2/27/2021

バックスクワットのバーを担ぐ位置とフォームの違い

バックスクワットはハイバーで担いでも、ロウバーで担いでも、フォームは大して変わらない・・・という内容です。

もちろんバーのポジションの影響はゼロではなくて、重心位置の違いの影響で、ある程度はフォームは変わります。ただ、一般的なイメージのハイバースクワットとロウバースクワットのフォームは、バーの位置で決まるわけではなくて、しゃがむ際の意識のほうが影響が大きいです。

<ハイバースクワットとロウバースクワットのイメージ>


バーを担ぐ位置の違いがスクワット動作に及ぼす影響を調べた研究がいくつかあって、しゃがむ深さとスタンスを揃えると、ハイバーとロウバーでは股関節や膝関節の角度に小さな違いしか出ないという結果になっています。




しゃがむ深さとスタンスを揃えてハイバーとロウバーを比較した研究


(1)Comparison of Muscle Activation and Kinematics in 6-RM Squatting with Low and High Barbell Placement
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7706642/
被験者:筋トレ経験のあるアスリート。多くの被験者が普段はハイバースクワットをしている。
方法:同じ被験者がハイバーとロウバーの両方をやって差を調べる。
重量:6RM
しゃがむ深さ:股関節が膝よりも下にくるまで。ハイバーとロウバーでしゃがむ深さは揃える。スタンスも揃える。

ボトムでの各関節の角度。ハイバーのほうが股関節の角度が大きく上体が起きているが差は小さい。バーを担ぐ位置は、スクワットのフォームにそれほど影響を与えない。

足首 股関節
ハイバー 59° 67° 79°
ロウバー 61° 71° 71°




(2)The Effects of Barbell Placement on Kinematics and Muscle Activation Around the Sticking Region in Squats
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7739732/
被験者:パワーリフター。普段のトレーニングでハイバーとロウバーをやっていて両方のテクニックに慣れている。
方法:同じ被験者がハイバーとロウバーの両方をやって差を調べる。ウェイトリフティングシューズ着用(踵が高いので膝を前に出しやすい)。
重量:5RM
しゃがむ深さ:股関節が膝よりも下にくるまで。ハイバーとロウバーでしゃがむ深さは揃える。スタンスも揃える。

ボトムでの各関節の角度。(1)の研究よりも差が小さい(ハイバーとロウバーで各関節角度に有意差なし)。

足首 股関節
ハイバー 70° 60° 65°
ロウバー 72° 62° 62°



ウェイトリフターとパワーリフターを比較した研究


(3)High- and low-bar squatting techniques during weight-training
https://www.lbs.co.il/data/attachment-files/2014/09/18060_lb_hb.pdf
被験者:ウェイトリフターとパワーリフター。
方法:ウェイトリフターがハイバースクワット、パワーリフターがロウバースクワットをやって差を調べる。
重量:65%1RM
しゃがむ深さ:パラレルとフルボトム

ボトム(パラレル)での各関節の角度。それぞれの競技に向いたフォームでスクワットをしているので、股関節の角度が大きく違う。


足首 股関節
ハイバー(ウェイトリフター) N/A 64° 69°
ロウバー(パワーリフター) N/A 69° 48°





担ぎ方が違ってもフォームが近いスクワットの実例

バーを担ぐ位置がフォームを決めるわけではないという実例です。 渋谷優輝選手はロウバー、John Haack選手はハイバーで担いでいますが、スクワットのフォームは似ています。


動画:スクワット!日本のトップパワーリフターから学ぶ
https://youtu.be/hfsdDGlhRSc?t=1030


動画:John Haack: 605lb Squat at 187lbs BW
https://youtu.be/YRDU9zRq-0U?t=68




筋肉への負荷のかかりかた

しゃがむ深さとスタンスを揃えた(1)(2)の研究ではEMGも測定していて、片方が(一般的なイメージ通りに)ハイバーのほうが大腿四頭筋の負荷が上がるという結果で、もう片方がどっちで担いでも差がないという結果になっています。

しゃがみ方(ウェイトリフター型かパワーリフター型か)、しゃがむ深さ、スタンスなどを揃えない条件でのハイバースクワットとロウバースクワットの筋肉活動を比較した研究はあるのですが、ワイドスタンスで尻を引くスクワットのほうが臀筋や内転筋や脊柱起立筋の活動が高まりそうといった程度しかわからないです。(3)の研究では、(一般的なイメージとは逆に)パワーリフターのロウバースクワットのほうが、ウェイトリフターのハイバースクワットよりも大腿四頭筋の活動レベルが高いという結果になっています。(4)の論文で関連研究をレビューしてくれているので参考まで。

EMGの研究は機器の測定精度の問題もありますが、それ以外にもしゃがむ深さや骨格によってどこの筋肉がどれくらい活動するか違ってきます。それと実験で使う重量の違いの問題もあって、コンパウンド種目は80%1RM程度の重量だと、関連する筋肉が均等に1RMの時の80%の出力を出しているわけではなくて、高い出力を出して挙上に大きく貢献する筋肉と、あまり出力を出さない筋肉があります(5)。1RMに近づくと関連する全部の筋肉が頑張って高い出力を出そうとします。したがって、80%1RMを1レップ測定したときの各筋肉のEMGと、1RMを測定したときの各筋肉のEMGを比較すると、他の条件が全く同じでも、スクワットではどこの筋肉が強く使われるか?という問いに別の答えが返ってきます。おそらく、80%1RMのハイバーとロウバーの筋肉活動の比較、1RMのハイバーとロウバーの筋肉活動の比較では違った結果が出てきます。(さらに実際の筋トレだと1レップ目とセットの終盤レップでは各筋肉の相対的な活動レベルが変わってきます)

他には尻は皮下脂肪が厚いので、臀筋の活動レベルは正確に測定しにくいという話もあります。そして、EMGの研究結果がそのままストレングス向上や筋肥大に結びつくのかはよくわかりません。

正直なところ、EMGの研究を調べるよりも、実際に自分で両方のスタイルのスクワットを試してみて、どこの筋肉が使われやすいか確かめたほうが手っ取り早いと思います。

トルク計算だと膝が少し前に出るハイバーのほうが大腿四頭筋に負荷がかかりやすく、股関節が少し後ろに出るロウバーのほうが股関節の伸筋(臀筋・ハムストリングス)に負荷がかかりやすいということになります。ただ、ハムストリングスやふくらはぎの筋肉は二関節筋で、膝関節においては大腿四頭筋の拮抗筋になっていて、これらの筋肉の収縮度合いが大腿四頭筋の発揮する力にも影響します(拮抗筋が強く収縮するほどそれを相殺する分の力を主働筋はプラスアルファで発揮しないといけない)。


ハイバーとロウバーどっちに担ぐ?

安全に担げるなら好みでどこに担いでもいいのですが、すべての人が両方の担ぎ方を問題なくできるわけではなく、制約がいくつかあります。

・肩周りの柔軟性
ロウバーのほうが高い柔軟性が要求されるので、柔軟性が足りない人はハイバーのほうが良いでしょう。

・肩・肘・手首に痛みが出ないか
これもロウバーのほうが痛みが出やすいです。痛みが出るならハイバーにしたほうが良いでしょう。

・僧帽筋上部の筋肉量
僧帽筋上部の筋肉量が少ないとハイバーで担いだ時に骨に当たって痛いことがあります。スクワットパッドを使うかロウバーにすると良いでしょう。

・上体の傾き
ハイバーで担ぎながら上体を深く傾けると首にバーベルの負荷がかかって危険なので、ハイバーでは上体をある程度起こす必要があります。上体を起こしやすい条件は、

- 足首の柔軟性が高くて膝が前に出る。

- 大腿が短くて胴体が長い。

- 大きく開脚している(スタンスが広い or つま先の開く角度が大きい)。

- バーベルの重量が非常に重い(バーベルが軽いと後ろに突き出した尻や胴体とバランスを取るためバーベルを少し前に出す必要がある)

足首が固い、大腿が長くて胴体が短い、スタンスが狭い、バーベルの重量が軽いといった人は上体の傾きが大きくなりやすく、ハイバーで担ぐと首にバーベルの負荷がかかるのでロウバーのほうが安全です。ただ、このタイプの人はロウバーにするとさらに上体が傾き、股関節の角度が鋭角になってスクワットがやりにくくなります(グッドモーニングみたいなスクワットになりやすいです)。出来れば、足首のストレッチをして膝を前に出せるようにしつつ、ハイバーの下のほうに担いでスクワットをするのがおすすめです。僧帽筋上部の上ではなくて中程にバーを置き、僧帽筋上部をクッションにしつつ肩甲骨と胸郭にバーの負荷を乗せます。こうすると上体を地面に対して60°くらいまで傾けても大丈夫になります(私はこのやり方をしています)。

上体が起きる場合は、ハイバーのほうがバーを支えやすいです(ロウバーで上体を起こすと後ろにバーが転がりそうになるため)。



尻を落とす?後ろに引く?

ハイバースクワット、ロウバースクワットと言う時、人によって「バーを担ぐ位置」のみを意味する場合と、「バーを高い位置に担いで尻を下に落とすスクワット」「バーを低い位置に担いで尻を後ろに引くスクワット」を意味する場合の両方があり、ややこしいです。個人的には、バーを担ぐ位置と、スクワットのしゃがみ方は切り離して記述したほうがすっきりするので、ここでは「尻を落として膝を前に出すスクワット」と「尻を後ろに引いて膝をあまり前に出さないスクワット」という書き方にします。

趣味の筋トレでスクワットをするなら、どのタイプのスクワットをするかは好みで良いと思います。どちらか一つを選ばないといけないわけでもないです。

鍛える動作のバランスと、オーバーユース(使いすぎ)を防ぐための関節と筋肉への負荷分散の観点からは、膝の伸展が強くなる動作と、股関節の伸展が強くなる動作の両方の種目をやったほうが良いので、

・デッドリフトをやっているなら、尻を下に落とすスクワットを中心にして、なるべく膝の伸展動作を鍛える。

・デッドリフトをやらないなら、
- 大腿が短い人は、身体の後ろ側(posterior chain)に比べて膝の伸展展作が強くなりやすいので、尻を後ろに引くスクワットをする。
- 大腿が長い人は、身体の後ろ側に比べて膝の伸展動作が弱くなりやすく、尻を後ろに引くと上体が大きく前傾するので、尻を下に落としてなるべく膝の伸展に負荷をかけるスクワットをする。

担ぎ方は痛みなどの制約がなければ、担ぎやすいほうにします。一般的には尻を下に落として膝を前に出すスクワットだと上体が起きるのでハイバー、尻を後ろに引く場合は上体の傾きが大きくなるのでロウバーで担ぐのがやりやすいです。上体の傾きの程度によってはどちらでも大丈夫な場合もあります。上体を起こし気味でロウバーにするときはバーが支えにくくないか、上体を傾け気味でハイバーにするときは首に負荷がいかないか、を考えると良いでしょう。


関連記事

バックスクワットでのバーベルの担ぎ方

スクワットの深さ


<参考文献>
(1)Comparison of Muscle Activation and Kinematics in 6-RM Squatting with Low and High Barbell Placement
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7706642/

(2)The Effects of Barbell Placement on Kinematics and Muscle Activation Around the Sticking Region in Squats
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7739732/

(3)High- and low-bar squatting techniques during weight-training
https://www.lbs.co.il/data/attachment-files/2014/09/18060_lb_hb.pdf

(4)A Review of the Biomechanical Differences Between the High-Bar and Low-Bar Back-Squat
https://www.researchgate.net/publication/317316691_A_Review_of_the_Biomechanical_Differences_Between_the_High-Bar_and_Low-Bar_Back-Squat

(5)Kinematic and Electromyographic Activity Changes during Back Squat with Submaximal and Maximal Loading
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5435978/

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