この手の話は、食べる時間帯や食事回数は関係なく、結局はカロリー収支の問題で決着がついているという認識だったけど、Examine.coの記事を読んでみて、意外と奥が深いな・・・と思ったので、夜く食べると太るのかという問題を扱った研究を調べてみた。
★研究の種類と問題点
研究は大きく分けて、観察研究と介入研究に分けられる。詳しくは、Wikipediaを参考に。
a) 観察研究
たくさんの人のデータを集めて、どんな生活習慣の人がどんな病気にかかりやすかったりするかを調べる。
{観察研究の問題点]
単なる偶然で相関関係が出来ている可能性、因果関係があるとして原因と結果はどちらなのか、研究者側の調査対象集団を選ぶバイアス、被験者の記憶や申告のバイアス(どんなものをどれくらい食べたかの自己申告は非常に不正確)、交絡因子の存在、etc。
b) 介入研究
被験者を集めて調べたい要因のみ変化させ、後は条件を揃えて、その要因の変化がどのように結果に影響を及ぼすか調べる。
[介入研究の問題点]
費用面や倫理面の制約があり、被験者数が少なく期間が短い。
★実際の研究
a) 観察研究
観察研究は探せばいくらでも出てくるだろうから割愛。よく一般メディアで「夜食べると太る」説の根拠として持ち出されるのがこの種類の研究。この手の研究はたくさんあると思うけど、個人的にはあまり興味が無いのでアブストラクト以外は読んでいない。
例えば以下のような背景で、観察研究では「夜食べる人は太りやすい」という結果が出ている可能性がある。
- 夜食べると太りやすいというのが世界共通の認識なので、体型への意識が高い人は夜にあまり食べないようにしていて、そういった人はカロリー摂取に気を使っているのでトータルの摂取カロリーが抑えられていて太りにくい。
- 多くの人は朝はゆっくり食べる時間がない。朝しっかり食べて、夜は食べないルールでやると、朝はしっかり食べようとしても、時間の問題でたくさん食べられない。結果としてトータルの摂取カロリーが抑えられて太りにくい。
- 多くの人は夜は比較的ゆっくり食べる時間があるので、たくさん食べてしまう。また夜は朝に比べて疲れているので、自己抑制が効かなくなり暴食しやすい。結果としてトータルの摂取カロリーが増えて太る。
- 夜の食事ではお酒を楽しむことも多い。お酒には食欲増進効果があるし、お酒自体にもカロリーがあるのでトータルの摂取カロリーが多くなる。
b) 介入研究
食べる時間帯の違いによる体重への影響を調べた介入研究には、主に2種類ある。実験所に閉じ込めて完全に食事管理する方法と、食事内容を細かく指示して自己管理する方法。合わせて5つの研究が見つかった。いずれも摂取カロリーを維持カロリー以下にしたダイエットの研究。
(b-1) 実験所に閉じ込めて完全に食事管理
エビデンスとしての質が高いのはこのやり方。この方法の研究は2つ見つかった(もし他に同様の研究があれば教えてもらえると有り難いです)。
ただこの種類の研究でも、どちらのグループに痩せやすい人が多くいるか、体組成の測定精度はどうなのか、被験者数の少なさや期間の短さといった問題点がある。
(1)Weight loss is greater with consumption of large morning meals and fat-free mass is preserved with large evening meals in women on a controlled weight reduction regimen.
http://jn.nutrition.org/content/127/1/75.long
1997年の論文
被験者:10人の肥満の女性
実験環境:実験室に閉じ込め。食事はカロリー計算されたものが提供され、それのみを食べる。
実験期間:3週間は体重維持でその後12週間のダイエット実験。
最初の6週間 -> グループAは一日の総摂取カロリーの70%を午前に摂取、グループBは一日の総摂取カロリーの70%を午後に摂取。
次の6週間 -> グループAは一日の総摂取カロリーの70%を午後に摂取、グループBは一日の総摂取カロリーの70%を午前に摂取。
食事のカロリー配分:
午前パターン -> 8時から8時半に35%、11時半から12時に35%、16時半から17時に15%、20時から20時半に15%
午後パターン -> 8時から8時半に15%、11時半から12時に15%、16時半から17時に35%、20時から20時半に35%
摂取カロリー:1日約1900kcal
マクロ栄養素バランス:炭水化物59.7%、タンパク質18.1%、脂質22.3%
運動:研究者側の指導のもとで、ウォーキング、有酸素運動、ウェイトトレーニングを実施。
体組成測定方法:生体インピーダンス式。
安静時代謝:間接熱量計で測定
[結果]
グループAとグループBを合わせた数字を見ると、午前パターンの方が体重は減った。午前パターンが-3.90kg、午後パターンが-3.27kg。ただ午前パターンは除脂肪体重の減少が午後パターンよりも大きく、体脂肪の減少量は午後パターンよりも小さい。午前パターンは除脂肪体重が大きく減り、体脂肪はあまり減らない質の悪いダイエットという結果になった。午前午後の食事パターンで安静時代謝に有意差無し。
私のコメント:
- 夜から翌朝の食事まで12時間空くので、その前の夕食でたくさん食べることで空腹時の筋肉の分解が抑えられ、午後パターンの方が除脂肪体重の減少が小さくなった可能性がある。
- 体重と体組成の測定タイミングが朝食前なので、午後パターンは午前パターンに比べてグリコーゲンと水分が多い状態で測定し、それが除脂肪体重と体重の変化の差に影響を与えている可能性がある。体重と除脂肪体重の推移(fig1)を見ると、両グループとも午前パターン開始後の2週目にガクンと落ちている。
- 少しの差だがグループBの方が体重が重く体脂肪率が高く安静時代謝が高い。つまりグループBの方がダイエットを始めると楽に痩せられると考えられる。またダイエットは続けるにつれ痩せにくくなるので、最初の6週間の方が次の6週間よりも楽に痩せられると考えられる。痩せやすいグループBが、痩せやすい最初の6週間に午後パターンになり、午後パターンはここで体脂肪減少の数字を稼いだ可能性がある(table4の赤丸がグループB)。次の6週間(Period2)ではグループBが午前パターンになり、午前パターンの方が体脂肪量がより多く減った。
(2)Influence of meal time on salivary circadian cortisol rhythms and weight loss in obese women.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17483007
http://www.nutritionjrnl.com/article/S0899-9007(07)00028-7/fulltext
2007年の論文
被験者:12人の肥満の女性
実験環境:病院に閉じ込め。食事はカロリー計算されたものが提供され、それのみを食べる。3回の実験の間のウォッシュアウト期間は家に帰って自由に食事。
実験期間:18日×3回 ウォッシュアウト5日×2回
食事パターン(同じ被験者群を使って3回実験):
ステージ1 -> 9時~20時の間に5回に分散させて食事
ステージ2 -> 9時~11時の間にすべての食事を済ませる
ステージ3 -> 18時~20時の間にすべての食事を済ませる
摂取カロリー:1-3日は2500kcal/dayを提供(食べたのは平均2100kcalくらい)、3-18日は900-1000kcal/day
マクロ栄養素バランス:炭水化物55%、タンパク質15%、脂質30%
運動:特になし
体組成測定方法:生体インピーダンス式
安静時代謝:間接熱量計で測定
[結果]
体重、体脂肪量、ウェスト、ヒップ、安静時代謝は、ステージ1,2,3で変化に差は無し。ウォッシュアウト中に体重が全部戻っているので、ステージ2,3もスタート時は同じ条件になっている。
コルチゾールの概日リズムも測定していて、食事時間によって変化なし。
私のコメント:
かなり極端な食事パターンだけど、食事を完全に管理すれば、いつ食べても結局はカロリー収支の問題という結果に。
(b-2) 食事内容を細かく指示して自己管理
この方法の研究は、指示された食事内容を守れていない可能性が高い。あと実験室に閉じ込めるのと同じく、グループに痩せやすい人が多くいるか、体組成の測定精度はどうなのかという問題点もある。
(3)High caloric intake at breakfast vs. dinner differentially influences weight loss of overweight and obese women.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23512957
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/oby.20460/pdf
2013年の論文
被験者:74人の肥満の女性
実験期間:12週間
食事パターン
朝食は6時から9時の間、昼食は12時から15時の間、夕食は18時から21時の間
朝食多いグループ(38人) -> 朝食700kcal、昼食500kcal、夕食200kcal
夕食多いグループ(36人) -> 朝食200kcal、昼食500kcal、夕食700kcal
摂取カロリー:1400kcal/day 栄養士の指導の下、自己管理。
マクロ栄養素バランス:炭水化物32%、タンパク質41%、脂質27%
運動:特になし
[結果]
12週間で朝食多いグループは体重8.7kg減少、夕食多いグループは3.6kg減少。ウェストサイズの減少も朝食多いグループの方が大きい。
私のコメント:
消費カロリーが2000kcalだとすると、カロリー赤字が600kcal/day。12週間で43200kcal。体重5,6kgは減るはず。さらに夕食多いグループは8週間以降で体重が増えている。体重80kgで消費カロリーが1400kcalを下回るとは考えにくい。指導された食事内容を守れていないと考えられる。
この研究では、「食事指導を受けた肥満の女性が自己管理で食事を用意するダイエットを行ったら、朝にカロリーを集中して食べた方が夜に集中して食べるよりも痩せやすかった」という結果になっている。
(4)Beneficial effect of high energy intake at lunch rather than dinner on
weight loss in healthy obese women in a weight-loss program:
https://www.researchgate.net/publication/307549097_Beneficial_effect_of_high_energy_intake_at_lunch_rather_than_dinner_on_weight_loss_in_healthy_obese_women_in_a_weight-loss_program_A_randomized_clinical_trial
2016年の論文
被験者:69人の肥満の女性
実験期間:12週間
食事のカロリー配分:
昼食メイン -> 朝食15%、軽食15%、昼食50%、夕食20%
夕食メイン -> 朝食15%、軽食15%、昼食20%、夕食50%
摂取カロリー:1900-2000kcal(自己申告)。栄養士の指導の下、自己管理。
マクロ栄養素バランス:炭水化物60%、タンパク質17%、脂質23%
運動:ほどほどの運動(主に早歩き)を60分週5日行うよう指導
[結果]
昼食メイングループの方が体重減少が大きかった。昼食メイングループが体重5.35kg減少、夕食メイングループが体重4.35kg減少。
私のコメント:
この研究では、「食事指導を受けた肥満の女性が自己管理で食事を用意するダイエットを行ったら、昼にカロリーを集中して食べた方が夜に集中して食べるよりも痩せやすかった」という結果になっている。
(5)Greater Weight Loss and Hormonal Changes After 6 Months Diet With Carbohydrates Eaten Mostly at Dinner
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1038/oby.2011.48/full
2011年の論文
以下の記事で取り上げた研究。
参考記事:ダイエットでは夜に炭水化物を集中的に食べよう
夜に炭水化物を多く食べるグループの方が体重がより減少し、除脂肪体重の減少も抑えられたという結果だが、スタート時点の体重と体脂肪率に差があって、夜に炭水化物を多く食べるグループの方が体重が重く体脂肪率が高く、痩せるのが容易だった可能性がある。また指示された摂取カロリーからすると体重減少が緩やかなので、食事内容を守れていないと考えられる。
この研究では、「食事指導を受けた肥満の男女が自己管理で食事を用意するダイエットを行ったら、朝昼晩バランス良く食べるよりも夜に炭水化物を集中して食べた方が痩せやすかった」という結果になっている。
★研究結果のまとめ
被験者を実験所に閉じ込め、研究者側が食事を用意し、摂取カロリーを厳格にコントロールした研究(1)(2)では、
(1)午前に多く食べたほうが体重減少は大きかったが、午後に多く食べたほうが体脂肪量の減少は大きく除脂肪体重の減少は小さかった。
(2)朝に集中して食べても夜に集中して食べても一日に分散させて食べても、体重や体脂肪量の変化に差はなかった。
栄養士の指導のもと、自己管理で食事を用意する研究(3)(4)(5)では、結果がまちまちで、
(3)朝にたくさん食べたほうが体重が減る。
(4)昼にたくさん食べたほうが体重が減る。
(5)夜にたくさん食べたほうが体重が減る。
摂取カロリーを厳格にコントロールした研究でも、測定タイミングや測定精度の問題、グループ分けの問題があるので、断言はなかなか出来ないのだけど、生理学的には摂取カロリーが同じならたぶんいつ食べようと変わらなくて、体重変動はカロリー収支の問題だろう。
ただダイエットの質についていえば、(1)と(5)の研究から、ダイエットでは夜に多く食べたほうが除脂肪体重の減少を抑えられ、質の良いダイエットを行える可能性がある。
留意点としては、体組成の測定は生体インピーダンス式で行われてて、精度はあまり良くないこと。ただ生体インピーダンス式でも、測定条件を一定にすれば相対的な変化は比較的正確に測定できると思われる。
★夜食べると太るのか
おそらく生理学的には、維持カロリー以上食べているなら結局はカロリー収支の問題で、どの時間帯に食べようと体重と体組成の変化に違いは出ない。夕食は寝る3時間前までに済ませないと脂肪として溜め込む、といった話は間違いだろう。
参考記事:栄養素の貯蔵と引き出し
ただ、ストレスの強い状況、例えば毎日午前2時に食べてその後寝るなど通常の生活サイクルから大きくズレた生活や、昼勤と夜勤が入り乱れるシフト勤務などでは、内分泌系の乱れなどにより消費カロリーが減少したり、維持カロリーの食事でも体脂肪が増えて除脂肪体重が減るといったことも考えられる。20時や21時に夕食を食べて0時までに寝るといった程度なら問題ないだろう。
カロリー不足の状況(ダイエット)だと、夕食に多く食べたほうが除脂肪体重を維持しやすいかもしれない。通常の生活サイクルだと夕食から翌朝の朝食までの時間間隔が大きく、肝グリコーゲンが枯渇し糖新生が増えることで筋肉が分解されやすくなる。夕食で炭水化物とタンパク質を多めに食べると良いだろう。また除脂肪体重の維持を目指す場合は、タンパク質摂取量を確保することも重要。
参考記事:タンパク質摂取量の目安
夜しっかり食べると実生活でどうなりやすいかは、人による。夜ダラダラ食べる傾向がある、夜疲れていて暴飲暴食する傾向がある人は、夜に何の制約もなく食べると摂取カロリーが多くなって太るだろう。その場合は、夕食の量をあらかじめ決めてそれ以外は食べない、夕食後の夜食は食べない、お菓子やインスタント食品などすぐ食べられる余計な食べ物を家に置かないなどのルールを設けるのが良いと思われる。
セルフコントロールが出来る人は、自分の体質と生活スタイルに合ったやり方でやれば良いだろう。
★夜食べると概日リズムが狂う説
夜食べることのデメリットとして、概日リズムが狂うという説があって、夜食症候群という症状が挙げられることがある。
夜食症候群の基準は、一日の総摂取カロリーの25%以上を夕食後の夜食で食べる and/or 週に2回以上夜中に起き出して食べる、とのこと。
少ししか調べていないけど、夜食症候群の人は、概日リズムが狂って夜食をするのか、夜食で概日リズムが狂うのか、ストレスや睡眠不足などが原因で概日リズムの狂いと夜食行動が起きるのか、因果関係がよくわからない。午前2時とかに食べ続ければ狂うだろうけど、そもそもその時間に活動している時点で概日リズムが狂っているだろう。食事パターンよりも環境の明暗のサイクルのほうが概日リズムへの影響が強いと考えられ、強い光を照射する治療で夜食症候群が治るケースもあるみたいなので、その場合は概日リズムが先に狂ってると考えられる。
個人差もあるだろうから夜しっかり食べると体調が悪くなる場合は、当然止めたほうが良い。夜食べないのが辛いのに、俗説を信じて無理に夜食べないようにするのは無駄な努力だし、余計なストレスが増える。
★今後の研究と議論
現時点では、食事を厳格にコントロールした研究は、食べる時間帯によって体重変動に影響が出ることを示していない。摂取したカロリーは魔法のように消えたり増えたりはしない。もし摂取カロリーが同じでも痩せたり太ったりするのなら、食べる時間帯によって消費カロリーが増減したり、カロリーの振り分けが変化したりする必要がある。従って、食べる時間帯により体重や体組成が変わることを証明したいのなら、例えば以下のような研究を行うと良いだろう。
ⅰ) 食べる時間帯で人間の24時間トータルの消費カロリーが変化することを示す。例えば、実験室に閉じ込めて24時間の呼気と尿を採取して消費カロリーを算出する。食事パターンを変えることでこの24時間の消費カロリーが変化するか調べる。
ⅱ) 食べる時間帯で人間のカロリーの振り分け(摂取したカロリーが除脂肪体重にいくか体脂肪にいくか)が変化することを示す。大勢の被験者を実験室に閉じ込めて食事を完全に管理した実験を数ヶ月間といった長期間行い、体組成変化が大きく出るようにして、精度の高い方法で体組成を測定する。また測定前には食事パターンを揃えて、測定時点でのグリコーゲンと水分の違いの影響が出ないようにする。
このような研究を何度も行い質の高いエビデンスを積み上げることが必要だろう。観察研究や食事を自己管理の介入研究やマウス実験はほとんど参考にならない。