9/29/2015

[ボディメイク記録] 減量結果

前回の記録 6月3日
今回の記録 9月28日


★現状記録
筋グリコーゲンレベルは低め。直前のトレ履歴は、前々日に下半身、当日に上半身。


★身体計測
身長:180cm
体重:70.3kg(-6.8kg)
バスト:96cm(-5.0cm)
ウェスト:74cm(-8.0cm)
ヒップ:89cm(-5.0cm)
右上腕:29.5cm(-1.5cm)
左上腕:28.5cm(-1.5cm)
手首径:16cm
右大腿:54cm(-4.0cm)
左大腿:53cm(-4.0cm)
右カーフ:35.0cm(-1.0cm)
左カーフ:34.5cm(-1.0cm)
足首径:19cm


★主な種目のトレーニング重量
懸垂ワイド順手・・・5kg加重×7reps
ベンチプレス・・・75kg×4reps
デッドリフト・・・120kg×3reps
スクワット(スミスマシン)・・・80kg×6reps


★トレーニング種目明細
セット数: メイン5セットくらい。

メイン種目
- スクワット(週2回)
- デッドリフト(週2回)
- ベンチプレス(週2回)

補助種目
- インクラインベンチプレス(スミスマシン)
- インクラインベンチにうつ伏せになってラテラルレイズ
- インクラインベンチにうつ伏せになって上背部を使ってのダンベルローイング
- 懸垂(ワイド順手・ナローパラレル)
- ローイングマシン
- レッグカール
- カーフレイズ
- プレス
- ダンベルショルダープレス
- サイドレイズ
- 腹筋マシン
- カールアップ
- アームカール


★減量プロセス
基本的に上半身を週2回、下半身を週2回。上半身は胸、肩、腕、懸垂。下半身はデッドリフトとスクワットとレッグカールをこの順番で行った。

有酸素運動は、ウェイトトレーニング後に20分くらいエアロバイク漕ぐのと休みの日に早足で30分歩く程度。

カロリー摂取の振り分け目安は以下の通り。あくまで目安なので厳密には出来ていない。
- 食事回数は一日3回。トレーニング日はトレーニング直前にホエイとスクロース。
- トレーニング日はトレーニング前後の食事で炭水化物摂取。
- トレーニングしない日はなるべく炭水化物カット。
- 体重は1週間に0.5kg減のペース。

1週間のサイクルはこんな感じ。
1日目:下半身トレ/500kcal程度マイナス
2日目:上半身トレ/500kcal程度マイナス
3日目:休み/500kcal程度マイナス
4日目:休み/500kcal程度マイナス
5日目:下半身トレ/500kcal程度マイナス
6日目:上半身トレ/500kcal程度マイナス
7日目:休み/500kcal程度マイナス


★食事内容
- タンパク質の摂取量は2-3g/体重1kg/日。動物性食品とプロテインパウダーのみ摂取量にカウント。植物性タンパク質はアミノ酸組成と人体への吸収率が低いのでカウントしていない。
- 脂質の摂取量はあまり把握していないけど、炭水化物カットの日は卵や魚や乳製品など高たんぱく質食品に付随する脂質を普通に摂取、トレーニング日は脂質を減らしなるべく炭水化物でカロリーを摂るようにした。
- 健康のため、野菜、果物、豆も摂取。炭水化物カットは米やパスタを食べない程度でシビアにはやらず、野菜や豆類はなるべく食べるようにした。


★雑感
- 8月に旅行に合わせて2週間ほど維持期を入れた。
- トレーニング重量はあまり落ちなかった。自分には各部位週2回が合ってるらしい。
- 筋グリコーゲン残量のコントロールが結構うまくいった。カーボ減らしても高レップトレーニングを行わなければわりと筋グリコーゲン残量を維持できるようだ。
- ウェスト75cmあたりからなかなか落ちなくなってきた。効率を考えるとこの辺まで落としたら維持・増量期に移行した方が良さそう。
- 腕と肩前部の左右差がかなりあるなあ。なるべく差が縮まるようにしたい。肩後部はほとんど差がないのでやれば出来るはず。腹直筋の左右差は生まれつきっぽいので諦める。


★怪我
- 特に無し。順調だった。有酸素もやり過ぎないようにして膝関節を痛めないよう気をつけた。


★今後の予定
- 1週間程度の休息後、カロリー維持で高レップフェーズをやってから、中レップ低レップで増量。

9/26/2015

プロテインパウダーの選択


プロテインパウダー 消化吸収 価格 BCAA含有率 その他
ホエイ   速い 普通 高い カルシウム摂取できる
カゼイン カゼイネート やや遅い やや高い やや高い カルシウム摂取できる
  ミセラーカゼイン 遅い 高い やや高い  
ソイ   速い 安い 普通 イソフラボン過剰摂取に注意


プロテインパウダーは、いわゆる「プロテイン」のこと。乳製品や大豆のタンパク質を粉末にしたもの。

★プロテインパウダーの特徴
・プロテインパウダーの長所
- ものによっては通常の食品よりもタンパク質1gあたりの価格が安い。
- 脂質と炭水化物が少ないのでカロリーコントロールしやすい。
- 保存期間が長い。
- 栄養摂取量の管理が容易。
- 運動前・運動中に摂取しても高い強度の運動が可能(カゼインはキツイかも)。
- 運動直後の食欲が無い状態でも摂取しやすい。
- 食欲や消化能力の問題で運動量に見合うだけの食事を取るのが困難な場合に栄養摂取補助に使える。

・プロテインパウダーの短所
- 精製度の高い食品に共通の問題だが、微量栄養素が少ない。そのため食事の大半を占めるようにはしないほうが良い。

・プロテインパウダーの消化吸収速度
消化吸収が速いとエネルギーとして使われやすくなる(酸化される)ので、筋肉の餌という観点では無駄が増える。絶食を続けてから運動をした場合、例えば寝起きに何も食べずにトレーニングした後などはたぶん消化吸収が速い方が良いが、わざわざそんなことをせず運動前に摂取しておけば良いし、通常の食事は消化吸収に5時間くらいはかかるので、普通に生活していれば体内の栄養供給がすっからかんの状態でトレーニングすることにはならない。従って、消化吸収が速いプロテインパウダーはトレーニング直前やトレーニング中に摂取しても胃にもたれにくく高強度の運動ができるという点以外にはあまりメリットは無い。ペプチドとかは無駄に高価で無駄に酸化されるだけ。

・BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)
タンパク質は消化吸収過程でアミノ酸に分解され小腸と肝臓を経由してから血液に放出され、それから筋肉にたどり着く。小腸ではアミノ酸は一時的に蓄えられたり身体内で使われるタンパク質やホルモンの材料になったりする。肝臓では酸化されたり分解されて他の物質の材料になったりする。そのため食べたタンパク質のアミノ酸組成がそのまま血液中に放出されて、筋肉にたどり着くわけではない。BCAAは肝臓で代謝されにくくそのまま血液中に放出されやすい。またロイシンは筋合成のシグナルに関わってたりする。従って筋合成の観点ではBCAA含有率は大事で、プロテインパウダーのコストパフォーマンス(タンパク質1gあたりの価格)を考える場合は、BCAA含有率も加味した方が良いだろう。ちなみに肉や魚などのタンパク質のBCAA含有率は15-20%程度。


★ホエイ
BCAA含有率23-25%程度。消化吸収が速い。糖質や繊維質や脂質と一緒に摂取すると消化吸収が遅くなるので、維持期・増量期に通常の食事と同時に摂取する場合は消化吸収の速さは気にしなくて良い。ホエイ単体だとかなり速いので減量期に単体で使う場合は注意。BCAA含有率と価格と手に入れやすさと飲みやすさを考えると、維持期・増量期はホエイでタンパク質摂取量を底上げするのが便利。

ホエイとカゼインのプロテインパウダーはそれなりにカルシウムが含まれているのも良い。カルシウムが不足するとおそらく太りやすくなる。


★カゼイン
BCAA含有率20%程度。カゼインのプロテインパウダーには、ミセラーカゼインとカゼイネートがある。原材料にカゼインカルシウムやカゼインナトリウムと書かれているものがカゼイネート。カゼイネートは精製度が高く、消化吸収速度がミセラーカゼインより速い。ホエイよりは遅いが、BCAA含有率はホエイより低く、消化吸収速度はミセラーカゼインより速く、尖ったところが無いので使いにくい。価格はミセラーカゼインより安価。

ミセラーカゼインは減量時や、LeangainsのようなIntermittent Fastingで食事間隔を空ける時に使うと良い。日本メーカーのカゼインプロテインパウダーはほとんどがカゼイネート。ミセラーカゼインは海外製のを利用するのが良いと思う。私はオプティマムのナチュラルシリーズのカゼインを使ってます。

維持期・増量期でカロリーの摂取枠に余裕があるならスキムミルクも良い。ミルクタンパク質はホエイが20%で、カゼインが80%。精製度が低いので微量栄養素はプロテインパウダーより優れているし、価格もミセラーカゼインより安価だろう


★ソイ(大豆)
BCAA含有率17%程度。消化吸収が速い。男性は植物エストロゲン(イソフラボン)の摂り過ぎによるテストステロンレベル低下リスクが警告されるが、議論は決着してない模様。経験則では昔のボディビルダーはソイプロテインを大量に摂取していたがネガティブな効果は報告はされていない。

ソイは価格面以外では特にメリットが無いので、ベジタリアンや乳製品アレルギーでソイ以外に選択肢が無い人以外は、ソイにこだわる必要は無いだろう。目安としてはプロテインパウダー以外の豆製品も含めて大豆タンパク質は1日50g程度を上限に。食べ物全般に言えることだが、特定の食べ物を偏って大量摂取はせず、色んな食材を満遍なく食べることで、リスク分散および微量栄養素の相乗効果を狙うのが良い。

※追記:ソイプロテインパウダーの摂取で筋肉のダメージが軽減される可能性がある。
Soy Beverage Consumption by Young Men
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J133v03n01_03?journalCode=ijds19

Four Weeks of Supplementation With Isolated Soy Protein Attenuates Exercise-Induced Muscle Damage and Enhances Muscle Recovery in Well Trained Athletes: A Randomized Trial.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5098124/




[参考書籍]
The Protein Book / Lyle McDonald


関連記事:
タンパク質摂取量の目安

ゴールデンタイムはあるのか? 

カゼイネートとミセラーカゼインの消化吸収速度

カルシウム・乳製品が体組成変化に与える影響 

低炭水化物食とタンパク質源の健康への影響

9/18/2015

ダイエットに効果のあるサプリメント

Lyle McDonald の記事から。近日リリース予定の女性のためのフィットネス本の内容が抜粋されている。女性向けの内容だけど男性にも有効。

Fat Loss Supplements
http://www.bodyrecomposition.com/fat-loss/fat-loss-supplements-2.html/


★はじめに
ダイエットに効果のあるサプリメントには、消費カロリーを増やすもの、食欲を抑制するもの、頑固な脂肪の分解を促進するものがある。ヨヒンビン以外は消費カロリーを増やすもので、ものによっては食欲も抑制する。消費カロリーの増加は良くて5-10%程度。副作用は心拍数が増え血圧が上がるものが多い。

ダイエットにはこれらのサプリメントが必須というわけではない。正しい食事と運動がダイエットの基本。これらのサプリメントは、低い体脂肪率でコンテスト等に向けて減量している人が、なかなか体重が落ちなくなってきた時の切り札として使うのが良いだろう。

詳しい服用方法についてはリンク先の記事や、Lyle McDonald の以前の書籍に書かれている。自分で調べられるレベルの人のみが使用した方が良いと思うので、意図的に私の記事には詳しく書いていない。

現時点では、この記事に書かれているサプリメントのみがダイエットに効果があると考えて良い。ガルシニアやカルニチンはダイエットには無意味。市販されていない薬物にはもっと効果のあるものもあるだろうけど私は詳しくは知りません。。


★カフェイン
- 1日600mgの摂取で100kcal程度消費カロリーを増やす。
- 女性の黄体期ではカフェインへの感受性が鈍り体内の滞在時間が長くなる。
- 睡眠への影響を避けるため就寝が近い時間帯に摂取しない。
- ストレスに対するコルチゾールの反応を高めるので、過剰摂取しないほうが良い。

★唐辛子
- 消費カロリー増加と脂肪の分解・燃焼にわずかな効果がある。
- 効果の持続時間は長くても数時間。

★緑茶(有効成分EGCG)&カフェイン
- EGCGとは没食子酸エピガロカテキンのこと。
- 消費カロリーを5%程度増やす。
- 緑茶で効果のある量を摂取するのは難しいので、サプリメントの利用が良い。
- 推奨服用方法は、130-160mgのEGCGと100mgのカフェインを一日三回摂取。

★ニコチン&カフェイン
- 消費カロリーを5%程度増やす。
- 食欲の抑制に効果大。
- 効果の持続時間は2時間程度。
- 推奨服用方法は、1mgのニコチンと100mgのカフェイン。

★エフェドリン&カフェイン(ECスタック)
- 1990年代に流行。過剰摂取と他の薬物との併用による死亡例あり。
- 消費カロリーを5-10%程度増やす。
- 食欲抑制し脂肪燃焼を増やしエクササイズのパフォーマンスを向上させる。
- 心拍数と血圧が上がる。慣れるとこの副作用は消える。
- 他の薬物とは逆に、使用を続けていると効果が増していく。
- 推奨服用方法は、20mgのエフェドリンと200mgのカフェインを一日三回摂取。使ったこと無い人は半分の量からスタート。

★ヨヒンビン
- 頑固な脂肪の分解を促進する。体脂肪率が低い人向け。
- わずかなインスリンの分泌でヨヒンビンの効果が消されるので、空腹時に使用し同時に有酸素運動を行い分解された脂肪を燃焼する。
- 運動中の心拍数が上がる。
- 保水効果があるので体脂肪が減ってないように見えるが、水が抜ければ減ってるのがわかる。摂取量を減らすと水が排出される。
- 推奨服用方法は、0.2mg/体重kgのヨヒンビンと100-200mgのカフェイン。
- 男女とも性器への血流が増す。男性は勃起に注意。
- 多量の摂取は不安発作のトリガーになるので、その性質のある人は使用禁止。

9/12/2015

インスリンにまつわる迷信と事実

インスリンの話。ネタ元へのリンクは記事の最後に。


★基礎知識
インスリンは血液中の糖(グルコース)のレベルをコントロールするホルモン。食事を行い血液中のグルコースレベルが上昇すると膵臓がそれを感知しインスリンを放出する。インスリンは肝臓や筋細胞や脂肪細胞がグルコースを取り込むのを促進する。血糖レベルが下がるとインスリンレベルも下がる。このサイクルは一日を通して起こっている。

インスリンは筋肉がタンパク質を新たに合成するのを刺激したり、脂肪分解を抑制し脂肪合成を刺激するといった働きもある。この脂肪合成・分解に関わる働きが、インスリンの悪い評判をもたらし、炭水化物が悪者扱いされるようになっている要因である。この炭水化物悪者説のロジックを簡潔に書くと、

高炭水化物の食事をする→インスリンがドバドバ分泌→脂肪合成が盛んになり脂肪分解が抑制される→肥満になる

逆に、

低炭水化物の食事をする→インスリンがあまり出ない→脂肪合成が抑制され脂肪分解が盛んになる→体脂肪が減る

しかしこの2つのロジックは多くの迷信に基づいている。


★多くの迷信と事実

迷信1:高炭水化物の食事は、慢性的な高いインスリンレベルをもたらす。
事実:健康な人においてはインスリンレベルは食後のみ上昇する。

健康な人においてはインスリンレベルは食後のみ上昇し、その時間帯は脂肪合成が脂肪分解を上回り、差し引きで体脂肪が増える。消化吸収を終えた後、次の食事までの時間帯は、脂肪分解が脂肪合成を上回り差し引きで体脂肪が減る。トータルの摂取カロリーと消費カロリーが同じなら、24時間での体脂肪の増減は差し引きゼロになる。


迷信2:炭水化物がインスリンレベルを上昇させ、それが脂肪を貯蔵させる。
事実:身体はインスリンレベルが低くくても脂肪を合成し貯蔵することが出来る。

例えば、hormone-sensitive lipase (HSL)という酵素は脂肪分解を促進し、インスリンはHSLの活動を抑制するが、脂質もHSLの活動を抑制する。従ってカロリー収支がプラスになれば、炭水化物を摂取しなくても体脂肪は増加する。
(そもそも脂質だけ摂取した場合でも迅速に貯蔵場所に送り込まれるシステムを用意しておかないと、消化吸収された脂質は長時間血中に残り続け健康に害をなすことになる。人体がそんな欠陥システムだったらとっくに進化の過程で滅びてる)。


迷信3:インスリンによって空腹になる。
事実:インスリンは食欲を抑制する。


迷信4:炭水化物のみがインスリンレベルを上昇させる。
事実:タンパク質もインスリンの分泌を促進する。

低タンパク質・高炭水化物と高タンパク質・低炭水化物の等カロリーの食事をそれぞれ摂取した場合、高タンパク質・低炭水化物の方がインスリンレベルが上昇した。

他の研究で高タンパク質・低炭水化物の食事を摂取した場合、インスリンレベルは大きく上昇し、それは血糖レベルの変動とは無関係だった。様々な食材を等カロリー摂取した場合のインスリンレベルの上昇を調べた研究では、炭水化物が含まれていない牛肉や魚を摂取した場合も、インスリンレベルは上昇している。

アミノ酸はグルコースへの変換なしに、ダイレクトに膵臓からのインスリン分泌を促進する。つまりタンパク質摂取によるインスリンレベルの上昇は、糖新生によるものではない。

タンパク質の摂取はグルカゴンの分泌を促進し、グルカゴンが脂肪分解を増やすという説があるが、グルカゴンが人体において脂肪分解を増やすというのは否定されている。タンパク質を摂取するとグルカゴンレベルが上昇するのは、タンパク質摂取でインスリンレベルが上昇しそれにより血糖値が下がり過ぎるのを防ぐため。グルカゴンは肝臓がグルコースを生成するのを促進する。


迷信5:インスリンレベルの急上昇は悪である。
事実:インスリンレベルの急上昇は、ノーマルで重要な生理学的機能に資する。

インスリンが分泌される段階は主に二つある。第一段階では、膵臓が血糖の上昇を感知し、蓄えていたインスリンを1-2分以内に放出、10分以内に終わる。この機能は耐糖能異常の人において損なわれていて、2型糖尿病の人においては完全に機能停止している。第二段階では蓄えの放出と新たな生成を、血糖レベルが上昇している間続ける。

もしインスリンが分泌されないとどうなるか、後ほど糖尿病患者のケースで述べる。


迷信6:インスリン注射をする糖尿病患者は体重が増える、つまりインスリンは健康な人にとっても体重増加の原因になる。
事実:健康な人においては、アミリンがインスリンと同時に分泌される。アミリンは食欲を抑制し脂肪分解を促進する効果を持つ。

アミリンは膵臓からインスリンと同時に分泌されるホルモンで、食欲を抑制し脂肪分解を促進する。1型糖尿病患者はアミリンを生成できず、2型糖尿病患者は機能が損なわれている。Pramlintideという薬はアミリンの機能を模倣するが、この薬は糖尿病患者において体重減少を生じさせることが知られている。

従って、糖尿病患者のインスリン注射は、健康な人の体内でのインスリンレベルの変化による効果とは比べられない。


迷信7:インスリンレベルを下げることは食欲コントロールを改善させる。
事実:インスリンは満腹感にとって重要な多くのホルモンのうちの一つである。


迷信8:ここまで書かれた情報は健康な人に適用される。
事実:肥満や糖尿病の人にも適用される。

血糖コントロールとインスリンコントロールを混同してはいけない。血糖コントロール自体が、以下の食生活が健康に良いことの部分的な理由である、低GI炭水化物を摂取したり炭水化物の摂取量を減らすこと、タンパク質摂取を増やすこと、食物繊維を摂取すること、果物や野菜を摂取すること、加工食品よりもホールフードを摂取すること。

インスリン感受性の改善と血糖値の急変動を避けることによって、インスリンレベルは結果としてコントロールされる。


★乳製品とインスリン

よくある俗説:炭水化物はインスリンレベルを上昇させるので脂肪を蓄積させる

これまで説明してきたように、タンパク質もインスリンレベルを上昇させるし、長期的な体重増減はカロリー収支の問題である。

乳製品は血糖レベルをさほど上げないが、インスリンレベルを大きく上昇させる。実験では、精白パンと同等かそれ以上のインスリン反応を示した。

なぜ乳製品がインスリンレベルを大きく上げるのか。
・BCAAレベルの上昇とインスリン反応が相関。ロイシンは膵臓からのインスリン分泌を直接刺激。乳製品のタンパク質はBCAAの含有率が高い。
・乳製品は、glucose-dependent insulinotropic polypeptide (GIP)の生成を増加させる、GIPはインクレチンでインスリン分泌を促進する。血中に送り込まれる前の消化吸収段階でもインスリン分泌が刺激される。

研究では乳製品の摂取と体重増加の相関は示されていない。コントロール実験でも同様。むしろ乳製品を摂取した方が太りにくいという結果も出ている。もちろん高脂質の乳製品を大量に食べればカロリーオーバーするので太る。


★インスリンが欠如するとどうなるか

「インスリンが無いと高血糖になるのは、グルコースが細胞に取り込まれないため」というのは間違い。

グルコースは輸送体(transporter)によって細胞内に入る。筋細胞と脂肪細胞における第一の輸送体はGLUT-4で、インスリンはGLUT-4が細胞の中から細胞の表面に移動するのを刺激する。細胞の表面でグルコースはGLUT-4輸送体と結合し、細胞内に入る。しかしグルコースの輸送体はGLUT-4以外にも多くある。インスリンなしでも細胞のエネルギー需要を満たすグルコースを十分に取り込める輸送体が細胞内に存在する。

マウス実験で、筋細胞と脂肪細胞のインスリン受容体をノックアウトし、脳や肝臓のインスリン受容体は正常なままにしたら、マウスは糖尿病にはならず正常な血糖レベルを保った。

1型糖尿病の人にインスリン投与を行わないと、血糖値は急上昇する。しかしこれはグルコースが細胞内に取り込まれないためではない。血糖レベルには、血中に放出されるグルコース量と、血中から取り除かれるグルコース量の両方が影響する。絶食時(fasted:食べ物の消化吸収を行っていない状態)のインスリン無し糖尿病患者の体内では、グルコースは肝臓から血中に放出される。肝臓はアミノ酸等からグルコースを生成(糖新生)するか、肝グリコーゲンからグルコースを生成するかしてこれを行う。インスリンはこの肝臓のグルコース生成を抑制する働きをするが、インスリンが欠如していると、身体の状態関係なく肝臓はひたすらグルコースを生成し続けることになる。

またインスリンは肝臓でのケトン生成を抑制する働きもするので、インスリンが欠如していると肝臓は脂肪酸からひたすらケトンを生成し続ける。糖尿病性ケトアシドーシスである。インスリンが欠如していると筋肉と脂肪の分解も抑制されないので、肝臓にアミノ酸と脂肪酸がどんどん供給され、肝臓はグルコースとケトンをどんどん生成し血中に放出する。これが高血糖とケトアシドーシスが同時に起こるメカニズムである。

このようにインスリンは交通整理を行う警官や信号機に似た役割を果たす。交通警官や信号機によって交通の流れが制御されないと交通事故が起きるように、人体でインスリンが欠如するとグルコース生成とケトン生成のサイクルが暴走し死に至る。

2型糖尿病の人の場合、肝臓のインスリン抵抗性と細胞のインスリン抵抗性により、肝臓でのグルコース過剰生成と細胞でのグルコース取り込み不足が起こり高血糖になる。食後の高血糖は過剰生成と取り込み不足の両方が原因で、前者の影響の方が大きい模様。絶食時の高血糖は過剰生成の影響が支配的。


参考記事:
Insulin…an Undeserved Bad Reputation
http://weightology.net/weightologyweekly/index.php/free-content/free-content/volume-1-issue-7-insulin-and-thinking-better/insulin-an-undeserved-bad-reputation/

Insulin: An Undeserved Bad Reputation, Part 2
http://weightology.net/weightologyweekly/index.php/free-content/free-content/volume-1-issue-10-insulin-physical-activity-and-weight-regain/insulin-an-undeserved-bad-reputation-part-2/

Insulin: An Undeserved Bad Reputation, Part 3…MOOOOO!!!!
http://weightology.net/weightologyweekly/index.php/free-content/free-content/volume-1-issue-12-insulin-dairy-products-and-eat-slow-to-eat-less/insulin-an-undeserved-bad-reputation-part-3-mooooo/

Insulin: An Undeserved Bad Reputation, Part 4: The Biggest Insulin Myth of Them All
http://weightology.net/weightologyweekly/index.php/free-content/free-content/volume-1-issue-13-insulins-biggest-myth-and-ad-hominems/insulin-an-undeserved-bad-reputation-part-4-the-biggest-insulin-myth-of-them-all/

Insulin: An Undeserved Bad Reputation, Part 5: Addressing the Critics
http://weightology.net/weightologyweekly/index.php/free-content/free-content/volume-1-issue-18-insulin-an-undeserved-bad-reputation-addressing-the-critics/insulin-an-undeserved-bad-reputation-part-5-addressing-the-critics/

Insulin, an Undeserved Bad Reputation: The Biggest Insulin Myth, Continued…
http://weightology.net/weightologyweekly/index.php/free-content/free-content/volume-1-issue-19-insulin-an-undeserved-bad-reputation-the-final-chapter/insulin-an-undeserved-bad-reputation-the-biggest-insulin-myth-continued/


関連:
カルシウム・乳製品が体組成変化に与える影響

栄養素の貯蔵と引き出し