデッドリフト | ダンベルデッドリフト | |
身体能力向上 | 5 | 4 | 5 | 5 |
主働筋の筋肥大 | 5 | 4 | 5 | 5 |
漸進的過負荷 | 5 | 5 | 5 | 2 |
安全性 | 3 | 4 | 4 | 4 |
器具へのアクセス | 3 | 3 | 1 | 5 |
スキル習得 | 3 | 4 | 4 | 5 |
万人向けか | 3 | 5 | 5 | 5 |
・バーベルでの床引きデッドリフトは漸進的過負荷が容易なのがメリットですが、股関節の可動域(骨の噛み合わせと筋肉の柔軟性)の問題で万人向けでないことやスキル習得が難しいことがデメリットです。
・ラックプルは漸進的過負荷が容易なことや股関節の可動域が狭い人でも実施できることがメリットですが、可動域を狭くすることで筋肥大効果が少し低下するのがデメリットです。
・トラップバーデッドリフトは漸進的過負荷が容易なことや股関節の可動域が狭い人でも実施できることがメリットですが、器具へのアクセスが難しいことがデメリットです。
・ダンベルデッドリフトは器具へのアクセスが容易なことやスキル習得しやすいことがメリットですが、漸進的過負荷が難しいことがデメリットです。
適した種目を選ぶ
上の例で見てきたようにどの種目も一長一短で、どれが最も優れた種目か決めることはできません。決めることができるのは、「トレーニグをする人の状況や目的にフィットした種目はどれなのか」です。
上で挙げた評価項目と種目例は、普通のジムで趣味で筋トレをする人を想定したものです。なにかスポーツをやっていて、その競技のパフォーマンス向上のために筋トレをする場合は、評価項目や選択肢になる種目が違ってくることもあります。例えば、競技のために筋トレをする場合は、疲労の残りやすさ、時間効率(複数の動作・筋肉をまとめて鍛えられると時間効率が高い)、競技へのキャリーオーバー(パフォーマンス向上効果)がどのくらいあるか、といった点も重要な評価項目になるでしょう。
しかし、考え方は同じです。項目ごとに評価して、状況と目的にフィットした種目を選択する、もしくは種目を作り出す。例えば、このEric Cresseyの記事ですが、主なターゲットが野球選手なので、肩関節の機能維持・向上や全身の回旋動作を鍛えることを重要視した種目になっています。
代替種目や調整方法があるかを考える
トレーニグを始める前に、その種目が本当に適切な種目なのかを考えます。
「より低リスクで、その人の状況と目的にあった効果を得られる種目は他にあるか?」
「微調整することで、効果をあまり落とさず、より低リスクにできるか?」
「トレーニグがマンネリになってきた時に、リスク・リターンをあまり変えずに種目にバリエーションをもたせることはできるか?」
運動不足の初心者や、元気に日常生活を送れるくらいの筋力があれば良いという人の場合は、高重量でのトレーニグは必要ないので、ゴブレットスクワットや、ダンベルを床に縦に置いてのデッドリフト、腕立て伏せをすると良いでしょう。スキル習得の容易さや身体機能向上効果といった面では、これらの種目のほうがバーベル種目より優れています。
高重量が必要だけど、股関節の骨のかみ合わせの問題で床引きデッドリフトや深いスクワットが難しい場合、腕が長く胸板が薄くてフルレンジのベンチプレスだと肩関節に負荷がかかりすぎる場合は、動作範囲を調整すると良いでしょう。
コンベンショナルスタイルのデッドリフトを続けていてマンネリ気味のときは、スモウデッドリフトを取り入れてみるのも良いと思います。
また、趣味で筋トレをする人が、「広背筋に効かせるために背中を反った懸垂・ラットプルダウン」や、「背中の筋肉や僧帽筋に効かせるためにトップポジションで背中を反って肩甲骨を寄せるデッドリフト」をするのに対して私は否定的なのですが、それは背中ニュートラルでやっても筋肥大効果の差は僅かだと考えられるためです。ボディビルダーやフィジーカー以外の人にとって、身体機能低下や怪我のリスクを負ってまで「特定の筋肉に効かせるフォーム」でコンパウンド種目を実施するのはリスク・リターンの面で割に合わないです。
トレーニグの目的を明確にして種目選択をしていくと、低いリスクで高いリターンを得やすくなります。なんとなく種目を選んだり、YouTubeのボディビルダーやフィジーカーの真似をする前に、トレーニグの目的とそのやり方が一致しているのか考えて選択していくと良いと思います。
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