9/17/2016

女性の糖質制限

てんかん患者の治療にケトジェニックダイエット(厳格な糖質制限食)が使われていて、てんかん患者を対象とした研究が結構ある。どれも1日の炭水化物摂取量が100gを大幅に下回る食生活にしている。

個人差はあるがケトジェニックダイエットはてんかんの発作の抑制に効果的なのだけど、副作用がいくつかあって、これは疾患の無い人がケトジェニックダイエットを行った場合にも起こると思われる。特に女性は高い確率で月経異常になるので注意が必要。


◇The Ketogenic Diet: Adolescents Can Do It, Too
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1528-1157.2003.57002.x/full

被験者:てんかん患者の思春期の男女。開始時点の平均年齢は約14歳。

45%(9名)の女性に月経異常が起こった。うち6名が無月経、3名が思春期の遅れ。9名のうち4名が体重減少(残り5名は体重減少していない)。1名は月経を起こすためにホルモン治療を受けた。8名はケトジェニックダイエットの終了後は月経は正常に戻った。1名はケトジェニックダイエット終了後に月経過多になった。


◇The Ketogenic Diet for Intractable  Epilepsy in Adults: Preliminary Results
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1528-1157.1999.tb01589.x/pdf

被験者:男性2名 女性9名。年齢19-45歳。

女性9名全員が月経異常になった。男女11名中5名が体重減少したが、カロリーを増やすことでこれに対処した(それ以降は体重減少無し)。ケトジェニックダイエットの終了後は全員が月経は正常に戻った。


◇Long-term use of the ketogenic diet in the treatment of epilepsy
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1469-8749.2006.tb01269.x/pdf

ケトジェニックダイエットは、他には便秘や骨が脆くなることや腎結石になりやすいといった副作用がある。



★コメント
女性は体重を維持するだけのカロリーを摂取していても、厳格な糖質制限食を行うと非常に高い確率で月経異常になる。

厳格な糖質制限食では、身体は飢餓時に発動する緊急システムを使うことになる(詳しくは関連記事の[書籍] The Ketogenic Diet を参考)。健康の維持にはある程度のストレスが必要なので、たまにケトジェニックダイエットやファスティングをするのは健康に良いかもしれない。また極度に低い体脂肪率にするために、炭水化物の摂取をサイクルさせ一時的にケトーシスを起こすダイエットは、数ヶ月といった短い間ならそれほど問題にはならないだろう。だけど飢餓時の緊急システムをずっと使い続けるのは、健康に良いとは思えない。

個人的には、厳格な糖質制限食は、特定の疾患を持つ人以外には勧めません。体重を維持するだけのカロリーを摂取する場合でもそうです。最低でも1日100-150gの炭水化物を摂取した方が良い。

1日100-150gの炭水化物の摂取を糖質制限と呼ぶ人も見かけるけど、例えば1日1500kcalのダイエットをするとして、炭水化物125g(500kcal)、タンパク質100g(400kcal)、残りの600kcalを脂質で摂取するとしたら、これは糖質制限ではなくて単なるバランス型ダイエットになる。

炭水化物でも脂質でも摂り過ぎて体内で余剰が出れば、健康に害を及ぼす。バランスの取れた食生活をして、適度に運動をするのが最も健康に良いだろう。

糖質制限は、頭を使わずに摂取カロリーを抑えつつタンパク質の摂取量を確保できるので、その点は優れていると思う。ダイエットで重要なのは摂取カロリーが消費カロリーを下回るようにし、タンパク質を十分に摂ること。でも糖質制限で痩せると考える人は、体重の増減のメカニズムを間違って理解するケースが大半だろうから(糖質でインスリンが出るから太る云々)、壁にぶつかるとどうしようもなくなる。またダイエットの際はウェイトトレーニングを行うと筋肉を維持増強できるので、ウェイトトレーニングは出来るならやったほうが良い。ウェイトトレーニングを行うには炭水化物を摂取した方が楽だし効果的。

減量の効果の観点からは、厳格な糖質制限食は男性なら体脂肪率10%程度、女性なら17%程度を下回ってさらに減量したい場合には意味があると思うけど、それ以上の体脂肪率の人がやってもバランス型ダイエットに比べて効果的かというと恐らく意味がない。



関連記事:
[書籍] The Ketogenic Diet

炭水化物の摂取をサイクルさせるダイエット

6 件のコメント:

  1. エビデンスに基づく適切な情報と、実践及びアドバイス、いつも有り難く拝見させて頂いています。

    今回の情報は女性を対象としたもののように読めますので、最後のパラグラフの体脂肪率の目安は男性・女性の体脂肪率の併記か、女性の体脂肪率を記載した方が適切ではないでしょうか?
    (女性につき10%を下回りなお減量するケースは、危機的状況に近いと理解しているため)

    なお、被験者は少ないですが、トレーニング経験者の徐脂肪量と必要なタンパク質量について、関連がない(薄い?)のではという研究が出ているようですね(英語に弱いため間違ってるかも)。
    http://physreports.physiology.org/content/4/15/e12893

    自分は、男性で、身長も低く、体調を崩し45キロになったため、現在50キロ強の体重まで戻し、体脂肪率が8%前後(家庭の体脂肪計ではより低いですが、見た目ではこんなものかなと)です。
    今後、このまま、体脂肪率も7%~10%をうろつきながら55キロまで増やそうとしています。
    これまで当然のように徐脂肪量を元に摂取すべきタンパク質量を計算していましたし、当ブログにおいても非常に分かりやすい図解で、記載して下さっているのを拝見しています。

    このように徐脂肪量が少ない場合、徐脂肪量を基礎に計算したタンパク質量で最適なのだろうかという疑念がフツフツと沸いてきました。
    お時間があるときでもコメント等頂ければ幸いです。

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  2. 上記コメント中の、最後の「最適」というのは語弊がありますね。
    十分又は適切なのだろうかという疑念が沸いてきた、というイメージです。

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  3. ご指摘ありがとうございます! 訂正しておきました。おっしゃる通り最後に唐突に男性目線の記述になるのはおかしいですね。

    紹介いただいた論文は後ほど読んでみます。たぶん何週間か前のライルマクドナルドの記事で触れられていたものだと思います。

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  4. このブログ、この分野で日本で有数ともいえるほど、質の高い情報を発信されていると思います。
    日本語しか扱えない自分のような人間にあっては、最先端のエビデンスに基づいた情報を、的確な思考で端的に提供してもらえることが、どれほど有り難いことか。
    このままホンワカ頑張ってください!

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  5. MASAさん、

    お褒めいただきありがとうございます!

    論文読みました。内容をざっと書くと

    被験者を低除脂肪グループ(平均59.3kg)と高除脂肪グループ(平均76.9kg)に分け、全身のウェイトトレーニング直後に20gもしくは40gのホエイを摂取し、その後5時間の筋合成速度の反応などを調べた。

    結果は、両グループとも40gホエイの方が筋合成速度が約20%大きかった。低除脂肪グループと高除脂肪グループの間では筋合成速度に有意差無し。

    ***以下コメント***

    論理的に考えれば、身体が小さいほうが骨格筋の量も少ないので、同じ量のタンパク質を摂取すれば、それぞれの筋肉はタンパク質を多く利用でき、筋合成速度が上がりそうなものです。

    そうならなかった理由を私なりに考えてみると、

    ・両グループ間の除脂肪量の差は約30%。だが実は高除脂肪グループは骨や内臓がガッシリした体格で、低除脂肪グループは骨や内臓が華奢な体格で、骨格筋の量にはそこまで大きな差がなかったのかもしれない。

    ・高除脂肪グループは筋肉が増えやすいタイプの人達で、筋合成の反応が良く、単位筋肉当たりのタンパク質が低除脂肪グループより少なくても同等の筋合成反応を示したのかもしれない。

    まあこの研究のみだと何とも言えないと思います。今後、除脂肪体重の違いとタンパク質摂取量が筋合成速度にどう影響するかにフォーカスした研究が積み重なれば・・・。

    ただこれはホエイを一回摂取した時の反応を調べた研究です。タンパク質の摂取と筋肉合成を調べた研究だと、運動なしでも食後は筋肉が合成されます(もちろん運動をした方がより多く合成されます)。そして食間の空腹時に分解され、長期的には運動無しでは筋肉は増えません。

    実際の生活では何週間何ヶ月の間トレーニングを続け、タンパク質も炭水化物も脂質も含まれた食事を食べ続けて筋肉を大きくするので、一回の栄養摂取の筋肉の反応をそれほど気にしなくてもよいのでは・・・と私は考えています。

    1日のタンパク質摂取量の目安の元になっている研究では、数ヶ月のウェイトトレーニングの効果がタンパク質摂取量で変わるかどうかを調べているので、これらの研究の方が現実に近くて参考になりそうです。タンパク質が足りているか不安な場合は多めに食べると良いと思います。体脂肪率が低い場合は、タンパク質の必要量が増えますし。

    長期的な筋肥大の個人的なイメージは、トレーニングの強度とボリュームで筋肉が成長できる枠が決まり、継続的に高タンパク食を続けると、その枠をタンパク質が時間をかけて埋めていき筋肉が大きくなる感じです。

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  6. お手数おかけしました、そして、ありがとうございます!

    それほど徐脂肪量の差がある研究だったのですね。有意差まではともかく、なんらかの傾向があっても良いとは思うのですが、不思議です。

    コメント頂いたとおり、低徐脂肪群の方がロイシン等のアミノ酸濃度が高いので、そのような現象が起きそうですね。仮説を拝見して、なるほどなるほど・・・と思いました。うーん、他に、ホエイならば特に、筋合成速度の飽和点が徐脂肪量等に影響されないという可能性もある気がします。

    確かに、この研究のみでは、なんの結論も出せない感じですね。個人的には、このあたりにもフォーカスを当ててみてほしいです。

    そしてなにより、一回の栄養摂取の反応についてそれほど心配しなくてもいいのではとのコメントには、色々唸るところがありました。そもそも常に最適ばかりを求めると、視野が極端に狭く、生活が窮屈になり過ぎますよね。そういう視点のみだと常に安全サイドに行くしかなくなり、そうなると他の栄養素にしわ寄せがきて、「食の楽しみ」的にムハァです。

    おっしゃる通り、長期的な視野で考えていくべきだと感じました。勉強させて頂き、色々とすっきりした思いです。ありがとうございます。

    なお、最後のコメントで、「筋肥大トレのピリオダイゼーション」の記事を思い浮かびましたが、非常に素晴らしい記事でしたよ。
    他の記事でもまたコメント等させて頂くことあるかと思いますが、よろしくお願いします(ぺこり)。

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