7/16/2018

寝る前のカゼイン摂取は筋トレ効果を高めるのか?

Daytime and nighttime casein supplements similarly increase muscle size and strength in response to resistance training earlier in the day: a preliminary investigation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5952515/


寝る前にカゼインを摂取すると筋肥大に有利だという説がある。だいたいこんな感じの話。
「一般的な食事パターンでは、夕食から朝食までの時間間隔が長い。夜寝る前に消化吸収の遅いカゼインを摂取することで、寝てる間にアミノ酸を長時間供給し筋合成を促進することが出来る」

これについて調べた既存の研究はいくつかあって、寝る前にカゼイン摂取が筋肥大に有利というものもあるのだけど、トータルのタンパク質摂取量を揃えていなかったりとデザインが良くないものばかり。

今回の研究は、トレーニングを管理し、トータルのタンパク質摂取量を揃えている。筋トレ効果の測定も、DXAで体組成、超音波検査で筋肉の断面積と厚み、1RMの測定と多面的に調べていて良い。被験者数が少ないのが残念だけど、それ以外は良いデザインの研究で、「寝る前のカゼイン摂取が筋トレ効果を高めるのか?」という問題についてきちんと調べた初の研究と言って良いと思う。結果は、寝る前にカゼインを摂取しても、日中にカゼインを摂取しても筋トレ効果に有意差は無し。


★グループ分け
寝る前カゼイン摂取グループ(NT):寝る直前にカゼインプロテインを35g摂取。日中にマルトデキストリン(プラシーボ)を35g摂取。
日中カゼイン摂取グループ(DT):寝る直前にマルトデキストリン(プラシーボ)を35g摂取。日中にカゼインプロテインを35g摂取。

日中に摂取するサプリメント(カゼイン or マルトデキストリン)は、トレーニングの前後3時間以内および就寝6時間前より後の摂取は避ける。


★被験者
18-25歳の男性。トレーニング歴あり。20名でスタートしたが、指示をあまり守れてなかった被験者は除外され最終的に13名のデータを使用。


★筋肥大の測定
・DXAで体組成を測定。
・超音波検査で大腿直筋の断面積と外側広筋と中間広筋の厚みを測定。


★トレーニング内容
週4回トレーニング。二分割で各部位週二回。トータル10週間。


★栄養摂取
カゼインプロテインはカルシウムカゼイネート。それとは別にトレーニング直後に25gのホエイプロテインを摂取。

普段の食事は研究者側の指導のもと自己管理。以下の栄養摂取を目指した。
- タンパク質摂取量は1日に体重1kgあたり1.8g。(プロテインサプリメント含む)
- 摂取カロリーに占めるマクロ栄養素バランスは、タンパク質20%、脂質28%、炭水化物52%。

食事記録をもとに算出した実際のタンパク質摂取量は体重1kgあたり2.0g程度で十分な摂取量。グループ間の摂取カロリーおよびマクロ栄養素に有意差なし。両グループともに実験後に体重が増えているので摂取カロリーは維持カロリーを上回っていたと考えられる。


★結果
筋肥大の指標と1RM伸びについてグループ間で有意差無し。ただ、筋肥大も1RMもDTグループの方が良い傾向だった。

・身体測定結果。グループ間で有意差無しだが、傾向としては日中にカゼインを摂取したグループ(DT)のほうがより筋肥大している。
Lean Soft Tissue は、身体全体から体脂肪と骨を除いた残り。
Appendicular LST は、腕と脚の Lean Soft Tissue。
Cross Sectional Area は、大腿直筋の断面積。
Muscle Thickness は、外側広筋と中間広筋の厚み

・パフォーマンス測定結果。グループ間で垂直跳びの最大力以外は有意差無しだが、傾向としては日中にカゼインを摂取したグループ(DT)のほうがレッグプレスとベンチプレスの1RMの伸び率が高い。


★備考
サプリメーカー(Dymatize)と乳業メーカー(FrieslandCampina)から資金提供を受けている。


☆コメント
寝る前にカゼイン摂取を行った過去の研究だと、トータルのタンパク質摂取量に大きな差(1.9g/kg/day と 1.3g/kg/day)がある研究(2)では、寝る前のカゼイン摂取が有利という結果。トータルのタンパク質摂取量を揃えているがトレーニングは各自自由に行った研究(3)では、筋肥大と1RMに変化なしで、グループ間の差も無しという結果。

今回の研究は、トレーニングを管理し、トータルのタンパク質摂取量を揃えている。結果は、グループ間で筋肥大および1RMの伸びに有意差無しとなった。ただ、日中にカゼインを摂取したグループの方が筋肥大も1RMも良い傾向だった。

有意差無しとはいえDTグループのほうが良い傾向なのは単なる偶然なのか、それとも何か要因があるのか。

被験者データを見ると、DTグループの方が身長が高く、体重が重く、体脂肪率が高いが、レッグプレスとベンチプレスの1RMが低い。トレーニング歴はDTグループの方が短く(DT2.0年、NT2.7年)、トレーニング頻度も低い(DT3.7回/週、NT4.0回/週)。つまりDTグループのほうが研究開始時点で伸びしろが大きかったと考えられる。これによりDTグループの方がよい傾向となった可能性がある。

論文のディスカッションでは、日中にカゼインによるアミノ酸供給と食事によるアミノ酸供給が重なることで、筋合成が最大化されたのではないかと書かれている(穿った見方をすれば、これは資金提供を行っているサプリメーカーに配慮した記述なのかもしれない。食事だけよりもプロテイン摂取したほうが筋合成に有利と)。

今回の研究結果を見ても、「筋肥大には一日のトータルのタンパク質摂取量が最も重要で、摂取タイミングはそれほど重要ではない」という考え方を変える必要はないと思う。実践面では、一日に3,4回の食事を間隔と量があまり偏らないように分散させて食べるのが良いだろう。

個人的には、維持カロリー以上の時は食事タイミングは大雑把、プロテインはほぼホエイのみで、寝る前にカゼインを摂取したりはしない。減量時はアミノ酸供給をコンスタントに行って筋分解を防ぐため、日中の食事補助のプロテインもカゼイン中心で、夕食のタンパク質摂取量が少ない場合は夜遅い時間にカゼインを摂取したりしている。カゼインはミセラーカゼインのプロテインやカッテージチーズを使用している。減量時はアミノ酸をコンスタントに供給したほうが除脂肪体重の減少を抑えられるという考え方をサポートする長期の研究は(4)がある(逆に言えば多分この研究しかない)。



関連記事:
タンパク質摂取量の目安

ゴールデンタイムはあるのか?

カゼイネートとミセラーカゼインの消化吸収速度


参考文献:
(1)Daytime and nighttime casein supplements similarly increase muscle size and strength in response to resistance training earlier in the day: a preliminary investigation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5952515/

(2)Protein Ingestion before Sleep Increases Muscle Mass and Strength Gains during Prolonged Resistance-Type Exercise Training in Healthy Young Men.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25926415/

(3)Casein Protein Supplementation in Trained Men and Women: Morning versus Evening
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5421981/

(4)Effects of meal frequency on body composition during weight control in boxers.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8960647

(5)Effects of meal frequency on weight loss and body
composition: a meta-analysis
https://pdfs.semanticscholar.org/6a51/75d06fb6663340ac9d34a790978c07875eab.pdf

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