1/26/2018

タンパク質の種類と筋肥大

現在主流の考えだと、長期的な筋肥大に重要なのはタンパク質の種類や摂取タイミングよりも一日のトータルのタンパク質摂取量で、ある程度のタンパク質摂取量を確保すれば、それ以上摂取しても筋肥大は高まらない。

関連記事:ゴールデンタイムはあるのか?

最新研究だと、
(1) A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28698222
タンパク質摂取量1.62g/kg/dayを超えると、追加でプロテインサプリメントを摂取しても筋肥大がさらに促進されるわけではないという結果。


しかし、へえ~と思った研究があったので、タンパク質の種類による筋肥大への影響の違いをちょっと調べてみました。

★ホエイとサテライト細胞
実験期間中の筋肥大に違いがあるかどうかだけでなく、長期的な筋肥大の差につながる可能性のあるサテライト細胞の増加に違いがあるかどうか、という視点。

(2) Effects of Whey, Soy or Leucine Supplementation with 12 Weeks of Resistance Training on Strength, Body Composition, and Skeletal Muscle and Adipose Tissue Histological Attributes in College-Aged Males
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5622732/
若い男性が12週間のレジスタンストレーニングを実施。サプリメントの内容が異なる5グループに分けて、レジスタンストレーニングの効果に違いが出るか調べた研究。

サプリメントは、プラシーボ(マルトデキストリン)、ロイシン、ホエイプロテイン・コンセントレイト、ホエイプロテイン・ハイドロリセート、ソイプロテイン・コンセントレイト。

プラシーボ以外のサプリメントの摂取量は、ロイシン含有量約3gで揃えられている。1回あたりの摂取量は、ホエイがタンパク質含有量約25g、ソイがタンパク質含有量約39g。これを1日2回摂取。

プラシーボグループ含めて、グループ間ではストレングスの伸び、及び全身の筋肉量と筋繊維の断面積の変化に有意差は出なかった。プラシーボグループでも除脂肪体重を考慮するとタンパク質摂取量がそれなりに多かったことから、サプリメントでタンパク質をさらに摂取しても筋肥大に差が出なかったと考えられる。

しかしサテライト細胞の数については違いが出ていて、プラシーボとロイシンはサテライト細胞の数が有意差なしだったが、ホエイプロテイン摂取の2グループはサテライト細胞が増えた。ソイは有意差有りには達しなかったが増える傾向があった。プラシーボとロイシンに比べて、ホエイとソイのグループはトータルのタンパク質摂取量が多くなっているので、これが影響した可能性もある。ただトータルのタンパク質摂取量はソイが最も多いけど、サテライト細胞の増加はソイよりもホエイの方が優位になっているので、タンパク質摂取量以外のファクターがある感じもする。
 
サテライト細胞の増加は筋肥大ポテンシャルの向上を示唆していると考えられる。実験期間中の筋肥大に差がなくても、サテライト細胞の数に差が出ていれば、長期的には筋肥大に差がつくかもしれない。

サテライト細胞の働きについては以下を参考に

関連記事:筋肥大のメカニズム

ホエイとプラシーボでサテライト細胞の増加に違いが出るかどうかを調べた研究は他にもいくつかあって、部分的にホエイ優位の結果か、もしくは有意差は無いけど傾向としてはわずかにホエイ優位という結果が出ている。これらの研究もホエイの方がプラシーボよりもトータルのタンパク質摂取量が多いので、ホエイの効果によるものなのか、タンパク質摂取量の違いによるものなのか、はっきりしない面もある。

以下の2つの研究でのホエイの摂取量は1日約20g

(3) Influence of exercise contraction mode and protein supplementation on human skeletal muscle satellite cell content and muscle fiber growth.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4280155/

(4) Protein Supplementation Does Not Affect Myogenic Adaptations to Resistance Training.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28346813/
https://www.utmb.edu/pepper/publications/2017%20Pubs/PMC5433887.pdf

差は微妙なものだと思われるが、プラシーボよりもホエイの方が不利になることはなさそうなので、筋肥大の最大化を目指す場合はホエイプロテインを飲むのが良いと思う。除脂肪体重約60kgの若い男性が1日あたりタンパク質含有量約50gのホエイプロテインを摂取した(2)の研究が、サテライト細胞の数にもっとも差が出ているので、実践する場合はこの量が目安になるだろう。


★肉・魚と筋肥大
(5) Effects of an omnivorous diet compared with a lactoovovegetarian diet on resistance-training-induced changes in body composition and skeletal muscle in older men.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10584048
http://ajcn.nutrition.org/content/70/6/1032.long

高齢者(51–69歳)が12週間のレジスタンストレーニングを実施。食事内容が異なる2グループに分けて、レジスタンストレーニングの効果に違いが出るか調べた研究。
片方のグループは、卵と乳製品は食べても良いベジタリアン食(ラクト・オボ・ベジタリアン)。もう片方は、肉でもなんでも食べる通常の食事(ここでの肉は魚も含む)。
被験者は両グループとも、実験前の食事では肉も魚も食べている。

結果は、通常の食事グループの方が筋肥大で良い結果が出ている。除脂肪体重はラクト・オボ・ベジタリアンが-0.8kg、通常食が+1.7kg。脚から採取した筋繊維は、タイプ1が変化無しで、タイプ2が両グループとも太くなったが、通常食の方がより太くなった(通常食+16.2%、ラクト・オボ・ベジタリアン+7.3%)。ストレングスの伸びはグループ間で有意差なしだけど、通常食の方がより伸びた傾向。

食事内容による筋肥大効果の違いがどのような要因によるものか推測すると、

1) 摂取タンパク質の量と質の違い
ラクト・オボ・ベジタリアングループの方がタンパク質摂取量と動物性タンパクの割合が低いので、それが筋肥大に悪影響を与えている可能性がある。ただグループ間でそれほど大きな差では無いし、高齢者がレジスタンストレーニングを行った関連研究ではラクト・オボ・ベジタリアン食だとタンパク質摂取量が1.6g/体重kg/dayでも筋肥大しなかったとのことなので、摂取タンパク質の違いは筋肥大の差にほとんど影響を与えていないのではと考えられる。

2) 亜鉛不足の可能性
ベジタリアン食は亜鉛が不足しやすい。亜鉛が不足すると筋合成に悪影響が出るようだ。
(6) Effects of magnesium and zinc deficiencies on growth and protein synthesis in skeletal muscle and the heart.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1772873

3) クレアチン不足
ラクト・オボ・ベジタリアングループは、食物からのクレアチン摂取量がほぼゼロになるので、筋肥大に悪影響が出ている可能性がある。またクレアチンローディングの逆で、水分が抜けて除脂肪体重が減っているのかもしれない。

関連記事:クレアチンについて

4) テストステロンレベル
今回の研究では計測していないが、もしかしたらラクト・オボ・ベジタリアングループはテストステロンレベルが低下していて、それが筋肥大に悪影響を与えた可能性がある。
(7) Serum sex hormones and endurance performance after a lacto-ovo vegetarian and a mixed diet.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1435181?dopt=Abstract

要因ははっきりしないし、現時点の科学で解明できない要因もあるのかもしれないけど、筋肥大の差はくっきり出ているので、筋肥大を目指すには肉・魚は食べたほうが良いと思われる。ベジタリアン食にこだわる場合は、サプリメントで亜鉛とクレアチンを摂取すると良さそう。

ちなみに健康面を考えるなら、赤身肉ばかり食べず、タンパク質源は分散させた方が良いだろう。

関連記事:低炭水化物食とタンパク質源の健康への影響


★ソイと筋肉のダメージ
(8) Soy Beverage Consumption by Young Men
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J133v03n01_03?journalCode=ijds19

(9) Four Weeks of Supplementation With Isolated Soy Protein Attenuates Exercise-Induced Muscle Damage and Enhances Muscle Recovery in Well Trained Athletes: A Randomized Trial.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5098124/

ソイプロテインの継続的な摂取で、ソイのもつ抗酸化作用により筋肉のダメージが軽減されるという研究がある。筋トレによる筋肉へのダメージを減らせれば、短いスパンで次のトレーニングを行うことが出来、長期的に良い結果を得られると考えられる。ただ一般的な日本人の食生活は欧米に比べて大豆製品の摂取量が多いので、追加でソイプロテインを摂取しても研究のような効果がないかもしれない。


★まとめ
実践面では、ホエイプロテインを摂取、肉と魚を食べる、トータルのタンパク質摂取量は1.6-2.0g/kg/day程度(維持カロリー以上摂取)というのが筋肥大効果を高めるタンパク質の摂取の仕方だと思う。豆製品も食べておくとトレーニング効率を高められるかもしれない。

関連記事:タンパク質摂取量の目安