4/26/2014

果糖ぶどう糖液糖と肥満


High-fructose corn syrup causes characteristics of obesity in rats: increased body weight, body fat and triglyceride levels
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3522469/

異性化糖(High-fructose corn syrup)が肥満の元凶という主張の根拠としてよく引用されるプリンストン大の論文。この実験で使われた異性化糖は果糖含有率55%なので、異性化糖の分類から以下、High-fructose corn syrupを果糖ぶどう糖液糖と訳す。果糖ぶどう糖液糖という単語の方が馴染み深いし。

そもそもラットを対象とした研究を人間の肥満問題にそのまま当てはめるのはナンセンスだと私は思っているのだけど、この研究では等カロリーを摂取しているはずなのに何故か体重に違いが出ているという結果が出ていて、興味深いので取り上げてみます。


実験で使われた餌のパターンは、以下の3種類。

・スクロース(砂糖)溶液 + 普通の餌

・果糖ぶどう糖液糖(果糖含有率55%)溶液 + 普通の餌

・普通の餌のみ(対照群)

それと、糖溶液・餌へのアクセス時間が12時間・24時間、実験期間が8週間・6-7ヶ月。詳しくは画像のTable 1に。

まず、ダイエットや栄養や健康についての問題は、科学界にイデオロギー的な対立があって、バイアスのかかった研究も多い。この研究はおそらく、果糖ぶどう糖液糖を肥満の元凶だと思っている陣営によって行われている。実験の構成や論文の書き方もそう主張できるようにバイアスがかかっているように見える。

結果が正しく測定されたと仮定して、データを見比べてみる。

Experiment 1は8週間の実験。Experiment 2は6-7ヶ月の実験。

・1日12時間の果糖ぶどう糖液糖溶液へのアクセスのグループの最終的な体重が重い。これを果糖ぶどう糖液糖が肥満の要因という主張の根拠としている。糖溶液+餌の総摂取カロリーは、スクロースグループでも、果糖ぶどう糖液糖グループ(12時間・24時間両方)でも同じだったとしている。対照群の摂取カロリーについては言及なし。以下、私のツッコミ。

 → 24時間果糖ぶどう糖液糖溶液グループは、12時間スクロースグループと体重に差がない。12時間果糖ぶどう糖液糖アクセスだと肥満になって、24時間果糖ぶどう糖液糖アクセスだと肥満にならないという結果。12時間でも24時間でも、糖溶液からの摂取カロリーと、餌を含めた総摂取カロリーは同じ。どう説明すれば良いのか? (論文中では説明なし)
 → 摂取カロリーが等しいのに体重に差が出たということは、消費カロリーに差があると考えられる。果糖ぶどう糖液糖溶液へのアクセス可能な時間によって、消費カロリーが変化するのだろうか。何故?(論文中では説明なし)
 → Experiment 2 だと、24時間果糖ぶどう糖液糖グループと、12時間果糖ぶどう糖液糖グループは最終的な体重に有意差がないとしている。Experiment 2 については摂取カロリーに差があったかどうかは書かれていない。摂取カロリーが同じなら、Experiment 1の結果と矛盾する。(論文中では説明なし)
 → Experiment 1では、糖溶液由来の摂取カロリーは、スクロースグループの方が果糖ぶどう糖液糖グループよりも1.5倍くらい多くなった。従って、フルクトースの摂取量は、スクロースグループの方が多い。スクロース(50%がフルクトース)と果糖ぶどう糖液糖(ここでは55%がフルクトース)の違いは、フルクトース含有率と、フルクトース分子とグルコース分子が結合しているか否か。この実験の結果をそのまま解釈すると、フルクトースの摂取量がラットの肥満に関係するのではなくて、フルクトース分子とグルコース分子の結合状態がラットの肥満に関係するという結果になる。
 → Experiment 2では、12時間果糖ぶどう糖液糖+12時間餌グループと、12時間スクロース+12時間餌グループでは体重に差がない。Experiment 1との違いは、餌のアクセス時間が24時間ではなく12時間になっていること。12時間果糖ぶどう糖液糖アクセスの場合、24時間餌にアクセスできると総摂取カロリーが同じでも肥満になり、12時間餌にアクセスできると摂取カロリーは不明だが肥満にならないという結果に。


以上より、実験結果から論理的に引き出される因果関係は、「フルクトース分子とグルコース分子が結合していない状態の糖溶液に12時間アクセス可能、且つ餌に24時間アクセス可能な状態だと、24時間アクセス可能な場合及びスクロース溶液に12時間アクセス可能な場合と摂取カロリーは変わらないが、このケースのみ消費カロリーの低下が引き起こされ、ラットは肥満する」ということになる。

こんな特殊なメカニズムがラットに備わっている可能性と、実験に何らかの不備があった可能性、もしくは単なる偶然である可能性、どの可能性が高いだろうか。


ちなみに Alan aragonLyle McDonald も、フルクトース・果糖ぶどう糖液糖悪玉論に対して否定的。フルクトース・果糖ぶどう糖液糖悪玉論に対する、まともな人々の回答を書いておくと。

・一般的に使われている果糖ぶどう糖液糖は、フルクトースとグルコースの含有率が砂糖とほとんど変わらない。
・異常な量を摂取しなければ、フルクトース自体に毒性があるわけではない。(というか、どんなものでも異常な量を摂取すれば毒性はあるだろう)
・果糖ぶどう糖液糖に、カロリー収支を超えて肥満を引き起こす効果があるわけではない。
・肥満防止には、カロリーオーバーにならないよう気をつけること。カロリーがあるものならどんなものでも食べ過ぎれば太る。
・果糖ぶどう糖液糖の積極的な摂取を推奨するわけではない。健康維持に有用な微量栄養素の摂取のため、砂糖も果糖ぶどう糖液糖も摂取量は低く抑えて、精製度の低い食べ物をバランスよく摂取すること。

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