10/16/2021

胸郭を開くダンベルプルオーバーの問題点



筋トレ界隈のダンベルプルオーバーは、ボディビル系の胸郭を開くやり方が主流です。ボディビル志向の人がボディビルっぽい体型になりたくて胸郭を開くプルオーバーをやるなら問題はないですが、それ以外の人にとっては身体機能面でのデメリットがあり、あまり良い種目ではないです。

「トレーニー、アスリートの怪我予防に最適なコンディショニングダンベルプルオーバー」を謳っているので、望ましくない例としてこの動画を取り上げます。胸郭を開くプルオーバーはコンディショニングに向いていませんし、肩や腰の痛みの対策にもなりません。

動画:【ダンベルプルオーバー】トレーニーは全員やるべき!肩と腰の痛みを根本改善するやり方
https://www.youtube.com/watch?v=DI4wzrewvJw



胸郭を開くダンベルプルオーバーの問題点


・リブフレアの促進

・背中の反りの強化

・横隔膜をあまり使わない呼吸の促進

・胸と腹の切り離し

・肩関節の屈曲時に背中の伸展が伴ってしまう代償動作の強化


リブフレアは胸郭が開いた姿勢のことです。リブ(肋骨)がフレアスカートみたいに開いて広がっている状態です。リブフレアは、体幹が不安定になったり、腰を痛めやすくなったりと、身体機能面でネガティブな影響があります。スクワットとデッドリフトでは胸郭を閉じるのが望ましいフォームですし、多くのスポーツ動作でも胸郭が開きっぱなしでは機能的に動けません。ベンチプレスは胸郭を開きますが、胸郭を開くプルオーバーのように胸だけに息を入れてブリッジをすると、胸と腹が切り離されて腰を痛めやすいです。

関連記事:筋トレでの腹圧の高め方・体幹の固め方

右の「開いたハサミポジション」がリブフレアの状態です。


関連記事:体幹トレーニング

次に代償動作の強化についてですが、頭上に腕を上げて重りを持つオーバーヘッドのプレス種目では、肩関節の屈曲可動域が足りないと、胸を開いて背中を反って腕を上げる代償動作が起きます。胸を開いて背中を反った状態は腹圧が抜けやすく体幹が不安定で、脊椎がニュートラルポジションから外れています。この姿勢で立ち、重たいダンベルやバーベルを持ってプレス動作を行うと背中(多くの場合は腰)を痛めやすいです。

胸郭を開くプルオーバーはまさにこの動きをするので、代償動作を強化してしまいます。正しいオーバーヘッドプレス動作のためには代償動作を抑制して、胸郭を閉じたまま肩と肩甲骨を動かして腕を頭上に上げる練習をしたほうが良いです。


関連記事:ショルダープレス-肩のトラブル回避と難易度調整-

下の動画は、この代償動作の実例です。

動画:EricCressey.com: Shoulder Flexion Substitution Patterns
https://www.youtube.com/watch?v=ccPlxp_kYu0



胸郭を開くプルオーバーの代替種目

胸郭を開くプルオーバーにも肩関節のストレッチ効果や、主動筋のトレーニング効果があるので、プラス効果はゼロではないですが、デメリットを消した他の種目をやったほうがいいです。


<ストレッチ目的>

一般的に、運動量の多いアスリートやトレーニーは胸郭が開きっぱなしのリブフレアが問題になりやすく、運動不足のデスクワーカーは猫背で胸郭が閉じっぱなしが問題になりやすいです。胸郭は開きっぱなしでも閉じっぱなしでもよくないので、深呼吸したりストレッチをしたりして、胸郭を大きく動かすのが身体機能面や健康面で望ましいです。

猫背矯正や深い呼吸をして胸郭を動かすのが目的なら、外部から負荷をかけずにストレッチをしたほうが良いです。ダンベルを持ったままでは筋肉が緊張しているのでストレッチしにくいですし、胸郭を動かす呼吸コントロールもやりにくいです。

猫背矯正や胸郭を動かすのには下図のようなお祈りストレッチがおすすめです。鼻から深く息を吸って胸郭を大きく膨らませて、口から限界まで息を吐いて胸郭を閉じます。リラックスしながら、このやり方で深呼吸を繰り返します。


すでにリブフレアになってしまっている人は、以下のエクササイズがおすすめです。


関連記事:タイプ別の姿勢矯正方法


<主動筋のトレーニング目的>

広背筋や大胸筋といった主動筋を鍛えたいなら、懸垂・プルダウン系やベンチプレス系など他の種目で広背筋や大胸筋のトレーニングをしたほうが簡単に強い負荷をかけられます。プルオーバーの動作がやりたいならケーブルマシンでやれば、短縮ポジションでも負荷が抜けずにトレーニングができます。


動画:Standing Cable Pullover
https://www.youtube.com/watch?v=nXvRU3FWg88


<動作・筋力バランス目的>

動作や筋力面で他の種目とバランスを取りたいなら、プルオーバーはあまりバランスが良くないです。肩の伸展動作は懸垂でよく使いますし、大胸筋もベンチプレスでよく使います、したがって、動作や筋力面ではプルオーバーをすると多くの人は肩周りのバランスが悪くなります。

バランスを取りたいのだったら、懸垂・プルダウン系種目とベンチプレス系種目とは反対の動作、具体的には肩の屈曲・水平外転・外旋、肩甲骨の外転・上方回旋が出来る種目をやったほうが良いです。

例えば、片手ランドマインプレスや



インバーテッドロウやシーテッドローなど水平方向のロウ

動画:【THAT'S トレーニング】インバーテッド・ロウ
https://www.youtube.com/watch?v=9a-7pn0ahHM


高い位置へのフェイスプルなどの頭上へのロウ

動画:High Pulley Face-Pull
https://www.youtube.com/watch?v=d470bJ4BBrg

関連記事:怪我をしにくいロウ・プルのやり方



胸郭を開くプルオーバーをやると良いケース

胸郭を開くプルオーバーを推奨するケースは、胸郭が開いたボディビルっぽい姿勢にしたい場合です。身体機能面ではデメリットが多いですが、見た目については主観の問題なので、胸郭が開いた姿勢のほうが格好良いと思う人は、胸郭を開くプルオーバーをやったほうが良いでしょう。

下はフィットネス競技のポージングコーチをやっている人の記事で、ボディビルっぽい姿勢について詳しく解説しています。

参考サイト:「ビルっぽい」原因の一つ「リブフレア」



胸郭を閉じたプルオーバーは優秀な種目

胸郭を閉じたプルオーバーは、体幹トレーニングとして優秀な種目です。私はデッドバグにプルオーバー動作を組み合わせた体幹トレーニングをやっています。重りはウェイトプレートやダンベルでも良いですが、万が一顔面に落とした場合のリスクを考えると、メディシンボールが安全かもしれません。


この種目は3つの狙いがあって、

・アイソメトリックで体幹前側を鍛える。体幹トレーニングの基本はアイソメトリックで腹周りを固めて、外部から負荷をかけることです。

・肩の屈曲と体幹の伸展が同時に起きないように練習する。オーバーヘッドのプレス動作で重要な身体コントロール方法です。バックスクワットでバーを担いだときに腰が反るのを防ぐ練習にもなります。

・股関節と腰椎が同時に動かないように練習する。股関節と腰椎が連動するとスクワットでバットウィンクが起きるので、それを防ぐトレーニングです。


ダンベルプルオーバーは基本的には体幹種目としてやるのが良いと思いますが、肘の内側を痛めていて(上腕骨内側上顆炎=ゴルフ肘)、懸垂が難しい場合に、肩の伸展筋に負荷をかける目的でやることもできます。ただ、肘頭付近の負担が大きい感じがするので、ベンチプレスや上腕三頭筋種目で肘頭付近の腱・筋肉を酷使している場合は、肘に優しくないかもしれません。

動画:EricCressey.com: Coaching the Dumbbell Pullover
https://www.youtube.com/watch?v=ctW4UcBGzyA

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