★研究例
エネルギーの消費は、運動中(セット間インターバル含む)と運動後の両方で行われる。筋トレの消費カロリーはどのくらいあるのか、日常的にトレーニングをしている人を対象とした研究を中心に見てみる。
(1)The effect of between-set rest intervals on the oxygen uptake during and after resistance exercise sessions performed with large- and small-muscle mass.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21993043
被験者:男性
ボリューム:15RMの重量で10レップ×5セット
種目:1種目(レッグプレス or チェストフライ)
インターバル:1分 or 3分
運動後測定時間:90分間
消費カロリー:運動中と運動後合わせて、レッグプレスが約90kcal、チェストフライが約50kcal(インターバル1分or3分で違い無し)。
(2)The metabolic costs of reciprocal supersets vs. traditional resistance exercise in young recreationally active adults.
http://clinicahomeostase.com.br/wp-content/uploads/2015/03/Valmor-Tricoli_JSCR-2010-superset.pdf
被験者:趣味で運動している若い男性。平均値は身長175cm、体重76kg。
ボリューム:70%1RMの重量で各セット疲れるまで×4セット×6種目。スーパーセットと通常トレの2グループ。
種目:6種目(ベンチプレス/ベントオーバーロー、アームカール/トライセップスエクステンション、レッグエクステンション/レッグカール)
インターバル:スーパーセットは1種目目→2種目目は即座、1種目目に戻る時は1分。通常トレは各セット間1分。
トレーニング時間:スーパーセットは29分、通常トレは36分。
運動後測定時間:60分間
消費カロリー:運動中はスーパーセットが241kcal、通常トレが228kcal。運動後はスーパーセットが19kcal、通常トレが14kcal。血中乳酸濃度から算出した無酸素解糖系の寄与はスーパーセットが18kcal、通常トレが17kcal。
(3)Effects of Load-Volume on EPOC After Acute Bouts of Resistance Training in Resistance-Trained Men
https://www.researchgate.net/publication/232532830_Effects_of_Load-Volume_on_EPOC_After_Acute_Bouts_of_Resistance_Training_in_Resistance-Trained_Men
被験者:トレーニング歴のある若い男性。平均値は、年齢22歳、身長177cm、体重88kg、体脂肪率9.9%、ベンチプレス1RM137kg、スクワット1RM177kg。
ボリューム:85%1RMを各セット6-8レップ。4種目の重量×セット数×レップ数が計10000kgと計20000kg。
種目:スミスマシンを使用して4種目(スクワット、ベンチプレス、ベントオーバーローイング、ルーマニアンデッドリフト)
インターバル:2分
トレーニング時間:10000kgが44分、20000kgが90分。
運動後測定時間:12、24、36、48時間後に安静時代謝を測定。
消費カロリー:運動中の消費カロリーは10000kgが247kcal、20000kgが484kcal。運動後の測定タイミングでは安静時代謝の上昇は無し。
(4)Circuit weight training and its effects on excess postexercise oxygen consumption.
https://www.researchgate.net/profile/Edward_Hebert/publication/12711214_Circuit_weight_training_and_its_effects_on_excess_postexercise_oxygen_uptake/links/02bfe5112c787a9f92000000/Circuit-weight-training-and-its-effects-on-excess-postexercise-oxygen-uptake.pdf
被験者:トレーニング歴のある若い男性 平均値は身長180cm 体重85kg 体脂肪率16%。
ボリューム:75%20RM(41.4%1RM))の重量で20レップ。8種目を2周(サーキットトレーニング)
種目:8種目(レッグプレス、ベンチプレス、レッグエクステンション、ラットプルダウン、レッグカール、シーテッドロウ、トライセップスエクステンション、アームカール)
インターバル:20秒 or 60秒
トレーニング時間:インターバル20秒グループは13分、60秒グループは23分。
運動後測定時間:60分間
消費カロリー:運動中は20秒グループが191kcal、60秒グループが240kcal。運動後は20秒グループが52kcal、60秒グループが37kcal。
(5)Resistance and aerobic exercise have similar
effects on 24-h nutrient oxidation
http://www.luzimarteixeira.com.br/wp-content/uploads/2015/07/Resistance-and-aerobic-exercise-have-similar.pdf
被験者:日常的に運動している男性。平均値は年齢31歳、体重75kg、体脂肪率19.4%。
ボリューム:70%1RMを10レップ(4セット目は限界まで)×4セット×10種目。
種目:スーパーセットでマシン10種目(チェストプレス/ローイング、レッグエクステンション/レッグカール、トライセップスエクステンション/アームカール、クランチ/ミリタリープレス)
インターバル:スーパーセットを3分サイクル
トレーニング時間:60分
運動後測定時間:運動中と合わせて24時間(被験者のいる部屋まるごと測定)。食事コントロール有り(タンパク質割合15%)。尿(窒素)計測
消費カロリー:運動中322kcal、運動後148kcal
★筋トレによる消費カロリーの目安
扱える重量や短いインターバルのトレーニングをこなせる体力によって、トレーニングレベルを初級・中級と上級に分ける。上に紹介した研究だと(3)(4)が上級、それ以外が初級・中級。
運動時間30分あたりの運動中の消費カロリーを大雑把に書くと以下のようになるだろう。これは男性の消費カロリーの目安で、女性はこの数値を0.5-0.7倍して考えると良いと思う。消費カロリーに影響を与える要因については、後ほど細かく見ていく。
a) フリーウェイトのコンパウンド種目中心に1セットあたり6-12レップ、インターバル2-4分の一般的なウェイトトレーニングを30間分行った場合。
初級・中級: 100-150kcal
上級: 150-200kcal
b) 1分以内の短いインターバルでの高レップウェイトトレーニングやサーキットトレーニングを30分間行った場合。
初級・中級: 150-250kcal
上級: 300-400kcal
これに加えて運動後の消費カロリーが24時間で20-150kcal程度だろうか。短いインターバルで高強度の運動を長時間やると、運動後の消費カロリーも大きくなる。
実用面ではこんな感じで良いだろう。それでは細かい話を書いていく。知っててもあまり役に立たないかもしれないけど、自分の勉強メモなので。
★運動中の消費カロリー
運動中の消費カロリーは、仕事(物理学)に概ね比例する。
ウェイトトレーニングにおいて身体が発揮する力がバーベルに対して行う仕事を単純化して書くと、
仕事=力×移動距離
つまり、より重いものをより長い距離動かすと、より多くカロリーを消費する。
- 一般的に下半身の種目の方が重量と動かす距離が大きいので、より多くのカロリーを消費する。
- 重量が同じならパーシャルよりもフルレンジの方が多くカロリーを消費する。
- 高重量を扱える上級者ほど、消費カロリーが大きくなる。
- (3)の研究のようにトレーニングボリュームを倍に増やすと、消費カロリーも倍になる。
- 同じトレーニングボリュームなら、インターバルを短くすると時間あたりの消費カロリーが大きくなる(トータルの消費カロリーはほぼ同じ)。
★運動後の消費カロリー
激しい運動を行った後は、休んでいてもしばらくの間は酸素の消費量が増加し、安静時代謝も上昇する。運動後の酸素消費量の増加のことをEPOC(Excess Postexercise Oxygen Consumption)と言う。
(2)の研究のデータから一般的な運動後の安静時代謝のグラフの例を示す。運動直後が最も大きく、その後は急激に下がっていく。
EPOCがなぜ起こるかざっくりした説明をすると、
a) ストレス反応
強度の高い運動によりストレス反応が起きる。交感神経が活発になり、体温・心拍が上昇し、呼吸が速くなり、体脂肪やグリコーゲンの分解によるエネルギーの動員が活発になり、「闘争か逃走か」に身体が備える。これが運動後もしばらく続く。
b) エネルギー源の補充
激しい運動で失われたATP/PCrの補充。有酸素性エネルギー代謝により、ATP/PCrを補充する。乳酸塩の一部は肝臓に運ばれピルビン酸塩に変換され、ATPを消費し糖新生でグルコースが生成され(コリ回路)、グリコーゲンの再合成が行われる。
c) 組織の回復・適応
ダメージを受けた組織を回復する。刺激が大きく適応が必要な場合は、筋肥大、腱・靭帯の強化、有酸素能力増大などの適応反応も起こる。
酸素の消費量が増え、安静時代謝が増加する要因は複数あって、全てが明らかになっているわけではないが、今のところわかっている主なメカニズムを書いていくと、
- ATP-PCrの再合成。運動直後の数分間に盛んに行われる。運動中のセット間休憩の時も行われている。
- ナトリウムイオンやカリウムイオンの再配分。細胞膜内外のイオンのバランス回復。
- トリグリセリド/脂肪酸サイクルの増加。体脂肪の分解・合成が増え、エネルギーが動員される。この分解・合成にはエネルギーが必要なので、消費カロリーも増える。(8)の研究参照。
- 体温・心拍が上昇し。呼吸が速くなる。消費カロリーが増える。
- 脂質代謝優位。グリコーゲンを多く消費する高強度の運動のあとは、脂質の代謝の割合が高まり、糖質はグリコーゲンの補充に回されやすくなる。1kcalを生み出すのに必要な酸素の量は糖質よりも脂質のほうが多いので、仮に消費カロリーが変わらなくても脂質代謝の割合が高まる時は酸素の消費量が増える。
- コルチゾールや甲状腺ホルモンや成長ホルモンやノルアドレナリンやイリシンやANPなどの各種ホルモンの効果。
- ヘモグロビンとミオグロビンへの酸素の貯蔵。
- 交感神経が活発になる。
- 筋肉のダメージの回復。タンパク質合成はコストの高い活動で、エネルギー消費量が増える。
酸素消費量の増加が続くのは、通常は運動後1時間程度。非常に強度の高い運動をすると24時間~48時間続くこともある。
酸素の消費量が増えれば、だいたいは安静時代謝も増える(消費カロリーが増える)。ただ脂質代謝の割合が高まることや、ヘモグロビンとミオグロビンへの酸素の貯蔵については、消費カロリーが増えているわけではない。
EPOCの大きさに影響するのは、運動強度、運動時間、セット間インターバルなど。高強度の運動を長時間、インターバルを短くして行うと、EPOCの程度が大きくなり運動後も長時間続くようになる。
多くの研究での運動プログラムは、被験者にとって普段のトレーニングに比べて新規の刺激になっている。現実ではトレーニングを繰り返すに従ってトレーニングに慣れ、身体が受ける刺激の程度も弱まって、EPOCも小さくなると考えられる。(3)の研究のように、継続的にトレーニングをしている人がいつもと同じようなトレーニングをした場合は、EPOCは長時間は続かないだろう。
もちろんトレーニングに慣れるのは良いことで、適度な慣れと適度な漸進的過負荷が向上には必要。仮にEPOCを最優先するなら、短いインターバルのトレーニングを繰り返すことで筋持久力が高まりサーキットトレーニング向きの適応が起こるか、トレーニングの強度を高くしすぎることで一週間はまともにトレーニングできないレベルの疲労状態になって、次のトレーニングに支障が出るかするだろう。
★エネルギー消費量測定方法の問題点
ほとんどの研究では、間接熱量計を用いて被験者の吐き出す息(呼気)を分析し、酸素消費量と二酸化炭素産生量からエネルギー消費量を算出している。この分析方法には問題点がいくつかある。
a) 測定時間の問題
運動後のエネルギー消費量の増加はだいたい1時間以内に終わることが多いが、運動強度が高かったりした場合は、わずかな安静時代謝の上昇が1,2日後まで続くことがある。12時間後、24時間後といったポイントでの測定を行っている研究もあるが、正確性を期すなら(5)の研究のように連続して測定するのが良いと考えられる。
b) 無酸素解糖系の問題
無酸素解糖系で乳酸塩を生成する際に失われるエネルギーは不可逆で、運動中も運動後も呼吸に表れない。乳酸塩が最終的に有酸素性エネルギー代謝で水と二酸化炭素になるとしても、無酸素解糖系部分の消費エネルギーは酸素の消費量の測定からは拾えない。詳しくは(9)の論文参照。従って高レップウェイトトレーニングやサーキットトレーニングなど無酸素解糖系の寄与が大きい運動の実際の消費カロリーは、間接熱量計の測定値から算出した数値よりも大きいと思われる。
(2)の研究では血中乳酸濃度から、この無酸素解糖系のエネルギー消費量を推測している。(9)の論文では、論文著者と学生がウェイトトレーニングでの血中乳酸濃度から無酸素解糖系の寄与を算出したら、1セットあたり3-12kcalになったと書かれている。ただ筋肉中と血液中の乳酸濃度は異なるので、血中乳酸濃度から算出する方法も正確ではないだろう(もちろん呼気のみから消費カロリーを算出するよりは良い)。
ちなみに当初貯蔵されていたATP/PCrも無酸素で運動中に使われるけど、最終的には運動後の有酸素性エネルギー代謝により再び貯められるので、これらのエネルギー消費は呼吸の測定で拾える。
c) タンパク質摂取量の影響
多くの研究が尿素窒素を測定しないで呼気のみから消費カロリーを算出する方法を用いているが、この方法では摂取エネルギーに占めるタンパク質の割合が12.5%と仮定している。トレーニングに熱心な人はその倍くらいタンパク質を摂取していることが多いので、被験者がトレーニングに熱心な人で研究者側で食事をコントロールしていない場合は誤差につながる。
★トータルの消費カロリーが増えるかどうか
運動するとNEATが減ってしまう人もいる。トータルの消費カロリーが増えるかどうかは個人差があるだろう(関連記事:トレーニング効果の個人差)。運動して疲れた~とゴロゴロしてると、運動と運動後の安静時代謝上昇で消費カロリーが増えてもNEATが減って、トータルではあまり意味がないかもしれない。
参考文献:
(6) 接熱量計によるエネルギー消費量と基質代謝の測定
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspen/24/5/24_5_1021/_pdf
(7) Effects of excess post-exercise oxygen consumption
http://www.scielo.br/pdf/rbme/v12n6/en_a18v12n6.pdf
(8) Triglyceride/fatty acid cycling is increased after exercise.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2392063
(9) Contribution of anaerobic energy expenditure to whole body thermogenesis
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1182393/
(10) 解糖 代謝マップ
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/glyclysis.htm