(1) Effects of Post-Exercise Protein Intake on Muscle Mass and Strength During Resistance Training: is There an Optimal Ratio Between Fast and Slow Proteins?
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28422532
https://www.researchgate.net/profile/Julien_Louis/publication/316266159_Effects_of_Post-Exercise_Protein_Intake_on_Muscle_Mass_and_Strength_During_Resistance_Training_is_There_an_Optimal_Ratio_Between_Fast_and_Slow_Proteins/links/590af1840f7e9b1d082491b4/Effects-of-Post-Exercise-Protein-Intake-on-Muscle-Mass-and-Strength-During-Resistance-Training-is-There-an-Optimal-Ratio-Between-Fast-and-Slow-Proteins.pdf
タンパク質の消化吸収速度と、血液中のアミノ酸濃度(特にロイシン濃度)の上昇の違いが、長期的な筋肥大およびストレングスの向上に影響を与えるのか。
タンパク質を摂取してから数時間程度の血液中のアミノ酸濃度と筋合成の度合いを調べた短期(acute)の研究だと、消化吸収が速くてロイシン含有率が高いホエイの優位性を示す研究が多い。これらの短期の研究を根拠としてサプリメーカーがホエイプロテインパウダーやロイシンに特化したサプリメントなどを売り込んでいるのだけど、以前も書いたように、これらの短期の研究だとトレーニング無しでもタンパク質摂取後に筋合成が起こっていて、トレーニング無しなら長期的には筋肥大も起きないだろうから、空腹時に筋分解が高まるなどしてどこかで帳尻を合わせている可能性がある。従って、短期の研究がホエイ優位を示しても、長期でも同じ結果になるのかは不明だった。
今回の研究は、レジスタンストレーニングに合わせて、消化吸収の速い水溶性のミルクタンパク質と、消化吸収の遅いカゼインを摂取し、長期的な筋肥大とストレングスの変化を比較している。長期でホエイ相当のタンパク質とカゼインの比較をしたまともな研究は恐らく初めてだと思う。
★実験方法
・被験者:レジスタンストレーニング歴のある若い男性。前年にプロテインパウダー摂取していない人のみ。だいたいの平均は身長180cm、体重76kg、体脂肪率17%、ベンチプレス1RMが90kg前後、スクワット3RMが95kg前後。
・プロテインドリンク
ミルクから精製された2種類のタンパク質を、割合を変えて混ぜ合わせて使用。
a) 水溶性ミルクタンパク質:消化吸収が速くアミノ酸組成がホエイに似ている。ホエイよりも精製されていない。
b) カゼイン:消化吸収が遅い。
この2種類のタンパク質の組み合わせを三つ作り、被験者3グループに割当。
FP(100) 水溶性ミルクタンパク質100%
FP(50) 水溶性ミルクタンパク質50% + カゼイン50%
FP(20) 水溶性ミルクタンパク質20% + カゼイン80%
プロテインドリンクに含まれるタンパク質の量は3種類とも20g。炭水化物も20g含まれている。これをレジスタンストレーニング終了後15分以内に摂取。
・レジスタンストレーニング
慣れるための準備期間が3週間、その後に本番9週間。トレーニング頻度は週に4回。3週間ごとにレップ数を減らし強度を上げるリニアピリオダイゼーション。
・食事
1日のトータルのタンパク質摂取量が体重1kgあたり1.5-2.0gになるよう食事指導。結果として平均で1.9g/kg程度摂取したのでタンパク質の摂取量は十分だと考えられる。
・体組成測定
DXA
・ストレングス測定
ベンチプレス1RM、スクワット3RM、アイソメトリックでの肘と膝の伸展・屈曲の力
★実験結果
プロテインドリンク摂取直後の血漿ロイシン濃度のピーク値、およびAUC(area under the curve:曝露量)に違いがあった。カゼイン80%のプロテインドリンクを摂取したグループ(FP20)は、水溶性ミルクタンパク質の割合が高いプロテインドリンクを摂取したグループ(FP100、FP50)に比べて、ロイシン濃度のピーク値とAUCが低くなった。
しかし長期的には3グループとも体組成とストレングスの変化に有意差なし。
★コメント
トレーニング後に摂取するプロテインドリンクの消化吸収が速くても遅くても、長期的な筋トレ効果は変わらないという結果になった。
今回の研究から得られる教訓は、
・摂取して数時間の血中のアミノ酸濃度や筋合成速度を測定した短期の研究は、そのまま長期の結果を保証するものではないだろう。
・ある一定のロイシン閾値を超えることが筋合成のトリガーになるといった、短期間の、そして複数ある筋合成ルートの一つでしか無いメカニズムが長期的な筋肥大を決めるわけではないだろう。
・運動後の「ゴールデンタイム」に、消化吸収の速いプロテインドリンクを慌てて飲む必要はなさそう。
・消化吸収が速いタンパク質と遅いタンパク質を組み合わせれば、筋合成促進と筋分解抑制の両面から効果を発揮でき筋肥大を最大化できる・・・という説もあまり意味がなさそう。
今後、この研究結果を覆す研究が出てくるかもしれないけど、現時点ではタンパク質の消化吸収の速度に神経質になる必要はないと思う。ただ胃腸が強くない人は消化吸収が速いプロテインパウダーを積極的に利用することで、胃腸のキャパシティがボトルネックにならず、十分な栄養を取ることが出来てより良い結果を得られるかもしれない。
基本は1日のトータルのタンパク質摂取量を確保し、一日に3,4回の食事、トレーニング前後の食事間隔があまり空かないように栄養供給するといった感じで良いだろう。
関連記事:ゴールデンタイムはあるのか?
健康面も考えるならリスク分散のためにタンパク質源は分散させた方が良いだろう。筋肉の餌としてのタンパク質のクオリティを考えた場合、必須アミノ酸、特にBCAAの含有率が高い方が良いのだろうけど、1日に体重1kgあたり2g程度のタンパク質を動物性食品中心に摂取すれば、アミノ酸組成の差は消えるのではないだろうか。食事でのタンパク質摂取量が足りない場合は、追加で摂取するプロテインパウダーのアミノ酸組成の差が筋肥大に影響するかもしれない(この記事にあるミルクとソイの比較はこのケースかも)。
維持・増量時にタンパク質摂取量を確保するためにプロテインパウダーを利用する場合は、価格や飲みやすさなどの総合面からホエイプロテインパウダーが優れていると思う。減量時やintermittent fastingなどで食事間隔が大きく空き、肝グリコーゲンの枯渇によりタンパク質が分解されやすくなる状況では、カゼインなど消化吸収の遅いタンパク質を積極的に摂取したほうが良いだろう。
関連記事:プロテインパウダーの選択
関連記事:タンパク質摂取量の目安
★類似した過去の研究
2つあるけどどちらもいまいち。
(2)The effect of whey isolate and resistance training on strength, body composition, and plasma glutamine.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17240782
Whey vs Casein. Who will win?
https://evidencebasedfitness.net/whey-vs-casein-who-will-win/
この研究の中身の紹介と批評の記事
被験者数が少ないのも問題だけど、それ以外にもサプリメーカーがスポンサーなのが胡散臭くて、ホエイを摂取したグループのみ、やたらと良い数字が出ているのも胡散臭い。趣味でボディビルをやっている被験者が通常の食事に加えて一日に体重1kgあたり1.5gのプロテインパウダー(スポンサー提供)を摂取したら、加水分解ホエイ群のみが10週間で除脂肪体重が5kgも増えて体脂肪は1.4kg減って、カゼイン群は有意差なし。加水分解ホエイ群はスクワット1RMが80kgから156kgに上昇。トレーニング歴のある人が10週間でこの結果を得るのはちょっと考えにくい。体重1kgあたり1.5gという多量のプロテインパウダーを摂取するのも、実践面から参考にならない。
(3)Effects of soluble milk protein or casein supplementation on muscle fatigue following resistance training program: a randomized, double-blind, and placebo-controlled study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4107592/
水溶性ミルクタンパク質群とカゼイン群の間でストレングスと筋肥大に有意差なかっただけでなく、プラシーボ群とも有意差なし。プロテインドリンクのタンパク質含有量が一回あたり10g(トレーニング日は3回、休息日は2回摂取)と少なかったためなのか、それとも一日のトータルのタンパク質摂取量がプラシーボ群でも十分だったのか。
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