11/21/2023

筋肥大反応が高い人と低い人の比較研究

(1)High Responders to Hypertrophic Strength Training Also Tend to Lose More Muscle Mass and Strength During Detraining Than Low Responders
https://journals.lww.com/nsca-jscr/fulltext/2021/06000/high_responders_to_hypertrophic_strength_training.4.aspx

(2)Effects of Acute Loading Induced Fatigability, Acute Serum Hormone Responses and Training Volume to Individual Hypertrophy and Maximal Strength during 10 Weeks of Strength Training
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10499158/

筋トレに対する筋肥大の反応が良い人と良くない人ではどのような違いがあるかを調べた研究です。両研究とも使っているデータは同じ実験のものです。10週間の筋トレでの筋肥大の結果から、高反応、中反応、低反応にグループ分けをして、それぞれのグループにどのような特徴があるのかを分析しています。(1)の研究が筋トレを停止したあとのデトレーニング効果を調べていて、(2)の研究は疲労度やホルモンレベルの反応、トレーニングボリュームの推移を調べています。



実験概要


<被験者>

19-30歳の男性でトレーニング初心者。平均年齢24.6歳 平均身長180cm 平均体重77kg。



<トレーニング内容>

期間は10週間

頻度は週3回
 
メイン種目:レッグプレス スミスマシンベンチプレス
補助補助:ニーエクステンション ニーフレクション ダンベルベンチプレス シーテッドフレンチプレス エルボーフレクション&エクステンション 水平方向のロウ 体幹

強度、セット数、レップ数は10週間の間に変わっていきますが、大まかに言えば大腿四頭筋の週あたりのセット数は11~13セット程度で、これに加えてアイソメトリックのセットが2セットあります。


<グループ分け>

10週間のトレーニング終了後に、外側広筋の筋肥大の程度で、高反応、中反応、低反応グループに分けをしています。

・高反応グループ:+15%より上 10名
・中反応グループ:+4.5~15% 10名
・低反応グループ:+4.5%未満 7名


<食事>

プロテインバーをトレーニングセッションの時に支給(タンパク質19.6g、203kcal)。それ以外は、食事アドバイスはあるが自己管理。



<測定項目>

筋肥大:外側広筋の断面積を超音波で測定

筋力:アイソメトリック最大筋力(レッグプレス膝角度107度)とレッグプレス1RM

仕事量:レッグプレスマシンに動いた距離を測定できる機器を取り付けて、力と距離から仕事量を計算

疲労度:5セット×10レップのレッグプレスを実施し、その直前と直後にレッグプレスのアイソメトリックの筋力を測定する。直前に比べて直後の筋力がどれくらい低下したかをパーセンテージで表したもの。

ホルモンレベル:テストステロン、成長ホルモン、コルチゾール、CK(クレアチンキナーゼ)、SHBG(性ホルモン結合グロブリン)


<結果>

被験者個々の筋肥大では大きな差がでました。


グループごとの筋肥大です。低反応グループは筋肥大しなかったという結果になりました(数値はマイナスですが0週目比較での有意差は無し)。


レッグプレス1RMの変化は、筋肥大の反応順と同じで、高反応グループがもっとも伸びました。


0週目→10週目のアイソメトリック最大筋力(レッグプレス膝角度107度)の変化は、各グループとも同じくらいでした。 
・高反応グループ +24.3%(0週目に対して有意差あり)
・中反応グループ +23.8%(0週目に対して有意差あり)
・低反応グループ +26.2%(0週目に対して有意差なし)

 

仕事量の変化も、筋肥大の反応順と同じで、高反応グループの伸びが最も大きかったです。



疲労度の推移です。有意差はないですが、10週目以外は低反応グループが疲労度は低めに見えます。考察のところでも書きますが、低反応グループは遅筋体質でトレーニング後の筋力が低下しにくかった可能性があります(2週目の仕事量の絶対値は低反応グループが大きいので、追い込めなかったわけではないと思います)。


2週目から10週目までの疲労度の変化と筋肥大には相関なし。トレーニングに慣れて追い込めるようになっても、筋肥大には関係しなかったようです。

2週目から10週目までの疲労度の変化とアイソメトリックの筋力に相関あり。過去の研究では筋力向上にきつい疲労は必要ないという結果でしたが、今回の研究では疲労度の変化が大きいほどアイソメトリック筋力も伸びやすいという結果になりました。


グループごとのホルモンレベル推移です。高反応グループは、運動後の成長ホルモンが高めでした。







考察

高反応グループと低反応グループにはどのような違いがあるのかまとめると、


高反応グループ(大幅に筋肥大した)
・レッグプレス1RMの伸びが大きい。
・仕事量が順調に伸びている。
・ホルモン反応は身体の適応面で望ましいと考えられる反応を示した。ただ他のグループと少しの差しかない。

低反応グループ(筋肥大しなかった)
・レッグプレス1RMの伸びが小さい。
・仕事量が途中から伸びなくなった。
・2週目から10週目までの疲労度の伸びが大きい。


データ全体を見ると、高反応グループと低反応グループの違いで目立つのは、「高反応グループは仕事量の漸進的過負荷が行えていたこと」で、これが筋肥大の良い反応に繋がったと考えられます。中反応グループも、高反応グループほどではないですが順調に仕事量が伸びています。

高反応グループと低反応グループの仕事量の絶対値の比較では、当初は低反応グループのほうが絶対値での仕事量が3割程度大きかったですが、徐々に差が縮まり、10週目では同じくらいになりました。



2、4、6週目の数値は論文中にあって、10週目の数値はなかったのですが、2週目からの変化量のグラフからおおよその値を読み取ってグラフを作成しました。

この仕事量の測定方法は、

・レッグプレスマシンに挙上距離を測定する機器を設置
・レッグプレス5セット×10レップ
・アセンディングセット
・3セット目がRPE9になるような重量設定
・4、5セット目は途中で限界を迎えたら残りのレップはフォースドレップで10レップ完遂
・膝角度60度からセット開始
・インターバル3分
・仕事量は、力(重量)×距離の総和。

仕事量の算出にフォースドレップのレップが入るのか明確に書かれていませんが、おそらく入らないです。「上げきれず下げきれずのレップは算入しない」とは書かれていて、フルレンジが出来なくなったらそこで限界で、残りはフォースドレップにして仕事量には含めないのだと思います。

グループごとの1RMと仕事量の変化は、

・高反応グループは、レッグプレス1RMが20%くらい伸びて、仕事量は40%くらい伸びた。

・中反応グループは、レッグプレス1RMが15%くらい伸びて、仕事量は30%くらい伸びた。

・低反応グループは、レッグプレス1RMが10%くらい伸びて、仕事量は10%くらい伸びた。


高反応グループは当初の仕事量の絶対値は小さかったですが、最終的な仕事量の伸びが大きかったです。推測すると、当初は4,5セット目のレップ数が稼げず絶対値での仕事量が少なかったけど、トレーニングに慣れて4,5セット目もレップ数を稼げるようになり、1RMの伸び以上に仕事量が伸びたと考えられます。

低反応グループは、当初は仕事量の絶対値は大きかったですが、結局は1RMの伸びの分しか仕事量が伸びず、筋肥大もしませんでした。これは、「脚が長くて挙上距離が長い and/or 遅筋体質で筋持久力が高くて最初からボリュームを稼げた」ことにより、回復が追いつかず筋肥大しなかったと考えられます。実験では週に大腿四頭筋を10セット以上やっていて、追い込み度も高めで、それに加えて上半身もトレーニングしています。初心者にとっては多めのトレーニングボリュームです。


ホルモン反応も全体的に高反応グループのほうが良かったです。これは、身体がトレーニングに上手く適応できた結果だと考えられます。

ダメージやストレスの指標であるCKとコルチゾールをトレーニング24時間後に測定していて、高反応グループはトレーニング開始時は反応が大きかったが、トレーニング期間の中盤からは他のグループに比べて反応が小さくなりました。トレーニングへの適応がスムーズに進んだことを示しています。


今回の研究からは、適応可能なトレーニングを行い、順調にトレーニングボリュームを増やしていくことが筋肥大に重要であることが示唆されます。おそらく筋肥大適性には個人差がありますが、なかなか筋肥大しない場合は、「重量とトレーニングボリュームを順調に伸ばせているか、回復が追いついているか」を考えると良いでしょう。こう書くと一般論に聞こえますが、今回の研究を参考にするとトレーニングボリュームを客観的な数値で見ていくことができるので、一般論よりは少し具体的で役に立つと思います。

トレーニングボリュームをどう表すかですが、数値の推移を比較していくには、レップレンジと挙上距離が一定の場合の、「重量×総レップ数」が適切だと思います。低レップは数値を稼ぎにくく高レップは数値を稼ぎやすいため、レップレンジが変わると比較が難しくなります。


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