7/27/2016
遅発性筋肉痛について
ネタ元
↓
The Science of Sore – DOMS explained
http://strengtheory.com/doms/
★遅発性筋肉痛とは
- 不慣れな運動をすると起きやすい。程度にもよるが、痛みは運動後早いと8時間後くらいから出て、ピークは48-72時間後。
- 主に遅筋の筋繊維のダメージ。それほど深刻なダメージが起きているわけではない。(深刻なダメージがあれば即座に強い痛みが出る)
- 筋繊維のダメージが関係はしているが、筋繊維の実際のダメージと痛みの強さの相関は強くない。めちゃくちゃ痛いからといって、筋繊維がズタズタになっているわけではない。
- エキセントリック運動で筋繊維のダメージは起きやすい。筋肉痛を扱った研究の多くは、トレーニング歴のない被験者にたくさんのエキセントリック運動をやらせている。
- 代謝ストレスによっても筋肉痛は起こるようだ。代謝ストレスといっても乳酸のことではなくて、水素イオンと活性酸素種が筋肉痛を引き起こす可能性がある。これらの物質が筋鞘(細胞膜)にダメージを与え、細胞内に水分を引き込むことで細胞が膨張し炎症を起こす。
- 研究者の間では、一つの要因が遅発性筋肉痛を引き起こすのではなくて、いつくかの複合的な要因が遅発性筋肉痛を引き起こすと考えられている。
★筋肉痛は成長の指標?
- 激しい筋肉痛になったからといって筋肉がもりもり増えるわけではない。長距離のランニングでも激しい筋肉痛になるが、ランニングでは筋肉もりもりにならない。
- 激しい筋肉痛になると次のトレーニングに悪影響が出て長期的な筋肉の成長を妨げる。フォームが変わったり、筋肉に負荷をかけられなかったりする。従って筋肉痛を目指してトレーニングはしない方が良い。
- 筋肉痛の間に運動を行ってもダメージを悪化させるわけではないようだが、回復を遅らせるかもしれない。
★なぜ痛みを感じるのか
- 侵害受容器が刺激をキャッチすると痛みの信号を脳に伝える。
- 筋肉組織においては、侵害受容器は炎症といった化学的な刺激や血管への微小循環の撹乱を感知する。
- 侵害受容器は筋肉の内側には無い。なぜなら筋肉細胞が死んでも痛くないから。
- 一方で、筋肉が断裂するとものすごく痛い。これは侵害受容器が存在する場所へ筋肉内の基質が放出されることによる。
- 以上から遅発性筋肉痛は筋肉細胞内の収縮器官に関連して起こるものではないだろうと考えられる。
★筋肉痛を減らすには
- 慣れていない運動をするときは、最初は軽めにして徐々に慣らしていく。
- 運動前のウォームアップやストレッチは、運動後の筋肉痛を減らしはしない。(もちろん怪我のリスク低減やパフォーマンス向上のためにウォームアップやストレッチはやったほうが良い)
- フォームローラーはマッサージと同じ効果があり、筋肉痛からの回復を早める効果があるかもしれない。
★筋肉痛を減らすサプリメント
- 運動の1時間前のカフェイン摂取で、運動後の筋肉痛の程度が低くなったという研究がある。ただ体重1kgあたり5mgという多量のカフェイン摂取が効果的とのこと。
- オメガ3脂肪酸は炎症を抑える効果があり、筋肉痛を和らげるのにも効果があるようだ。
- タウリンも効果があるかも。
- クライオセラピー(冷却療法)は筋肉痛を減らしたり回復を早めたりはしないようだ。運動後に冷水に浸かる(摂氏10度の冷水に10分間)と筋肉の成長が鈍くなるという研究もあるので、運動後に筋肉を冷やすのは筋肥大目的の場合は止めておいたほうが良さそう。
7/23/2016
筋肥大トレの変数調整
この本は筋肥大について詳しく知りたい人には非常にお薦めです。Pratical Applications と Key Point と Take-Home Points の欄に結論が簡潔にまとまっているので、そこだけ読んでも参考になると思う。
Lyle McDonald もレビューでexcellentと言っている。
★ボリューム
基本的にはボリュームが多いほうが筋肥大効果は高い。ただしやり過ぎるとオーバートレーニングになり効果が低下する。ボリュームと筋肥大効果の関係は逆U字を描く。
オーバートレーニングを防ぐために、ボリュームを徐々に増やしていき、定期的にボリュームを減らす期間を入れるピリオダイゼーションでトレーニングを行うと良い。
トレーニング経験があまり無い人は、一回のトレーニングセッションで各部位を計40-70レップ(例えば4セット×10レップで計40レップ)。上級者はその倍くらいまでやる必要があるかもしれない。筋肉量が多くなるほど、さらに筋肉量を増やすためには多くのボリュームが必要になる。
★頻度
各部位を週に2-3回トレーニングするのが良いだろう。分割してトレーニングすることでセッション当たりの各部位のボリュームを増やすことが出来る。
★負荷
負荷の強さをレップレンジで3つに分けると、
高負荷・低レップ: 1-5RM
中負荷・中レップ: 6-12RM
低負荷・高レップ: 15RM以上
どのレップレンジでも十分なボリュームのトレーニングを行えば、ほぼ同等の筋肥大効果が得られる。
高負荷・低レップはほぼATP-CP系の運動になるので、その筋肥大効果はメカニカルテンションによるものになる。高負荷・低レップを筋肥大目的で行うとなると、各種目3レップ×10セットとかをやることになり、トレーニング時間が長い、怪我のリスクが高い、疲労感が強いといったデメリットがある。ただ神経系を適応させ高重量を扱えるようにしておくと、中負荷・中レップでも扱える重量が伸び、より質の高いトレーニングを行うことが出来る。ある程度は高負荷・低レップもやっておくと良いだろう。
低負荷・高レップは解糖系の寄与が高くなり、その筋肥大効果は主に代謝ストレスによるものになる。メカニカルテンションはそれほど与えられない。低負荷・高レップのトレーニングを行うことで遅筋の発達が狙え、また代謝物質への耐性を上げることで中負荷・中レップのトレーニングでより多くのレップをこなすことができるようになる。従ってこのレップレンジでもある程度のトレーニングを行ったほうが良いだろう。
中負荷・中レップは、メカニカルテンションと代謝ストレスの両方を筋肉にバランス良く与えることが出来る。時間が長くならない、怪我のリスクが低い、高負荷のような疲労感もなく低負荷のような追い込みのキツさもない、といったメリットがある。筋肥大目的ではこのレップレンジを中心にトレーニングを行うのが良いだろう。
★種目の選択
神経系が適応し各モーターユニットが協調動作をするようになり十分な負荷を筋肉に与えることが出来るようになってから、本格的な筋肥大が始まる。従って、初心者はまずは少ない種目を繰り返し練習し、安全に効率よく筋肉に負荷をかけられるフォームを身につける必要がある。フリーウェイトのフォームが難しい場合は、まずはマシンでトレーニングを行い、後でフリーウェイトに移行するのも良い。
各種目のフォームを身につけたら、多角的に色々な種目で、マシンもフリーウェイトも単関節も複合関節も行いながら、全身の筋肉を包括的に鍛える(ボディビル目的の場合)。
★コンセントリックとエキセントリック
コンセントリックとエキセントリックは筋肥大のシグナルの経路が異なり、筋繊維の適応の仕方にも違いが見られる。従ってコンセントリックとエキセントリックの両方をトレーニングに組み入れた方が良いだろう(重りをコントロールしながら普通に挙げて下ろせばOK)。アイソメトリックも加える必要があるかは現状の研究からはわからない。
★セット間インターバル
短いインターバルと長いインターバルの筋肥大への効果を比較した研究では、長いインターバルの方が筋肥大効果が大きいという結果が得られている。これは長いインターバルの方がセット間に回復でき、トータルのトレーニングボリュームが大きくなったからだと思われる。コンパウンド種目は少なくとも2分はインターバルをとったほうが良いだろう。
代謝ストレスを与えるには60-90秒程度の短いインターバルの方が良いと考えられる。また短いインターバルのトレーニングを続けていると適応が起こり、短いインターバルでもボリュームを維持できるようになる可能性があるので、短いインターバルのトレーニングを部分的に組み込むのも良いだろう。
★挙上テンポ
現状のエビデンスでは、下ろしてから挙げるまでの時間が0.5-6秒の間なら筋肥大への効果はほとんど違いが無い。10秒を越えるゆっくりとした動作になると筋肥大効果は低下する。
★種目の実施順序
一般的に大筋群からトレーニングを行うべきと言われているが、小筋群を先に行った場合に比べて優れた筋肥大効果を得られるとは研究では示されてはいない。
トレーニングを最初に行った部位がより筋肥大効果を得やすいので、特に鍛えたい部位や発達が遅れている部位を最初にトレーニングすると良いだろう。
★動作範囲(フルレンジかパーシャルか)
アームカールやニーエクステンションといった単関節の動作であっても、関節の角度によって負荷が強くかかる筋肉の部分が異なってくる。フルレンジで動作を行った方がより広範囲の筋肉に負荷をかけ高い筋肥大効果を得られるだろう。
また筋肉が引き伸ばされた状態での負荷は筋肥大効果が高い。これもフルレンジで高い筋肥大効果を得られる要因になる。パーシャルを組み込むなら筋肉が引き伸ばされるレンジで行うと良いだろう(ストレッチ度が強いレンジでは低負荷でやるのが安全。例えばダンベルフライ)。
★セット毎の追い込み度(限界までやるべきか)
85% 1RMといった高い強度のトレーニングでは、限界の1レップか2レップ手前で止めても高い筋肥大効果を得られるようだ。高負荷ではセットの序盤からモーターユニットがフル動員され、筋繊維に強いメカニカルテンションがかかる。
低負荷・高レップでは限界近くまでやった方が良いだろう。低負荷では限界に近づくにつれてモーターユニットの動員率が高まり、代謝ストレスも強くなる。
高負荷・低レップと中負荷・中レップも限界までやった方が筋肥大効果はいくらかは高いだろうけど、常に全セットを限界までやり続けるとオーバートレーニングのリスクが高まる。(コストに見合った利益を得られない)
限界までやるのは、セットや期間を限定して行うのが良いだろう。例えば、最初の期間は全セットを限界の1レップか2レップ手前で止める、次の期間は最後のセットだけ限界まで行う、そして次の短い期間に大部分のセットを限界まで行う。
関連記事:
筋肥大のメカニズム
下のSchoenfeldのタグにいくつか関連記事あり。
7/15/2016
人間ドック結果
★腎臓
BUN(尿素窒素)
基準値:8-20mg/dl
1回目
測定タイミング:前日の夜9時以降に食事禁止で昼まで何も食べられないということなので、カゼイン中心にタンパク質を100gくらい摂取。減量中のため炭水化物はほとんど無し。この時点で肝グリコーゲンはほぼ空。採血は食後13時間くらいのタイミング。
BUN:29.6
eGFR:97.8
考察:eGFRは正常値でBUNが異常値。前日からの窒素(タンパク質)供給量が多く、また筋肉由来の糖新生によっても窒素が供給されていたと思われる。そのため腎臓の濾過が間に合わず、血中の尿素窒素が高いレベルのままであったと考えられる。
2回目
測定タイミング:昼食にタンパク質70gくらい食べてから3時間後くらい。1回目の結果説明の時に、異常値が出たのでもう一度測定しましょうとなってその場で採血された。
BUN:34.0
eGFR:124.9
考察:直前のタンパク質摂取が多く、窒素の濾過が間に合わず、血中の尿素窒素が高いレベルのままであったと思われる。推定の濾過速度(eGFR)も上昇している。高タンパク食では濾過速度が上昇することが多くの研究で示されていて、その通りの挙動になっている。
3回目
測定タイミング:前日から低タンパク質・高炭水化物の食事にして、当日朝にタンパク質10gくらいと炭水化物多めに食べてから7時間後に採血。
BUN:16.1
eGFR:95.7
考察:前日から低タンパク質・高炭水化物の食事にしたおかげで、仮説通りにBUNが正常値になった。高炭水化物にしたのは糖新生を防ぐため。私の場合、血清クレアチニン値から算出されるeGFRは正常で、尿蛋白など他の指標も引っかかっていなかったので、高タンパク食による一時的なBUNの上昇だと考えてこの対策を行った。犬の実験だけど、肉を多く含むドッグフードを与えたら、食後にBUNがベースラインから2倍くらいまで上昇したという研究があるので、正常な腎臓の人間でも高タンパク食の後はBUNが一時的に上昇すると考えられる(人間を対象とした食後BUNのデータは見つからなかった)。
Postprandial changes in plasma urea nitrogen and plasma creatinine concentrations in dogs fed commercial diets
http://users.ugent.be/~jwbauwen/08022016/003.pdf
普段から高タンパク食の人は、健康診断の前は低タンパク質・高炭水化物の食事にすれば、BUNが引っかからなくなると思う。腎臓関連の他の指標も引っかかっていたら腎臓に問題がある可能性が高いので、医師の指示に従いましょう。
あとクレアチンをサプリメントとして摂取していると、クレアチニン値が高くなる(eGFRが低くなる)ことがあるので、これも偽陽性の要因になる。心配な場合はクレアチニン・クリアランス検査を受けると良いでしょう。
Elevated plasma creatinine due to creatine ethyl ester use.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21411845
How we estimate GFR--a pitfall of using a serum creatinine-based formula.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17969491
★白血球数
基準値:3200-8599
1回目(減量中)
3100
2回目(普通食)
4510
考察:エネルギー不足の状態だと、不必要だったりダメージを受けたりした免疫細胞がリサイクルされ、白血球の総数が減る。1回目は減量中だったので白血球数が減っていた。2回目は維持カロリーに戻した後だったので、白血球数が回復していた。エネルギー不足にして白血球数を一度減らしてから再びカロリーを入れると、免疫系がリフレッシュされて健康にいいかも・・・という話もある。
Fasting triggers stem cell regeneration of damaged, old immune system
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2014-06/uosc-fts060214.php
★食後120分血糖値
基準値:70-139mg/dl
1回目
44(空腹時78)
考察:グリコーゲンが枯渇していたため、食後血糖が急低下していた。
★腹部CT
このボディメイク記録の一週間くらい前に計測。お腹側の皮下脂肪はだいぶ薄くなっているけど、脇腹の後ろ側の皮下脂肪が残っている。ここはなかなか落ちない。あと尻の皮下脂肪もなかなか落ちない。
関連記事:
高タンパク食の健康への影響
7/13/2016
筋肥大のメカニズム
The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training.
http://www.lookgreatnaked.com/articles/mechanisms_of_muscle_hypertrophy.pdf
Schoenfeldの2010年の論文から、筋肥大のメカニズムについての部分を抄訳。
ただ、Schoenfeldの新著が昨日届いて、最新の情報が詳しく書かれているようなので、読み終わったらこの記事は加筆訂正するかも。PDFだと安くなる。
この分野に限らず、海外の一流科学者が一般向けの書籍を書いてくれるのはありがたい。
私の知識が足りないため、訳がわかりにくかもしれないです。詳しく知りたい場合は、元の論文やリファレンスにある論文を読むか、Schoenfeldの著作を読むと良いと思います。
★筋肥大と過形成
・筋肥大(hypertrophy)
- 収縮要素(筋繊維)が大きくなり、細胞外マトリックス(骨格筋の場合は筋膜)が拡張する。筋繊維の肥大は、筋節が直列または並列に付着することで起こる。
- 骨格筋が過負荷を受けると、筋原線維の収縮タンパク質であるアクチンとミオシンの量とサイズの増加をもたらし、平行方向に並ぶ筋節の数を増やす。その結果、筋繊維の断面積が大きくなる。
- 直列方向の筋節の増加は、筋肉を伸ばしっぱなしで長期間固定(ギプスなど)したり、ラット実験だと下り坂トレーニングを続けたりすることで起こる。逆に縮めっぱなしや上り坂トレーニングを続けたりすると筋節が減る。つまり環境に合わせて筋繊維の長さが調整される。
- 筋肥大は、非収縮性要素と水分の増大によっても起こる。これは筋形質の肥大と呼ばれる。筋形質の肥大は機能を持たないとよく言われるが、慢性的な細胞の膨張はタンパク質合成を手助けし、収縮要素のより大きな成長をもたらす可能性もある。
・過形成(hyperplasia)
- 筋繊維の数が増える。
- 筋繊維の数の増加については、動物実験で起こる、特に伸張性の負荷(エキセントリック動作)で大きく起こることが報告された。しかし後の研究でこれは数え間違いによるものではないかと論じられている。人間において過形成が起きるというエビデンスは無く、もし仮に起こるとしても筋肥大への寄与は非常に小さいものであろう。
★サテライト細胞と筋肥大
- 筋肉は分裂終了細胞なので、細胞の置き換わりはほとんど起きない。タンパク質の合成と分解の動的な平衡を通じて、細胞の状態を保つ。筋肥大はタンパク質の合成が分解を上回る時に起きる。
- サテライト細胞は、基底膜と筋鞘の間に存在する筋原幹細胞。通常は非活発だが、十分な力学的な(メカニカルな)刺激が骨格筋に加わると活発になる。活発になったサテライト細胞は増殖し、既存の細胞にくっつき、筋肉組織の修復や成長に必要な前駆体を提供する。
- サテライト細胞は筋繊維に新たな細胞核を提供し、収縮タンパク質を新たに合成するキャパシティを増やす。筋肥大の際の筋肉の細胞核と筋繊維量の比率は一定なので、筋繊維量の上限を引き上げるには細胞核を増やす必要がある。
- サテライト細胞は、筋肉の修復や成長を促進する調整機構にも関わる。
★筋肥大シグナルの経路
・メカニカルなストレスがかかると化学的なシグナルが発現
- Akt/mTOR
- MAPK
- Ca2+
・ホルモンとサイトカイン
多くのホルモンが関わるが、研究されることが多いのを三つ。
[IGF-1]
筋肉にメカニカルなストレスがかかると筋肉組織で生成される。また肝臓で生成された体内を循環しているIGF-1を、より多く利用するようになる。いくつかのアイソフォームがある。運動後に筋肉組織でIGF-1のレベルが高まり、筋繊維への効果が72時間続くことが確認されている。IGF-1は筋合成速度を上昇させるだけでなく、筋肉組織でのIGF-1はサテライト細胞を活性化させ、増殖と分化を手助けする。またサテライト細胞の筋繊維への付着も促進する。Ca2+の筋肥大経路も活発にする。
[テストステロン]
血液中のテストステロンは大部分がアルブミンかグロブリンと結合している。2%が遊離テストステロンで、これが各組織のアンドロゲンレセプターと結合して効果を発揮する。筋肉へのテストステロンの効果は運動なしでもあるが、メカニカルな負荷があるとよりいっそう大きな効果をもたらす。タンパク質の合成促進と分解抑制の両面から、筋肥大をもたらす。また成長ホルモンの分泌を刺激するといった間接的な効果でも筋肥大をもたらす。サテライト細胞の複製と活性化も促進する。テストステロンの抑制はレジスタンストレーニングへの反応を大幅に減らすことが示されている。
[成長ホルモン]
アナボリックとカタボリックの両方の効果がある。脂肪細胞を分解し、筋肉を含むタンパク質へのアミノ酸の取り込みを促進する。免疫機能や骨などにも関わる。脳下垂体前葉で分泌される。運動無しでは睡眠中に最も多く分泌。運動により分泌。運動後の成長ホルモンの上昇は、筋繊維の肥大と相関するという研究もある。レジスタンストレーニングに加えて成長ホルモンを投与しても、より一層の筋肥大は起こらなかった。ただこれは運動直後の成長ホルモンの急騰とは異なるので、運動直後の急騰が筋合成に関わっていないかどうかの結論はまだ出せない。
・細胞の膨張
- 細胞が水分を多く含んで膨張すると、タンパク質合成の促進と分解の抑制の効果が発揮される。
- 詳しいメカニズムははっきりとはわかっていないが、細胞膜への圧力の増大が細胞への脅威と認識され、それが超微細構造の強化につながる反応をスタートさせるのではないか。
- レジスタンストレーニングは細胞内外の水分のバランスを変化させる。特に解糖系のトレーニングで、細胞の膨張は最大化される。乳酸塩の蓄積が骨格筋の浸透圧の変化をもたらす。速筋は特に浸透圧の変化に敏感。
- 筋グリコーゲンの貯蔵量を増やすトレーニングも、細胞の膨張を増大させる可能性がある。グリコーゲン1gは水3gとともに貯蔵される。
・筋肉の低酸素状態
- 運動なしであっても筋肥大の効果があることが示されている。寝たきり状態で、一時的に血流を止める施術を行うと筋肉の萎縮を抑制できる。
- 血流を止めた状態で低負荷トレーニングを行うと(いわゆる加圧トレーニング)、高負荷トレーニングと同等の筋肥大効果が得られたとする研究がある。
- なぜ効果があるのかは理論がいくつかあって、乳酸塩の蓄積の増大と除去速度の低下、それによる細胞の膨張や成長ホルモンやIL-6などの上昇、産生された酸化窒素(NO)がサテライト細胞の増殖を促進したりMAPKシグナリングを活性化させたりする、虚血後の充血でサテライト細胞の活動が活発になる、など。
★レジスタンストレーニングでの筋肥大反応を開始する3つの要素
メカニカルテンション
筋肉へのダメージ
代謝ストレス
・メカニカルテンション(力学的な張力)
筋繊維の収縮で力を生み出すことによるものと、筋繊維が引き伸ばされる(エキセントリック)ことによるものがある。これらのメカニカルな張力は、筋肉の成長に必須だと考えられている。
- レジスタンストレーニングによるメカニカルなストレスが化学的な反応に転換され、筋繊維とサテライト細胞での分子的で細胞レベルの反応を引き起こすと考えられている。
- エキセントリック収縮での受動的な張力による筋肥大反応は速筋に特有のもので、遅筋では見られない。
・筋肉へのダメージ
- 弱い筋節は筋原線維の異なった箇所に存在していて、不均一な繊維の伸張が筋原線維のせん断を引き起こす。これは細胞膜を変形させ、カルシウムホメオスタシスの混乱とダメージをもたらす。
- ダメージが身体に検知されると、免疫機能が働き、これによりサテライト細胞の増殖と分化を調整する成長ファクターが働く。
- また神経筋接合部にはサテライト細胞が多く存在し、ダメージを受けた筋繊維へ神経が作用し、サテライト細胞を活性化させる可能性もある。
- エキセントリック動作で起こりやすく、特に速筋に起こりやすい。同じトレーニングを続けると起こりにくくなる。
・代謝ストレス
- ボディビル的なトレーニング、いわゆるバーン感が出るトレーニングで起こる。
- 無酸素解糖運動により、乳酸塩、水素イオン、無機リン酸塩、クレアチンといった代謝物質が蓄積される。これによるホルモン環境の変化、細胞の膨張、フリーラジカルの発生、成長関連の転写ファクターの活性化、酸性環境による筋繊維の分解の増大と交感神経の刺激がもたらす適応的な筋肥大反応の増大、といった経路で筋肥大が起こると考えられている。
関連記事:筋肥大をもたらす刺激(2019年版)
7/06/2016
ダイエットでは夜に炭水化物を集中的に食べよう
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1038/oby.2011.48/full
夜に集中的に炭水化物を食べるダイエットと、朝昼晩に分散させて炭水化物を食べるダイエットを比較した研究。
★背景
レプチンは食欲に影響をおよぼす。一般的には日中に低くなり、夕方から夜にかけて高くなり、午前1時にピークをつける。ラマダン中のムスリムはこのパターンが変わることが過去の研究で示されている。また、炭水化物を食べてから6-8時間後にレプチンレベルの上昇が始まることが示されている。夜に炭水化物をたくさん食べることで翌朝からレプチンレベルの上昇が始まれば、日中にレプチンレベルを高く保つことができ、空腹感を抑えてダイエットを成功させやすくするのではないか。
★被験者
年齢25-55歳 BMI>30 平均体重は90kg台 持病なし 職業は全員がイスラエルの警官
スタート時78名 完走63名
実験グループ30名
コントロールグループ33名
★方法
期間6ヶ月
・食事
1日のトータルカロリーとマクロ栄養素のバランスは両グループで同じ
- 1日1300-1500kcal
- タンパク質20%、脂質30-35%、炭水化物45-50%
- はっきり書かれていないけど栄養士の指導を受け自分で用意だと思う
- 実験グループは、夜に大部分の炭水化物を摂取
- コントロールグループは、一日を通して炭水化物を摂取
・身体測定
- 体重、体脂肪率、腹囲
・空腹感満腹感評価
1-10の10段階。数字が大きいほど満たされている。8時、12時、16時、20時、それぞれ食事前に調査票に記入。
・血液検査
- インスリンや血糖や中性脂肪やコレステロールなどメタボ関連指標
- 炎症マーカー
- レプチンとアディポネクチン
★結果
・身体測定
- 夜に大部分の炭水化物を摂取した実験グループの方が、体重が大きく減った(ただし実験グループの方が平均体重が重い)。
- BMI、腹囲、体脂肪率は実験グループの方が減る傾向にあった(有意差は無し)
・空腹感満腹感
- 一日を通して炭水化物を摂取したコントロールグループは、より空腹感を感じ満腹感が低かった。特に12時の調査で強い空腹感を感じた。
- 実験グループでは日中のレプチンレベルの低下が抑えられたことが、日中の空腹感の抑制につながったと考えられる。
・血液検査
- インスリンとグルコースは実験グループの方が改善
- 中性脂肪とコレステロールは同程度。HDLは実験グループの方が良い。
- 炎症マーカーは実験グループの方が良い結果
・ホルモン
- 日中レプチンは実験グループの方が減少率が小さい傾向(有意差なし)
- 日中アディポネクチンは実験グループの方が高い。
※アディポネクチンは、脂質と炭水化物の代謝に関わり、血中の糖と脂質を減らし、インスリン感受性を改善し、抗炎症作用がある。肥満の人においては、一日を通してアディポネクチンレベルは低い。普通の体脂肪率の人や減量をしている肥満の人はアディポネクチンレベルが上昇し、昼間にピークをつけるようになる。アディポネクチンレベルが高いほうが健康に良いと考えられる。
☆コメント
90kg台の体重でそれなりの活動量がありそうな職業なので、1300-1500kcalの食事なら一日のカロリー不足は1000kcalを越えるだろう。1ヶ月に4kgは減るはず。ダイエットを続けるにつれて消費カロリーが低下するとしても、中盤以降でも1ヶ月に2kgは減っていくはず。半年で10kg前後しか減っていないのは、カロリー摂取量については厳格には守れていなかったためだと思われる。従ってこの研究は、炭水化物を食べる時間帯によって代謝上の有利不利があるかではなくて、「夜に集中的に炭水化物を食べるというざっくりとしたガイドラインに沿ったダイエットをするとどうなるか」というものになる。夜に炭水化物を集中的に食べたほうが日中の空腹感を抑制でき、食事量を抑えやすかったのだろう。
体重減少に占める体脂肪と除脂肪体重の割合を計算すると、
- 実験グループ 体脂肪91.8% 除脂肪体重8.2%
- コントロールグループ 体脂肪83.7% 除脂肪体重16.3%
実験グループの方が除脂肪体重の減少が抑えられ、体脂肪が多く減った。体脂肪率の測定は常に誤差問題がつきまとうが、腹囲の減少も実験グループの方が大きい傾向があるので、夜に炭水化物を集中的に食べたほうがより良い結果が出ていると考えられる。
除脂肪体重の減少が抑えられた要因としては、おそらく夕食に炭水化物を多く食べることで、食事間隔が空いている間でも筋肉の分解が起きにくかったのだろう。夕食から翌朝の朝食までの食事間隔が最も大きい。肝グリコーゲンが少なくなると、脳へのグルコース供給のためにアミノ酸からグルコースへの転換が活発に行われるようになる。外部からアミノ酸の供給が無ければ、自分の体内のタンパク質(主に骨格筋)を分解してアミノ酸を調達し、グルコースを作り出す。詳しくは、食事回数と量の配分の[アンダーカロリー]の項目に。
他の研究でも、夜にたくさん食べた方が体脂肪の減少が大きく除脂肪体重の減少が小さいという結果が出ている。この研究は食事が厳格に管理されているのは良いけど、被験者数が10名と少なく体組成の計測があまり正確でない方法なのが弱点。
インスリンや血糖は起きている間だけ測定しているので食事パターンの影響がありそうだが、炎症マーカーでも良い結果が出ているので、健康にも良い影響がありそう。
日中のレプチンレベルの低下が抑えられているのは、分泌パターンが変わったからだと思う。しかし、仮に24時間のレプチンレベルの低下が抑えられているとしたら、減量に伴う消費カロリーの低下も抑えられている可能性がある。
栄養素の貯蔵と引き出しでも書いたように、どの時間帯に食べようが、トータルのカロリー収支のマイナス分の体重が減っていく。体重の減少は体脂肪の減少と除脂肪体重の減少によって起こる。体脂肪を減らし、除脂肪体重は減らさないのが良いダイエット。
ダイエットで夜に炭水化物を集中的に食べることのメリットは、
- 除脂肪体重が減りにくい。
- 昼間に空腹感を感じにくい。
- 満たされた状態で床に就けるのでぐっすり眠れる。睡眠不足だと太りやすい。
- 家族や友人や同僚と同じ夕食を食べることができる。
最近は糖質制限が流行っていて、特に夕食で糖質カットするやり方をしているのを見かけるけど、これは逆効果だから止めたほうが良いですね。
強度の高いウェイトトレーニングを組み合わせるケースでは、夜にウェイトトレーニングをするならそのままトレーニング後に炭水化物をたくさん食べるのが良い。朝や昼にトレーニングをする場合は、トレーニング後の炭水化物摂取を優先し、夕食など次の食事まで間隔が空く食事では消化吸収の遅いタンパク質を多めに摂取するのが良いと思う。