12/25/2021

スクワット時のヒップシフト(尻の横移動)の対処事例

スクワット時のヒップシフト(尻の横移動)の対処方法です。実際にパーソナルトレーニングを受けていただいた方の事例に基づいているので、ヒップシフトの方向、モビリティと筋力の左右差が違うパターンの人の場合は、そのまま適用すると悪化するケースもあるのでご注意ください。


今回のお客様の特徴


<動きや筋力の左右差>

・スクワットで立ち上がる時、きつくなってくると右方向へのヒップシフトが起こる。
・ヒップシフトと同時にバーが反時計回りに回旋する。
・デッドリフトでも左に重心が乗る感じがする。
・左脚に比べて右脚が細い。
・左側の尻と左下背部が発達している。
・ブルガリアンスクワットで右脚がきつい。
・椅子に座って脚を組む場合、右脚を上にしたほうが楽に組める。
・足首の柔軟性の左右差や、捻挫歴はなし。
・野球歴がある
・右投げ右打ち


<立位と寝た状態での姿勢>

・アラインメントと可動域は、リラックスした状態での左右差はあまり無い。
・股関節は両側とも外旋の可動域が広め。


<左右差の起こるポイントの確認>

・足や足首には問題無し。(足裏のアーチが潰れないか、足首のアラインメントはまっすぐか)
・股関節の筋肉は左側が強く、右側が弱い。そのため骨盤の横方向への移動や回旋が起きやすい。
・立った状態での骨盤の高低差は無し。ただランジなどの片脚種目だと、尻の内側と外側の筋力差のため骨盤が安定せず、骨盤が傾きやすい。
・上半身(胸椎・肋骨・肩甲骨)が反時計回りへの回旋が得意で、時計回りへの回旋が苦手。







ヒップシフトの推定メカニズム(股関節周り)

最初に、左右対称のスクワットでの、足、大腿骨、骨盤の図です。




今回のケースでの、足、大腿骨、骨盤の様子です。右足がやや前向きで、左足がやや開き気味のスタンスです。




ヒップシフト発生の想定メカニズムです。左の内転筋が強いため、骨盤を引きつけます。同時に、左側の脚と尻が強いため、左脚で強く踏み込み、骨盤の左側が斜め後ろに押されます。これにより骨盤が反時計回りに回旋します。足の中心線との比較だと、尻は右に移動しています。



もしもの話ですが、正面の鏡や壁に対して以下の図のようなスタンスを取ると、まったく同じ骨盤と脚の動きをしても、左へのヒップシフトが起こります。


これに近いケースが下の画像の動きです。骨盤がやや右を向いているので、時計回りの回旋に見えるかもしれませんが、大腿骨との相対的な位置関係では、骨盤は左に引き寄せられて、反時計回りに回旋しています。このタイプのヒップシフトの人が、バーと顔が正面の壁を向くようにしてスクワットをすると、下半身がこのようなポジションになりやすいです(私自身が以前このタイプで、このフォームになりやすかったです)。
動画:How to Fix Your Hip Shift with Dr. John Davidson
https://www.youtube.com/watch?v=R7GsEuRq1dQ


骨盤の回旋によるヒップシフトは、正確に表現すればヒップローテーションだと言えます。おそらくほとんどのヒップシフトのケースが骨盤の回旋によるものです。

骨盤の反時計回りの回旋を抑えるために鍛えたい筋肉は、右の内転筋、右の臀筋の内側、左右の臀筋の外側です。臀筋の外側は、骨盤の安定に重要ですし、ここが弱いと股関節の内側(内転筋)に過度に頼ることになり、スクワットで膝が内側に入りやすくなります(ニーイン)。また、左右の内転筋に筋力差があると、強い側に骨盤が引きつけられて、骨盤が回旋しやすくなります。





バーの回転(上半身の捻れ)

バーの回転は、骨盤の回旋に加えて、胸椎(胸の後ろの背骨)も反時計回りに捻れやすいことも影響していると考えられます。

今回のケースでは、胸椎、肋骨、肩甲骨とそれらの骨を動かす筋肉が、反時計回りに回旋するのが得意で、時計回りに回旋するのが苦手になっていました。

右利きのため右手を前に出す動作を日常的に行うのが多いこと、また野球(右投げ右打ち)で反時計回りに上半身を捻る動作を繰り返したことにより、反時計回りの回旋が得意になったと考えられます。



ヒップシフト改善のための具体的なトレーニング


<股関節の全般的なストレッチ>

股関節の全般的なストレッチを実施します。股関節は全方向に左右差なく動かせるのが理想です。


関連記事:股関節のストレッチ・ウォームアップ



<右の臀筋内側のアクティベート>

股関節屈筋(腸腰筋)のストレッチのポーズで、右尻の内側に強く力を入れて、後ろに押し込むように行うと、臀筋内側がアクティベートされて使われやすくなります。



<右の臀筋内側と右内転筋の強化>

種目をいくつか書きますが、毎回のトレーニングで全部をやる必要はなく、ターゲットの筋肉を意識しやすい種目を実施していくと良いでしょう。

・右脚前のスプリットスクワット
左手で右膝の内側を押して右内転筋で押し返し、右手で右臀筋の内側を触って、ここの筋肉に力が入っているかを確認しながら行います。左手を使うのは、上半身の捻れ対策の意味もあります。慣れてきたら手のサポートをなくします。負荷を上げたい場合は、ハイバースクワットと同じ担ぎ方でバーを担ぐと良いでしょう。骨盤や上半身が捻れていると、バーが回転するので、エラーが起こっているか確認しやすいです。

・右脚の片脚デッドリフト
左脚を少し前に出して、右臀筋の内側を意識しながら、右脚だけでの片脚デッドリフトを行います。負荷を上げたい場合は、左手にダンベルを持って、両足の間にダンベルを下げていくと良いでしょう。こうすると上半身の反時計回りの捻れ対策にもなります。

・右脚のピストルスクワット

なにかに掴まりながら、右臀筋の内側を意識して、右脚のピストルスクワットを行います。パラレル少し上くらいの深さが目標で、深くしゃがむ必要はないです。



・片脚ハムストリングスカール
右の内転筋・ハムストリングス内側・臀筋内側をまとめて鍛えられます。



片脚種目はいずれも、骨盤が傾かず、水平を保つことを意識します。骨盤の回旋(右が前に出たり、左が前に出たり)は起こって良いです。

いずれも腰を腰を反らないように注意しましょう。自重なら少し腰を丸めてもOKです(丸め気味のほうが臀筋に力が入りやすいです)。


<臀筋の外側に力を入れる練習>

四つん這いになり、ベンチに脚を乗せます(犬のおしっこのポーズ)。最初はリラックスして、太もも内側の付け根(内転筋の根本のあたり)をストレッチして伸ばします

次に、臀筋の外側に力を入れて、脚をベンチから少し浮かせるように頑張ります。体幹前側の筋肉も結構使うと思います。アイソメトリック5秒程度を複数回。自宅でやるときは、ベッドやソファに脚を乗せてやると同じことが出来ます。

両方のお尻の外側を鍛えたいので、左脚も右脚も両方ともやりましょう。


マシン(ヒップアブダクター)だと、体幹に力を入れる必要がなく、体幹と股関節の連動を鍛えにくいです。それと力を入れやすい他の筋肉を使って力まかせにやりがちになります。なので、まずは自重で股関節の外転・外旋のトレーニングをするのが効果的です。

ベンチを使って先に内ももをストレッチするのは、ここが詰まっている場合があるからです。詰まったまま外転・外旋すると、股関節が少しズレた感じになることがあります。


<臀筋の外側を強化>


・左脚前のスプリットスクワット

左手で左臀筋の外側を触って、ここの筋肉に力が入っているのを確認し、左内転筋に過度に頼らずに動作できるよう練習していきます。骨盤を少し時計回りに回旋させながら、左脚前のスプリットスクワット動作を行うのが理想です(左脚が前に出るときは、骨盤の左側が前に出ます)。



・バンドスクワット
膝周りにバンドを巻いてのスクワット動作をすると、左右の臀筋外側を鍛えられます。

動画 太もも外側を意識したスクワットで太ももを引き締める/チューブ・バンドを用いたトレーニング
https://www.youtube.com/watch?v=XSVIfCGH8PI


・ダンベル・スモウデッドリフト
地面を外向きに押しながらのダンベル・スモウデッドリフトでも臀筋の外側を鍛えられます。



<ラテラルランジ>

右側にしゃがむときは、左手で右膝の内側を押しながら(右内転筋に力が入りやすくなります)。右内転筋に力を入れて骨盤を右側に引きつけながら、しゃがむのを意識します。

左側にしゃがむときは、左手で左膝の外側を押しながら(左臀筋の外側に力が入りやすくなります)。左臀筋の外側に力を入れて、左脚と骨盤の間が空いて(左股関節が開いて)、しゃがむのを意識します。

ヘソが常に前を向くように動きましょう。

右側に重心を乗せるのが苦手なので、右にしゃがむときは重心をしっかり右側に移動して、右足を踏み込めているかを意識します。

スムーズに出来るようになってきたら、左手でのサポートをなくし、左右とも同じ動きを出来るように練習していきましょう。負荷を上げたい場合は、ゴブレットスクワットのようにダンベルを持ちながら行います。




<上半身の捻れ対策>

胸椎を時計回りに捻る動作を練習します。例えば、四つん這いになって、深呼吸しながら左手を右方向に伸ばしたりします。

胸椎のモビリティドリルを行うのも効果的です。胸椎を動かすときは、骨盤と腰椎が動かないように注意します。下の動画のウィンドミルをやる場合は、両側(左手と右手)おこなったほうが良いです。

動画:HighPerformanceHandbook.com: Side-Lying Windmill
https://www.youtube.com/watch?v=RX21NOL61OE


他には、片手のローイング動作を左右対称に出来るよう練習するのも良いでしょう。片手でのベントロウだと、下背部の安定性、胸椎の回旋、ロウ動作を同時にトレーニングできます。重りを持っていないほうの手を前に伸ばすときは、なるべく遠くへ伸ばすようにします。

動画:Single Arm Bent Over KB Row With Opposite Reach - THIRSTgym.com
https://www.youtube.com/watch?v=4ziABo-ilrk


スクワットの際に背中を反らせて、背中の筋肉でバーの重さを支えると、背中の左側が強いため、左のほうが反りやすくなって捻れやすいです。対策は、ベリーリフトやプランクやベアクロールで体幹の前側を鍛えたり、肋骨の横側と後側にも空気を入れられるようにすることです。スクワットの際にお腹に息を入れて体幹を固めるときは、肋骨の下端あたりを水平面で360°膨らませるのを意識すると上手くいきます。







関連記事:筋トレでの腹圧の高め方・体幹の固め方




ヒップシフト全般の話

おそらく多くのヒップシフト現象では、股関節周りの固さ・筋力の左右差や、骨盤の上側についている腰方形筋や腹斜筋などお腹周りの筋肉の左右差が影響していて、骨盤の回旋が起きています。

従って、ゴムバンドを使って反対側に押す練習だと、根本的な修正が出来ないでしょう。臀筋の外側(外転・外旋の機能)に刺激を入れられるので、部分的な対策にはなりますが、骨盤の回旋にもアプローチしたほうが良いです。

動画:How to Fix Your Hip Shift with Dr. John Davidson
https://www.youtube.com/watch?v=R7GsEuRq1dQ


自分でヒップシフトを直したいけど、自分の身体がどう動いているのかよくわからない場合は、以下のようなアプローチで対策をしていくと症状を改善できると思います。

<股関節のストレッチ>

股関節を全方向に左右差なく動かせるようにしましょう。

関連記事:股関節のストレッチ・ウォームアップ


<臀筋の外側を鍛える>

ほとんどの人が、股関節の外転・外旋が弱いので、そのトレーニングをします。スクワットで膝が内側に入る動き(ニーイン)の予防にもなります。バンドを膝回りに巻いてスクワットしたり、横方向の動き(カニ歩き的な)を取り入れたりすると良いでしょう。

動画:Emi's Band Training レジスタンス・バンドでスクワットをバージョンアップ!
https://www.youtube.com/watch?v=oACq8fL-TsM



<片脚種目>

下半身のトレーニングで、スプリットスクワット、ラテラルランジなど片脚種目を取り入れると良いでしょう。左右対称の動きが出来ているか意識しながら行います。



<骨盤の上側のストレッチ>

骨盤に左右の高低差があったり、脇腹あたりの固さ(腰方形筋の固さ)に左右差がある場合は、腰方形筋をストレッチしましょう。

動画 【3D解説】腰方形筋で体の傾きと骨盤の歪みを治す!?〔ストレッチ&マッスル講座〕
https://www.youtube.com/watch?v=c16gWR_HDwA


<胸椎のモビリティを高める>

胸椎の回旋(捻り)と、側屈(横方向に曲げる)を、左右差なく出来るようにします。下の関連記事のように胸椎と肩周りを適当に大きく動かすのも良いですし、ラジオ体操的な動きをするのも効果が高いです。胸椎のモビリティはあったほうが良いです。

関連記事:肩周りのストレッチ(タオル使用)


<足裏・足首の強化>

足裏のアーチが潰れて膝が内側に入ったり、足首がぐらついたりしてバランスが崩れやすい場合は、足裏・足首のトレーニングをしましょう。

関連記事:足裏と足首の強化(スクワットやデッドリフトでの安定した踏み込み)




左右差については、下の関連記事にも詳しく書いているので参考にしてください。

関連記事:アシンメトリー


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