力の強さにはかなりの個人差がある。例えばスクワットやデッドリフトのトップ選手は400kgを越える重量を挙げられるが、多くの人はトレーニングを積んでもその半分の重量すら困難である。一方で短距離走や長距離走だと、トップ選手の6,7割のパフォーマンスを出すのは比較的容易である。100mを15秒、フルマラソンを3時間、健康な若い男性なら趣味の範囲のトレーニングで達成できる。
走るという比較的単純な動作のパフォーマンスを左右するのは、筋肉の瞬発力や筋持久力や全身持久力なのだろうと想像できるし、アスリートのこれらの能力は一般人よりも何割か高いのだろうと納得できる。だが、重いものを持ち上げるという単純な動作で一般人とトップ選手の差が2倍以上開くのには、他にも要素があると考えられる。どのような要素があると力持ちになれるのか、以下に考察してみる。
★筋肉の出力
・神経系の適応
筋繊維の動員と発火頻度。強度の高いトレーニングを行えば容易に神経系の適応は完了する。
・瞬発型か持久型か
筋繊維のタイプ分けについてはいくつかあるけど面倒なので割愛。全体で見て筋肉の性質が瞬発型だと瞬間的に大きな力を発揮できる。生まれつきの影響が大きい。
・羽状筋の羽状角
羽状筋についてはこちらの記事を参考に。筋肉が羽状筋の場合は羽状角が出力に影響する。羽状角が大きいと筋肉の縮む速度が遅いが、大きな力を発揮できる。
短距離走者の筋肉の羽状角は、長距離走者の筋肉の羽状角よりも小さいという研究がある。羽状角が小さいほうが筋肉の縮む速度が速くスプリントに有利なのだろう。短距離走者同士でも、ベストタイムが速い選手の方が羽状角が小さいという研究もある。
羽状筋は肥大すると羽状角が大きくなるが、もともと持って生まれた羽状角に個人差があり、それにより速く動かすのが得意か、遅くても大きな力を出すのが得意かという運動能力の違いが生じていると思われる。
・太さ(断面積)
筋肉は太い方が大きな力を出せる。鍛えれば太くなる。
★骨格の違い
・骨格によるテコ比の違い
人間の身体が骨格筋を用いて外部に力を加える際には、ほとんどの場合テコの原理が働く。腱の付着箇所が力点、関節が支点、外部との接触箇所が作用点。第3種てこなので、力点に加わる筋肉の出力よりも作用点で働く力は小さくなる。
1) 上腕二頭筋を使って肘を曲げて手に持ったおもりを持ち上げる動作(アームカール)を例に図解してみると以下のようになる。
2) 骨が短いと作用点-支点の距離が小さくなり、テコ比(力点-支点の距離/作用点-支点の距離)は大きくなる。従って、筋肉の出力が同じ場合でも作用点で働く力は大きくなる。それに加えて骨が太くて関節が大きいと、力点-支点の距離が大きくなり、これもテコ比を大きくする。
3) 仮にドラえもんのビッグライトを当てて骨格と筋肉をそのまま拡大したら、テコ比は一定で筋肉が太くなるので、より大きな力を出せるようになる。格闘技の無差別級やストロングマンコンテストの選手などはこのタイプ。身長が高くて骨格がデカイ(下の図)。
4) 一方で、高身長でも腕と脚が細長く伸びた骨格だと、強い力を発揮するのは苦手になる。骨が長いとテコ比は小さくなり、筋肉の出力が同じ場合でも作用点で働く力は小さくなる。しかし、作用点は大きく動くようになり、筋肉の収縮速度が同じでも作用点の速度が速くなる。野球の投手に多いのがこのタイプ。腕が長い方が速い球を投げられるので有利になる(下の図)。
・筋肉が力を発揮しやすい範囲で動作ができるか
筋肉は伸びすぎても縮みすぎても最大の力を発揮できない。腕や脚が短い方がスクワットやベンチプレスでは力の出る範囲で動作が行える。デッドリフト(コンベンショナル)は脚が長めの方が膝関節の角度が開いて力が入りやすいようだ。これについては以前書いたので参考まで(骨格によるフォームの違い)。
★まとめ
骨格と筋肉の性質により競技の向き不向きがある。ベンチプレス300kg挙げる人が野球の球を投げる練習をしても大してスピードは出ないだろうし、160km/hの豪速球を投げるピッチャーがベンチプレスをやりこんでも重い重量は上がらないだろう。
従って、挙上重量で中級者か上級者かを判断するのはナンセンス。その人の遺伝的限界に対してどの程度達しているかで判断するべきだろう。また他の人と挙上重量を比べて得意になったり落ち込んだりする必要もない。過去の自分を上回れるかが大事だと思う。
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