11/08/2023

デッドリフトの踏み込み技術

デッドリフトの踏み込み技術についての記事です。明確に解説している記事や動画を見たことがないので解説します。

踏み込みの瞬間の意識としては下図です。胸を上げる+尻を下に押し込む





膝を伸ばして胸も尻も同時に上にいくイメージだと、膝が抜けて、背中とハムストリングスを使ってぶっこ抜く感じになります。腰が危ない。

逆に、深くしゃがみこんでスクワット的に立ち上がるイメージだと、膝が前にでてバーの軌道がおかしくなります。あと胸を下げると、肘が曲がって腕が実質的に短くなり、挙上に不利になります。




尻を下に押し込む力を加える際、そのままだと膝が前に出て、尻が下がります。それだと踏み込みの力が逃げてしまいます。


そこで膝の空間位置を固定します。正確には、挙上が進むに連れて膝の位置は少しずつ後ろに移動しますが、踏み込みの力を逃さないように膝を固定するイメージでやります。スポーツで言う「壁を作る」動作です。サッカーのシュートの軸足の踏み込みや、野球やゴルフのスイング動作で身体が流れないようにする、といった場面での身体の使い方です。こうすることで踏み込みの力を挙上に利用できるようになります。


動画:サッカー・シュートの基本 〜 知っているようで知らない『キック力を上げる方法』を科学的に解説!
https://www.youtube.com/watch?v=8V4rTMjzYDo

動画:バッティング「壁」を作る練習方法!変化球対応&強いスイングを可能にするフォームの作り方
https://www.youtube.com/watch?v=IJrKKfJCDFg

動画:飛距離アップにつながる「左の壁」を解き明かす!【古閑美保流レッスン】
https://www.youtube.com/watch?v=6jCI_zBWGpo

大腿四頭筋は、尻の踏み込みで膝が曲がって身体が流れないよう踏ん張るのに使います。レッグプレス的に大腿四頭筋の力で床を押すわけではないです。デッドリフトでは膝とバーの水平距離は非常に短いので、膝関節が発揮する必要のあるトルクは小さいです。

大腿四頭筋の力で押すと、重心コントロールがズレます。デッドリフトでは、くるぶしの下付近に足裏重心が来てハムケツ背中に負荷を乗せるのが望ましいですが、大腿四頭筋で踏むと足裏重心がミッドフットか前寄りに来やすく、尻の負荷が抜けてスムーズに挙上できません。

関連記事:スクワットとデッドリフトのバーの軌道と足裏の重心
https://changebodycomposition.blogspot.com/2021/06/blog-post_12.html


踏み込みの際は、尻の位置も空中に固定するイメージです。実際は挙上が進むにつれて尻の位置は少しずつ上がっていきますが、尻で踏み込みながら尻の位置を空中に固定するイメージだと、挙上終盤まで力がスっぽ抜けずに伝わります。私は空中に尻をひっかけるイメージでやっています。空中に尻で楔を打ち込むイメージでもいいと思います(英語だとこの動作はwedgeと言われます。「deadlift wedge」で検索すると動画が出てきます)。

踏み込む前に、先に上方向にテンションをかけて上半身を固めて、挙上開始しても体幹がグニャグニャ動かないようにしておきます。英語だとslack(緩み)を取ると言われます。上半身が緩んだ状態で踏み込むと、バーベルの負荷がかかった状態で背骨が動いて危険です。下図は先に軽くバーにテンションをかけて緩みを取る方法の図ですが、緩みの取り方は人それぞれで、徐々に踏み込みつつ緩みを取る人もいます。






予備動作のある踏み込み

デッドリフトは、エキセントリック動作なしに挙上開始するので、基本的には伸長短縮サイクル(SSC)が使えません。

関連記事:伸長短縮サイクルの話

しかし、予備動作を踏み込みに加えることで、SSCを少し利用できるようになります。予備動作なしでかがんだ状態から垂直跳びをするよりも、立った状態からかがんですぐジャンプしたほうが高く飛べるのと同じで、SSCを利用することで踏み込みを少し強くできます。レベルの高いパワーリフティング選手が、使っているテクニックです。

予備動作を入れる方法にはいくつかのパターンがあります。

<パターン1>

最初はバーへのテンションは軽い→高く尻を上げながら息を吸う→尻を入れながら全身にテンションをかけて緩みを取って挙上。

おそらく最もポピュラーなやり方です。

例:Taylor Atwood選手など



動画:Taylor Atwood - 758kg 1st Place 74kg - IPF World Classic Powerlifting Championships 2018
https://youtu.be/rzGMXimNPMw?t=234


<パターン2>

予め息を吸っておく→強めに踏み込みバーにテンションをかけて上半身の緩みを取る→上半身を固めたたまま手と脚の力を一旦抜いてから一気に握り込んで踏み込む。

最近よく見かけるやり方です。

例:最近のRussel Orhii選手、brian le選手、Austin Perkins選手など


動画:I HIT 805LBS FOR AN ALL TIME DEADLIFT PR!!!
https://www.youtube.com/shorts/vRe1eKOuFKk

動画:Powerlifting America 2023 Nationals: 66kg Brian Le; 318.5kg deadlift | Feb. World Leaders | RPE1
https://youtu.be/HJyj4l_Gekw?t=319

動画:The Greatest Powerlifting Performance of All Time - Austin Perkins, 851kg @ 74.2kg
https://youtu.be/EIg8EPpFOGg?t=276



<パターン3>

予め息を吸っておく→バーに強くテンションをかけながら尻を上げて、テンションを抜かずにそのまま尻を入れて挙上。

高重量を扱える人は、バーのしなりを利用して高い位置(=有利な体勢)から引くことが出来ます。難易度が高いです。

例:Jamal Browner選手


動画:1003 lb (455kg) deadlift
https://www.youtube.com/shorts/_cCpU9-zpXE

動画:Deadlift Hack | The Slack Pull [TUTORIAL]
https://www.youtube.com/watch?v=PaT_RCMMs20


<パターン4>

後ろに身体を倒してから踏み込む。

ストロングマンに多いやり方です。


動画:805 lb DEADLIFT. I HAD MORE IN THE TANK
https://www.youtube.com/shorts/Xf8F8nJ5308


<パターン5>

立っている状態で息入れと姿勢固め完了→素早くかがんでバーを握って即挙上。

難易度が高いです。素手限定の方法です。

例:John Haack選手


動画:915lb Deadlift | 4 Weeks Out
https://youtu.be/z2EnIa2umGo?t=334




踏み込みに予備動作を入れるのは難しいです。慣れないうちは身体をジワジワと固めていって挙上開始したほうがいいです。変に勢いをつけようとすると、バランスを崩しやすいです。

下の例は、以前のRussel Orhii選手のやり方です。ご覧のように勢いをつけなくても高重量が挙がるので、自分がやりやすいやり方でやるのが一番だと思います。


動画:Russel Orhii - 1st Place 841kg *WR Total* - 83kg Class 2021 IPF World Open Classic
https://youtu.be/Kf03kexddpw?t=256



踏み込み動作の鍛え方

パラレル少し上で止めるハイバーでのポーズドスクワットがおすすめです。尻で踏み込む動作を鍛えたいので、膝3:股関節7くらいの負荷分散で、股関節に多めに負荷を乗せます。器具があるなら、ボックススクワットでもOKです。

斜め下に直線でしゃがんで、斜め上に直線で立ち上がるイメージです。一般的なスクワットとは、軌道が違います。



トラップバーが使えるなら、トラップバーも効果的です。スネがバーにぶつかる恐れなく、思いっきり踏み込めるのでいい練習になります。握る位置は上側ハンドルで、数cmデフィシットにすると良いです。普通のバーの床引きよりも少し高い位置から引けて、踏み込みの感覚を掴みやすいです。下側ハンドルだと深くなって、感覚が掴みづらいと思います(深いとスクワット動作で挙げがちになる)。


踏み込みを力強くやろうとするとバーにスネがぶつかって痛い人は、スネガードの着用がおすすめです。

関連記事:デッドリフト時の脛の保護(脛当て)
https://changebodycomposition.blogspot.com/2015/04/blog-post_24.html

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