3/22/2017

プレス動作のステップアップ

Ask EC: Installment 1
http://ericcressey.com/ask-ec-installment-1

肩峰下インピンジメントが治癒して、プレス動作のトレーニングを再開する際にどのようなエクササイズを行ったら良いかという質問にEric Cresseyが回答している。

肩の調子が悪い人のエクササイズ選択の参考にもなるので紹介。


★ステップアップ順
順序が最初の方のエクササイズは、肩がそれほど頑健でなくても怪我のリスクが低い。

自重腕立て伏せ → 荷重腕立て伏せ → 低い位置からのケーブルクロスオーバー → 尻の位置からのケーブルクロスオーバー → ニュートラルグリップ(両手の掌が内側を向く)でのダンベルフロアプレス → ニュートラルグリップでのデクラインダンベルプレス → 順手でのデクラインダンベルプレス → バーベルフロアプレス → デクラインバーベルベンチプレス → フラットベンチでのダンベルプレス → インクラインダンベルプレス → フラットベンチでのバーベルベンチプレス → インクラインベンチプレス → ダンベルミリタリープレス → バーベルミリタリープレス/プッシュプレス → ビハインドネックプレス

必ずしも最後までステップアップする必要はない。肩の怪我をした人にとっては、ビハインドネックプレスは得られるリターンに比べてリスクが大きすぎる場合がある。


★なぜこの順序なのか
1) 肩甲骨と上腕骨のスタビライザーは、クローズドチェイン(手もしくは足の位置が固定)のエクササイズで最も効果的に働く。したがって腕立て伏せはスタビライザーを動員しやすい。

2) インピンジメントの症状は、肩関節の屈曲・外転が90度を超えると悪化しやすい。したがって直立時に腕が肩よりも上にくる角度で行うインクラインやオーバーヘッドプレスの順序は後の方になる。(肩関節の屈曲はフロントレイズの動き、肩関節の外転はサイドレイズの動き)

3) ケーブルクロスオーバーのように上腕骨頭を関節窩(肩関節のソケット)から引っ張る動きは、上腕骨頭を関節窩に押し付ける動きよりも怪我歴のある筋肉にとってダメージが少ない。

4) 順手でダンベル/バーベルを握ると上腕骨が内旋のポジションになり、肩峰下のスペースが小さくなって再び肩峰下の怪我をするリスクが高くなる。


★その他注意点
- 最初はゆっくり丁寧に行う。特にエキセントリックをゆっくり。
- エクササイズ中とそのあとに肩に痛みが出ないか注意する。出たらステップバックしてリスクの低いエクササイズを行う。
- 肩甲骨の内転(寄せる動き)と下制(下げる動き)と上腕の外旋を、並行して鍛える。

・肩甲骨の内転のエクササイズ例
シーテッドロウやベントオーバーラテラルレイズやフェイスプルなど。軽い重量で肩甲骨から動かして肩甲骨を寄せるのを意識する。手や肘から動かすとだいたい肩に良くない動きになるので注意。

・肩甲骨の下制のエクササイズ例
動画:ShoulderPerformance.com: Prone 1-arm Trap Raise

動画:EricCressey.com: Troubleshooting the Prone 1-arm Trap Raise
- 仰向けになって顎を引く。
- 片腕ずつ行う。
- 意識して収縮させるのは僧帽筋下部で、メインで動かすのは「胸椎-肩甲骨」の部分。三角筋などを使って肩関節メインで動かさないこと。
- 肩がだらんと身体の前側に垂れないようにする。腕を上げるにつれ肩甲骨はやや後傾させる。
- 脇と胴体の角度は135度。

・上腕の外旋のエクササイズ例
動画:ShoulderPerformance.com: Elbow-Supported DB External Rotations



関連記事:
ショルダープレス

3/11/2017

ショルダープレス

★ショルダープレスのやり方
肩周りの可動域が十分で、肩甲骨の上方回旋と肩関節の外転を行う筋肉がバランス良く働くのなら、ショルダープレスは簡単。肘をダンベル(バーベル)の下にキープしたまま腕を頭上に突き上げればOK。

動画:HOW To Overhead Press: Proper Technique for Size, Strength & Performance
オリンピックリフティングスタイルでのオーバーヘッドプレス。Tシャツが気になる。臀筋と体幹を締めて腰が反らないようにし、バーを上に突き上げる。ロックアウトでは肩甲骨を寄せ上背部を固め、頭を前に出す。ロックアウトポジションでは、バー、肩、尻が直線上に来るようにする。

頭を前に出してロックアウトするのが肩の健康に良いのかはわからない。Dean Somersetがこの記事で、頭を前に突き出すと胸椎と肩甲骨の連動に悪影響と書いている。



★ショルダープレスの誤魔化し
立った状態で、臀筋と腹筋(主に下部と外腹斜筋あたり)に力を入れて腰が反らないようにする。この状態でショルダープレスが出来るかどうかやってみる。肩周りの可動域が足りなかったり、胸椎が過度に曲がっていたり(猫背)、大胸筋の関与を増やして無理に重い重量を上げようとすると、腰を反らせて胸を天井に向けてやってしまう。これをやると腰を痛めやすい。

動画:Lee Boyce Z Press 155lbs x 8
脚を伸ばして床に座ってプレスを行うと、さらに誤魔化しがきかない。

出来ない人は結構いると思う。私は出来なかった。4ヶ月くらい矯正エクササイズを続けてようやくまともにショルダープレスが出来るようになった。ジムでの観察と自分自身の経験から、腰を反らせて腕が上がらないのを誤魔化したり、インクラインベンチで斜めになってショルダープレスをする人が多いと思う。



★腕を上げる動作で使われる筋肉


画像は、[書籍] 姿勢の教科書 から引用。

腕を上げる動作は、肩甲骨の上方回旋と肩関節(肩甲上腕関節)の外転で行われる。

・肩甲骨の上方回旋
僧帽筋上部:挙上+上方回旋
僧帽筋下部:下制+上方回旋

僧帽筋上部と僧帽筋下部がバランス良く働くと、挙上と下制が打ち消し合って肩甲骨は上下に動かず、純粋な上方回旋の動きが起こる。

僧帽筋中部:内転+上方回旋
前鋸筋:外転+上方回旋

僧帽筋中部と前鋸筋がバランス良く働くと、内転と外転が打ち消し合って肩甲骨は寄せたり開いたりせず、純粋な上方回旋の動きが起こる。


・肩関節(肩甲上腕関節)の外転

棘上筋と三角筋が腕を引っ張り上げ、同時にローテーターカフが斜め下方向に上腕骨を引っ張って、上腕骨頭が肩甲骨の関節窩(ソケット部分)から上に飛び出ないよう制御する。


筋力のアンバランスがあるとこれらの動作が正常に行えず、肩甲骨が挙上したり(シュラッグの動き)、上腕骨頭がソケットからずれたりする。肩周りは神経や靭帯が密集していて、重いものを持った状態で骨が正常な軌道からずれると挟まったりぶつかったりして痛みが起きる。

痛みが無く誤魔化しのないショルダープレスを行うために、可動域の回復、筋力バランスの調整、肩甲骨と肩関節の動きの学習の順番でエクササイズを行っていく。



★肩周りの可動域の回復
・固く縮んでいる筋肉を伸ばす
ウェイトトレーニングを継続的に行っている人は、大胸筋、三角筋前部、広背筋、菱形筋をしっかりストレッチする。これらの筋肉が、縮んで固まっていることが多い。


・胸椎を伸ばす
猫背になっている場合は胸椎を伸ばす必要がある。普段デスクワークでトレーニングではベンチプレスばかりやっていると猫背・巻き肩になりやすい。

動画:T-spine extension
フォームローラーで胸椎を伸ばす

動画:Sun Dogs
胸椎を伸ばし、肩甲骨を正しい位置に。尻を天井に向けて突き上げるイメージで。

動画:EricCressey.com: Bench Thoracic Spine Mobilization
伸ばした時に息を限界まで吐くとさらに効く


・腕を上げる動作の可動域の回復
動画:Supine Shoulder Flexion

動画:EricCressey.com: Back-to-Wall Shoulder Flexion

動画:Foam supine lying arm slides

いずれも腕を上げた時に腰が反らないように注意する。


・肩甲骨の可動域の回復
動画:TonyGentilcore.com Prone Lengthening
肩甲骨が張り付いて前鋸筋をうまく使えない人が、まずは可動域を取り戻すためのエクササイズ。四つん這いになって手を広げて両手の親指が互いにつくかつかないかの距離の幅で前腕を床につけ、肩甲骨を前に突き出し前腕を押しながら胸椎を少し丸めて深く息を吸い込む。その姿勢を維持したまま息を限界まで吐いていく。発展バージョンは息を吐くフェーズで肘を伸ばす。

一般的なウェイトトレーニングの問題点は、肩甲骨の外転(肩甲骨を突き出す動作)を鍛える種目が無いこと。


★筋力バランスの調整
多くのケースでは僧帽筋下部と前鋸筋とローテーターカフが弱いので、これらの筋肉を鍛える。

僧帽筋下部のトレーニング
動画:ShoulderPerformance.com: Prone 1-arm Trap Raise

動画:EricCressey.com: Troubleshooting the Prone 1-arm Trap Raise
- 仰向けになって顎を引く。
- 片腕ずつ行う。
- 意識して収縮させるのは僧帽筋下部で、メインで動かすのは「胸椎-肩甲骨」の部分。三角筋などを使って肩関節メインで動かさないこと。
- 肩がだらんと身体の前側に垂れないようにする。腕を上げるにつれ肩甲骨はやや後傾させる。
- 脇と胴体の角度は135度。


・前鋸筋のトレーニング
動画:Bonvecstrength.com - Serratus Wall Slide w/ Roller
肩甲骨を前に突き出し背中はやや丸めて、腹筋に力を入れて腰が反らないようにし、腕を上下させる。

動画:The Perfect Push Up - Do it right!
腕立て伏せも効果的。ボトムで肩甲骨を寄せて、トップで肩甲骨を突き出す。ベンチプレスは肩甲骨を寄せて動かさないけど、腕立て伏せは肩甲骨をダイナミックに動かす。


・ローテーターカフのトレーニング
動画:ShoulderPerformance.com: Elbow-Supported DB External Rotations
三角筋後部を使わないよう注意する。肩甲骨の中央あたりで細かい筋肉がグリグリ動いていればOK。



★肩甲骨と肩関節の動きを学ぶ
動画:HighPerformanceHandbook.com: Half-Kneeling 1-arm Landmine Press
姿勢セットアップ:臀筋と体幹を締める。顎を引く。頭、肩、尻が直線上にくるように背筋を伸ばす。
バーを上下させる:下ろした時に肘が胴体よりも後ろにいかないように。肩甲骨が挙上や前傾(猫背の動き)はしないように注意する。ただ肩甲骨が下に押し付けられている人(なで肩になっている人)は、肩甲骨をやや挙上してニュートラルポジションに戻してエクササイズした方が良い。

動画:HighPerformanceHandbook.com: 1-arm Bottoms-up KB Waiter's Walk
体幹を締めて背骨ニュートラルと肩甲骨の後傾を維持。腕を突き上げたまま歩く。ニュートラルグリップ(手のひらが内側を向く)で持つ。ケトルベルが無かったら5kgプレートやダンベルを縦に持っていいかも。


ここまで出来るようになったら、ショルダープレスを実施する。ただ、加齢や過去の怪我で可動域が十分にならなかったり、痛みが出る場合は、無理にショルダープレスを行う必要はないだろう。プレス動作で三角筋前部を鍛えたいのなら、1-arm Landmine Pressをやったりインクラインベンチを使って斜めにプレスしたりすれば良いし、レイズ系で鍛えても良い。



関連記事:
懸垂のやり過ぎによる怪我リスク(肘と肩)

肩の健康のために

バランスの取れたトレーニング種目の選択-メカニズム編-

バランスの取れたトレーニング種目の選択-エクササイズ編-

3/02/2017

特異性の原則

Why are strength gains specific? (and why does it matter?)
https://www.strengthandconditioningresearch.com/perspectives/just-get-strong-is-wrong/

Why are strength gains force-vector specific? (strength is specific)
https://www.strengthandconditioningresearch.com/perspectives/force-vector/

トレーニングによる刺激に対して身体は特異的に適応する。ストレングストレーニングは、達成したい目標に合致した特異性を鍛えるものにする必要がある。特異性にどのような面があり、それがどのようなメカニズムで起こるか、8つの面から見ていく。


1. 筋肉の動く方向性(エキセントリックかコンセントリックか)
エキセントリックトレーニングのみ行うと、コンセントリックの筋力も向上するがエキセントリックの筋力の方がより向上する。コンセントリックトレーニングのみ行うと、その逆になる。(上のリンク先に研究結果のグラフが一通り載っているので、それを見たほうが効果の違いがよくわかります。下の他の項目も同様)

想定メカニズム:
- 細胞外マトリクスとチチンの内容物の増加により、受動的に発揮される力が向上する。
- 神経系が適応する。


2. 筋収縮速度(速いか遅いか)
低速度でのトレーニングでは低速度で発揮される筋力が大きく向上し、高速度での筋力はあまり向上しない。高速度でのトレーニングでは高速度で発揮される筋力が大きく向上し、低速度での筋力もかなり向上する。
速度への適応は、速く動かそうとする意図(高重量だと全力でも速く動かせない)だけではなく、実際に速く動くことが必要だと思われる。

想定メカニズム:
- 筋膜長の増加。
- 筋繊維一本あたりの収縮速度の上昇。
- 動作の初期から大きな力を発揮するような神経系の適応。
- 拮抗筋の抑制。
- 協調動作の改善。


3. レップ数(最大筋力か筋持久力か)
低レップ(高重量)のトレーニングでは最大筋力が大きく向上し、筋持久力は変わらないかやや低下する。高レップ(低重量)のトレーニングでは最大筋力はやや向上し、筋持久力は大きく向上する。各セットを限界まで行えば、数カ月の実験期間においては、低レップも高レップも筋肥大は同等という結果が出ている。

想定メカニズム:
- 低レップ(高重量)のトレーニングでの最大筋力の向上は、筋肉間の協調動作の向上、筋繊維一本ごとの収縮能力の変化、横方向の力の伝達の改善(lateral force transmission)、神経系の適応などによる。

- 高レップ(低重量)のトレーニングでの筋持久力の向上は、毛細血管の発達、代謝物への耐性向上、イオン(Na+, K+, Ca²+) 輸送能力の向上などによる。


4. 動作範囲(フルレンジかパーシャルか)
パーシャルでのトレーニング(例えばハーフスクワット)を行えば、その動作範囲での最大筋力はフルレンジでのトレーニングよりも大きく向上する。フルレンジでのトレーニングを行えば、フルレンジでの最大筋力はパーシャルでのトレーニングよりも大きく向上する。

想定メカニズム:
- パーシャルのトレーニングでは、その関節の角度で大きな力を発揮するよう神経系が適応する。
- フルレンジのトレーニングでは、使われる部位の筋肥大により筋肉が伸びた状態で大きな力を発揮できるようになる。


5. 安定性(マシントレーニングのように安定かフリーウェイトのように不安定か)

軌道が固定されたマシンでのトレーニングと、軌道が固定されないケーブルマシンでのトレーニングの効果を比較すると、軌道固定マシンではそのマシンでの筋力がより向上し、ケーブルマシンではケーブルマシンでの筋力がより向上した。それとケーブルマシンのトレーニングを続けた後では、拮抗筋の活動抑制と協力筋の活動活発化が見られ、より効率的に力を発揮できるように身体が適応したことが観察された(軌道固定マシンではこの適応は起こらず)。

想定メカニズム:
- 拮抗筋の抑制や協力筋の動員により、不安定な状況でもより効率に身体を使い筋力を発揮できるようになる。


6. 負荷のタイプ(一定の負荷か変化するか)
空気圧で一定の負荷を与えるマシンでは、動作範囲の間は一定の負荷がかかる。フリーウェイトは慣性の影響で動作範囲の間で負荷が変わる。前者でのトレーニングでは前者の1RMがより向上し、後者でのトレーニングでは後者の1RMがより向上する。

想定メカニズム:
- 「2. 筋収縮速度」と「4. 動作範囲」のメカニズムの組み合わせ。


7. 力ベクトル(垂直方向か水平方向か)
スクワットでは地面に対して垂直方向の筋力(例えば垂直跳び)が鍛えられ、ヒップスラストでは地面に対して水平方向の筋力(例えばスプリントの加速フェーズ)が鍛えられる。プライオメトリクストレーニングでも同様に、負荷をかける方向の能力が強化される。

想定メカニズム:
- 「4. 動作範囲」とその動作で使われる筋肉の部位の発達。


8. 筋肉の部位

トレーニングで使われた筋肉が強くなる。