10/31/2018

ローテーターカフの強化

★ローテーターカフの基礎知識
肩関節のボール(上腕骨頭)とソケット(肩甲骨関節窩)、ローテーターカフと広背筋や大胸筋など大きな筋肉の腱の付着点を単純化して描いたモデル図。


ローテーターカフの腱はボールの近くに付着しているので、ボールをソケットに安定化する働きがある。一方で、支点と力点の距離が近いため、テコの原理により作用点(手)で発揮できる力は小さい。

広背筋や大胸筋や三角筋は筋肉自体が太いことに加えて、腱がボールから離れた箇所に付着しているので、作用点(手)で大きな力を発揮することができる、しかし、これらの大きな筋肉のみが強く働くとボールとソケットがずれやすくなる。

とりあえず腕を力強く動かすだけなら大きな筋肉を動かせば良いのだけど、それを続けるとボールとソケットの安定性が低下して肩関節に不具合が起きやすくなる。

肩関節を安定させつつ強い力を発揮するには、広背筋や大胸筋など大きな筋肉の筋力に見合うだけのローテーターカフの強さが必要になる。


★ローテーターカフのエクササイズの基本

ローテーターカフのエクササイズは、ボールがソケットからずれないようにしながら、上腕骨の外旋・内旋を意識して行う。


腕は胴体の真横ではなくて、胴体よりも少し前に出す。角度は10度~30度くらい。肩甲骨の同一平面上に上腕骨が来るようにする。

ローテーターカフ強化のエクササイズは、良い姿勢で行うのが重要。猫背にならないよう背筋を伸ばし、顎を引く。詳しくは、以下の関連記事を参考に。

関連記事:肩周りのストレッチ

立ってエクササイズを行う場合は、腰の反りで反動をつけないよう気をつける。前部コア(腹直筋下部と外腹斜筋あたり)と臀筋群に力を入れると体幹が安定し腰の反りが抑制される。

外旋・内旋をアイソレートして動かすのが難しい場合は、まずは他の人に手を抑えてもらったり、壁などに手を押し付けたりしながらアイソメトリックで力の入れ方を学ぶと良い。それから負荷なしで上腕の外旋・内旋を行い、慣れてきたらゴムバンドやケーブルで負荷をかけていく。

前述のように、ローテーターカフが作用点(手)で発揮できる力は小さい。負荷が強すぎると、三角筋や広背筋などの大きな筋肉で動かしてしまうので、無理に強い負荷で行うことは避ける。

個人的には、ローテーターカフのエクササイズはゴムバンドが効かせやすい。次点でケーブル。ダンベルは負荷をかける方向の調整が難しい。ローテーターカフのトレーニグは、ハードなのを週2,3回やるよりも、軽いのを毎日やったほうが良い。ゴムバンドを買って家でストレッチのついでに軽くトレーニグすると良いと思う。ジムに行く日は、他の種目の合間にやると時間を効率良く使える。


★エクササイズ例
動画:EricCressey.com: Fine-Tuning the Band Pullapart
https://www.youtube.com/watch?v=73Dm-j5wYIc
腕を開いた時の肩甲骨のポジションは、フォームローラーの上に寝て腕を開くと学びやすい。フォームローラーに肩甲骨が沿う程度に肩甲骨を寄せる。腕の動きに沿って結果的に肩甲骨が少し寄る程度で良く、意識して無理に肩甲骨を寄せなくて良い。

動画:EricCressey.com: Coaching the Cable External Rotation
https://www.youtube.com/watch?time_continue=63&v=QqkErY_Z2Dg
外旋動作のやり方。この動画では、上腕二頭筋がrotisserie chickenの鶏肉のように回転するイメージでやる良いと言っている(上腕骨が金串)。

動画:Face Pull Y Press
https://www.youtube.com/watch?v=FN_VCg1j6Sw
家でやる場合はドアの取手などにゴムバンドを引っ掛ける。私はジムでは、スクワットの合間にバーに引っ掛けてやっています。

動画:EricCressey.com: Troubleshooting the Side-Lying External Rotation
https://www.youtube.com/watch?v=ry7ZU-JVGZA
ダンベルで外旋トレーニグを行う場合の注意点。頚椎、胸椎、肩甲骨の位置をニュートラルに保つ。腕と胴体がぴったりくっつかない(脇の角度は30°くらい)。肩をすくめたり、なで肩になったりしない。広背筋や僧帽筋上部の力を抜く。
 
動画:EricCressey.com: 1-arm Bottoms-Up Kettlebell Carry
https://www.youtube.com/watch?v=mkSSED3NxFU
体幹を締める、上腕二頭筋や三角筋前部で持ち上げるのではなく、肩周り全体で負荷を受け止める。肩甲骨が前傾せず、良いポジションを保つように気をつける。ケトルベルが無ければ、ウェイトプレートを縦に持って行うのも良いだろう。

動画:SturdyShoulders.com: When Should You Train Shoulder Internal Rotation?
https://www.youtube.com/watch?v=aapa6VXbQVk
ローテーターカフのエクササイズは一般的に外旋動作が多いけど、内旋を行う肩甲下筋が弱っている場合もあるので、コンディションによっては内旋動作もトレーニグする。
パッシブの可動域(外部の力で動く範囲)と、アクティブの可動域(自分の力で動く範囲)に大きな差がある場合は、内旋動作もトレーニグするのが良い。1:40~のエクササイズを参考に。台にうつ伏せになって、肩甲骨が動かないように注意し、ボールとソケットがずれないようにしながら上腕を内旋させて肩甲下筋を鍛える。大胸筋や広背筋に力が入らないようにする(これらの筋肉も上腕の内旋を行う)、



関連記事:
肩関節の基礎知識

肩周りのストレッチ

前鋸筋の動員

ロウ・プルのやり方

プッシュとプルのバランス

10/19/2018

肩周りのストレッチ

★姿勢・アラインメント・筋力バランス
良い姿勢に骨の配列が収まっていて、筋力のバランスが取れていると肩がよく動くようになる。姿勢がニュートラルポジションから逸脱していたり、関節の安定に寄与する小さな筋肉が働かなくなって大きな筋肉で力任せに動かす癖がついていたりする場合は、姿勢の矯正をした上で正しい関節動作を身体に覚え込ませる必要がある。

段階としては、
step1. 使いすぎて固く縮こまっている筋肉を緩めて伸ばす。
step2. 弱っている小さな筋肉をアイソレートして鍛える。
step3. 大きな筋肉と小さな筋肉が連動して動作を行えるよう身体に覚え込ませる。
step4. 肩関節の健康を保つ上でバランスのとれたトレーニングを行う。

大胸筋や広背筋が固く縮こまっていて姿勢が悪く、前鋸筋やローテーターカフなど小さな筋肉が弱っている場合は、step1から順に行う。

現状で大きな問題がなければstep3と4で、小さな筋肉を動員するエクササイズをバランス良く行うことで、肩関節に不具合が起きないようにする。BIG3を中心としたウェイトトレーニングを行う場合は、大胸筋や広背筋が固く縮こまらないよう、これらの大きな筋肉のストレッチを並行して続けると良い。

今回の記事はstep1についてのみ。

step2については、弱っている代表的な小さな筋肉であるローテーターカフと前鋸筋について、それぞれエクササイズ方法を紹介するつもり。

step3については、プル・ローイング動作のやり方を書くつもり。プッシュ・プレス動作については、前鋸筋の記事にまとめて書くつもり。

step4については、プッシュ動作とプル動作のバランスのとり方について書くつもり。


★肩関節を動かしやすい良い姿勢
- 猫背にならない。胸椎はニュートラルなカーブを描き、肩甲骨が前傾しない。
- 肩甲骨が寄り過ぎたり離れ過ぎたり、上がりすぎたり(いかり肩)、下がりすぎたり(なで肩)になっていない。
- 上腕骨が前方に突き出たり、内旋したりしない。直立して腕をだらんと下ろした際に、手のひらが後ろを向くようだと上腕骨が内旋している。
- 首が前に突き出ていない。首が反っていない。

現時点でニュートラルな姿勢からどのような逸脱が起きているかは個人差がある。生活習慣や長年行っている競技によっても異なる。効果的な対処をするには、専門家による現状の正確なアセスメントが必要。

それを前提とした上で、「ウェイトトレーニングに熱心な人がどのような状態になりやすく、それにはどう対処したら良いか」について汎用的な対処法を書いていく。あくまで汎用的な方法なので、現状分析した上でのスペシャルな対処法には効果が劣るだろう。

ウェイトトレーニングに熱心な人が固く縮こまりやすい主な筋肉は、大胸筋、小胸筋、広背筋、菱形筋。


★姿勢の歪みの例
動画:EricCressey.com: Should You "Balance" Pushes and Pulls?
https://www.youtube.com/watch?v=t9XKZRIIazc
動画に出てくる最初の例は、広背筋を多く使うトレーニグにより肩甲骨が下に押し付けられて、なで肩になっている状態。デッドリフトや懸垂で広背筋は強く使うし、ベンチプレスやスクワットでも肩甲骨は下に押し付けられやすい。そのため本格的なウェイトトレーニングを行うとこの状態になりやすい。この場合は広背筋のストレッチを行うのが良いだろう。

動画の1:43~でmilitary postureと言っている例は、菱形筋が固く縮こまって肩甲骨が寄りすぎて少し上がっている状態。ベンチプレスやスクワットでは肩甲骨を寄せて固定するし、また身体を後ろに倒して肩をすくめながらローイングをやるとこうなりやすい。この場合は肩甲骨を開くストレッチをやったり、テニスボールなどでマッサージして菱形筋をほぐすと良い。

動画:Effects of bad posture on your spine: prevent with Low Pressure Fitness
https://www.youtube.com/watch?v=Obsut3Dc2Ok
大胸筋や小胸筋や広背筋が固く縮こまり、猫背巻き肩になっている例。首も前に突き出している。Youtube で bad posture で検索すると、もっとわかりやすい生身の人間の例が出てくるのだけど、対処方法がいまいちなのでここでは紹介しない。大胸筋や広背筋の使いすぎで猫背巻き肩になっている場合は、胸椎を伸ばし、大胸筋と広背筋のストレッチを行うと良い。


★使いすぎて固く縮こまっている筋肉をストレッチする
肩関節周りのストレッチを行う際に共通する注意点は、肩関節のボールとソケット部分のみを大きく曲げないこと。胸椎と肩甲骨を同時に大きくゆっくり動かすことを意識する。ボール・ソケット部分をグイグイ曲げると、肩関節の安定性が低下する恐れがある。肩甲骨と胸椎の可動性を高めることを意識してストレッチを行う。

・胸椎
丸まった胸椎を伸ばす。胸椎の捻りも重要。

TonyGentilcore.com How to Perform Thoracic Extension on Foam Roller Correctly
動画:https://www.youtube.com/watch?v=Oi9MeEGiQ-0
フォームローラーで胸椎を伸ばす時の注意点。腰椎を伸ばすのではなく、胸椎を伸ばす。グイグイと反らない。胸を開かない。首を反らない。1:00~が良いやり方の例で、腰が反らないよう体幹を締め、胸が開かないよう腕を前に伸ばしながら行う。胸椎の可動域は小さいので、少しだけ動かせば良い。

動画:HighPerformanceHandbook.com: Bench T-Spine Mobilizations
https://www.youtube.com/watch?v=qovO0ysEpuc
顎を引いて胸椎を伸ばしたまま、ゆっくりと身体を下ろしていく。下ろしきったところで息を深く吐き出す。広背筋や上腕三頭筋も同時にストレッチできる。

動画:HighPerformanceHandbook.com: Side-Lying Windmill
https://www.youtube.com/watch?v=RX21NOL61OE
腰椎は固定して捻らない(ヘソの位置が動かないよう意識するとやりやすい)。肩関節のみを回さず、胸椎を含む上背部全体を大きく回す。自分の手の動きを目で追うとやりやすい。

・大胸筋、小胸筋
グイグイとアグレッシブにストレッチしないこと。肩関節は優しく扱う。胸筋のストレッチはリラックスして鎖骨をゆっくり開くイメージでやると良い。腕だけ後ろにいって胴体が前に残ると、上腕骨のボール部分が前に押し出されて肩関節に良くない。

動画:Doorway slides
https://www.youtube.com/watch?v=b0Ccih0z7pE

動画:Corner Wall Chest Stretch
https://www.youtube.com/watch?v=Kvo7054R3fQ

動画:ShowandGoTraining.com: Pec Major & Minor Soft Tissue
https://www.youtube.com/watch?v=kOtSeKKJDmc

・広背筋
広背筋のストレッチのポイントは、腕を身体の前方に、親指は上を向く、肩甲骨も腕に合わせて動かす、胸椎は伸ばす、腰椎は丸める、伸ばしたポジションでゆっくりと息を吐いて、吐ききった状態で静止。

動画:EricCressey.com: TRX Deep Squat Breathing with Lat Stretch
https://www.youtube.com/watch?v=LENyTY-MKy4
広背筋のストレッチ。パワーラックに手を引っ掛けてやったり、床の上で土下座スタイルで腕を前に伸ばしてやっても良い。

・菱形筋
菱形筋のストレッチを調べてみたけど、腕を自分の身体に寄せて引っ張ることで肩甲骨を開いて菱形筋をストレッチするやり方が多い。このやり方だと肩関節のボールとソケット部分の角度が鋭角になって、肩関節の安定性が低下しそうなので、肩関節のボールとソケットがなるべく鋭角にならず、肩甲骨をのみを開くやり方が望ましい。

動画:Rhomboid Stretch
https://www.youtube.com/watch?v=j4NyH5YNLl4
こんな感じが望ましい

動画:How to Stretch Rhomboids
https://www.youtube.com/watch?v=ca5j-33Bn6c
この動画の後半のように腕を自分の身体に寄せて引っ張ると肩関節に悪そうな感じ

個人的には、下図のようにダンベルを片手に持って、ダンベルの重さで菱形筋を伸ばすのがやりやすい。ダンベルの重さは私は20kgくらいがちょうど良かった。軽すぎると伸びないので適度に重いのが良いと思う。胸椎の捻り方向のストレッチも同時に行える。



動画:Tennis Ball Rolling Exercises for Upper Back Pain -Missoula Chiropractor Krieg Tip
https://www.youtube.com/watch?v=bFI6hGRa-hg
菱形筋をテニスボールでほぐす。肩甲骨と背骨の間にボールを置いて行う。硬めのマットレスのベッドの上に寝て行うのも良い。

・首の突き出し、反り

首周りのエクササイズは慎重にゆっくり行うこと。グリングリンと勢いよく回したり、強い負荷をかけないこと。それとスクワットやデッドリフトで首を反って挙上するのは、首の突き出しや反りを悪化させるので止めたほうが良い。

動画:FIX Forward Head Posture! (Daily Corrective Routine)
https://www.youtube.com/watch?v=wQylqaCl8Zo
首が前に突き出ている場合の矯正方法。他の箇所の姿勢矯正と同様に、固く縮こまっている筋肉を伸ばして、弱い筋肉を鍛える。顎を引くストレッチは、立って背中を壁につけて行うのも良い。



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ロウ・プルのやり方

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ショルダープレス

懸垂のやり過ぎによる怪我リスク(肘と肩)